「タイムって言って本当に待ってくれるなんて…随分律儀だな」
「ククルククルと意思疎通出来た奴なんて聞いた事が無いぞ。丸いものだから喋れる訳でもねーしよ」
スラルの言葉にカインも頷く。
かつて戦いを繰り広げた相手なので、止めろと言っても止める訳が無い、それは当然だ。
しかし実際に今ククルククルは動いていない。
ただ、こちらをジッと見ているだけだ―――主にランスを。
「でもランス。作戦なんかあるの?」
「うーむ…」
レンの言葉にランスは考える。
何しろランスとしても適当にタイムと言っただけで、まさか本当にククルククルが待つとは思ってもいなかった。
ランスは一度ククルククルを見るが、その女性の顔からは何の感情も読み取る事が出来ない。
「一つ良いだろうか」
「どうした、ケッセルリンク」
ケッセルリンクはランスをじっと見る。
「…危険かもしれんが、ランスを囮にするのはどうだろうか」
「………何だと!?」
その言葉にカミーラ以外の誰もがランスの方を見る。
「おいケッセルリンク! お前どういうつもりだ」
「落ち着け。お前の言いたい事は分かる。だが、ククルククルは明らかにお前を意識している。ならば、お前が囮になるべきだ。何故ならお前ならそうするからだ」
「成程、それも道理だな」
ケッセルリンクの言葉に誰もが頷く。
「納得できーん! 何故俺様がそんな事をしなければならんのだ! それに俺様が死んだら終わりだろうが!」
「大丈夫だ。お前は死なない」
激昂するランスにケッセルリンクが微笑む。
「私がお前の盾になる。だからお前は全力で戦え」
「ケッセルリンク様!?」
ケッセルリンクの言葉にバーバラが悲鳴に近い声を上げる。
「そんなケッセルリンク様! ケッセルリンク様がそんな事をする必要はありません! ここは私が…」
「いや、これは私にしか出来ない事だ。カミーラが戦っている以上、私は大した攻撃が出来ない。それならば、私がランスを守るべきだ。いや、私にしか出来ない事だ」
ケッセルリンクの強い決意を秘めた言葉に、レンが不満そうにする。
「ちょっと。ランスを守るのは私の仕事よ。私の方が上手くランスを守る事が出来るわよ」
「その通りだ…だが、それでも私が言いだした事だ。ならば私がその責を全うするべきだ」
その言葉にレンは複雑な顔をするが、最後にはため息をつく。
「分かったわよ。でも、絶対死なせるんじゃ無いわよ」
「ああ。分かっているさ」
「ちょっと待てー! お前ら俺様を無視してなに盛り上がってやがる! 大体いつ俺様が囮になると言った! そういうのはここにいるオカマ野郎にでもやらせておけ!」
「えええええーーーー!? ボク!?」
ランスに指を刺されたラインコックは全力で首を横に振る。
「お前もカミーラの使徒だろうが! だったらそれくらい役に立て!」
「ちょ! ムリムリムリムリ! ボクは確かにカミーラ様の使徒だけど、あんなバケモノ相手にするなんて出来ないから!」
ラインコックはククルククルを見上げてから、涙目になって抗議する。
実際に、ラインコック程度ではククルククルの攻撃に耐える事など不可能だ。
「ランス殿、それは止めた方が良いかと。もしラインコックに何かあれば、カミーラ様が黙っていません」
「だったら何でこいつはここに居やがる。役立たずにも程があるぞ」
「うーーーー…七星! こいつ凄い失礼な事を言ってるよ!」
「ラインコック。事実お前はこの戦いにおいては役に立たないだろう。怪我をしないように大人しくしてなさい」
「がーーーーーーん!」
七星に断言され、ラインコックはショックを受けた表情で地面で倒れる。
「さて、ラインコックの事はいいでしょう。それよりも、ランス殿を囮とする事ですが…」
「ちょっと待て。俺様が囮になる事を決定事項にするな」
「我は賛成だ。というよりも、狙いを一点に集中しない限りは攻撃を加えるのも難しい。それにククルククルは間違いなくランスに意識を向けている。我等がククルククルに対抗するにはそれしかない」
「そんなのカミーラとケッセルリンクに任せれば良いだろ」
「無理だろうな。あくまでもククルククルの狙いはランスなのだ。そもそも相手は優先的にお前を狙って来ると思うぞ」
スラルの言葉にランスは当然ながら不満を持っている。
だが、スラルの言う通り、こればっかりはランスにもどうする事も出来ない。
(ゼスの時のカミーラもあんな感じだったな)
ゼスでの戦いでも、最後の最後でカミーラはランスとそのおまけのシィルを暗がりに引きずり込んできた。
その後でランスは自分達を助けに来ようとしてた皆を制し、カミーラと決着をつけた。
今まさにそれと似たような状況にはなっている。
「ランス。私がお前を全力で守る。だから…頼む」
「………うぐぐ」
自分の女にそう言われるとランスは意外と弱い。
それにランスとしてもそれしか方法が無いのではないかと思い始めていた。
それだけ相手は強い、それはランスもその肌で感じ取っていた。
「だー! 分かった! その代り一晩中お前を好きにさせて貰うぞ! いいな!」
「ああ。それくらい構わないさ」
「俺様の好きにさせて貰うからな。拒否はさせんぞ」
「勿論だ」
ケッセルリンクが躊躇わずに頷くのを見て、ランスは少し顔を和らげる。
何時ものように、ランスは女が関わればそれだけで上機嫌になる。
そんなランスを見て、
(単純…)
(まあランスさんですしね)
バーバラはもの凄い単純なランスを見てため息をつき、エルシールは普段のランスだと逆に安心する。
「じゃあ単純ながらも作戦を立てるとするか」
スラルはそう言って魔法使い達に色々と指示をする。
そんなスラル達の輪から離れ、ランスはククルククルを見る。
改めて見ればちょっと異形だが、いい女には見える。
(ちょっと変わった女の子モンスター…いや、無いな)
だが、その触手を見るとやっぱりそういう気にはならない。
「話は終わったか」
ククルククルを見ているランスの横にカミーラがやってくる。
カミーラはランスの隣に立ち、ランスと同じ様にククルククルを見ている。
(まあこいつの事だから、作戦何て聞きやしないか)
「フン、俺様を囮に使うとはとんでもない奴等だ」
「ケッセルリンクも中々面白い事を言う」
ランスの言葉にカミーラは薄く笑う。
「笑い事じゃ無いぞ。大体ここで俺様が死んだらお前だって俺様を使徒に出来ないだろうが」
「クク…かつて魔王に挑んだお前が面白い事を言う」
カミーラは愉快そうに笑う。
そんなカミーラを見てランスは半眼でカミーラを睨む。
「お前、珍しく乗り気だな。何かあったか」
何となくだが、ランスはカミーラがこの状況を楽しんでいると感じている。
自分と戦う時もそうだが、こんなにやる気があるカミーラを見るのは初めてな気がする。
「ククルククルは…ドラゴンが長い年月をかけて倒した魔王だ。そのククルククルに止めを刺したドラゴンがアベル…このカミーラを拐い、無価値な存在としたのがな」
ドラゴンの王冠と呼ばれながらも、実際にはただの子を産むための道具に近かった。
その状況はアベルによって終わりを告げたが、それは決してカミーラが望んだ事では無い。
むしろ、そうなる事でカミーラがより一層歪むきっかけを作ってしまった。
「お前を無価値と考えるドラゴンがアホなんだ。気にしなくてもいいだろ」
「フン…あくまでも私を女と見るか…ただの人間が私をそう見るのであれば殺している所だが…今更か」
カミーラはランスの言葉に苦笑する。
既に体も許しているのだから、ランスがカミーラを女扱いするのは当然の事だ。
そんなカミーラを見て、ランスはやっぱりカミーラが変わった奴だと思った。
「ランス! 準備はいいか」
「決まったのか」
スラルがカミーラと逆側の位置に並び立つ。
「フン…何やら言っていたようだが、私の邪魔はするなよ」
「最初からお前に協力は期待していない。お前は好きにやらせるのが一番だ」
カミーラの言葉にスラルは辛辣に言葉を返す。
その様子にカミーラは不機嫌になるどころか、逆に笑みを浮かべる。
「ククク…今の貴様の物言い、魔王の時にもしてこなかった事だ。だが、そっちの方が分かりやすい」
カミーラはそのまま宙に浮かぶと同時に、ククルククルも動き始めた。
そのまま真正面からランスへと向かって来る。
そしてその腕の触手が唸ったかと思うと、そのままランスに向かって突っ込んでくる。
「とーーーーーーっ!」
ランスはその動きを避けると、そのままククルククルの体を支えている触手を斬りつける。
ランスの剣はククルククルの触手を中ほどまで切裂くが、そこでランスの剣が止まる。
「げっ!?」
ククルククルが硬いというのもあるが、そのあまりの再生速度にランスの剣が途中で埋まってしまったのだ。
「ランス!」
そこにククルククルの触手が襲い掛かって来たかと思うと、ランスの体はそのまま誰かに引っ張られる。
「まさかお前の剣でも両断出来ないとはな…」
ランスも本能で剣を手から放したので、ククルククルの体にランスの剣が突き刺さっている。
実際にはそれがククルククルを切裂こうとした結果だと言っても、誰も信じないだろう。
その再生速度にはケッセルリンクも戦慄する。
再生能力には自信がある自分すらも凌駕している。
そのままククルククルの触手はランスを狙うが、ケッセルリンクはそれを全てランスを抱えたまま避けて見せる。
「おい、下ろせ!」
「ああ、分かった」
ケッセルリンクはランスを下ろすと、そのままランスの前に立つ。
「来い!」
ランスが自分の剣を呼ぶと、ククルククルに刺さっていた剣がランスの手元に戻っていく。
その様子にククルククルは一瞬首を傾げるような仕草をするが、そんなククルククルにカミーラの放ったブレスが襲い掛かる。
ブレスはククルククルの巨体を包むが、その炎の中からククルククルは姿を現し、その巨体を持ってランスに襲い掛かる。
「させるかよ!」
そこにカインが強烈なタックルを決める。
ドラゴンの巨体から放たれた一撃は強力で、流石のククルククルも吹き飛ばされる―――かと思われた。
しかしその強靭な太い触手はまるで鞭のようにしなったかと思うと、何とカインの巨体をそのまま受け流した。
「よおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」
勢い余ったカインはそのまま自身の力であさっての方向へ飛んでいく。
「何やってんだあいつは!?」
「そうじゃないな。ランス、目の前の存在は単純な生命体では無い。間違いなく戦いのための知恵を持っている存在だ」
ランスとケッセルリンクの言葉に呼応するように、ククルククルが触手を伸ばす。
だが、伸ばした先はランス達にでは無く、地面だ。
その行為にランスとケッセルリンクは困惑するが、その意図は直ぐに理解出来た。
地面から音がしたかと思うと、ケッセルリンクはランスを突き飛ばした。
そしてランス達が立っていた所から触手が伸びて来て、それはまるで鳥籠の様にケッセルリンクを包もうとする。
「ケッセルリンク!」
「行け! ランス!」
ケッセルリンクの言葉にランスは躊躇わずにククルククルへと向かって行く。
そして触手がケッセルリンクを包もうとした時、ケッセルリンクの姿が闇へと消えていく。
ケッセルリンクの闇は触手の網を通過すると、その闇が再びケッセルリンクの形になる。
「くっ…」
闇から元に戻ったケッセルリンクは唇を噛みしめる。
ケッセルリンクの闇もそう都合よく相手の全ての攻撃を無効化出来る訳では無い。
流石に魔王の攻撃は格別で、何とか闇と化してやりすごしたつもりでも、ケッセルリンクの体に確実にダメージを与えていた。
だが、それでも魔人四天王ケッセルリンクは別格だった。
幸いにもこのダンジョンではケッセルリンクは全力を出す事が出来る。
つまり、空は晴れているように見えるが、ケッセルリンクにとっては夜と同じ時間帯なのだ。
ケッセルリンクは直ぐに前を向いてランスの姿を捉える。
その背中を見て、ケッセルリンクは柄にも無く昔を思い出してしまう。
(そうだ。あの時も、私達はランスの背中を追っていたのだったな…)
自分がまだカラーだった頃、ランスとレンの背中を追いかける形でランスについていった。
その頃はまだアナウサも、メカクレも共に居た。
いつからか、自分がランスの前に立つようになっていた。
懐かしい出来事にケッセルリンクの顔には笑みが出て来るが、それも一瞬。
直ぐに戦士の顔に戻ると、ランスの後を追う。
ランスはククルククルの触手を驚異的な勘、そして剣戦闘LV3の技能をフルに使って弾く。
ククルククルがランスに意識が向いているので、カミーラのブレスがククルククルに直撃する。
しかし、ククルククルはまるでダメージを受けていないかのようにランスに触手を向ける。
「だーーーーーーっ! キリが無いぞ!」
威勢よく触手を切り払っていたランスだが、ククルククルの触手は正に無限に湧いてくると言ってもいい程だ。
そしてランスが触手に意識を奪われている内に、ククルククルの触手の先端の女性の部分がランスに近づく。
「ランス!」
そこにケッセルリンクが追いつき、ランスと同じ様にその剣で触手を弾く。
(向かって来るなら話は早い…何としても機会を見つけなくては)
ククルククルの体が近づい来るのを見て、ケッセルリンクはランスの前に立つ。
するとククルククルの触手はケッセルリンクへと向かって来る。
勿論ケッセルリンクはそれは承知の上で、その触手を全て迎え撃つ。
一部は魔法バリアで、一部は剣で斬り払うが、それでもククルククルの触手全てを防ぐことは出来ない。
「グッ!」
ククルククルの触手がケッセルリンクの肩を貫く。
「ケッセルリンク!」
「構うな! 行け!」
ケッセルリンクはそれでも向かって来る触手に対して剣を振るう。
それを見てランスはククルククルに近づいていく。
ククルククルもまたランスに近づき、ついに人間と魔王は相対する。
「ラーンスアターーーーーーーック!」
ランスは何時もの様に跳び上がると、必殺の一撃をククルククルに叩き込む。
何故かククルククルはそれを避ける事もせずに、ランスの真正面に立つ。
「とーーーーーーーっ!」
そしてランスの一撃がククルククルの肩口から縦に体を切裂く。
ククルククルから血が吹き出し、一瞬だがククルククルの体が震える。
反す刃でランスの一撃が再びククルククルの体を抉るが、それでもククルククル相手では致命傷にはならない。
ケッセルリンクがランスの一撃がククルククルに傷をつける所を見ていた。
(…何?)
そしてケッセルリンクはその時のククルククルの表情に驚く。
(私の見間違いか…?)
それはケッセルリンクすらも目を疑う光景。
あのククルククルが笑ったように見えたのだ。
それはナイチサやジルの冷笑とは違う、何か興味深いものを見つけたかのような笑み。
そう、楽しい物を見つけたかのような純粋な笑みに見えたからだ。
「ランス、左だ! 避けろ!」
ケッセルリンクの言葉にランスは左を向く。
「げっ!?」
ランスに迫って来るのはククルククルの先端を支える巨大な触手だ。
それが鞭のようにしなりながらランスに向かって来る。
ランスは何とか避けようと考えるが、
「うぎゃーーーーー! 避けられるかこんなもん!」
何しろククルククルの体を支える触手は人間の体と同じくらい太い。
それが凄まじい速度で襲ってくるのだ、そんなのは避ける事が不可能だ。
「ランス!」
だが、それでもランスはやはりランスだ。
レンが空からランスの肩を掴むと、そのまま上空へと上がっていく。
そしてククルククルの触手は空を切るが、その先端部分はぶれずにランスの事を見ていた。
その口が開いたかと思うと、
「!!!!」
凄まじい衝撃波がククルククルの口から放たれる。
それは大気を震わせ、まるで魔法の一撃を受けたかのように、ランスとレンの体を吹き飛ばす。
「っくうう!」
レンは何とか空中で姿勢を整えようとするが、やはりランスと一緒ではそれは難しい。
地面に叩きつけられようとした時、
「フッ!」
そんなレンの体をエドワウとレイが支える。
「あら…」
それにはレンも驚くが、
「まだだぜ! 来るぞ!」
その声とともに全員がその場から離れる。
ククルククルの口から光線が放たれ、ランス達が居た大地を焼く。
ランスは姿勢を何とか整えると、やはり真っ直ぐにククルククルに向かって行く。
ククルククルがランス達に光線を放ったと同時に、スラル達の魔法がククルククルに直撃し、カミーラとカインもククルククルに襲い掛かる。
しかし、ククルククルはやはりバケモノだった。
スラル達に魔法など意にも介さずにその触手でカミーラとカインを止める。
触手は固いはずのドラゴンの体をも貫き、カミーラとカインはその衝撃に血を吐き出す。
そのまま触手でカミーラの体を掴むと、地面に勢いよく叩き付けようとする。
「カミーラ様!」
ドラゴン体になった七星がその触手を何とか噛み砕き、カミーラは難を逃れる。
ククルククルはそんなカミーラ達を無視して、スラル達を見ていた。
「効果が無いか…! やはりレーザークラスでは大した足止めにもならんか…」
自分の放ったスノーレーザーや、エルシールとバーバラが放った魔法もククルククルにはあまり効果は無かった。
「魔法陣の効果で威力は上がっているはずなのですが…」
「それでもククルククルに対しては焼け石に水という事だろう。生命体としての次元が違うと言う事だ」
分かってはいたが、やはりククルククルは強い…いや、強すぎる。
これで1本の触手でしか無いというのだから、本体は一体どれだけの強さを持っていたというのか。
(これが2000年間魔王であった存在か。我とは強さの桁が違う)
まさに最強の存在だという事を嫌という程思い知らされる。
「次々に打ち込むしかないですね」
「それしかありませんよね」
エルシールとバーバラは再び詠唱に入る。
その二人を守る様に、シャロンとエドワウが前に立つ。
加奈代はその後ろに控え、パレロアはお町を守っている。
スラルも次の魔法の詠唱に入ろうとした時、ククルククルがこちらを見ているのに気づく。
その時、スラルの背中が異常なまでに寒くなる。
それはスラルの本能からくる警鐘と言っても良かった。
ククルククルの口元が動いた時、スラルは反射的に口走った。
「皆、散るんだ!」
突然のスラルの言葉に皆は急には反応出来ない。
そしてククルククルの口元が動くと、突如としてスラル達の居る所が爆発する。
「ぐああああああああっ!?」
「「「「きゃーーーーーー!!」」」」
突如としてスラル達の足元で爆発が起きる。
その一撃でエドワウだけでなく、シャロンもエルシールもバーバラも加奈代も吹き飛ばされる。
それもただ吹き飛ばされたのではなく、皆揃って大きな火傷を負っている。
「まさか…魔法だと!? しかも火爆破でこれか!?」
スラルだけは何とか事前に詠唱を変えていたため、魔法バリアで防いでいた。
しかし被害は甚大で、吹き飛ばされた皆は気絶したのか動けていない。
「レン! こっちを頼む! 治療を急いでくれ!」
スラルの言葉にランスの側に居たレンがこちらに来る。
「何が起きたのよ!」
「魔法だ! ククルククルが魔法を使ってきた! ただの火爆破でこれだ!」
ククルククルが使ってきたのは間違いなく火爆破だ。
(詠唱をしている様子は無かった…! いや、我々とは言語が違うのか!)
魔王が魔法を使う、これは当たり前の事だ。
その可能性を考えなかった自分の浅はかさに腹が立つ。
(だが…只の火爆破でこれか! 次元が違う…!)
昔に戦ったレッドアイの魔力も凄かったが、ククルククルのそれはレッドアイを上回る。
レッドアイは魔法レベル3の魔法を使い、国一つを焼き尽くした。
それと同じくらいの威力の魔法を、ククルククルは火爆破という中級の魔法であっさりと上回った。
もしククルククルがそれ以上の魔法を使えば…間違いなく自分達は太刀打ちできないだろう。
「回復の雨!」
レンが魔法で倒れた使徒達を癒す。
メイド達は何とか息があるようだが、誰も立ち上がることが出来ない。
「まさか…これ程の威力だなんて…レッドアイすらも上回る力です…」
シャロンは何とか意識を回復させたようだが、戦える程の力はもう残っていないだろう。
「下がれ。こんな所でお前達が死んではケッセルリンクが悲しむ」
「申し訳ありません…スラル様」
力を振り絞って立ち上がったシャロンは、倒れているエルシール、バーバラ、加奈代、そしてエドワウを物陰に引っ張っていく。
「まさか魔法の一撃で使徒すらも戦闘不能にするとは…流石はドラゴンと争った魔王という事か…」
スラルが唇を噛んでいると、メイド達を一撃で戦闘不能にされたケッセルリンクが怒りを見せる。
「よくもシャロン達を…!」
ただ、それでも冷静さは失っておらず、ランスを守り続けている。
「死んだ訳じゃ無いだろ。慌てるな」
逆にランスの方は奇妙なまでに冷静になっている。
自分の女が傷つけられれば常に怒り、激昂するランスではあるが、目の前の存在がそれを許してくれない。
ランスは目の前の触手を斬り飛ばしながらククルククルの猛攻を耐える。
ケッセルリンクと背中合わせになり、ククルククルの攻撃をやり過ごす内に、以前にあった奇妙な感覚が甦ってくる。
ククルククルの触手の動きがどんどんと遅くなっているように見え、逆に自分の動きが鋭くなっていく―――そんな感覚が襲ってくる。
どこからククルククルの攻撃が来るのか、そしてどういう軌道で襲って来るのか、それがランスには見えてきた。
(うむ…流石俺様だ。そうだ俺様は天才なんだ。こんな奴に何時までも手間取ってられるか)
ランスは一歩を踏み出す。
ククルククルの攻撃は尚も続くが、それでもランスは何時ものように笑って見せた。
「がはははは! 何時までも好き勝手出来ると思うなよ! ぜーーーったいぶっ殺す!」
そんなランスに対して、ククルククルはその女性を模した顔に確かな笑みを浮かべていた。
自分には多数を扱う戦闘は書けないと思い知りました
どうしても描写が出来なくなるんですよね…
だからケッセルメイド達は戦闘不能になってもらいました
申し訳ないです