カイズへ渡る―――それはLP期では誰でも出来る事で、全く難しいことではない。
金を払えば誰でも渡ることが出来る、それがランスの中のカイズだった。
しかし時代はGL期、人類の国という国が全て破壊され、その機能は全く意味を成さないものになっていた。
それはカイズとて例外ではない。
だが、何時の時代も例外は存在しているもの、ハニーがカイズへの渡し舟をしているらしい。
それを聞いたランス達は早速海岸を歩いているのだが…
「おい、来ないぞ。まさか嘘を言ったのではないだろうな」
「私とて噂で聞いただけだ。今となってはそれに賭けるしかないと思うのだがな」
ランスの言葉にもエドワウは仮面の下からカイズの方向を見据えるだけだ。
「あ! 船が来るぞ!」
お町が目を凝らすと、そこには確かに船がこちらに向かって来ていた。
エドワウの言っていた通り、編笠を被ったグリーンハニーが船をこいでいる。
ハニーは1体しかいないというのに、10人程は乗れそうな船を苦も無く操っていた。
そして船はランス達の側に接舷される。
「あいやー! 今日は随分と多いね!」
「ハニーの渡し…噂は本当だったのか」
「皆向こうに行きたいの? 別にいいよー。何人でも乗せてあげるよー」
エドワウの言葉にグリーンハニーは何とも無いように応える。
「…大丈夫なのか?」
お町は少し不安そうにしているが、ランスは躊躇いなく船に乗る。
スラルとレンもそれに続いたのを見て、残りの者達も船へと乗る。
「じゃあいくよー」
そしてグリーンハニーは器用に船を旋回させると、そのままカイズ目がけて船を走らせる。
船は対して揺れもせずに、真っ直ぐにカイズに向かって行く。
「しかし何故ハニーがここで船渡しをしている」
「昔人間達がやってたっていうからボクは真似してるだけー」
スラルの言葉にも実にハニーらしい声が返ってくる。
ハニーは人間の世界にも浸透しており、中には人間の町で生活をするハニーも存在して居る。
人類の完全な敵という訳でも無く、かといって仲間という訳では無い。
それは魔軍にも同じ事が言えるが、とにかく独自の体系を持つ種族だ。
スラルが魔王であった時もハニーはハニーで好き勝手しており、その王であるハニーキングには手を焼かされたものだ。
「それで向こうには何かがあんのか?」
「あるよー。僕達の偉大なる法皇様、ハニディクト様がいるんだよー」
「…ハニディクト?」
その奇妙な名前に、スラルとレンは非常に嫌な予感がする。
そんなスラルとレンの微妙な表情を無視して、ランスは意気揚々と船に乗り込む。
ランスは船に乗って川中島にも行ったことがあるし、ハニーは人間界の生活にも割りと溶け込んでいる。
なのでそれを疑うという事は無かった。
スラルとレンは少し嫌な予感を感じながらも、ランスと同じく船に乗り込んだ。
そしてハニーは船を操るが、それは非常に安定した動きをしていた。
(ホントにハニーとは訳が分からん種族だな…本当にモンスターなのか?)
スラルの時代でも、魔物スーツを着込んだハニーというのも存在していた。
ただ、その場合はハニー特有の絶対魔法防御、それにハニーの得意技であるハニーフラッシュも使えないので、それはそれでという感想も持ったものだ。
(スーツが着れるのだからモンスターなのだろうが…本当に謎の多い種族だ)
ハニーはハニーで独自の文化形態を築いている。
スラルからすれば、ハニーは魔物ではなく『人間』や『魔物』という呼び名と同じで、『ハニー』という種族と見るのが正しいと思っている。
それだけハニーは魔物からは逸脱した存在だ。
「それで…今のカイズはどういう状況なのだ」
スラルは実はカイズ…というか、AL教については全く詳しくない。
ランスは過去にカイズに行った事があると言っていたが、恐らくはそれもランスが知るカイズとはかけ離れていると予想している。
ランスの言ってることは正しいところもあれば、間違っている所も多い。
だからこそ、カイズがどういう所なのか、そして今はどういう状況なのか、それは正しく理解する必要はある。
「今のカイズはねー…昔は人間が大きな建物作ってたけど、魔人に壊されちゃってねー。だからね、ハニディクト猊下がそれを再建してるんだよー」
「………」
色々と突っ込みどころは満載だが、とりあえずスラルは口を紡ぐ。
「ハニディクト猊下は凄い方でねー。人間達も皆助けてくれるって言ってたよー。でも皆が最初の客だけどねー」
「…我らの間では、ここにカイズへ向かう船が出ていると噂はあったのだがな」
ハニーの言葉にエドワウが目を光らせる。
「それはハニディクト猊下の力だよー。ハニディクト猊下は不思議な事が出来るんだよ。あ、もうすぐつくよー」
ハニーの言葉通り、この船はどれほどの速さが出ていたのか、直ぐにカイズが見えてくる。
が、そこにはランスが知っているカイズの活気は全く無い。
いや、正確には熱気のようなものはあるのだが、聞こえてくるのが「はにほーはにほー」だの、「あいやーあいやー」であれば、誰だって声の主は察しがつく。
「…やっぱりハニーは絶滅させるべきだったな」
その熱気を感じ、スラルは改めて己が魔王だった時の振る舞いを少し後悔していた。
「わーい! ボクテンプルナイトー!」
「なにおー! ボクは大司教だー!」
「「「「わーわー!!!!」」」」
そこにあったのは、無数のハニー達が騒いでいる、ある意味悪夢のような光景だ。
AL教団の司祭や、テンプルナイトといった職のコスプレをしたハニー達がわいわいと騒いでいた。
「…なんだありゃ」
「ここが今のカイズだよー。それじゃーねー」
船渡しのハニーは、ランス達を下ろすと直ぐに向こう岸へと船をこいでいった。
残ったのは、目の前にいるハニー達を呆れた様子で見ているランス達だけだ。
「いつからAL教ってのはハニワ共が経営するようになったんだ?」
レイもごちゃごちゃ騒いでるハニーを見て眉を顰める。
レイとてハニーに会ったのは一度や二度では無い。
敵としても戦ったことはあるし、上位種のハニーはモンスターの中でも本当に強い存在だ。
絶対に命中するハニーフラッシュに、絶対魔法防御、そして肉弾戦でも特に弱いという事は無い。
バリエーションも多く、実は人間にとっても脅威ともなる存在だ。
だが、そんなハニー達は特段人間に敵愾心を抱いている訳でもなく、人間から見ればただただ喧しくて鬱陶しい存在ではある。
「はにほー! やあやあ人間達。君達も入信に来たのかな?」
そんなランス達に、1体のブルーハニーが近づいてくる。
ただ、普通のブルーハニーとは違い、AL教団の司教のコスプレはしているのだが。
「で、何なのだ? この騒ぎは?」
スラルの言葉にハニーはうんうんと頷く。
「そうだねー。魔王が人間を苛め過ぎたせいで、AL教が全く機能しなくなっちゃったんだよ。だから偉大なるハニディクト猊下が代わりになってるんだよ」
「…ハニディクト猊下?」
先程も聞いた名前だが、その響きにはスラルは非常に嫌な予感がしてくる。
この荒廃した時代…人類にも魔物にも厳しく、そして苛烈な魔王。
その魔王の事を全く無視して好き勝手するハニー。
そしてそのハニーが『偉大なる』と呼称をつける相手と来れば…
「はーにほー! やあやあ。僕達は来るものは拒まずの正しいAL教徒だよー!」
非常に能天気な声…スラルにとっては非常に聞き覚えのある声に、嫌な予感が現実になっていく事に口元が引きつる。
「わー! ハニディクト猊下だー!」
「わーい! 猊下ー! コロッケ頂戴ー!」
「「「猊下! 猊下!」」」
そのハニディクトなる存在が現れた時、スラルは猛烈な頭痛と共にため息をつく。
「何をやっている…ハニーキング」
「ハニーキング? 違うよー! 今のボクは法王が居ないAL教の代わりに猊下をやっているハニディクトだよー」
「いや、どう見てもハニーキングじゃない」
ハニディクト猊下…いや、ハニーキングが現れるとハニー達が騒ぎ始める。
こいつこそ、ハニー達の王にして伝説の存在…あのドラゴンの王と共に語り継がれる存在である、ハニーキングだ。
「…なんだこいつは」
レイは異常なまでのテンションを持つハニーキングを胡散臭そうに見ている。
「…異様なハニワが出てきたの」
お町もハニーを見るのは初めてではないが、これがそのハニーの王となると非常に複雑な思いに駆られる。
二代目妖怪王として、常にピリピリしていた自分と違い、非常にお気楽な雰囲気が出ている。
「ってランス君達じゃないか。スラルちゃんも久しぶりだねー…」
ランス達に挨拶をするハニーキングだが、スラルの方を見てその体が固まる。
「あれ…? スラルちゃん、その体どうしたの?」
「ああ。あれから紆余曲折があり、何とか肉体の確保が出来た。前回は…非常に世話になったな。ハニーキング」
「え…前回…?」
「何だ…忘れたのか…? 地獄で会った時…貴様にコロッケを作ってやっただろう?」
スラルの空気が変わり、非常に禍々しい空気が放たれる。
その空気にレイとお町とエドワウは思わずスラルから距離を取る。
「こ、コロッケ…?」
「えー! いいなあハニディクト猊下だけ! こんな美少女からコロッケを作ってもらっただなんて!」
「独占禁止法違反だー! 猊下のくせにいけないんだー!」
「「「コロッケ! コロッケ!」」」
真っ青になっていくハニーキングと対照に、ハニー達がコロッケと連呼しながら踊り始める。
「うぐ…」
ランスも非常に嫌な事を思い出し、思わず口元を押さえる。
その顔はランスとは思えない程に真っ青で、レンが思わずランスの背中を擦るほどだ。
「猊下ー! コロッケ! 美少女のコロッケを食べたいよー!」
「猊下だけこんな美少女のコロッケを食べてたなんてずるいぞー!」
「コロッケ! 僕達に美少女の作ったコロッケを!」
「「「コロッケ! コロッケ!」」」
騒ぎ立つハニーを前に、スラルの口元が弧を描く。
「あ、やば…」
「これは…やばいわね」
スラルの放つ空気に流石のランスとレンも顔色が青くなる。
何しろこの二人は、スラルの料理の破壊力を文字通り味わっている。
「ほう…おいハニーキング。こうしてハニー達がコロッケを欲しがっているんだ。我が作ってやろうか?」
スラルのその言葉にハニー達のボルテージが最高潮に高まっていく。
「わーい! コロッケだー!」
「美少女の作るコロッケだー! 凄い希少だー!」
「流石法王様ー! こんな美少女と知り合いだなんて!」
「えーと、その…うん…」
ハニー達の歓声にハニーキングは何も言えなくなる。
だが、ハニーキングはスラルの頭に怒りのマークが浮かんでいるのに気づく。
(あ、これあかんやつだ…)
ハニーキングは「コロッケ!」と歓声を上げて騒いでいるハニー達を見て、
「お、お嬢さん…コ、コロッケを献上してくれると助かるなー。で、でも無理ならいいんだよ? ボクはそこまで狭量じゃ無いから…」
何とかこの場を収めようとしてスラルに遜って話しかける。
そんなハニーキングを見てスラルは微笑む。
「心配するな…ハニーキング。貴様には特製のコロッケを味わわせてやる!」
その時、ハニーキングはスラルの中にはまだ魔王の血が宿っていると確信した。
そして自分があの時の地獄と同じ運命で有る事も。
「…で、何でこうなってんだ?」
「非常に面妖な光景じゃの…」
スラルは一人で大量のコロッケと格闘していた。
いや、それは格闘等という生易しいものでは無く、巨大な釜で怪しげな薬を作る魔女と言っても過言では無い。
それほどまでの無言の圧力をスラルは発していた。
「ランス…私達にまで被害は来ないわよね」
「あのハニワ共に全部食わせればいい。まあ最悪こいつらが居るしな」
ランスはスラルがコロッケを作る所を呑気に見ているレイとエドワウを見る。
「…そうね。この二人に食べられるだけ食べさせましょ。あ、でもお町は駄目よ。下手したら死んじゃいそうだし」
「流石にお町はいかんな…女は守られるべきだ、うむ」
次々とコロッケが揚げられていくが、ランスにとってはそれは強烈な毒物がどんどんと生産されていく光景でしかない。
どんどん興奮していくハニー達とは対象に、ハニーキングはもう死にそうな顔をしてその光景を見ている。
「法王様ー。沢山コロッケが出来てるよー。しかもメガネ美少女が作ってくれてるよー」
「え? う、うん。そうだね…」
スラルは態々メガネをかけてコロッケを作っている。
湯気のせいでスラルのメガネが曇り、その奥の瞳がどうなっているかは分から無いが、ハニーキングにはハッキリと分かる。
あの湯気の向こうで、スラルはきっともの凄くいい笑顔をしてあのコロッケを作っているのだ。
彼女が魔王の時からメガネをかけてくれるようにハニーキングは要求してきた。
その時は楽しかったが、今はそんな自分を猛烈に殴りたくなってくる。
きっとスラルは嬉々としてあのコロッケを揚げているのだろう…自分達を地獄へ突き落すために。
「ククククク…」
「ゴクリ…」
とうとう怪しげな笑いを放ち始めたスラルにハニーキングはどんどんと震えが出て来る。
そしてどんどん積み上げられいくコロッケを見て盛り上がるハニー達を尻目に、何とか逃げ出そうとする…が、
「どこへ行く? ハニディクト法王」
「え、い、いやだなあ。ボクはハニディクトじゃなくて流離のプログラマーのTADAだよ」
ギロリとハニーキングを睨むスラルの目は尋常では無い程に血走っている。
(う…)
その目に、ハニーキングは彼女が魔王の時代に度々メガネをかけさせようとしたのを思い出す。
(だって…何も知らずに魔王になった上に、メガネが似合いそうだったんだもん…)
臆病ゆえに慎重、何事も自分に優位な状況を作らなければ動かなかった魔王。
そんな魔王だからこそ…苛めたくなってしまうのは当然だった…ハニー的な意味で。
「さあ…出来たぞ」
ついに出来てしまった大量のコロッケ。
それは非常に豊潤で美味そうな匂いを放っている―――勿論見た目だけは。
だがそれは奈落からの呼び声でしかない。
あの魔人ますぞえですら意識を失い、暫くの間放心状態だった悪魔のコロッケだ。
「わーい!」
「コロッケだー!」
「美少女の作ったコロッケだー!」
ハニー達はそれに喜び、誰もがそのコロッケに殺到していく。
「さあ、ハニディクト。貴様のコロッケだ存分に食べるがいい」
「法王様ー! 食べましょー!」
「コロッケ! コロッケ!」
既にこの場はハニー達の熱気に支配されている。
そしてそのハニー達の王であるハニーキングが一番最初に食べるのを皆が今か今かと待っている。
その視線を受けてハニーキングは、
「み、みんな! これはスラルちゃんが一生懸命作ってくれたコロッケだよ! みんな一斉に食べようね!」
「わー! 法王様は寛大だー!」
「みんなで一緒に食べようねー!」
自分の配下のハニーも一緒に地獄へと引き摺り込む事を選んだ。
赤信号、皆で渡れば怖くないではなく、皆を赤信号を突っ込んでくる巨大なトラックへの道連れにするべく、ハニーキングはその顔の裏側でほくそ笑んだ。
(そうだ。皆も不幸になればいいんだ…ボクだけが2回もあんな地獄を味わうなんて間違っている…!)
既に邪悪な思考に憑りつかているハニーキングは最早ヤケクソ気味に笑う。
「ああ…レイ、エドワウ。お前達もどうだ? いや、食え」
「え? 俺もかよ」
「まあ頂けるというのであれば頂こう。この時代にこんな物を食べれる等中々無い事だからな」
スラルの言葉に何も知らないレイとエドワウもコロッケを手に取る。
それは見た目だけなら本当に何の変哲もないコロッケでしかなかった。
「さあ、ランスも…」
「俺様は食わんぞ。もし無理矢理食わせるなら、スラルちゃんにはあの時の100倍ハードなおしおきだ」
ランスも地獄に叩き落そうとするスラルだが、ランスの放ったおしおきという言葉に思わずお尻を押さえる。
あの時は本当に大変だった上に、少しの間非常に悩まされた。
それを思い出すと流石のスラルも躊躇してしまう。
「お町も絶対に手を出すな。下手すりゃ妖怪でも死ぬからな」
「…一体スラルは何を作ったというのじゃ?」
ランスは小声でお町に囁く。
「ランス…レイとエドワウはいいの?」
「男がどうなろうが俺様は一向に構わん。いや、むしろその体で学ぶべきだ」
「…まあそれは一理あるかもしれないけどね」
レンは大きくため息をつく。
何だかんだ言って、ランスはレイやエドワウがスラルの料理を食べる所を見たいのだ。
そして己の味わった地獄をこの二人にも体験させるつもりなのだ。
(まあ私に害が無いからいいか)
レンも自分に被害がこないのならば構わないと静観の構えを取る。
万が一死にそうになるなら、何とか自分が助けてやろうとも考えていた。
「「「じゃあいただきまーす!」」」
ハニー達が一斉にコロッケを口の中に放り込み、レイとエドワウもそのコロッケを口に含む。
そして少しの間静寂が包み込むと、
「あ、あ、あ、あああああああああああ!!!!???」
一体のレッドハニーが痙攣したかと思うと、その体がどんどんとどす黒く染まっていく。
その黒い染みがどんどんと広まっていったかと思うと、
「かゆ うま」
謎の言葉を放つと、隣にいるハニーに飛び掛かっていった。
その飛び掛かられたブルーハニーも、その体がどす黒く染まっていき、飛び掛かってきたレッドハニーを迎え撃つ。
「メエエエエデエエエエエ!!!」
突如として謎の奇声を上げたブラックハニーの右側頭部から、謎のハニーが生えてくる。
まるでハニーのゾンビであるかのような謎の生命体は、意味の分からない呻き声を上げながら手当たり次第にハニー達を襲っていく。
それはまさしく地獄絵図、以前地獄で見た時よりも遥かに惨たらしい光景が目の前にあった。
「ハハハ、ハニディクト様…ボクの体どうなって…」
何とか必死にハニーキングに縋りつこうとしているグリーンハニーだが、その体はどんどんの謎のカビに覆われ、ついにはそのカビに飲み込まれて破裂する。
「あ、あ、あ、あはははははは…」
ハニーキングは再び訪れた地獄の光景に、笑い声を上げるしかない。
「ぴ、ぴ、ぴ、ぴぎぎぎぎいいいいいいいいいい!?」
だが、その乾いた笑いはどんどんと奇声に変わっていき、ハニーキングの体が激しく痙攣する。
そして口元から謎のどす黒い粘液を吐き出したかと思うと、その場で激しく踊り始める。
「な、な、な、なんじゃあれは!?」
その光景を呆然とみていたお町は思わずランスにしがみ付く。
それは魔物による蹂躙よりも遥かに悍ましく、惨たらしい光景だった。
「ラ、ランス…てめぇ…お、俺を嵌めやがったな…!?」
「ああ…ババア…時が見える…」
喉を押さえて、まるで人を射殺さんばかりの目を向けるレイに、謎の言葉を放ちながら痙攣するエドワウ。
そんな二人をランスは爆笑しながら見ていた。
「がはははは! スラルちゃんの料理を食べたお前達が悪い!」
「野郎ぶっ殺してやる! う…お、おえええええええええ!」
爆笑しているランスにとうとう切れたレイだが、力なく地面に四つん這いになったかと思うと、そのまま血反吐を吐いて痙攣する。
「うわあ…」
以前よりも遥かにパワーアップした光景には流石のレンもドン引きするしかない。
「ランス…」
「何だスラルちゃん」
そしてただ一人、そんな地獄のような光景を感情の無い目で見ていたスラルだが、非常に恐ろしい気配を放ちながらランスににじり寄ってくる。
「…その毒物をどうするつもりだ」
「…色々考えたのだが、お前にも食べてもらいたくてな。以前にも食べたお前の感想が聞きたい」
口元に弧を描くスラルの目は既に常軌を逸しており、その目はまるで魔王のように赤く血走っている。
「おしおきなど構わん! お前も地獄に落ちろー!」
「血迷ったかスラルちゃん!?」
そしてスラルはコロッケを片手にランスに突っ込んでいく。
レンはお町を抱えると、そのまま翼を生やして上空に逃げる。
「あ、こら! 俺様も連れてけ!」
「ランス! 覚悟!」
「あ、どわーーーーー!?」
襲い掛かってくるスラルをランスは迎え撃つ。
「こらスラルちゃん! とうとうおかしくなったか!」
「どうして…どうして我だけがこんな思いをしなければならないんだ! みんな地獄に落ちればいいんだー!」
スラルは涙目になりながら必死でランスの口にコロッケを押し込もうとする。
ランスは何とか抵抗するが、スラルは魔法使いとは思えない力でランスを押し倒す。
そしてそのコロッケをランスの口に押し込んだ時、ランスはそのコロッケを口に含みながらもスラルへと反撃する。
それはスラルのコロッケを口移しでスラルの口に返すという荒業。
だが、それはランスにも甚大では無いダメージを与えていた。
「ぐはっ!」
ランスはその反撃で全ての力を使い果たしたのか、ぴくぴくと震えながら気絶する。
ある意味、ランスが尤も被害が少ないと言っても良いだろう。
そしてランスにコロッケを返されたスラルは、
「う、う、う…\#&%$|=)'!"#&」
声にならない悲鳴を上げたかと思うと、その口からとても美少女が吐き出すとは思えない何かを吐き出す。
「ああああああああああ!!!???」
そして悲鳴を上げたかと思うと、そのまま気絶してしまった。
残ったのは宙に浮かんでいるレンとお町のみ。
「地獄じゃ…間違いなくこの光景は地獄じゃ…」
「まあ…否定はしない」
お町は恐怖で声が震え、レンは何とも言えない表情で頷く。
下では未だにハニー達が異形の存在へと変わっていき、そして互いに互いを襲っている。
ランス達は時折痙攣しているが、どうやら生きてはいるようだ。
ハニーキングは奇声を上げながら謎の粘液を体中から放っていたが、とうとう自身が吐き出した粘液に体が埋まっていく。
「どうやって収拾を付ける気じゃ?」
「ハニーは…まあ理不尽な種族だからその内復活するでしょ。ランス達は…神魔法にも限界はあるから、自然治癒しかないわね」
「…そうか」
お町はこの悍ましい光景を何時までもその目に焼き付けていた。
出来上がったデータの上に、未完成のデータを上書きするという凡ミス
そのせいで書き直しになった上に少しの間PCが使えなくなる
自分が悪いのは確かですが、間の悪さにちょっと凹みます