ランス再び   作:メケネコ

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力を求めて①

 ???―――

「…あのハニワ、何やってくれてるのよ」

 天界の一室、人類管理局ALICEはハニーが集結している事に呆れたように声を出した。

 が、それは別にALICEが何かを言った訳では無いし、ハニーが勝手に行動しているだけだ。

 つまりは全くの偶然であり、神が何かを意図した訳では無い。

 なのでALICEとしては非常に不本意ではあるが、だからといって下界に干渉するような事も無い。

「あの人間が地獄を見るのが楽しみなんだけどね…」

 ALICEは例の人間―――ランスに関しては干渉を止められている。

 今回の迷宮はラグナロクの考案で作られた迷宮なのだが、まさかその場所にハニーが集まっているとは完全に予想外だ。

 しかもAL教ごっこをしているだけなので、何も言う事は出来ない。

「はぁ…まあいいけどね」

 ALICEとしては現状の魔王の世界には満足していた。

 だからこそALICEは気づいていなかった。

 神の作ったダンジョンが、また別の力によって変な風に作り替えられている事を。

 

 

 

 ???―――

 これはカミーラが動いてから少し経過した時間。

「これか…」

「見つかりましたか? ケッセルリンク様」

 魔人ケッセルリンクは一冊の本を片手に複雑な表情を浮かべている。

 そんな主を心配そうに使徒であるシャロンが見ている。

「ああ…見つかってしまったと言う方が正しいのかもしれないね、この場合は…」

「そうですね…」

 主の表情を見ればそれが喜ばしい事では無いのは分かる。

 だが、これは魔人として絶対に成さねばならない『命令』だ。

「それがスラル様の残した書物ですか…」

「ああ。恐らく、な。だが、ジル様からは『中身を見るな』と言われているから、これが本当にスラル様が残したものかは分からないがな」

 魔人ケッセルリンクに出された命令…それはかつてのケッセルリンクの主である、魔王スラルが残した物を探す事。

 それこそが、魔人ケッセルリンクが魔王ジルに背いた『罰』だ。

「ケッセルリンク様…」

「お前達もそんな顔をする必要は無い。これで私が許されるのであれば、それは嬉しい事だと思えばいい」

 ケッセルリンクはそう言って穏やかに笑うが、事情を知る使徒としてはその心中は察するに余りある。

 ましてやスラルはケッセルリンクを助け、魔人にした主だ。

「後はこれをジル様に届ければいいだけか」

 ケッセルリンクが書物を纏めていた時、

「失礼。ケッセルリンク様」

 一体の黄色い大きな存在が現れる。

「ジーク様」

 ケッセルリンクの使徒達は現れた存在―――魔人ジークに対して優雅に一礼する。

「そんな事をする必要はありませんよ。私はただケッセルリンク様に話があるだけですから」

 ジークはそのままケッセルリンクの所へ歩いていく。

「ジークか。一体何の話だ? 私は今ジル様の命令でこれをジル様に届けなければならないのだが」

「ええ、それを承知の上で参りました。ジル様からの新たな命令が出ましてね…それは何とある人間の確保なのです」

「何だと」

 人間の確保、という言葉にケッセルリンクの目が細くなる。

 同時に、使徒達もまたハッとした顔でジークを見る。

「勿論ただ人間を確保するだけならば、ジル様直々に命令をされているあなたにこんな事は言いません。ですが、あのカミーラ様が動いているとすれば…」

「カミーラが動いたのか」

 あのジルが人間を捕える様に魔人に命令したのも驚きだが、それと同じくらいあのカミーラが動いた事にケッセルリンクは驚く。

 カミーラは基本的に魔王が嫌いだ。

 それを隠そうともしてないが、特に魔王から睨まれるという事も無い。

 先代魔王のナイチサはカミーラが自由に動くのを嫌っていたみたいだが、ジルに関してはそうでも無い…と聞いている。

 何しろジルが魔王になってから、ケッセルリンクは少しの間この世界にはいなかった。

 その間にあったことはカミーラからは聞いていたが、同じ魔人同士で争っている事には驚いた。

 カミーラがそこまで嫌悪する魔人が居るとは思ってもいなかったからだ。

 そして、それがかつてランスまでもが戦ったとされる、ノスだというのだから更に驚きだ。

 カミーラとノスはかなり激しく争ったらしく、魔王から直々に争う事をやめろと言われたくらいだ。

 それもつい最近解禁されたようで、またカミーラとノスは争っていたようだが。

「だがそれを何故私に伝える。別に伝える必要は無いと思うがな」

「ええ。そうかもしれませんが、あなたはカミーラ様とは親しい。ですのであなたに教えておくのも筋だと思いましてね」

「ふむ」

 魔人ジークは非常に紳士的な性格をしている。

 勿論魔人故に人類の敵で有る事は間違いないのだが、紳士と言うある意味矛盾した存在だ。

 それ故に、ジークの言葉には裏は無いのは分かっている。

「カミーラは何処へ向かった」

「最初はJAPAN、そこからどんどんと西へ向かっているようです。私も参加しようとは思いましたが…あの方の邪魔をするのは流石に恐ろしいですからね」

「そうだろうな。カミーラがやる気になっているのなら尚更だ」

 もしカミーラが追っているのがランスなら、それを邪魔する者は誰であろうとも許さないだろう。

(しかしランスか…)

 カミーラが動いたという事は、恐らくはランスは間違いなく関わっているだろう。

 その確信があるから、カミーラは動いたのだろう。

「ケッセルリンク様…」

「分かっているよ、シャロン。しかし私が動く事をジル様が許可するかどうか…」

 ケッセルリンクとしては、ジルが魔王である内は自由に動く事は難しいと思っている。

 何しろ、ケッセルリンクはいくら先々代魔王であるスラルの命令があったとはいえ、現魔王に逆らっているのだ。

 殺されて初期化されても文句を言う事は出来ないくらいの事だ。

「ジル様も何も言わないと思いますよ。何しろ『好きにしていい』とおっしゃってましたから」

「ふむ…」

 ケッセルリンクもあの後何があったのか、やはり気になっている。

 何しろジルはランスが護れなかった女性だ。

 勿論相手は魔王なので当然なのだが、それで納得する男では無い。

(それに…あの時ランスは間違いなく少し自棄になっていた気もしたからな)

 ジルが魔王になって間も無い間、ランスはやや乱暴なセックスをしていた。

 何かを紛らわせるように自分やスラル、そしてメイド達を抱き続けていた。

「お前達…私に付き合ってくれるか?」

「もちろんです! ケッセルリンク様!」

 エルシールがメイド長として威勢よく返事をする。

「全てはケッセルリンク様の思うがままに…」

 そしてシャロンを始めとした全てのメイド達がケッセルリンクに一礼する。

「分かった。ならば私も迷う必要はあるまい。その人間とやらを見に行くか」

 ケッセルリンクの言葉に、メイド達は顔を見合わせて嬉しそうにする。

 何しろこの世界に戻ってから、ケッセルリンクの顔は沈んだままだった。

 勿論それを表に出すような主では無いが、ケッセルリンクの事を常に見ていた彼女達には分かる。

「ジル様にこれを届けてから行くとするか…」

 ケッセルリンクの顔には薄く、そして何処か嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 ダンジョンの中、見世物横丁。

 ランスが選んだダンジョンだが、そこはマルグリット迷宮とは違い、一般的な洞窟だった。

「ほう…本当に別物になっているな。神が造ったダンジョンとは不思議なものだな」

 ダンジョンの中身そのものが変わっている事にはスラルも驚く。

「でも『見世物横丁』って何なのかしらね…そもそもあの方たちがこんなダンジョン作るかしら…」

 下っ端とは言え、神の事を知るレンにとっては、あのクエルプランを始めとした1級神が人間のためにこんな事をするのか分からない。

 それもこんな奇怪なダンジョンをだ。

 レンが色々と考えていると、隣に居たお町の狐耳がピンと立つ。

「またモンスターじゃな。じゃが下っ端といった所かの」

 お町の言葉に合わせる様に、るろんたやヤンキー、ぷりょといったモンスターが現れる。

「また雑魚かよ。こうも出て来ると鬱陶しいな」

 レイは苛立ち気に舌打ちする。

「まあいい。ぶっ飛ばしてくるか」

 レイがモンスターを蹴散らそうとした時、

「いや、ここは私が行こう。皆に私の力を見てもらうよい機会だ」

 エドワウが一歩前に出る。

 そして懐から一本の手に収まるサイズの棒を取り出す。

「ムン!」

 エドワウの手に持った棒から光りが伸びると、それが剣の形を模る。

「ほう…」

 それを見てスラルは興味ありげにエドワウの持つ剣を見る。

 色々なアイテム、武器を見て来たが、エドワウの持つ剣は流石に見た事が無かった。

 そのままエドワウはモンスター達に向かって走っていき、

「行くぞ! 私のb・i・i・mサーベルを受けてみろ!」

 その剣がピンク色の軌跡を描くと、モンスター達があっという間に切刻まれていく。

「終わりだよ」

 そしてエドワウは剣を腰にしまい、こちらに向かって来ようとした時、

「ランスキーック」

「おうふ」

 ランスの蹴りが炸裂し、エドワウは地面に倒れる。

 その拍子に仮面が外れるが、特に誰も気にした様子は無い。

「あんた何やってんのよいきなり」

「何となく。俺様が知ってる奴みたいでなんかむかついた」

「そんな理由で蹴るな!」

「フッ…これが若さか」

 エドワウは何とも無かったかのように立ち上がり、外れていた仮面をつけなおす。

 ランスが何となくエドワウを蹴り飛ばしたのは、エドワウがランスの知っている人間に似ていたからだ。

 それはリック・アディスン、リーザスの赤い死神と呼ばれ、ランスと共に魔人と戦った事がある人間で、ランスが強いと認める数少ない存在だ。

 そのリックに剣も技も少し似ているような気がしたのだ。

「この辺は雑魚ばかりのようじゃな」

 出て来るモンスターを見て、お町は少し安心したような声を出す。

(何しろこの中で我が一番役に立たぬからの…)

 妖怪王である自分が一番弱いというのは腹立たしいが、それは現実として見据えなければならない。

 その上で、自分が妖怪王として強くなればいいのだ。

「フン、こんな奴等じゃ楽しめねえな。とっとと次のフロアに行こうぜ」

 レイが苛立ち気に一歩を踏み出した時、

 

 カチッ

 

「あん?」

 レイが怪訝な表情をした時、レイの足元が爆発し、ボロボロになったレイが吹き飛ばされる。

「な、何が起きやがった…」

 呆然としながらレイが呟く。

「あー。アレは地雷ね。ダンジョンでは割とオーソドックスな罠ね。ハイ、ヒーリング」

 レンがレイにヒーリングをかけると、レイは何とか立ち上がる。

「…何かいきなり凶悪な罠が増えてねえか」

 レイは冷や汗をかきながら地面を見る。

 ダンジョンに潜る機会が無かったレイは知る由も無いが、元来ダンジョンにはこういった罠が無数に存在する。

 だからこそ、レンジャーという技能が必要になるのだ。

「ダンジョンとはそういうモノだ。やはり優秀なレンジャーが居ないというのは辛いな…これまでは大まおーが居たから何とかなったが…」

 スラルはもう存在しない謎の生物に事を思い出す。

 あの謎の生物は非常に優秀で、料理も出来ればレンジャーとしての実力もあった。

「うーむ、やはりトラップを何とか出来るアイテムを購入すべきだったな。帰り木を優先してしまったのは失敗だな…」

 スラルが一歩踏み出した時、

 

 ぽふっ

 

「ん?」

 何か変な足触りを感じると、奇妙な粉がスラルの顔に降りかかる。

「スラル? どうかしたか?」

 お町は突如として無言になったスラルを不審に思い声をかけるが、

「…面倒臭い。なんで我がこんな事をしなくてはならんのだ」

「ス、スラル?」

「大体ランスは我に夜な夜なあんな事をしている上に、色んな女に目移りする。何でそんな奴のために我が頑張らなければならんのだ」

「ラ、ランス! レン! 何かスラルが変な事を言い始めたー!」

 突如として露骨に面倒くさそうな態度を取り始めたスラルを見て、ランスはため息をつく。

「うーむ、何か突然トラップが増えたな」

「そうね。それを考えれば、ちょっと頼りなかったかもしれないけど、かなみの有難さが分かるわね」

「まあいい。一回戻るか」

 怪我をしたレイと、やる気を無くしたスラルを見てランスは帰り木を折る。

 するとランス達の姿がダンジョンから消え、地上へと戻される。

「とりあえずスラルは休ませてくるわね。ランス、あんたが責任持ってきちんとアイテムを見繕いなさいよ。私はそういうの分からないんだから」

 レンはスラルを担いで魔法ハウスに戻っていく。

 それを見てレイも、

「…俺も少し寝て来るか。何か無駄に疲れた」

 地雷によるダメージが予想以上に高かったのか、素直に休む事を選択する。

「彼の事は私に任せたまえ。私も少しは神魔法の心得があるからな」

 エドワウは苦笑すると、レイを追って魔法ハウスへと戻っていく。

 残されたのはランスとお町の二人だ。

「…ランス、一体どうするのだ」

「こういうのこそジルの仕事だというのに。全く、俺様の奴隷のくせに気が利かないな」

 ランスはこの場に存在しない奴隷に毒づきながら、

「お町、行くぞ。お前もついてこい」

 ハニーの商店街へと歩き始める。

「あ、待ってくれ。我も色々と見たい」

 お町はランスを追ってハニーの商店街へと向かって行く。

 そこは今も賑わいを見せており、この光景だけを見ればこれがGL期の光景とは誰も思わないだろう。

「わいわい」

「がやがや」

 商店街ではハニー達が商売『ごっこ』をしている。

 中には本気で商売をしているハニーもいるのだが、殆どのハニーにとっては『ごっこ』遊びだ。

 ハニーの店には何の価値も無いガラクタも多いが、中には帰り木のように本当に役立つアイテムも売られている。

 だからこそ、それらを見極めなければ、無駄な時間を過ごしてしまうだけだ。

「うーむ、だがなあ…」

 ランスは難しい顔をしている。

 それもそのはず、これまでの買い出しは全て万能メイドのビスケッタに任せていたし、それ以前は全てシィルに任せていた。

 流石にシィルが居ない期間は自分でやっていたが、何しろJAPANでの動乱が終わった後は鈴女と遊びほうけてレベルが下がっていた程だ。

 そして何よりも、この世界はランスが知っている世界とは違い過ぎる。

 ハピネス製薬が無いため、冒険ご用達の回復アイテムが存在しない。

 帰り木や捕獲ロープはあるようだが、それ以外のアイテムはランスも初めて見るアイテムだ。

 なのでどのアイテムがどう有効なのか、その判断が出来ずにいた。

「お町。お前は何か見覚えのあるアイテムはあるか」

 ランスの言葉にお町は周囲のアイテム屋の商品を見渡して首を振る。

「いや、残念ながら無いな。我では全く役にはたてん。すまんな…」

 本当にすまなそうにして指をモジモジさせているお町を見て、

(うーむ…これが後にお町さんになるのか。まさかあのお町さんにこんな時代があったとはな…)

 こんな事を考えてしまう。

 何しろランスが知るお町さんは、飽満な肉体にゴージャスな尻尾、そしてとてつもない強さがあった。

 そして何よりも、あの目玉妖怪にべた惚れだった。

 ランスとしても気に入らないが、別に殺してでも奪い取ろうとは思っていない。

 そんな事をしても手に入らないのは明白だし、ランスもそこまでは鬼畜では無い(ただしバードは除く)。

(む…そういえばあの目玉野郎よりも俺様の方がお町さんと出会ったという事は…おお! お町さんを俺様に惚れさせる事が出来る訳か)

 ランスは自分で思いついた素晴らしいアイディアにニヤリと笑みを浮かべる。

 今はこんなちんちくりんで、ランスが知っているお町とはかけ離れているが、それはそれで魅力がある。

(ミルみたいになれば…いや、ミルは論外だな。食べ頃になるまで我慢して、俺様に惚れさせてから頂くのは有りだな、うん)

 自分が先に出会ったのだから、あの目玉に遠慮する必要は全く無い。

 尤も、ランスは最初から遠慮など無いのだが、兎に角ランスの中では政宗に遠慮した事になっていた。

「がはははは! だったらお前も俺様についてこい。冒険のためのなんたるかを教えてやろう」

「う、うむ…突然邪悪な気配が増したような気がしたが…確かに冒険にはお前が我よりも遥かに詳しいだろうからな」

 突然上機嫌になったランスに不審なモノを感じながらも、お町はランスについて行く。

 ランスはお町が離れないようにさり気なくその手を引いて歩いていく。

 お町は突然の事に驚きながらも、周囲にいるハニーが鬱陶しいのでされるがままにランスについて行く。

「む、ここだ!」

「な、なんじゃ?」

 突然足を止めたランスに、お町は驚いてランスを見上げる。

「ここから俺様の冒険に必要なアイテムの匂いがする! 間違いない!」

 そこにあったのは一つの露店。

 そこには色々なアイテムが並べられていたが、お町にはそれが何なのか全く理解出来なかった。

「おいハニワ。ここにあるアイテムの説明をしろ」

「と、突然何を言ってるのかな…ま、まあいいけど」

 店主のレッドハニーはランスに驚きつつも、説明を始める。

「これは茸毒中和靴といって、茸を無効にする靴で、こっちは地雷探知機! 地雷を見つける事が出来るアイテムだよー」

「ほー」

 おあつらえ向きなアイテムが出て来た事に、ランスは内心でほくそ笑む。

「他にもこれは電解水! 電気を中和出来るよー。後は色々な罠を中和できるマヨネーズ!」

 ハニーは色々と説明をするが、正直お町にはそれがどんなものなのかは全く想像も出来ない。

 だからここはランスに任せるしかない。

「これだけのアイテムがあって、何と500,000G! これは買いだね!」

「ご、500,000Gじゃと!?」

 あまりにも法外な値段にお町も思わず声を上げる。

 この時代、通貨での買い物自体が難しいので、それがどれくらいの価値があるかは分からない。

 だが、人間の世界に疎いお町でもそれが法外な値段だと言うのは分かる。

「なんじゃその価格は! 高すぎるじゃろう!」

「そりゃあ当然だよ。だってだーれもこのアイテムの価値が分かって無いもの。それにこれらのアイテムにはそれだけの価値があるんだよー。消耗品だけどね」

 ハニーはニヤリと笑ってランスを見る。

「どうだいお兄さん! これだけあればどんな迷宮でもへっちゃらだよ! 消耗品だけど!」

 ランスはそんなハニーを見てもニヤリと笑うだけだ。

 そして、

「またあいつ法外な値段でアイテム売ってるよ…」

「でもあいつには凶悪ハニーがバックについてるから何も言えないよ…」

 そんな事を囁き合っているハニー達が遠目にランス達を見ているだけだ。

 お町はそんな状況に不安になり、ランスを見る。

 するとランスは、

「よーし分かった」

「おお! お兄さんお目が高いね! でもそんなお金は持ってないだろうから、他の物でもいいよ。そ、その子のパンツとか…」

 ハァハァと息を荒くしながらハニーがお町を見てくる。

 そんなハニーの視線にお町は思わずランスの後ろに隠れる。

「何を言っている。そんな金よりお町の方が価値があるに決まってるだろうが。それよりもそのアイテムは間違いなく機能するんだろうな」

「え? そ、それは勿論当然だけど…」

「じゃあそれを証明しろ。だったら買ってやる。一緒にレンもつけていってやるからそれを証明しろ」

「え…」

 ランスの言葉にハニーは思わず硬直する。

「俺様はそれが本当に使えるかどうか知らん。だからそれをお前が証明しろ。それで有効だったら考えてやらんでも無い」

「そ、それは困るかなあ…ぼ、ボクは見ての通りただのハニーだから…」

「そんなのは俺様の知った事では無い。それが出来ないなら知らん」

「そ、そんなぁ…」

 まさかの言葉にハニーは思わず冷や汗を流す。

(こ、これは本物だけど、証明するなんて出来ないし…どうしよう)

 ハニーが何とか頭を捻っていた時、

「おうおう兄ちゃん! 何イチャモンつけてやがんだ! ここがハニ吉組のシマだと分かってやってるんだろうな!」

「うわー! ハニ吉組のシゲだー!」

「凶悪ハニーだ! 凶悪ハニーが来たぞ!」

 突如として怒鳴り声と共に、数体の凶悪ハニーが現れる。

 その凶悪ハニーが現れると、ランス達を見守っていたハニー達が一気に散っていく。

「シゲさん! こ、この人間がとんでもない事を言って来てるんです! 助けて下さい!」

 ランスに商品を売りつけようとしたハニーが凶悪ハニーに泣き付く。

「へっへっへ。ボクはここのハニ吉組にみかじめ料を収めてたんだ。こういう時こそお金がモノを言うんだよ」

 強力な味方が現れた事にハニーが一気に強気になる。

「兄ちゃん! ここじゃこのハニ吉組が法だぜ! 気に入らなきゃどっかに消えな! それとも…そこの可愛い嬢ちゃんが払ってくれるのかな」

「「「ぎゃははははははは!!!」」」

 シゲと呼ばれたハニーの言葉に、取り巻きの凶悪ハニー達も笑う。

「ふーん。で、お前が法だとか何とか抜かすなら、お前がくたばったらどうなるんだ」

「何言ってやがる。言ったはずだぜ、ここはこのハニ吉組が法だってな。それは俺様たちが強いからよ! 兄ちゃん、嬢ちゃんの前でかっこつけるのはいいけどよ、ここは世間一般の常識って奴を…」

「いきなりランスあたたたたたーーーーーっく!!!」

「「「「「うぎゃーーーーーーーー!!!!!」」」」

 凶悪ハニー達の言葉を遮る様にランスの一撃が凶悪ハニー達を粉々にする。

 そしてそのまま剣を売り子のハニーに突き付ける。

「で、ここは誰が法だ」

「え、えーーーと…あ、あなたです」

「あん?」

「い、いえ! あなた様です!」

 凶悪ハニー達をたったの一撃で吹き飛ばしたランスに、ハニーは土下座でもせんばかりの勢いでぺこぺこ頭を下げる。

「そうだ。ここはこれから俺様が法だ。なら当然ここのアイテムは俺様が頂いて行っても良い訳だ」

「え、えーと、それは…」

「だが俺様は優しいからここのアイテムをきちんと買ってやろう。で、いくらだ」

「へ?」

「だからいくらだと聞いている」

 ランスの目がギラリと光ると共に、ランスの持つ黒い剣も光り輝く。

 その光景を見て、ハニーは露骨にランスに媚びを売る様に笑みを浮かべる。

「や、やだなあお兄さん。こ、ここのアイテムは実は量産品で、実はまとめて50,000G…」

「何だ? 俺様には良く聞こえなかったな」

 ランスの剣がハニーの頭に突き付けられる。

「え、えーと…ぼ、ボクはこのアイテムを実は5,000Gで…」

「ほー。見上げた根性だな」

「ご、500! 全部まとめて500Gです!」

「500か。まあそれくらいで許してやろう。じゃあ受け取れ」

 ランスはそのまま持っていたお金から500Gを投げる。

「で、当然これからも500G何だろうな」

「も、勿論です! このセットで500Gで売らせて頂きますー!」

「そうか。ならばいいだろう。これからも使ってやろう。当然これからはこの値段なんだよな」

「そ、その通りです…あ、ありがとうございます…」

 ハニーは真っ青な顔をしながらランスに向かってお辞儀をする。

「よーし、行くぞお町」

「行くのはいいが…お前、本当に悪辣な男だな」

 お町は少し非難するかのようにランスを見る。

「何を言っている。最初に吹っ掛けて来たのはあいつだし、その後で値下げしたのもあいつだ。俺様が何かやった訳じゃ無いぞ」

「我には力で従わせたようにしか見えんがな…まあランスの言う通り、先に行ってきたのは向こうだから自業自得じゃな」

 お町は笑いながらハニーの店を振り返る。

 そこには凹んだハニーと、そのハニーを取り囲んでいる無数のハニーがいる。

「ふーん」

「なんじゃ。何か変な事を言ったか」

 意外そうな顔で自分の事を見るランスにお町は怪訝な顔をする。

「いや、そういう風にも笑えるんだなーと。正直想像もせんかった。将来に期待だな」

「大きなお世話じゃ!」

 こうしてお町はランスとちょっぴり仲良くなった。


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