ランス再び   作:メケネコ

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終わりへのカウントダウン

 ???―――

「…面白くないわね」

 人類管理局である1級神ALICEはある事に対して不満を覚えていた。

 約50年前、魔王ナイチサによる大虐殺はある意味で創造神の望む結果に終わった。

 ALICEもこの大虐殺には満足しており、その結果魔王が勇者との激闘によって魔王は撃退されたが、それはそれでまた満足もしていた。

 大量の人間が死に、魂管理局であるクエルプランが非常に忙しく、それをからかいに行った事もあったが、それはあっさりとスルーされてしまったのは気に入らないが。

(気に入らないといえば…クエルプランは下界に干渉せざるを得ない立場にあるらしいけど…それは言っても仕方が無いか)

 同じ1級神であるクエルプランにはALICEでも干渉はしたくない。

 からかう分には楽しいし、睨み合いもするもの良いのだが、ここ最近は淡々とスルーされる事も多くなってきたため、少し冷却期間を設けようと考えていた。

「それよりも…今は他の事か」

 ALICEも下界を見て楽しんでいたが、ある一つの戦いの結果はALICE的に面白くなかった。

 人間が魔人を倒すという、ありえない光景がそこにはあったからだ。

 創造神はメインプレイヤーである愚かな人間が、虐げられ、無残に殺され、常に不幸である事を望んでいる…のではあるが、同時に人間がどのようにして魔物に抗うのか、という事も楽しんでいる傾向にある。

 勿論それに疑問を抱く事は全く無いが、これは個人的な感情に過ぎないため、一人で悶々とするしかないのも現実だ。

(それに人間が使ったのは普通の術…あの方達が、魔人に対抗できるように作った手段。それを人間が使っていたとしても問題は無いか)

 かつて魔王スラルがプランナーに『魔王は無敵である』という事を願ったとき、プランナーはそれを無敵結界という形で叶えた。

 その結果、魔王の血を分けられた魔人達もその恩恵に預かり、人間が魔人に対抗するのはほぼ不可能となった。

 だが、同時にプランナーは人間に勇者というシステムを作っただけでなく、魔封印結界という手段も用意した。

 それが創造神の望むこの世界なので、ALICEとしても何も文句は無い。

「だけど…こいつはね」

 問題なのはセラクロラスが干渉をしている人間だ。

 それはこの世界で好きなように行動し、世界を引っ掻き回し、時には想像もつかない行動をとってありえない結果を導き出す。

 それがALICE本人としては面白くないが、肝心の創造神が面白がっているのだから、それに関してはもうどうしようもない。

 誰もが何も言わない以上、女神ALICEと言えども手を出すことは厳禁だ。

「AL教を動かしてバランスブレイカーとして封印する…いや、無理か」

 ナイチサの大虐殺から50年、人類はまだまだ復興途中なので人を動かすことは出来ないだろう。

 そもそも、動かすための人の数が圧倒的に足りないのだから。

 ムーララルーに命じて回収させるのも考えはしたが、それをしてしまうと創造神の楽しみを奪ってしまう事になる。

 勿論そういう展開を創造神が望むかもしれないとも考えたが、手出しはするなと言われてしまった。

(神が直接手を出すのは厳禁だけど、人間に手を出させるのなら問題は無いか)

 ALICEは詰まらなそうにため息をつくが、直ぐにその顔に笑みが浮かぶ。

「まあ…人間が動くまでも無いか。だってそれ以上のモノが動いているしね」

 出来れば人間が人間の手で惨たらしく殺される所が見たかったが、ある意味創造神が望んでいる展開が来そうな事にALICEは笑う。

 そこにはこの世界最強の存在が映し出されている。

 世界最強の存在は苦しげに呻きながらも、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「という訳で俺様の女のケッセルリンクだ」

「いえ、唐突にそんな事を言われても。どこからどう見ても、『夜の女王』の魔人ケッセルリンクですよね」

 ジルは今混乱の極みにある。

 ランスとの濃厚な一夜を過ごした後、その日の夜にまた即座にランスに呼ばれたが、そこに居たのはジルが想像も出来ないような存在だった。

「ランス…お前、事前に私の事を説明しなかったのか?」

 当の魔人ケッセルリンクは、少し責めるような視線をランスに向ける。

 しかし、ジルはケッセルリンクが人間であるはずのランスに対して、少々の非難と呆れが入っているのを見逃さない。

「まあそんな事はどうでもいい。お前達を呼んだのには俺様の崇高な目的があるのだ」

「す、崇高な目的ですか?」

 目を丸くするジルに対して、ケッセルリンクは完全に呆れた視線をランスへと向ける。

 付き合いの長いケッセルリンクには、これからランスが何を言うのかハッキリと理解していた。

「がはははは! 当然セーックス! 3Pじゃー!」

「え、えええええええーーーー!?」

「はぁ…」

 ランスの言葉にジルは驚愕し、ケッセルリンクは頭を抱える。

「ランス。私は魔人だ。そして彼女は人間だ。魔人が人間にどういう目で見られているか、お前も分からない訳ではないだろう」

「何を言っている、お前は魔人である前に俺様の女だろう。訳の分からん事を言って、煙に巻こうとしてもそうはいかんぞ」

「ちょ、ちょっと待って下さいランス様! あの、魔人と知り合いなんですか!? それにランス様の女だって…」

 ジルはこの状況にパニックを起こしてしまう。

 ランスが魔人と知り合いという事もそうだが、こうして親しげな態度を取っている所を見ると、知り合いなのはまず間違いないだろう。

「ふむ…まずは落ち着きたまえ。まずは自己紹介をしよう。私は魔人ケッセルリンク、見ての通り元カラーだ」

「そ、そうですよね。文献で見たカラーと特徴も一致してますから。でも…」

「分かっているさ。何故ランスと知り合いなのかといえば、言葉通りに…いや、この際ハッキリと言ってしまおう。私とランスは戦友だからだ。丁度今の君達と同じように、魔人と戦ったのさ」

 ケッセルリンクの言葉にジルはさらに混乱してしまう。

 魔人ケッセルリンクは、今存在している魔人の中でも古株に当たる存在…だと言われている。

 ハッキリとした記録が無いのは、魔人ケッセルリンクは強者でありながらも人間を襲ったという記録が無いからだ。

「魔人と戦った…? そんな逸話は残っていませんけど…」

「無理も無い…それは先代の魔王、スラル様の時代の事だからな…その時カラーは人間と交流を持っていなかった。カラーもそんな事を人間に言い触らす必要性も無い。だが、そのせいでカラーの立場が危うくなった事も否めないがな…」

「あ、あの…ランス様? それはどういう事ですか?」

 先代の魔王という言葉が出て来たことでさらに混乱を深めてしまう。

 今はNC950年…つまりはナイチサが魔王となってから950年経過しているという事だ。

 その先代の魔王の時代にケッセルリンクと共に魔人と戦ったとなると、ランスの年齢は1000歳くらいという事になる。

(でも…そんな感じは全くしませんし、無敵結界に攻撃を阻まれてましたから魔人でもないし…でも使徒だとも思えないし)

「ランス、お前は唐突過ぎだ。我が段階を踏んでジルに説明をしようと考えていたのに、いきなりストレートに突っ込んでいく奴が居るか」

 ランスの剣からスラルがその姿を現す。

「スラル様」

 そしてケッセルリンクがそのスラルに跪く。

「スラル…先代の魔王…魔人が跪いていて…ええ?」

「すまないなジル。本当はもう少し事情を鑑みてからお前にも話そうと思っていたが…ランス、本当にお前は唐突な行動で我の計算を狂わす」

 スラルの苦い表情に、ジルは全身から力が抜けていく。

「…先代魔王?」

「…信じる信じないはそちらに任せるが、確かに我が先代魔王のスラルだ。今はこんな姿だがな」

 自嘲的な笑みを浮かべるスラルに、ジルはもう何も言う事が出来ない。

 出来なかったが、

「きゃあ!?」

 突如として背後から胸を掴まれる。

「お前等ごちゃごちゃ煩いわーーーーーっ! お前達の疑問など俺様には関係ない。とにかく今夜は思う存分楽しむぞ! ケッセルリンクも中々やれんから、今日はとことん楽しむぞ」

「…本当にお前という奴は。まあ本当に今更過ぎるな」

 ケッセルリンクは呆れたようにため息をつくが、それでもその着ている服を惜し気もなく脱いでいく。

 ジルの目に入ってきたのは、見事なまでのスタイルを持つ美しすぎる魔人の姿だった。

 大きな胸に括れた腰、そしてそれに合わせたかのようなヒップライン…全てが完璧過ぎるほどに美しすぎる存在だ。

 カラーは皆美しい存在と聞いた事があるが、それは間違いないと確信させる程の美だ。

「がはははは! とーーーーーーっ!」

「えっ、きゃあああああ!」

 そしてランスはジルをあっという間に全裸にすると、そのままジルとケッセルリンクの二人と共にベッドへとダイブした。

 

 

 

 数時間が経過し、満足そうに眠っているランスと、そのランスに抱きついて眠っているジルを見て、ケッセルリンクは笑みを浮かべる。

 ジルの髪を撫でると、改めて自分もランスの隣に寝転がる。

(やはりランスと共に朝を迎えられないというのも味気ないものだな)

 それに関してはもう仕方ないと割り切るしかない。

 だが、共に起きれなくてもこうしてランスとは共に居ることが出来る。

 魔人になってもランスの態度は変わる事無く、昔と同じように接してくるランスの態度はやはり好ましい。

「相変わらず情熱的だな、お前は」

「スラル様」

 ケッセルリンクの横にスラルが座る。

 実際に座っている訳ではないが、こうして色のついているスラルを見ると、ケッセルリンクとしても昔を思い出す。

 勿論良い事ばかりが有った訳ではない。

 ランスが再び現れるまでは、スラルも塞ぎこんでいた。

「お前のランスに対する想いは昔から変わらない。あれからもう1000年も経とうとしているのにな」

「お言葉ですが、私もセラクロラスに巻き込まれたことがありますからね。1000年も経ってはいませんよ」

「そうだったな…今思えば、それだけの時間がもう経っていたという事か。しかし、実際にはお前と共に居た期間の方が長いはずなのに、ランスとはもっと長い時間居たような感覚になってしまうな」

 スラルの言葉にケッセルリンクは嬉しそうに笑う。

「それはスラル様とランスが過ごした時間がかけがえのないものだという事でしょう。過ごした時間よりも刺激的な時間の方が記憶には残りやすい」

「…それもそうだな。しかし、ランスと居れば全く退屈はしない。些か騒がし過ぎる気もするがな」

「ええ。私もランスと共に戦ったあの時間の事は忘れません。アナウサもメカクレも…もう皆は居ませんが、私の心には残り続けている」

 スラルとケッセルリンクは互いに笑いあう。

「しかしランスが魔人になっていれば世界はどうなっていただろうな。間違いなく波乱は起きるだろうが」

「『夜の女王』に『獣の王』…ランスが居ればさしずめ『剣の王』ですか?」

 ケッセルリンクの言葉にスラルは首を振る。

「いいや、ランスはそんな陳腐な言葉で言い表せるような奴じゃない。そんな端的な言葉はランスには相応しくない」

 ランスの剣の腕は確かに優れている。

 剣に優れた魔人ガルティアでも、剣だけではランスには及ばないと思わせるだけの力がある。

 だがそれでも、ランスの強さは剣という言葉で断言できる存在ではない。

「ランスが魔人になっていれば…間違いなく『混沌の王』と呼ばれていただろう。ランスの行くところ、常に波乱が起きるがそこから新たなものが生み出される。それが良いことか悪いことかはともかくとしてな」

「『混沌の王』ですか…確かにランスに相応しい」

「『カオスマスター』。それこそがランスに相応しい名前だ。そしてそれは魔人であろうが人であろうが変わらない」

「話だけ聞けば非常に厄介なだけの存在ですがね」

 二人はランスを見て笑いあう。

「だからこそ、我はランスの側に居ると決めた。これからランスに何があろうともな。ケッセルリンク…魔人のお前では難しいかもしれないが…」

「私は魔人故に、魔王の命令には逆らえませんが…それでもランスの敵にはなりたくない。勿論恩も…それ以上のものも有りますが、何よりランスと戦えばとんでもない方法で倒されそうだ」

「違いない。ちなみにその時は我は全力でランスを助けるぞ。ランスと共に居ると楽しいからな」

 

 

 

 こうしてジルは魔人と出会い、あまつさえ一緒にセックスをするというとんでもない事に巻き込まれ―――2ヶ月が過ぎた。

 その期間は特に語る事も無い、平和すぎる程の時間だった。

 魔人ケッセルリンクがしれっとこの町に居座っていたり、ランスがバーバラと揉めたりと色々とあったが、それでも…平和過ぎる程の時間だった。

 ランスは時にはレダとジル、加奈代を連れて冒険に出かけ、その後ろをこっそりとケッセルリンクの使徒達がついて行くという事も何度もあった。

 そしてジルは魔人の使徒達にも話を聞くことが出来た。

 シャロンはある国のお姫様だったが、他国に攻め込まれて処刑されそうになった時にランスに救われたらしい。

 ただ、ランスがその国を狙っていた盗賊団を率いていたらしく、実はマッチポンプだったのではと思ったが、多分善意だろうと思うことにした。

 その時、後に魔人となったあの悪名高いレッドアイとの戦いで命を落とし、そこをケッセルリンクに助けられて使徒となったようだ。

 パレロアは家族が悪魔に巻き込まれ、その時に出会った悪魔に対して、ランスとケッセルリンクが共闘して戦ったらしい。

 何でも悪魔の攻撃は無敵結界では防げないらしい。

 ただ、自分達は悪魔では無いし、悪魔の武器とやらも持っていないので、残念ながら魔人対策にはなりそうに無かった。

 彼女もまた、ランスとケッセルリンクに救われて魔人の使徒となる事を選んだようだ。

 そしてエルシールという女性が、一番ランスと行動を共にしていた時間が長いらしい。

 しかし、あの藤原石丸と戦った経験があったというのは流石に驚いた。

 その後で、何と魔人レキシントンと交戦し、その時に使徒のアトランタに囚われたとの事だ。

 だが、ケッセルリンクに助けられ、そのまま使徒になったようだ。

(はぁ…皆ランス様に助けられてるんだ)

 唯一人、ランスに敵意を向けているバーバラは、人間から…家族から酷い仕打ちを受けたらしい。

 その影響で、人間を酷く憎み、ケッセルリンクと懇意のランスに敵意を向けている。

 が、ランスからすれば例え使徒だろうが何の問題も無いらしく、バーバラの襲撃をあっさりと退けていた。

 その時に、ランスは自分の命を狙ってもいいと言ったが、その代わりその後で好きにさせろと言ったらしく、バーバラは本当にランスにやられたようだ。

 ちなみに主であるケッセルリンクは、当人同士の約束なら仕方ないという事で了承しているらしい。

「ふう…これ、残さないほうがいいですよね…」

 ジルは自分の手記を見てため息をつく。

 内容が非常にとんでもなく、誰が見ても信じられないだろう。

 もし自分が何も知らずにこれを見ても、全く信用しないだろう。

「それよりもこっちか…」

 ジルはもう一つの書類の束を見る。

 それこそ、今回の戦いのメインであり、魔人を倒すための一つの手段。

「問題なのは、その聖なるアイテムを集めるのが難しい事と、結界も破られた後だと魔人を倒せる手段が無くなる事か」

 今回の魔封印結界は恐らくは人類が魔人に対して初めて使った術だろう。

 それ故に、今回は完全ではなかった事は明白だ。

 もしランスが居なければ、あの場は逃げる事は出来ただろうが、結局は魔人を取り逃がしていただろう。

「何とか精度を上げられればいいんだけど…問題なのは、やっぱりアイテムの収集か」

 アイテムの収集には結構な時間を要した。

 最後の最後で非常に反則的な行動でアイテムを手に入れたが、そんな奇跡が果たして次は出来るだろうか。

 ジルは一度ため息をつくと、自分の指に嵌められた一つの指輪を見て、頬を真っ赤に染める。

「………うぅ~」

 それを見るとどうしても顔がにやけるのを抑えきれない。

 この指輪は、ランスとケッセルリンクと3P…いや、その後でレダとも3Pをさせられたその少し後の事だ。

 その日、ジルは不思議な夢を見た。

 それは黄色い鳥が『運命の男と共に電卓迷宮へ行くがいい』という奇妙な夢だった。

 それをランスに話すと、ランスは上機嫌で『俺様の奴隷なのだから当然だな』と笑っていた。

 そしてその奇妙な迷宮を進んでいくと、そこには一つの宝箱が置いてあった。

 宝箱を開けると、そこには一つの指輪が入っていた。

 それはジルの薬指にぴったりと嵌り、そこからは特別な魔力が感じられた。

「ランス様…これは?」

「うむ、俺様の運命の女はここで特別なアイテムが手に入るのだ。つまりはお前が俺様の奴隷になったのは必然という事だ」

「そ、そうなんですか?」

「そうだ。俺様の奴隷は皆ここでアイテムを手に入れているからな。俺様の奴隷になれるという事は特別なのだ」

(特別…)

 奴隷、と呼ばれていても『特別』という言葉が全てを許容してしまう。

 指輪を見ながら、嬉しそうな顔をしているジルを見て、ランスは当然の如くムラムラしてくる。

「え、ラ、ランス様?」

 ランスはジルを迷宮の壁に押し付けると、

「がはははは! お前が俺様の運命の女で奴隷ならば当然こうしてもいいのだ! という訳でやるぞ! とーーーーーっ!」

「ラ、ランス様ー!」

 結局ジルは電卓迷宮で、ランスが満足するまでガッツリと犯されてしまった。

 

 

「運命の女、か」

 自分にそんな相手が居るなど考えもしなかった。

 魔人を倒すために色々な実験をして、ちょっと奇異な目で見られる事もあったが、自分なりに人のためになろうと頑張ってきた。

 だが、結局は同じ人間に裏切られ、奴隷として売られてしまった。

 そこで自分の将来は終わるはずだった…が、自分は救われた。

「自分勝手で自信過剰で我儘で意地悪で凄い女好きで乱暴だけど…優しくてとっても強い人」

 ランスは勿論好き嫌いが激しく分かれるタイプだ。

 今のランスの周りにも、ランスを嫌っている人間も沢山居る。

 だが、同じくらいランスを認め、そして好意を抱いている人間も居る。

(私は…ランス様の事が好きなんだ)

 自分を助け、自分の望みを叶えてくれ、そして自分とエッチをするためだけに魔人と戦った人間。

 凄い滅茶苦茶な動機だし、普通に考えればありえない事だ。

 でも、ランスはそれを全てやり遂げだ。

「ありがとうございます、ランス様…」

 ジルはランスの事を手記には残さない。

 魔封印結界や、自分の持っている知識は書物に残しておいてもいい。

 でも、自分の大切な人の事は、自分の頭の中にあればいい。

「うっ…」

 ジルは唐突に自分に襲ってくる吐き気に口を抑える。

 最近は何故か食生活に変化が生じ、具合が悪くなることが多くなった。

「………これって、間違いなく」

 ジルは自分のお腹を押さえる。

 ランスは避妊魔法が使っているという事だが、一体それをかけたのは何時だろう。

 しかも、ここ最近はランスは頻繁にジルやレダ、そしてケッセルリンクとその使徒とばかりエッチをしていた。

「………」

 ジルの顔は自然と優しいものとなる。

(ランス様はどう思うかな…)

 もし自分に子供が出来たのだとすれば、それがランスとどんな変化を齎すかは分からない。

 でも、それでも不安は無い。

「大丈夫かね?」

「えっ、ひゃあ!?」

 突如として背後から声をかけられ、ジルは驚いて跳び上がる。

「いや、すまないね。一度君ともじっくり話してみたくてね」

 ジルを優しく座らせたのは、魔人ケッセルリンクだ。

「え、えーと…ケッセルリンク…様?」

「様はいらないよ」

 ケッセルリンクは笑いながらジルの隣に座る。

 そしてジルの手に嵌められた指輪を見る。

「電卓迷宮か…懐かしいな」

「懐かしい…? まさかあなたも?」

 ケッセルリンクは頷いて、自分が嵌めている手袋を見せる。

「これが私が遥か昔、ランスと共に電卓迷宮で手に入れた物だ。ランスが言うには運命の女は、そこで特別なアイテムが手に入るらしい」

「…運命の女なんですよね? その…それって普通何人も居るものなんですか?」

「それは分からないよ。だがランスの事だ、運命の女が何人も居てもおかしくはないさ」

 ケッセルリンクは苦笑いをして、己の手袋を大事そうに撫でる。

「先程は驚かせてすまないね。君は一人の体では無いのだから、体をいたわりたまえ」

「ひ、一人の体じゃない…」

「妊娠しているのだろう? 気づいたのはパレロアだがね」

 つい最近、ケッセルリンクはパレロアからジルが妊娠しているのではないかと言われた。

 パレロアは経産婦であるため、そういった事には敏感なのだろう。

「彼女も君の事を心配していた。彼女は使徒になる前は、子供を育てていた。何かあれば彼女に相談するといい」

 そう言ってケッセルリンクは優しい表情をする。

 それはとても人類の敵である魔人であるとは信じられない顔だ。

「あの…ケッセルリンクさんも、ランスさんの事が好きなんですか?」

 ジルの言葉にケッセルリンクは微笑む。

「そうだね…君に対して言葉をはぐらかすのは失礼だね。ああ、私もランスの事を男して愛しているよ。私が魔人じゃ無ければ、君と共にランスと冒険をしていただろうね」

 そう言うケッセルリンクの顔は同性のジルから見ても非常に美しい。

 そして、そんな相手に想われるランスという人間の罪深さに心の中でため息が出る。

「ランス様との出会いの事…もっと聞いてもいいですか?」

「ああ、構わないよ。まずは最初にあいつの出会った時の事から話そうか」

 この日、ジルとケッセルリンクの二人は心行くまで語り合った。

 

 

 

 ランスが今居る組織はかつて犯罪組織だった。

 ランスによって壊滅させられ、今はランスが自分が好きな事をするためにいいように扱われる組織となっている。

 勿論それを受け入れ、組織の改革をする者がいるが、それと同じようにランスに対して反発する者も当然のように存在していた。

「ったくランスとかいう野郎…自分だけいい思いをしやがって」

「今更言うなよ…空しくなるだけだぞ」

「そうだぞ。こうして生きているだけでももうけものさ」

 それは肉体労働にて生計を立てている者達。

 このルドラサウム大陸は、ほぼほぼ才能が全てであり、力の無いものは淘汰される運命にある過酷な世界だ。

 人間は神によって、弱くて愚かな存在で、魔物に苦しめられて殺されるために作られたメインプレイヤーでしかないのだ。

 その中でもランスや藤原石丸のような常軌を逸した存在も中には生まれるが、そんなものは一握りだけだ。

 そしてこの男達も、そんな底辺に近い存在の一味だ。

 こうして単純な肉体労働でしか生きていく事が出来ないが、それでも男達は高望みをしていた。

「あの野郎…俺が狙っていた女をあっさりと食いやがった」

「そりゃそうだろ。あいつだってお前よりもボスを選ぶだろうよ」

「女に優しい…いや、女にしか優しくないからな。あの人は」

 ランスの性格は既に知れ渡っており、女(美人に限り)には優しいが、男の扱いは非常に悪い。

 なので下の者達はそんなランスに不満を抱くのはある意味当然の事と言えた。

「ボスじゃなきゃ魔人や使徒には勝てなかったんだ。それに何時までも違法薬物を捌けていた訳じゃないだろ」

「けっ!」

 男の一人が非常に不満そうにするのを、その場に居る誰もが理解はする。

 ランスという人間は、男に対しては非情であり、いい思いをさせてくれた事など無い。

 前のボスは自分達の事をある程度黙認していたが、ランスはそういう事…女に関しては全く妥協はしない。

 下手な事をすれば、あっさりと斬り殺してくる非情さを持っている。

 ランスは男を冷遇しているというよりも、男には全く興味が無いために、末端の男の事は部下の女に丸投げしているのが事実だが、下の男達にはそんな事は関係無い。

 自分達はいい思いを出来ないのは、ボスであるランスが全て美味しいところを持っていくと思っているのだ。

 実際には、ランスは女のためとはいえ、常に前線で戦い、魔人とも戦った事など男達には関係無い。

 言わば現状の不満を、今の組織のボスであるランスへと転嫁しているだけなのだ。

「それにしても…本当に無くなっちまったんだな、この町も」

「ああ…全部焼かれてやがる。人の死体なんて一つもねえ」

 ここは魔人が居たという例の町なのだが、そこは全てが無くなっていた。

 この光景を見れば、そこに人間が住んでいたなんて思いはしないだろう。

「取り敢えず見て回ろうぜ。それが仕事だからな」

 男達は不気味に思いながらも、その周囲を探索する。

 探索するが、何も無いものは探しようが無く、直ぐに見終わってしまう。

「本当に何も無いな」

「まあこれで終わりだ。とっとと帰ろうぜ」

「そうだな」

 男達はこんな何も無い所からとっとと引き上げようとしたとき、突如として襲ってきた悪寒に体が震える。

「な、なんか急に寒くなってきてないか」

「まだ暖かい季節だろ…何言ってるんだ」

 そう言いながらも、男達は震えを止めることが出来ない。

「お、おい…あれは何だ…?」

 男の一人が震えた声と指で示した方向には『何か』が居た。

「え…な、何だ…」

 ソレは己の胸を押さえながらもこちらに歩いてきた。

 血の気を感じさせない顔なのに、その目は紅く煌々と輝いている。

 そしてソレを見ているだけで、自分がこの世界からきえてしまっているのでは無いかという錯覚に陥ってしまう。

「居るな…人間共」

 ソレは地獄の底から響くような声を出す。

 それだけで逃げ出したくなるが、男達は最早恐怖で動く事すら出来ない。

「近い…我が血を受け継ぐものがな。人間よ…我が声に従え…」

 ソレ…魔王ナイチサは苦しげな顔をしながらも、ハッキリとした声を出す。

 全ての終わりが近づいてきている事に、まだランスは気づいていなかった。

 




書いててやっぱり辛いな…でも仕方ないね
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