ランス再び   作:メケネコ

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最後の試練

 決戦前―――ランスが試練をしている間でも、世界は動いている。

 だが、今の時代ではそんなに大きな変化は起きない。

 それが魔王ジルの時代という人類の暗黒の時代であり、それはまだまだ続いていく。

 大きな変化が起きるのはまだ先の未来ではある…が、それでもランスが起こした変化はこの世界を変化させていた。

 勿論ランスにはそんな自覚は無い。

 どんな時代であろうとも、ランスは好き勝手に生きて行動するだけだ。

 だが、その好き勝手な行動こそが、世界の命運を小さくではあるが変えている。

 そしてここに居るのもその小さな変化の一つ。

「ウググ…グヘヘヘヘ…こっちか、こっちが臭うぞ」

 ランス達が居る川中島…AL教団本部に向けて飛んでいく一体の影がある。

 それは剣のような奇怪な姿をした魔物だ。

 その正体は男の子モンスターであるハラキリと呼ばれる種族だ。

「ワシは魔人じゃ…人間をぶった斬ってやるぞ…グヘアグヘア」

 その名前の通り、ハラキリは生物を切刻む事を生きがいとしている。

 ジルがまだ見つけていない魔血魂を取り込み魔人となった存在。

 ジルもまた魔人にはあまり興味が無いので、その存在を把握していなかった。

 その魔人は確実に川中島へと向かっていた。

 己の存在意義である、人間を斬り殺すために。

 

 

 

「で、話とは何だ。ケッセルリンク」

 魔法ハウスのある部屋にて、スラルは魔人ケッセルリンクとその使徒と対面していた。

 ケッセルリンク以下、全ての使徒達は皆スラルに跪く。

「ケッセルリンク。前から言っているが、お前が我に傅く必要は無い。我はもう魔王では無い」

「いえ…私がこうして本心から傅くのは、スラル様だけですので」

 相変わらず律儀なケッセルリンクの事はやはりスラルにとっても好ましい。

 今でも自分を忘れないでいてくれる…それだけでもやはり嬉しいものだ。

「それで…我に話とは何だ? ランスにも聞かれたくない事なのか」

「ええ…ランスにはまだ話すべきでは無いと思っています。まずはスラル様にお伺いするのが先だと思いましたので」

「そうか。ならばまずは内容を聞こう」

 スラルは置かれている椅子に座る。

 この魔法ハウスは、何時誰が来ても良いようにケッセルリンクのメイド達が最低限の家具は用意されていた。

 ケッセルリンクはその反対側の椅子に座り、メイド達はそのままケッセルリンクの後ろに立っている。

「まずは…ジル様がスラル様の書き残した書物を集める様に私に命令しました。魔王の命令なので、私はそれに逆らう事が出来ず、スラル様の書物はジル様の手元にあります」

「…我の書物か。確かにアレには色々と書き残したモノがあるだろうが…我はその記憶が欠落している。だから何が書いてあるかは思い出せぬのだが…そうか。ジルの元にあるのか…」

 スラルは幽霊になった際に色々な記憶を欠落させてしまった。

 配下の魔人の事や、その豊富な知識は記憶として残っているのだが、どうしても一部の事は思い出せなかった。

 具体的に言えば、どうやって自分が無敵結界を得たのか…その辺りの事が思い出せない。

 スラルも魔王で無くなったので、その辺りの事はあまり気にしてはいなかったが、現在の魔王であるジルが手にしたならば話は別だ。

「スラル様はその辺りの事をまだ思い出せませんか?」

「生憎とな…特に気にした事も無かった。だが、迂闊だったな…」

 自分の残した書物ならば、もしかしたら無敵結界を得た時の事を記録してあったかもしれない。

 いや、自分ならば絶対にそうしているはずだ。

 それなのに、その事を今まで気に留めていなかった自分の迂闊さに歯噛みするしかない。

「ケッセルリンク。お前は中身を見たか?」

「いえ…ジル様からは中身は見るなと言われていましたので、私も見てはいません。ただ、私はその書物をジークに渡したので、その書物がジル様が望んでいた書物かどうかは分かりません」

「そうか。確かに我は色々と残していた…ような気がする」

 どれだけ思い出そうとしても、その部分だけが記憶からすっぽりと抜け落ちてしまっている。

(楽観視し過ぎたか…確かに我の残した書物をジルが求めてもおかしくは無いか…)

 ジルもまた勤勉で、色々な知識を残した書物を残していた。

 その残していた書物は未だにこの魔法ハウスにもあるし、あの時共に魔人と戦った人間の所にも複製本があるはずだ。

 エドワウが知っていた魔封印結界も、ジルが書き残した物が今でも彼らの元に残っているからだ。

「それでスラル様。私はスラル様の残した書物を探します。私が探した物以外にもまだ残っていると思います。もしかしたらそれがランスの助けになるかもしれません」

「助けになる物が残っているといいのだがな…何しろ魔王とは無敵の存在だ。人間がどうにか出来る相手では無い」

 スラルは難しい顔をして唇を噛む。

 自分が元魔王なのでその辺りの事は嫌という程理解している。

 だからこそ、ランスのしている事は本来は無謀と言える事なのだ。

 だが、それを指摘して引き下がるランスでは無いし、何よりもスラル自身がジルの事を何とかしたいと思っている。

 ジルがああなってしまったのは、間違いなく自分にも責任があるからだ。

 いや、諸悪の根源と言っても差し支えないだろう。

「それでも何もしないよりも良いはずです。それに、現実にスラル様はこうして私の前に存在して居る、それがある限りは諦められません」

「…そうか、そうだな。本来ならば我は消滅していてもおかしくないのだったな」

 スラルは今自分がこうして存在して居る事を思い出す。

 ランスは絶対に自分の体を取り戻すと決意を固め、この世界を回ってきた。

 そして現実に、大まおーが残したアイテムでこうして自分は肉体を持って行動出来ている。

 それならば、ジルがランスの下へ戻るという可能性も決して否定はできない。

 例えそれがどんな低い可能性だとしても、ランスは絶対に諦めないだろう。

「正直どんな事が残っているかは分からないし、もしかしたら見つからないかもしれない。それでもお前は探すのか?」

「私は決めました。私は必ずランスを助けると。それが…あの時ランスの目の前でランスの子を殺してしまった事の償いであり…私自身の行動なのです」

「…吹っ切れたようだな。あの時の本音がやはり効いたか?」

 スラルの言葉にケッセルリンクは顔を赤らめる。

「それは言わないで下さい…でも、その事も有ります。私は己を偽るのを止める事にしました」

「分かった。しかしランスに話さないと言うのは…」

「ランスが落胆しないようにです。変に希望を持たせるよりも、ランスが自分自身で希望を持ち続けた方が良いですから。あの時のような事は避けたいです…」

 あの時、それが何を意味するのかは皆分かっている。

 ジルが魔王になった後で、ランスは外面は普通通りだが内面はやはり荒れていた。

 それが怪獣界での乱暴なセックスとして現れていた。

 あんな思いをもうランスにはさせたくない…それがケッセルリンクの一番の気持ちだ。

「ですので、スラル様の書物が見つかれば、スラル様に届けたいと思っています」

「ランスはそういった物に興味は無いだろうからな…ああ、そうだ。今更かもしれないが、加奈代。お前が持っていた大まおーの鎌を返してくれるか。アレが必要になるかもしれぬ」

 スラルはここで重要な事を思い出す。

 ケッセルリンクに出会ったら、まずはあの鎌の事を言わなければならなかったのだ。

「はーい。今は手元にありませんが、常に持っているようにします」

「そうしてくれると助かるな。だが、ジルにはばれないようにしろよ」

「…そうですねー」

 ジルならばあの鎌がどんな物かは察しがついているだろう。

 それでもケッセルリンクに何も言わないという事は、ランスが持っていると思っているのか、それとも知ってて放置しているのか。

 可能性だけを考えればキリが無いので、スラルは取り敢えず大まおーの鎌の事は置いておく。

「ケッセルリンク。お前の方も無駄足に終わるかもしれない。それでもいいんだな」

「構いません。それに世の中は無駄の積み重ねです。私もかつて魔人相手に無駄な抵抗をしていましたから」

「…そうだな。何しろお前は世界で初めて無敵結界を持つ魔人を打ち倒したカラーだったな」

 スラルの言葉にケッセルリンクは苦笑する。

「やめて下さいスラル様。アレはランスのやった事です。まさかあんな手段で魔人を倒すとは思っても居ませんでした」

「そうだな。あんなやり方を思いつくのは恐らく世界でもランスだけだろうな」

 魔人相手にあんな手段を思いつくのは、間違いなくランスくらいだろう。

 ただ卑怯なだけでなく、必ず結果を出す。

 それがランスという人間なのだから。

 

 

 

 そして夜…まさに決戦前夜。

 だと言うのに、ランスは相変わらずだった。

 相変わらず女をベットに連れ込んでいるが、今回はそれがレンだ。

「…ランス、アンタ本当に緊張感が無いわね。明日が最後だってのに」

「そんなのは俺様には関係無い。やりたい時にやるのが俺様だ」

 ベッドの上でランスにその豊かな胸を揉まれながらも、レンは呆れた様子でランスのされるがままになっている。

「しかし…お前も成長したな。色々な意味で」

「それは当然よ。階級が上がったんだから」

 得意げな顔をするレンにも、ランスは構わずにその胸を揉み続ける。

「何か変わるのか」

「純粋に強くなるのよ。だから今の私はアンタよりも強いのよ」

「ふーん。まあお前が俺様より強くなろうとも、お前が俺様の女なのには変わりは無いがな」

「本当にぶれないわね…ある意味感心するわ」

 ランスは相変わらず神に対しても全く遠慮が無い。

 そうでなければあのクエルプランに対してあんなに無礼な態度など取れないだろう。

 何しろクエルプランが本気になれば、この地上など簡単に滅びてしまうというのに。

「がはははは! 俺様が変わる訳が無いだろうが。それよりもお前の体はいい具合だな」

「はいはい。触りたいなら好きなだけ触りなさいな」

 レンはランスが服を脱がしやすい様に体を動かす。

 相変わらずの人を超えた美しさを持つ裸体には、ランスも感心するしかない。

 レンもランスの服に手をかけると、少し熱い吐息を吐き出す。

「本当に元気ね。それしか考えてないの?」

「何を言っている。いい女がいてそれに反応しない奴は男として間違っとる。つまりこうなるのが自然なのだ」

「否定はしないけど、大事な戦いの前にもそうなるのはランスだけよ」

 レンは既に天を向いているランスのハイパー兵器に手を伸ばすと、そのまま優しく握る。

「神相手にも遠慮が無いのは間違いなくランスだけよ」

「俺様はいい女が相手なら何の遠慮もしないのだ。遠慮したって良い事は無いからな」

「もう…ちょっとくらいは遠慮しなさいよ」

 レンはハイパー兵器を口に含む。

 そのまま吸い付く音だけが部屋に響き渡る。

 ランスはレンの頭を少し強引に掴むと、軽くではあるが腰を動かす。

 その反応にレンは少しだけ苦しくなるが、それでも決して口の動きを緩めない。

「よーし。まずは軽く一発出すか」

 ランスの動きが少し激しくなると同時に、レンの動きも激しくなる。

 そしてそのままレンの口内に皇帝液が放たれる。

 レンはそれを慣れたように受け止めると、そのまま躊躇いなく飲み込んでいく。

「おー。お前ももう慣れたもんだな」

「…何年付き合ってると思ってるのよ。その間に何回も私の事を抱いてるでしょ」

 少し恨みがましい目でランスを睨むが、ランスは構わずにレンを押し倒す。

「何を言っておる。お前だって全く拒否しないだろうが。俺様よりも強いんだろ?」

 からかうようなランスの口調に、レンは少しムッとした様子でランスを睨むが、それでも構わずにランスを受け入れる。

「べ、別にいいじゃない…そ、それにランスとのセックスが気持ちいいのは本当だし」

 最初に出会った時からランスに犯されたが、レンはそれが嫌では無かった。

 同僚のエンジェルナイトは非常に強い敵愾心をランスに抱いていたが、自分はもう一回抱かれてもいいかなあと思っていた。

 そして1級神ALICEの命によって、ランスを守る事になった。

(でも…本当にこれでいいのかなぁ…んっ…)

 ランスの体に手と足を絡めながらも、これからの事を考えようとする。

 だが、そんなものはだんだんと激しくなるランスの動きによって中断される。

(私…こんなにエッチだったなんて)

 神が肉欲に溺れるなんて本来はあってはならない事だ。

 勿論そんな戒律が有る訳では無いが、それでも本来であれば人間に犯される等あり得ない事だ。

 神からすれば人間とは創造神を楽しませるための道具に過ぎない。

 いや、それは魔王という存在ですらも例外では無い。

 魔王も人間も、全ては創造神の道具でしかないのだ。

 その道具と性行為をする等、神にとってはとんでもない屈辱だ。

(でも…今の私はランスに抱かれる事に喜びを感じている)

 本来であれば神失格、即堕天してもおかしくは無い…だが、それでも自分は堕天はしていない。

 つまりはこれは正しい事で、こうしてランスに抱かれて気持ちよくなってもそれは神の望んだ事なのだ。

 そんな事を言い訳にして、レンはランスに抱かれて事を肯定している。

「よーし。まずは一発行くぞ」

「うん…いいよ。来て」

 ランスの言葉にレンは顔だけでなく、全身を火照らせながらランスに抱きつく。

 ベットの軋む音が激しくなったかと思うと、悩ましげな声とともにレンは意識を朦朧とさせる。

 下半身に温かい刺激を受け、そのまま荒い息をつく。

 ランスに出された皇帝液がベットに染みを作る事すらもどうでもよく、ただ只管にこの快感を受け入れていた。

「ふー、えがった。階級が上がったか何だか知らんが、より俺様に馴染んでいくな」

「…人間にここまでやられたのって私くらいでしょうねー。でも…別にそれでもいいかー」

 ランスの声にもレンはトロンとした顔で荒い息を吐くだけだ。

 そんな様子のレンに、ランスは再びハイパー兵器に力が灯る。

 今度はレンをうつ伏せにしたまま、そのままハイパー兵器を収めていく。

「うー…気持ちいい…」

「がはははは! じゃあ俺様がずっと気持ちよくしてやるぞ。お前も俺様の女だからな」

 そのままランスはレンの体を心行くまで味わった。

 

 そしてその朝、ランスもレンも十分とは言えない睡眠から体を起こす。

 今日が最後の試練を受ける日であり、その内容は恐らくは過酷なものになるはずだ。

 何しろあのハニーキングが魔人の介入すらも許可したのだから。

「ねえランス…気づいてるんでしょ。自分が何をやっているか」

「何の事だ」

 ランスは着替えながら、レンの言葉を聞き流す。

 だが、これはレンの立場からも敢えて言わなければならない事だ。

「今の世界がどういう世界なのか…ランスも当然受けている。でも、それでも進むのよね、あなたは」

「当然だ。何で俺様が遠慮する必要が有る。ジルがあの魔王ジルだろうが、もう俺様の奴隷になったんだ。だったらジルは俺様の奴隷だ」

 魔王ジル…ランスが過去に対峙したあの恐ろしい魔王。

 魔王としては弱っているとカオスは言っていたが、それでもあのノスをも遥かに上回る力を持っていた。

 恐らくは、この世界の全ての魔人よりも遥かに強いと思わせる程に。

 そのジルを取り戻す…奇しくもあの健太郎と同じ様な事をする事になった。

「未来を変えたとしても?」

「そんなのは知らん。大体俺様は好きで未来を変えてるんじゃないぞ。悪いのは俺様をここに送り込んだ奴だろうが」

「…まあそれはそうよね」

 ランスの言う事も分からない訳でも無い。

 ランスは完全にセラクロラスに巻き込まれた形であり、その責がランスにあるとは言えない。

 それに自分の上…それこそ1級神であるクエルプランがランスに関わっている以上、上は今の状況を好んでいるとしか思えない。

「で、お前はジルがどうやって魔王になったのか知ってるのか」

「え? そんなのランスも見たでしょ。ナイチサに無理矢理魔王にされたでしょ」

「違う。本当はジルはどういう魔王だったんだ。俺様が知ってるジルは本当にヤバかったからな」

 今でもランスは覚えている。

 あの異空間でランスはジルを倒し、そしてジルを抱いた。

 だが、ジルとのセックスはこれまでランスが経験した事の無い行為だった。

 アレだけ恐れられていた魔王が、首を絞められて興奮するというランスからすれば理解出来ない性癖を持っていた。

「…本当は教えるのはルール違反かもしれないけどね。でも私はランスを守り、導く事が役目。だから教えるわ」

 レンはジルの事については記憶がある。

 歴代最悪の魔王にして、尤も創造神を喜ばせた魔王。

「ジルは…人間の頃は賢者として称えられていた。でも、その力と美しさに嫉妬した人間によって犯され、四肢を落され死ぬはずだった。そこを魔王ナイチサが助け…魔王ジルが生まれる」

「それがあのジルか…」

 レンの言葉を聞いて、ランスはリーザス城で戦った魔王ジルを思い浮かべる。

 レンの言う事が正しければ、それは人間を地獄に突き落とす理由には十分だろう。

「ジルが人間牧場を作ったのは人間を苦しめるため。単純でしょ」

「まあそうだな。そりゃそうなるな」

 レンの言葉は正しくあり、間違ってもいる。

 確かに魔王ジルは人間を苦しめるために人間牧場を作ったが、それは勇者に対する対策でもあった。

 人類の数が半分になると勇者が魔王を殺せるようになる。

 それをナイチサから聞かされたジルは、勇者を無力化する意味も込めて人間牧場を作ったのだ。

 勇者の管轄はコーラスが担当しているので、下級天使であるレンはその辺りの事は知らなかった。

「で、魔物牧場って何だ」

「それは知らない。魔王ジルはそんな物は作っていない。ここの魔王ジルが魔物牧場を作ったのは…大きな歴史の変化。もうそれだけで取り返しがつかない事だ思うんだけどね」

 魔物牧場…本来はそんなものは存在しない。

 本来であればGL期こそが魔物の黄金期であるはずだった。

 魔物が好きなように人間をいたぶり、そして殺さなければ何をしても許される世界。

 しかし、そんな魔物達の理想郷はあっさりと砕け散った。

「そうか。まあ魔物がどうなろうが俺様の知った事では無いな」

「そうね。それはともかく、本来の歴史とは違う歴史が生まれた…ランスが関わった事によってね」

「知らん。俺様のせいではない。だが歴史がどうなろうが別に俺様の知った事では無いが…」

「だけどね、ランス。もうこの世界は少しずつ変わっている。もしかしたら、私達が元の時空に戻った時、あなたの知っている人は存在しないかもしれない」

「何だと。それはどういう事だ」

「過去が変われば未来が変わる…もしかしたらシィルの先祖に当たる人が死ぬかもしれない。そうすればシィルは生まれない…私が恐れていたのはそれ」

「な、何と…」

 レンの言葉を聞いて流石のランスも驚く。

 実際もう取り返しがつかない所までランスは突き進んでいるのだが、流石にその言葉はランスに衝撃を与えた。

 LP期に居るランスの女達がもしかしたら消えるかもしれない、そんなのはランスにとっては許されない事だ。

「もう遅いから本当に今更だけどね。だからと言って止まるような人間じゃないし。あなたは」

「当たり前だ。少し驚いたが、今更どうにもならんだろ。まあ…あいつらなら俺様に会えるはずだ。うむ、俺様の運命の女という奴なのだからな」

 ランスは再び皆に会えると信じている。

 例え過去が変わろうとも、シィルやかなみ達と絶対に会える。

 ランスはそんな確信を持っていた。

「とにかく今は試練とかいう奴をとっととクリアするだけだ。俺様にかかれば朝飯前だな。がはははは」

 

 

 

 そして再びランス達はダンジョンの中へと入る。

 今回は先にこの階層を乗り越えたメンバーに、魔人ケッセルリンクが加わっている。

 まさにランスが知る最強のメンバーと言っても良いだろう。

「がはははは! 来てやったぞ!」

「おせーよ。どれだけ待たせやがる」

 ランスの言葉にカインは大きな欠伸をしながら答える。

「ほう…これがドラゴンか」

 この中でカインの事を見ていなかったケッセルリンクがカラーを見上げる。

 そんなケッセルリンクを見て、ドラゴンは首を傾げる。

「あれ…お前…魔人…だけど元人間って訳でも無さそうだな。なんだお前」

「ふむ…カラーの事を知らないのか。確かに普通のドラゴンとは違うようだな」

「カラー…? ドラゴンカラーじゃないのか。ったく、俺様が知らない内に世界はどんどんと変わっていきやがる」

 カインの頭の中に浮かんだのは、黒い色をしたドラゴンカラーだ。

(そういやドラゴンカラーも全部滅んだのかね)

 過去を思い返しながら、カインは昔の事を思い返していた。

 その中には特別に強かった奴も居たのを思い出した。

「とにかくとっとと行くぞ。まあ俺様なら最後の試練だろうが余裕だ余裕」

 ランスはそのまま歩いていくと、スタンプ台の所に来る。

 幸いにもこれまでにモンスターと遭遇する事も無く、この場に辿り着くことが出来た。

「ハニーキング。最後の試練とやらを受けに来たぞ」

 スラルの言葉に合わせる様に、ハニーキングが姿を現す。

「はーにほー! みんな揃ったようだね。じゃあ最後の試練を行うよー」

 ハニーキングの言葉と同時にランス達の周囲の景色が歪む。

「な、なんじゃ?」

 その異様な光景にお町は見開くが、その内周囲が落ち着くとそこは何処までも続く大地がある。

 一面が土に覆われ、周囲には木も草も無い。

 そこには昼も夜も無く、不気味な空に覆われていた。

「昼…では無いな。だが夜でも無い。私の力は問題無く使えるようだが…」

 ケッセルリンクはこの奇妙な空間に眉を顰める。

 幸いにも夜の女王と呼ばれた魔人ケッセルリンクの力は使える。

 だが、それでもこの空気はケッセルリンクですらも嫌な予感を感じずにはいられなかった。

「じゃあランス君…これが本当に最後だよ。でも…絶対に死なないでね」

 ハニーキングはそう言うとその姿が消えていく。

 すると何処からか声が聞こえてくる。

『試練を受けし者よ…最後の試練を受けよ』

 男とも女ともつかない不気味な声…何処かランス達を馬鹿にしたような声にランスは不快な気分になる。

 普段であればその声に何かを言っていただろうが、ランスを持ってしてそんな気分になれなくなるより不気味な存在を感じ取っていた。

「ランス…」

「フン…」

 スラルの声にもランスは警戒心をむき出しにして剣を構えている。

 ここまでの緊張感を味わうのは久しぶり…それこそ魔人と相対した時と同じくらいだ。

 だが、この緊張感はこれまでランスが戦ってきた魔人とは大違いだ。

(うーむ…俺様がここまで警戒するのは、あの時のリーザスの時以来だぞ…)

 この感覚は、リーザス城でカオスを復活させた時の感覚に非常によく似ている。

 そう…あの時に酷似していた。

 ランス達が警戒していると、突如として地響きがする。

 いや、間違いなく地面が揺れている。

「な、何だ!?」

 流石のレイもここまでの存在感には驚愕の声を上げる。

 カミーラですらも、その顔には強い不快感が現れている。

「ま、まさかこいつは…」

 そしてカインだけがその顔に驚愕が浮かんでいる。

 カインはこの存在感に覚えがあった。

 そう、自分はこいつと何度も激戦を繰り広げていたのだから。

 地鳴りはなおも大きくなったかと思うと、ランス達前の地面裂けそこから何かが現れる。

「…な、なんじゃありゃあ!?」

 ソレは非常に不気味な存在だった。

 巨大な触手に女性が生えているとでも言えば良いのだろうか。

 だが、それはランスですらも不気味に感じる異質さを発していた。

 その足は触手と一体化し、手の代わりに不気味なモノが生えている。

 それは髪とも一体化しているようで、ランスはソレを女として見る事が出来なかった。

 それが例え乳房を持っていて、美しい顔を持っていたとしてもだ。

 ソレは白目の部分が黒く、その瞳は血の様に赤い。

 そこから放たれる眼光は途轍もなく無機質で、非常に不気味だ。

「ば、バカな…そんな事あるはずがねえ…」

 ソレの全貌を見てカインは明らかに動揺している。

 カインだけでなく、カミーラとケッセルリンクも目の前の存在が放つ圧倒的なプレッシャーに押されている。

「な、なんだこいつは…!?」

「…まさか」

 カミーラは険しい顔で目の前の存在を睨む。

 直接は見た事は無かった…だがそれは、ドラゴン達が話していた存在に酷似していた。

「おい知ってるのか! 馬鹿ドラゴン!」

「誰が馬鹿ドラゴンだ! だ、だがそんなはずはねえ…あいつは死んだんだ。アベルの奴がトドメを刺したんだよ…!」

 ランスの声にカインも震える声で応えるしかない。

「アベルがトドメと刺した…ではこいつはまさか!」

 スラルもカインの言葉にその正体に思い当たる。

「ああ…そうだ。こいつこそが俺達ドラゴンと6000年にも渡る戦いを繰り広げた存在…魔王ククルククルだ!」


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