ランス再び   作:メケネコ

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新たな地獄

 ランス達はグナガン迷宮を進んでいた。

 だが、ダンジョンとしては非常に長く、まるでヘルマンにあるマルグリッド迷宮のように、同じ様な光景が続くダンジョンにランスは退屈だった。

 ランスは熱くなりやすいが、同時に非常に冷めやすい。

 飽きた、という理由で冒険を放り出すのも珍しくは無い。

 だが、それでもランスはグナガン迷宮を踏破し続けた。

 己の世界に戻るため、そして己の奴隷であるジルを何としても取り返すために。

 

 

 

「がーっはっはっは! そうか、お前も中々面白い事をしているではないか!」

「ランス殿も相当な冒険好きですぎゃ。なるほど、これがランス殿が収集しているもの…貝ですぎゃ」

 ランスと怪獣王子は互いの収集物を見せ合い、そして意気投合していた。

 その光景を他の者達…特にバーバラは信じられないものを見たかのような表情をしている。

「うむ、中々見つからんが、それだけに見つけた時の快感はたまらんからな。しかし、このダンジョンにも貝が落ちてるとはな!」

「この迷宮はランス殿の世界と深い関わりがあるかもしれないですぎゃ。だからそれらもグナガンが引き寄せていると思いますぎゃ」

 そして何よりも驚くのが、あのランスが異形の存在とは言え、男に対してこうまで親しく話しているのはやはり異常な光景に見える。

「あの…何で意気投合してるんでしょうか?」

「互いに冒険が趣味だそうですから…その辺でシンパシーを感じているのでは?」

 バーバラの言葉にシャロンも首を傾げざるを得ない。

 あんなに上機嫌に男と話しているのを見るのは、シャロンも初めてだ。

「そうでも無いですよ。昔…JAPANの時でも、妖怪王黒部とは何だかんだ言っても気が合っていましたし」

 エルシールはJAPANでの動乱を思い出す。

 あの時の経験は一生忘れられないだろうし、何よりもエルシールにとっても友達とも言えた黒部と別れてしまった出来事だ。

(黒部さん…)

 同時に、黒部の死を看取れなかった事もエルシールにとっては胸が痛む。

 彼は非常に気難しく見えたが、ランスや自分達に対しては中々気さくで面白い妖怪だった。

 エルシールも魔人に出会ってなければ黒部を恐れたかもしれないが、それまでの経験から妖怪達とも問題無く付き合えた。

「安全圏の存在だからじゃないですかー?」

 加奈代の言葉に皆が首を傾げる。

「だって…確かに怪獣王子さんは良い方ですけど、怪獣王子さんは私達にそういう目を向けてきませんから」

「「「「あー…」」」」

 その言葉にケッセルメイド達が一様に納得する。

 怪獣王子は自分達に対して色目を使わないし、自分達も怪獣王子に色目を使わない。

 恐らくは、人間とは美的感覚が違う所があるのだろう。

 そういう点では、ランスにとっては安全圏の存在…つまりは自分の女に手を出さないという確信があるのだ。

「それでもあんなに楽しそうに男と話をするランスを見たのは初めてだけどね…」

 スラルもランスが怪獣王子と楽しそうに話しているのを見て、複雑な表情を浮かべる。

「強いて言えば…ガルティアもランスとは結構仲が良かったかな」

「ガルティア様なら納得出来ますね…あの方は良い方ですから」

「ランスさんは本当に顔が良い男とかモテる男が嫌いですし…最後の最後まで、藤原石丸とは話し合いにすらなりませんでしたから」

 JAPANの英雄藤原石丸…もしランスが手を組んでいれば、藤原石丸の世界統一はもっと早く進んでいたかもしれない。

 しかし、最後までランスは藤原石丸との敵対姿勢を崩さなかった。

 それは藤原石丸が女にもてているという事、そして沢山の女性がその周りに居たからだろう。

「それって心が狭いというか器が小さいだけじゃない?」

 バーバラの言葉にケッセルリンクはため息をつく。

「まあ…ランスにはそういう一面がある事は事実だ。しかし、同時にランスには人を惹きつける魅力があるのは間違いない。だが、その藤原石丸もまた人を惹きつける力を持っていたのだろう。だとすると、二人がぶつかり合うのは当然の事だ」

 英雄は二人も必要無い。

 ランスと藤原石丸は水と油…決して交わらない存在だったのは間違いない。

「それにランスには世界を纏めようとするつもりが全く無い。使徒や魔人になる事すら拒んできたからな…本当に自分が好きなように冒険が出来ればそれで良いのだろう」

「うーん…それはそれで自分の才能を無駄にしているような気もしますが…」

 バーバラは皆のランスの評を聞いて、より一層複雑な表情を浮かべる。

 主であるケッセルリンクもランスの良い所、そして悪い所を指摘しつつも、その顔にあるのは優しい顔だ。

 バーバラ以外の使徒も分かると言わんばかりに頷いている。

(確かに悪い奴じゃ無いけど…いや、やっぱり悪い奴か。凄い子供っぽいんだ。パレロアさんがやたらと世話を焼きたがるわけだ)

 パレロアが献身的にランスに尽くしているのを考えれば納得もいく。

「それでランス殿の世界はどういう世界なのですぎゃ?」

「それなら我の方が詳しいぞ。そういう事は我に聞けばいい」

 怪獣王子の言葉にスラルが敏感に反応する。

「ケッセルリンク、お前も来い。お前が居るとより詳しい話が出来るだろう」

「分かりました。スラル様」

 スラルに呼ばれ、ケッセルリンクもランス達の話の輪に加わる。

 そして4人はこれでいて中々楽しそうに話に花を咲かせている。

 それを使徒達は嬉しそうに見ていた。

 

 ランス達は順調に冒険を進めていく。

 途中で色々な障害もあったが、ランスとスラルとケッセルリンク、そしてその使徒達ならば苦労は有れど乗り越えられる。

 回復が出来ないので即撤退の場面も多いが、幸いにも挑戦するだけなら直ぐにでも出来るので問題は無い。

 そして狂王を退けたらしい怪獣王子も参戦し、更に速度は上がっていく。

 が、現在40Fまで到達したのだが、まだ先は見えそうには無かった。

「うーむ、思ったよりも全然長いぞ」

「そうだな。しかもモンスターの強さも上がってきている。一度レベルを集中して上げなければいけないのかもしれないな」

 魔人であるケッセルリンクが居ても、流石に無敵結界が無ければ慎重に戦わなければいけない。

 回復役もガードも居ない事が、安定したダンジョンの踏破を阻んでいた。

「今ランスのレベルが31で我のレベルが36…ケッセルリンクに至ってはまだレベルが20だからな。他の皆も30前後な事を考えれば、ランスは使徒並にレベルが上がるのが遅くなっているという訳か」

 魔人であるケッセルリンクのレベルの上りが遅いのは仕方が無い。

 それが世界のルールであり、絶対的な法則だ。

 それと同じように、使徒のレベルが上がるのも遅い。

 そしてランスのレベルはその使徒並に上がりにくくなってしまっている。

 ただ、ランスとしては、今までのレベルに比べれば、今の方が遥かに力が強い。

 レベルは31だが、元のランスの強さから比べると40は超えている強さが有る。

「レベル上げか…非常に面倒くさくて退屈だな。しかもここでしかレベルが上がらんとなると気が滅入る」

「そう言うな。元の世界に戻るためだ」

 ランスの気持ちも分からなくはないが、それでもグナガンを倒さなければ元の世界に戻れないのだから仕方が無い。

「しかし本当にランス殿は強いですぎゃ。その剣の腕、惚れ惚れしますぎゃ」

「そんなのは当然だ」

 怪獣王子の言葉にランスは胸を張って答える。

 実際に、ランスの剣の腕は凄いというレベルを超えている。

 剣戦闘LV3という伝説の力にランスも慣れて来ており、これまでのランスとはまた別の戦い方が出来るようになっている。

 力任せに剣を振るっているように見えて、相手の弱点を的確に狙って斬りつけている。

 そのおかげで、非常に硬いサイクロナイトでも、ランスアタックの一撃でバラバラになる程だ。

 ただ、ランスとしては心配事が有るのも事実だ。

「だが、スラルちゃんこそどうにかならんのか。あの必殺技が使えんでは無いか」

「そうだな…どうやらアレは我がランスの剣の中にいないと使えないようだな…」

 ランスとスラルが悩んでいるのは、二人の合体技とも言うべきの、剣に魔力を宿らせる力が使えない事だ。

 肉体がある反動か、スラルはランスの剣に魔法の付与が出来なくなっている。

 やろうとしても、制御が圧倒的に難しいため、使い手であるランスをも巻き込むために使う事が出来ない。

「バスワルドの力は付与出来るのを考えれば、出来なくないとは思うのだが…」

 魔人の無敵結界を無視するラ・バスワルドの力を付与する事は出来る。

 だが、これまで使えていた切り札を失った事はランスにとってもスラルにとっても痛手だ。

 何しろあの一撃は有効的に使えば、多数の魔物を相手にしても逆転できる切り札なのだ。

「出来ないものを言っても仕方ないだろ。それに俺様としてはそんな事よりもスラルちゃんとエッチ出来る方が重要だからな」

「お、お前という奴は…我は真面目に話しているというのにな…」

 そう言いながらもスラルは顔を背けながらも真っ赤にしている。

「それよりもとっととグナガンとかいう奴をぶっ殺すのが先だ」

 今出来ない事よりも、やれる事を優先する。

 その切り替えがランスは非常に早い。

 考えても仕方のない事は考えないようする、壁にぶつかった時に何とかすればいいのだ。

 これまでそうしてきたし、それで何とかなってきたのがランスの恐ろしい所だ。

 

 そして今夜もランスはベッドの上で非常にご満悦だった。

 スラル、ケッセルリンク、そしてケッセルメイド。

 彼女達の体を思う存分楽しみ、堪能している。

 今日はバーバラを除いたケッセルメイド達を集めて、ハーレムプレイを楽しんでいた。

 一対一で楽しむのも良いが、やはり男の夢…ランスの楽しみはやはりハーレムだ。

「がはははは!」

 非常に楽しそうに笑うランスを見て、加奈代もまた楽しそうに笑う。

「ランスさん、ダンジョンで疲れているはずなのに、エッチの時には凄い元気になりますねー」

「俺様にとってはこれが体力の回復なのだ。加奈代、お前もこっちに来い」

「はーい」

 シャロンを思う存分攻めていたランスは、今度は加奈代を押し倒す。

「本当にランスさん…元気ですよね。少し元気すぎるくらい」

 一息ついていたエルシールが、同じように一息入れているパレロアに話しかける。

 二人とも息が荒く、相当にランスに絶頂まで導かれていたのが分かる。

「でも…ランスさんも少し無理している所は有ると思います。少し焦っています…」

「焦る…ランスさんが」

 パレロアの言葉にエルシールは、楽しそうにセックスをしているランスと加奈代を見る。

 その光景を見れば、とてもランスが無理をして焦っているようには見えないだろう。

 だが、それでも二人の子を産んでいるパレロアには、ランスが少し苛立ちを覚え、それを発散するようにセックスに没頭しているような気がするのだ。

「ジルさんと…そして子供を失った事はやっぱり耐え難いものですから…」

「パレロアさん…」

 パレロアの顔に、エルシールも複雑な表情を浮かべる。

 彼女の境遇はエルシールも良く知っており、彼女は自分の子供を失っている。

 その時、パレロアを救ったのがランス達とケッセルリンクだ。

 何でもその時からあの悪魔と因縁があったようで、JAPANの時に悪魔が介入してきたのも後からエルシールも納得したものだった。

 そんな境遇のパレロアだからこそ、ランスが少しだけ無理をしているのが分かるのだ。

「私達も…結果として、それに加担する形になってしまいましたから…」

「それは…」

 仕方の無い事、と言いかけてエルシールは口を紡ぐ。

 使徒の立場からすれば魔王の命令は絶対であり、どんな命令でも従わなければならない。

 だが、そんなものは人間のランス達からすれば言い訳にもならない。

 本来であれば、ランスは自分達に激怒し、命を狙われても文句は言えないのだ。

 それなのにランスは自分達を許し、こうして一緒に居てくれている。

「だから…私はどんな事をしてもランスさんに償うつもりです。私の子供を救ってくれた事も有りますから」

「そんなに堅苦しく考えなくても良いと思いますよ」

 責任感が強いパレロアの言葉にエルシールは微笑む。

「ランスさんは…本当に強い人ですから。きっとジル様…いえ、ジルさんの事も何としてでも取り返すでしょう。そのためなら魔王にも向かって行く人ですから」

 人間が魔王に戦いを挑む。

 それは魔物の立場からすれば無謀にも程が有り、魔王には絶対に勝つ事など出来ないという事で嘲笑の対象になる。

 だが、それでもランスは魔王にも戦いを挑むだろう…そこに自分の大切な女が関わっている限り。

「がはははは! 俺様今日も絶好調!」

 本日もランスは何処までもランスだった。

 

 

 

 ルドラサウム大陸―――

 そこはまさに生き地獄の空間。

 人間は生まれてから自由が許されず、ただ只管に人口を増やすためだけに人を産み落とすだけの一生を終える。

 だが、それは人間牧場だけの話であり、魔王ジルもこの世界の全ての人間を人間牧場に入れるつもりなど更々無かった。

 ジルにとっては人間などどうでもいい存在であり、ただ、魔王を脅かす勇者という存在を無力化するためのシステムにしか過ぎない。

 よって、一定以上の数さえあれば、人間を必要以上にいたぶるつもりも全く無い。

 だからこそ、人間は大陸の僻地で震えながら生きる事を許されていた。

 魔物達も隠れている人間を探す余力など全く無い。

 人間牧場、そして魔物牧場の管理で息つく暇も無い生活を強いられていた。

 しかも、人間と違って魔物は魔王の気分次第で万単位で殺される。

 そんな生活を強いられているのだ。

 そして、魔王ジルはまた新たな余興を楽しんでいる最中だった。

 

「マサシゲ様…準備が整いました」

「そうか…整ったか」

『整ってしまったか』と言いたかった魔物大将軍マサシゲは、今のこの時代を呪わざるを得なかった。

「スティルコ軍も準備はもう整っているでしょう」

 魔物大将軍に報告する魔物将軍の声も非常に重い。

「ああ…」

 マサシゲの声も、部下の言葉に比例するかのように重たい。

「何でこんな事に…」

「何も言うな…これも全ては魔王様の命令なのだ」

 部下達の嘆きがマサシゲにとっても非常に痛い。

「ですが…何でこんな同士討ちのような事を!」

 魔物将軍の言葉に応えられる者は誰も居ない。

 魔物大将軍は、魔物将軍を束ねる指揮能力から人間牧場だけでなく、魔物牧場の管理もさせられていた。

 魔物大将軍の立場としては、絶対にやらなければならない職務であり、同時に全てを捨てて消えてしまいたい程の厳しい環境におかれる事となる。

 そして部下の失態はまさに一蓮托生、魔物兵がミスをすればその魔物兵を束ねる魔物隊長が、魔物隊長がミスをすればそれを束ねる魔物将軍が、魔物将軍がミスをすれば魔物大将軍が…と責任はどんどんと重くなっていく。

 魔物兵がミスをする程度であれば、その魔物隊長の1部隊が処刑される也、魔物牧場に送られる也すればいい話だ。

 実際、この管理体制になってからは魔物将軍達は部下のミスの隠蔽や、揉み消しがどんどんと上手くなっていった。

 ただ、それでもそれが命がけだというのは全く変わらない。

 それが露見すれば、全てが台無しになるのだ。

 そしてこの魔物大将軍マサシゲと、魔物大将軍スティルコは魔物将軍のミスの隠蔽が露見した形となった。

 それを聞いた魔王ジルは、二体の魔物大将軍を前にして笑った。

 二体の魔物大将軍は、その笑みを見て心底背筋が凍ってしまった。

 そして魔王ジルが下した命令とは…

「一方を全滅させた者だけが生き残る事が出来る…か」

 マサシゲは苦渋の表情で呟く。

 魔王ジルの言葉は今でも忘れられない。

「お前達は…戦いたいのだろう…ならば…用意してやろう…お前達に相応しい…戦いの場をな…」

 用意されたのがこの平野…この場所で魔物大将軍と殺し合わなければならない。

 それも相手の一切の降伏も認めぬ、文字通りに全滅をさせねばならない。

 そして生き残った陣営だけが、再び牧場の管理へと戻されるのだ。

 理不尽な戦いに駆り出されても、魔物達は決してその命令に逆らう事は出来ない。

 それこそが、神が創った魔王と魔人、そして魔物に対するシステムなのだから。

 かつての失敗作の魔王から学んだ三超神は、魔王に対しての絶対服従を魔人と魔物達に義務付けた。

 だが、その命令は今や魔物達から見て、非道な命令として下されていた。

「マサシゲ様…」

「言うな…私達は魔王の命令には背く事は出来ん。だが、お前達の命も守らねばならん。全力でスティルコ軍を叩く」

 マサシゲは己の部下のため、同胞である魔物大将軍を殺す決意を固める。

 魔物大将軍としては珍しい性格だが、どんなに珍しかろうと魔王にとっては記憶にも残らないただの一兵士に過ぎないのだ。

「行くぞ…!」

 

 そして血で血を洗う、魔物同士の本気の戦争と、本気の殺し合い。

 魔物は他者をいたぶり、どんな非道な事でも平気で出来る存在だ。

 だからこそ、同じ魔物同士でも殺し合いは起きる。

 だが、この長いルドラサウム大陸の歴史の中で、魔物の軍同士がぶつかるというのは初めての事だ。

 本来の歴史において、LP期に起きるはずの魔人ホーネットと魔人ケイブリスのぶつかり合い…魔軍と魔軍の戦いが規模が小さいながらも、今まさに行われていた。

 そしてそれを高台から見る魔王ジルの顔には確かに笑みが浮かんでいた。

「殺せ…殺せ…貴様等に…安泰など…訪れぬ…お前達魔物は…永遠に…殺し合っていればいい…」

 魔王ジルの魔王ナイチサへの恨みと憎悪はまだ消えない。

 今でも無意識に己の腹に手を這わせるジルにとっては、魔王ナイチサから強制的に受け継がされた魔王の血など忌々しいだけだ。

 だからこそ、魔王ナイチサの望みの世界など作らせはしない。

 魔王の血の本能から、ジルは人間を苦しめるが、同時に魔物も苦しめる。

 それこそが魔王ナイチサへの復讐になると信じて。

「まだ…ケッセルリンクは…戻らぬか…」

 そして今考えているのが、自分に反抗した魔人…正確には、己と同じ魔王によって強制的に反抗させられた魔人であるケッセルリンクの事を考える。

 あの女魔人はランスと共に消えた…ならば当然、ランスと共に居るのは分かっている。

 ジルは一冊の書物を手に笑みを浮かべる。

 それは魔人ケッセルリンクの手記であり、ランスとの出会いや魔人になってからの事が記されている。

「セラクロラス…か」

 ジルも驚いたのは、ランスが年代を超えて移動をしているという事実。

 それにより、魔王スラルの時代から魔王ナイチサの時代も経験しているらしい。

 そして魔人カミーラとの関係、そして魔人レッドアイとも交戦した事も記されていた。

 ジルはカミーラやケッセルリンクの事をそんな下らない事で処罰するつもりは毛頭ない。

 いや、むしろこの事を楽しむ程の余地さえ存在していた。

「ならば…ランスは…必ず…戻って来る…」

 奇妙なほどに魔人と縁がある存在らしく、これまで数多の魔人と戦い、そして退けてきた。

 そして自分と出会い、同じように魔人を倒した…ならば、必ずまた出会う事が出来る。

 それはもはや運命であり、ジルにとっては天啓とも言えた。

「私の…指輪…」

 今は存在しない指輪があった場所を見て、ジルの顔が僅かに曇る。

 本来であれば自分の指に嵌められていた大切なモノ。

 それが今自分の指には存在しない。

 だからこそ、何としても取り戻さなくてはならない。

 そしてもう一つ…自分の先々代の魔王であるスラルにも話を聞かなければならない。

「せいぜい…殺しあえ…」

 魔王ジルは冷酷な笑みで殺し合いをしている魔物達を見て、興味を失ったようにその場を後にする。

 残ったのは、相手を殲滅させる勢いで殺し合いをする魔物兵の姿だけであった。

 

 

 そして魔王ジルと同じ様に、この戦いを見ている者が居る。

「…惨いですね」

 それは魔王ジルによって魔人となった存在…魔人ジークだ。

 魔人の中でも非常に紳士的な気質を持つ魔人ジークは目の前の光景に悲痛な顔をする。

 しかし、所詮は魔人の一人、魔王に意見をする事など出来ない。

「魔王様は…何か悲しみを抱えている。それがこの光景を生み出しているのかもしれぬ」

 魔人ジークは魔王ジルが魔物達にとってどんな感情を持っているのか分かっている。

 それは底知れぬ悪意であり、憎悪と呼べるものだ。

 人間に対しては確かに人間牧場を作り、そこで生かしているが、ジルは人間そのものには全く興味が無いのは分かっている。

「だが…それが何なのか、到底分からない…」

 魔人紳士であるジークはそんな魔王ジルを不憫に思うが、今の段階でジークが出来る事は存在しない。

 魔人だろうと、魔王の不興を買えば即座に消滅させられる。

 だからこそ、今の時代の魔人は非常に大人しいとも言える。

 魔人カミーラは殆ど自重していないようだが、不思議とジルはカミーラに対しては何も言わない。

 恐らくであるが、ジルはカミーラを気に入っているのだろう。

 カミーラ自身、己の領地から出る事はあまり無いために、推測にしか過ぎないのだが。

「もし噂に名高い淑女…ケッセルリンク様が居れば何か分かるかもしれないのだが」

 今この魔王に唯一出会っていないとされている、魔人ケッセルリンク…その所在は全く分かっていない。

 同じ魔人であり、話が通じるガルティアに聞いたのだが、昔ある魔人を探しに行ったまま行方不明となったらしい。

 ただ、魔人ケッセルリンクは度々行方不明になる期間があるらしく、今回もそれで行方が分からないというのがガルティアの話だ。

 よって、全く心配もされていないらしい。

「一度会ってみたいですね…魔人ケッセルリンク様」

 魔人紳士ジークは、未だに見た事の無い、魔人一の淑女と呼ばれるケッセルリンクにどうしても会ってみたかった。

 

 

 そしてこの光景を見ている者がもう一人…

「これが今回の魔王か…今の所、こっちにまで被害が出ていないのが幸いと言った所か…」

 黒い髪をしたカラーは、魔物達の殺し合いを見て唇を歪める。

 それはかつて見た魔王とドラゴンの戦いに比べれば圧倒的に規模が小さいが、ハンティ・カラーの目からそれは異形の戦いにしか映らない。

 何しろ魔物同士で殺し合い…それも相手を全滅させるまでの殲滅戦をやらされているのだ。

 これまでの魔王を見てきたハンティとしては、今の時代の魔王が一番最悪とも取れた。

「アベルまでの時代はともかく…新しく『人間』が生まれてから世界は一変した…その中でも、これは極め付けだね」

 魔王スラルの時代は魔王による人類の蹂躙は行われてはいなかった。

 恐らくは、魔王スラルの時代こそが最も大人しい時代だったのだろう。

 魔王ナイチサは思い出したように人間を殺し、そして蹂躙していた。

 その中で藤原石丸という稀代の英雄が生まれはしたが、それも一体の魔人すらも倒す事は出来なかった。

 その時代の中で、カラーのクリスタルが人間に狙われ、カラーは一時期その数を大きく減らした。

 それに関してはカラーの自業自得な面もあるのだが、それでもハンティはカラーを見捨てる気など全く無い。

 そして新たな魔王ジルの時代では、これまでの生活が完全に打ち砕かれた。

 人間には自由など与えられず、同様に魔物にも自由など存在しない。

 完全な管理システムであり、魔王がこの世界を蹂躙するためのシステムが構築されていた。

「カラーも…生きていくためにはどうしても人間が必要だからね」

 カラーは人間がいなければその数を増やす事は出来ない。

 なのでハンティは適当な人間を見つけては、カラー達に提供していた。

 そうしなければカラーも絶滅してしまうからだ。

「あの男は…まあまだ戻ってないか。戻ってれば必ず分かるか」

 ハンティは、この世界で隠れている人間にも接触をしていた。

 瞬間移動があるので、接触には何も問題は無い。

 人間達もカラーだからといって敵意を向ける事も無い。

 自分達が生きていくだけでも精一杯だからだ。

 そんな人間から若者を借り、そしてカラーも対価として望むものを提供するという関係が成り立っていた。

「それにしても…まさかこんな事があるなんてね」

 ハンティはある人間の隠れ里に行った時の事を思い出す。

 その隠れ里は、魔王に対しては恐怖を抱いているのは当然だが、その里の代表者は魔王に対して複雑な顔をしていた。

『若草会』と名乗っていたその代表者たちは、一冊の手記を大事に隠し持っていた。

 ハンティはついにその手記を見せてもらう事が出来たが…それこそが驚くべきものだった。

 それこそが魔王ジルが人間であった頃の手記であり、ジルという人間がどういう存在なのかを表していた。

 勿論魔王ジルのしている事は許されるものでは無いが、同時にジルもまた魔王の被害者でしかないのがハンティには分かった。

 望んで魔王になったのではなく、無理矢理魔王にさせられ…そして愛する男との子を魔王に殺された。

 お伽噺のような出来過ぎた話だが、ハンティはその話を全面的に信用せざるを得なかった。

 そこに出て来たのが、ランスとレダ、そしてスラルという名前だったからだ。

 しかも魔人ケッセルリンクの事も書かれている。

 ランスとケッセルリンクの関係を知っているハンティだからこそ、その手記が本物であると理解出来た。

 そして…魔王ジルが人間だった頃、魔人を倒したという事実も。

「魔人を倒せる…か。正直そんな事が2回も起きるなんてね…」

 ハンティは苦渋に満ちた顔をしながらも、直ぐにその場から姿を消す。

 まずは何よりも、この時代をカラーが生き抜く事を優先させねばならない。

 それこそが今の自分の役目なのだから。




GL期の魔人の登場時期は決まっているキャラを除いて適当です
いつ魔人になっていても大差無い時期ですので
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