「何やってやがる! あそこは戦える奴はそんなにいないんだぞ!?」
「お前本当に魔物大将軍ってやつなのかよ!」
人間達の怒声にエイセイは内心で切れそうになりながら耐える。
(この無能な人間共が…! 貴様等が余計な事を言わなければ、この戦力で揉み潰す事が出来たのだ…!)
エイセイは自分の策略の一部が潰された事に激怒しそうになるのを何とか堪える。
(ナイチサ様ももっと戦力を使わせてくれればいいものを…!)
同時に、この程度の戦力しか使わせてくれない魔王にも不満がある。
不満はあるが、勿論そんな事を魔王に言う事は出来ない。
もし言えば、間違いなくナイチサに殺されるのは目に見えている。
(だが魔物隊長を一撃で殺す人間だと!? まさかそんな人間が存在しているというのか…? いや、しかしナイチサ様の前例もある…)
魔物隊長は当然魔物兵よりも強く、人間では到底太刀打ち出来ない存在だ。
だが、時には人間の中に突出した力を持つ人間が生まれるらしい。
人間の魔人である、ガルティアやパイアールがそうだ。
(やはり人間は家畜にしなければならん…そして魔物に対する反抗心を取り除かなければならん。人間屠殺場を作らねばならんのだ)
エイセイの目標は、人間を自由に屠殺する事が出来る未来を作ることだ。
そのためには、何としても魔王に取り入って自分の立場を上げなければならない。
ここで功績を上げれば、魔人になる道も開けるのだ。
魔物大将軍である以上、どうあっても寿命から逃れる事は出来ない。
寿命から逃れるためには、魔人又は使徒になる以外に道は無い。
だが、無敵結界が無い使徒では不安なのだ。
エイセイは自分の歪んだ野望を実現させるべく、次の手を打とうとした時、
「そうだ。魔物大将軍は強いんだろ? だったらお前が行けよ」
「そ、そうだよな。魔物大将軍ならあの野郎でも一発だよな」
「お前が行けばランスの野郎なんて直ぐに潰せるぜ! なあ、あいつの女を俺達の所に連れて来いよ」
(…このカス共が! 何処までも調子に乗りおって…この任務が終えたら、こいつらは屠殺場にぶち込んでやる! いや、それだけじゃあ生ぬるい…生きている事を後悔するまで嬲ってから殺してやる…!)
魔物大将軍の殺意に気づかぬまま、人間達はその後も好き勝手に喋り続けた。
「ボス! 本気ですか!?」
「何とかならないんですか、ボス…」
「説明は必要」
「ちょっと、どういう事よ!」
魔物隊長を倒した後、ランスはすぐさまここから撤退…逃げる事を宣言した。
突然の事で皆がランスに詰め寄るが、ランスは何処吹く風と言わんばかりにジルと加奈代に逃げる準備をさせている。
「スラルちゃん、説明」
ランスは当然説明などという面倒な事をするつもりは更々無く、スラルに丸投げする。
スラルはランスの剣から姿を現すと、真剣な表情で詰め寄る人間達を見る。
「ハッキリ言おう、魔物大将軍が動いたと言う事は、魔人…もしくは魔王が直接動いたと見ていい」
スラルの言葉に皆は絶句する。
魔人はついこの間ボスであるランスが倒したが、再びその脅威がやってくると言っているのだ。
それどころか、魔王の名前すら出た事には驚きを通して呆れるしかないくらいだが、スラルの言葉には妙な説得力がある。
何しろ、魔封印結界に関わったのはスラルも同じであり、彼女の力無くしてあの時の脅威を防ぐ事は不可能だっただろう。
「今魔物大将軍を退けても、また別の奴が来るだけだ。それよりも命ある内に逃げる方が生き延びる可能性は高い」
スラルの言葉に皆が呆然としている。
(無理も無いか…今の若い世代の者は直接の魔軍の脅威は知らないだろうからな。50年は魔王には短いが、人間には長い…)
50年魔軍の脅威が無く、人間同士の争いが続いたとあれば無理は無いとスラルは思う。
しかも、自分の言う可能性だけで故郷を捨てる…それもようやく軌道に乗ってきた町を捨てるなど出来るはずが無い。
ドンッ!
尚もぎゃあぎゃあ喚く者に対してとうとうランスは只でさえ低い沸点に達したのか、剣を机に叩き付ける。
机は剣を叩きつけられたとは思えないくらいに粉々になると、
「やかましい。俺様は逃げると言ったら逃げるんだ。お前等がどうなろうが俺様の知った事では無い。あ、女の子だけは俺様について来ても良いぞ」
ランスの言葉に場が一瞬で静かになる。
この場に居る者達は、ランスが本気でそういっているのを知っているからだ。
「喚いている暇が有ればとっとと逃げろ。死にたい奴だけ残ればいい」
その言葉にハンナは尚反論しようとして、言葉を引込める。
「皆、重要な物だけを持って逃げるわよ」
「ハンナ!?」
ハンナの言葉にクーは驚く。
彼女なら、どうあっても己の利益を守るために何とかすると思っていたからだ。
「クー、ドロシー、キャロル。まず守らなきゃならないのは私達の命よ。それに…アレだけはどうあっても守らなきゃらならない、そうでしょ」
「…分かった。ハンナに従う」
「ちょっとドロシー!?」
その言葉にいち早く頷いたのはドロシーだ。
そんなドロシーにキャロルは驚きの声を出す。
「キャロル。ハンナの言う通り、まずは命を優先すべき。そして、私達が経験した事は後世に残さなければならない」
「………そうだけど」
キャロルもドロシーの言っている事は十分に分かっている。
ただ、ここまで頑張ってきた結果を捨てる事になるのが惜しいという気持ちがあるだけだ。
キャロルは悔しそうに唇を噛みしめると、
「全員逃げる準備! 逃げるのに負担になる物は全部放置! 書物が最優先よ! 急ぎなさい!」
キャロルの言葉にまだ戸惑っている者達はいるが、
パンッ!
「ほら急いで! 魔軍は待ってはくれない!」
キャロルが手を叩くと、皆が一斉に駆けだす。
「クーも急ぎなさい。手荷物はなるべく少な目にね」
「…分かったよ」
クーも皆と同様に悔しそうな顔をしながらも走り出す。
「…ボス、最後に確認だけど、どうしようもないのね?」
「無理だな。大体ここは魔王の領地に近いではないか。何でそんな所に町を作った。知ってたらこんな所に来なかったぞ」
ランスも忌々しそうに唇を尖らす。
ランスはこれまでの経験から、魔軍は魔物の領地…即ち、大陸に西側から来ると思っていた。
ここは大陸の中央辺りなので、魔軍が出現しないと勝手に思い込んでいた。
簡単に言えば、ランスは今の時代…NC時代の世界の常識を知らなかったのだ。
自分が居たLP期の常識がまだまだ抜けきっていないのだ。
「とっとと逃げるぞ。魔軍はわらわら沸いてくるからな。相手にするのは面倒だ」
JAPANでザビエルと戦った時も、一体何処から沸いてきたのか、大量の魔物兵が襲い掛かってきた。
とにかくランスとしては、魔軍と戦うのはやはり面倒だという思いが強かった。
なので、スラルの言葉はある意味渡りに船だといえた。
「ランス様…」
「そんな顔をするな。あんだけの数が居るなら逃げるしかないだろうが」
ジルの顔にランスは思わずシィルを重ねてしまう。
恐らくシィルやシーラでも、今のジルのような顔をするだろう。
即ち「何とか出来ないか?」というランスに縋るような顔を。
「お前もとっとと準備をしろ。さっさと逃げるぞ」
こうしてランスは、乗っ取った町を捨てて逃げる準備を始めていた。
町の前…そこには魔物大将軍を先頭にした、約800もの魔物兵が整列していた。
魔物大将軍の前には、人間の町がある…本来であれば、その光景を見て舌なめずりをしたい所だが、今回は勝手が違う。
むしろエイセイとしては、とっととこんな事は終わらせてしまいたいとさえ思っていた。
(念願の戦争だというのに…まさかこんな望まぬ形で戦うはめになるとはな…)
もし自分が好き勝手に出来るのであれば、この程度の数でも興奮していたはずだ。
しかし、今回自分に命令しているのはよりにもよって人間だ。
いくら魔王の命令とはいえども、ストレスが溜まるのはどうしようも無かった。
「準備は良いな」
本来であればエイセイの声は弾んでいるはずなのだが、今は不機嫌なのを隠そうともしない。
魔物隊長は、そんな魔物大将軍の言葉に震えながら返事をするだけだ。
何しろ魔物大将軍は無敵結界の無い魔人とも言われる程の強さをもつのだ。
それが不機嫌となれば、魔物兵からすれば戦々恐々といった所だろう。
「人間共を殺せ。そこは好きにしてもいい。だが、水色の長い髪をした女だけは殺すな。いいな」
「は、はい!」
エイセイの言葉に魔物兵達が返事をする。
エイセイは一度天を見上げると、イラついてた気持ちを一旦静める。
ここからは魔王の絶対的な命令の元、任務を遂行しなければならない。
それは水色の髪をした女に絶望を与える事。
その絶望は魔物によって与えられるのではなく、人間の手で与えられなければならない事。
そのために、こんな愚劣な人間の言う事を聞いているのだ。
「よし! 突撃だ!」
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
エイセイの号令に、魔物兵達は一斉に雄叫びを上げて走り出す。
そして瞬く間に人間の町へと突撃していく。
人間の町の防御など何の役にも立たないと言わんばかりに、町を破壊しながら突き進んでいく魔軍。
しかしそこでエイセイは奇妙な事に気づく。
「…何だ?」
「人間共が出てきませんな…」
あの忌々しい人間の言葉が正しければ、この大きな建物こそ例の水色の髪の女が居る建物らしい。
が、それまでに全く抵抗が無いのがエイセイは気になった。
「隠れている人間を探せ!」
エイセイは部下の魔物兵に命令すると、魔物兵達は一斉に民家に、そしてランス達が使っていた大きな建物に入っていく。
部下達の事を待っていると、次々に戻ってきた部下からの報告が上がるが、
「駄目です! 一人も居ません!」
「こっちも居ません!」
「エイセイ様! 屋敷にも人の姿が有りません!」
それは何れもエイセイが望んでいた答えでは無かった。
「むうううううう! 人間共め…逃げおったか!?」
誰も居ないという事は、人間達はどうやら逃げ出したという事に他ならない。
魔物隊長率いる1部隊が全滅してからまだ一日だが、人間達はその間にとっとと逃げだしたと判断するしかない。
(ぐうううううう! 数があればこんな事は無いものを! いや、あの人間共さえ何もしなければ包囲してからどうとでも出来たものを!)
もしあの人間の言葉が無ければ、密かにこの町を包囲してから一気に攻め落とす事が出来ていた。
しかし、人間の命令に従えと言うナイチサの言葉は絶対だ。
不本意ではあるが、魔物大将軍が自ら出向くという手段を取らなくてはならなかったのだ。
(数さえあれば、こんなチンケな町などどうとでもなっていたものを!)
魔物大将軍エイセイは基本的には数で揉み潰す殲滅戦が好きなのだ。
「探せ! まだそんなに遠くには行っていないはずだ!」
「ハッ!」
エイセイの言葉に魔物兵達が動き始める。
何としても、人間を見つけなければならない…特に水色の髪をした女をだ。
(何としてもここで功績を立て、魔人にならなければ…)
エイセイの目的である、人間屠殺場を造るためには、何としても魔人にならなければならないのだ。
エイセイは苛立ち気に立てかけられている水瓶を蹴飛ばす。
水瓶は砕け、中身の一部が地面へと転がる。
そしてエイセイは見てしまった。
「こ、これは!?」
そこに転がっていたのは大量の油…そしてその中にある一際異質な存在。
即ち、プチハニーの死体だ。
これが意味する事を分からぬエイセイでは無く、その背筋が凍っていく。
「い、いかん! 罠だ!」
「…え?」
「急げ! この町から出るのだ!」
人間はただこの町を放棄したのではない。
魔軍に少しでもダメージを与えるために、凄まじい嫌がらせをしていたのをエイセイは理解した。
「全軍! てった…」
その時、エイセイの言葉を阻止するかのように、凄まじい爆音と炎が魔物達に襲い掛かった。
「フン、きやがったな。雑魚共が」
ランスは魔軍がこの町に入って来るのを遠目から確認する。
正確にはランスの目にはそこまで良くは分からないのだが、
「そうね。魔物大将軍までここに来てるわね。でも他の将軍は居ないわね。いるのは魔物隊長と魔物兵だけね」
レダはこの距離でも当然のように相手を見る事が出来る。
エンジェルナイトであるレダにはこの程度は造作も無い事だ。
「それよりもスラルちゃん。君は中々悪質だな」
「悪質とは心外だ。我は効率的な事をしているだけに過ぎない」
ランスの言葉にもスラルはしれっと答える。
「さて…では行くか、ランス」
「よーし、ぶっ放したら一気に行くぞ」
ランスはそのまま剣を構え、スラルはランスの剣の中で魔法の詠唱を始める。
(今の我なら最大限の魔法で行けるはずだ。さて、どれ程の威力になるか…)
ランスの持つ剣から凄まじい魔力が溢れだし、その剣が紅く染まる。
「これは…」
その剣にジルだけでなく、その場に居るレダ以外の者が驚く。
今までランスも使う必要が無かったので使用しなかったスラルとの合体技。
あれからランスもスラルもレベルが上がり、より高威力かつ安定した一撃を放てるハズ、とランスもスラルも睨んでいた。
「凄い…これが本当のボスの力?」
剣から放たれる魔力を見て、ドロシーが驚きに目を見開く。
ハンナ、キャロル、クー、ドロシー、そしてゲンバといった幹部の者達はこの場に残り、この町の最後を見届けようとしていた。
「で、お前達は準備は完全に出来てたんだろうな」
ランスの声に、ハンナが自信満々に頷く。
「ええ。言われたとおり、プチハニーの死骸を特定の場所に詰め込んでおいたわ。後は起爆させるだけ」
起爆方法だけはどうするのかハンナは分からなかったが、今のランスを見てようやく理解する。
「行けるわよ、ランス!」
「がはははは! 俺様がただ逃げるだけだと思うなよ! 貴様等はここで皆殺しじゃー! 超スーパーウルトララーンスアタタタターーーック!!」
「魔力解放…ゼットン!」
そしてランスの剣からは凄まじい炎が巻き上がったかと思うと、ランスはそれを勢いよく振り下ろす。
ランスの必殺であるランスアタックと、スラルのゼットンが合わさり凄まじい業火が吹き荒れる。
レダとジルはその余波が来ないように魔法バリアで皆を守るが、そのあまりの熱気に思わず口を押える。
炎の渦が町全体を包み込まんばかりに広がり、その炎に反応して油壷の中に入れられていたプチハニーが一斉に爆発する。
「がははははは! 流石は俺様! あのアホのアニス以上の威力ではないか!」
「全く…我の力が上がっていなければ、全く制御出来ないではないか」
ランス達の居る所以外から炎と爆発が一斉に襲い掛かる。
そして聞こえてくるのは数多の魔物の悲鳴と怒号。
「さーて、魔物大将軍をぶっ殺しに行くぞ」
「そうね。ここで殺しておけば後腐れないしね」
ランスはレダは武器を構え、そのまま町の中心部へと向かって行く。
そこには魔物大将軍が居るのは既に確認している。
「がはははは! 魔物大将軍だろうが何だろうが俺様の敵ではなーい!」
「全軍、てった…!」
撤退、の言葉が出る前に、凄まじい炎が魔物達を包み込み、その炎に反応してプチハニーが一斉に爆発する。
そしてプチハニーのすぐ側に居たエイセイも炎に炙られると同時に、その近くにあったプチハニーの爆発に巻き込まれる。
「ぐおおおおおおお!?」
エイセイはプチハニーの爆発で吹き飛び、少しの間意識を失った。
「う…ぐぐぐ…」
どれくらい気絶していたのか、エイセイはようやく目を覚まして何とか体を起こす。
「お、おのれ…」
そして目の前にある光景にエイセイはしばし言葉を失う。
そこには無数の魔物兵の死体が転がっている。
死体の原型があるものはまだマシで、中には四肢が吹き飛んでいたり、頭だけが吹き飛んでいる死体もある。
だが、その中の殆どが強烈な炎によって焼け死んでいる。
「ま、まさか…こんな事が…」
エイセイは呆然として地に膝を着く。
己の住んでいた町をそれごと罠にして吹き飛ばすなど、常人の考える事ではない。
逃げるというのであればまだ分かるが、こんな形で敵もろとも吹き飛ばすなど普通は考えられない。
「ぐぐぐぐぐぐぐ…! 人間共め…!」
エイセイは何の策も無くここを攻めさせた人間、そしてここまでする人間に対して呪いの言葉を吐きながら地面を叩く。
「おー! やっぱりまだ生きていたか。魔物大将軍という奴はしぶといな」
「当然だ。無敵結界の無い魔人と言われる程だぞ」
そしてエイセイの耳に気楽そうな声が響く。
エイセイが立ち上がり、その声の方を向くと、そこには剣を肩に担いだ黒い鎧を纏った人間を中心とした、人間達がこちらを見ていた。
「どうみても死にかけだけどね。とっとと潰しましょうか」
金髪の非常に美しい女の言葉に、エイセイは己の血管が切れそうなくらいに怒りを覚える。
「貴様か…貴様がやったのか」
「がははははは! 罠に嵌った奴の恨み言など怖くも何とも無いわ! だが教えてやろう。そうだ、俺様がやった」
「…人間があああああああ!!!」
黒い鎧の人間―――ランスの言葉にとうとうエイセイの理性が焼ききれる。
もう自分は終わりだという絶望、人間如きにいいように使われた屈辱、そして人間の罠に嵌りここまでプライドを傷つけられた怒りが全てが合わさり、強烈な殺意がランスに向けられる。
「死にかけの奴が偉そうにするんじゃねー! とっとと死ね!」
「馬鹿が! この魔物大将軍エイセイ様がこの程度で死ぬと思っているのか!? 捻り殺してくれるわ!」
エイセイの爪は確実にランスに振り下ろされた時、エイセイはこの人間の死を確信していた。
苦しめて殺せないのは残念だが、それよりも今はこの怒りを静めるほうが先だ、とまで考えていたのだが、
ガンッ!
鈍い音を立てて、エイセイの爪が人間の盾に防がれる。
「あら意外。確かに思ったよりも元気じゃない。でもその程度じゃね!」
「ば、馬鹿な!?」
そして人間の盾に弾かれる形でエイセイが後ろに下がった時、
「ライトニングレーザー!」
人間の放った魔法がエイセイに直撃する。
「グゥ!」
普段であれば何の問題も無い攻撃も、こうして怪我を負った身には非常に堪える。
エイセイは思わず魔法を放った人間を睨んだ時、そこには水色の髪をした非常に美しい人間が居た。
それを見てエイセイは思わず目を見開いて動きを止めてしまう。
が、それはランスを相手にしては見せてはいけない隙だった。
「がはははは! 死ねーーーっ! ラーンスあたたたたーーーっく!!!」
「な!? ぐわああああああ!!!」
ランスの一撃はエイセイの腕を斬り飛ばし、本体が入っている腹にすらダメージを与える。
「ば、馬鹿な!?」
エイセイは信じられない顔でランスを見る。
まさか人間の攻撃で…しかもいくらダメージを受けていたとはいえ、たったの一撃で自分の腕を飛ばすなど信じられなかった。
そしてそれもまたランスにとっては大きな隙でしか無かった。
「とーーーーーーーっ!!」
「ぐっ…グギャアアアアアアアアア!」
ランスの剣が腹を貫き、そこにある本体である顔上の物体にも剣が突き刺さる。
「お、俺は魔人になるんだ…そして永遠の命を…それなのに…に、人間如き、に…」
そして魔物大将軍エイセイはそのまま動かなくなる。
「がははははは! 魔物大将軍だろうと俺様の敵ではないわ!」
何時ものようにランスは動かない魔物将軍の死体を蹴飛ばしながら高笑いする。
そしてレダとスラル以外はその勝利に喜ぶ。
しかし、スラルの顔は一向に晴れない。
「ランス…早くこの場を離れるぞ。急いだほうがいい」
「なんだスラルちゃん。随分と慎重だな。元魔王のくせに随分と…」
そんなスラルに対して軽口を叩くランスだが、その声が急に止まり、真顔になって剣を構える。
ランスだけでなく、その場にいる全ての者が警戒をするが、ランスとレダ以外は顔面が蒼白になっている。
日が落ちる中、赤々と光る炎の中からソレは現れた。
「魔物大将軍を倒すか…まさかそんな人間が居るとは思いもしなかった。ザビエルが倒されたというのもある意味納得が出来る話か」
ソレは非常に落ち着いた低い声だが、尋常ではないプレッシャーを放っている。
そしてランスはそのプレッシャーを3度経験している。
一度目はリーザス城で出会った魔王ジル。
二度目はJAPANで出会った魔王リトルプリンセス。
そして三度目は今はランスの剣の中にいる魔王スラル。
「見事だ人間よ。よもや我が思惑を退けるとは思いもしなかった。最高の賛辞を与えよう…そして新たな時代の幕開けをその目で見るがいい。貴様等にその権利を与えよう」
そして炎の中からソレは姿を見せる。
金色の髪に青白い肌、そして真紅に染まった目。
黒い衣装を身に纏い、それと同じ黒いマントを羽織った男。
だが、その場にいる誰もがこの存在を認識出来てしまった。
「魔王…ナイチサ」
スラルの言葉に魔王―――ナイチサは笑う。
「如何にも。私こそが魔王ナイチサ。人間よ、貴様らの働きは私を非常に楽しませ、そして不愉快にさせた…だが許そう」
ナイチサから放たれる凄まじいプレッシャーに、ランスですらも逃げ出したくなる思いに駆られる。
「ケッセルリンク…よくやった。何故ここにいるかは聞かぬ。だが、その人間共を決して逃がしてはならぬ。そしてその男を取り押さえよ」
「………了解しました、ナイチサ様」
ランス達の後ろから、強烈なプレッシャーがもう一つ増える。
そこに立っていたのは、魔人ケッセルリンク、そしてケッセルリンクの使徒達の姿があった。
「さあ…始めよう。新たな時代の幕開けを」
もう少しで長かったNC期も終わります
寄り道で長くなったのが悪いんですけどね