ランス再び   作:メケネコ

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最後の試練に向けて

 カミーラがドラゴンを打ち倒し、ランスはようやく次に進む事が出来る事に安堵した。

 勿論カミーラが敗れるなど想像もしてなかったが、逆に言えばカミーラの助けが無ければクリアは出来なかっただろう。

 スラルがカミーラと何を話したかは知らないが、まさかカミーラが動くとは正直思ってはいなかった。

 何しろランスが知るカミーラは非常に怠惰でプライドが高く、ランスを恨んでいたのだから。

「…貴様、アベルとは何か関係があるのか」

 そんな中、なんとカミーラがカインへと話しかける。

 その光景に一番驚いたのは勿論七星だ。

 カミーラにとってドラゴンは恨みの象徴であり、決して許せる関係では無いと分かっているからだ。

「ああ…アベルか。あいつは…まあ父親と母親が同じってだけだ。野郎を兄弟だなんて思った事すらねえ」

「何ぃ!? お前、カミーラの子供なのか!?」

 その言葉にランスが驚くが、直ぐにカミーラがランスを鋭く睨む。

 そこには「何を言ってるのだこのアホが」といった視線が見て取れる。

「ちげぇよ。ある日突然雌のドラゴンが全部死んだんだよ。残ったのはカミーラだけだったんだよ。だからドラゴンの中でも優秀な奴がカミーラと子を成せたって事さ」

「成程な…カミーラがドラゴンを恨む訳だ」

 カインの言葉を聞いてスラルは納得いったように頷く。

 昔から無気力で怠惰で美しい女を嫌い、気に入ったものはどんな事をしても手に入れる我儘な性格。

 それはこれまでのカミーラの抑圧された鬱屈が爆発したとすれば納得がいく。

 そしてランスと出会った事で、その無気力で怠惰な部分が減ってきたという事だ。

「フン…下らん話だ」

 カミーラは全く気にしていない顔をしている。

 どうやら本当に過去の事を吹っ切ってしまったようだ。

 それは喜ぶべきかどうかはスラルには分からなった。

(ランスは喜んでいるようだが…逆に言えば魔人四天王のカミーラを完全に目覚めさせたとも言える。これはどうなのか…)

 それがランスにどう影響を及ぼすか、それはまだ分からない。

 カミーラのプライドの高さゆえ、今もランスは見逃されている部分はある。

 もしカミーラがランスの事情も無視するならば、ランスはとっくの昔に使徒にされている。

「そんな事よりもランス、アレがスタンプだけど…もう一杯になるわよ」

 レンはスタンプの台紙を見る。

 そこにはハニーキングの印がついたスタンプが大量についており、ここが最後のスタンプとなるはずだ。

「ようやくだな。まあ色々と苦労はしたが、楽勝だったな」

「まあ…最後はカミーラの力で本当に楽をしたが、逆に言えばそれしか方法は無かったからな」

 スラルはハニーキングは何処まで考えていたのかと思うと腹が立つ。

 結局は最後までハニーキングに踊らされた形になってしまった。

 カミーラの協力すらも織り込んでいたのかと思うと、あのハニワの王が本当に腹が立ち、そして最高に腹が読めない。

 そして最後のスタンプを押すと、眩い光と共にハニーキングが現れる。

「はーにほー! やあやあランス君おめでとー! これで全部のスタンプが埋まったねー!」

「うげっ、ハニーキング…」

 スラルは露骨に顔を歪めるが、ハニーキングは全く気にしていない。

「そして次が最後の試練だよー」

「ようやく終わりか」

 ハニーキングの言葉にランスは終わりが見えた事にため息をつく。

 何だかんだ言って、この試練はランスにとっても結構きついものがあった。

 色々と楽しみもあったが、何しろ苦労の方が多い。

 最後にはカミーラの力を借りなければクリアは不可能だっただろう。

 楽だと言えば楽だったが、冒険を楽しみたいランスとしては若干の不満が残った形になった。

「それでねー…最後の試練なんだけどね…」

 ハニーキングは一度声のトーンを落とす。

 スラルとしては、どんなくだらない試練が待っているのだろうかとある意味不安になる。

 だが、次に放たれた言葉はスラルが、いや、この場の誰もが予想もしない言葉だった。

「ランスが知りうる全ての戦力をつぎ込んでくれて構わないよ。無敵結界が無ければ魔人でもOK。とにかく強くないと絶対ダメ」

「何だと」

 魔人もOKというのには流石に驚く。

 何しろ魔人は反則級の強さを持っているのだ。

 いくらランスが強いと言っても、魔人には一人では絶対に勝てない。

 それ程までの力の差が人間と魔人の間にはあるのだ。

「ハニーキング、それは本気で言ってるのか」

「本気だよー。ランス君が手に入れようとしている力はそれだけ大きいって事だよ」

 ハニーキングの言葉にスラルはその奥を読み取ろうとするが、相変わらずの顔なのでやっぱり分からない。

 だが、ハニーキングがそう言うという事は、間違いなく最後の試練とやらは危険なものになるのだろう。

「大変だな、お前達も。まあ俺には関係ないけどな」

 ドラゴンのカインは早く地上に戻りたいと言わんばかりの態度を取っている。

 そんなカインを見て、ランスはニヤリと唇を歪めた。

 その笑みを見て、スラルとレンは確信する…この男はこのドラゴンを巻き込むつもりなのだと。

「おいハニーキング。戦力ならどんなものでも使っていいんだな」

「まあそうだね。この場で動かせる戦力なんて少ないと思うけど…使うのは全然大丈夫だよ。流石に大所帯だと転送は難しくなるかもしれないけど」

「それだけで十分だ。おいドラゴン。地上に戻りたかったお前も手伝え。いや、絶対に参加しろ」

 ランスの言葉にカインはぎょっとした顔をする。

「おいおい! 俺様を巻き込むなよ! 俺様がお前に手を貸す理由はねえよ!」

 カインとしては早くこの地上の様子を知りたい所だ。

 そのためには一刻も早く地上に戻りたいのであって、こんな事に構っている理由は無い。

「ほー。だったら俺様はお前など知らん。自力で地上に戻るんだな」

「は、はああああああああ!?」

 ランスの言葉にカインは驚愕する。

「おいハニーキング。地上に戻れるのは俺様の試練に参加した奴だけだよな」

「え、そんな事は」

「だけだよな」

「そ、そうだねー。ランス君の試練を手伝った者じゃないと戻れないねー」

 ハニーキングはランスの言葉の圧に負け、事実とは違う事を話してしまう。

「な、何だとーーーーー!? じゃ、じゃあ俺はこいつを手伝わないと戻れないってのか!?」

「そう言う事だ。それがこのダンジョンの仕組みだからな。戻りたかったら俺様を手伝うんだな」

 カインは少しの間口をぱくぱくとさせていたが、

「だあああああああ! 分かったよ! このカイン様が手を貸してやる! ありがたく思うんだな! えーと…ランスだったな!」

「がはははは! 素直にそう言えば良いのだ。で、ハニーキング。次のダンジョンにはどうやって行けばいい」

 ランスの鋭い視線を受けて、ハニーキングは全てを察する。

「う、うん…ここに転送装置が移動されるからね。ここから最後の試練に行けるんだよ」

「ほー。じゃあそれまでこいつはここから動けん訳だ。いやー、残念だなー」

(((((((((絶対嘘だ…))))))))

 ランスの言葉にスラルを始めとしたランスを知っている者は内心でため息をつく。

 ハニーキングの言葉を聞いた時からランスはこのドラゴンを巻き込もうとしたのだろう。

 確かにドラゴンの力は強大で、間違いなく助けにはなる。

(相変わらず悪辣なんだから…)

 付き合いが長くなってきたレンは呆れると同時に感心もする。

「がはははは! 取り敢えず俺達は地上に戻るか。おいお前、逃げるなよ」

「誰が逃げるか! このカイン様の力をお前達に見せてやるよ!」

「おうおうその意気だー。じゃあ俺達は地上に戻るぞー」

 ランスは高笑いをしながら地上へと消えていき、残ったのはドラゴンであるカインとハニーキングだけだ。

「その…ご愁傷様」

「やかましい!」

 

 

 

 地上に戻ってきたランスは早速ケッセルリンクに事情を話す。

「それは勿論構わないが…カミーラ、お前はいいのか?」

「構わぬ…それにあいつが言った事も興味がある…」

 カミーラの言葉にケッセルリンクは意外そうな顔をする。

 あのカミーラがそんな事を言うとは思わなかった。

 ドラゴンが関わっているのならともかく、いくらランスが関わっているとは言え、カミーラが協力するとは正直思ってもいなかった。

 カミーラにどんな心境の変化があったかどうかは知らないが、とにかく魔人四天王二人が協力する事にはなる。

「だが…不思議と私達は連携が取れない。そこはどうする」

 何故かは知らないが、魔人は連携を取る事が出来ない。

 我が強すぎるのかとも思ったが、どうやらそうでも無いようだ。

 とにかく、魔人が協力して戦うという事は事実上不可能で、いくらカミーラとケッセルリンクが居たとしても戦力は過剰にはアップする事は無い。

「私が行くだけだ。お前はただ見てればいい」

「それなら別に構わないが…万が一お前が倒れた時は、私が行かせてもらう。文句は無いな」

「構わん。好きにするがいい」

「という事だ。ランス、構わないな」

「別に構わんぞ」

 ランスはカミーラとケッセルリンクの二人が協力するならばそれで構わない。

(だがいい事を聞いたぞ。魔人は連携を取れないのか。そういや今まで俺様が戦って来た魔人も複数で来た事は無いな)

 アイゼルやノスだけでなく、ゼスの時も魔人は必ず一体で襲い掛かってきた。

 ザビエルは使徒と共に襲い掛かって来たが、魔人が2体で襲ってくるという事は無かった。

「よーし、じゃあ俺様は行くとするか」

 ランスはそのまま外に出ようとするが、

「あ、待て。我も行く」

「我も行くぞ」

 スラルとお町がそれに続く。

「まあ好きにしろ」

 ランスはそれを拒否する事は無く、二人を伴って消えていく。

 そして他の者も各々好きな様に動き始める。

 カミーラも己の使徒を伴い、何処かへと行ってしまった。

「ケッセルリンク様。そろそろお休みになっては?」

「今はまだ昼間です。ケッセルリンク様も起きてるのもお辛いかと思います」

 残ったのはケッセルリンクの使徒達とその主だけだ。

 そして今の時間は昼間、即ちケッセルリンクが起きているのには辛い時間だ。

「そうですよケッセルリンク様。それにランスさんの事ですから夜は大変な事になりますしー」

「ちょっと加奈代。あなたケッセルリンク様に対して…」

「構わないよバーバラ。それに…私が起きていたのは私が好きでそうしているだけだ」

 ケッセルリンクは使徒に対して微笑む。

 バーバラはそれだけでも幸せのあまり頬が緩む。

「だがお前達の気遣いは受けるべきだな。私も夜まで寝かせて貰おう」

「「「「「お休みなさいませ、ケッセルリンク様」」」」」

 メイド達はケッセルリンクに一礼すると、ケッセルリンクはそのまま自分の部屋へと消えていく。

「さて…私達も明日に向けて準備をしましょう。何しろ最後の試練らしいですから」

 エルシールの言葉に皆が頷くが、加奈代は複雑な表情をする。

「あーあ。またランスさんとお別れなのかなぁ…」

「ちょっと加奈代。私達はケッセルリンク様の使徒なのよ。人間に肩入れするなんて…」

 バーバラの言葉に加奈代は首を振る。

「いえ、別に人間に肩入れしてるんじゃなくて、私はランスさん個人に肩入れしてますから。やっぱりランスさんと居ると楽しいですしねー」

 それは加奈代の偽らざる本心だ。

 再びランスと出会い、色々と大変な事になってはいるがやはり一緒に居ると楽しい。

 勿論主であるケッセルリンク、そして同じ使徒である皆と居るのも良いのだが、やはりランスと一緒に居る事とはまた別だ。

「加奈代、そんなに残念に思う必要は有りませんよ。ケッセルリンク様には何か考えがあるはず。そうでなければあのような顔は致しませんよ」

「そうですね…ランスさんと会ってからどこか明るくなった気がします」

 ケッセルリンクがこの世界に戻ってきて、今の世界の状況を見た時ケッセルリンクは思わず地に膝をついてしまった。

 そして魔王と謁見し、許されはしたもののやはり数年間は落ち込んでいた。

 何よりも、ケッセルリンクとしては自分の目の前でランスとジルの子が魔王に殺された事が何よりも応えたのだ。

「確かにそうだけど…」

「とにかく今はランスさんの手助けです。ケッセルリンク様もそれを望んでいますから」

「「「はい」」」

「はい…」」」

 バーバラはやっぱり未だにランスの事を認められないでいた。

 いや、そもそもバーバラは人に敵愾心を抱いているので、それはある意味当然の話なのだ。

 だが、それでもバーバラは主がランスを助けると言うのであれば、それに従うだけだ。

 それこそが、自分を助けてくれたケッセルリンクへの一番の恩返しになるのだから。

 

 

 

「おう、来てやったぞ。ハニーキング」

「はにほー! いらっしゃいランス君! ハニーポイントの交換だね!」

 ランス、スラル、お町はハニーキングの元へと訪れる。

 ハニーポイントと交換で色々なアイテムが貰えるのだが、恐らくはこれが最後になるだろう。

「それよりも貴様のコレクションとやらを見せて貰おうか。スラルちゃんのあーんな事とかを教えてやったんだからな」

「そうだねー。勿論約束は守るよ。じゃあこっちに来てよ」

 ランスとハニーキングは互いにニヤリと笑いながら奥へと消えていく。

 その様子を見てスラルは忌々しそうに二人を睨んでいる。

「スラル。何かあったのか?」

「まあ…色々な。まさかランスがハニーキングと親しくなるとはなぁ…互いに破天荒だからもしかしたらかとも思っていたが…」

「…詳しくは聞かない方が良いのだろうな」

「そうしてくれ。とにかくあの二人が揃うと無駄に疲れるんだ…」

 スラルはどうしてこんな事になってしまったのかと嘆くが、同時にどうしようもないという諦めも感じていた。

 何しろ自分が魔王の時から意のままに動かなかった二人だ。

(そういう意味では…どちらも規格外なのだろうな)

 

「それでね…ランス君。これがボクのコレクションだよ」

 ハニーキングが合図をすると、SPハニーがアタッシュケースを持って現れる。

 そしてSPハニーがそのアタッシュケースを開けると、

「おお…成程」

「フフフ…今の時代では絶対に手に入らないアイテムだよ。その中でも逸品を残しておいたんだー。でも後100年くらいもしたら忘れてたと思うけど…」

 その中に入っていたは…所謂エログッズというやつだ。

 色々な形をした大人のオモチャがきっちりと整頓されて入っていた。

 ランスの居る時代…LP時代ならばどこでも手に入る物だろうが、確かにこのGL期においては貴重な存在だろう。

 何しろ人類の文明が存在しないのだから。

「これをランス君にあげるよ。とってもいい事を聞かせてもらったからね」

「そういう事なら遠慮なく貰ってやろう。うむ、これで色々出来るというものだ」

 ランスは何時もの様に笑うとSPハニーからアタッシュケースを受け取る。

「貴様も中々分かっているではないか!」

「いやー、こういうのを喜んでくれるのはやっぱりランス君だよ。ボクのコレクションが無駄にならずにすんだよ」

 二人は個室から出て来ると互いに笑いあう。

 そんな二人を見てスラルは『絶対ロクな事にならない』と考えながら二人を睨む。

 勿論ランスもハニーキングもそんな視線など意にも欠かさない。

 どこまでも図太いのがこの二人の特徴なのだから。

「あ、それはそうとハニーポイントの方も並べるねー」

 ハニーキングは手を鳴らすと、やはりSPハニーが現れてアイテムを並べていく。

 そこに並べられたのは色々なアイテム…それこそ冒険の役に立ちそうな道具や、役に立たないコスプレ衣装等様々だ。

 スラルはランスの事だから、またエログッズを選ぶのかと思っていたが、ランスが手に取ったのは意外なアイテムだった。

「とうとう手に入れたぞ。お帰り盆栽」

「え?」

「何を驚いている。最初から言ってただろうが。お帰り盆栽があれば苦労はせんと」

「ま、まあそうだな…確かにそう言っていたな」

 ランスが手にしたもの…それはお帰り盆栽と呼ばれるアイテムだ。

 消耗品の帰り木と違い、お帰り盆栽があれば何度でもダンジョンから帰れるというまさに冒険家にとっては夢のようなアイテムだ。

「じゃ、じゃあランス…お前は最初からこれを目的で?」

「当たり前だ。何よりもこれが大事だろうが」

 ランスは何よりも冒険が好きであり、そのための苦労は全て受け入れる。

 誰も到達したことの無い、新たな発見をするのが何よりも喜びなのだ。

 女も好きだが、冒険も大好きなのがランスなのだ。

「ちょっと意外。でも確かにこれがあれば帰り木には困らない訳か」

「ランスは冒険になるとマメじゃな…」

 スラルとお町は感心しながら頷いてみせる。

 ランスの冒険に対する姿勢は本物だからだ。

「がはははは! これで問題の一つが解決したな!」

 ようやく目当てのものを手に入れて、ランスは非常にご機嫌だった。

 

「のう、ランス…」

「なんだ。お町」

 ランスがハニーキングからアイテムを受け取り、スラルは寄る所があるとランス達と別れた。

 そしてランスがお町と共に歩いていると、お町がランスを見上げる。

「いや…お前は何故そこまで戦おうとする? 何がお前をそこまで駆り立てるのじゃ」

「あん? どうしてそんな事を聞く」

 日が沈みかけており、その太陽をバックに問いかけるお町の顔色はランスからは見えない。

「分からぬからじゃ。先代妖怪王黒部は藤原石丸に従い戦った。その藤原石丸は魔人に敗れたが、お前はその魔人を倒そうとしている。じゃが、あの魔人達はお前を助けている。我にはそれが分からぬ」

「カミーラとケッセルリンクか。まあカミーラはともかく、ケッセルリンクは俺様の女だ。俺様の女が俺様を助けるのは当然だろうが」

「魔人を自分の女と言い切れるお前が我は分からぬ…じゃが、お前は黒部が本当についていきたかった相手じゃ」

 ランスは草むらに腰を下ろすと、お町も同じように腰を下ろす。

 その時にようやく彼女の顔が見えたが、そこにあるのは不安、そして興味が入り混じった顔をしている。

「何でお前がそんな事を気にする」

 ランスに言われてお町は驚いたような顔をする。

 自分が何故ここまで人間の事を気にするのか…それがお町自身不思議だった。

「…分からぬ。じゃが、この牙の導きがあるのだと我は思う」

 お町は自分の首から下げている黒部の牙を見る。

 初代妖怪王…オロチの牙から生まれた妖怪であり、これが無ければいかにお町でもJAPANから出る事は出来ない。

「黒部は本当はお前について行きたかったのじゃろう。この牙が今でも残っているのがその証拠じゃ」

 妖怪は執念…想いが深い存在が多い。

 黒部が完全に消滅せずに、この牙だけ残ったのがその証なのだ。

「だから…我もお前に興味を持った。あの黒部がお前に残したものを」

 妖怪王黒部は偉大な王…それこそ今の自分、はりぼての妖怪王とは違う。

 お町はそれでいいと今まで思ってきたが、ランスと出会ったことでその心が変わってきた。

 自分の力で妖怪王と認められたいと。

 与えられた立場などもういらない、全ては自分のために妖怪王へとなりたいのだ。

 お町の真剣な表情を見て、流石のランスも軽口を叩こうとした口を閉じる。

(こういう時は変な事を言うと絶対こじれるな。特にお町さんはそんな感じだったな)

 あそこまで政宗ラブを貫き通していたお町が、今は自分に真剣な顔を向けている。

 だから、ランスもそれに応える事にする。

「俺様の目的は魔王だ。魔王ジルは元々俺様の奴隷だ」

「魔王…ジルが奴隷? どういう事だ」

「そのまんまだ。ジルは俺様の奴隷で、今は魔王をやらされている。それだけだ」

「魔王をやらされている?」

「そうだ。前の魔王ナイチチ…だったかな。たしかそんな奴が俺様の奴隷を無理矢理魔王にした。だから取り戻す。それだけだ」

 そう言うランスの顔は不機嫌に見える。

 恐らくはあまり言いたくない事ではあるのだろう。

 人とはあまり付き合いが無かったお町でもそれが理解出来た。

 そしてそれがどれ程に困難な道なのかも。

「魔王を相手に…勝てるわけが無い。それなのにやるのか?」

「別に魔王に勝つ必要は無いからな。ジルが魔王でなくなればいいだけだ」

 ランスの言葉を聞いて、お町は目を丸くする。

「そのために無敵結界を…?」

「そうだ。無敵結界があったら何にも出来んからな。何をするにしてもまずは無敵結界を何とかする必要がある」

「…これはそのための一歩という事か」

 この試練とやらもランスにとってはジルを取り戻すための一歩にしか過ぎない。

 それでも、ランスは本気でジルを取り戻す気なのはハッキリと理解出来た。

「無駄、とは思わんのか?」

「俺様なら必ず出来る。これまで何とかなってきたんだ。だから絶対何とかなる」

 普通に考えれば狂人の戯言にしか聞こえないが、ランスは本気でそれを言っている。

「…凄いな、お前は」

 だからお町は本気で感心する。

 そして羨ましくなる。

 最初は女好きの無礼者だと思っていたが…いや、間違いなく女好きで無礼者だ。

 だが、それ以上に自分には無い強さ、そして意志の力がある。

 そんな精神力の強さを見たからこそ、黒部はこの男について行きたかったのだろう。

「我は…お前の助けになるか」

 その言葉が出てきた時、自分の言葉に非常に驚いた。

 それは極自然に、当たり前のように出てきた言葉だ。

「んー…今はならんな。少なくとも黒部くらいには強くならんといかんな」

「やっぱり我は弱いか? お前の目にかからぬ程に」

「もっと成長してからだな。お前は絶対に強くなるからな、うん」

「そ、そうか…」

 ランスの言葉にお町は嬉しそうに笑う。

(お町は絶対に強くなるからな。それにおっぱいも大きくなるし、その時まで我慢だな)

 あのJAPANでの戦いでもお町の強さは凄まじかった。

 それほどまでに強くなるのは分かっているので、その時までは手は出さないと決めていた。

 流石に今の少女のお町に手を出すのはランス的にアウトだ。

「ならば…我は必ずお前の力になろう。それが…この牙の導きなのかもしれぬ。あの狭いJAPANでは味わえなかった事だ…」

 あの時自分が魔人に襲われたのも、そしてその場面に現れたランスの事も、そのランスが黒部の牙を持っていた事も、全ては運命なのかもしれない。

(我は…己の意志で妖怪王となろう。誰に言われるでもない、黒部を越える妖怪王にな)

 お町の決意に反応したかのように、黒部の牙は静かに光り輝いていた。

 




お帰り盆栽は大正義
実際これが無いとアカンよね…という事になりました
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