ランス再び   作:メケネコ

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古の存在

 ランスは突き進む。

 新たなダンジョンに向かい、迷いなく進んでいく。

 が、このダンジョンは只のダンジョンでは無く、進めば進む程困難が襲ってくる。

 そしてランス達は今その困難にぶつかっていた。

「チッ! ぶっ潰れろ!」

 レイは舌打ちしながらこちらに向かって来るドラゴンナイトに一撃を入れる。

 だが、魔物兵すらも上回るドラゴンナイトはそれだけでは倒れず、レイに向かって剣を振り下ろす。

「くっ!」

 エドワウは何とかレイに向かって魔法バリアを貼るが、その代わりにドラゴン女から襲われる。

「どいてなさい! ライトボム!」

 レンの魔法がドラゴンナイト、そしてドラゴン女を纏めて吹き飛ばす。

 エンジェルナイトのレダの魔法を受け吹き飛ぶモンスター達だが、そこに新たに援軍のモンスターが現れる。

 コンタートルやデカント、そしてライデンに魔素漢など、全てが上級モンスターという混成だ。

 流石のランス達もこれ程の強さの魔物が次々と襲ってくるとなっては苦戦は免れなかった。

「鬱陶しい! くたばれ!」

 ランスは己の体を回転させ、闘気の渦を発生させそれをモンスターに向かって放つ。

 モンスターは闘気の渦に巻き込まれ、その大半が体をバラバラに引き裂かれるが、モンスターはまだまだ無数にいる。

 後方から放たれた蛇腹剣をランスは器用に受け止めると、その蛇腹剣を簡単に切裂く。

 そして襲ってくるサイクロナイト、デス子といった強敵を一太刀で斬り伏せる。

「キリが無いぞ!」

 ランスですらももう肩で息をしているほどで、レイやエドワウももう限界に近い。

 お町に至ってはもう既にグロッキー状態だ。

「ランス! 一旦退くぞ!」

「分かっとるわ! レン! 帰り木だ!」

「了解」

 レンは動けないお町を背に乗せると、モンスターに襲われているレイとエドワウの襟首を掴む。

「「ぐえ」」

 レイとエドワウは呻くが有無を言わさずにランスの下に引き摺っていくと、そのまま帰り木を使用する。

 するとランス達は一瞬で地上に戻って来る。

「あー…しんど」

 流石のランスも地面に腰を下ろす。

 モンスターが大量に襲ってくるのはまだ分かるが、まさかそれが上級モンスターばかりとなると流石に厳しい。

 いくらランス達が強くても、物量で襲ってこられると流石に手が回らない。

「ったく…たまらねえな。あそこまで物量でこられるとな」

 レイは痛む両手を見て苦い顔をする。

 流石のレイでも、ドラゴンナイトやオウゴンダマといった強敵を相手にしては苦戦を免れなかった。

「純粋な数の暴力だな…前の時よりも攻撃が厳しい。ぬくぬく姫やズカッパといったモンスターも多数存在したからな…」

 前にもモンスターが大量に出現するフロアがあったが、その時は固い敵が無数に出現していた。

 しかし今回は強い・硬い・しぶといといった上級モンスターが群れを成して襲い掛かってくる。

 これでは流石のランスといえども無理に進む事は不可能だ。

「うーむ…」

 ランスもこれには正直どうすればいいか迷っていた。

 何時ものランスの仲間達…それこそ志津香やマリア、そして時には一緒に行動を共にしたリックやパットン、そしてカロリア等といった豊かなランスの仲間が居ればまだ何とかはなりそうだ。

 しかし今回はお町を入れても6人…これではどうしようもない。

 圧倒的に数が不足しているのだ。

「とりあえず今日は休んだ方がいいな。流石に皆の疲労が濃い」

 スラルとレンはまだ少し余裕が有りそうだが、二人は元魔王にエンジェルナイトだ。

 人間とは基本的な能力が違うのだ。

「そうだな…まずは飯だな」

 ランスも今日の所はスラルの言葉に同意し、大人しく家へと戻っていった。

 そして食事中でもランスの機嫌は悪かった。

「いかがしましたか、ランス様。本日は随分と機嫌が悪いようですが」

 シャロンは失礼にならないようにランスに声をかける。

 ランスのグラスに飲み物を注ぎ、そのままの動作で皆にも同じように飲み物を注いでいく。

「フン、モンスター共が多すぎて辟易してただけだ。大体あいつらは無駄に数が多すぎる」

「モンスターが多い、か。しかしお前達ならばいくらモンスターが居ようが蹴散らせるとも思うがな」

 機嫌の悪いランスに対してもケッセルリンクは特に気にせずに声をかける。

 これくらい機嫌が悪い事は珍しくも無いし、今更遠慮をする仲でも無い。

「私が手伝えればいいのだがな…生憎と私はダンジョンには入れないようだからな」

 ケッセルリンクとしてはランスの試練に手を貸そうと思っていた。

 無敵結界が邪魔ならばそれも解除しても良いし、何よりもランスの力になりたかった。

「仕方ありませんよ。ハニーキングに止められているのですから」

「ふむ…あくまでも人間の試練、という事かもしれないな。しかしそれ程までの試練とはな…お前が足踏みする程か」

 ランスの冒険者としての実力はまさにトップクラス。

 人間が自由に行動出来る時代であるLP期でも、ランスほどの力を持つ冒険者はそうは居ない。

 それもランスの持つ冒険LV2という、ランスの技能にもよる所が大きい。

「何よりも問題なのはあの数、そしてモンスターの強さだな。まさか我もあれほどのモンスター達が襲って来るとは思ってもいなかった」

 事数の暴力に関しては、スラルとしてもこれ以上の事が考え付かない。

 数の暴力には数の暴力で対抗するのが一番なのだが、生憎とその数の用意が出来ない。

 いかに世界有数の実力者が揃っていようとも、あれだけの数で来られればもうどうしようもない。

「私の使徒ならばどうだ? 勿論君達が良ければの話だが…」

 ケッセルリンクは自分の使徒達を見る。

「私たちはケッセルリンク様とランス様が宜しければ」

「「「宜しければ」」」

「あー…ケッセルリンク様のご命令とあれば…」

 主の言葉にシャロン、パレロア、エルシール、加奈代はすぐさま返事をし、バーバラだけは微妙な表情を浮かべている。

 そんなバーバラの態度にもケッセルリンクは苦笑を浮かべるだけだ。

「ランス、彼女達ならば連れていけるのではないか?」

「うーむ、そうだな。まあお前達ならそこらの奴等よりも強いからな。だが、壁が居ないのがな…」

 ケッセルリンクの使徒達は確かに優秀だ。

 人間よりも遥かに強いし、それぞれが戦うに足りる技能も持ち合わせている。

 パレロアはその辺りについては少し怪しいが、それでも並の人間よりも基礎能力で遥かに上回る。

「まあそれは…仕方ないですよね」

 エルシールはランスの言葉に難しい顔をする。

 一番ランスと共に冒険を重ね、ランスと共に大きな戦いを何度か経験しているので、ランスの言う事が痛いほどわかる。

 ガード技能を持っているのがこの中ではレンしか居ない。

「それでも居ないよりはいいと思いますよー。それに私も久しぶりにランスさんと冒険もしたいですし」

 加奈代は結構乗り気である、シャロン達も全く嫌な顔をしない。

「まあ相手が数で来るならこっちも数で行くか。よーし、明日こそ踏破するぞ」

 こうしてランスは新たにケッセルメイド達を伴って、ダンジョンの攻略に当たる。

 そして当日、ランス達はダンジョンの入口へとやって来た。

 そこにはランスを始めとした、10人という大人数が集結している。

「我はランスの剣の中でランスを援護しよう。それにランスと我の合体技が必要になる可能性は高いからな」

 スラルは再びランスの剣の中へと入ってる。

 相手が数の暴力ならば、その暴力を更なる暴力で蹴散らす必要がある。

 そのためにはやはり二人の合体技が一番だ。

「それにしても…君達がメイド服以外を着ているのが逆に新鮮に見えるな」

「まあ…それはあるかもしれませんね」

 エドワウの言葉にシャロンは微笑みながら答える。

 シャロンはスパルタの才能が有り、その技能を活かすための動きやすい衣装に着替えている。

「この恰好も久々ですね…」

 エルシールはかつてランスと共に冒険をしていた時の衣装に着替えている。

 幸いにもサイズが変わっていなかった事に安堵したのは彼女だけの秘密だ。

「私達が入れるといいのですが…」

 戦闘があまり得意では無いパレロアだけはメイド服を着ている。

 使徒なのでそこまで衣装に拘る必要も無いので、普段から着ている衣装を選んでいた。

「この衣装を着ると何となく引き締まるんですよねー。やっぱり私も武家の娘だからですかねー」

 JAPANの弓を携え、それに準じた服装を纏っている加奈代も普段よりはかなり真面目な顔をしている。

 ランス達が苦戦するダンジョンとあれば、流石の彼女も少し気合の入れ方が変わっている。

 これでもランスと一緒に魔人や使徒と戦った事があるからだ。

「また私もこんな事に…」

 バーバラもまた戦闘用の衣服に着替えている。

 彼女だけは若干やる気は無いのだが、それでも主の命令ならば全力で当たる必要が有る。

「よーし、じゃあ行くぞ。お前達も気合入れろよ」

 そしてランス達は光に包まれ、直ぐにダンジョンの中へと転送される。

「あ、私達は大丈夫でしたね」

 使徒も問題無くダンジョンの中に入れたことにエルシールは安堵する。

 これで最悪の可能性である『使徒もダンジョンに入る事は出来ない』という可能性は潰れた。

 つまりは、彼女達もランスの助けになる事が証明されたのだ。

「確かにこれは…凄いかもしれませんね」

 シャロンは早速自分達を取り囲んでいる気配に眉を顰める。

 そこに居るのは複数のドラゴンナイト、そしてその後ろにはコンタートルやぬくぬく姫といったモンスターの姿が見られる。

「デカントまで居るのか…確かにこれは辛いかもね…」

 バーバラもその存在感を露わにしているデカントを見てつばを飲み込む。

 確かにこれだけの数、そしてモンスターの質ならばランス達が苦戦をしているのも理解が出来る。

 まさに数の暴力、これに対抗できるのは同じように数の暴力で挑むしかないだろう。

「よーし、行くぞスラルちゃん」

「ああ。とにかく数を減らす。ここからだ」

「ラーンスあたたたたーーーーーっく!!!」

 まずは挨拶代わりと言わんばかりにランスの必殺の一撃が放たれる。

 ランスアタックの衝撃に呑まれたモンスター達はバラバラになるが、それでもモンスターの数はまだ多い。

 だがランスは躊躇いなくモンスターの群れに突っ込んでいく。

 そのランスに合わせて、レイとシャロンも同時に突っ込んでいく。

「無理はしないでよ! 鉄の壁!」

 ランス達に神魔法で防御魔法をかけてから、レンもモンスターに斬りかかる。

「じゃあ行きましょうか。パレロアさんはお町さんを守ってくださいね。 氷雪吹雪!」

「ああもう! まさかこんな事になるなんて! 火爆破!」

 エルシールとバーバラも魔法を放ち、モンスターを蹴散らす。

 しかしモンスターの数が多いのと、上級モンスターが多いので使徒といえども一撃で全ての相手を蹴散らせる訳では無い。

 しかも後方に居るぬくぬく姫がその傷を癒す。

「加奈代!」

「はーい!」

 エルシールの声に合わせて加奈代が矢を放つ。

 その矢は正確に後方のぬくぬく姫に当たり、ぬくぬく姫が倒れる。

「がはははは! 死ねーーーー!」

 その中でもやはりランスの力はずば抜けている。

 一太刀で上位モンスターでもすらもあっさりと行動不能に出来る。

 勿論中には生き残るモンスターはいるが、

「炎の矢!」

 生き残ったモンスターはスラルが確実に止めを刺す。

(成程、流石にケッセルリンクの使徒達が居れば戦いやすさは段違いだな。しかし…数が多いな)

 モンスターの数はそれでも非常に多い。

 更にはオウゴンダマ、巨鉄ちゃんといった重装甲のモンスターも見え隠れしている。

 最初はいいが、一角が崩れれば瞬く間にジリ貧になってしまうだろう。

「るつぼです! るつぼがいます!」

 そして戦場に響くパレロアの声。

 その声にスラルは周囲を注意深く見渡す。

 ランスに襲い掛かるデカントの陰で遠くは見えないが、

「邪魔だ! 死ねーーーーーっ!!」

 ランスの剣がデカントの腹を抉ると同時に、スラルがランスの剣を火で覆う。

 内部から焼かれたデカントは口から黒い煙を放ちながら、暴れまわる。

 ランスはそのデタラメな動きをするデカントから距離を取ると、そのまま巨大なデカントに向けて蹴りを放つ。

 体力を失っていたデカントはランスの蹴りに堪えられず、そのまま後方に倒れる。

 その際に大量のモンスターを巻き込む。

 そしてデカントが倒れた先に、確かにるつぼの姿が確認出来た。

「この! スノーレーザー!」

 スラルはそのるつぼに向けてスノーレーザを放つ。

 魔法は絶対に命中するので、るつぼがスラルの魔法から逃れる手段は無い。

 が、そのるつぼを守る様にしてサイクロナイトが立ちはだかる。

 スノーレーザーをまともに受けたサイクロナイトは氷漬けになって倒れるが、肝心のるつぼは無傷だ。

「ランス! るつぼを倒さなければ終わらないぞ!」

「分かっとるわ! 誰でもいいからあのるつぼをぶっ壊せ!」

 ランスも何とかモンスターの壁を突破しようとするが、モンスター達はランスを一番の脅威とみなしたのか、ランスの方へと向かってくる。

「うげっ。こっちに来たぞ」

 モンスターの攻撃を何とか受け流してはいるが、いかんせん数が多すぎる。

 こうなっては流石のランスと言えども防戦に回らざるを得ない。

 そして元々防御の事など考えることはあまり無かった故に、ランスの体はどんどん傷ついていく。

 だがランスもその程度では絶対に退かない。

 この男は目的のためならば、どんな苦難でも立ち向かっていくのだから。

「ランス! あの技だ! 我が合わせる!」

「そうは言うがな! こいつらが鬱陶しい!」

 デカントやドラゴンナイトの攻撃だけでなく、魔法を使うモンスターも多い。

 たとえドラゴンの加護を持っていたとしても、それが蓄積されるとどんどん体力が削られていく。

 実際にランスはじわじわとではあるが押されつつあった。

「ライトボム!」

 だが、それを許さない存在が一人居る。

 それこそがエンジェルナイトであるレンだ。

 彼女の実力はまたずば抜けており、それこそ使徒をも超える力を持っている。

「ランス、急ぎなさいよ!」

「分かっとるわ!」

 必殺の一撃を貯める時間が出来たランスは早速力を貯める。

 本来であれば鬼畜アタックで全てを吹き飛ばしたい所だが、とてもだがそんな時間は無い。

 まだ未完成ながらも、ランスとしても中々気に入っているこの技でやるしかない。

「いくぞスラルちゃん!」

「ああ! 準備はいいぞ!」

「吹っ飛べ!」

「スノーレーザー!」

 ランスは体を回転させるように剣を振るうと、そこからはランスアタックと同じように光が放たれる。

 ランスアタックとの違いは、その光がまるで竜巻のような形を模りながら、モンスターを飲み込んでいく事だ。

 そしてその光の竜巻にスラルの乗せたスノーレーザーが加わる。

 氷の竜巻はモンスターを飲み込みながら突き進んでいく。

 まるで意思を持っているかのようにモンスターを飲み込みながら動き。

 氷の竜巻が過ぎ去った後に残っていたのは、氷の竜巻に切り刻まれたモンスターと、その竜巻に耐えた結果氷付けになったモンスターだけだ。

「やるじゃねえか…!」

 その技に誰よりも嬉しそうな声を出したのはレイだ。

 ランスに対しては誰よりも対抗意識を持っており、それを全く隠そうともしていない。

(必殺技ってやつか。俺も少しは考えてみるかね)

 これまでレイは好き勝手に暴れて来ており、それで何も問題無かった。

 モンスターが群れて来ようとも、その圧倒的な暴力で全てを制してきた。

 だが、そこにランスと言う自分を上回る暴力、そして狡猾さを持った人間が現れた。

「ガラじゃねえかもしれねえけどな…! 吹っ飛べ!」

 そしれレイは転がっている巨鉄ちゃんの残骸を蹴ると、それは正確な軌道でモンスターに突き刺さる。

「随分と当たるもんだな。俺にはそういう才能でもあんのかね」

 レイは周囲に群がってくるモンスターに躊躇いなく突撃する。

 その破壊力のあるタックルはそれだけでモンスターを蹴散らし、放たれる拳と蹴りはそれだけでモンスターの体を貫く。

「る壷か…確かに遠いか」

 レイもそのる壷というモンスターを確認はした。

 だが、流石のレイでもこれ程のモンスターの群れを突っ切ってる壷に接近する事は難しい。

 しかも相手はそのる壷を守る様なフォーメーションを組んでいる。

「…あいつが頭か?」

 そしてその隣に居るのが、黒い服に身を包んだ薄紫色の髪をした女…いや、女の子モンスターだ。

 そいつは扇子のような物を手に、モンスター達に何かを指示しているように見える。

「バトルノートです。成程、彼女が居るならばモンスターがこれ程までに組織的なのも頷けます」

 レイの隣に立ったのはエルシールだ。

 彼女もまた統率能力を持っているので、バトルノートの厄介さはよく分かっている。

「バトルノート? 何だそりゃ。初めてみるぞ」

 レイも色々なモンスターとは戦ってきたが、バトルノートを見るのは初めてだ。

「上位のモンスターですからね。中々お目にかかることは無いでしょう。それに彼女達は魔物将軍もその参謀に置くほどですから」

「ハッ! 使徒ってのはホント物知りだな。まあとにかくあいつもぶっ飛ばせばいいだけだな」

 振るわれるドラゴンナイトの剣を避け、その腹部にレイの蹴りが突き刺さる。

 ドラゴンナイトは勢いよく吹き飛ぶが、その隙に一体のライデンがレイに襲い掛かる。

「超力パンチ!」

「チッ!」

 レイはライデンの攻撃を避ける事を諦め、その腕でライデンの拳を受け止める。

「グッ!」

 その拳を受け止めたレイの腕が痺れる。

 だが、それは拳の衝撃で痺れたのではなく、ライデンの纏う電撃で体が痺れているのだ。

「この…調子に乗ってんじゃねえ!」

 ライデンの拳を受け、レイの髪の毛が逆立つ。

 そのライデンの電撃を受けた手がスパークし、逆にレイの拳に電撃が宿る。

「吹っ飛べ!」

 電撃を纏ったままのレイの拳がライデンの体を吹き飛ばす。

「超力先頭不能ー!」

 吹き飛んだライデンはそのまま動かなくなる。

「大丈夫ですか!?」

「問題ねえ…これくらいでよ!」

 心配そうに声をかけてくるエルシールに、レイは獰猛な笑みを見せる。

 まだ体に電撃が残っているが、不思議とレイにあるのは苦しさではない。

 高揚感が体を支配し、その勢いのままレイはモンスターに突っ込んでいく。

「オラッ! 手前ら全員…吹き飛びやがれ!」

 レイの強烈なタックルにモンスター達が吹き飛ばされる。

 が、同時にレイもその反動からか地に膝を着く。

「無理をしすぎだ! ヒーリング!」

 そこにエドワウが飛んできて、レイに回復魔法をかける。

「無理をしないと突破出来ないだろうが。こんだけいてまだこのザマなんだぜ」

 レイは体を起こすと、目の前に立ち塞がるデカントを見上げる。

 流石にコレほどの巨体だと倒すのも面倒だと思っていた時、

「シャロンさん!?」

 バーバラの声が響く。

 ランスもその声に気づき、シャロンの方向を見た時ランスは思わず驚いてしまう。

 それはシャロンがデカントを踏み台にして、空からるつぼを強襲しようとしてる姿だからだ。

「迎撃しろ!」

 そのシャロンの動きを悟り、バトルノートが周囲のコンタートルに指令を出す。

 コンタートルの甲羅から勢いよく火弾が放たれる。

 空中にいるシャロンは当然それを避ける事は出来ない。

 だが、シャロンは両手両足でコンタートルの火弾を全て受け止め、強引に突き進む。

 コンタートルの火弾でもシャロンは止められず、とうとうシャロンはるつぼのすぐ側に着地する。

「ランス!」

「アイツが無茶をしてどうする! 無茶をするのは俺様以外の男で十分だ!」

 ランスはシャロンを救うべく、目の前のモンスターを斬り伏せる。

 だが、その数は多くまだまだ時間がかかるのは明白だ。

「バトルノート! バトルノートを狙うんだ! ランス、お前ならそれが出来る!」

「分かっとるわ! ラーンススラーーーーシュ!」

 ランスアタックが広範囲で相手を倒す技なら、ランススラッシュは一筋の剣の刃で相手を斬る技だ。

 それが出来るようになって、ランスはようやく遠くの相手にも攻撃をする事が出来る。

 まだ未完成なので荒削りではあるが、その一撃はバトルノートに当たり、バトルノートは血を噴出しながら倒れる。

 それだけで周囲のモンスターは動揺し、その一瞬の隙が全ての決着の瞬間だった。

「はっ!」

 シャロンは痛む体を無視して、るつぼを叩き割る。

 だが、るつぼを倒しただけでモンスター全てが消える訳では無い。

 これ以上増えなくなっただけで、今いるモンスターは全て倒さなくてはならない。

「全く! 無茶をするわね」

 シャロンに殺到するモンスターに対し、レンがモンスターを切裂きながら彼女を守る。

 モンスターの攻撃は全てレンの盾、そして剣で受け止められる。

 その体には一部のモンスターの攻撃は当たるが、エンジェルナイトである彼女からすればそんなものは微々たる傷だ。

「消えなさい!」

 そのまま回転するように剣を振るい、モンスターを蹴散らす。

 そして膝をついているシャロンを抱えると、そのままランス達の元へと戻って来る。

「シャロンさん! 無茶をしすぎです!」

 バーバラがシャロンの元に駆け寄り、そのまま火爆破を放ち周囲のモンスターを蹴散らす。

「無茶をしないといけない場面でしょう。私達の目的はランス様を助ける事です。使徒である私達が主の望みを叶えるのは当然の事です」

 バーバラは怒っているが、シャロンは何ともないといった感じに微笑む。

 そんなシャロンにランスが近づいていき、その頭を軽く殴る。

「あら…」

「使徒だって不死身じゃないだろ。そういう危ない事はあいつらを使えばいい」

 ランスの言葉にシャロンは嬉しそうに微笑む。

「私はいつかランスさんの役に立ちたいと思っていたんですよ。これくらいで返せる恩だとも思っていません。それに、ランスさんだって必要だったら無茶はするでしょう?」

 自分のやった事に比べれば、ランスのやった事はもっと無茶…いや、無謀とも言える事だ。

「そんな事よりも数はそう多くは無いわよ。ランス、一気に決めればいいわ」

 レンやシャロンを下すと、

「回復の雨!」

 そのまま味方に対して回復魔法をかける。

 エンジェルナイトである彼女の魔力ならば、広範囲に強力な癒しの魔法をかけられる。

 それは離れた場所に居るレイ達も例外では無い。

「ランス、我の準備は出来た。強力な魔法で無ければ我も魔力を枯渇する事は無い。残った魔物はその都度対応すればいいだろう」

「フン、そうだな。取り敢えずここをとっととクリアするとするか。よーし、行くぞスラルちゃん!」

 ランスはそのまま勢いよく走りだし、そして宙に飛ぶ。

「ラーンス…あたたたたたーーーーーーーーっく!!!」

「業火炎破!!」

 ランスとスラルの声が響き、ランスの剣から凄まじい熱気が立ち上る。

 それはまるで意志を持った生き物の様にモンスターを飲み込んでいく。

 そして炎の奔流が収まった時には、辛うじて立っているモンスターが少しいるだけだ。

 他の魔物達は全て炎に飲み込まれてしまった。

「うむ、これくらいでいいか」

「ああ。十分だろう。しかし我とランスの息が合って来たのだろうか…前よりも消耗も少ない。ランスにも反動は来てないだろう?」

「そうだな。最初は俺様にも影響があったからな。まあスラルちゃんが俺様に合わせられるようになってきたという事だろう」

「全く勝手な事を…だが、否定はしない」

 ランスは皆の所に戻り、

「よーし、とっととクリアするぞ」

 何でも無いように言い放つ。

 それをバーバラは呆然とした様子で見ていた。

「…いや、アンタ本当に人間?」

 バーバラの言葉にレイは挑戦的な顔をランスに向け、エドワウは戦慄した様子でこの光景を見渡す。

 そしてお町はパレロアの後ろでキラキラした目でランスを見ていたが、ランスがそれに気づく事は無かった。

 

 

「みんな無茶をし過ぎです。シャロンさんは特にですよ」

 パレロアはシャロンの傷に包帯を巻きながら少し怒った顔をしている。

 シャロンの傷は大きく、回復魔法を使っただけではまだ傷は癒えてはいないほどだ。

「あなたもです。あんな無茶な事をしなくても良かったでしょう」

「フン」

 レイもパレロアに怒られているが、ただそっぽを向くだけだ。

「………」

「ぐっ…って痛えよ! 分かった分かった。俺が悪かった」

 そんなレイの態度に、パレロアは無言できつく包帯を巻く。

「がはははは! 怒られてやがる」

 ランスはそんなレイを見て笑うが、

「ランスさんもです。ランスさんも結構無茶はしました」

「うぐ…そう怒るな」

 直ぐにパレロアに窘められる。

 ランスもその傷は決して浅くは無く、未完成の必殺技を結構な頻度で放ったせいで、その体は悲鳴を上げている。

「本当なら一度戻る事を提案したいのですが…そういう訳にはいかないんですよね?」

「そうだ。ここは一度入ったらスタンプを押さなければならない。地上に戻るとまた今の戦いをしなければならない」

「それは…厳しいですね」

 スラルの言葉にエルシールは難しい顔をする。

 確かに今の敵ともう一度戦えと言うのは厳しい話だ。

 今倒す事が出来たのは無茶をしたからだ。

 ランスも、シャロンも、レイも体はまだ痛んでいる状態だ。

 だが、ここで一度地上に戻ってしまえば、もう一度同じ戦いをする必要が出て来る。

 そんな不毛な事は避けたい。

「とりあえずとっととスタンプを押すぞ。もうあんなにモンスターも来ないだろ」

「そうね。まずは進む事を考えようか」

 ランスはまだ少し痛む体を起こして歩き始める。

(うーむ…やはり連打すると体がついてこないな。あの時もそうだっからな)

 最初に鬼畜アタックを繰り出した時は、体がバラバラになるのではないかという思いに駆られた。

 闘神都市でも鬼畜アタックを繰り出したが、その時は経験値が犠牲になってしまった。

 流石にこれだけのレベルになって来ると、経験値を犠牲にするのは避けたい所だ。

(何としてもクエルプランちゃんに褒美をもらわなければな。最初は神聖で近付き辛かったが、今はそんな事もないしな)

 ランスはそんな事を考えながら進んでいく。

 幸いにもモンスターの出現は無く、何も問題無く進んでいく。

 そしてスタンプ台を見つけた時だった。

 ランスは、何か奇妙な気配を感じた。

「待って! 何か居る!」

 レンも気づいたようで、皆を止める。

 その顔は普段のレンからは想像もできない程に真剣で、そしてその顔には汗が浮かんでいる。

「これは…上!?」

 レンが上空を見ると同時に、ソレは空中から地上に降り立つ。

 ソレはドラゴンだった。

 青黒い鱗を持ち、鼻の部分に一本の角が出ている。

 そして顔の横からは2本の立派な角が後方に突き出ている。

 だが、何よりも特徴的なのはその目だ。

「目が…4つ!?」

 スラルの言葉通り、ソレは4つの目を持ったドラゴンだった。

 だが、そのドラゴンはランスですら思わず冷や汗が出るレベルの強さの持つのが分かる。

 それほどまでに圧倒的な力を持つドラゴンをランスは見た事が無かった。

(なんだこりゃ…あの化物ジジイと同じくらいか!?)

 そう、それはあの時リーザスで出会った魔人ノスの本気の姿…ドラゴン体のノスを思わせる程の迫力だった。

「………」

 誰もが言葉を発せぬ中、そのドラゴンの口が開く。

「アベル…」

「え…?」

 ドラゴンの発した名前にスラルは凍りつく。

「アベルの野郎は何処にいやがる! ドラゴンの盟約を破ったあのクソ野郎! 俺様は絶対に許さん! カミーラを何処へ連れ去りやがった! アベル!!!」

 ドラゴンは天に向かって吠えると、そのままランスに向かって襲い掛かってきた。


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