ランス再び   作:メケネコ

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レイ・ガットホン

「てめえ…いい度胸してるじゃねえか」

 レイは目の前にいる男を睨む。

 ランスはそんなレイの事などどうでもいいかのように周囲を見渡す。

「…何だココは」

「人の町が見えないくらいの場所に落ちたという事か? だが、魔物兵がここに居る事を考えれば…」

「おい! 無視してんじゃねえよ!」

 怒鳴り声を出すレイに対し、ランスは鬱陶しそうに手を振る。

「やかましい。俺様はお前みたいな奴を相手にするほど暇じゃないんだ。見逃してやるからとっとと失せろ」

 ランスが心底面倒くさそうな態度を取ったことで、ただでさえ短いレイの導火線に火が付く。

「潰す!」

 レイはランスの態度に怒りを覚え、すぐさまランスを潰そうとそのこぶしを振るう。

 レイの想像としては、この一撃で男の命を奪えるはずだった。

「なっ!?」

 しかしレイの拳はランスの剣によって弾かれる。

「ランスキーック」

 そしてランスの強烈な蹴りがレイの腹部に突き刺さり、レイの方が吹き飛ばされる。

「いきなり攻撃してくるとは、お前敵だな。ぶっ殺す!」

「へっ! 上等じゃねえか!」

 ランスは剣を抜き、レイもまた拳を構える。

 そして二人はぶつかり合う。

「くたばれ!」

「死ぬのはお前じゃー!」

 レイは何時もの様に真っ直ぐ突っ込んでいく。

 レイの技能はけんかLV2という非常にシンプルかつ分かり易いものだ。

 そしてその持ち前の身体技能が合わさり、まさに歩く暴力として思う存分その力を発揮していた。

 だが、今回レイの運が悪かったとすれば、そこに居たのが同じように割かし暴力的な剣の使い方をするランスが相手という事だろう。

「がはははは! そんな素手で俺様に勝てると思っているのか!」

「チッ! 言うだけはあるじゃねえか…」

 拳と剣ではまずリーチが違う。

 そしてレイは今まで剣を使って来る相手に出会った事は無かった。

 これまで戦った中では剣を使う人間も居たのだが、目の前の男に比べればそれこそ雲泥の差だ。

 そしてランスの剣は普通の剣士とは全く違う。

 完全に我流の剣術は非常に読み辛く、その上で破壊力が異常に高いという奇怪な剣だ。

「死ねーーーーーーッ!!」

「誰が…死ぬかよ!」

 ランスの一撃に合わせて、レイはカウンターの形で拳を突き出す。

(とった!)

 レイとしてはこれ以上ないタイミングでランスにカウンターを決めたと思った。

 しかし、レイの拳が突き刺さったのはランスのマントだった。

「何だと!?」

「がはははは! 甘いわ!」

 そしてレイの頭に、ランスの剣の柄が叩きつけられる。

 その衝撃にレイは気が遠くなっていくのを感じる。

(マジか…この俺が軽くあしらわれてるだと!?)

 どれ程の力で殴られたというのか、その一撃だけで頭がふらつく。

 そしてランスの蹴りがレイの腹部に突き刺さり、レイは自分の死を覚悟する。

(つ、つええ…)

 まさかこの自分がこんなにあっさりと倒されるなど、想像もしていなかった。

 だが、これこそが現実であり今まさにレイの命もまた風前の灯だった。

「待てランス! 殺すな! そいつには聞きたい事がある!」

「あん? 何をだ」

 スラルの言葉にランスは今まさに止めを刺そうとした剣を止める。

「今の状況を見ろ。ここが何処だか分からないが、おかしいとは思わないか?」

「むう…」

 その言葉を聞いて、ランスも周囲を見渡す。

 無数の魔物兵の死体が転がっているのはともかく、ランスが居る場所はどう考えても廃墟だ。

 人の住んでいる気配が全く無く、何故こんな所に魔物兵がという思いもある。

「それにここは廃墟になってから大分時間が経っている。魔軍がいるのに人間の死体が無いというのも妙だ」

 魔軍が町を廃墟にしたのなら、そこにあるのは惨たらしい姿の人間の死体が転がっているはずだ。

 だが、そこにあるのは壊されたであろう瓦礫が残っているだけだ。

「一番最初に出会った人間だ。それに…この惨状、どう考えてもこの男一人でやった事だろう。使えると思わないか?」

「男なんぞいらん。だが、スラルちゃんがそう言うなら話くらいは聞いてやるか」

「か、勝手な事…言ってんじゃねえぞ…」

 レイは何とかそう言う事が出来たが、結局はその意識を手放した。

「あ、気絶したみたいだな」

「フン、男なんぞ拾いたくはないが、まあ話くらいは聞いてやるか」

 ランスはレイの服の襟元を乱暴に掴んで、そのまま引き摺りながら丁度いい場所を探して歩き始めた。

 

 

 

「…あん? なんだここは」

 そしてレイが目を覚ました時、強烈な光で一瞬目が眩むがそれでも何とか体を起き上がらせる。

「っ! 頭がガンガンしやがる…ここは何処だ」

「あ、ランス。目を覚ましたぞ」

「男なんぞどうでもいいわ」

 そして聞こえてくる女の声と男の声。

 男の声は、先程までに自分が戦っていた男の声だ。

「てめぇ! って頭がいてぇ…」

 レイは激昂して立ち上がろうとするが、まだ痛む頭を押さえてそのまま地面に腰を下ろす。

「何だここは…? まさか家か?」

「そうだ。これは俺様の家だ。本来はお前のような男なぞ入れんのだが、スラルちゃんがお前に聞きたい事があるから入れてやったんだ。泣いて感謝しろ」

「…頼んだ訳じゃねえだろ」

 まだ痛む頭を押さえながら、レイは周囲を見渡す。

 そこにはレイが今まで見た事も無いような道具が沢山存在していた。

 いや、そもそも今の時代は人間はこんな煌々とした灯りなど灯す事が出来ない。

 人間は夜になれば震えながら息を潜めて夜が明けるのを待つ…それが今の時代の人間の生き方なのだから。

「で、話は出来るか?」

「…チッ! 何が聞きてえってんだよ」

 レイは不機嫌な顔を浮かべながらも、テーブルの側にある椅子に腰を下ろす。

 その様子にランスは思わず剣を投げつけそうになるが、スラルがそれを止める。

「今の時代の事だ。それを話してくれればいい」

「…あん? マジかお前等?」

 スラルの言葉にレイは胡散臭そうな顔でランス達を見る。

 今の時代を知らない…それは信じられない事であり、レイからすればこいつらが何を言っているんだという思いしか出てこない。

 少しの時間レイは考えていたが、結局は素直に話す事にした。

 ここで嘘をつく理由は無いし、何よりもこの男は自分よりも強い。

 勿論リベンジはするつもりではあるが、それよりもレイはこの男に興味が湧いた。

 それはここまで魔物にも圧倒的な力で退けてきた自分が、この男にはあっさりとやられた事が衝撃的だったからだ。

「まあ知りたいなら教えてやるよ。つっても俺の言う事が全てじゃ無いだろうがな」

 そしてレイの口から聞かされたのは、ランスにとっては衝撃的な事だった。

 それは魔王ジルの治世…人間牧場という言葉だ。

 その言葉はカオスとカフェから何回も聞かされていた言葉。

 ランスとしては全く実感が無く、年寄りの過去の話程度の認識しか無かったが、魔王ジルと実際に出会った事から今になってその実感が出て来る。

 同時に、自分がどういう状況下にあるのか、ランスはハッキリと理解してしまった。

「俺が話せるのはこのくらいだな。で、お前等こそ何なんだよ。俺としてはこんな事を知らないお前達がおかしいんだけどな」

「…想像以上だな。そうか…ジルはこの未来を選んだのか」

 スラルも今の世界の現状には顔を真っ青にしている。

 この世界の人間…いや、この世界に住まう全ての存在にとって正に地獄とも呼ぶべき世界。

 自分が魔王であった頃の治世など、今のジルの治世に比べれば天国と呼んでもいいだろう。

 いや、ナイチサの時代ですら、人間にはまだ一定の期間の自由が存在したが、ジルの時代にはそんなものは無い。

 完璧に制御された意図して作られた地獄…それがあのジルが作った世界なのだ。

「名前くらいは聞かせろよ。俺はお前達の事を何もしらねえからな」

「フン、男に名乗る名前は無いと言ってやりたいが、まあ教えてやろう。俺様はランス様だ」

「スラルだ」

「ランスにスラルか…聞いた事がねえが…まあ当然といえば当然か」

 その後もスラルはレイに詳しい話を聞く。

 レイは知る限りの事を答えていくが、その度にスラルの顔が沈んでいく。

「ランス…これはまずいぞ。もしかしたら、今この魔法ハウスは捕捉されているかもしれない。ジルの目的を考えれば、目立つのは都合が悪いぞ」

「ぐぐぐ…」

 スラルの言葉にランスも歯噛みする。

 魔王の力は絶対的であり、今見つかれば成す術も無くランスは魔人にされてしまうだろう。

 自由を好むランスの信条的に、魔人になるなど絶対にありえない事だ。

 それにランスとしては、何としてもジルを取り戻すという絶対的な目的がある。

 奇しくも、あの小川健太郎のような状況になっているのをランスはまだ気づいてはいない。

「レイ。魔物兵はそれほどまでに頻繁に動いているのか?」

「俺が知る訳ねえだろ。だがそんなに頻繁って訳でもねえな。ただ最近は俺を狙って魔物共がやってきたりはしてるけどな」

 レイはこの世界でも自由に動ける存在であり、それは魔物にとっても都合の悪い事だ。

 何よりも、こんな人間が自由であるという事を魔王に知られれば、間違い無く連帯責任を取らされて、行きつく先は処刑場か魔物牧場送りだからだ。

 勿論そんな事を知りようも無いレイとしては、ここ最近はやたらと魔物兵が多いなくらいにしか思っていない。

「ランス、取り敢えずはこの地から離れても良いのではないか? 幸いにも魔法ハウスは持ち運べる」

「………フン、まさか俺様がコソコソと動くとはな」

 スラルの言葉にランスは意外にも素直に頷く。

 これもカオスとカフェの言葉があった事もある。

 カオスはともかく、カフェの言う事はランスも信じている。

 そしてあの明るいカフェが、魔人や魔王に対しては厳しい顔をしているのを思い出し、ランスも決断をする。

 ランスとスラルは魔法ハウスを出る。

 レイもその場に居る訳にもいかず、外に出た時に自分が居たであろう家を見て驚く。

「な、何だこりゃ」

 今の時代、こんな大きくて明るい家など存在する訳が無い。

 そんな家が有れば、間違いなく魔物に襲撃されるだろう。

 だがそれ以上に、アレほど大きな家がミニチュアサイズの家に変化するのは、流石のレイも呆然と見ているしかなかった。

 今現在、魔物に対しても厳しい世界ではあるが、魔物の任務の一つとして人間の捜索もある。

 尤も、ジルはそこまで本気で人間を探すなどとは思っていないし、魔物達もそれほど懸命になって人間を探している訳でも無い。

 探しても良い事はあまりない…というよりも余計な仕事が増えるだけだからだ。

 だからといって、見つけた人間を殺してしまえば、それはそれで処刑場に送られてしまう。

 同じ魔物兵同士でも裏切らないとは限らないため、魔物兵達は常に疑心暗鬼にかられてしまっている。

「ランス。それよりもこれからどうする」

「うーむ…」

 スラルに声をかけられて、ランスも非常に悩む。

 これがLP期であれば何処かその辺の町にでも行こうかという事になる。

 しかし、これがカフェから聞いた魔王ジルの時代であれば、人間の町を見つけるなど非常に困難だろう。

 カオスやカフェが冒険をしていたのだから、冒険を出来てた人間が居たというのは事実だが、何しろランスにはその伝手が存在しない。

 迂闊に動くのも躊躇われるし、何よりも情報が足りな過ぎる。

 ランスは冒険では本能的に動く事も多いが、そのための前準備はしっかりとしている。

 それこそがランスが生きていくために教えられた事の一つだ。

「レイは心当たりは無いか? 人が集まる場所の」

「…知らねえ。俺も数年はもう好き勝手にしてるからな。他の人間の事なんざ知らねえよ」

「何だ使えんな」

「んだとてめえ!」

 ランスの言葉にレイがランスに詰め寄る。

「落ち着け二人とも。ここで我々がいがみ合っても何も良い事は無いだろう。レダが居ないという事もあるからな…」

 今の状況、レダが居ないというのは非常に痛い。

 確かにランスもスラルも強いが、それでもガードと回復が両方出来る上に、基礎能力が人間よりも遥かに高いレダが居ないのが非常に辛い。

「フン」

 ランスは鼻で笑うが、それでも内心では非常に困っている。

(うーむ…だが、この世界がカフェの言っていた世界通りなら、本当にヤバイぞ。人類が何も出来なかったと何度も話してたからな)

 ランスとしても非常にこの状況はまずいのだが、だからと言ってどうなるものでもない。

 都合よくセラクロラスと出会うという保証は無いのだ。

 それにベゼルアイも『出会おうと思って出会える子じゃない』と言っていた。

「いたぞ! あいつらだ」

 ランスが思案していた時、ランス達を取り囲む一団が現れる。

「こいつが例の人間か。しかし数が多いぞ。一人と聞いていたがな」

 それは魔物隊長率いる魔物兵達だ。

「また来やがったのか。雑魚共が」

 レイはうんざりしたようにため息をつく。

 ここ最近はこういった連中が随分と襲ってくる。

 勿論簡単に蹴散らせるのだが、こうして度々襲撃があると流石に面倒くさくなってくる。

「まあいい。今度こそこいつらを捕えるぞ」

 そして魔物隊長の後ろから出て来る巨体は、間違い無く魔物将軍だ。

「魔物将軍が動くか…どうやらお前は結構な事をやってきたようだな」

 魔物将軍が一人の人間を捕えるのに動く…そんな事は普通はありえない。

 普通の魔物兵で十分ではあるのだが…やはり世の中には規格外の人間は存在している。

 ガルティア然り、ランス然り…ならばレイもその規格外の存在なのだろう。

「ここでこいつらを捕えられなければ、我々はジル様に切られるぞ! 何としてもこいつらを捕えろ!」

 魔物将軍の号令に、魔物兵達が一斉にランス達に襲い掛かる。

「…ぶっ殺す!」

 そして魔物将軍の口からジルの名前が出た事で、ランスの顔から表情が消える。

(あ…ランス、本気で怒ってる)

 それを見てスラルはランスが割と本気で怒りを覚えているのが分かる。

 ランスは短気だし、怒鳴る事も多いが、本気で怒った時には表情が消える。

 ただ、その時のランスは無計画に突っ込むところが有るので、そこは注意しなければならない。

「はっ! 群れで来ようが雑魚は雑魚だぜ!」

 レイも不敵に笑いながら魔物兵達に突っ込んでいく。

 そしてこの二人の攻撃力は、まさに無作為の暴力と言っても過言では無かった。

 ランスの剣が振られるたびに魔物の体が切り裂かれ、レイの拳と蹴りが直撃するたびに魔物兵の体が弾け飛ぶ。

「な、なんだこいつら!?」

「つ、強すぎる!」

 魔物兵は暴れるランスとレイを見て恐慌する。

 この威力はまさに魔人級とも言わんばかりの一撃だからだ。

 しかもそんな攻撃が連続して放たれる。

 それは純粋な暴力となって魔物兵を蹂躙していく。

「落ち着け! 魔法で仕留めろ! あの女を人質に取れ!」

 この魔物将軍は中々優秀なのか、ランス達の動きを見ても決して動揺はしない。

「壁を作れ! これ以上奴等を進ませるな!」

 魔物将軍の言葉に、盾を構えた魔物兵が隊列を構えてランス達に前進してくる。

 そしてその背後から、魔法魔物兵が魔法の詠唱を始め、一部の魔物兵がスラルへと向かって行く。

「おいおい、いいのか? お前の女が危ないぞ」

「フン、黙って見ていろ。俺様の女があの程度の雑魚共にやられる訳が無いだろ」

「言うじゃねえか。そんなにいい女なら俺も…」

「死ねーーーーっ!」

「うお!? 何しやがる!?」

 スラルに興味を抱いたレイに向けて、ランスの剣が襲い掛かる。

「俺様の女に手を出そうとするとはいい度胸だ。ぶっ殺す!」

「上等じゃねえか!」

 ランスとレイは魔物兵をそっちのけで争いを始める。

「全く…何をやっているのだか」

 そんなランスとレイを呆れた顔で見るスラルだが、そのスラルに向かって魔物兵が集まってくる。

「女だ! それもいい女だぞ!」

「こんな面倒臭い事をやらされてるんだ! 楽しませてもらうぜ!」

 魔物兵は下卑た笑いを浮かべながらスラルに向かって来るが、スラルはそれを鼻で笑う。

「フン、今の我に向かって来るとは…愚かな」

 スラルはそう笑うと、展開していた魔法陣を出現させる。

 ジルとの邂逅で、スラルもまた今の時代の魔法を存分に知る機会があった。

 そこからスラルはジルの得意としていた魔法陣の構築を重点的に覚えた。

「氷雪吹雪!」

 スラルの放った魔法は複数の魔物兵を一撃で凍結させ、絶命させる程の威力がある。

 それに怯んだ魔物兵だが、それでも人間の女を好きに出来るという欲望だけでスラルに向かって来る。

 そして魔物兵がスラルの近くへとやって来た時、

「愚かな」

 スラルの一撃が魔物兵を吹き飛ばす。

「え?」

 小柄なスラルの素手での一撃で吹き飛ばされた魔物兵を見て、他の魔物兵が思わず呆然とする。

 相手は魔法使い、魔法使いというのは接近すれば余裕で捕えられる…そのはずだった。

(やはりか…今の我にはほんの少しだけ魔王の力が残っている。と、言っても出涸らしも同然だがな)

 血の量だけで言えば1%にも満たない量だが、それでもスラルはその恩恵を存分に発揮していた。

 元魔王故に、血の使い方は十分に理解している。

「ランス! レイ! 退いていろ! 再びこの技を使える日が来るとはな…ソリッドブラスト!」

 そしてスラルが魔王時代から使っていた必殺の魔法が放たれる。

 その光は数多の魔物兵を飲み込み、そしてその余波を受けた者すらも吹き飛ばす。

 光に飲み込まれた者は消滅し、一部の生き残った魔物兵達は何とか立ち上がろうとする。

「な、なんだこれは…?」

「ち、力が入らない…」

 スラルのソリッドブラストの余波を受けた者は、皆その力を大幅に削られる。

 これこそが魔王時代にスラルが生み出した必殺の魔法であり、スラルのオリジナルの魔法の力だ。

「ふむ…やはりあの時程には力が及ばぬか。まあそれも無理は無いか。今の我は人なのだからな」

 悠然と微笑むスラルを見て、魔物兵達は今ようやく自分達がとんでもない人間を相手にしている事を自覚する。

「おいランスっつったな。取り敢えずはこの邪魔な奴等を何とかしねえか。うざったくてしょうがねえ」

「フン、俺様からすればお前も魔物兵も同じ邪魔者だ。だが確かに邪魔だな」

 ランスとレイは一度争いを止め、魔物達を指揮している魔物将軍に目を向ける。

「そうだな。あの魔物将軍を先にぶっ殺した方が勝ちだ」

 そしてそのままランスは魔物将軍目がけて突っ込んでいく。

「上等だ! だったら俺が先にぶっ潰してやるよ!」

 再びランスとレイは魔物兵に突っ込んでいく。

「うぎゃーーーーーー!!」

「ひ、ひいいいいいいいい!?」

 まるで竜巻にでも襲われたかの如く、魔物兵の体が千切れ飛び、吹き飛ばされる。

「ま、魔法だ! 魔法で動きを止めろ!」

「そ、それが魔力が突然霧散して…ぎゃあ!」

 魔物将軍に報告していた魔物兵の体が白い光に貫かれる。

 スラルの放ったスノーレーザーはその直線状にいた魔物達の体を貫き、そしてその余波だけで氷漬けにしていく。

「ば、化物だ!」

「お、俺達は何という奴等を相手にしてしまったんだ…」

 そしてそれから魔物兵達が瓦解するのは一瞬だった。

 ランスとレイはその隙を見逃さず、魔物将軍へと接近する。

「こ、この…人間風情が!」

 そしてお決まりのセリフを吐きながら、その手にしたモーニングスターでランスを攻撃するが、

「…へ?」

 その魔物将軍は宙に舞っていく自分の腕を呆然と見る。

 それはまさに一瞬、自分がモーニングスターを振ったと思ったら、その手は既に遠くへと飛んで行っていた。

「う、うぎゃーーーーーー!!」

 そしてその後でやってくる耐え難い激痛。

 なまじ体が頑丈なだけに、魔物将軍は一瞬で死ぬ事が出来なかった。

 ランスの剣が腹を切り裂き、レイの拳が腹を貫く。

「がはははは! 死ねーーーーー!」

「砕けろ!」

 そしてランスの剣が魔物将軍の首を刎ね、レイの蹴りが魔物将軍の体を砕く。

「に、逃げろー!」

「しょ、将軍が死んだー!」

 そして魔物将軍の死を確認すると、残った魔物兵はそのまま逃げ去っていく。

 魔物兵は確かに強いが、強い魔物の下でないとその統制を維持する事は出来ない。

 こうして魔物将軍さえ死んでしまえば、後は烏合の衆でしか無かった。

「がはははは! 俺様の勝ちだな!」

「ちょっと待て。魔物将軍を殺ったのは俺だぜ」

「何を言っておる。俺様がぶっ殺しただろうが」

「お前こそ寝ぼけてるんじゃねえぞ。どう見ても俺がぶっ殺しただろうが」

 ランスとレイは無言で睨みあい、

「死ねーーーーー!」

「死ぬのはテメエだ!」

 再び争いに発展しようとした時、

「粘着地面」

 スラルの放った魔法で二人は足をとられ、そのまま頭をぶつけあって地面に倒れる。

「はぁ…これはまたとんでもない奴と出会ったものだ」

 スラルは打ち所が悪かったらしく、気絶している二人を見て今日何度目かの呆れたため息をついていた。

 

 

 

 魔人―――それは魔王の下僕でありながら、この世界を好き勝手に生きている絶対的な強者だ。

 無敵結界による絶対的なアドバンテージが有り、さらにはその力も絶大。

 そして何よりも不老不死…それは全ての魔物だけでなく、人間からも畏怖されそして憧れる存在だ。

 だが、その魔人と言えども魔王の命令には絶対服従、そしてこの時代では魔人は好き勝手に人間を殺す事は出来ずにいた。

 それこそが魔王ジルによる人間牧場と魔物牧場があるからだ。

 ジルは魔人に干渉はしないが、魔人から人間に干渉する事も難しい…そんな時代だった。

 だが、そんな魔人の中で今正に人間を蹂躙している存在がいる。

「うぎゃーーーーー!!」

「あーあ…死んじゃった。中々いい具合だったのに」

 大柄な女の魔人が女からその凶悪な蛇を抜いていく。

 そこにはサディスティックな笑みが浮かんでおり、その血に塗れた蛇を愛おしげに撫でる。

 そしてその魔人のベッドには、複数の女の死体が転がっていた。

 それは凄惨としか言えない光景であり、その死体はどれも見るに堪えない姿で転がっている。

 五体が満足な死体は一つも無く、中には明らかに手足が砕かれているであろう無残な姿を晒している。

 魔人メディウサ―――へびさんから魔人になった存在であり、その種族に相応しい残虐さを持った凶悪な魔人。

 魔王ジルによって生み出された魔人は、魔物の中で唯一好き勝手に振舞っている魔人であった。

「そろそろ匂ってきたから始末させないとね。あー、めんどくさい」

 気怠そうにしながらもメディウサは服を纏う。

「それにしてもジル様はいい魔王よね。私には少しだけ好きにしていいだなんて」

 魔人メディウサは、本来は許されないはずの人間への拷問、そして殺しを見逃されている魔人だ。

 だからこそ、こんな非道な事を堂々とやってのけている。

「さーて…今度はカラーとかもいいかな」

 メディウサは何処までも好き勝手に振舞い、そして好きなように人間を殺す唯一の魔人。

 だから彼女は知らない…何故ジルはメディウサという魔人を作ったのか、そしてどう思われているのか、その未来さえも。

 




魔人は何年に生まれたか分からないのが話を作るのが難しい
だからその辺はある程度適当になります

スラルのソリッドブラストってどういう技なんだろうなあ…
その辺はどうしても描写が曖昧になります
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