ランス再び   作:メケネコ

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力を求めて②

「カミーラ様は先に行きましたが、我等も向かう必要が有ります。船の用意は出来ていますか」

「ハッ! 七星様! ハニー共の船は接収しております。ハニーも七星様の命令には逆らわぬでしょう」

 カミーラが先に孤島へ行った翌日、魔軍のテントでは忙しく魔物兵達が動いていた。

 当然魔人であるカミーラだけを行かせる訳にもいかないので、何とか孤島へと向かう手段を探していた。

 その時、実に久しぶりにハニーの渡しがやってきた。

 ドーイクスはすぐさまその船を接収し、その孤島へと渡るようにハニーに言い聞かせた。

 ハニーは脅えつつもそれに頷き、ようやく孤島へと向かう手段が出来たのだ。

「ねー七星…カミーラ様、戻ってこなかったけど…例の人間を見つける事が出来たのかな」

「それは分からない。ですが、カミーラ様がこちらに戻ってこなかったという事は、何か見つけたのかもしれない。ならば使徒である我等が行かぬ訳にもいくまい」

「そうだよね…」

 ラインコックは戻ってこなかった主に対して心配そうな顔をする。

 主であるカミーラに何かがあったとは思えないが、ラインコックはあの時の光景を思い出してしまう。

 それは魔人と魔人がぶつかりあう凄まじい光景。

 周囲の存在はその余波だけで掻き消えそうな凄まじい激戦。

 そんな中、魔人カミーラと魔人ノスは最後まで地に膝をつく事も無く戦い続けた。

 魔王の命令によって戦いは止められたが、その後のカミーラは少しの間完全に安静にしていた程だ。

「カミーラ様、まだ本調子じゃないし…」

「それはあるが…無敵結界がある以上、カミーラ様が負ける事は無い」

 七星はそこで一つ嘘をついた。

 カミーラがもしランスと出会っていたのなら、カミーラは間違いなく無敵結界を解除して戦う。

 無敵結界の力でランスに勝ったとしても、それは魔人カミーラが無敵結界という人間ではどうする事も出来ない力を見せつけただけで、ドラゴンとしてのカミーラが勝利した訳では無い。

 カミーラはドラゴンとしての己の力でランスを捩じ伏せる事を第一としている。

 その誓いは決して揺らぐことは無い…それは確信している。

 だからこそ、万が一カミーラが不覚を取る事が有れば、それはあの人間との真っ向勝負以外に他ならない。

(尤も、それでもカミーラ様が負ける可能性は低いが…)

 七星はそう思ってはいるのだが、何しろ相手はあのランスだ。

 先の人間との戦いでは、あの魔人ザビエルの使徒であり、最強の使徒と名高い戯骸を倒し、魔人レキシントンにすら傷をつけた人間。

 そして魔人ケッセルリンクが語った、魔人トルーマンの撃破。

 正直、これ程に不安要素がある人間等信じられないくらいだ。

「今はまずはカミーラ様の所へ行く事が先決だ。ラインコック、お前も準備をしなさい」

「はーい」

 七星に言われてラインコックは準備を始める。

 まずは使徒である七星達が島に乗り込まなければならない。

 魔物将軍はその後になるが、それは仕方のない事だ。

 何にせよ、使徒が真っ先に主の側に行かねばならないのだから。

「では行きましょうか」

 七星がテントを出ようとした時、急に魔人の気配が濃くなる。

「こ、これは…」

 ラインコックは息を呑む。

 カミーラにも負けぬほどの濃厚な魔人の気配。

 これは間違いなくカミーラ同様の魔人四天王級の気配だ。

 そしてこの状況で動く魔人と言えば…

「久しぶりだな七星」

「ケッセルリンク様!」

 七星の予想通り、ローブを被った魔人が入ってくる。

 今はまだ夕方なので、太陽が出ているのでローブで姿は見えないが、それは間違いなく魔人ケッセルリンクだ。

「え、ケ、ケッセルリンク様!?」

 七星が跪いたのを見て、ラインコックも慌てて跪く。

 魔人ケッセルリンクと言えば、カミーラ同様に魔人四天王の一人であり、魔人の中ではカミーラに匹敵する美貌の持ち主と知られている。

 だからこそ、ラインコックはそんなケッセルリンクが苦手だった。

「カミーラはどうした」

「カミーラ様は既に例の人間の元へと向かっています。人間達がAL教の総本山として崇めていた土地を」

「AL教か…」

 AL教、それは人間の中の宗教であり、恐らくは人間界の中でもかなりの力を持った団体。

 だが、それも全ては魔王の命令によって潰されてしまった。

(魔王、か…)

 ケッセルリンクもAL教の事は知っている。

 かつて魔人トルーマンを連れ戻す様にナイチサに命令された時、奇しくもランスもその場に居合わせた。

 そして魔人トルーマンは人間であるランス達によって倒された。

 その手段を知っているのはその戦いに参加した人間達、そしてその人間達を助けたケッセルリンクの使徒達だ。

 ケッセルリンク本人も使徒から報告を受けており、ケッセルリンク自身もその事実をカミーラにだけは話した。

 そして魔王になったジルは…その事を誰にも話さなかった。

 魔人を倒す手段が人間界に存在するにも関わらず、その存在を放置している。

(無理も無い話か…)

 魔王ジルにとっては、自分を魔王に変えた先代魔王、そしてその配下も憎しみの象徴でしか無いはずだ。

 人間達は魔王ジルの圧政を地獄と感じてるだろうが、それは魔物達も同じだ。

 殺し合うためだけに数を増やされ、一つのミスがあれば即座に処刑される。

 その処刑は死ぬまで延々と殺し合いをさせられる事…そこには例外は一切存在しない。

 魔人達を放置しているのは、ジルが魔人にはあまり興味が無いからだろう。

 そしてケッセルリンクはそんな魔人の中では非常に複雑な立場だ。

 魔人でありながら、魔王に逆らった唯一の魔人ではあるが、ジルはケッセルリンクを処罰したりはしない。

「カミーラめ…相変わらずだ。カイズに渡る手段は既に出来ているのか」

「はい。ハニーが船渡しをしています。その船に乗ればカイズに行く事が出来ます」

「ハニーか…」

 ハニーという言葉を聞いて、ケッセルリンクがローブの下で唇を顰める。

 何故かは知らないが、ハニーはカラーに対しては非常に敵対的だ。

 敵対といっても、積極的にこちらにちょっかいをかけてくる訳では無いが、とにかくケッセルリンクの立場からすれば鬱陶しい。

「お前達。私の棺は船に乗っても問題はないか?」

「勿論です、ケッセルリンク様」

 ケッセルリンクの背後に現れた使徒達が、恭しくケッセルリンクの棺を持ってくる。

 本来は昼間はケッセルリンクはその棺の中で眠っている。

 彼女は昼間は本来の力が出せないばかりか、ダメージを受けてしまう程に日光に弱い。

 だからこそ出歩く事は少ないのだが、そこにランスが、そしてカミーラが関わっているのならそういう訳にはいかない。

 カミーラが動く先には必ずランスが居るからだ。

(だが、どうしたものかな…どっちを立てても恨まれそうではあるな。一番はランスがカミーラを退ける事か…)

 ケッセルリンクとしては、ランスには魔物側に捕まって欲しくは無い。

 だが、それはそれとしてカミーラを敵に回すのも避けたい。

 それを回避するのは、ランスがカミーラを自力で何とかする事なのだが。

(しかしランスが意味も無く行動をする訳が無い。必ず何かあるはずだ)

 魔人の中では一番ランスと行動を共にしている自分の勘が囁いている。

 今回の事も必ず何かの意図があるはずだと。

(そのためには会うしかないのだが…だが、そこからは成り行きに任せるしかないな)

「では行くとしよう。と、言いたいが流石に私はこれ以上昼まで動くのは辛いな。エルシール、後は任せてもいいね?」

「お任せください、ケッセルリンク様」

 主の言葉にメイド長が恭しく頷く。

 使徒としては3番目だが、彼女は間違いなく人を統率する力を持っている。

 だからこそ、彼女にメイド長を任せている。

「ああ、では頼むよ」

 だからケッセルリンクも安心して棺の中で眠りにつく事が出来る。

 棺の中で眠りについた主を見て、エルシールが改めて七星に一礼する。

「お久しぶりです七星様。突然の事で申し訳あれませんが、宜しくお願いします」

「いえ、ケッセルリンク様でしたら、カミーラ様も特に何も言う事は無いでしょう。それよりも私達は急ぐ必要が有ります」

「ええ…後の事はお任せします。何しろ私達は今の状況が全く分かりませんので」

 こうして魔人ケッセルリンクもまた、カイズへと向かう事になった。

 新たな波乱の気配を纏わせながらも、魔物達は順調にランス達に迫っていた。

 

 

 

 そしてランス達は再びダンジョンへと挑戦していた。

「よーし行くぞお前ら。とっととクリアして先に進むぞ」

 ランスは手に入れたアイテムを皆に渡し、中々の上機嫌でダンジョンの中で高笑いしていた。

「おい…」

 が、そんな笑いを上げるランスに対し、レイがギロリとランスを睨む。

「何だ。折角俺様がアイテムを揃えてやったというのに。何か文句があるのか」

「文句があるのかじゃねえよ! 有りまくりに決まってんだろ!」

「そうだな…流石にこれは文句が出るのも無理は無い。というよりも、私も文句を言いたい」

 レイとエドワウがランスに対して詰め寄る。

「罠を突破するアイテムに何の文句がある。あるなら返せ」

「………いや、それはな」

 逆にランスに睨まれて、レイは思わず口ごもる。

 レイの足には変な靴が履かされ、その背中には大きな奇妙な棒を背負っている。

 エドワウも同じ格好をしており、その姿は確かにシュールだと言わざるを得ない。

「それが有れば問題無く罠を突破できるんだぞ。お前もそれは分かってるだろうが」

「…それは否定しねえけどよ。何で俺達なんだよ! レンでもこの小娘でもいいだろうが!」

 レイが文句を言いたいのは、何故自分がこんな恰好をしなければいけないのかという文句だ。

「何を言っておる。お前達のような男が先頭に立って罠を何とかするのが常識だろうが」

「じゃあお前がやればいいじゃねえか!」

「それこそ寝ぼけた事を言うな。この中で一番強い俺様が何でそんな事をしなければならんのだ。お前達は戦い以外が出来ないのだから、これくらい役に立て」

「ぐ…」

『この中で一番強い』という言葉にレイは何も言えなくなる。

 レイの中ではこの世界は弱肉強食、その理論に従えばこの中で一番強いランスの言葉が絶対という事になってしまう。

 だが、勿論レイのプライドにかけてそんな事は許されないのだが、レイは先の冒険で地雷を踏み抜くという失態を犯してしまった。

「それともお前達はお町を先頭に出す気か。それこそアホのやる事だぞ」

「グッ…」

 ランスに正論を言われてレイは言葉に詰まる。

 確かにランスの言う通り、この中で一番弱いお町を先頭に出すのは問題外だ。

 ランスと共に冒険した事によって、レイは冒険の初歩の初歩を理解していた。

 そして一人でいる時よりも、よりスムーズに行動が出来るという事を理解してしまった。

「分かったならとっとと行くぞ。お前達が先頭だぞ」

「チッ…分かったよ。おう、行くぞ」

「君が納得したのなら、私も納得するしかないな。大人しく進むとしよう」

 レイに促されて、エドワウも大人しく先頭に立って罠を警戒しながら進んでいく。

「のうランス。我は別にあの靴なら履いても良かったのじゃが…」

 ランスの袖口を掴みながら、お町がランスを見上げる。

「ああいうのが好みなのか」

 レイとエドワウが履いている靴は茸のトラップを避けるためのアイテムだが、中々にデザインは可愛らしい。

 だからこそ、レイとエドワウも履くのを拒否していたのだろう。

 確かにランスも履けと言われれば断るだろう。

 普段のメンバーが居ればそもそもそんなアイテムも必要が無い。

「…まあ何となく可愛いと言うか何と言うか」

 お町は少しもじもじと指を合わせながら呟く。

「がはははは! お前も意外と少女趣味があったんだな!」

「フン! どうせ我は見ての通りの年齢じゃ! それよりもとっとと行くぞ!」

 ランスにからかわれ、お町は顔を真っ赤にして怒りながら進んでいく。

「よーし行くぞ、こんなダンジョンなどとっととクリアして次に進むぞ」

 こうしてランス達はダンジョンを進み始めた。

 

 そして例のスタンプがある台の近く。

 そこでランス達はモンスターの集団に襲われていた。

 普通のモンスターの集団など、ランス達にとっては恐れる存在では無い。

 しかもその襲っている集団がヤンキーの集団なのだから、本来であれば余裕で勝てる相手のはず…だった。

「カッキーン!!」

「ヘイボーイ! そんな力ではミーには勝てないネ!」

「な、なんだこいつら!? 本当にヤンキーか!?」

 ヤンキーの集団…9体のヤンキーは恐るべき強さを持っていた。

「いや、普通のヤンキーじゃ無いでしょ明らかに!」

 レンはヤンキーから飛んでくるボールを弾きながら唇を噛む。

 ヤンキーの集団にライトボムを打ち込むが、ヤンキーは平気な顔で立ち上がって襲い掛かってくる。

「当然ね! ミーたちはブラックソックス! この黒い靴下こそがミーたちの強さの証!」

「ヘイジャップ! メリケンの強さを思い知らせてやるね!」

「米の教え!」

「それは!」

「「「「「「「「「フリーダム!!」」」」」」」」」

「ちょっと色々と混じってるだろう! 少しは統一性を持たせろ!」

 スラルの言葉を無視してヤンキー達は次々とボールを打ち込んでくる。

 その弾幕の前には流石のランスと言えども中々進む事は出来ない。

「おい。お前ら連中に突っ込んで来い」

「無茶言うなよ。あんな中に飛び込んだって何ともならねえよ」

「少なくともレン殿くらいの防御力がなければ進む事もままならんよ」

「本当使えんな、お前達は」

 物陰に隠れたランスは、レイとエドワウに対して辛辣な言葉を投げかけて様子を探る。

 あのヤンキー達は本当に強い…というか、常軌を逸している。

「何か特別なアイテムでも使っていない限り、あの強さは説明が出来ないな。仮に突然変異のモンスターだったとしても、それが9体同時に徒党を組めるなど考えられん」

 スラルもこのヤンキー達のおかしさには首を捻る。

 元魔王なので、モンスターの中でも突然変異が生まれる事は理解している。

 だからこそ、突然変異のモンスターが徒党を組む事の難しさは知っているし、それも9体同時に同じ突然変異が出て来るという天文学的確立はあり得ないと分かる。

「あーしんどい。何なのよあいつらは!」

 レンも同じように物陰に隠れながら大きなため息をつく。

 傷一つ無いのは流石と言えるが、それでも防いでいるだけでは相手に攻撃を加える事が出来ない。

「どうするのよ、ランス」

「どうするだと。うーむ…」

 レンに問われてランスも考え込む。

 何しろ相手は9体、それも使徒クラスの実力がある連中が襲い掛かってくるのだ。

 流石のランスでも使徒級のモンスター9体が、連携を取って襲い掛かってくるとなれば苦戦は免れない。

「のうランス…ヤンキーは確かに9体居たが、その奥にもう一体別のモンスターが居るんじゃが…」

「何だと? 別のモンスターだと?」

「うむ。別の気配を確かに感じた。そいつが司令塔のような役割をしているとは考えられぬか?」

「司令塔…あり得る話だ。バトルノートの様に、モンスターを指揮する事に長けたモンスターも居るからな」

 お町の言葉にスラルが頷く。

 確かにあのヤンキー達は統制が取れ過ぎている。

 本来魔物は連携を取るのに不向きだ。

 だからこそ、人間でも付け入る隙があるのだ。

 それは魔人とて例外では無いのだ。

「それはいいけどよ。流石にコレだけの弾幕を潜り抜けるなんて無理だぜ」

 レイは忌々しそうに唇を噛む。

「タイマンだったら負けねえのによ」

「馬鹿正直にタイマンなどするのは馬鹿のやる事だ。ようは勝てばいいんだ勝てば。スラルちゃん、魔法で吹っ飛ばせるか」

「魔法か…白色破壊光線ならば吹き飛ばせると思うが、問題なのは奴等の後ろに例のスタンプ台があるという事だ。万が一、スタンプ台が吹き飛んだ時にどうなるか予想がつかない。それは最終手段にするべきだろうな」

「面倒臭いな…」

 ランスは本気で面倒臭そうにため息をつく。

 まさか、最初からこれ程の面倒臭い敵が出て来るとは思ってもいなかった。

「ヘイヘイヘイ! ファッキ○ボーイ! ミー達を怖いのか!?」

「オー! これだからファッキ○ボーイはダメね! ミー達のバズーカでそのケツを抉ってヤリマース!」

「「「「「「「ゲラゲラゲラ!!!」」」」」」」

「おいスラルちゃん、俺様が許す。白色でも黒色でもいいからあいつらをぶっ殺せ」

「落ち着きなさいよ。まあ確かにあそこまで下品だと気持ちは分かるけどさ」

 ランス達が物陰からヤンキー達を見ていると、女の子モンスターである、かえる女と一体のハニーがとこところ歩いてくる。

「ねえハニ彦さん。ここが本当に凄い見世物がある所なの?」

「そうだよ。この見世物横丁はね、色々と楽しい見世物があるんだよ」

「そっかー。楽しみだね」

 かえる女とハニーはそのままヤンキーたちの居る所へと歩いていき、

「オー! グットガール! ミーのバットをぶち込んでやるね!」

「きゃーーーーーーー!」

 そのままかえる女はヤンキーたちに襲われてしまう。

「う、うわー! 何をするんだ!?」

「ハニーはとっとと消えな! ミーのバットはハニー相手じゃ勃たないんだよ!」

「う、うわーーーーーーん!」

 ハニーはヤンキー達に無視され、そのまま泣きながら走り去っていく。

「…何をやっとるんだあいつら」

「モンスターのやる事に突っ込むだけ無駄でしょ。やっぱりここは私とスラルであの連中を吹き飛ばして…」

「ちょっと待ってくれ。我に試したい事がある」

 呆れているランスとレンの言葉を遮り、お町が自信ありげに胸を張る。

「大丈夫なのかい。私は君みたいな少女が傷つくのを見ては居られない。いや、君はもしかしたら私の母になってくれるかもしれない女性…グハッ!」

「ロ○コンは黙れ」

 エドワウの言葉をランスが物理的に遮る。

 気絶したエドワウを完全に無視し、ランスはお町を見る。

「で、何か考えが有るんだな」

「ああ。それに我は妖怪だ。万が一死ぬような怪我を負っても直ぐに復活する。そのように作られた。黒部殿もそうだったのだろう?」

「…確かにな。黒部はランスの一撃をまともに受けて死んだと思ったが、直ぐに復活したからな。妖怪とは本当に不思議なものだと思ったものだ」

「スラルの言う通り、妖怪は簡単には死なぬ。では我が行って来るとしよう」

 お町はそう言うと、己の姿を狐の姿へと変える。

 だがそれは非常に小さい、まだ子狐と言っても問題無い大きさだ。

「では行って来る。出来ればランス達には普通に連中の目を引いてくれると助かるがな」

 お町はそう言って物陰から出ていく。

 本来であれば、直ぐにヤンキーが打ったボールが飛んでくるはずだが、今回はその気配が無い。

「オー! ファッ○ンフォックス! どうしてこんな所に」

「オイジョー! お前のビッグバットが火を吹く時が来たぜ!」

「申し訳ないがアニマルをファッ○するのはNG」

 好き勝手な事を言いながらゲラゲラ笑うヤンキー達を尻目に歩いていく。

 その時、

「来たぞ! ファッ○ンヒューマン! 奴等をぶち倒して男も女もファッ○ね!」

「ヘイヘイヘイ!」

 ランス達が一斉に物陰から出て来て、ヤンキー達はすぐさまランス達に狙いをつける。

 やはり凄まじい速度で放たれるボールには、ランス達も逃げ惑うので手一杯となる。

(早く奴等の司令塔を見つけねばな…)

 お町は少し焦りながらも進んでいく。

 すると、確かにお町が感知した存在がメガホンを片手に大声を張り上げていた。

 ヤンキー達の声や、バットから放たれるボールの音で気づけなかったが、やはりそいつは存在して居たのだ。

「OK! そのまま弾幕で押しつぶす! これこそ大鑑巨砲! 米の教え! それはフリーダム!」

 そこに居たのは、怪しげな覆面をした男の子モンスターの一種であるフリーダムだ。

「ああ…この戦力が有ればM○Bの制覇も間違いない…このブラックソックスが一気にリーグの頂点に立ち、ワールドシリーズの制覇をするのだ!」

 感慨深く涙を出すフリーダムはすぐ側に来たお町に全く気付かずに、メガホンを通してヤンキー達に指示を出している。

 そしてヤンキー達はその指示通りに、ランス達に鋭い弾幕を浴びせているのだ。

「よーし! ここでグランドスラム! 完全試合は目の前だ!」

「生憎とそんなモノはもう二度と見る事は出来んがな」

「ん?」

 突如として聞こえてきた声に、フリーダムは周囲を見渡すも、そこには誰も居ない。

 そう、誰も居ないはずだった。

 そこに居たのは一体の小さな狐だけだったのだから。

 だが、その小さな狐の体が突如として人の姿へと変わったと思うと、その手から凄まじい電撃が放たれ、フリーダムに直撃する。

「ノ、ノーーーーーーーー!!!」

 そしてフリーダムはそのまま黒焦げになって倒れる。

 メガホンが地に落ちると同時に、あれ程までに煩かった打撃音が聞こえなくなる。

「ホ、ホワーット!? な、何故打てない!?」

 一体のヤンキーがボールを打とうとするが、それは快音を響かせる事無くあさっての方向へ飛んでいく。

「か、監督! フリーダム監督が死んでる!?」

「ボ、ボス!? 一体何が!?」

 動揺するヤンキー達だがその動揺がすぐさま死につながる事をこいつ等は理解していなかった。

「ラーーーーンス! アタタタタターーーーーーーク!!!」

「「「うぎゃーーーーーー!!!」」」

 まるで鬱憤を晴らすかのような強烈な一撃が一部のヤンキー達を粉々にする。

「よくも俺様に苦労をかけさせてくれたな。その褒美にお前ら全員皆殺しじゃー!」

「ウ、ウェイト! ファッ○ンヒューマン! ここはジェントルマンらしくベースボールで勝負を…」

「んなまどろっこしい事する訳ねーだろ。とっとと潰れやがれ!」

 ヤンキーが何とかランスに対して言葉を放つも、その言葉はレイの一撃で潰される。

 レイの強烈な蹴りを受けたヤンキーの首がへし折れる。

「オーノー! 乱闘はダメ! ここは神聖な場所であり…」

「何が神聖よ。笑わせるんじゃないわよ。いい加減に死になさい!」

 散々攻撃を捌き続けていたレンも、八つ当たりをするようにヤンキーの首を刎ねる。

「レッドソックスだかブラックソックスだか知らないがどうでもいい。邪魔をするなら叩き潰すだけだ」

 スラルの魔法が炸裂し、ヤンキー達は吹き飛ぶ。

 こうして、ヤンキー達に指示を出していたフリーダムが死んだことで、ヤンキー達はあっさりと鎮圧された。

「まったく…何だったのかしらね、こいつら」

 もう動かなくなったヤンキー達を見ながらレンが呟く。

「ふむ…ブラックソックスと言っていたか、確かに普通のヤンキーの履いている靴とは違うな。だとすると、これはアイテムか何かか?」

 このヤンキーは黒い靴下を見せ付けるようにして履いている。

 そこが普通のヤンキーとの違いだ。

「お町、お前は大丈夫か」

「当然じゃ。妖怪王である我がこの程度の相手に負ける訳が無いじゃろうが」

 お町は得意気にふんぞり返る。

「おーおー凄い凄い。で、こいつが例の奴か」

 ランスは黒焦げになって死んでいるフリーダムを見る。

 そしてそのフリーダムの側には、奇妙な形をしたメガホンが転がっていた。

「それももしかしたら特殊なアイテムなのかもしれんな。ランス、ハニーがこの迷宮のアイテムを買い取ってくれるのだろう? 回収してもいいだろうな」

「まあそうだな。頂いておくか。そしてスタンプもゲットだ! がはははははは!」

 直ぐ側にあるスタンプ台からスタンプを押す。

「よーし、とっとと戻るぞ。そして次のダンジョンに行くぞ」

「いや、ランス…ここは少し休憩をしないか。正直このダンジョンのややこしさは我の想像以上だ。何かしらの対策をしなければ苦戦は必至だ」

「何だと? もうばてたというのか?」

「私はまだまだ行けるけど…でも確かに今日はこの辺で良くない? それにアイテムの買い足しも必要でしょ」

「むぅ…仕方ないな。今日はここまでにしておくか」

 まだまだ行けるというランスだが、スラルとレンの言葉を聞いて大人しく引き下がる。

 何だかんだ言っても、ランスは女には非常に甘いのだ。

 その日のランスの冒険は一応終わりを告げた。

 

 

 その夜―――

「ぐふふふふ…俺様は見たぞ。ここに楽しそうな店があったのをな」

 ランスは密かに一人見世物横丁に来ていた。

 見世物横丁とは言え、ランスも直にスタンプ台へと向かったため、碌な探索を出来ていなかった。

 だが、ランスは確かに見た…ここに店があったのを。

 ランスはその店に近づいていくと、

「やあやあいらっしゃいお兄さん! 丁度今ショーの始まりの時間だよ!」

 呼子のハニーがランスを誘う。

「ほうほう。何かいいものが見られるんだろうな」

「そりゃもう…相当にスケベな子が色々とやっちゃう訳で…ウヘヘ」

「がはははは! それは見ておかなければならんな!」

 ランスはハニーに促されてその小屋へと入っていく。

 が、そこで入った所で、非常に嫌な気配がぷんぷんしてくる。

 何故ならここにいるのは全てハニーだからだ。

(いや待て。ハニーも中々アレな性癖をしている。だからワンチャン有るかもしれん…)

 ハニーという種族は、人間の女にも性的興奮を覚える変態だ。

 だからこそ、ランスは嫌な予感がしながらも何とか堪える。

 そしてブザーが鳴った後で暗くなり…そこに居たのは一体のハニ子だった。

「………」

 ランスは手に取っていたラレラレ石でその光景を一応撮影する。

 何しろこれはハニーキングから預かった物であり、ムフフな光景を撮影すればハニーキングがいいものをくれる…らしい。

 だからこそ、ランスは耐える。

 もしかしたらここから何かいいものが見れるの事を願って。

 だが、ランスの願いは粉微塵に打ち砕かれる。

 ハニ子がしばらくダンスをしていたかと思うと、レッドハニーが現れる。

 そしてレッドハニーがハニ子と共に土をこね始めたかと思うと、ハニー達が興奮した声を上げる。

「………おい、何だアレは」

「え? めっちゃエロい光景じゃないですか! あいつら、あんな所で堂々と子作りしてるんですよ!」

「…子作り」

 子作り…当然人間でいう所のセックスだ。

 つまり、ハニーの視点からすればあれはセックスをしているという光景なのだ。

 勿論、人間はハニーの子作りに興奮するわけも無く、ランスの怒りのボルテージが溜まっていく。

 そして気が短いランスはすぐさま怒りが頂点に達する。

「うがーーーーー! 何だコレは! これの何がムフフな光景だ! ハニワがただ粘土をこねているだけではないか!」

「え…で、でもああやって堂々と子作りをするなんて途轍もないビッチで…」

「やかましい! 人間様がハニワのセックスに興奮するとでも思っているのか! 絶対に許さんぞ!」

 ランスは当然の如く暴れ周り…そして残ったのは見世物小屋という名の廃墟だった。

「ぜえぜえ…無駄に疲れた。いや、間違いなく無駄な時間だった…」

 肩を落としながら、ランスはとぼとぼと魔法ハウスに戻っていく。

 そして魔法ハウスへと入っていくと、

「おや、どうしたランス。珍しく気落ちしているようだが…」

 リビングで本を読んでいたスラルが出迎える。

「まあお前の事だ。どうせ見世物小屋に行って来たのだろう。で、何かいいものを見れたか?」

 そう言うスラルの顔は普段通りで、ランスを嘲るような行動は何一つない。

 だがその態度が逆にランスの琴線に触れた!

「うがああああああ!」

「え、あ、ちょっと!?」

 ランスはスラルを担ぎ上げると、そのまま自分の部屋へと消えていく。

 その日、スラルの悲鳴と嬌声、そしてベッドの軋む音は朝になるまで鳴り響いていた。




大分遅れました 申し訳ないです
PCが本当に限界のようで、データ移動等色々とやる事が有りました
そして闘神都市3をちょっと再プレイしていました
ランスシリーズと似ているようで違うから参考にしていいかは微妙なんですけどね

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