GL期の始まり
魔王ジルは目の前でランス達が消えたのを少しの間見ていた。
あれほどの地割れが起きたにも拘らず、既にその穴は塞がっている。
つまり、ランス達は既にこの場に居ない事を意味していた。
「あー、あいつら上手く辿り着けたかなー。まあ大丈夫でしょ。それよりも私は少しの間待たなきゃ。ああ、怪獣神官君に早く会いたいなー」
そしてそれをやった存在は一人きゃあきゃあと騒いでいた。
そこに魔王が居るというのに、こちらが全く眼中に無いかのような振舞いをしている。
「お前…何者だ」
「何者って…ああ、新しい魔王か。私はハウセスナース、聖女の子モンスターって言えばいいかしら」
ジルはその名前を聞いても何の表情も動かさない。
名前だけは聞いた事はあるが、今のジルにっとては聖女の子モンスターだろうが、何ら興味の対象にはならない。
だからこそ、その場から去っていくハウセスナースには何も言わない。
それよりも今は、
「人間…」
ジルの言葉を聞いただけで、残されたハンナ達の体が震える。
魔王に相対するだけでも生きる気力が奪われ、彼女達にあるのは最早絶望感だけだ。
誰もが、今から自分は死ぬ…若しくは死んだ方がマシだと思ってしまう苦痛を与えられるかと思うと、震えが止まらない。
ジルはハンナ達に向かって手を伸ばして魔法を放とうとした時、突如として己の頭を押させる。
「グ…消えろ…人間…そして…二度と現れるな…何処かに隠れて…震えていろ…いいな…」
「は、はい…」
ハンナ達は急いでその場から離れる。
魔王が手を出してこなかったのは気にかかるが、それでも見逃してくれたというのであればそれに縋るしかない。
人間達が消えた後、残されたのは元魔王ナイチサと、現魔王ジルだけだ。
「我が後継者よ…今こそ、我が知識をお前に授けよう…もう私は死ぬ…心して聞け」
ジルはナイチサの側に寄っていく。
知識、と言われればジルは聞かなければならない。
「人間を…人間を殺しすぎてはならぬ…適度に生かし…そして飼い殺しにするのだ…そうでなければ…人の中から『勇者』が現れ、魔王すらも倒しかねぬ力を発揮するのだ…」
これこそがナイチサが次代の魔王に伝えなければならぬ知識。
人間を殺しすぎれば、その人間の中から魔王すらも倒せる力を持つ人間が生まれる。
「大凡…半分だ。それ程殺せば…間違いない無く勇者はその力を引き出すのだろう…」
死滅戦争と呼ばれる時代では、ナイチサは思うがままに人間を殺して来た。
魔王以外にも、魔人や魔物兵が人間を殺しているだろうから、正確な数までは数えていなかったが、それでも人間の総人口の半分は殺しつくしただろう。
「人間を…殺しつくしてはならぬ…」
「そう…か」
ジルはナイチサの言葉を聞き、その全てを理解する。
そして賢者と呼ばれたジルの脳裏に、恐ろしい計画が思いつく。
それこそが後に人間牧場と呼ばれる悪魔の計画であり、魔王ジルの恐ろしさを世界に浸透させたもの。
だが―――この魔王ジルが本来の歴史とは格段に違う事が有る。
「ぐがっ!?」
突如としてナイチサの首をジルが掴む。
「いいだろう…お前の言葉…確かに聞いた…だが…人類だけでなく…魔物もそれを受けて貰おう…」
「な…貴様!?」
「お前は…私の大切なモノを…奪った…誰が…お前の望む未来を…作るものか…」
ジルの唇が弧を描く。
それはまさに魔王そのものの笑い。
誰よりも傲慢で、この世界のトップに立ち、この世界を作る者としての支配者の笑み。
「だから…お前は死ね…」
ジルの言葉にナイチサは驚愕の表情から一転させ、笑みを浮かべる。
「それでいい…魔王が全ての秩序を作るのだ…我が後継者よ、お前の望むままの世界を作るがいい」
「………黙れ」
グシャ!
ジルの細腕がナイチサの首を圧し折る。
ナイチサはそのまま事切れ、残ったのは魔王であるジルだけだ。
何時の間にかハウセスナースの姿も、先程見逃した人間の姿も消えているが、ジルにとってはそんな事はどうでも良かった。
「フフフ…アハハハハハハ!」
魔王ジルは、それぞれ違う色の瞳で天を仰いで笑う。
紅い瞳からは明らかな喜びが、そしてもう片方の水色の瞳からは涙が流れていた。
新たな魔王の誕生―――それは全世界に知れ渡った。
人間達は新たな魔王の誕生に恐怖し、魔物達はその誕生を喜ぶ。
何しろ魔物達にとっては魔王は絶対的な王。
ナイチサは最後の50年は全く人間に手出しを許さなかった。
そこに不満を持っている魔物達は沢山いたのだ。
「ねえレキシントン。魔王が変わったってさ」
「フン! そんなのはどうでもいいわ! それよりもお前等! あの人間の居場所は掴めたか!?」
「レキシントン様。それよりも一応新しい魔王が生まれたみたいですけど…どうしますか?」
使徒の言葉にレキシントンは笑う。
「ハッ! どんな奴だろうが、儂は儂の好きなようにやるだけよ! まあどんな奴かは見てやってもいいがな」
魔人レキシントンは新たな魔王の登場など関係無いと言ったように笑う。
「ケッ! ナイチサのヤロウ…死にやがったか。俺様が殺ってやろうかと思ったけどな…」
魔人ケイブリスは、魔王の死にも全く動じない。
ケイブリスは唯一、この世界に君臨した全ての魔王を知っている。
魔王ククルククル、魔王アベル、魔王スラル、魔王ナイチサ…どれもこれも異常な強さを持つ者だった。
だが、魔王ククルククルはドラゴンとの戦いに敗れ、魔王アベルもマギーホアとの決闘で敗れた。
スラルはケイブリスが知らない内に死んでいた。
「ナイチサの奴に止めを刺してやろうと思ったが…まあそんな事をしたら俺様の命が無いからな…」
魔王を超える、という野望をケイブリスは今も持ち続けている。
だが、流石に完全体の魔王には手も足も出ないのは分かり切っており、今までナイチサにも媚びを売り続けてきた。
幸いにもナイチサはそんなケイブリスに大しても寛容だった。
ただし、ナイチサの側近であったザビエルには疎まれていたが、そのザビエルも存在しない。
「しっかし新しい魔王か…今度はどんな奴だろうな…」
魔王は基本的に恐ろしい存在であり、今のケイブリスでは全く相手にもならないだろう。
「考えてもしょうがねえか。取り敢えずレベルアップに励むか」
ケイブリスは今日もまた己を鍛える。
彼の努力が実を結ぶのは、もう少し先の話だった。
「新しい魔王か…ナイチサは死んだのか。全く…死ぬくらいなら僕に変な命令をしなければいいんだ」
魔人パイアールは魔王が変わろうが全く興味が無い。
全ては姉であるルート・アリを助けるために彼の力は注がれる。
だが、その努力は今もまだ実を結んでいない。
「新しい魔王は僕に干渉しなければいいんだけどね。全く…絶対命令権は本当に厄介だよ。余計な事に時間を取られるのは本当に嫌だね」
パイアールは今日も姉を救うために研究を続ける。
だが、彼の目的がどんどんとずれていっている事を指摘する者は誰もいなかった。
「ナイチサ…死んだか」
「死んだかどうかは分かりませんが…新たな魔王が生まれたようです」
カミーラは魔王が変わってもその表情を変えない。
彼女にとっては魔王は自分からアイデンティティを奪った存在であり、彼女が歪んだ原因の一端を担っている。
魔人である事も、正直カミーラにはどうでもいい事だった。
「ケッセルリンク様はまだ戻られません。もしかしたら…あの方の事ですから、ランス殿と共にいるのかもしれません」
「フン…」
七星の言葉にカミーラは少し面白くなさそうに唇を歪める。
「申し訳ありません、カミーラ様。配慮が足りませんでした」
「構わぬ…それにあいつがランスと共に居る可能性は否定はしない…」
ケッセルリンクは一番ランスと付き合いの長い魔人なのは分かっている。
カミーラとしてはランスに『使徒にしてくれ』と言わせるのが目的だが、その目的は未だに果たせない。
何時も邪魔が入ったり、自由に動けなかったりと不愉快極まりない。
そして新たな魔王という存在も不愉快極まりない。
結局は、誰が魔王になろうともカミーラの不満が収まる事は無いのだ。
「さて…少しは世界が楽しくなればいいがな」
カミーラはやはり面白くなさそうに、手にしたワインを飲み干した。
魔王城―――それは魔王が己の権威を見せつけるために作らせた居城。
それはこの世界で一番豪華な建造物であり、同時に人間にとっては恐怖の対象でしかない城。
そこには本来の主であるナイチサの代わりに、一人の女が座っていた。
魔人、そして主な魔物達が集まり一斉に跪いている。
この場に居ないのは魔人ケッセルリンクと、これまでの魔王の招集にも一切応じない魔人ますぞえだけだ。
集結した魔人は今目の前にいる魔人に明確に恐れを抱いていた。
中には気がくるっているレッドアイや、好戦的なレキシントン、そして何処までも己を貫くカミーラ等は恐怖など感じてはいない。
しかし、魔人以外の者は皆一様に新たな魔王であるジルを恐れていた。
何しろ、身に纏っている空気がナイチサとは全く違う。
ナイチサは魔王としては意外と分かり易い性格であったと言っても良い。
忠義を尽くせば重用もされるし、媚を売れば分かり易くその者を扱っていた。
だが、目の前に居る魔王は一体何を考えているのか分からない。
その目が何を映しているのか、全くもって分からないからだ。
「ま、魔王様。これより我等は忠実なあなた様の僕に…げべっ!?」
魔物を代表してジルに対して祝辞を述べようとした魔物大将軍が一瞬で潰れる。
「…誰が…口を開いて…良いと言った…?」
ジルは魔物大将軍を問答無用で潰す。
それに全ての魔物将軍達が体が震える。
この魔王は今までの魔王とは違う…気に入らなければ問答無用で殺される、そんな魔王だと。
それに敏感に反応したのが、魔人であるケイブリスだ。
(ヤバイ…こいつはヤバイ…今までの魔王とは圧倒的に違う…)
これまでの魔王はそんな些細な事で部下を殺すなんて事は流石に無かった。
何を考えていたか分からない魔王ククルククル…この時代はケイブリスは何も出来ずに震えていた。
まだ無敵結界が存在していなかったため、震えながら一日を過ごしてきた。
魔王アベルにはルッコンフードという、ドラゴンから身を隠す洞窟を作らされた。
魔王スラルの時代からようやく無敵結界が作られ、ようやくケイブリスは安心して過ごせるようになった。
魔王ナイチサは媚を売って何とか地位を守ったが、結局はザビエルに嫌われてきた。
その歴代の魔王達でも、この魔王は恐ろしさが段違いだ。
ケイブリスは何も言わないように、震えながら嵐を過ぎるのを待つしかなかった。
そして、魔人より遥かに下の、魔物兵達は震えながら魔王の言葉を待つ。
「全ての…人間共の…国を破壊しろ…」
「おおおっ!」
ジルの言葉に一部の魔物兵や魔物隊長、魔物将軍が歓喜の声を上げる。
が、
「うるさい…」
「「「うぎゃーーーーーーー!!!」」」
それがジルの癇に障ったのか、その辺りに居た魔物達が一斉に潰される。
「誰が…喋っていいと…言った…」
その一言で再び魔王城に沈黙が訪れる。
「人間の…国を…破壊しろとは…言ったが…人間は殺すな。もし殺せば…その人間と同じ数だけ…魔物を殺す。殺した事を…隠した奴が居ても…同じように殺す…分かったな…行け…」
「「「は、はい…魔王様…」」」
ジルの言葉に魔物兵達は一斉に動き始める。
何にせよ、人間と戦っても良いという言葉が魔王から出たのだ。
そして残されたのは魔王ただ一人。
一人残された魔王ジルは、沈黙の中で佇むだけだ。
「ランス…」
ジルは黒く染まった己の腕を見て、忌々しそうに唇を歪める。
本来なら、この白い腕…そしてその先の指には、ランスと共に手に入れたはずの指輪があるはずだった。
しかし、そこにあるのは唯の黒い腕と指。
前魔王ナイチサによって奪われた手足は、全く別のものとして再生してしまった。
そしてジルは己の腹部に手を這わせる。
「ここに…あった命が…感じられない…」
本来ならここにはランスの子がいるはずだった。
しかし、今はその命の鼓動を感じる事が出来ない。
「いや…人間は全て苦しめる…安息は与えぬ…」
ジルの目が水色から赤く染まり、魔王の気配が濃厚になる。
「だが…魔物も苦しめる…全ての存在に…安息など許さぬ…」
魔王ジル…本来の歴史において人類を最も苦しめ、そして永遠の魔王と有り続けた彼女は、運命の悪戯かその有様が歪になっていた。
魔王の命令で人類の全ての国という国が破壊される。
その中で、人類の中には多くの犠牲者がどうしても出てしまうのだが、魔王ジルは減った人類と同じ数だけ魔物を殺す。
いや、もしかしたら人類よりも魔物の方が減った数が多かったかもしれない。
そしてあの忌まわしき人類の歴史が今始まる。
人間牧場…人類の総数の増加とその維持を目的とした施設。
それを世界各地に作らせ、そこで人間を閉じ込めて生産させるという悪夢の施設。
そこでは日々人間が虐待され、生き地獄を味わわされる…その施設のはずだった。
しかしそこはまた魔物にとっても非常に過酷な施設だった。
まず、人間を殺してはいけない…もし殺せば、そこの施設の全ての魔物が一度に処分される。
それもただ処分されるのではなく、魔王ジルによって生き地獄を味わった後で、殺してくれと哀願しても殺されぬ日々が始まるのだ。
よって、そこに配置された魔物達は細心の注意を払って人間の命を管理しなければならない。
そして一定の数だけ人間の数が増えなければ、そこの魔物達はやはり処分される。
もし万が一減らすことがあれば、問答無用で生き地獄を味わうことになる。
「うぎゃーーーーー! お、俺もう嫌だよ!」
魔物兵の一人が絶叫をする。
人間に手を出すことも許されず、もし虐待して殺そうものなら、連帯責任で全ての魔物兵、そして魔物隊長や魔物将軍すらも始末される。
しかもこれは魔王直々の命令なので、反抗することも許されない。
「黙れ! 誰だって嫌なんだよ!」
発狂しそうになる魔物兵を、別の魔物兵が諌める。
魔王が代わり、ようやく魔物達は我が世の春を味わうことが出来る―――はずだった。
しかし、楽しかったのは最初の破壊の時だけ、後に残ったのは一切のミスが許されぬ徹底した管理システムだ。
そのシステムは人間を殺し、痛めつけるのが至上の快楽とも言える魔物兵にとっては地獄だった。
何しろ人間を管理するという事は、それ相応のコストをかけなければならないのだ。
「何で俺達がこんな事を…」
魔物が望んでいた明るい未来…それは魔王によってもろくも打ち砕かれた。
確かに魔王ジルは人間に生き地獄を見せている…だが、同時に魔物達も一切のミスも許されない、地獄のような労働環境が与えられた。
一方の魔人達はほぼ確実に人間牧場には関わってはいなかった。
人間に興味が無い魔人カミーラ、魔人パイアール、魔人ますぞえ。
人間牧場に関わる気が全く無い魔人メガラス、魔人ガルティア。
人間を痛めつけたくても、万が一の事が怖くて関わる事が出来ない魔人ケイブリス、魔人レッドアイ。
強いものと戦って暴れたいだけの魔人レキシントン。
そして今この世界に居ないとされる魔人ケッセルリンク。
魔人達はそれぞれ思うがままに生きていた。
その中で、魔人カミーラはこの世界を非常に退屈に感じていた。
「カミーラ様…あの方の事は宜しいのですか?」
使徒である七星の言葉にカミーラは何も答えない。
魔王ジルの治世となって200年…そこではカミーラにとっては信じ難いことが起きていた。
「………フン、あのノスがな」
魔人ノス…かつてカミーラといがみ合い、カミーラを蔑んでいた存在。
それが魔王ジルの手によって魔人と化していた。
そして魔人ノスと魔人カミーラがぶつかり合った結果、ある一つの土地が更地になるほどだった。
それ以来、魔王の命令によってノスとカミーラがぶつかり合うことは禁じられていた。
それは魔人同士の争いを許さぬと言うよりも、ノスとカミーラが戦った結果の周囲の被害を考えた結果だ。
ジルとしても、自分に忠実なノスを罰する事は望まず、そしてカミーラには全く興味が無いようだった。
「ケッセルリンク様もまだ戻られません…」
「あいつの事だ…また何かに巻き込まれたのだろう…」
ケッセルリンクが行方不明となり200年…だが、カミーラはその生存を疑っていない。
ケッセルリンクが強いという事もあるが、恐らくはランスと共に居るであろう事は想像に難くない。
セラクロラスに巻き込まれたかどうかは分からないが、間違いなく生きている。
「それよりも…ジルだ」
「はい…間違いなく、魔王もランス殿の事を探しているかと…」
魔王ジルは時折ある人間の事を探しているかのように動いている。
カミーラも、魔王ジルがランスの名前を呼ぶのを聞いた事がある。
勿論この世界にランスという名前の人間が居るかもしれないが、カミーラは間違いなくあのランスであると確信している。
それを裏付けるのが、魔人トルーマンの死だ。
魔人トルーマンの死は誰も気に留めてはいないが、カミーラだけは察しがついている。
魔王ナイチサが、魔人トルーマンの回収、又は始末をケッセルリンクに命じた事は既に分かっている。
そのトルーマンが死んだのだとしたら、間違いなく倒したのはランスしかいない。
仮にケッセルリンクが始末したのだとしたら、あのケッセルリンクが報告に来ないはずが無い。
それなのに姿が見えないという事は、ケッセルリンクは間違いなくこの世界には存在していない。
「ランスは…恐らくはトルーマンを殺したのだろうな…」
「私からすれば信じられぬ事ですが…しかしランス殿ならばありえると思えてしまいます」
「あの時…ランスはレキシントンの無敵結界を切り裂いた…ならば、トルーマン程度ならば倒すだろう」
この世界に存在しない魔人トルーマンこそが、ランスとケッセルリンクの生存を示唆しているカミーラは考えていた。
「ジル様がランス殿を探しているとすれば…カミーラ様も迂闊には動けぬかもしれません」
「…忌々しいな。魔人の身である事がな」
魔人である以上、魔王には絶対服従。
逆らう事すらも許されず、どんな理不尽な命令でも受け入れなければならない。
例えそれが死という結果であっても。
「ジルは…強烈にランスを求めているのかもしれぬ…その状況は有り難くないな…」
かつてのスラルの時と同様に、魔王がランスを求めているというのはカミーラにとっては忌々しい事だ。
(ランスは…私のモノなのだ)
カミーラは気に入ったモノはどんな手を使っても己のモノにする。
自分のモノに手を出すことは絶対に許せない性質だ。
だが…それでも上には上が居るという事を、カミーラはその身を持って味わっている。
それ故に、ただ只管に怠惰に生きていたカミーラだが、今はその目の奥には静かに燃える炎が宿っている。
(待つ…か。だが私も辛抱強くなったものだ…)
カミーラは自嘲的に笑う。
(しかし悪くない…それが果たされた時の快感を感じればな…)
今は雌伏の時、間違っても魔王に目をつけられる訳にはいかない。
恐らくでは有るが、ジルもまた独占力が強い存在だと思っている。
もしランスが見つかれば、間違いなく魔人へと変えられるのは想像に難くない。
それ故に、カミーラは七星に命じて独自に情報の入手を欠かさない。
「だが…間違いなく波乱は起きるだろうな。その時こそ…このカミーラが動く時だ」
カミーラの唇が弧を浮かべるのを見て、七星は内心で喜ぶ。
(これでこそカミーラ様なのだ…そう、今の状況が続く訳がないのだ。必ず波乱は起こる…その時のために、私は私で動かなければ…)
???―――
「あんぎゃーーーーー!! ぐえ!?」
ランスは地面に尻を打ちつけ痛みにあえぐ。
「きゃああああああ!?」
「な、何だ!? ぐお!」
同時にランスの上から人が降って来て、それがランスの体に落ちてくる。
ランスは一瞬息がつまり、そいつに文句を言ってやろうとするが、その人間を見て怒りが吹き飛ぶ。
「おお! スラルちゃん!? 触れるではないか!」
「え? ランス? ってきゃあ!」
ランスの体がスラルの体を撫で回し、そしてその手がついに胸にと伸ばされるのを必死で押さえる。
「ちょ、ちょっとランス!? 今の状況でそんな事をやってる場合じゃないでしょ!? というかここ何処!?」
スラルはランスの手を強引に引き剥がし、周囲を見渡す。
「おお…あの方の言う通りだ…勇者が来たぞ!」
「「「おおおおおお!!!」」」
ランスの周囲に居た、神官のような服を纏った真っ白いトカゲのような生き物の言葉に、これまた同じようなトカゲ達が一斉にランス達を崇める。
「な、何だ!? モンスターか!?」
「新種のモンスター!? いや、でも何か違う…」
非常に愛らしい外見をしたモンスターが人間を崇めるという光景に、スラルは首を捻る。
モンスターがこんな風に人間を崇めるなどありえない事だ。
「大丈夫か、ランス」
そして混乱しているランス達を安心させるように、ケッセルリンクがその姿を現す。
「お、ケッセルリンク! っておい! お前! 俺様のおんなのくせによくも俺様に対して…」
「そこまでだ、ランス。それよりも…まずはこの者達の話を聞いてやって欲しい」
ケッセルリンクの言葉に続くように、一人の冒険者風の小柄なトカゲのような存在が歩いてくる。
「おお…勇者殿、お待ちしていましたぎゃ」
「な、何だこいつは」
「名前を名乗る礼を失してしまった申し訳ないぎゃ。私の名前は怪獣王子。この怪獣界の王子だぎゃ」
「か、怪獣界?」
スラルはその言葉に驚く。
勿論異世界の存在はあるとは思っていたが、急にそんな事を言われても混乱するのは無理もない。
「ハウセスナース殿と交信し、勇者を送ったと言葉を受け取りましたぎゃ。何卒、お力を貸して欲しいぎゃ」
こうしてランス達は、ハウセスナースによって無理矢理異世界へと送られてしまった。
そしてそこから再びランスの冒険は始まることになる。
とうとうGL期が始まりました
寄り道が多くてNCが長い長い…全部自分のせいなんですけどね
GL期ですが、NC期よりも全然短くなります
それというのも、GL期の大きなイベントがやっぱり少ないし、この時期はイベントが中々起こし難いんですよね…
主な理由はやっぱり人間牧場
そしてGL期において一番の問題点なのが正直ガイです
重要なポジションなのは勿論分かっていますが、やっぱり情報が少ない
技能だけを見れば勿論チートなのは分かっていますが、魔王を追い詰めたみたいな話を聞きますが、それを示唆した発言がどうしても思い出せない…
もし本当に魔王を追い詰めたのなら、レベル250前後のランスの子供達をまさに余裕であしらってた未覚醒の魔王ランス(歴代魔王8番目の強さ)よりも遥かに強いという事になってしまう…どれだけ強いのかが本編で描写されてないため、正直ガイに関しては非常に動かしにくいキャラとなってしまっています
後はやっぱりエターナルヒーローですね…こちらは鬼畜王ランスの中にある、エターナルヒーローを参考にさせて貰います
勿論鬼畜王とは設定が大幅に変わってはいますが、やっぱりそこが一番参考になると思うので