ランス再び   作:メケネコ

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困った時は神頼み

「さあ、お前はどちらを選ぶ? ランス」

 真剣な顔でランスの目を覗き込むスラルを見て、

「何言っとるんだ。そんなの決まってるだろうが。どんな手段を使おうが、最終的に目的を達成すればいいんだ」

「…何?」

「スラルちゃんは元魔王だからか、基本的には力押しだな」

「う…」

 ランスにそう言われて、スラルは思わず呻いてしまう。

 臆病で慎重と言われようとも、基本的にはスラルには絶対的な力があったのだ。

 例え無敵結界が無くても、魔王はこの地上においては頂点に立つ存在なのだ。

 尤も、それで終わらないのがルドラサウム大陸ではあるのだが。

「俺様が強くなるのは当然だ。だがまあスラルちゃんの言う通り、確かに魔人の無敵結界は邪魔だな…」

 ランスにとっては魔人は確かに厄介だが、倒せないほどでは無いという認識だ。

 流石にノスやカミーラ、ザビエルといった強力な魔人もいたが、それをランスは何とか切り抜けてきたのだ。

 勿論それはマリアや志津香、そして時にはリック、パットン、上杉謙信等といった世界有数の猛者達の協力があってこそではある。

 だが、それでも魔人に対する貢献度はランスが断トツだろう。

 しかしそれも魔剣カオスという、魔人の無敵結界を斬りつつ、魔人に対して絶大な威力を持つ剣をランスが扱えてこそだ。

 それが無いのでは、いかにランスでも魔人に対抗することは出来ない。

「で、そのバスワルド…あの姉ちゃんだな、その力を使えば無敵結界を無視出来るんだな」

「それは間違いない。あの力を使って、魔人レキシントン、そして魔人トルーマンに傷をつけたからな」

「ふーん…」

 ラ・バスワルド…それはランスがカミーラ達と共に戦った相手で、最後はどうなったのかはあんまり覚えていない。

 ただ、目を覚ました瞬間にはクエルプランが居て、そしてあのバスワルドを好きにして良いと言われたような気がする。

 だからHしたのだが、生憎とバスワルドはマグロだった。

 正直、体は抜群だったが反応が無いので今一楽しくなかった。

「カミーラ達と協力したが…そういや何かカミーラ達の動きがおかしかったな…」

 何とかランスの剣がバスワルドに突き刺さったが、その過程においてカミーラ達の動きが何時もと違っていたような気がした。

 何処となくやりにくそうな雰囲気が魔人達の間にあった。

 ランスは何も問題は無かったが、魔人達の間には何かあったのかもしれないとランスは感じた。

(うーむ…あの力か。確かに普段とは全く違う強さは感じる事は出来たな)

 魔人レキシントン、魔人トルーマンに放った一撃は、ランスがこれまでに感じた事の無い一撃だったのは体が覚えている。

 ただ、威力は十分でもレキシントンには寸前に避けられ、トルーマンに対しては完全にトドメの一撃になってしまった。

 なので、ランスとしてはその力を存分に発揮できてたかと聞かれれば、首を傾げざるを得ない。

「我が制御を手伝った場合、我が無力になる…というのは避けたい。ならば、ランスが使いこなせるようになれば良い」

 スラルとしても悩ましい問題だが、やはり肉体があった方が融通が利く。

 それに、スラルではバスワルドの力を制御できるかと聞かれれば、恐らくは不可能だろうとも確信している。

 その才能がスラルには無いのだ。

(相性が良くないとも言うべきか…無理矢理バスワルドの力を付与しても、制御だけで手一杯になるからな)

 もし暴発すれば、使い手であるランスすら巻き込んでしまう力だ。

 一太刀ならば問題無いが、その一太刀で魔人を倒せるかと言えば難しいだろう。

「これが男なら力は絶対に借りんが…バスワルドはいい女だったからな。うむ、女ならば問題は無いな」

 ランスは何時もの様にがははと笑うと、そのまま立ち上がる。

「レベルを上げるついでにやってみるか」

 レベルを上げればクエルプランからの褒美も近づく。

 普段ならば面倒くさいと思うレベル上げだが、あの絶世の美女の褒美に加え、魔人を倒す過程ならばランスとしては何も問題は無い。

 女が関わっていれば、どんな面倒な事でもやり遂げるし、絶対にチャンスを逃さない。

 それがランスという人間なのだ。

 

 

 と、意気込んでいたランスだったが、突然の壁にいきなりぶち当たっていた。

「ラーンス…あたたたたーーーーーっく!!!」

 ドーーーーン!!! と音を立てて地面が抉れ、衝撃波だけで無数のモンスターの体がバラバラになる。

「…相変わらずもの凄い威力じゃな」

 それを見てお町は感心したような、呆れたような声を出す。

 傍から見れば明らかに常軌を逸した力とも言える光景に、ランスは非常に不満そうな顔をしていた。

「なんだ。苛立ってんのか?」

 その様子を見たレイは若干不思議そうにランスに尋ねる。

 ランスは結構嬉々としてモンスターと戦う一面がある…ようにレイは感じられていた。

 戦いを楽しむというよりは、暴れるのを楽しんでいるという感じだったが、ここ最近はイラついている。

 誰かに対して苛立っているというよりは、何か自分の思い通りに行かない事に対しての苛立ちではあるのだが。

「ひ、ひーーーーー!」

 ランスアタックのから辛うじて逃れた…いや、ランスアタックから何とか復活できたこんにちわ―――いや、こんばんわが悲鳴を上げて逃げる。

「フン」

 そんなこんばんわに対してランスは剣を腰に構えると、

「ランススラーッシュ!」

 そのまま目にも止まらぬ速さで剣を抜き放つ。

「うぎゃああああああ!」

 ランスからは剣の届かない位置に居たはずのこんばんわの体が真っ二つになる。

 あまりに威力が有り過ぎたので、斬られたはずの下半身だけが走っていく有様だ。

「…凄いの」

「…ケッ!」

 驚嘆の声を出すお町に対して、レイは非常に不満気な顔をしている。

「驚いたわ。あの時の技…ものにしてたのね」

「俺様にかかれば余裕だ余裕。だが、全く上手くいかんぞ。おいスラルちゃん! どーなってやがる!」

「そうは言われてもな…」

 感心したレンの言葉に、ランスは少し得意気な顔をするが、その顔は直ぐに不機嫌になる。

 そして自分の剣に向かって怒鳴ると、その剣の中からスラルの声が聞こえる。

「あれからまだ1週間だ。そう簡単に上手く事が運ぶ訳が無いだろう」

「まだだじゃない。もう1週間たっとるんだ! おかしい…俺様は天才のはずだ。その俺様が1週間悩んでも欠片もその力を発揮できんなどありえんぞ」

 ちなみにランスは本気でありえないと考えている。

 ランスの必殺の技であるランスアタックもまた、ランスが1週間悩んだ末に生み出した必殺技だ。

 最初はまだまだだったが、それを使っていくにつれてどんどん精度が上がっていった。

 そして同じ年に鬼畜アタックすらも生み出した。

 勿論最初は鬼畜アタックにはデメリットもあったが、その年の内に鬼畜アタックも完成させた。

 そんな自分が未だにラ・バスワルドの力を発揮できない。

 これはランスにとっては由々しき問題だった。

「ソウルブリンク!」

 スラルは呪文を唱えると、霊体から肉体へと戻る。

「だが、確かに欠片もその気配が無い…ランスが魔法を使えないのが影響しているのか? いや、そもそもバスワルドの力は魔法ではない…神の力となれば使えないのも無理は無いのだが…」

 そもそも2級神であるラ・バスワルドの力を人間が使いこなす事自体が非常に無理があるのだが、ランスはそもそもバスワルドが2級神である事すら知らない。

 分かっているのは、自分と戦った非常に美人だけどマグロな神様の力が自分の剣に宿っている、その程度の認識だった。

 だからこそ、ランスは自分という天才が何の成果も得られない事に段々と苛立ってきた。

「レン。お前は何か無いか?」

 スラルの言葉にレンは肩をすくめる。

「無茶言わないで。私みたいな下級がラ・バスワルド様を何とか出来ると思う?」

「…そうか」

 レンの言葉にスラルは難しい顔を浮かべるだけだ。

「スラルちゃんは結構な間、そのバスワルドとやらと一緒に過ごしてたんだろ。何か無いのか」

 スラルは幽霊の間はバスワルドと共にランスの剣の中に居た。

 だからこそ、バスワルドの力をランスの剣に付与させるという手段をとる事が出来たのだ。

 が、

「…悪いがアレで手一杯だ。我に付与の力があるからこそ、一太刀が出来ると考える事も出来るが…ただ、いくら付与の力があろうとも、バスワルドの力を制御できるとは思えん。我がかろうじて使えるのも、元魔王という事が関係しているのかもしれぬ」

 スラルからはランスの求める回答は出てこない。

 だが、ランスもそれでスラルに八つ当たりするような事はしない。

 ランス自身もよく理解している故に、何も言う事が出来なかった。

(ミラクル辺りがいれば…いや、あいつは色んな意味でダメだな。クルックー辺りなら何か知ってたかもしれんな)

 法王であるクルックーなら何か知っているかもしれないが、流石に今いない人間を頼る訳にはいかない。

(確かあそこにはAL教の本部があるから…そういや法王って奴もいるのか?)

 法王とは、AL教という宗教団体のトップであり、世界有数の権力者であるとも言える。

 ランスも次期法王を決める争いに巻き込まれた結果、ランスの女であるクルックーが選ばれた。

 その後で色々と争いもあったのだが、兎に角法王というのはもの凄い偉いようだ。

 パットンの即位式にもクルックーは法王として参加していた。

(だがなあ…)

 問題なのは今の時代だ。

 何しろこの時代はまさに魔物の全盛期、人間の町すらも碌に見つからない状態だ。

 見つけたとしても、非常に陰気くさくてランスとしても長居をするのは真っ平の状態だ。

 それに消耗品の貯蓄もままならない状態なら、下手に人間の町を探すのも躊躇われてしまう。

「ふむ…ランス。何かヒントのようなものでもないのか?」

「ヒント…うーむ、そんなもんはあるのか…」

 お町の言葉にもランスは首を捻る。

 確かラ・バスワルドとはカミーラやメガラス、そしてケッセルリンクと一緒に戦い、そして色々とあったのだ。

「まあとにかく手探りでやるしかないな」

 スラルの言葉にランスは不機嫌な顔をしながらも、歩き始めた。

 

 そしてその夜、ランス達は魔法ハウスで何時もの様に食事を終わらせ、各人思い思いの時間を過ごしていた。

 レンとお町の二人は一緒に食器を洗っている。

 ちなみに、今ランス達の食事を用意しているのはレンとお町の二人だ。

 ランスとレイは家事なんてガラではないし、スラルは絶対にキッチンに立たせてはいけない。

 そうなると、必然的に食事を作るのはこの二人だ。

 幸いにも、レンは下界の暮らしで料理をある程度覚えたようで、それこそ無難にこなす事が出来ている。

 意外にもお町は家事の覚えが非常に早く、こうして皆の分の料理を作る事も出来る程だ。

 ただ、身長が足りないのでその辺りはどうしても時間はかかってしまう。

 ランスはフリフリと動くお町の尻尾を見ながら、この状況を考えていた。

(正直手詰まり感が凄いぞ。全く切っ掛けもつかめん。この俺様がまさか何も出来んとは…)

 ラ・バスワルドの力を使えるようになるとは意気込んでいたものの、進展は全くのゼロだ。

 ただ、昔ランスが使おうとしていた技…象バンバラの魔人であるコーク・スノーとの戦いの最中で使った一撃は形になってきた。

 ランスの強烈な一撃が空を裂き、遠く離れた相手すらも切り裂く必殺剣だ。

 必殺技のランスアタックがあるのだが、それはそれ、これはこれで、取り敢えず使える技はあればいいという考えでランスは適当にその必殺技を編み出していた。

 それこそがまさに剣の天才の証であり、伝説に名を残す程の技能であるLV3技能の力なのだが、ランスにとってはそんなものはどうでも良かった。

 どんな必殺技が有ろうとも、相手を倒せなければ意味は無い。

 この必殺剣も、魔人の持つ無敵結界の前では意味を成さないのだから。

 ランスはスラルの方を見るが、彼女はJAPANから持ち帰った書物に目を通している。

 JAPANから大陸に渡った後は、スラルはその書物を手に格闘をしていた。

(そういや何で俺様の剣の中にバスワルドだったか…そんな神とやらがいたんだっけ)

 ランスはバスワルドとエッチした事は覚えているが、その時の過程をちょっと忘れてしまっていた。

 何しろバスワルドと戦ってから既に長い時間が経過しており、その間にあった出来事が濃厚過ぎて、ランスとしても記憶が曖昧になっていた。

(えーと確かあの時…あ、そーだ。クエルプランちゃんが居たんだ。ん? クエルプランちゃん?)

 クエルプランはランスのレベル神であり、ランスのレベルが上がればどんどんとサービスしてくれる有難い神様だ。

 確かなんちゃら管理局だとか言ってた気がするが、ランスにとってはクエルプランは非常に美しい美女という認識でしかなかった。

 だが、確かクエルプランはかなり階級の高い神だと言っていたような気がする。

 階級だの何だのとランスは気にしては居なかったが、もしかしたら彼女に聞くのが良いのかもしれない。

「がはははは! 流石俺様だ!」

「え、何どうした突然」

 突如として立ち上がったランスを見て、スラルは少し驚いて本から目を離す。

 食器を洗っていたレンも怪訝そうにランスを見ている。

 お町も突然声を出したランスに対して少し驚いている。

「分からないなら分かる奴に聞けばいい! カモーン! クエルプランちゃん!」

 ランスが指を鳴らすと、眩い光と共にクエルプランが現れる。

「お久しぶりです、ランス。レベルアップですか?」

「おお…」

 現れたクエルプランにお町は思わず見とれてしまう。

 そこにいるクエルプランは、まさに完璧ともいえる美を持っていたからだ。

「うむ、まずはレベルアップからだ」

「分かりました」

 クエルプランの唱える呪文はその声すらも美しい。

 思わず聞き込んでしまうお町の頭をランスが乱暴に撫でる。

「…なんじゃ」

「お前、クエルプランちゃんみたいのがいいのか?」

「…いや、何と言うか…それこそ人智を超えた美しさでな…我も思わず見惚れてしまった」

 お町は少し恥ずかしそうに答える。

「終わりました。ランスはレベルが77になりました」

「うむ、当然だな」

「スラルはレベルが76になりました」

「順調と言った所か。そろそろ才能の限界も見えてくる頃だが…」

「お町はレベルが30になりました」

「…我にもレベルというのがあったのか」

「レンはレベルが87になりました」

「な、何だと!?」

 レンの突然のレベルの上昇にランスは思わずレンを見る。

「神格を取り戻したんだから当然よ。むしろ今までが低かったのよ」

(まあそれでもかなり上がった方よね。あれだけ戦えば当然といえば当然か)

 得意気に胸を張るレンだが、その内心は自分でも驚いている。

 まさかここまでレベルが上がっているとは思っていなかった。

 それもこの地上で大きな戦いに巻き込まれ、ドラゴンや魔人とも争った結果だろう。

「レベルアップは完了しました。それでは…」

「あ、ちょっと待て。クエルプランちゃん」

 クエルプランが天界に戻ろうとするのをランスが止める。

「何でしょうか? レベル神としての褒美は、以前に渡しましたので今回は差し上げる事は出来ません」

「ああ、別に褒美とかは今はいい。前にクエルプランちゃんが言ってた…バスワルドとかいう奴か。その力がこの剣にあるらしいのだが、使い方が分からん。だから教えろ」

「…えーと」

 ランスの言葉にクエルプランは目をぱちくりさせる。

 ランスの持つ剣に2級神ラ・バスワルドの力があるのは既に知っている。

 クエルプランとしてはその事に関しては問題があるとは思っていない。

 決めたのは自分の遥か上の存在であり、何より今の創造神は波乱を望んでいる節がある。

 ランスの存在は完全なイレギュラーでは有るが、その存在はむしろ神にとって喜ばしいものだ。

(ですが…流石に2級神の力となるとどうでしょうか)

 クエルプランは考える。

 魂管理局としての立場で考えれば、正直どうでも良いと言うのが答えだ。

 そこまで干渉する立場も権限も無いし、もし仮にランスと出会わなければ、こうして地上に出て来る事も無いのだ。

 それに、こういう事を決めるのは人類管理局の1級神ALICEだ。

 流石に彼女の権限を越える事をクエルプランが決める訳にはいかない。

 だが…クエルプランという存在の立場で言えば…少しくらい大目に見てあげたい気持ちもある。

 ランスの存在を創造神が喜んでいるというのもあるし、ラ・バスワルドに関しては上の神々も扱いに苦心しているという事も聞いた事がある。

 それに、ランスが持っているのはバスワルドの力のほんの僅かの欠片ではあるし、それを手にしたのもランス本人の力だ。

 そして…今の魔王との出会いと別れを考えれば、ヒントくらいは与えても問題は無いのではないか…とも思ってしまう。

 しばらく考えていたクエルプランだが、

「申し訳ありません。それに関しては私には権限が無いので何とも言えません。ですから、少し待っていてください」

 そう言うとクエルプランの姿が消える。

 そして消えたと思ったら、すぐさまクエルプランが姿を現す。

「お待たせしました」

「…いや、待ってないぞ。というか早いぞ。もう決まったのか」

 クエルプランが消えたのはほんの数秒、そんな短時間で一体何が決まったと言うのか、誰だって疑問を抱くだろう。

「結論を言いますと、私の口から直接は言えません。ですのでここ…人間の世界で言うカイズの地下に来てください。そこに辿り着く事が出来れば…ランスの願いは叶うかもしれません」

「随分と曖昧だな。保証はあるのか?」

 スラルの言葉にクエルプランは顔色一つ変えない。

「私の口からはこれ以上は何も言えません。後は…ランス、あなた次第です」

「がはははは! それだけでいいなら余裕だ余裕! それに元々そこには行くつもりだったんだ。都合が良いとはこの事だな」

 何時もの様に笑うランスを見て、クエルプランの唇が少しだけ動いたのを見た者は誰も居ない。

 寧ろクエルプラン本人がそれを自覚して驚いたほどだ。

「それでは…待っていますよ、ランス」

 そしてクエルプランは少し焦ったかのようにしてその姿を消す。

「カイズの地下か…AL教団の本拠地。一体何があるやら」

 スラルが魔王だった時代ではあまり聞かなかったが、魔王ナイチサの時代には既に巨大な宗教団体が出来ていた。

 知っているのは、AL教があるからこそ神魔法という素質が生まれたという事だ。

 スラルとしても非常に興味深い。

「カイズの地下か…大丈夫かしら」

 レンは少し不安そうな表情を浮かべる。

 そこに何があるか、エンジェルナイトであるレンは当然知っている。

 何しろ、自分にランスの護衛を命じた1級神であるALICEが居る所だからだ。

 ただ、クエルプランがそこに行けばヒントがあると言うのだから、決して悪い事にはならない…といいなと思ってしまう。

「うむ、やはり俺様の直感に間違いは無かったな。これは幸先が良くなってきたぞ。よーし、今日は3Pじゃー!」

 ランスは上機嫌にスラルの体を肩に担ぐと、そのままレンの腰に手を回す。

「おいランス…我はこの本を読むので忙しいのだがな」

「本なんて何時でも読める。だがしかーし! この俺様の誘いを断る事は絶対にできんのだ!」

「…まあソレを見れば何を言いたいかは分かる」

 スラルは呆れながら、既に大きくなってるランスのハイパー兵器を見る。

 こうなってはもう何を言っても無駄だろう。

「私は別にいいけど」

 レンはランスとするのは全く嫌では無いので、そのまま大人しくランスの手を握る。

「がはははは! 行くぞー!」

 そしてランスはそのままスラルを担いで自分の部屋へと消えていく。

 その光景を見ながら、お町は呆れた顔で椅子に座る。

「本当にあの人間は分からんな…まあいい。我は我で出来る事をやるか」

 一人取り残されたお町は、スラルが置いて行った本を手に取る。

 正直何が書いてあるかはあまり理解は出来ないが、それでも読んでおくことには意味はあるはず。

 そう思い、お町はひたすらに本を読む事に集中し始めた。

 

 

 

 ???―――

 これはクエルプランがランス達の前から消えた、一瞬の出来事。

 女神ALICEは今の下界の現状を非常に楽しんでいた。

 そこはメインプレイヤーが苦しむ完全な世界。

 これこそ、創造神ルドラサウムが望んでいた完全な世界―――のはずだった。

 ALICEが気に入らないのは、人類が苦しむのは当然だが、それと同様に人類を苦しめるはずの魔物すらも苦しんでいる事。

 しかし、地上の出来事は全て魔王が決める事、ALICEが干渉したのでは魔王の存在意義が無くなってしまう。

 ただ、人類が苦しんでいるのは明らかなので、それはそれで納得していた。

「…でも、法王が存在しないというのも味気ないわね」

 女神ALICEは歴代の法王に『教育』を施していた。

 一度『教育』するだけで、法王は自分に完全に従順になる。

 その脅えた様子を見るのもまたALICEの楽しみだったが、生憎と今の時代でムーラテストなどやっている暇は無い。

 正確には、いくら法王候補が居ようが、この世界では自分を満足させる事案は起こらないからだ。

 それならばムーラテストは創造神を喜ばせる結果にはならない…故に今のAL教には法王が存在して居ない。

 法王を名乗っている人間は居るのだが、それはそれで面白いのでALICEは放置している。

 代わり映えのしない世界を見ていると、突如として自分以外の気配を感じる。

「あら、珍しい客ね。今あなたは一番忙しい時期だと思うんだけど」

「私としても好んであなたに会いたいとは思いませんが…ですが、人類管理局のあなたには話を通さなければなりませんので」

「私に…ね。それで魂管理局のあなたが一体何の用なのかしら」

 ALICEは自分と同じ1級神であるクエルプランを見て微笑む。

「で、私に話って何?」

「ええ…あなたも知っての通り、今人間の世界に2級神ラ・バスワルドの力の欠片が有ります」

「ああ…そういえばそんな事もあったわね」

 NC期…おおよそ1000年前に、ラ・バスワルドのテストのために下界で一度暴れさせた。

 その時は不幸にも魔軍が巻き込まれ、そして一部の魔人達がバスワルドと戦った。

 その魔人と共に、ある人間がバスワルドと戦い、そしてその剣の中にバスワルドの力の欠片が宿った。

 本来は回収させるべきなのだが、それはそれで面白いという理由でそのままになっている。

 ただ、女神ALICEが気に入らないのは、その力を使って魔人を倒すという事をやったという事だ。

 魔封印結界に関しては、神が用意した人類が魔人に対抗するための手段なので、それについては文句は無い。

 だが、流石にバスワルドの力を使って魔人を倒すというのは不愉快だった。

「で、それがどうかしたの?」

「ええ。その剣の持ち主ですが、バスワルドの力を使いたいと言ってきました」

「…はあ?」

 クエルプランの言葉にALICEは呆れたように彼女を見る。

「あなた、まさか馬鹿正直にそれを認めたんじゃないでしょうね」

「いいえ、そこまでは言っていません。ですが、レベル神は人間に協力…サービスする事も義務付けられています。そしてランスのレベルは77です。ですので、私としても認めるかどうか悩ましい所でも有ります。ですので、人類管理局のあなたに話を通しておくべきだと思いました」

「変な所で律儀ね…まさか人間の言葉を1級神であるあなたが認めるなんて」

(と、言ったけどどうしたものかしらね。これがクエルプランだけが関わっているのなら、はねのけたんでしょうけどね)

 女神ALICEとしてもここは非常に悩ましい所ではある。

 今のクエルプラン付きの人間だが、色々な時代で騒ぎを起こしている。

 だが、そこが創造神としては嬉しいようで、手出しは無用と言われている。

 本来であれば、バランスブレイカー認定してAL教で回収命令を出したい所だったが、ALICEとしても手を出せない。

(でも…流石にそこまでしてやる必要は無いわね)

 女神ALICEとしてはあの人間は中々面白い存在でもある。

 間違いなくこの世界に混乱と混沌を招いている存在だが…そう考えていると、ALICEは口元に笑みを浮かべる。

「ねえクエルプラン。これはあなたの『お願い』かしら?」

「…『お願い』とは?」

「もしあなたが私に『お願い』するのなら…友達としてあなたの言葉を聞いてあげてもいいかなって」

「………」

 ALICEの言葉にクエルプランの気配が変わる。

(あら、からかい過ぎたかしら?)

 あのクエルプランが人間に入れ込んでる気がしたので、軽口を叩いてみたが、どうやら彼女にとっては不愉快だったようだ。

「そんな顔しないでよ。人類管理局としての言葉としては…NOね。態々人間に対してそこまでする必要は無いと判断するわ」

「そうですか。分かりました」

(あっさりと引き下がったわね…)

 あまりにも淡々とした言葉で了解したので、ALICEの方が鼻白んでしまう。

「では失礼します」

 そう言ってクエルプランが姿を消そうとした時、

「まて」

 突如として静止の言葉がかかる。

 そして現れたのは、自分達と同じ1級神であるラグナロクだ。

「あら…まさか1級神が3人も集まるなんてね。世界が崩壊でもするのかしら」

「どうしましたか、ラグナロク」

「お前は面白い事を言ったな。クエルプラン」

 1級神ラグナロク…それはラ・バスワルドの上司にして、三超神であるローベン・バーンの化身。

「人がラ・バスワルドの力を求めるか。非常に興味深い」

 そう言ってラグナロクが笑ったように見えた。

「だが、そう簡単に神の力を手に出来ると思われても困る。ならば、ここは試練を課すべきではないか。アマテラスがそうしたように」

「試練…ね」

 ラグナロクの言葉にALICEは考える。

 アマテラスのうっかりでJAPANは大変な事になってしまった時、アマテラスはそのお詫びとして人間に対して色々と便宜を計った。

 それは明らかにやり過ぎであったが、その代わりとしてアマテラスは創造神を喜ばせるために帝レースを作った。

 それと同じ様なことをやれとALICEに言っているのだ。

「そうね…ならこういうのはどうかしら。人間達が神の間と呼んでいる所に、『失敗作』を置いてあるでしょ。神の間と同じ様に『失敗作』を倒せば、でどうかしら?」

「成程。異論はない。だが、それ以上の存在を置いてはならぬ。それが条件だ」

「いいわ。じゃあちょっと特殊な空間でも作っておくわ。クエルプランもその人間に伝えても良いわよ。その試練を超えればバスワルドの力を使うヒントを与えると」

「分かりました。それでは失礼します」

 そう言ってクエルプランの姿が消え、同時にラグナロクの姿も消える。

 一人残されたALICEは楽しそうに笑みを浮かべる。

「『失敗作』を倒せるなら、それくらいはいいか…でもこの1回限りね。煮詰めれば中々面白い事が出来そうだけど」

 これをムーラテストに応用できないかと考えたが、流石に無理があるとALICEは判断する。

 試練というのはクリア出来なければ意味は無い。

「少しは楽しめそうね」

 メインプレイヤーが酷い目にあうのは楽しいが、やはり変化が無いと退屈してしまう。

 ALICEは退屈凌ぎを楽しむべく、行動を開始した。

 


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