ランス再び   作:メケネコ

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2代目妖怪王

狂星九尾・末知女殿はこの状況に自分自身非常に困惑していた。

何故、このような状況になっているのか分からない。

しかし、それでもこうしなければいけない何かが自分にはあった。

「おいランス。あの狐、ついて来てるけどいいのか?」

「構わん。好きにさせろ」

レイは倒れているモンスターを蹴飛ばしながら「そうか」とだけ呟く。

JAPANに来てもやはり野良モンスターは非常に多い。

多いのではあるが、やはり魔軍に比べるとその力は脆い。

一部の上級モンスターであるバルキリーや雷太鼓、サイクロナイトといった強いモンスターとは中々会えない。

それに野良モンスターは全く統制が取れておらず、ほぼ力押ししか出来ないので、それ以上の強さで押しつぶせば相手にならないのだ。

しかもここに居るのは何れもレベルが70を超えている、人間の中でも指折りの戦力だ。

そんな強さを持つのが4人もいれば、野良モンスター程度では相手にならないのはある意味当然だ。

そしてそんなランス達を見る視線が一つある。

それこそが、先にランス達に助けられた(本人は助けられた事を断固として否定している)2代目妖怪王、末知女殿という訳だ。

「ランス、どういう意図を持っている? お前の事だから何か下らない魂胆があるのだろうが…」

スラルが若干呆れた顔をしながらランスを見る。

この光景はかつての黒部と殆ど同じ光景だ。

黒部も、ランスと戦ってからはこうしてランスの後をついて来ていた。

あの時はランスは黒部が面白い奴という理由と、足りない戦力を補うために黒部を仲間に加えた。

その黒部の時と同じ状況にありながら、ランスは2代目妖怪王にはあえて声をかけていなかった。

(あいつは今俺様に興味を持っているからな。だったらその内あいつから俺様と一緒に行きたいと言うはずだ)

声は女性のものなので、その時に人間の姿になるように言えば女性の姿になるにちがいない、とランスは結構安易に考えている。

所謂ランスの自分の都合の良い想像なのだが、ランスは本気でそう考えているのだ。

「ちらっ」

ランスと末知女殿の視線が合うと、末知女殿はすぐさま物陰に隠れる。

「何なのかしらね。アレ」

「がはははは! その内あいつの方から声をかけて来るから気にするな」

確信したかのようなランスの笑いに、末知女殿は内心で毒づく。

(何を勝手な事を言っておる、人間が! 2代目妖怪王である我が人間に近づくと思うてか!? 何のために陰陽師共が我を作ったと思っている!)

末知女殿は人間達の都合によって作られた妖怪だ。

そしてその行動は、JAPANが荒れた時は自らがその障害となり、JAPANの者達が一つに纏まる上で打倒される事。

考えれば考える程下らない理由だ。

(魔王が…そして魔人がいる限り、我等は露ほども役に立たぬよ)

今回魔人と戦った事で、末知女殿は嫌という程力の差を思い知った。

初代妖怪王、黒部がその魔人と真正面から戦った事は、本当の意味で偉大な事だと痛感した。

(作られた我よりも余程『王』の名に相応しい…)

黒部は今でも妖怪達から尊敬される偉大な王…そしてその王の最期を看取ったのがあの人間のようだ。

その証拠が、あの人間が手に持っていた妖怪王の牙だ。

オロチの牙から生まれた妖怪である黒部は、妖怪の中で唯一大陸に足を伸ばせる存在だ。

黒部の牙をあの人間が何処からか手に入れた可能性はあるが、あの人間が言っていた黒部の容姿は、正に自分が耳なし猫から聞いた姿そのものだ。

(不思議な人間だ…一体何者なのだ?)

だからこそ、末知女殿はランスに興味を覚えてしまった。

それは先代の王である黒部が認めたであろう存在…それも藤原石丸に仕える前から、ある人間と手を組んでいたという逸話。

それらを組み合わせれば、あの人間が例の人間であってもおかしくは無い。

勿論年代が違うという疑問もあるのだが、あの魔人とその使徒があの人間を知っているようだから、それは何かしらの手段があるのではないかとも考える。

この世界は自分の物差しでは計れないものだとつくづく思い知らされた。

「そんなコソコソしてないで、言いたい事があるならこっちに来たら?」

「あ、おいそう言うな。ああいうのは自分から話させる事に意味があるんだぞ」

レンの言葉をランスが制止するが、当然相手に聞こえているのであれば意味は無い。

末知女殿は少し憮然とした顔をしながらも、ランス達の所に姿を現す。

「…奇遇じゃな」

「奇遇も何も既にお前と出会ってから1週間は経っている。その間、お前はずっと我らの後について来ていただろう」

「………」

スラルの指摘に末知女殿は口を噤む。

自分の尾行は完全に相手にばれていたようだ。

「ま、まあいい。お前達に聞きたい事がある」

末知女殿はある意味覚悟を決めて人間達に話しかける。

「何だ。今の俺様は機嫌がいいからな。答えてやろう」

ランスは自分の予想とは違った展開ながらも、こうして相手が話しかけて来た事に内心で笑みを浮かべている。

その辺りはランスとしては一応は駆け引きのつもりだ。

(俺様の女に妖怪はいなかったからな。あの時は、あの子には可哀そうな事をしたからな)

玄武城で出会った妖怪の子の時は、ランスもまだ経験が足りなかったために、彼女を殺してしまった。

あの時はそれでいいと思っていたが、今にして思うと勿体無かったと思う。

ランスは目の前に居る狐が、本気で人間の姿になって来ると信じている。

そんな奇妙過ぎる確信がランスにはあった。

「で、何が聞きたい」

「先代の妖怪王だ。黒部殿はどんな妖怪王だったのだ」

それが末知女殿がどうしても聞きたい事。

誰もが黒部を『偉大な王』と呼び、妖怪で有りながらもJAPANの民からも慕われた存在であるという事。

そんな先代と比べで、今の自分の存在意義とは何なのか…そんな疑問が常に頭によぎっていた。

そしてそれを答えられるであろう『人間』が存在して居る。

本来はあり得ぬ出会い故に、末知女殿はどうしても聞かずにはいられなかった。

「黒部か。まあ安全な奴だったな」

「…今一要領がつかめぬな」

この男の言う『安全』という言葉がどういう意味なのか、末知女殿には今一つ理解出来ない。

「まあ確かに強かったな。そこは役に立ったな」

「我よりも強いという訳か」

「少なくともお前よりは強いな。レキシントンとやりあってたくらいだからな」

ランスの言葉に末知女殿は沈黙する。

確かにその言葉には末知女殿本人が納得してしまっているからだ。

あの魔人は恐るべき強さだった。

無敵結界が無くても、自分では手も足も出ない強さだっただろう。

それを考えれば、この男の言葉も無理は無いものとして受け止められる。

「強さも、心も、全てにおいて強い者だった。我にとっても友と呼べる存在だ」

「友…だと?」

「ああ。尤も、そう口で言ってもお前には理解は出来ないだろうがな」

この銀色の髪の女が言う通り、黒部の事を『友』と呼ばれても末知女殿にはそれは分からない。

だが、この者達が黒部の牙を持っていたというのは事実だ。

「良い奴…だったのかしらね。私にはそういうのは良く分からないけど。でも、一緒に居て楽しい奴だったわ」

「楽しい、か。黒部殿がか」

妖怪王と一緒に居て楽しいというのは良く分からないが、一つ言えるのは、この人間達は黒部の事を悪く思っていない。

それどころか、良い印象を持っているように感じられる。

末知女殿はもう一人の人間に視線を向けるが、その男は、

「俺は知らねえよ。ただ、戦ってみたかったっていう感想が有るだけだ」

紫色の髪をした人間はどうやら黒部の事を知らないようだ。

だから末知女殿も取り敢えず紫色の髪の男を無視する。

「お前達に聞きたい。妖怪王とは何だ?」

それこそが末知女殿がずっと抱いていた疑念。

JAPANが戦乱にまみれ、血で血を洗う争いが起きた時、末知女殿が妖怪王として立ち上がり、人を一つに纏め上げる。

陰陽師達にそう言われたが、末知女殿にはその意味が理解出来なかった。

今のJAPANの現状で、人と人が争う事などほぼ不可能だ。

人はそれだけ今を生きるのに必死だからだ。

それならば、何故陰陽師達は自分を作ったのか、そして何故妖怪王として動かねばならないのか。

その答えは未だに出ていない。

「なんだ。お前、好きで妖怪王やってないのか」

「………」

ランスの言葉に末知女殿は何も答える事は出来ない。

確かに末知女殿は好きで妖怪王をやっている訳ではない。

何故なら、彼女は生まれた時から妖怪王になるべく作られたのだから。

彼女自身、妖怪王とはそういうものだと思っていた。

だが、一体の妖怪から黒部の事を聞き、自分という存在に疑問が出て来た。

「我は…生まれながらの妖怪王だ。いや、妖怪王として作られた。好き嫌いという感情は無い。言わば我にとって『妖怪王』とはただの役職に過ぎない」

末知女殿はそれから自分の生まれた…いや、作られた経緯を話し始めた。

それは本来であれば話す必要は無かったのかもしれない。

だが、この人間達はかつての妖怪王を知っている、それが末知女殿の口を軽くしてしまった。

末知女殿の言葉にはスラルは何も言う事は出来ない。

(…そうか。この妖怪もまた、我と同じ様に生まれながらにしての『王』なのか)

自分も生まれながらにしての『魔王』だ。

それ以外の自分を考えた事も無かったが、今はこうして『人』としてランスと共に旅を続けている。

(彼女は…ランスに出会えていない頃の我…いや、我は世界最強だった。だが彼女はそうではない)

それがどんなものなのかは、スラルも想像する事が出来ない。

同じ『王』でも、スラルでは彼女に何て口を開けばいいか分からない。

そしてその話を聞いていたランスだが、彼女の言葉にいよいよある種の確信を抱いていた。

「…お前、石から出来たんだよな? えーとなんちゃら石」

「殺生石だ。我はそれから作られた」

(うん、決まりだ。やっぱりこいつがお町さんか)

彼女の話を聞いて、ランスも確信を得る事が出来た。

この狐の妖怪こそ、あの政宗の嫁の一人であるお町さんだと。

そしてランスは内心で邪悪に微笑む。

(今の時代にあの目玉はいない…ならば、お町さんを俺様の女に出来るという訳か)

ランスは人の女を取る事には躊躇はしない。

自分は取られるのは認めないが、取るのは構わないという非常に身勝手な理論だが、ランスはこれまでそうして生きていた。

勿論、自分が少なからず認めていて、中々接点の無い女に関しては諦める事も有る。

それがパットンの女であるハンティだ。

政宗に関しても、嫁の方が政宗にべた惚れであるため、ランスも手を出すのが難しそうなのと、シィルの事があったので放っておいた。

だが、政宗に出会う前にランスが出会ったというなら話は別だ。

だったら、お町さんを自分の女にするのはランスにとっては至極当然の事なのであった。

「で、お前は別に妖怪王なんぞになりたくなかった訳だ」

「………我は生まれながらの妖怪王だ。それ以外になる事など出来ない」

「なんだそりゃ」

末知女殿―――お町さんの言葉にランスは心底呆れたような声を出した。

なりたくてなった訳では無い、お町さんの言葉はランスにとっては許せないとは言わないが、正直意味不明の言葉でしかない。

「だったらやめればいいだろそんなもん。お前がどんな理由で作られたのかは知らんが、やらなくてもいいならやる必要なんてないだろ。無理にやっても詰まらんだけだろ」

「…勝手な事を」

ランスは辞めればいいと言うが、妖怪王は末知女殿にとっては己の存在意義だ。

それを否定すれば、自分がどうなるか…想像も出来ない。

「大体妖怪王なんて言っているが、お前はただ人間の言いなりになってるだけだろうが。そんなもん妖怪王でも何でもないだろ」

「…!」

ランスの言葉に末知女殿は目を見開く。

『妖怪王を名乗っているが、実際は人間の言いなり』というのは、末知女殿にとっては目をそらしていた現実だ。

「黒部の奴は妖怪王なんて言われてたが、実際あいつは好き勝手やってるだけだぞ。あいつは自分で妖怪王を名乗ってた訳じゃないぞ」

「何だと…?」

「周りの奴が勝手に言ってるだけだと俺様に言ってたぞ。まあその後で帝レースが起きたからあいつも妖怪王を名乗ってたけどな」

黒部は実際に好き勝手やっていた。

『王』と名乗りながらもランスと共に暴れ、戦い、そして楽しんだ。

周りの妖怪達はそんな黒部に自分から付き従っていただけだ。

お町さんの様に、義務感で妖怪王をやっていた訳ではない。

「大体あいつは俺様について来たがってたからな。あいつよりもよっぽど俺様の方が王に相応しいわ! がははははは!」

そう呑気に笑うランスを見て、スラルも苦笑する。

「王に相応しいかどうかはともかく、黒部は確かに我等との旅を楽しんでいた。お前の様に、この世界を恨むような目はしていなかった」

「まあそうね。黒部は人食いの妖怪なんて言っておきながら、実際はキャベツが好きだったしね」

レンもスラルの言葉に黒部の事を思い出す。

最初はランスの事を喰うとか言っておきながら、ランスと行動している時の黒部は本当に楽しそうだった。

「大体『王』なんてのは好き勝手やるもんだろ。誰かに言われてやるんなら、それは只の人形だ人形」

ランスは自分が知っている王族の事を思い出す。

リア・パラパラ・リーザスは王としての自覚も有り、能力も非常に優秀だ。

ランスが関わると大体アホの子になるが、その実ヘルマンに良いようにされていたリーザス国を立て直しただけでなく、豊かな国にした優秀な支配者だ。

ランスと出会うまでは女の子を苛め殺すなど問題もあったが、ランスの知るリアは良い女だし、部下からの信頼も厚い。

だが、確実に言えるのは、彼女は好き勝手やって尚おつりがくるほどに優秀な為政者である。

ガンジーこそ非常に自由な王族の筆頭だろう。

あの親父に関してはもう何も言う事は無いくらいに、自由を満喫しているのかもしれない。

ただ、王族としてアレでいいのかとも思わなくもないが、配下の者が優秀なのでそれはそれでいいのだろう。

シーラに関しては完全にお飾りだが、そのカリスマは絶対的で、ヘルマンを纏めている。

ある意味一番王族らしい存在かもしれないが、彼女も彼女で非常にいい性格をしているとランスは思っている。

「人形…か。確かに我に相応しい立場なのかもしれんな…」

ランスの言葉を受け、末知女殿は自嘲気味に呟く。

(そうだ…我にあるのはただの呪いだ。そして我はその呪いに縛られている…)

「その妖怪王とかいうのは絶対にやらなければならんのか?」

「妖怪を纏める者がいなければ、妖怪もまた好き勝手に動く。まあ今の時代、好き勝手しても何も良い事は無いがな」

GL期には人間は隠れて暮らしており、とても一つに纏まる事など出来はしない。

だからこそ、末知女殿は自分の立場に疑問を抱いているのだ。

「で、妖怪王はどうやったら辞められるんだ」

「辞めたくて辞めれる訳ではないだろう。だが、今の時代では妖怪も一纏めになるのは難しいだろう…魔人も居ることだしな」

「ふーん…じゃあお前も黒部みたいに俺様の部下になればいい。そうすればお前も自由に動けるぞ」

「な、何?」

ランスの言葉に末知女殿は目を白黒させる。

「黒部の奴も俺様の部下だったが、妖怪共からは慕われていたぞ。だからお前が俺様の部下になっても何も問題は無い」

「相変わらずの暴論だな。だが、お前らしい」

言ってる事が非常に滅茶苦茶なのに、スラルは思わず笑みがこぼれる。

ランスはこういう奴で、この世界の常識や決まり事など平気で破ってくる。

それが良い事か悪い事かはともかく、ランスは平気でそういう事を言ってくる。

そこがスラルには悩ましくもあり、好ましくもある。

「………貴様、この妖怪王である狂星九尾・末知女殿を馬鹿にしているのか」

末知女殿はランスを鋭い目で睨む。

だが、ランスはそんなのはどこ吹く風といった感じに自信満々に笑う。

「フン、俺様は黒部も倒した男だぞ。その黒部よりも明らかに弱いお前に負ける道理など無いわ」

「よく言うた! 後悔するなよ! 人間!」

そして末知女殿は殺気を剥き出しにしてランスに襲ってくる。

「がはははは! 妖怪王だろうが主人公には勝てないという事を教えてやる!」

末知女殿の殺気すらもスルーして、ランスは末知女殿を迎え撃つ。

(さーて、ああは言ったが、確かお町さんって滅茶苦茶強かったよな)

ランスも妖怪王と、その嫁達と戦ったが、確かに政宗もその周囲の妖怪達も中々強かった。

流石に魔人とは比べものにならないが、その中でもお町さんの強さは別格だった。

「死ね! 人間!」

そして放たれるのは、当然ながら電撃だ。

「うおっと!」

ランスはそれを何とか避ける。

「がはははは! 中々やるではないか!」

「その余裕が何時まで続くか見てやろう」

そして次々に放たれる電撃をランスは回避する。

その様子を見ながら、スラルとレンは呆れたようにため息をつく。

「ランスの奴。何だってあんな奇妙な戦い方をしてやがんだ?」

レイも、そんなランスの戦い方を見て首を傾げる。

ランスの実力ならば、真正面から突っ切って相手を倒すのは造作も無いだろう。

確かにあの電撃はレイから見ても脅威だが、それだけで止まる程ランスは脆くはない。

「ランスにとっては相手を倒す事が重要じゃなくて、どうやって相手を倒すかが重要なのよ」

「そうだ。全く…あいつは何時も突拍子も無い事を考える」

「あん?」

『相手を倒す事ではなく、どうやって倒すか』という言葉が出て来てレイは首を傾げる。

レイにとっては目の前の居る敵は全て打ち砕く事が全てであり、どうやって相手を倒すかなんて事は考えた事も無い。

「声で分かると思うけど、女の声でしょ? ランスは、あの妖怪をどうにか自分の女に出来ないかって考えてるんでしょ」

「………アレをか?」

改めて末知女殿を見るレイだが、その姿はどう見ても9本の尾を持った狐だ。

「妖怪の中には人の姿に化けれる者も居るし、人間とあまり姿が変わらない者も居る。だからランスとしては、今の妖怪王を倒して、自分の女にしようとしているんだろう」

「…マジかよ」

スラルとレンの言葉を聞いて、流石のレイも呆れたようにランスを見る。

確かに言われてみれば、ランスの顔には笑みが浮かんでいる。

その笑みはこの戦いを楽しんでいるのではなく、この戦いに勝った後のお楽しみを想像している笑みだとこの二人は言ってるのだ。

「呆れた奴だぜ。けど…やっぱりランスの野郎は強いな」

ランスの行動には呆れるしかないが、それでもランスの強さはやはり異常だ。

レイはランスに喧嘩を吹っ掛けようとしたが、ランスはそれには全く乗らない。

非常に楽しい喧嘩が出来ると確信してはいるが、当の本人が全く乗り気が無いなら、喧嘩をしても意味は無い。

それに、こうしてランスと一緒に旅をすると、レイも自分が知らなかった新しい発見をする事が出来た。

それを思うと、こうして旅をするというのも中々悪くないとレイも思うようになってきた。

「確かに彼女は強いだろうが、黒部にはまだ及ばないだろうな」

「そうね。まあランスなら間違いなく勝つでしょ」

スラルとレンの言う通り、明らかにランスが末知女殿を押している。

「貴様! 何処までも我を愚弄してくれる!」

こうまで自分の攻撃を余裕でいなされていると、末知女殿も嫌でも気づかされる。

この男は、間違いなく自分を倒せるだけの力を持っていると。

「うーむ。というか思ったよりも弱いぞ。黒部には全く届かんな」

以前に戦ったお町さんよりも、今のお町さんは格段に弱い。

いや、実力的には変わらないのかもしれないが、今の彼女には余裕が全く無いように見える。

「黙れ! それ以上言うな!」

だが、ランスの言う通り確かに末知女殿には余裕が無い。

言うだけあり、ランスの実力が異常すぎる。

「この…消えろ!」

放たれる電撃をランスは避ける。

これが魔法ならば避ける事は出来ないのだが、避ける事が出来る事を見ると純粋な電撃のようだ。

(うーむ、そろそろか?)

ランスとしては圧倒的な実力差を見せつけて倒すのが良いと考えた。

黒部の時はレダ、スラルと共に必殺技で倒したが、彼女相手にはそんな必要は無い。

だからランスは一気に決着をつけるべく、末知女殿へと向かって行く。

その速度は非常に素早く、末知女殿も目を見開いて何とかランスを迎え撃とうと、特大の電撃を放つ。

目の前に迫る電撃を前にしてもランスは慌てない。

以前にスラルに言われた事、そしてランスが成し遂げた事を思い出す。

それこそが『斬れないものを斬れるのを当然だと思う事』という言葉。

それでランスは、カミーラのブレスすらも斬る事で無効にすることが出来たのだ。

「がはははは! ここじゃー!」

今のランスには迫りくる電撃の何処を斬ればいいのか、感覚で分かる。

「とーーーーーーっ!!」

「な、なんじゃと!? 馬鹿な!?」

末知女殿は目の前の光景が到底信じられなかった。

まさか自分放った全力の電撃を斬る事で無効にしてくるとは想像もしていなかった。

「がはははは! ラーンスあたたたたーーーーーーっく!!」

そしてランスの剣が黒く輝いたかと思うと、それは凄まじい闘気の奔流となって、末知女殿に襲い掛かる。

それは末知女殿には当たらなかったが、その余波だけで末知女殿は吹き飛ばされる。

その威力は、あの魔人の攻撃にも匹敵するのではないかと思わせる程だ。

「俺様大勝利ー!」

「大人げなくないかしら? ランス」

剣を構えて高らかに宣言するランスに対し、レンは呆れながらも吹き飛ばされた末知女殿の所に向かう。

「ほら、動くんじゃないわよ」

そして末知女殿の言葉を聞かずに回復をする。

「…何も言わないのね」

「…何を言えと言うのだ。これほど無様な姿を晒しておいて」

手も足も出なかった。

今の一撃も、まともに当たれば末知女殿は死んでいただろう。

妖怪王を名乗りながらも、一人の人間にも勝てない。

その現実が末知女殿を打ちのめしていた。

「がはははは! 言っただろう、お前は黒部より弱いと」

「………貴様は、本当にあの黒部殿を倒したのか」

今でも信じ難いが、この人間はやはり黒部を倒したというのは信じてもいいのでは無いかと思う。

何しろ自分をこうまであっさりと倒した人間なのだから。

「当然だ。その後で黒部は自分から俺様の部下になりに来たぞ」

「まさか…黒部殿が。先の帝に仕えたあの偉大な妖怪王がか」

(まあ嘘は言ってはいないな。嘘は)

ランスの言葉を聞いて驚いている末知女殿を見て、スラルは少し気の毒な顔をする。

確かに黒部はランスの部下のような事をしていたが、間違いなくランスの方から誘っていた。

あの時は中々に忙しく、自分もまだ肉体が無かったので、戦力的には結構厳しい状況だった。

それらを考えて、ランスは黒部を安全圏の男と判断して、仲間に誘ったのだろう。

ただ、その後の顛末を考えれば確かに黒部はランスの部下だったと言っても間違ってはいないだろう。

「で、お前はどうする?」

「何がじゃ」

「黒部みたいに俺様についてくるか? それなら構わんぞ」

「………」

ランスの言葉に末知女殿は葛藤しているように見える。

ただ、ランスに若干の興味を持っているのは見て明らかだ。

「…何故貴様は我を欲しがる」

『それはお前がいい女になるだろうからだ』と言いそうになるのを何とか引込める。

この妖怪王を相手に、迂闊な事を言うのはランスとしても避けなければならない。

相手が強いと言うよりも、政宗にべったりだった存在であり、ランスとしても少し会話をしただけに過ぎない。

ただ、プライドは高いという事は理解出来た。

そして、同時に依存心も高い女だという事も何となく分かっていた。

「うむ、黒部の奴も俺様に会ってからは人間にも慕われていたからな。だったらお前もそうなればいいと思っただけだ」

(こう言っておけば取り敢えず大丈夫だな、うん。まずはお町さんが自分の意志で俺様について来る事が大事だ。手を出すのはその後だな)

ランスも長い人生の中で、取り敢えず女と見れば即襲うという事は無くなってきた。

勿論極限状態であればその限りではないが、女を自分惚れさせてから、思う存分その体を味わうという事も楽しくなってきた。

(かなみも俺様の女になったし、志津香も最後には俺様に惚れてたはずだ。多分。あいつらはそれこそ年単位で落としたんだ。だったら少しくらい時間をかけてもいいだろ)

「貴様は奇妙な人間だな」

末知女殿は呆れたように言うと、

「だが我はJAPANからは出られぬ。JAPANを出る事が出来るのは黒部殿だけだ。我にはその力が無い」

かつて黒部は妖怪達を率いて、藤原石丸と共に大陸を暴れまわった。

それが出来たのは、黒部がオロチの牙から生まれた妖怪だからだ。

いくら末知女殿が2代目妖怪王と言っても、所詮は石から作られた妖怪、黒部のようにJAPANを出る事は出来ない。

「じゃあこれをお前にくれてやる。これを持ってればJAPANを出られるだろ。確かノワールの奴もオロチの鱗とか言うのを持ってればJAPANから出られると言ってたな」

ランスはそう言って黒部の牙を末知女殿に渡す。

「ほれ、持ってろ」

「………」

末知女殿は黒部の牙をその獣の手で器用に握る。

改めてこの牙こそが、初代妖怪王黒部の物だという事を感じる事が出来る。

「………いいだろう。我も黒部殿と同じ様に、人間という存在を見たくなった。ランスと言ったな。貴様について行ってやろう」

「がはははは! 素直にそう言っていればいいのだ! あ、そうだ、妖怪は人間の姿にもなれるだろう。お前も人間の姿になっとけ。そっちの方が都合がいいからな」

「郷に入れば郷に従えか。貴様の言う事にも一理ある」

ランスの下心満載の言葉に、末知女殿は同意する。

その言葉を聞いて、スラルとレンは「やっぱりこうなった」と言わんばかりの表情を浮かべる。

本当にランスは女の事になると口が回ると改めて思い知った。

「これでいいだろう」

「…は?」

そして末知女殿が人の姿になった時、ランスは口をあんぐりと開けて固まる。

「人の姿になるのは久々だが…やはりかってが違うな」

「いや、それはいいのだが…何だその姿は」

「貴様の要望通り、人の姿になった。それの何が不満だと言うのだ」

「………え? 確か俺様の記憶のお町さんは巨乳で俺様と同じくらいの身長があったはずで…」

ランスは目の前にいる人の姿になった末知女殿…お町さんを見る。

「何か問題でもあるか?」

しかし、目の前にいるのはランスが良く知るお町さんとはかけ離れていた。

どう贔屓目に見ても、ミル・ヨークスと同じくらいの大きさしかない。

ただ、頭から伸びている狐の耳と、その豪華な尻尾だけはランスの良く知るお町さんのソレだった。

「だってお町さんって滅茶苦茶いい女で、おっぱいも凄い大きくて…」

「貴様が何を言っているのか分からんが、まだ生まれてから10年程の存在に何を言っている」

「じゅ、じゅうねん…!?」

「そうだ。我はまだ生まれてからその程度の時間しか経っておらぬ。貴様の言う通り、我は未熟な存在よ」

自嘲的に笑うお町さんを見て、ランスが完全に固まる。

「お、お町さんがまだそんなちんちくりんだなんて…お、俺様の野望が…」

石化して少し涙目になっているランスを見て、

「ぷっ…あははははははははは!」

「あははははははは!」

「ククククククク…! こいつは傑作だぜ」

スラル、レン、レイが笑う。

「我が何かおかしいのか?」

「いや、あなたが可笑しいんじゃなくてね。ランスがね…あははははははははは!」

レンは堪えきれないといった感じで大きく笑う。

ランスとは長い付き合いだが、まさかこんなショックを受けているランスを見るのは初めてだ。

「ランス、世の中は全てお前の思う通りにはいかないという事だな。ククク…はははははは!」

スラルはランスの目論見がご破算になった事を正確に把握し、笑いを堪える事が出来ない。

ランスにしては見事な甘言だったとある意味感心したが、まさかこんな結末が待っているとは思わなかった。

「ランス、お前ロリコンってやつか?」

レイに関しては最早完全にランスを煽っている。

暫くの間ショックを受けて固まっていたランスだが、

「だーーーーー! やかましいんじゃー!」

結局は何時もの様に怒りを爆発させ、どうにもならない現実を嘆くしかなかった。

こうして2代目妖怪王、末知女殿もまた数奇な運命からか、ランスと行動を共にする事になった。

 




妖怪の技能と限界レベルがランス10で無くなったのが痛い
おかげでお町さんが使っているのが魔法かどうか分からなくなってしまいました
色々と悩みましたが、ゲームの都合上で魔法攻撃を使っている、という事で話を進めてもらいました

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