ランス再び   作:メケネコ

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魔王少女との出会い…
いや、でも偶然だけどある作者様との被りがね…
本当に偶然なんです!


運命の出会い

「で、そのドジっ子が何でケッセルリンクを治せたんだ? おいケッセルリンク、どうなっとるんだ」

「ランス…私はどうやら魔人として生まれ変わったようだ」

 

ケッセルリンクは立ち上がると真っ直ぐにランスの目を見る。

ここはランスの目から逃れる所ではないと、どこまでも真っ直ぐに。

しかしランスの視線は自分の目を見ておらず、明らかに胸元へ注がれている。

 

「ハァ…ランス、私は真面目に話しているつもりなのだが」

「俺も真面目にお前の恰好を見てるぞ。何がどうなったらそんな衣装に変わるのだ」

 

ランスに指摘され、ケッセルリンクは改めて自分の姿を見るが…

 

「…なんだこれは」

「今まで気づかなかったのか…」

 

普段着ているカラーの服ではなく、胸元が大きく開いた黒いビスチェを着ており、下も何故か白いズボンを穿いている。

そして中々に豪華な上着を着ているが、その着こなしは胸を強調させているようにしか見えない。

以前の自分と同じなのは、ランスと共に手に入れたあの手袋をしている事くらいだろうか。

 

「だが魔人になっただと? この世界に魔人を作れるのは魔王だけだと聞いたぞ」

「いや、だからね…」

 

ランスとケッセルリンクの会話に謎の少女が割り込もうとするが、ランスは気にも留めずにケッセルリンクと話す。

 

「それに今の魔王は美樹ちゃんだろ。魔王なんてどこにもいないぞ」

「…いや、ランス。この少女がな」

「そうだ。我こそが魔王スラルだ」

 

スラルはケッセルリンクに振られて、ようやく自分が魔王だと名乗る。

勿論威厳を出すべく、魔王としての存在感をようやく放つ。

 

「はあ?」

 

ランスは疑いを隠すことなく、魔王と名乗った少女を見る。

ランスの目から見て、何処からどう見ても普通の少女にしか見えなかった。

かつてランスは二人の魔王と出会った事がある…その中でも一番印象に残っているのは、やはり魔王ジルだった。

今でもハッキリと魔王ジルの事は覚えている。

男はともかく、一度やった女性もたまに忘れる事もあるランスにとっても、それだけ魔王ジルは衝撃だった。

一度真正面から戦って勝利してはいるが、あまり会いたい相手ではなかった。

そしてもう一人が先程口に出した、現魔王リトルプリンセスこと来水美樹。

JAPANで出会った時は、一度覚醒しかけたが、ヒラミレモンと小川健太郎のおかげでその覚醒は食い止められた。

あの時の強力なプレッシャーはジル程ではないが、かなりのものだったと思っている。

しかし目の前にいる少女からは、確かに強い力が感じられるが、かつての魔王のような強力なプレッシャーが感じられなかった。

 

「…美樹ちゃんは魔王をやめれたのか?」

「美樹というのが誰かは知らないが、我こそは間違いなく魔王スラルだ」

 

ランスはさらに首を捻るが、そこでアナウサがランスの横腹をつつく。

 

「ランスさん、ランスさん」

「なんだアナウサ」

「彼女が魔王で間違いないと思うよ。現魔王の名前はスラルで合ってるし」

「…うーむ、どういう事だ?」

 

アナウサがそんな嘘を言うはずはないし、ケッセルリンクも現実に死にかけていたのに今は復活している。

確かJAPANの時も健太郎は死にかけていたらしいが、美樹によって魔王の血を与えられ、魔人として復活した時は元気だったと思い出す。

 

「じゃあ本当に魔王なのか…」

「いや、何故お前がこの状況で疑うのかそれが理解出来ない」

 

ランスとスラルがコントのようなやり取りをしている間に、レダは頭をフル回転させていた。

(そうだ…スラル…聞いた事がある…確か歴代魔王の一人にそんな名前が…でも何代目だったっけ)

レダ0774は割と最近になって創られたエンジェルナイトだ。

それ故にこの世界の歴史にもそれ程詳しくないし、何も自分だけが知らないという訳でも無かった。

エンジェルナイトにそんな事を考える必要は無かったし、この世界の歴史にもそれほど興味があった訳では無かった。

だが、ランスに敗れた時に少し人間というものに興味が湧き、この世界の歴史を少しだけ学んだ。

その時にあった歴史の中に、魔王スラルという名前があったような気がしたが、それほど興味も無かったために対して覚えてもいなかった。

 

「ガルティア、メガラス、まさかお前達が失敗するとはな…」

「いや、すまねぇ。言い訳はしねぇよ」

「………」

 

ガルティアは素直に謝り、メガラスはいつもの様に一言も喋らないが、それでも頭を上げない。

スラルは目的こそは果たせたが、それはあくまで結果であって過程では無かった。

本来であれば、スラルは己の意志でケッセルリンクに魔人になって欲しかった。

 

「それはそうと、まずは帰りましょうか」

「お待ちください、スラル様」

 

ケッセルリンクは意を決してスラルに話しかける。

魔人となった今、嫌でも彼女が自分の主である事を理解させられていた。

彼女の命令を拒むことは出来ない…それでもこれだけは言わなければならなかった。

 

「どうかカラーの村だけは…あの村だけは手出しをしないで下さい」

「ケッセルリンク様…」

 

ケッセルリンクは魔人になってもカラーの村の事を案じていた。

自分がいなくなれば、カラーの村は滅んでしまうかもしれない…それが彼女の一番の不安材料だった。

 

「分かった。お前の願いは聞き届けよう」

 

だが、スラルはそんな自分の言葉をあっさりと聞き入れた。

スラル自身、今回の事は自分の想定外の出来事であり、この結果は少々納得いってはいなかった。

ならばその願いくらいは叶えてもいいとさえ考えていた。

それでケッセルリンクが自分の魔人になるのであれば安いものだとも。

 

「ありがとうございます。スラル様」

 

ケッセルリンクは心から安堵する。

色々とあったが、これでカラーは魔物の脅威から逃れる事が出来ると思った。

自分は魔人になってしまったが、それでも女王やそれを補佐する皆が居ればカラーは滅ぶことは無い。

(そしてランスとレダも…この二人が居れば大丈夫だろう)

ケッセルリンクがそう思った時、

 

「じゃあガルティア、メガラス、ケッセルリンク。その二人を捕えなさい」

「おう」

「………」

「はっ」

「はっ?」

「えっ?」

 

スラルの言葉にランスとレダはあっさりと捕らわれる。

ランスはケッセルリンクに体を掴まれ、レダはガルティアの腹から出た糸に体を巻きつけられている。

 

「抵抗はしてくれるなよ。いくらお前でもこれだけの魔人には勝てないだろう」

「そっちも動いてくれるなよ。これ以上腹が減るのはごめんだからな」

「ってケッセルリンク! どういうつもりだ!」

 

ランスは怒鳴るが、思った以上に強いケッセルリンクの力に体が動かない。

魔人となった事で、彼女の身体能力はランスすらも上回るものになっていた。

(体にあたる胸は役得だが、動くことが出来んぞ…)

 

「さて帰りましょ」

 

その言葉にアナウサを除いた全ての存在がその場から消える。

 

「あ、忘れてた。これ私が貰ったから。それと掃除もね」

 

スラルはアナウサが持ち帰った壷を態々見せに戻ったようだ。

そして、スラルが腕を振るうと、それだけであの巨大なティラノサウルスの死体が消える。

今度こそ魔王の姿が消えた時、そこには呆然と立ち尽くしたアナウサが一人残されていた。

 

 

魔王城、それはこの世界最強である存在である魔王が住まう城。

魔王スラルは目の前に跪いているケッセルリンクの姿に一先ずは満足していた。

 

「スラル様…私の願いを聞いて頂きありがとうございます」

「気にする必要はない…それでお前が我に仕えるというのであれば安いものだ」

 

少し過程が変わってしまったが、目的の存在が自分の魔人になった事を考えればカラーに手を出さないなど楽なことだ。

魔王である自分ならば魔物に命令する事など容易い事だ。

 

「…それでランス達は」

「一室に案内してる。部屋からは出られないが、そこまで不自由は無いだろう」

 

人間に対しては破格の対応をさせている。

あの二人はケッセルリンク同様に自分の魔人候補…ならば粗末に扱うなどあってはならないだろう。

無理矢理相手を魔人にしてしまう事も出来たが、スラルが欲しいのは魔王として自分に仕えてくれるのではなく、自らの意志で自分に仕えてくれる存在だ。

ケッセルリンクはそれを聞いてあからさまに安堵している事にスラルは気づく。

 

「気になるか?」

「…はい。あの男はカラーにとっては恩人ですから」

 

ケッセルリンクの言葉にスラルは納得する。

あの男は魔人すらも倒して見せた男だ。

カラーにとってはまさに英雄と言っても良いだろうし、スラル自身もあの人間の強さを認めている。

 

「会いたければ会っても構わない」

「ありがとうございます」

 

スラルは動作で『下がっていい』と言っていた。

ケッセルリンクはその言葉に従い、その場を去る。

 

「…やっぱりいい逸材ね」

 

スラルは自分の目が確かだった事に満足していた。

ケッセルリンクは魔人となっても、その心根は全く変わっていない。

何よりスラルが気に入ったのは、ティラノサウルスと戦っていた時に、自分の身を顧みず仲間のカラーを救った事。

魔人となるとその力に溺れたり、破壊衝動にのまれる存在もいるが、彼女はほとんど変わっていないように見えた。

魔人になった以上、体質の変化もあるかもしれないが、彼女ならば問題は無いだろうと思っている。

 

「ケイブリスを呼びなさい」

 

 

 

「な、何でしょうか、魔王様…」

 

相変わらずケイブリスは下手に出て跪いている。

この魔人は最古の存在にも関わらず、今現在の魔人の中では最も弱い存在だ。

少々卑屈すぎるとも思ってはいるが、スラルもあえてそこまでは踏み込まない。

それに彼は真っ先に自分に忠誠を誓ってきた存在であり、自分に逆らうという考えも微塵も感じられない。

だからこそ、スラルはケイブリスに自分の宝物庫の管理を任せていた。

万が一にも魔王の宝を持ち出すという事は無いし、自分には完全に忠実な存在だからだ。

(ただもうちょっと堂々としてもいいと思うんだけどね…)

弱肉強食、強さが全てのモンスターの世界では無理は無いとは思うが、スラルは別にそんな事では区別はする気は無かった。

ケイブリスの知っていた事はスラルにとっても非常に興味深い話だったし、そのおかげで4つの黄金像を集める事が出来た。

 

「これを仕舞っておきなさい」

 

スラルが取り出したのは、一つの壷だった。

カラーの宝物庫から持ち出したが、何か特別な力を感じたが故に持ち出した。

 

「は、はい…」

 

ケイブリスはその壷を受け取ると、一目散に走り去っていく。

ケイブリスにとっては魔王は力の象徴であると同時に、恐怖の象徴でもあった。

それ故に真っ先に忠誠を誓い、なるべく安全な所で時間をかけてゆっくりと強くなっていく算段だった。

 

「はぁ…俺様もいつまでこんな小間使いみたいな事をしなけりゃならねぇんだ…」

 

この状況に不満は持ってはいるが、同時に安全な状況を整えてくれた事に感謝もしていた。

無敵結界、それはケイブリスが正に望んでいたもので、これでようやくケイブリスは安心して遠出が出来るようになった。

ただし同じ魔人相手には意味がないため、今でも立場は低いのだが。

こうして宝物庫の管理という仕事を真っ先に引き受けたのは、この仕事が最も安全だからだ。

魔王相手に盗みを働くような奴はいないし、ケイブリスにとってもこの仕事は自分のためになると考えていたからだ。

この世界にはいつの間にか『バランスブレイカー』と呼ばれる凄い力を持ったアイテムが存在するようになった。

それはケイブリスにとっても驚きであり、魔王が収集するのも理解出来る程だった。

中には自分の脅威になるであろうアイテムも存在するため、それらを覚えておくことはケイブリスにとっても悪い事ではなかった。

臆病ではあるが、それ故に自分の脅威を徹底的に遠ざけ、また知る必要があると考えていた。

 

「これは…ここでいいか」

 

魔王から預かった壷をケイブリスは棚に仕舞う。

見れば見るほど奇妙な壷だとは思ったが、あの魔王が持ち帰った物ならば必ず何か意味があるとケイブリスは考えている。

 

「しかし結構たまってきたなぁ…」

 

モンスターの中には金銀財宝を収集する奴も存在するが、魔王スラルもまた妙な収集癖があるものだとある意味感心してしまう。

宝物庫とは言うが、実際にはスラルが自分の気に入った物、気になった物を仕舞っておく倉庫のようなものだ。

そのアイテムをスラルは調べているらしいが、内容はケイブリスも知らなかった。

出来れば知りたかったが、魔王に聞く事は流石に出来なかった。

極稀に教えてくれる事もあったが、大抵は人間用だったりするので、ケイブリスも安堵していたものだった。

 

「これは拡張してもらわないと駄目だよな…」

 

ここが広くなると仕事が増えて自分の成長の時間も取られてしまうが、今はそれ以上に自分の身の安全を確保する方が大事だ。

もう少し時間がたてば、必ず自分は強くなる…そうすればもっと自分のための時間が取れるはずだと、ケイブリスは考えていた。

 

「今更焦る必要はねぇ…2000年以上待ったんだ、ならまだまだ待てる」

 

あのククルククルの時代に比べればこの時代はまさに天国だ。

自分の脅威となるのは今は同じ魔人しかいない…そして魔王に忠誠を誓えばある程度は安全も確保できる。

そしてケイブリスのもう一つの目的…

(カ、カ、カ、カミーラさん…)

魔王アベルに魔人にされたドラゴンの魔人…彼女こそがケイブリスの憧れだ。

強さもそうだが、やはりその美しさ…ケイブリスはいつか彼女に告白し、見初められたいという願望を持っていた。

そのためには今は全てが耐える時だと思い、ケイブリスは倉庫の整理を始めた。

 

 

魔王スラルはランスが持っていた剣を見ていた。

本来スラルが見つけた武器は、インテリジェンスソードであるペルシオンと呼ばれる剣だった。

しかしスラルの予想に反して、ランスは違う剣を手に入れていた

 

「…これは凄いわね」

 

ランスが持っていた黒い剣、それは魔王であるスラルですら驚愕させていた。

あのオウゴンダマの魔人、そしてティラノラウルスの変異種すらも斬って見せていたいたので、並みの剣では無いとは思っていたが、どうやらそれ以上の何かがこの剣にはあるらしい。

ペルシオンが稀代の名剣ならば、この剣は間違いなくバランスブレイカーに当たる剣だ。

何よりも異質なのは、その剣の柄に嵌められている丸い球だろう。

魔王だからこそ感じる事が出来る異質な何かがこの剣にはあった。

詳しく調べたいが、何故かこの剣には魔力が上手く伝わらない。

 

「何かを封じ込む…いや、取り込むといった方が近いか…」

 

何にせよこの剣にはまだ自分の知らない何かがある、と確信していた。

(私の想像とは違う手段でこの剣を手に入れた…魔人に無敵結界を張らせなかった事といい、あの男には我の想像以上の何かがあるのか…)

人間というのは弱く愚かな存在だが、その中にはまるで突然変異のように強い人間が生まれる。

自分が魔人にしたガルティアもそうだし、これまでにも中々の強さを持つ人間というのは存在はしていた。

あの男もガルティア同様の強さを持っているが、それでも何かが違う異質さを感じさせられていた。

 

「剣の事は後でも良いか…それよりも今はあの二人だな」

 

あの二人ならば優秀な魔人となる、スラルはそう確信していた。

特にメガラスにフォースを使わせたランス…この男は特に魔人に己の魔人にしたかった。

スラルはランスとレダを捕らえている部屋に向けて歩き出した。

 

 

 

「うーむ…なんか前にも同じ事を言った気がするが、どういう事だ?」

 

魔王に捕らわれた二人は、以外にも牢に入れられるのではなく、普通の部屋の一室に入れられていた。

武器や防具等のアイテムは取られてしまったが、鎖に繋がれる等という事は無く、逆に拍子抜けした位だ。

 

「魔王が美樹ちゃんじゃないとは…」

 

ランスにとって一番不可解なのは、魔王と名乗る少女の事だった。

確かに美樹は覚醒していないからか、魔王としての威厳は無かったし、その力はまさに制御不能といった感じだった。

しかしあの魔王は確かにジル程の恐ろしいプレッシャーは無いが、確かに魔王と言われれば納得できるほどの力を感じた。

何よりもあれほどの大怪我をおったケッセルリンクを助けたあの力…魔人となったと言われれば納得もいく。

一方のレダはこの状況に頭を悩ませていた。

(確か魔王スラルってリトルプリンセスよりも前の魔王だった…と、いうことはまさか私達は過去の世界に飛ばされた?)

だとしたらとんでもない事が起きている。

過去の世界に行くなど聞いた事も無かった。

確かに、時の聖女の子モンスターであるセラクロラス本人ならば出来るだろうが、他者と共に移動するなどという事が出来るのかは疑問だ。

そして気になったのは、セラクロラスとはまた違う力が働いたような気がした事だ。

もしここが過去ならば、自分が天界に帰れないのも納得がいってしまう。

自分はGI期に作られた天使であるため、過去には存在していないために戻る事が出来ないのだろう。

(…これって実は凄いまずいんじゃ)

レダが恐れたのは過去を変えてしまう時により、この先の未来を大幅に変えてしまう事だった。

もしそうなれば最後、その全てが消滅させられてしまうかもしれないからだ。

(それを防ぐためには何もしない事だけど…ランスが動かないなんて事はありえないわね)

珍しく考え事をしているランスを見て、レダもため息をつく。

悪魔すら利用して自分やケッセルリンクとHするような奴だ。

もしここが過去だと分かってもお構い無しに行動するだろう…すると消滅させられてしまう可能性も有る。

(いや、でもイレギュラーである私達が消される気配は無い…だとすると)

ここでレダは一つの可能性に思い当たる。

(女神ALICE様は未来を見通す力があると聞く…ならばこれこそがその未来なのでは?)

もちろんこれはレダの勘違いなのだが、今のレダにはそれしか考えが浮かばなかった。

(だとすれば女神ALICE様が、エンジェルナイトである自分を一介の人間を守るように指示したのも納得がいく)

これまた勘違いなのだが、1級神直々の指示となれば、何か大きな出来事なのだろうと勝手に納得していた。

ならば自分はランスを守っていくだけだと改めて意思を固めていたとき、

 

「ひゃん!」

 

誰かが自分の胸をぐにぐにと揉んでいた。

 

「いつまで無視しとるんだ」

「か、考え事をしてただけよ! というかいきなり胸を揉むな!」

 

レダは顔を真っ赤に染めてランスの腕を引き剥がす。

 

「というかあんたも考え事してたでしょ!」

「考えても分からん事を考える意味は無いだろ」

 

ランスはこれ以上考えるのをやめていた。

考えても答えは出ないし、それならばこの状況をどうにかする方が先決だと考えたからだ。

 

「あんたね…少しは真面目に今の状況を考えなさいよ。魔王に捕らわれてるのよ、魔王に」

 

レダもそう口にして改めて今の状況を思い知らされる。

相手は魔王、いくらランスが強いといっても絶対に勝てる訳が無い存在だ。

 

「って人が真面目な話してるのに何やってるのよあんたは!」

 

ランスは何時の間にか全裸になっており、そのハイパー兵器は既に天を向いていた。

 

「特に出来る事が無いからな。だったらSEX!」

「威張るな! どういう頭してるのよあんたは!」

「がはははは! 男と女がいてベッドが有るならばやる事は一つだ!」

「いや、その考えはおかしい」

 

ここでランスはある事を思い出す。

廃棄迷宮から帰った後、アナウサに言われた一言。

 

『レダさんって絶対ランスさんの事嫌いじゃないですよ。あの時ケッセルリンクさまにしたように迫れば絶対上手くいきますって』

 

ランスも今までの事を考え、アナウサの言う事を信じてみることにする。

だからこそ、いきなりキスをされた時レダはビクリと体を震わせ、抵抗が少なくなる。

(あの時はじっくりやったからこそいい結果になったからな…あの時のケッセルリンクのようにすればレダも俺様にメロメロになるはずだ)

ケッセルリンクには優しくしたが、その反動でレダには少々強引なプレイになってしまった。

だからこそその反省を活かし、レダも自分に惚れさせようと決意する。

 

「むぐっ…ランス…こんな状況でお前は何を…」

 

ベッドに押さえつけられたレダは、顔を赤くしてランスを見る。

こんな状況で何をやっているのか、他にやる事があるだろうとは思ったが、ランスにこうして押さえつけられるとどうしても抵抗が難しくなってしまう。

 

「動くな、レダ」

「うっ…」

 

ランスの表情は何故か真剣そのものだ。

その表情を見ると自然に抵抗が無くなってしまう。

(…普通にしてくれたらいいのに…って私は何を…)

以前から少し思っていた事が、『ランスが普通にしてくれれば…』という思いだった。

ランスはあっさりとレダの服を脱がすと、そのまま唇を重ねてくる。

 

「ん…」

 

レダはとうとう完全に力を抜く。

こんな状況にも関わらず、レダはランスを受け入れてしまう。

そして夜は更けていく…

 

 

 

「カミーラ様…」

 

魔王の城からそう離れていない所にカミーラの居城は存在した。

カミーラは自分用に作られた椅子に体を預け、自分の使徒である七星の報告を聞いていた。

七星が主であるカミーラに報告する時は、カミーラの興味を引くか、重大な出来事があった時だ。

 

「魔王スラル様が新たな魔人をお作りになられました」

 

七星の報告にカミーラが七星の方を見る。

もし興味が無ければカミーラは使徒の方を見もしないだろう。

反応があったという事は主も興味を持ったという事だろうと、七星は安堵する。

 

「あのスラルが…か」

 

魔人カミーラは魔王アベルに魔人にされた存在だ。

ただし無理矢理に、という言葉が頭につくが。

そしてそのカミーラを巡って魔王アベルとドラゴンの王、マギーホアとの間にラストウォーが勃発した。

元々カミーラは最後のドラゴンの雌として、無理矢理性行をさせられ、出産を強要されてきた。

多感な時期を争いの対象として翻弄されてきたカミーラの心は大きく歪み、心を閉ざし、強く、冷たい精神を育てていった。

その結果が今の魔人カミーラを形成した。

その後の大破壊の後に、新たな存在として『人間』と呼ばれるものが現れた。

そして新たな魔王が人間の中から生まれ、それはスラルと名乗った。

美しい少女である故、カミーラはスラルの事をあまり好ましく思っていなかった。

 

「はい。カラーの魔人のようです」

「カラー、か…」

 

カラーは全てが美しい女性であり、自分としては気に食わない存在だ。

だからといって滅ぼしてしまうほど気に留めている訳でもない、そんな存在。

 

「そして新たに二人の人間を捕えたと」

 

その報告にカミーラは七星に続きを促す。

七星は主が興味を覚えた事に嬉しく思いながら、

 

「その人間の一人は、メガラス様に『フォース』を使わせたとの事です」

「ほぅ…メガラスがな…」

 

メガラスはある意味自分と一番付き合いの長い魔人だ。

その実力はカミーラも知っており、自分は負けないだろうが勝つ事も難しいとさえ思っている存在。

メガラスが『フォース』を使ったという事は、本気を出したという事だ。

人間は愚かで、脆く、弱い存在…それこそ魔人が人間に本気を出す事など本来はあり得ぬことだ。

 

「いかがいたしましょうか、カミーラ様」

 

カミーラは少し考える。

この間、戯れにティラノサウルスの魔人と戦ったが、それなりに楽しめた。

狩りのためとはいえ、無敵結界を解除してまで楽しめた相手だった。

それからは若干退屈な日々だったが、こうして新たな変化が起きるというのもまた一興だと思った。

 

「七星…準備をしろ。その人間とやらを見に行く」

「はっ…」

 

七星は主の言葉に恭しく頭を垂れる。

己の主人が何かに興味を持つというのは珍しい事だが、それはカミーラの退屈を解消できる手段の一つでもあった。

七星の役目は主人を喜ばせる事…それはどんな事であろうと変わらない。

例えそれが新たな魔人の候補だったとしても、カミーラが全てなのだ。

こうして歴史の歯車は少しずつ噛合わなくなっていく。

新たな出会いが再び世界を少しずつ変えていく。

それがどんな未来かは、まだ誰も知る由もない。

 

 




何故か魔人達のシーンが筆が進む謎
オリ要素が強いからかなぁ…

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