ランス再び   作:メケネコ

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魔人トルーマン 使徒との決着

 魔人トルーマンは一点を目指してその歩みを進めていた。

 本来はここまで目立つ行動をしよう等とは思わなかった。

 ただ、只管に『救済』を行えればいいと思っていた。

 魔王ナイチサの力が大幅に弱体したのも良い機会で有り、ひたすらに人を救っていた。

 だが、それはある一人の人間との出会いによって崩れた。

 崩れはしたが、それこそがトルーマンにとっては天啓だったと思った。

 その女は非常に美しかった―――それこそ『神』が創ったと言わんばかりに。

 使徒ウィルソンから跳躍した彼女は、まさにトルーマンにとって理想の存在だ。

 彼女こそ、己の従者に相応しい…彼女と共に居れば、必ずやこの世界に『救い』を齎す事が出来るだろうとも。

 そして事態は思わぬ方向に動いた。

 その彼女から手紙が届いたのだ。

 長々と文章が記載されていたが、トルーマンの心を揺さぶったのは『あなたのものになりたい』という決定的な言葉だった。

 そして先の戦いから人間に囚われてしまったとも。

 冷静に考えればこの文章はおかしな事だらけなのだろうが、トルーマンにはそれを考えられなかった。

『神の使徒』が己に助けを求めている、トルーマンにはそれだけで十分だった。

 だからこそ、今まで作ってきた己の使徒を使い潰してでもあの女性を己の使徒とするために動いているのだ。

 そう、トルーマンにとっては今までの使徒など全て捨てても構わない、という考えでここまでやってきたのだ。

 使徒達は魔人には逆らう事が出来ない。

 それは魔人が魔王に逆らう事が出来ないという、三超神が作った絶対的なルールが魔人と使徒の間でも有効であるためだ。

 トルーマンにとって使徒とは都合の良い道具にしか過ぎない。

 なので使徒が人間に負けるというのであれば、捨てればいい…トルーマンにとっては使徒とはその程度の認識でしかない。

 そしてトルーマンは無人の荒野を進むのと同じ感覚で進んでいく。

 途中で人間が立ちはだかるが、それは全て使徒のマッキンリーとウィルソンに任せ、進んでいく。

 そんなトルーマンが目指すのは、一際大きな屋敷だ。

 自分達が使っていた屋敷よりも小さいが、魔人にとってはそんな事はどうでも良い事だ。

 屋敷の中に入っても人間の姿が微塵も見えないが、トルーマンにとってはそんな事はどうでも良い。

 全てはあの女性を使徒にするため…トルーマンには最早レダを使徒にするという事しか見えていなかった。

「ここか…」

 トルーマンは屋敷に乗り込むと、そこには不気味なくらいな静寂に満ちていた。

 人一人いないのだが、トルーマンは別にそんな事に違和感を覚えたりはしない。

 人間程度、魔人の前では逃げ出すのが当たり前だからだ。

 それに自分に衝撃を与えたあの人間も、使徒の所にいるのだろとも思っている。

 確かにあの人間は強いが、それでも魔人の無敵結界を破る事は出来ないのだ。

 ならばまずは何よりもあの女を自分の使徒にする、その事しかもう頭にないのだ。

 トルーマンは確かな足取りで歩いていく。

 元AL教の司祭であったトルーマンには、あの神聖な存在であるレダの居場所が何となく分かる…ような気がした。

 だが、事実トルーマンは確実にレダの下へと近づきつつあった。

 そしてある部屋に来た時、トルーマンは確信する。

 ここにあの神に近い女がいると。

 トルーマンが扉を開けた時、そこにあったのは教会のような神聖な空気が感じられた。

 そこに一抹の懐かしさを感じながら、トルーマンは祈りを捧げている金髪の女性を見る。

「おお…」

 それは正にトルーマンが望んでやまぬ女の姿だ。

 その女が神に祈りを捧げている…その姿はトルーマンが望んでいる姿そのものだった。

「いたか…」

 魔人トルーマンが近づいていていくと、祈りを捧げていた女が振り向く。

(素晴らしい…)

 その姿を見てトルーマンは思わず感嘆する。

 それは完璧な―――否、完璧すぎる程にトルーマンの理想だった。

 かつて『ムーララルー』を目指していた頃、一度だけ…それも一瞬だけその目にする事が出来た偉大なる『神』の姿に非常に似ている。

「お前がレダか」

「ええ。私がレダよ」

 その声もトルーマンが望むのと同じ、素晴らしい声だ。

 それが今自分のモノになる―――その事にトルーマンは震えていた。

「我が使徒になりたいと聞いた…」

「ええ。私も使徒となり、あなたと共に生きたい…そう思いました」

 その言葉でトルーマンの理性は完全に外れた。

 もうレダしか見えていないといった熱烈な目で、レダを見る。

 そしてレダに近づいていくと、レダは確かに笑った。

 ―――ただし、その笑みは非常に酷薄な笑みではあるが。

「なんて言うとでも思った? 馬鹿じゃないの」

「!?」

 その時、トルーマンはレダの後ろに誰かが居る事に気づいた。

 それは水色の髪をした非常に美しい女…あの時自分の館に乗り込んできた女だという事に気づく。

 が、その時には既に遅かった。

「魔なる者よ、呪われし者よ、邪なる者よ、祝福の雷霆に導かれ、とこしえの眠りを。魔封印結界!」

 その言葉度同時に4つの触媒が反応し、凄まじい電磁波と光がトルーマンを包む。

 最初はトルーマンはそれが何を意味するかは分からなかった。

 が、次にやって来たのは自分の体が引き千切られそうな強烈な痛みだ。

「な…これは…うがああああああああああ!?」

 トルーマンは自分が感じる強烈な『痛み』に悲鳴を上げる。

(ば、馬鹿な! 私は魔人だぞ!? 魔人は人間如きには傷一つつけられぬ高尚な存在なのだ! それが何故!?)

 どんなに疑問を感じても、己の体を包む結界は確実にトルーマンを傷つけていた。

(す、凄い…本当に魔人にダメージを与えられている!)

 レダのサポートのため、魔法陣を展開しているジルは目の前の光景を興奮気味に見ている。

 あの魔人が…人類の最大の敵である魔人が膝をつき傷ついている。

(ランス様の言っていた事は本当だった…! 魔人を傷つける手段は存在していたんだ!)

 魔人が苦しみ、血を流しているのを見てジルは感動すら覚える。

 かつて魔人ザビエルが封印されたように、今まさに魔人トルーマンもこうして封印されようとしている。

 ジルはその事に高揚感を抱きながら、レダをサポートし続けた。

 

 

 

 その使徒との戦いも大詰めを迎えていた。

 使徒ウィルソンはその巨体を活かして出鱈目に攻撃をするだけだ。

 しかしその一撃も既に見切られ、時には防がれる。

 そして、

「行きますよ」

 その隙を狙ってシャロンが的確にウィルソンの装甲を破壊していく。

 紅い粘液は既に半分近くが剥がれ、その不気味な肉体が露わになっている。

 それと同時に、ウィルソンの体にある無数の口から不気味な粘液と、恐らくは人間のモノであろう骨が吐き出される。

「うぐ」

 その光景を見てテンプルナイト達は唸るが、それでも攻撃の手は緩めない。

 露わになった部分には魔法が放たれ、確実にウィルソンの体を削っていった。

「ファイヤーレーザー!」

 バーバラの放った魔法がウィルソンの体を貫く。

「やった!?」

 ついにウィルソンの体を貫くほどのダメージを与えたとバーバラは喜んだが、すぐさま血と肉が盛り上がり再生していく。

「きりが無い…」

 バーバラはその様子に思わず呻いてしまう。

 シャロンが破壊した装甲の部分は確かに削れていっているが、それでもこの使徒の巨体、そして再生能力から相手は中々倒れない。

 人間達も必死になっているが、それでも使徒という種族の壁が非常に高く阻んでいた。

「クソッ! 浄化!」

 全く倒れる気配の無いウィルソンに対し、テンプルナイトの一人が苦し紛れか神魔法を放つ。

 それはアンデッド系のモンスターに有効な魔法で、普通の魔物には殆どダメージが無い魔法だ。

 なので人間も相手の気を逸らすために使ったのだろうとバーバラも思っていたが、

「グアアアアアァァァァァァ」

 ウィルソンの無数の口から不気味な呻き声が放たれる。

 その悍ましい声には思わず耳を塞ぎたくなるが、バーバラは必死に耐える。

「これは…」

 シャロンはその呻き声の放たれば場所がまるで砂の様に崩壊していくのを確認する。

「まさか…あいつはゾンビなんですか?」

「いえ…魔人トルーマンの使徒がゾンビだという話は聞いた事がありません。浄化で消えたのは恐らくはあの使徒が長年食べてきた人間の死体かもしれません」

「あの使徒に取り込まれた人間の死体が積み重なってあの使徒に?」

「可能性は有ります」

 シャロンとバーバラは互いに頷くと、

「あの粘液が剥がれた部分に浄化を打ち込みなさい!」

「分かった! テンプルナイト! 神魔法を使える奴はあいつを浄化しろ!」

「「「はい!!!」」」

 バーバラの言葉にドワイトは威勢よく返事をすると、そのまま部下のテンプルナイト達に指示を出す。

 テンプルナイト達は一斉に浄化の魔法を放つ。

 すると先程よりもウィルソンは苦しみだし、その体がどんどんと砂へと変わっていく。

「あの粘液に覆われていない部分は浄化出来ますね! でもシャロンさん…本当に格闘が得意なんですね」

「そうですね…私自身、冒険者としての経験が無ければ気づかなかったかもしれませんね」

 バーバラの言葉にシャロンは笑う。

 もし自分があのまま敵国に囚われていたままだったら…という事はもう想像も出来ないが、ケッセルリンクと、そしてランスと出会わなければ今自分はここにはいない。

 そして己の才能にも気づかぬまま、その一生を無残に散らしていただろう。

 だが、幸いにも自分は命を助けられ、更には少しの間だが冒険者として旅もした。

 その結果が、今の自分が有るのだ。

「バーバラ、援護を頼みますね」

「はい! シャロンさん!」

 バーバラが威勢よく返事をすると同時にシャロンが駆けだす。

 ウィルソンはシャロンに狙いを定め、その拳を振るう。

 バーバラはウィルソンに向けて炎の矢を放ち、ウィルソンの狙いを若干ではあるが外させる。

 シャロンにとってはそれだけで十分で、そのままウィルソンの粘液の部分に拳を打ち込む。

 拳を打ち込まれた部分の粘液が剥がれ、その下には再び無数の骨と不気味な口が浮かび上がる。

「今だ! やれ!」

 そして露になった部分に、神魔法の浄化が放たれウィルソンの体を削っていく。

 それを繰り返していくうちに、どんどんのウィルソンの体が破壊されていく。

「行けっ! 何としてもここで仕留めろ!」

 ドワイトを初めとしたテンプルナイト達が立て続けに攻撃を加える。

「グォォォォォォ」

 ウィルソンが呻き、とうとうその体が崩壊していく。

「おお!」

「やったか!?」

 ウィルソンの体を覆っていた粘液が剥がれ落ち、その下の肉体がどんどんと消滅させられた事で、その自重に体が耐えられなくなったのだ。

 崩壊したウィルソンの肉体から、一体のガーター大統領が呻きながら痙攣をしている。

「あれがウィルソンの本体…いえ、本来の使徒ウィルソンという訳ですか」

「そうですね…大量の人間を食べる事で、その肉と血で体を覆っていたのでしょう。でもそれがとうとう崩壊した…」

 同じ使徒としてウィルソンに思うところは有るのだが、全ては主であるケッセルリンクのため。

「同じ使徒として、私達が幕を引きましょう」

「はい」

 シャロンが呻いているウィルソンに向かって強烈な拳を叩き込んだ後で、バーバラーの放った魔法がウィルソンを貫く。

 ウィルソンは暫く痙攣していたが、その内動かなくなる。

「やった…やったぞ!」

 誰かの声で、皆が興奮したように声を上げる。

 ついに人間の手で使徒を倒す事が出来たのだから、無理も無いだろう。

 人間は魔人には決して勝てない存在であり、その血で作られた使徒もまた人間からすれば遥か上の存在だ。

 だが、こうして倒すことが出来た事に、人類が興奮するのは無理は無かった。

「落ち着け! まだ使徒は残っているし、何より魔人がまだいる!」

 ドワイトの言葉にテンプルナイト達が一瞬で落ち着く。

「…ボス、後は頼むぜ」

 ドワイトは激戦の疲労からか、そのまま地面に倒れこむ。

「動ける奴はもう一体の使徒の方へ行け。嬢ちゃん…まだ動けるなら、頼まれてくれるか」

「ええ、構いませんよ」

 ドワイトの言葉にシャロンは微笑みながら答える。

「バーバラの嬢ちゃんとは知り合いか…強い訳だぜ」

 ドワイトはそう笑うと、とうとう限界が来たという感じで気を失う。

「シャロンさん」

「大丈夫ですよ。向こうにはエルシールが行ってますから」

「エルシールさんが!? だ、大丈夫なんですか?」

 バーバラの言葉にシャロンは笑う。

 その笑みはドワイトに向けた柔らかい笑みではない、もっと威圧感がある笑みだ。

「エルシールなら大丈夫ですよ。伊達にランスさんと共に魔人や使徒と戦った訳ではないのですから」

 

 

 

 一方の使徒マッキンリーと戦っている者達もまた使徒の力を存分に味わっていた。

「ニクニクニクニク! ニクを喰わせるね!」

「全く…随分と厄介ね」

 マッキンリーは凍らされていた足を無理矢理千切り、その両手で這いずる様にして襲い掛かってくる。

 その食欲は完全に常軌を逸しており、人間は改めて使徒という存在に恐怖を覚えるしかない。

 エルシールも自分と同じ使徒でありながら、これ程醜悪な存在は見た事が無い。

 主であるケッセルリンクが嫌っているのも良く理解出来る。

 しかしその力は馬鹿には出来ない。

(向こうはシャロンさんが行ってるから大丈夫だろうけど、こっちは少し厳しいか…?)

 エルシールはケッセルリンクの使徒の纏め役に抜擢されている経験、そしてランスと共に長い間魔軍と戦った経験から今の状況の厳しさを感じ取る。

 使徒ウィルソンには人間のテンプルナイトが向かったらしいが、確かに彼らは人間の中では優秀なのだろう。

 それは軍を率いた経験のあるエルシールもよく理解している。

 しかしこちらの方に回されたのはやはり寄せ集め感が強い。

(仕方が無いと言えば仕方が無いか…あの時とは事情が違い過ぎる)

 ランスと共にJAPANで戦った時は優秀な人材が沢山居た。

 妖怪王黒部も恐ろしく強かったし、スラルが認めた者達も非常に優秀だった。

 魔物大将軍と戦った時も、JAPANの兵士達はやはり優秀だった。

 後で聞いた事だが、魔人カミーラが魔物大将軍の邪魔をしていたという事を差し引いても、やはり今自分の側に居る者達に比べれば非常に地力があった。

(それも仕方ないと言えば仕方ない事か…何しろナイチサ様の虐殺から50年程しか経過していない)

 今は人類は復興期にあるのだ。

 勿論そういう時にこそ優秀な人材もまた光るものではあるが、流石にランスや藤原石丸のような逸材はそう出て来るものではない。

(ランスさん…いや、レダさんがいればこんな奴はもっと早く倒せるのに…)

 ランスもレダも今頃魔人トルーマンと戦っている最中だろう。

 しかし、確実にエルシール達は使徒マッキンリーに押されつつあった。

「も、もう駄目だ…」

 誰かが弱音を吐けば、皆がそれに従うかもしれない…エルシールはそれを感じ取り何とかしようと思った時、

「まーおー!」

 気の抜けた声とともに、猛烈な炎がマッキンリーを包み込む。

「ノーーーーーーー!!!」

 突然浴びせられた炎にマッキンリーはのた打ち回る。

 誰もがその光景に首を傾げる中、エルシールだけはその主を理解する。

「まおー!」

「まーお! まお!」

 エルシールの声に嬉しそうな声を上げながら大まおーが降ってきて、そのままエルシールの胸元に飛び込む。

「あらら。まおーさん、今まで何処に居たんですか? …そしてあなたのお知り合いですか?」

 その様子を見て、エルシールの隣に居た加奈代が目を光らせる。

「え、ええと…それはね」

「まーおー! まお!」

「え? 今はあいつを倒すのが先ですか? まあそうですねー」

 加奈代の言葉を遮り、大まおーがその大鎌をマッキンリーに向ける。

 見ればマッキンリーの体を包んでいた炎は既に消えており、マッキンリーが憎々しげに大まおーを睨んでいる。

「オウ…お前何者か? まあそんな事はどうでもいいね。邪魔する奴は全員イートよ」

 マッキンリーはそのまま這うようにして向かって来る。

 そのスピードは意外な程に早い。

 しかし大まおーはそれに真正面から迎え撃つ。

「まおー!」

 大まおーの大鎌がマッキンリーの顔面に突き刺さると、マッキンリーは悲鳴を上げてのた打ち回る。

 魔物兵すらも一撃で倒すことが出来る大まおーの大鎌は使徒にも確実にダメージを与えていた。

 マッキンリーはそのまま出鱈目に大まおーを攻撃するが、大まおーは見事なまでのステップでその攻撃を避け、

「まーおー!」

「ぐぎゃあああああああ!!」

 口から炎を吐き出してマッキンリーを炙る。

「いやー…ランスさんやレダさんやスラルさんが居るとあまり感じませんが、大まおーさんも相当に無茶苦茶ですねー」

 エルシールは思わず同意しそうになるのを押さえる。

(この子…結構油断が出来ない子ね。確実に私の存在を怪しんでるし…)

 思わず大まおーの名前を呼んでしまった事に今更ながら後悔してしまう。

 正直昔の仲間に会えたことが嬉しくて、思わず大まおーの名前を呼んでしまったのだ。

 そしてこの子…バーバラの報告にあった加奈代という女性は、一見ほやほやしてそうでその実結構抜け目の無い子だとエルシールは思う。

 今の言葉も自分の事を調べようとする一言だったのだろう。

(まあ…知られても問題は無いか。どっちにしろ、ケッセルリンク様はランスさんと会う事になるだろうし)

 自分の素性が怪しまれようが、今回の戦いが終われば絶対にランスとケッセルリンクは会う事になるのだ。

 その時は確実に自分達の事も主は隠さないだろうという確信も有る。

 ならば先の事を考えるのはそこまでにして、エルシールはこの使徒を倒す事だけに集中する。

「魔法を使える者は一斉に魔法を! 絶対に効いています! 諦めないで!」

 エルシールは精神を集中させ、魔法の詠唱に入る。

 マッキンリーは炎に包まれながら襲い掛かって来るが、

「退いては駄目です! 何としてもここで倒して!」

 クーの言葉に逃げ腰だった者達がマッキンリーに向かって行く。

「この野郎! 俺達の町から出ていけ!」

「くらえ!」

 町の者達は必死に石を投げたり、魔法を使える者は威力が低いながらも必死に攻撃を続ける。

 マッキンリーは鬱陶しそうに人間達を見るが、

「スノーレーザー!」

 その顔にエルシールの魔法が直撃する。

 マッキンリーはその一撃に悶えていると、そのまま大まおーが追い打ちをかけるようにその体に大鎌を突き刺す。

 そしてその傷口を抉るように鎌を動かすと、

「まーおー!」

 その傷口目がけて炎を吐き出す。

「グゲゲゲゲゲゲ!」

 奇妙な呻き声を上げるマッキンリーに対し、

「今よ!」

 エルシールは勝機を見出し指示を出す。

「炎の矢!」

「雷の矢!」

「光の矢!」

 魔法を使える者が一斉に魔法を放ち、確実にマッキンリーにダメージを与えていく。

「援護する」

 エルシールも最高の威力を持つ魔法を放とうとした時、ドロシーが側に寄ってくる。

 するとエルシールの足元に魔方陣が出現すると、エルシールは自身の魔法の力が高まっていくのを感じる。

「ジルさん程は力は無い。でも少しでも足しになればいい」

「ありがとう」

 自分よりも遥かに幼い少女が必死になって魔軍と戦う。

 今は自分は魔人の使徒ではあるが、こうしているとあの時の事を思い出す。

 魔軍と戦っていたあの頃を。

「スノーレーザー!」

 そしてエルシールの渾身の威力の魔法がマッキンリーの体を貫く。

「ノー…まだまだ食い足りない」

 しかしそれでもマッキンリーは立ち上がった。

 その体からは夥しい粘液が溢れ、その体からは猛烈な腐敗臭が漂ってくる。

「クッ! しつこい…!」

 いくら使徒とはいえ、そのしつこさにはいい加減に辟易してくる。

 だが、その後に待っていたのは衝撃の光景だった。

「美味そうなニクがある…おお…デリシャス」

「じ、自分を食ってる…」

 マッキンリーはとうとう自分の体すらも食い始めた。

 その光景には誰もが目を覆い、その醜悪さに顔を歪める。

「今までの何よりも美味いね…」

 自分の足、腹、内臓…そしてとうとう腕すらも己の腹に収める。

「まおー。頼めるかしら」

 その光景は見ていて気分の良いものではない。

「まーおー!」

 エルシールの言葉に大まおーは勢いよく返事をすると、その口から炎を吐き出す。

 マッキンリーの体は完全に炎に飲み込まれ、肉が焼ける嫌な臭いを発する。

「デリシャス。今度はステーキを…」

 そしてそのままマッキンリーの体が黒い炭へと変わっていく。

「やった…?」

 クーはマッキンリーの体を注視しているが、その体が動き出す気配が無いのを見てようやく腰を下ろす。

「か、勝ったのか? 使徒を倒したのか?」

「や、やった…使徒をたおしたぞ」

 そして人々は目の前の脅威が無くなった事に誰もが歓喜の声を上げる。

 エルシールももう動かないマッキンリーを見て、ようやく一息を付く。

 流石に魔物大将軍や、魔人レキシントンや、その使徒であるアトランタとジュノー程では無かったが、やはり恐ろしい敵だった。

(おっといけない…まだ魔人トルーマンがいる)

 いくら使徒を倒しても、まだ魔人は存在している。

 しかも人間には魔人の持つ無敵結界をどうにかする手段は存在しない。

(いくらケッセルリンク様が大丈夫だと言っても、ランスさんですからね…)

「まーおー!」

「まおー…そうですね、行きましょうか」

 自分の隣にやってくるまおーを見て、エルシールは頷く。

 目指すはバーバラが言っていた、魔人をどうにかするための罠を張っている場所。

「ランスさん…相変わらず無茶をしてなきゃいいけど」

 無理はしないが無茶はする。

 そんなランスの性格を思い出し、エルシールは周囲に人の気配が無いことを確認すると、使徒としてのフルパワーを使って走りだした。




想像以上に長引いてしまいました
これも某娘が悪いんや…というのは冗談ということにしておいて下さい

次で決着つけます
正直使徒との戦いの描写っていらなかったような気がしました…

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