ランス再び   作:メケネコ

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今回はちょっと短めになってしまいました
だからと言って次は長いのかと言われるとそんな事は無い事実





運命の女

「ランス、ここは…?」

「ここは…電卓キューブだな」

 

ランスとケッセルリンクは妙にデジタルチックな空間に居た。

ケッセルリンクには非常に奇妙な空間に映るが、ランスには既に見慣れた光景だった。

ここはランスの『運命の女』だけが辿り着く事が出来る迷宮。

そしてその女性の強力なアイテムが手に入る場所でもある。

 

『汝等、その腕を離す事無かれ…』

 

突如として謎の声が響く。

 

「この声は何だ?」

「これに従わんと進めないのだ」

 

ランスとケッセルリンクの腕はいつの間にか組まされている。

 

「しかしこれでは戦いに支障をきたすぞ」

「この迷宮はそういう所だ。とにかく進むぞ」

 

以前、電卓キューブでは無いが、志津香と共に似たような状況になった事を思い出す。

あの時は手を繋ぐだけだが、今回は腕を組まされているため、より戦いにくい。

 

「とにかく進むぞ」

「ああ」

 

ランスとケッセルリンクは腕を組みながら進むが、その歩みはやはり遅い。

勿論歩みが遅い事もあるが、やはり出てくるモンスターが非常に鬱陶しい。

ヘキサピラー等のモンスターしか出てこないが、ランスとしてもケッセルリンクを庇いながらだとその剣の腕を発揮できない。

ケッセルリンクも簡単な魔法しか使うことが出来ず、火爆破等の範囲魔法を使う事が出来ないので、どうしても殲滅力が落ちてしまう。

 

「ランス、大丈夫か」

「当然だ。俺がこの程度でやられると思っているのか」

 

ランスは飛んでくる飛び道具をその剣で叩き落す。

幸いにも魔法は飛んでこないため、幸いには目立ったダメージは無い。

だが、ランスはこの状況でもある事を楽しんでいた。

(ぐふふ…ケッセルリンクの胸が当たって気持ちがいいぞ)

意識せずともケッセルリンクの大きな胸がどうしてもランスの腕に当たる。

なまじ戦闘のために激しく動くため、より大きく胸が当たる。

 

「…ランス、お前はこんな状況でもよく興奮出来るな」

 

ケッセルリンクはランスを責めるように言うが、ランスは笑って見せる。

 

「がはははは! お前の胸が大きいから当たるだけだ! これは自然現象だ!」

 

ランスは逆にテンションが上がってきたようで、その剣の切味はどんどん鋭くなっていく。

その剣は正に閃光、ランスが剣を振るえばヘキサピラーが一瞬で真っ二つになる。

それに比例するようにランスの動きが激しくなり、より強くランスの腕にケッセルリンクの胸が当たる。

 

「ランス…その…少し動きが激しい。少し…胸が痛い…」

「む、そうか」

 

ケッセルリンクの赤くなっている顔に、ランスも興奮するが『胸が痛い』と言われれば自重するしかない。

(お楽しみタイムはまだまだ続けられるからな)

ランスにはケッセルリンクを自分の女にしたという自信がある。

だからこそ今は無理する必要はないと、自分を抑える。

 

「しかし…一体どこまで続く?」

 

結構進んだ気もするが、まだゴールには辿り着けない。

謎の空間がどこまでも続いていく感覚だ。

それ故に、ランスよりも体力の無いケッセルリンクは疲労が激しかった。

 

「まあもう少しだろ。前もそうだったからな」

 

ランスが目の前の謎の壁を一撃で粉砕する。

その後ろに隠れていたヘキサピラーをケッセルリンクが炎の矢で焼き、2人は進んでいく。

どれくらい進んだだろうか、ランス達の前には赤い扉が現れる。

 

「お、ゴールだな」

「ようやくか…」

 

余裕が見えるランスに比べ、ケッセルリンクはやはり疲労困憊といった感じだ。

ランスの足手纏いになった自覚はあるし、何よりランスには庇われながら進んでいた。

もし自分一人ならば、ヘキサピラーの攻撃で自分は倒れていただろう。

 

「すまないな、ランス」

「がはははは! 礼ならば体で返してくれればいい」

「まったく…」

 

ランスの言葉にケッセルリンクは苦笑する。

相変わらずの態度と言葉に逆に安心してしまう。

扉が自動的に空き、一つの宝箱が置いてある。

ランスの腕から解放されたケッセルリンクが宝箱を開けると、そこには手の甲に青いクリスタルが埋め込まれた赤い手袋が入っていた。

 

「これは…カラーのクリスタルか?」

 

ケッセルリンクは何かに導かれるかのようにその手袋をはめる。

それはまるで誂えた様にピッタリであり、まるでケッセルリンクのために作られたようだ。

 

「ルントシュテット…というのか」

 

不思議とその手袋の名前が頭の中に入ってくる。

自分の魔力を引き出す素晴らしい武器であり、同時に防具でもある。

これまでよりもより強い魔法を使う事が出来るだろう。

 

「凄いな…手袋をしているという気がまるでしない」

「良かったではないか」

「ああ。そうだな」

 

ケッセルリンクは宝物を抱くかのように、自分の手を撫でる。

これはランスと共に手に入れたものだと考えると、何故か鼓動が早くなる。

 

「ありがとう、ランス」

「別に礼を言われる事ではないだろ」

「それでもだ。お前と出会わなければ、これは手に入らなかった」

「ならその礼を少し返してもらおうか」

 

ランスはケッセルリンクを抱き寄せる。

 

「ランス…」

 

ケッセルリンクは最早抵抗もしない。

 

「んっ…」

 

ランスとケッセルリンクの唇が重なる。

(こうして唇を重ねるのは何度目だろうな…)

自分がこのような事をするなど、今まではまったく考えてこなかった。

しかし、今はこうして触れ合っている事に喜びを覚える。

(ようやくここまでこれたぞ)

ランスもこうしてケッセルリンクと触れ合えることに喜びを感じていた。

今までカラーとここまで触れ合った事は無かった気がする。

一応イージスとは恋人同士という設定で触れ合ってはいたが、それはイージスを騙していての事だ。

だがケッセルリンクは違う…こうして自然な形で触れ合えることに、ランスは充実感を感じていた。

 

「んむっ…」

 

ランスの舌が口に入って来て、一瞬驚くが、すぐに同じように舌を絡める。

 

「うわぁ…」

 

突如としてそんな声が聞こえてきた。

(…ん?)

ケッセルリンクが目を開けて横目に見えたのは、顔を赤くしてこちらを見ているアナウサの姿だった

 

「! アナウサ!?」

「どわっ!」

 

ケッセルリンクは慌ててランスを突き飛ばす。

何時の間にか自分たちは元の場所に戻ってきたようであった。

 

「いやー…何かナマで見るとすごいエッチに見えるわー」

「ケッセルリンク様って意外と大胆なんですねー」

「あんた達何処で何をしてたらあんな状況になるのよ…」

 

アナウサとメカクレは満足したかのように頷きあい、レダは少し顔を赤らめながらも半眼で二人を見る。

 

「別にこれくらい普通だろうが」

 

ランスは全く気にしていないが、ケッセルリンクはそうはいかない。

悪魔の時の見られていたのは知ってはいたが、それとは全く違う羞恥心が彼女を襲っていた。

 

「やっぱり画像越しと生だと迫力というか生々しさが違うよね」

「うんうん、顔を赤らめて目を瞑っているケッセルリンク様って何か凄いエロさを感じた」

「アナウサ、メカクレ、それ以上はやめろ」

 

((あ、ケッセルリンク様、結構本気で怒ってる))

ケッセルリンクの様子に二人はちょっとからかい過ぎたかと肩を震わせる。

 

「それで、ランス。これからどうする」

「…戻るぞ。これ以上進んでも何も見つからん気がするからな」

 

ランスは一先ず引き返す選択をする。

普段のランスであればそのまま進んだかもしれないが、今現在のアイテム等を考えれば無理は得策ではない。

ランスは無計画に冒険をしたりはしない。

だからこそ世界の色々な所に隠れ家のようなものを作っているし、これまでの冒険の成功率も高いのだ。

ただ、時たま規格外の事に巻き込まれるのが多いだけだ。

 

「そうか…確かにここまで人里が見つからないのは私も考えてもいなかったな」

「そうよね。私もちょっと見通しが甘かったかな」

 

ケッセルリンクとレダも同意する。

たまに人間が迷い込んだりして来た時もあったが、今思えばそれも1年に数回程度だったような気もした。

それも疲労が濃い人間が多かったとも思った。

レダもレダで、知っているのがLP期であるため、簡単に人里に辿り着けると思っていた。

しかし結果は人の子一人見つける事が出来ない。

一番納得がいかないのはランスだ。

前回の時もそうだったが、人間を一人も見る事が出来なかった。

この状況を一番打破したいのは実はランスであり、他の皆以上に焦っていた。

(やはりホルスの戦艦に行く方がいいのか? いや、無理か…)

ホルスの戦艦に行けたのは、近くに町が有り十分な休憩が出来る事と、やはり冒険に必須のアイテムが簡単に手に入るのが大きいと今になって自覚した。

今の状況に比べれば、自分が居た所は十分に恵まれていたと言える。

そしてランスが気になっていたのはやはり道だった。

ランスが冒険した場所は、獣道もあれど、その道筋は大体は整備されているものだ。

それはリーザス、ゼス、ヘルマン、自由都市とどれも変わらない。

しかし今の場所はその道すら整備されていない。

 

「本当にどうなってるのかしらね…」

「まったくわからん…」

 

LP時代を知っているランスとレダからすれば、今の現状を改めて信じられなかった。

 

「とにかく一旦戻るぞ。まったく…俺様ともあろう者がなんの成果も得られんとは…」

 

 

 

「お帰りなさい…随分と早かったですね」

 

カラーの女王であるルルリナは予想よりも早いランス達の帰還に驚いていた。

彼女の目から見たランスの顔は非常に不機嫌に見えた。

 

「何かありましたか?」

「いえ、特には…」

 

ルルリナの問いにケッセルリンクが応える。

その表情には苦いものが浮かんでいるため、進展は無かった事を察する。

 

「ランスさん…」

「モンスターの数が多すぎる。人里も無い。ロクに進む事が出来ん。以上だ」

 

ランスの顔を見れば、ランス自身が不満に思っていることは分かる。

 

「大変です! ルルリナ様! ケッセルリンク様!」

 

息を切らしたカラーの一人が勢いよく入ってくる。

 

「どうした」

「ハァ…ハァ…ムシが…!」

「おちついて話して。ムシがどうしましたか」

「ムシが…大量のムシの死体が…それと魔人と思われる存在が!」

 

その言葉に全員が驚く。

再びカラーにはムシの脅威…いや、それ以上の脅威が襲い掛かろうとしていた。

 

 

 

 

―――カラーの森―――

 

今ここには無数のムシの死体が転がっていた。

斬られた死体もあれば、爪で切り裂かれた死体もある。

「…まさかこんな所にもムシがいるとはな」

ガルティアは肩で大きく息をしながら声を出す。

帰ってくる声は無いが、そんなガルティアを気遣うように、彼の使徒が周囲をうろつく。

「大丈夫だ。怪我はねえよ」

ガルティアもそんな使徒を気遣い、笑って見せる。

(と、言っても危なかったけどな…無敵結界が無かったら逃げてただろうな)

無数のヴェロキラプトルに加え、プロトケラトプスまで存在していた。

LV3のムシ使い技能を持つガルティアをもってしても、これらのムシを排除するのは難しい。

メガラスもひたすらに硬いプロトケラトプスには苦しめられていた。

魔人は確かに無敵結界によりダメージを受けないが、だからといって相手に攻撃が通るとは限らない。

 

「………」

 

メガラスは何も喋らないが、それでも疑問は見て取れる。

彼自身は魔王アベル時代からの魔人であり、現存している魔人の中では古参の一人だ。

それ故にこのムシの事も知っているが、これほどまでに数が集まっているのは珍しい事だった。

天使によるドラゴンの粛清が起きるまでは珍しくも無かったが、新たな魔王が生まれてからは初めての事だ。

だとすれば、必ず大物が存在する。

メガラスはその点だけが気がかりだった。

 

「お」

 

ガルティアはこの場面を見ているカラーの一人を発見する。

カラーはそれを見て一目散に逃げ去る。

 

「タルゴ」

 

ガルティアは己の使徒に指示を出すと、その内の一体である使徒が木々を伝いながらカラーを追う。

 

「これで目的の奴らも来るかね」

 

今回の目的はカラーの殲滅ではなく、対象を捕獲する仕事だ。

いたずらに被害を出すのはガルティアの本意ではなかった。

魔王であるスラルが捕獲を望むのであれば、相当に強い存在であるのは確かだ。

ならばあのカラーの報告を聞けば、今回の捕獲対象が出てくるだろう。

後は魔人である自分達が捕獲すればおしまいだ。

 

「それまで休むか」

 

ガルティアはその辺の木の幹に腰を下ろす。

メガラスもガルティアの意見には同意のようで、木に背を預ける。

(やっぱり喋らないんだよなぁ…)

ガルティアもメガラスとも付き合いは長いと思うが、喋っているのを殆ど見た事が無い。

このまえの声も何十年ぶりに聞いたであろうか。

(そして魔王がなぁ…)

魔王スラルは魔血塊を回収はしているが、結局は今まで自分の意志で作った魔人は自分だけだ。

だからこそ今回の命令は、ガルティア自身も少し楽しみでもあった。

『捕えろ』という事は、今回の目的は魔人を作る事だろうとは容易に想像が出来た。

(さて…どんなものかね)

ガルティアは携帯用に持ってきた食料を食べ始める。

 

 

 

「これは…」

「うお」

「まさかこんな事がね…」

 

ランス、レダ、ケッセルリンクはその辺りに散らばるムシの死骸に顔を顰めていた。

以前ランス達もヴェロキラプトルを1体倒しているが、ここに散らばる死骸の数はそれを大きく上回る数だ。

さらには今まで見た事も無いようなムシの死骸も散らばっている。

 

「こんな事が出来るのは…」

「魔人しかいないわね」

「…うーむ」

 

ここに来ているのは最も戦力の高いこの三人だけだが、ある意味正解だったかもしれないとケッセルリンクは思った。

これほど凄惨な光景は中々無い…それに、これだけのムシを倒すなど、カラーの全戦力を持ってしても厳しいだろう。

 

「なーんかおかしいぞ」

「どうした、ランス」

 

ランスには今までの経験から何か嫌な予感を感じていた。

これまでの経験から、そして戦士としての感がランスに何かを働きかけていた。

そしてランスの嫌な予感は大抵は当たる。

 

「おー、見事に目的の奴らだけが来てくれたな」

 

突如と聞こえてくる、この凄惨な状況に似つかわしくない気楽そうな声。

ランス達がその方を見ると、そこには人型だが明らかに人ではない存在がいた。

腹に穴が開いている人間などこの世界には存在しない。

そしてその発せられる気配が明らかに異常だ。

 

「魔人、か」

「おう、そうだ。出来れば抵抗しないでくれれば俺としても助かるんだけどな」

 

その魔人はある意味親しげに声をかけてくる。

 

「魔人が一体何の用だ」

「簡単に言えば魔王の命令だな。お前達を捕えろってな。だよな、メガラス」

 

その言葉と共に何かが猛スピードで突っ込んでくる。

 

「何!?」

 

それに反応が出来たのは、ランスが周囲を警戒していたこと、そして剣戦闘技能LV3という規格外の技能のおかげ。

それによって、ランスは猛スピードで突っ込んでくる白い存在の一撃をその剣で防ぐが、その魔人の目的はランスを倒すことではない。

白い魔人はランスの襟首を掴むと、そのまま森の奥に消えていく。

目的は単純、ランスとこの二人を分断する事。

 

「ランス!?」

「まあそういう事だ。今からでも大人しく降参してくれないかね」

「そう言われて『はいそうですか』と言う奴がいると思う?」

 

レダの言葉にガルティアは笑う。

 

「そりゃそうだ。じゃあ俺の方も実力行使といかせてもらうとするかね」

 

魔人ガルティアは静かに腰の剣を抜いた。

 

 

 

「だぁーーーー! 男が俺様に触れるんじゃない!」

 

ランスは乱暴に自分を掴んでいる魔人を振り払おうとするが、その手はびくともしない。

白い魔人は、ガルティア達からある程度の距離を取るとランスをその手から離す。

 

「ぐぉっ!?」

 

ランスは背中を強く打ちつけるが、その代りに目の前の魔人の姿をハッキリと見る事が出来た。

それは真っ白い硬質化したような肌をしており、その顔には赤い目が光っている。

が、それ以上にランスにはその姿と非常に似た姿を知っていた。

 

「まさか…ホルスか!?」

「………」

 

ランスの言葉に魔人―――メガラスは何も答えない。

メガラスは無言で戦闘態勢を取る。

こうして新たな魔人との戦いが始まろうとしていた。




所謂負けイベント
この時代でガルティアとメガラスに勝てるとは思えないから仕方ないね
しかしメガラスだけは戦い方にオリ要素が入ると思います
ランス10にメガラスが出てくれれば問題は無かったのに…

運命の女システムに対する言訳
両手両足20本分もあると言ったな…
だがそれはあくまでLP期だけの事…
つまりその気になればSS期にも存在が可能だろうという事…

ランスは公式バグなので何の問題も無いと思います

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