ドラゴン、それはこの世界における人間の前のメインプレイヤー。
それは非常に強く、当時の魔王…いや、歴代の中の最強の魔王であるククルククルすらも倒した生命体。
それ故にそのドラゴンが争いをやめた時、神はドラゴンを切り捨てた。
ドラゴンは無数の天使によって粛清され、人間が新たなメインプレイヤーに選ばれた。
そしてそのククルククルに止めを刺したドラゴンこそが、次なる魔王アベル。
「アベルの馬鹿は何処だ!」
そのアベルの名前を呼びながら、青黒い鱗を持ったドラゴンはランス達に襲い掛かってきた。
鋭い爪が大地を抉り、その強靭な尻尾が地面を滑り、ランス達を吹き飛ばす。
「何だこいつは!」
「ドラゴンだ! だがこいつは相当に強いぞ!」
レイの怒声にスラルがドラゴンの咆哮に負けない大きな声で応える。
(だがアベルだと…? 何故こいつが我の前の魔王であるアベルの名を呼ぶ? しかもこいつは…!)
スラルは歴代の魔王の事についても調べた。
理由としては、何故『魔王』という存在でありながら敗れたのかを知るためだ。
魔王であっても死ぬ…だからこそ、スラルは魔王は無敵であるように『何か』に願ったはずなのだ。
(こいつは…そのアベルに似ている。我がケイブリスに聞いたアベルの姿にそっくりだ)
最古の魔人ケイブリスはククルククルとアベルの事もよく知っている。
カミーラとメガラスはアベルによって魔人にされたが、2人ともその事は全く話してくれない。
カミーラはスラルに対する反抗心から、メガラスは無口なので殆ど会話が無かったからだ。
だが、ケイブリスだけはククルククルとアベルの事を話してくれた。
目の前のドラゴンは、その時に聞いた魔王アベルの姿にそっくりだ。
「アベル! カミーラの奴をどうした! ドラゴンの王冠を! この俺様の子を産むはずの唯一の存在を!」
ドラゴンは血走った目でランス達に襲い掛かる。
ドラゴンの爪は鋭く、普通の人間では耐えられない。
いや、普通の人間で無くても耐えられない程の威力がこのドラゴンにはあった。
「グガアアアアア!」
ドラゴンの一撃が振られるたびに、ランス達は吹き飛ばされていく。
「ランス! 退く事を考えないと!」
「待て! ここで何とかせんとこれまでの苦労がパァだろうが!」
スラルの言葉にランスは怒りの篭った声で返すと、そのままドラゴンへと向かっていく。
「ドラゴンだろうが何だろうが俺様の邪魔をするなら殺す!」
ランスはドラゴンの爪を受け流すと、そのままその腕に斬りつける。
だが、ドラゴンの鱗は強靭で、ランスの剣が少ししかその腕に入っていかない。
「うげ! 固いぞこいつは!」
「当たり前だ! ドラゴンだぞ!」
ドラゴンはランスを見ると、その大きな口でランスを飲み込もうとする。
レンはそれを察して、ランスを抱えると大急ぎでドラゴンの攻撃範囲から逃げる。
「ランス! 無理はしないでよ! 流石にあのドラゴンが相手だと守るものも守れないわよ!」
「ゴールがそこにあるのに引き下がれと言うつもりか!」
「それ以外に方法が有るっての!?」
ランスは何とか立ち上がるが、目の前のドラゴンを見て流石に嫌な予感がしてくる。
ここはダンジョン内だというのに、何故か空が見えているのだが、その空が目に見えて黒くなってきたからだ。
そして稲光が生じたかと思うと、その稲妻がドラゴンに当たる。
しかしドラゴンは平然としており、それどころか全身をスパークさせる。
そのまま口元が光ったかと思うと、強烈なブレスが大地を灼く。
「どわーーーーっ!」
ランスはレンに抱えられながら驚愕の声を上げる。
何とか今のブレスからは逃れられたが、その衝撃で他の者達を吹き飛ばしている。
「ランス! もうダメだ! 撤退するぞ!」
「うぐぐぐぐ…!」
スラルの言葉にランスは呻くが、周囲を見てついに決断する。
「とっとと撤退するぞ! お前ら急げ!」
再びドラゴンに稲妻が落ちたのを見て、ランスは帰り木を手にする。
バーバラは動けなくなったシャロンを抱え、エドワウも同じようにレイを肩で担ぐ。
パレロアもお町を抱えると、そのままランスの元へと集まっていく。
それを確認してランスは帰り木を折る。
その瞬間、ドラゴンの放ったブレスがランス達の居た所を通過していった。
ランス達は地上に戻ると、直ぐに地面に倒れる。
誰もがその疲労で動く事が出来ないのだ。
ピンピンしているのはエンジェルナイトのレンと、殆ど戦うことが無かったお町だけだ。
「み、皆さん大丈夫ですか?」
比較的軽症だったエルシールが全員を見渡す。
「大丈夫…では無いみたいですね」
皆が生きている事に安堵しながらも、一部の者は満身創痍なのを見てため息をつく。
「今になって体が無性に痛いぞ」
「こっちもだ」
ランスは未完成の技を多用したせいで体が悲鳴をあげ、同じくレイの体も悲鳴を上げている。
一番無茶をしたシャロンに至っては疲労で気絶している。
「失敗だな…まさかあんなのが居るとは」
スラルは呻くが、ダンジョンとはそういうものだ。
どれだけ理不尽だろうとも、そういうものなのだから仕方がないのだ。
「とりあえず休むか…」
ランスの声に、誰もが同意したのは至極当然の事だった。
魔法ハウスに戻っても、ランスの機嫌は当然悪いままだ。
それも無理は無く、ようやくクリアを出来そうな所であのドラゴンが出て来たのだ。
しかもドラゴンはまだ残り続けている可能性は高い。
つまりは手詰まりの状態に陥ってしまったのだ。
これを打破するのはレベルを上げるしか無いのだが、1レベル上がった所でどうにか出来る状況でも無い。
「ランス、どうする」
スラルはランスが不機嫌なのは分かってはいるが、それでも声をかけなければならない。
「………」
スラルの言葉にはランスは無言で飯を食べている。
ランスとしても、どうするべきか非常に悩んでいる。
普段であればもっとランスが使える人材を連れてくる所だが、生憎とこの時代にそんなものはない。
それこそヘルマン革命を繰り広げた面子ならばクリア出来るかもしれないが、所詮は無い物ねだりだ。
「私がダンジョンに入れればいいのだがな…」
ケッセルリンクは残念そうな声を出す。
魔人である彼女はこのダンジョンには入る事が出来ない。
「…今日は寝る」
ランスは疲労が限界に来ていたのか、セックスをする事もせずにとっとと自分の部屋へと消えていく。
「ランスさん…相当に悩んでますね」
「え? あれで?」
パレロアはランスの様子を見て心配そうな顔をする。
「ランスさんが冒険であんな顔をする事は無かったですから」
ランスは冒険が好きでたまらない。
それはパレロアは一緒に居た事で良く分かっている。
しかし今のランスからは楽しんでいる感覚が感じられない。
「…ちょっと行ってきます」
ランスが心配になり、パレロアはランスの後を追っていく。
「いいの? スラルが行かなくて」
レンがスラルをチラリと見る。
普段であれば、スラルが真っ先にランスに発破をかけに行く場面だ。
「いや…それよりも我は話しておくべき存在がいる。ケッセルリンク、お前にも付き合ってほしい」
「勿論ですスラル様。しかし一体に誰に話をするのですか?」
「…ハニーキングとカミーラだ」
ランスの部屋―――そこでランスは不機嫌な態度を隠そうともせずにベッドに寝転んでいた。
「詰まらん、詰まらんぞー」
常に一度で冒険が成功してきた訳では無いが、その後で必ずリベンジをしてきた。
難攻不落の翔竜山も攻略したし、マルグリッド迷宮もかなりの階数を潜ってきた。
だが、流石にここまでの理不尽な迷宮は考えていなかった。
るつぼとその周囲の魔物を倒した後で、その魔物達よりも厄介なドラゴンが居るなど想像もしていない。
そして現状のメンバーではそのドラゴンを倒す事が難しい。
使徒の力は確かに大きいが、何しろケッセルメイド達は前衛に立てる者が少ない。
重要なガードの役割が出来るのがレンだけというのも辛い。
では魔物の大群相手にスラルとの合体技を使えば良いかと言うと、それも違うような気がする。
魔物の大群よりも、あのドラゴン1体の方が厄介だとランスの本能は感じていた。
その時は間違いなくスラルの力が必要になる。
「うーむ、いかん。全く先が見えんぞ…」
だが、そうなると魔物の大群がどうしようもなくなる。
つまりはもう進む事が出来ないという事だ。
だが、ここまで進んでそれは避けたい。
というよりも目的のためには絶対に必要な事なのだ。
ランスが悩んでいた時、遠慮がちに部屋がノックされる。
「誰だ」
「私です。パレロアです」
「パレロア。入っていいぞ」
「失礼します」
ランスの許可を得て、パレロアはランスの部屋へと入ってくる。
「どうした」
「いえ…ランスさんが機嫌が悪いようでしたので…心配になって」
パレロアの言葉を聞いてランスは微妙な顔をする。
「フン…」
「ランスさんがケッセルリンク様やスラル様…私達を誘わないのは異常だと思いますから」
「お前は俺様を何だと思ってるんだ」
ランスの言葉を聞いてパレロアは笑みを浮かべる。
ようやく何時ものランスのような声色を聞けたからだ。
パレロアはランスのいるベッドに座ると、そのままランスの頭を自分の膝に乗せる。
「何だ」
「いえ…子供はこうすれば落ち着くものですから」
「俺様を子ども扱いするとはいい度胸だ」
ランスの言葉にもパレロアはただ微笑むだけだ。
「本来なら大人と子供以上に年齢が離れていますから」
(それにランスさんは子供っぽいですし)
その言葉は心の中だけに止める。
もし自分の子供が大きくなっていたら、こんな感じだったのだろうかとも思ってしまう。
そう思いながらランスの頭を撫でていると、
「ひゃん! ラ、ランスさん!」
「がはははは! 子供のやる事にそんな目くじらを立てるなよー」
ランスはパレロアの尻に手を伸ばして撫で始める。
「あー柔らかいなー。こっちも柔らかいぞ」
そのまま胸にも手を伸ばし、その柔らかい胸を揉みしだく。
「もう、だめですよ。ランスさんは今日は凄く無理をしたんですから」
パレロアはランスの手を掴むと、そのままランスの頭を枕に乗せる。
「でも…あんまり無茶はしないで下さいね。私は戦いではランスさんを助ける事が出来ませんから…」
「別にそんなの気にしなくていいぞ。戦いだけが全てじゃないだろ」
「そんな事言って。今日はエッチはダメですからね」
パレロアの言葉にランスは不満そうな顔をする。
「駄目です。今日は安静にしていて下さい」
「…わかったわかった。お前も結構口うるさい奴だな」
ランスも今日に限っては疲労と痛みでエッチをする気にはなれなかった。
それだけランスにとっても苦しい戦いだったという事だ。
「ではお休みなさい…ゆっくり体を休めて下さいね」
「おう。まあ確かに今日は俺様も疲れたからな…」
ランスはそのまま眠気に身を任せて眠りにつく。
パレロアはそれを見て微笑む。
そのまま部屋の灯りを消し、パレロアはランスの部屋を後にする。
「もし私の子供が育っていたら…こんな感じだったのかしら。子供にしては大きすぎでしょうか…」
パレロアはそのまま、もう一人動けないでいる自分の仲間の部屋へと歩いて行った。
「…何をしに来たスラル」
魔人カミーラは高圧的な目で元魔王であるスラルを睨む。
その体は魔人であるにも関わらず、大きく傷ついていた。
魔人の再生力で怪我の治りは早いのだが、その再生力を持ってしてもまだ再生には時間がかかりそうだった。
「お前を笑いに来た…と言えば満足でもするのか? 今回はプラチナドラゴンとしてのカミーラに話があって来た」
『プラチナドラゴン』という言葉を聞いて、カミーラは不愉快そうに眉を顰める。
確かにカミーラの種族はプラチナドラゴンだが、カミーラにとってはそれは幼いころに自分の人格に影響を及ぼした名前だ。
今ではそのドラゴンの誇りを取り戻しているが、かつての魔王であるスラルに呼ばれるのは何処か不愉快になってしまう。
「真面目な話だ。お前にとっても聞いておいて損はしない話だと思っている」
「…ケッセルリンク。お前は相変わらずスラルについて回っているのか」
「そう言うな。これも私の性分だ。これは変えられぬよ」
スラルの背後に控えているケッセルリンクを軽く睨むが、相変わらずのケッセルリンクの言葉を聞いて詰まらなそうに鼻を鳴らす。
「真面目な話…か。どういう風の吹き回しだ。魔王であった時もお前は私にはあまり接しようとはしなかった。あの男が現れるまではな」
「過去の話はそこまででいいだろう。それよりも我の話を聞くつもりはあるか? いや、あるだろうな。今のお前ならば」
スラルの薄い笑みを見てカミーラは眉を顰める。
昔のスラルであれば全く興味を抱かなかっただろうが、今のスラルなら話は別だ。
「話すだけならば勝手にすればいい…」
カミーラの言葉を聞いて、スラルは内心でガッツポーズをする。
ランス抜きでカミーラが自分の話を聞いてくれるかどうかは分からなかったが、どうやらカミーラはこちらの話を聞く気はあるようだ。
「お前は我の前の魔王…アベルの事を覚えているか」
アベルと言う名前を聞いて、カミーラは露骨に嫌な顔をする。
「貴様…私を愚弄しているのか?」
魔王アベルはドラゴンの王冠であるカミーラを自分のモノにすべく、カミーラを魔人にした存在だ。
臆病で狡猾な存在で、カミーラとしてもアベルに対しては良い感情は持っていない。
いや、カミーラは全てのドラゴンに対して良い感情を持っていないのだ。
「そのアベルの名を呼ぶドラゴンが現れた」
「ドラゴンがアベルの名を知っていてもおかしくは無い。アベルはドラゴンの禁忌を犯したのだからな」
魔王アベルはカミーラを魔人にした事で、全てのドラゴンから命を狙われた。
そして最後にはマギーホアとの決闘に敗れ封印された…とカミーラは聞いている。
ドラゴンの至宝…唯一ドラゴンを産める存在とされていたカミーラは、魔人となった事でドラゴンを産めなくなった。
それ故にドラゴンからも見放され、カミーラはより歪んでいってしまった。
ある意味アベルこそが今のカミーラを作った原因だと言っても良い。
今のカミーラにとっては忌々しい存在でもある。
「そのアベルに対して怒り狂ったドラゴン…と言えばどうだ?」
「………」
スラルの言葉を聞いて、カミーラも無言になる。
ドラゴンがカミーラを見放してから既に2500年以上が経過している。
流石に2500年と言う時間は長い…ドラゴンにとってはアベルなど所詮は過去の存在だ。
そのアベルに対し、今でも怒りをもっているドラゴンなど存在しないだろう。
あのノスですら、アベルの事などどうでもいいと思っているだろう。
「そしてそのドラゴンが我の前に現れた。ハニーキングが言うには試練との事なのだがな」
スラルは忌々しそうにハニーの王に毒づく。
あの全てを知っていると言わんばかりの顔には本当に腹が立つ。
恐らく、あのハニワは自分がこうしてハニーキングを訪れるのも、そしてカミーラを訪れるのも予想していたのだろう。
そうでなければあんな事を言うはずが無いのだ。
非常に忌々しいが、今はあのハニーの王に転がされる以外に道は無いのだ。
「ハニーキング…か」
カミーラはあのハニワの王が言った言葉を思い出す。
『ランスくんを助けてあげてね。それが君のためにもなる事だよ』と、言っていた。
勿論カミーラにとってはそれは戯言に過ぎない。
だが、ハニーキングは圧倒的な強者だ。
そして自分同様、今の人類が造られる前から居る存在。
「カミーラ様…」
ラインコックが不安そうな目でカミーラを見る。
そんな自分の使徒を見てカミーラは笑う。
「フン…あの忌々しい奴に踊らされるのはお前も同じという事か…しかしそれだけでは無いだろう。お前が私にそれだけの事で助けを求める事は無い」
ニヤリと笑ったカミーラに、今度はスラルが痛い所を突かれたという顔をする。
「そうだ。正直言えば手詰まりだ。お前の力が無ければ恐らくは突破できない。それを見越したうえでハニーキングは動いている。端的に言えばお前の力が必要だ」
「ほう…」
スラルの言葉にカミーラは少し楽しそうに笑う。
まさかスラルが自分の力が必要という日が来るとは思ってもいなかった。
「ランスは…この事を知っているのか?」
「いや、知らない。我の独断だ。ランスなら事情を知れば何を言うか分からないからな」
「まあいい…普通ならお前の言う事等下らぬと斬り捨てる所だが…アベルが関与しているのならな…」
そう言うカミーラの目には暗い炎が宿っている。
昔の無力なドラゴンだった頃とは違い、今は力もある。
そしてあのアベルに恨みを抱いているドラゴンには、カミーラも興味が引かれたのも事実だ。
「だが…少し時間を寄こせ」
「それは構わない。こちらから連絡する。それまでに傷を癒せばいい」
話は終わりだと言わんばかりにスラルが背を向ける。
そして残ったのはカミーラとその使徒、そしてスラルについてきたケッセルリンクだ。
「ケッセルリンク。お前はランスを助けないのか」
ケッセルリンクは魔人でありながら完全にランスの味方をしている。
勿論カミーラはそれを誰かに言うつもりは無い。
カミーラはケッセルリンクに対しては、奇妙な親近感を持っていた。
種族も違うし、ケッセルリンクはカミーラが嫌いな美女ではあるが、不思議と気が合う。
「助けたいのはやまやまなのだがな…私は迷宮には入れないようだ。だからカミーラ…ランスを頼むぞ」
ケッセルリンクは薄く微笑みながらスラルの後を追っていく。
「カミーラ様…本当にいいんですか? 人間なんかを助けて」
スラルとケッセルリンクが姿を消した後、ラインコックが心配そうに声をかけてくる。
ラインコックは魔王ジル時代に使徒となった存在…それ故に、人間がどういう立場にあるか理解している。
「問題は無い…ジルは実際には人間には殆ど関心をもっていないからな…」
「え? そうなんですか?」
カミーラの言葉にラインコックは首を傾げる。
ジルの人間に対する態度を考えれば、それも無理も無いことだ。
「そうだ。むしろジルは魔物にこそ憎しみを向けている…魔人にもそうだ。あの女にとってはノスも駒の一つに過ぎん」
魔王が追い込まれる事など絶対に無いが、もしそうなればジルはノスすらも平気で捨て駒にするだろう。
あの女はそういう女だという事は本能で理解していた。
「ランス殿の試練を手伝う…それはカミーラ様の望みでもあるのですね」
七星の言葉にカミーラは唇を吊り上げる。
「あいつが強くなればなるほど…このカミーラが狩る価値が上がるのだ。そのための戯れだと思えばいい…」
カミーラはこう言っているが、もう一つの理由としてはドラゴンの事もある。
魔王アベル…カミーラの『ドラゴン』としての価値を失わせた存在だ。
その誇りを取り戻したからこそ、アベルはどうしても許せぬ存在なのだ。
「さて…少しは面白くなってきたな」
カミーラは何処までも楽しそうに笑い続けた。
翌日―――ランス達は食事をとっていたが、そこにはケッセルリンクのメイドの一人であるシャロンの姿は無かった。
「シャロンはまだ動けんのか」
「はい…使徒とは言えども、魔人のような再生能力はありませんから。少しの間はシャロンさんは安静にさせています」
「それがいい…シャロンは今回は無茶をし過ぎだ。理由は分かるのだがな」
ケッセルリンクはシャロンが無茶をした理由を察し、苦笑する。
(ランスへの恩返しなのだろう。ランスはそんな事を気にする奴では無いというのにな)
シャロンは人間だった頃にランスに助けられた。
それも危機的な状況で、だ。
それ故にランスに恩義を感じ、その恩に酬いようとするのは当然の事だ。
「ランス、少しの間ダンジョンに行くのは待ってくれ」
「あん。何でだ」
ランスはパレロアの作ったパンにかじりつきながらスラルに聞く。
「ああ…今回のダンジョンにはカミーラが同行することになった。そのカミーラが少し待てと言っている。お前も体を休めるのには丁度いいだろう」
「カミーラがか? どういう風の吹き回しだ。というか魔人は入れないんじゃなかったのか」
「カミーラに限り、無敵結界の解除を条件にダンジョンに入ることをハニーキングに確約させた。まああいつにとっては想定内なのかもしれんがな」
あのハニーの王の事を頭に浮かべ、スラルは忌々しそうに唇をかむ。
「まあカミーラなら無敵結界が無くても問題無いだろ。余裕だな、がはははは!」
カミーラが参加するのなら、最早何も問題は無い。
何しろカミーラは魔人四天王の1角にしてドラゴンの魔人だ。
ランスもカミーラには何度も苦しめられた故に、その力は十分に分かっている。
「その間は少し休んでおけ。レイ、お前もな」
「フン、分かったよ」
レイもまだ体が痛いようで、その動きは億劫だ。
「じゃあレベルを上げるとするか。カモーン! クエルプランちゃん!」
ランスが指を鳴らすと、眩い光と共にランスのレベル神であるクエルプランが現れる。
「お久しぶりです、ランス。試練は順調のようですね」
「まあ俺様なら当然の事だな」
「…魔人の力無しでクリア出来ないくせに」
クエルプランの言葉に胸を張って答えるランスに、バーバラが小声で突っ込む。
ランスに睨まれてバーバラは口笛を吹きながら家事に戻る。
「それよりもレベルアップだ。かなり戦ったからな。期待しているぞ」
「ええ、それではレベルアップをします」
クエルプランが呪文を唱えると、ランス達のレベルが上がる。
「ランスのレベルは80になりました」
「おーーーーー! とうとう80いったぞ!」
「スラルはレベル79になりました」
「…我はそろそろ才能限界だったはずなのだが」
「レンはレベル106になりました」
「感謝します、クエルプラン様」
「レイはレベル76になりました」
「おう」
「エドワウはレベル61になりました」
「何と美しい…まさにこの方こそ女神だ」
「以上になります。また用が有ればお呼び下さい」
「おーーーっと待った! クエルプランちゃん!」
そう言って消えようとするクエルプランにランスは待ったをかける。
「何でしょうか?」
「俺様のレベルが80になったぞ。そろそろご褒美の時間だろう」
ご褒美、という言葉を聞いてクエルプランは思わず顔を赤らめたが、それは一瞬の事と彼女から放たれる光のせいで誰も気づくことは無かった。
「そ、そうですね…で、ではあなたは私に何を望みますか」
「がはははは! それは…まずは俺様の部屋に行くぞー!」
ランスはそのままクエルプランを抱えると自分の部屋へと消えていく。
「…あいつ、ある意味スゲェな」
「それについては同感だ。それ以上に私は君達のレベルの高さに驚く。特にレン殿、レベル106とは一体…」
「それは我も同感だ。以前はお前はランスと同じくらいのレベルだったからな。何が起きた?」
エドワウとスラルの疑問にレンは肩をすくめる。
「神格が戻ったからよ。それとこれまで戦ってきた経験ね、純粋に」
(それにしてもランス…クエルプラン様相手に無茶をしないでよ。これで世界崩壊とかなったら洒落にならないし…)
レンは部屋に消えていったランスを見て、ため息をつく以外に無かった。
一度作りましたが最初から作り直しで
見直してから設定と違うことに気づきました
でも誤字脱字は毎回あるんだよなぁ…
スラルの才能限界が伸びたのは勿論シリーズ恒例の理由です
作品跨いでも有効なんだよなぁ