ランスとケッセルリンクは互いに身支度をしていた。
ケッセルリンクは何時もの服を身に纏うと、そのままランスの着付けを手伝う。
「お、珍しいな。お前がこういう事をしてくれるのは初めてだな」
「お前が意外と時間をかけすぎなんだ。普段からしっかりする事だな」
「そういやメイド達が居た時はそいつらにやらせてたからな。まあ主人の着付けを手伝うのは当然の事だろう」
「お前と言う奴は…まあシャロン達は喜んでやるだろうから、文句は無いがな」
ランスは床に落ちている鎧を見る。
この鎧も中々馴染んできてはいるが、この黒一色というのはやはり違和感がある。
ランスを良く知る者…シィルは曖昧な顔をするだけで何も言わないだろうが、志津香やマリア辺りなら遠慮無く『趣味変わった?』くらいの事は言ってきそうだ。
「それにしてもお前は結構大胆だったんだな。クールに見えて情熱的とでも言えばいいのか」
ランスとケッセルリンクはそれこそ一日中交わり続けた。
互いに互いの体液で体は濡れ、それを洗い流すところでも交わった。
ケッセルリンクの体はランスの全てを受け止め、ランスもケッセルリンクの全てを味わった。
ランスが打ち止めになるまで、二人は全力で互いに互いを求め続けた。
「…忘れてくれ。もう呪い効果はきれているんだ」
ケッセルリンクは何時もの様にクールに微笑む。
先程までの態度とは嘘のように、何時ものケッセルリンクに戻っていた。
だが、ランスはそんな事では当然動じない。
「忘れろだと? そんな事出来るとおもってるのか? それに俺様は嫌だぞ」
「だ、だからだ…この思いを抱えたまま、お前と敵になったかと思うと…私は耐えられない」
ケッセルリンクはランスに抱きつく。
ランスの背中に手を回している彼女の手は少し震えている。
「ナイチサの命令でお前と戦う事になった時…私はそれが当然だと思っていた。お前と戦わないという選択すら選べなかった。これが…魔王の強制力だと嫌でも理解したんだ」
魔王の強制力…それは魔人及び使徒、そして魔物達には絶対的な効力だ。
ケッセルリンクはあの時魔王の命令に逆らう事など微塵も考えなかった。
そして魔王に命令されれば、どんな命令でも当然のように受け入れなければならないのだ。
「私は怖い…お前と戦う事になっても…そしてお前を手にかける事があっても、それが魔王の命令ならば当然のように受け入れる。それが何よりも怖いんだ…」
「うーむ…」
ケッセルリンクの本気の言葉には流石のランスも考える。
どうやらランスが考えているよりも、魔王の絶対命令権は遥かに上をいくらしい。
あの時ナイチサの命令でランスに向かってきた時がそうなのだろう。
それを考えれば、確かにケッセルリンクの言う通り、魔王の命令があればランスと敵対するという事もありえない事では無いのだ。
何しろランスは魔王という存在を『魔王ジル』しか知らない。
一応美樹がそうだが、魔王として覚醒していない事も有り、その命令とやらに今一ピンと来ないのだ。
「これはこの先について回る事だ…ジル様は私にお前を殺すような命令はしないとは思う…だが、その先が分からない。それが怖い…」
ケッセルリンクの言葉は普段よりも弱弱しい。
本当にケッセルリンクが恐れているのが分かり、流石のランスも簡単には考えられなくなる。
「魔王の命令権とかは離れていても有効なのか?」
「いや…私が知る限りでは、直接的に命令されないと働かない感じだが…詳しい事は分からない。ナイチサが私に命令したのはあの時だけだし、ジル様は一度しか命令していないからな」
「なら直接会わなければいいのか?」
「理屈としてはそうだが、実際には不可能だ」
魔王からは逃れられない、それが魔人の宿命だ。
無敵結界、永遠の命、誰もが望むものかもしれないが、ケッセルリンクにとっては意味の無いものだ。
「まあジルが俺様の命を狙うなんて事は無いだろ、多分…だからそう気にするな。それよりも、お前も俺様に協力しろ。別に表立って協力しろとは言わん」
「それは…構わない。ただ、私が直接動くと目立つから、その場合は使徒を使ってという事になる」
「構わん。俺様が知りたいのは情報だからな。それが聞ければ今はそれでいい」
ランスは今の状況になって、情報こそが大事だと気付く。
アイスフレームに居た時は、あのアベルト・セフティが情報を集めていた。
確かにアベルトはカミーラの使徒ではあったが、能力に関しては優秀だっただろう。
JAPANでも鈴女を始めとした忍者達から情報を集めた。
その情報こそが、このGL期には一番大切なものだ。
しかも、それが魔軍からの情報となれば一番信頼性が高いだろう。
「だが、そのためにはお前の居場所が分かる方法が必要だし、何よりも魔王様に絶対にばれない方法を取る必要がある。そんな方法はあるのか…?」
「そこは…うむ、何か考える」
そうは言うものの、流石にその方法は直ぐには思い浮かばない。
ケッセルリンクの言う通り、魔王にばれてしまえばケッセルリンクの命は終わる可能性もある。
ランスの居るLP期なら魔法の力…アイテムで通信をする事も可能だ。
実際にJAPANでウルザが使っていた。
しかし今はGL期、そんなアイテムは流石に存在しないだろう。
「だが、一つ良い事もある。私はあんな事をしたにも関わらず、ジル様は私を罰していない。それどころか、自由に行動をする事も特に何か言われる事も無い。だから特別見張られているという事は無い」
「俺様に情報を流せないのであれば意味が無いだろ。まあそれは言っても仕方が無いか」
ランスは何とかジルの情報が欲しいのは事実だ。
だが、流石にどうしようもない事もあるのもまた事実だ。
「まあその辺は俺様が何とかするか。だからお前も少しは調べておけ。魔王の事をな」
「魔王か…確かに調べる意味は有りそうだ。ここから先はスラル様も交えて話したい。それでいいか?」
「構わんぞ。まあ俺様が一日中ケッセルリンクを可愛がっていた事に、スラルちゃんも嫉妬してるかもしれんしな」
機嫌を良くして笑うランスに、ケッセルリンクは苦笑しながらその頬にキスをする。
「…正直今の私はスラル様に嫉妬しているかもしれない。お前と常に一緒なのだからな」
「お、おう…そうか…」
こうまでストレートに言われては、流石のランスも思わずたじろぐ。
相変わらず、ランスは自分に対してストレートに行為をぶつけてくる相手には弱い。
リアもストレートに好意をぶつけてくるが、流石にあそこまでだとランスももう当たり前に思っている。
なので、ケッセルリンクのようなタイプの女にこう言われると、ランスとしても少し動揺するのもまた事実だ。
「フフ…すまない、少し言い過ぎたようだ。もう呪いは無いと言うのにな…よし、まずはスラル様と話すとしよう」
ランスとケッセルリンクはそのまま隣の部屋へと行く。
そしてそこに居る存在に思わず後ずさりしてしまう。
「…なんだこいつは」
ランスは若干距離を取りながら、祈りを捧げている拷問戦士を見る。
そんなランスを見ながら、スラルは疲れたようにため息をつく。
「うーん…突然変異の拷問戦士の成れの果て…かなぁ…」
「拷問戦士はかつての名前…今の私は愛に目覚めた戦士…その名も愛・戦士です」
金色の鎧は既に色が抜け真っ白になっており、その目は気持ち悪いくらいに輝いている。
「…何が起きたのですか? この変わりようは」
ケッセルリンクも思わずスラルに訪ねてしまう。
自分に拷問(?)をしていた時の様子とはかけ離れており、ハッキリ言ってしまえば気持ちが悪い程だ。
「まあその…男として終わったと言えば良いのか何て言えば良いのか…とにかく、これまでの人生観が変わったみたいで…」
「そうです…今までの私は死にました。私はこの広い世界で巡り合ったのです。そう、巡り合い宇宙…ソロモンで出会ってしまった二人の様に…」
「…狂ったのか?」
単刀直入なランスの言葉に、スラルは苦笑を返すしかない。
「突然変異のモンスターは生涯に一度しか射精が出来ないようでな…お前とケッセルリンクの行為で興奮して、思わず至ってしまったようだ」
「…な、なんと」
それには流石のランスも戦慄し、思わず拷問戦士に同情するしかない。
それは男として非常にデリケートな問題であり、ランスとしても考えさせられる事でもあった。
「有難うございました。私はこれから愛・戦士として正しき愛を世界に広めるつもりです。そう、この大陸の10分の9を愛の使徒にすべきと神からの啓示があったのです」
「何を言ってるんだこいつは…」
スラルは思わず頭を押さえる。
先程からこんな調子で、スラルとしてもどうしていいか分からない状態だったのだ。
「それでは失礼します。愛が私を呼んでいる…」
そして拷問戦士はそのまま扉を開けて、外に出て行ってしまった。
「…開くのか、そこは」
「今更考えるだけ無駄でしょう。それよりもスラル様…お久しぶりです」
ケッセルリンクはスラルに臣下の礼を取る。
その様子にスラルは苦笑する。
「もう我は魔王では無い。だからそんな態度をとる必要は無いんだぞ」
「申し訳ありません。これも性分なものですから」
ケッセルリンクの言葉にスラルは苦笑する。
が、次に少し意地の悪い顔になる。
「昨日の様に、私に対抗心を剥き出しにしてもいいんだぞ」
その言葉にケッセルリンクは顔を真っ赤に染める。
「も、申し訳ありません。そ、それは呪いのせいであって、決して私の意思では…」
「呪いのせいにする必要は無いだろう。むしろお前の気持ちを聞けて我は嬉しい。お前でもあんなに生の感情を出す事があるのだと思うとな」
スラルの言葉にケッセルリンクの顔だけでなく、その肩辺りまで紅潮する。
「おう。ケッセルリンクは随分と情熱的だったぞ。スラルちゃんにしてた事を全部して欲しいとか、俺様の事を愛してると離してくれなかった」
ニヤニヤしながら言葉を発するランスに、ケッセルリンクはもう顔を上げる事も出来ない程に羞恥心を覚える。
「ご、後生だからもうやめてくれ…そ、それに何時までもこんな事を話している場合では無いだろう」
「確かにそうだな。カミーラも七星も全く事情を話さないからな…まあカミーラとランスの関係は微妙だ。我等に情報を渡さないという態度は理解出来る」
カミーラはともかく、七星は明らかに意図的にこちらに情報を渡していない。
魔王の命令でレイを捕えに来た事は分かるのだが、それ以上の事は何も話さない。
まず間違いなく、七星はこちらに情報を渡すつもりは無い事は分かる。
「それで…今の状況を知りたい。お前は我等より先にこの世界に戻ってきたが、それからどうなった?」
「…私は既にランスに協力すると決めました。だから話しましょう。私が知っている事全てを」
そしてケッセルリンクは自分が知っている全ての情報をランスとスラルに話す。
自分が戻ってきてからの事、今のジルの様子…そして新たな魔人の話を。
「ノスにジーク、そしてメディウサか…魔人を作っているという訳だな」
スラルは新たな魔人が生まれている事に難しい顔をする。
やはり魔人は脅威であり、いくらランスが強くても無敵結界をどうにかしない限り戦いにすらならない。
そして当のランスは、その名前を聞いて少し難しい顔をしていた。
何故なら魔人ノス、そして魔人ジークもランスがよく知っている名前だからだ。
「ノスってあのドラゴンで…ジークって黄色いでかい奴か?」
「そうだ。お前はスラル様の時代にドラゴンのノスと会っているのだったな…だが、ジークの事を知っているのか?」
「気にするな。そうか、あの化物ジジイがか…」
魔人ノス…それはランスにとっても恐ろしい程の敵だった。
当時の人類最強の存在であるヘルマンの将軍であるトーマも強かったが、ノスはそのトーマを凌駕する力を持っていた。
ランス以外ではまともにダメージを与えるのも難しい程の強固な体、そして真の姿であるドラゴンとしての力。
いくらマリアや志津香、リックとバレスといったリーザスの将軍やリア御付きの神官戦士のマリス、リーザス親衛隊長のレイラ。
そして悪魔のフェリスが居たとはいえ、ノスは間違いなく強かった。
純粋な強さだけなら勿論ジルの方が上だろうが、あの魔人は間違いなくランスが戦ってきた魔人の中でも最強だった。
間違いなく、ゼスで戦った時のカミーラよりも強かっただろう。
そしてもう一体は魔人ジーク。
これもゼスで戦った魔人の一人であり、まねしたの魔人だ。
トーマやジルに変身したが、ランスの策略にかかり毛虫になった所をカオスで潰された。
ランスの策略が上手く嵌り倒せたが、もしあの時シルバレルに変身していたらと思うと、ランスでも戦慄する力を持つ魔人だ。
「そして…人間牧場、そして魔物牧場…間違いなく、今の世界は魔王によって全てが支配されている時代です」
この世界に戻って来た時、ケッセルリンクが覚えたのは戦慄だった。
人が人として生きられぬ世界…これは魔王がやっているのだからまだ理解出来ない訳では無い。
だが、魔王ジルのこの世界への憎悪は魔物にも等しく向けられた。
いや、魔物を容赦なく毎日処刑している事を考えれば、魔王ジルは魔物に対して憎しみを深く抱いているのかもしれない。
人間に関しては、ほとんど無関心な様子さえ見せているのだから。
「そうか…ジルは魔王の血に飲み込まれているのだな…」
レイやお町、そしてエドワウやケッセルリンクの使徒達からも聞いてはいたが、今の時代はまさに地獄だ。
全ての存在にとっての地獄…それが魔王ジルが造った時代なのだ。
だが、スラルにはジルの感情が何となくだが理解する事は出来る。
スラルにとっても、魔王の血は恐ろしかった。
己の意思が乗っ取られるかと思わんばかりのあの殺意と破壊衝動。
ならば、魔王によって我が子を殺されたジルが魔物にその衝動を向けるのはある意味当然とも言えた。
自分とは違う衝動ではあるだろうが、それでも魔王の破壊衝動の大きさには戦慄してしまう。
「どうするべきか…レイとエドワウ…人間の話よりも状況は尚悪い。そんな状況でランスがジルに見つかれば、ランスは問答無用で魔人にされてしまうだろうな」
「それは間違いないと思います。ただ、ジル様は魔王城にもいない事も多いようで…詳細は知りませんが」
「悩ましいな…しかしランスに大人しくして居ろというのも無理があるからな…」
スラルはランスを見る。
この男はまさに騒動の天才で、人を巻き込んだ挙句に美味しい所を持っていくのはお手の物だろう。
権力には固執しないが、目的のためには手段は選ばないのは間違いない。
そしてランスの目的はジルを自分の奴隷に戻す事…そのためには決して諦めないし、手段は選ばないだろう。
(それは分かる…だが、まだ早いのだ…)
ランスが迷わない性格なのは好ましいのだが、流石に相手が悪すぎる。
「話はいいが、そろそろ進むか。シャロン達にも俺様がケッセルリンクを助けた事を言ってもいいだろ」
「そ、そうだな。確かに使徒達の事も有るからな…取り敢えずは戻ると言うのは賛成だ。しかしここは何処なのだ?」
「そうか…ケッセルリンクは知らないのだったな。だったら歩きながら説明するが、今は大丈夫か? 夜では無いようだが…」
「それは大丈夫です。何故かここでは私の力は封じられましたが、昼が辛いという事は有りませんでしたから」
「とにかく行くぞ。ついでだ、お前も手伝えよ」
「まあ…それくらいは構わんよ」
こうしてランス達はカラーホイホイから出ると、そのカラーホイホイは途端に霧の様に消える。
「あ、無くなった。折角ケッセルリンクを捕まえるいいアイテムが出来たと思ったのだがな」
「…お前はそんな事を考えていたのか。まあいい、それよりも事情を説明してもらえるな」
「スラルちゃんに聞け。そっちの方がいいだろ」
ランスとケッセルリンクはそのまま歩き始める。
もう目的は果たしたので、後はゴールに向かうだけなので、地図を見ながら歩いていく。
不思議とあれだけ存在していたモンスターは襲ってこず、おかげでスラルはケッセルリンクに説明をする事は容易に出来た。
「成程…魔人を倒す事の出来る力ですか。確かにランスの目的を考えればそれも当然ですね」
「お前にとってはあまり良い事では無いかもしれないが…まあどうせ何れは魔王の耳に入る事だろうからな。遅かれ早かれという奴だ」
スラルはランスがこの試練を突破する事を微塵も疑っていない。
ランスとはそういう男だし、その意志力も運も実力も兼ね備えた男だからだ。
「私からジル様の耳に入るという事は無いでしょう。同じようにカミーラからも。ただ、スラル様の言う通り、何れはジル様の耳に入るでしょう」
それを考えると憂鬱だが、それでもランスは目的のためには絶対に止まらないだろう。
「それで狙いがメディウサですか…確かにアレは私にとっても不愉快な存在ですが…」
魔人メディウサ…人間に手を出す事を禁じられている中で、人間の女を犯し殺している唯一の存在。
勿論それが魔王に聞こえていない訳では無いだろうが、何故か魔王はメディウサを放置している。
それ故に、メディウサは魔王のお気に入りという噂が魔軍に流れ、メディウサの下に付きたいと思う魔物は多い。
「確かにメディウサは魔人になって日が浅い。私やカミーラといった魔人四天王よりは弱いだろう。だが…それでも厳しいぞ」
メディウサの居城に忍び込んで彼女を倒すとなると流石に厳しいだろう。
確かに今魔物兵の数は少ないが、それでも居ない訳では無いのだ。
「それは先の話だからな…今は何よりも魔人を倒す力を手に入れる方が先決だ」
先の事よりも今を何とかしなければならない。
そのためには、このダンジョンを何としてでも制覇して、魔人の無敵結界を何とかする方法を手に入れなければならない。
「おっ。あったぞ」
ランスの視線の先には、このダンジョンの完了を示すためのスタンプ台が有る。
ランスがスタンプを押すと、光に包まれてランス達が地上に戻る。
地上ではもう日が落ちかけており、夕方になっていた。
「地上に戻ったか…今になって体が辛くなってきたな…」
まだ太陽が出ているため、ケッセルリンクは体が怠くなってきているのを感じる。
「それよりもとっとと戻るぞ。あいつらから礼を貰わなければならないからな」
ランスは浮かれた様子で魔法ハウスに戻る。
するとそこにはケッセルリンクの使徒達が勢揃いしていた。
「お前達…」
「「「「「お帰りなさいませ、ケッセルリンク様」」」」」
「ああ…ただいま」
メイド達の声にケッセルリンクは優しく声をかけると、使徒達が一斉にケッセルリンクに飛び込んでいく。
ケッセルリンクはその体を受け止めると、一人一人その頭を撫でていく。
「おうこら。ケッセルリンクを助けた俺様に何か言葉は無いのか」
ランスがその様子を見て憮然とした様子で声を出す。
「さーすがランスさん。勿論前に言った通り、私の作ったエッチな下着をプレゼントしますよー。あっ、勿論スラル様とレンさんの分もありますよー」
「おーそうか。流石加奈代は気が利くな、偉いぞ。がははははは!」
「いえーいいえーい」
ランスと加奈代はハイタッチをして笑いあう。
「本当に仲がいいんだな…いや、似た者同士と言えば良いのか…いや、良くないんだけど…」
そんな二人の様子を見て、バーバラだけが諦めにも似た顔をしている。
「それは勿論。いやーランスさんの側に居る女性って本当に魅力的なんですよねー。もう私は眼福ですよ」
加奈代は得意げに胸を張りながら答えるのを誰もが苦笑して見ていた。
「有難うございます、ランス様。メイド長としてお礼申し上げます」
「別にそんなのいらんぞ、気持ち悪い。しかもお前元々貴族の娘とかじゃ無かったか? まあ様になっていると言えばなってるが」
「私の視点からすれば、ランスさんと別れてもう何百年もたってますからね。それくらいの礼儀作法は身に付きますよ」
エルシールも苦笑しながら答える。
「じゃあ何百年もたったなら、料理の一つくらいは出来る様になったんだろうな」
「うっ…」
ランスの言葉にエルシールは露骨に眼をそらす。
「何だ、まだ駄目なのか。相変わらず鍋を爆発させてるのか」
「流石にそこまでは! と言うよりもあなた達と一緒に居た時から爆発まではしてないじゃないですか」
ジト目でランスを軽く睨むエルシールに苦笑しながら、パレロアがランスの側に近寄る。
「それよりもランスさん。まずは鎧とマントを預かりますよ」
「おうそうか」
パレロアは慣れた手つきでランスのマントと鎧を外す。
もう何度もやっているため、彼女の動きに迷いは無い。
昔はおっかなびっくりでランスの鎧を持っていたが、使徒となった今は簡単に持つことが出来る。
「ケッセルリンク様、ランス様、スラル様。お食事の時間にはまだ早いので、少々お待ちください。今日は私達が腕を振るって料理をさせて頂きます」
シャロンが恭しく一礼すると、ランスの鎧を持って部屋に入っていったパレロアを除いて、皆が一礼する。
「ご苦労、お前達。それよりもカミーラは居るか?」
ケッセルリンクの言葉にシャロンは首を振る。
「いえ、カミーラ様は七星様とラインコック様を連れてお出かけになられています」
「そうか…まあ別にあいつも私の心配をしたりはしないだろう。それよりも久々にまともな食事をとりたいな…」
「そうだな。俺様も腹が減った。勿論精のつくものを用意しろよ」
ランスの顔にバーバラは口をへの字に曲げる。
「あんた…あれだけやってまだ足りないのか」
ランスは冒険に行く前に、シャロン達と散々セックスをしていた。
勿論バーバラは参加しなかったが、それでもランスは4人…それも使徒と夜通しセックスをしていたはずだ。
そして腹立たしい事だが、恐らくは主であるケッセルリンクもランスに抱かれているはずだ。
これは使徒達の共通認識であり、それに反発しているのは自分だけという状態になっている。
(やっぱり何か間違ってると思うんだけどなあ…)
バーバラの人間に対する敵愾心は強い。
他の皆の過去を聞いても、皆が悲惨な過去を持っている…のだが、そこには必ずランスという男が介入してきた。
その結果皆は助けられ、最悪の事態は回避する事は出来ている。
(…出会った皆と、出会わなかった私の違いかな)
「がはははは! いい男である俺様には何人もいい女がいるのは当然の事だ」
「その自信…ある意味アンタが羨ましいわ…」
こうまで厚かましく、自身に満ち溢れ、実力が伴っている人間など見た事が無い。
同時に、この男の恐ろしいまでの悪運、そして強大な敵に向かってゆく勇気だけは本当に羨ましく思える。
もし自分もあの時にああしていたら…とも思うが、所詮は後の祭りなのだ。
「それよりも飯だ飯。結構疲れたからな」
ランスはそのまま部屋の中へと入ると、そこには確かにカミーラは存在せず、本を読んでいるレンとお町がいるだけだ。
「レイとエドワウはどうした?」
「二人とも疲れて寝てるわよ」
レンの言葉にお町は呆れた様子でため息をつく。
「疲れるというよりも動けぬと言った方がいいじゃろ。容赦なく二人を叩きのめしていただろう」
「私と戦いたいなんて言うからその通りにしてやっただけよ。あの二人が悪い」
全く悪びれないレンに大して、お町は少し疲れた顔をする。
「何だ。訓練でもしてたのか? それにしても今のレンに戦いを挑むのは少々無謀だと思うがな」
「人間の男ってそういうのが多いのかしらね。ランスは別の意味で私達と戦ったけど…」
昔を思い出し、少し唇を歪ませながらレンが応える。
はぐれ悪魔を排除しようとしたら、人間に返り討ちにされた―――これはエンジェルナイトとしてこの上ない屈辱だ。
その上、人間に犯されて帰って来たなど誰にも言えない過去だ。
「ふーん。まあ男がどうなろうが俺様の知った事では無いわ。それよりも飯だ飯」
「もう少し待ってくださいね。今美味しい物を作りますから」
こうしてランスの一日はまた終わりを告げた。
そしてその日はまたまた夜通しでケッセルメイド達(バーバラ除く)と一夜を共にしたのだった。
「クッ…!」
「はにほー! まだまだ甘いね。マギーホアはそんなものじゃ無かったよ」
地に叩き付けらたカミーラがハニーキングを睨む。
「そんな…カミーラ様が…」
「これがハニーの王なのか…」
七星とラインコックは信じられない光景を見ていた。
それはカミーラがハニーキングに一方的にやられているというあり得ない光景。
「カミーラ様! 無敵結界を…」
「黙れ、ラインコック。無敵結界が無ければ勝てぬというのか」
「ひっ…」
無敵結界を使っていないカミーラに対し、ラインコックはあくまでもその使徒として、主の心配をして言葉を発する。
しかし帰ってきたのはカミーラの怒りともとれる声だった。
その迫力は使徒であるはずのラインコックすらも思わず腰に力が入らなくなる程だ。
「うんうん、それでこそドラゴン…それもプラチナドラゴンというやつだねー。でも容赦はしないよ。君がボクに挑んできたんだからねー」
「ほざくなよ…!」
カミーラはハニーキングにファイヤーレーザーを放つ。
カミーラはドラゴンだが、魔法にも手慣れている。
しかし、魔人の魔力を持ってしてもハニーの絶対魔法防御は破る事は出来ない。
勿論それはカミーラも承知の上、それを目くらましに一気に接近する。
翼を羽ばたかせ、ハニーキングの上空からその爪を振り下ろすが、ハニーキングはその爪をロッドで簡単に受け止める。
「キーングフラーッシュ!」
そして放たれるハニーキングの使うハニーフラッシュ。
それはカミーラの体に当たると、カミーラはいともたやすく吹き飛ばされる。
カミーラは言葉も発する事も出来ずに地面に叩きつけられる。
「ク…」
何とか立ち上がろうとするカミーラだが、その足は最早力が入らない。
それ程までに、ハニーキングとカミーラの間には圧倒的な力の差があった。
(こいつは本当にマギーホアと同じ力を持っているというのか…)
かつて魔王アベルと決闘をし、その魔王すらも下したドラゴンの王。
カミーラはまだ幼かった事と、ドラゴンからの仕打ちで心が歪んでいた事も有り、大して興味も無かった。
だが、こうして圧倒的な力の差を見せつけられ、カミーラのプライドは―――
「ククク…まさかこれ程の存在とはな…スラルが貴様の事を嫌っていたはずだ」
微塵も砕けなかった。
それどころか、楽しそうな笑みを浮かべてハニーキングを睨みつけている。
「スラルちゃんはどうしてもメガネをつけてくれなかったんだよ…でもこの前JAPANでつけてくれたからすっごい満足したんだ…うっ…頭が…」
JAPANでスラルがメガネを付けてくれた後の事を思い出そうと無性に頭が痛くなる。
まるで記憶に完全な蓋がされてしまったかのうだ。
「まあそれはいいや…でもね、ボクは君がこんなになってくれて嬉しく思っているよ」
「フン…」
「カミーラ様ー!」
崩れ落ちそうになるカミーラをラインコックが必死に支える。
「ラインコック…」
「もう止めて下さいカミーラ様! それ以上やるとカミーラ様が…」
「ボクはこれ以上やる気は無いよ。カミーラがその気なら話は別だけどねー」
「フン…」
ハニーキングの言葉にカミーラは些か不愉快そうに鼻を鳴らす。
最初から最後まで、ハニーキングは一切自分に敵意も殺意もむけなかった。
言葉通り、まさに軽くあしらわれた…そんな感覚だ。
「ああ、それとね。ちょっとお願いがあるんだけど、ランス君が君を頼ったらそれを聞き入れてくれないかな? まあ無理する必要は無いけど…でも君にとっても良い事があると思うよ」
「…」
ハニーキングの言葉にカミーラは何も答えない。
いや、正確には答える事が出来なかった。
全身の力が抜け、とうとうカミーラは気を失ってしまったのだ。
「カミーラ様! カミーラ様!」
「カミーラ様!」
必死に声をかけるラインコック、そして七星がカミーラを支える。
「お許しください、カミーラ様」
本当は主を支えるなど…特にカミーラに対しては許されない事だが、カミーラの傷は意外と深い。
魔人の再生力があるはずなのに、それでもこの短時間の戦いでカミーラは意識を失ったのだ。
「じゃあお大事にー」
ハニーキングはそのままカミーラを支えて走っていく使徒を見て手を振る。
そして二人の姿が完全に消えた後で、その顔に本当に楽しそうな表情が浮かぶ―――ような気がする。
「うーん…やっぱり凄いなあ。これほどまでに影響を及ぼすなんて。まあボクがやった事じゃ無いから気にする必要も無いしねー」
ランスの試練の内容は神が決めた事だ。
それに干渉するつもりはハニーキングには無かったが、それでも事態は誰もが想像しない方向に向いていく。
「これも偶然…いや、ランス君の運命力なのかな? これから非常に楽しくなりそうだよ」
これからのランスの波乱を思うと、これまで満たされ過ぎていたハニーキングのハニ生が更に光を増していくような気がする。
「でも、あっちが無茶してるんだから、ボクだってちょっとくらい手助けしてもいいんだよねー。だって人間は大変なのに頑張ってるんだから」
ハニーキングは何処までも楽しそうに光り輝いていた。
ちょっとハニキン使いすぎかな…自重しないとダメですね
メタ的に便利だとどうしても動かしやすくなっちゃう…
それとパイアール…こいつもやろうと思えば何でも出来そうなのが本当にヤバイ