ランス再び   作:メケネコ

231 / 456
決着 ククルククル

 ハニーキングはランス達と魔王ククルククルの戦を陰ながら見ていた。

「うーん、やっぱりランス君は頑張るねえ。ボクとしてはランス君に何とかして欲しいんだけど」

 ハニーキングはこの戦いには一切干渉する気は無い。

 試練と言うからには、これはランスが切り抜けなければならない事だ。

 だが、これまで幾度となく無茶をやり遂げ、そして勝利してきたランスなのだ。

 だからこそこの無茶もやり遂げられるとある意味確信している。

「でも本当に神って無茶苦茶だよねえ。まあ人の心が分からないからああいう形になるんだろうけど」

 今回ハニーキングはかなり頑張った。

 神の出した試練はとにかく滅茶苦茶で、クリアの基準が異常なまでに怪しかった。

 だいたい最後の試練が魔王ククルククルなど、無理ゲーを通り越してクソゲーになってしまっている。

 流石にククルククル本体は無しになったようだが、それでも厳しい事には変わりは無い。

 間違いなく、ランス達だけではクリアは不可能だっただろう。

(カミーラが来てたのは本当に幸いだったよ)

 ランスの強運には本当に驚かされる。

 クエルプランにこの話を持ちかけられた時、ハニーキングは色々と考えさせられた。

 これがALICEならばともかく、クエルプランならば間違いなく悪意も何も無いだろう。

 だからこそ、ハニーキングも色々と手を回す事が出来た。

「人間は頑張ってるからねー。だからボクが少しくらい手を貸しても別に悪くないよねー」

 ハニーキング率いるハニーは魔物にも人間にも属さない。

 勿論中には魔軍に入り、魔物スーツを着るハニーもいるし、中には人間と一緒に行動し生活するハニーも居る。

 そう、ハニーは自由であるべきなのだ。

 なのでハニーキングも当然の如く自由に振舞っている、これは当然の事だ。

 だからハニーキングは今回の試練の事を本当に自由にした。

 それが異界に飛ばされていたドラゴンのカインを呼び出す結果となり、そのお蔭でカミーラがこの戦いに参戦してくれた。

 自分の予想通りになった事にハニーキングはにんまりと笑みを浮かべていた。

「でもケッセルリンクは予想外だったなー。でもこれもランス君の運命の力なのかな」

 ランスは強い女性を引き寄せる力が誰よりも強い。

 パットン・ヘルマンの言葉通り、ランスにいざと言う時には必ず助けが現れる。

 勿論誰が意図した事でも無い、まさに運命とも言える程の強運だ。

「だから頑張ってね、ランス君。君が好きに行動する事こそが、この世界を変えられるんだから」

 ハニーキングは激戦を繰り広げているランス達を見ながら、

「今のボクかっこよくなかった?」

 そうかっこつけて笑う。

 その時、

 

 カッ!!

 

「あいやー!!!」

 強烈な光がハニーキングに直撃し、ハニーキングは粉々になった。

 

 

 

「…何やっとるんだ、こいつは」

 突然あさっての方向に光線を撃ったククルククルに対してランスは困惑する。

 ランスと激しい攻防の中、突如として全く関係無い方向に攻撃を仕掛けたら誰だって困惑する。

 それがランスであっても。

「気を抜くな、ランス」

「分かっとる。だが俺様がこんな奴に負ける道理は無い!」

 ランスは襲い掛かる触手を斬り捨てながらククルククルへと向かって行く。

 それを見てククルククルは楽しそうに笑いながらランスへと接近する。

 その様子にはケッセルリンクは違和感を覚える。

(何故ククルククルはここまでランスに接近する? しかもカミーラとカインの2体のドラゴンを殆ど放置してまでだ)

 ケッセルリンクが提案したランスを囮にする作戦…それは実際には成功していたと言っても良いだろう。

 ククルククルの意識は殆どランスに向けられ、それ以外の存在への攻撃は疎かだ。

 勿論無数に放たれる触手はカミーラやカインにも襲い掛かる。

 だが、ランスへの攻撃に比べれば、その攻撃は明らかに緩い。

 だからこそ、カミーラもカインもククルククルへの攻撃がし易くなっている。

「ランス!」

 ケッセルリンクはランスの体を背後から抱きしめる様にして、その場から離れる。

 するとそれに合わせるかのように、カミーラとカインのブレスがククルククルへと直撃する。

 ドラゴンのブレスと魔人四天王のブレスが直撃し、流石のククルククルもその体を地面に叩きつけられる。

 その衝撃に大地は抉れるが、ククルククルはすぐさま体を起こす。

 そしてランスを一瞥すると、そのままその太い触手をカミーラとカインに伸ばす。

 ククルククルの触手はそれだけでドラゴンすらも蹴散らす威力を持つ。

 だが、流石に宙を飛ぶドラゴンにはその触手は当たらない―――そう思った時だ。

 ククルククルの口が動いたかと思うと、カミーラとカインに猛烈な炎が襲い掛かる。

「な、何だ!?」

 その炎の勢いと量には流石のランスも口をあんぐりと開けるしかない。

「まさか…業火炎破か!?」

 魔力の質を感じ取り、ケッセルリンクも驚愕するしかない。

「何だと!? あれが業火炎破だと!?」

 業火炎破、それは炎系の魔法でありランスも良く知る魔法だ。

 ランスの女(ランス視点)である魔想志津香が得意とする火炎系の魔法だ。

 だが、その威力はまさに次元が違うとしか言いようがない。

「アニスよりとんでもないぞ…」

 ランスも酷い目にあわされたあのアーパー魔法使いをも上回る威力には、ランスも背筋が凍ってくる。

 何故なら魔法は必中、絶対に当たるのがこの世界の法則だからだ。

「いや、大丈夫だ。恐らくククルククルはランスには魔法を放ってこないだろ」

「どうしてんな事が分かるんだよ」

 驚愕していたランスの横にスラル、レン、レイが現れる。

「本当にククルククルが我等を殺すつもりなら、あの威力の魔法を連発すればいい。それをしないという事は、ククルククルは私達を一瞬で殺すつもりは無いという事だ」

 そこでスラルは自嘲するように笑う。

「遊ばれている、とも取る事が出来るが、それをしないという事は少なくともククルククルは一瞬でこの戦いを終わらせる気は無いのだろう」

 もしククルククルが本気ならば、間違いなく戦いにはならないだろう。

 ランスもククルククルの強さは感じ取っている。

 間違いなく、あの時のジルよりも強いと。

(だけどあの何チャラ空間とかで戦ったジルよりは弱いか。まああの時は俺様が強すぎただけだが)

 魔王ジルと決着をつけた時は、ジル自身が足りない魔王の血を補うためにした行動が結局として墓穴を掘った。

 勿論それは魔王ジルの知識の範囲外の事で、彼女が悪いと言う訳でも無い。

(しかしこいつはまた別の強さだな。とにかく再生するのが厄介だぞ)

 こちらには魔人が二人とドラゴン、そしてエンジェルナイトまで居るのだ。

 それでも魔王ククルククルに対して有効な一撃を与えるとは言い難い。

 とにもかくにもあの再生能力こそが問題となっている。

 かつて戦った魔人ノスも凄まじい再生能力を持っていたが、あの時以上だ。

(本当に肝心な時にはいない馬鹿剣だな。こういう時にしか役にたたんと言うのに)

 もしここに魔剣カオスがあれば―――とも考えてしまう。

 今手にしている剣は非常に使いやすい。

 それこそカオスよりも手に馴染んでいるし、スラルとの合体技を合わせればカオスよりも威力がだせる。

 しかし、カオスは魔人、使徒に対しては無類の強さを発揮する。

 魔人の持つ再生能力を阻害し、あのノスですら容易く斬る事を思えば、対魔人に関してはカオスの方に軍配が上がる。

「さて…ククルククルが動き始めたぞ」

 スラルの言葉にランスは思考から現実に戻る。

 ククルククルはゆっくりと動き、真正面にランスを見据える。

 その目と行動は正にランスに興味深々と言った動きだ。

「フン、俺様に熱い視線を向けるのは可愛い女だけで十分だ」

 何故か不思議と人外や男からも視線を向けられるランスだが、勿論そんなものは論外だ。

 女さえいればそれでOKなのがランスなのだから。

「来るぞ」

 ケッセルリンクの言葉に呼応するように、ククルククルが再び地中に触手を伸ばす。

「フン、バカの一つ覚えが!」

 ランスは慌てずに真っ直ぐにククルククルに向かって行く。

 その後ろにケッセルリンクとレンが続く。

 ランスは地中から触手が動くのを感じ取る。

 何となくだが、地中からどういう動きをして襲って来るのか分かる。

 ランスの眼前に触手が現れると、それは網のような形をとってランスを捕えようとして来る。

「とーーーーーーーっ!」

 ランスはその網に自ら突っ込んでいき、その剣で触手の網を断ち切る。

 流石に即座には再生せずに、ランスは触手の網を突っ切る事が出来る。

 そんなランスにククルククルは尚も薄く笑うだけだ。

「がはははは! 今度はそのニヤケ顔を泣き顔に変えてやるわー!」

 そう笑うランスに対抗するように、ククルククルは触手をしならせながらランスへと向かって来る。

「ガアアアアアアアアアア!!」

 カインが天に向かって吼えたかと思うと、無数の黒い雲が現れ、その雲から雷が落ちる。

 雷はカインに当たると、カインの体がスパークする。

「決めてやるぜ! ククルククル!」

 雷を纏ったカインがその鋭い爪でククルククルに襲い掛かる。

 流石のククルククルもドラゴンの攻撃をまともに受けるつもりは無いのか、その意識がランスから反れる。

 そしてククルククルとカインがぶつかる。

 強烈な一撃はククルククルすらも怯ませる。

 その隙にランスの剣がククルククルの触手に突き刺さる。

 勿論それではククルククルの再生能力の前には意味は無い。

 それでもランスは剣を振るい、ククルククルを切刻む。

 そこからは血が飛び散りはするが、それでもククルククルににあまり効果が有るようには思えない。

 だがそれでもランスは剣を止めない。

 どんな相手だろうが、ランスはその剣で斬り伏せて来たからだ。

「グオオオオオオオオ!」

 ククルククルの触手がカインに絡みつき、その動きを止める。

 例えドラゴンであろうとも、魔王の触手1本で止めることが出来る光景を見てスラルは戦慄する。

(これが初代魔王…の触手の1本だというのか。一体本体はどれだけの力を持っていると言うのだ…!)

 元魔王だからこそ分かる、初代魔王の圧倒的実力。

 そしてその魔王を倒したドラゴンの実力…それを今になって思い知る。

「スラル! 合わせなさい!」

「分かっている! タイミングは任せろ!」

 レンとスラルはそれぞれ詠唱をしていた魔法を放つタイミングを計る。

 それを見た訳では無いだろうが、カミーラがカインを絡め取っていた触手に強力なブレスを放つ。

 そのブレスはカインを解放し、カインはククルククルの触手から逃れる。

「今だ! 白色破壊光線!」

「白色破壊光線!」

 スラルとレンの白色破壊光線がククルククルに直撃する。

 元魔王のスラルと、エンジェルナイトのレンが放つ白色破壊光線は非常に強力で、ククルククルすらもその光の中に消える。

 そして光が消えた後、そこに居たのは明らかに焦げた跡をつけたククルククルだった。

「効いているのか」

「そうだと思いたいがな…」

 ランスの言葉にケッセルリンクは難しい顔をする。

 何しろククルククルの先端の女性の部分は所詮は器官の一つに過ぎない。

 表情は浮かんでいるが、そこからはククルククルが何を考えているかは全く分からない。

 そしてククルククルは―――やはりその女性の顔に笑みを浮かべるだけだった。

 その口が開いたかと思うと、そこから強烈な光線が放たれる。

「スラル様!」

 ケッセルリンクの声が響く。

 ククルククルが放った光線はスラルへと襲い掛かる。

「くっ!」

 スラルは急いでバリアを貼るが、そのバリアすらも貫通してスラルへと襲い掛かる。

 そして光線が当たる寸前で、レイがスラルの体を抱えて何とか光線を避ける。

「あっ! こらスラルちゃんは俺様の女だぞ!」

「言ってる場合か! 来るぞ!」

 ランスの怒鳴り声をかき消す勢いでククルククルの魔法、炎の矢がランスへと放たれる。

 ケッセルリンクの姿が闇に変わると、ククルククルの炎の矢がケッセルリンクへと当たる。

「クッ…やはり闇と化していても桁違いの威力だ…それでも1本の触手だというのだからな…」

 闇になったケッセルリンクには魔法が効きにくい。

 それにも関わらず、ククルククルの放った魔法はケッセルリンクに大きなダメージを与える。

「しかし…その程度ではやられんさ」

 ケッセルリンクが受けた傷が見る見るうちに治っていく。

 闇と化していても、魔人の中でも非常に高い再生能力は有効だ。

「ランス! 私を盾にしろ! 突っ込むぞ!」

「大丈夫なんだろうな!」

「問題無い! それにこれくらいせずして倒せる相手では無い!」

 闇と化したケッセルリンクがククルククルへと向かって行く。

 ランスはそのケッセルリンクの闇の背後からククルククルへと近づいていく。

 今のランスならばククルククルの攻撃が気配で分かる。

 そのランスのセンサーにククルククルの攻撃は飛んでこない。

 だからランスは遠慮なくククルククルへと接近していく。

「くたばれ!」

 ランスは跳び上がると、そのままランスアタックでククルククルの触手を切裂く。

「っ! まだかよ…!」

 ダブル白色破壊光線はククルククルにダメージを与えたようだが、それでもその防御力、そして再生能力は圧倒的だった。

 ランスの一撃もその剣の半ばで止まってしまう。

 ランスはそのまま剣を捻り、傷口を広げようとするのだが、やはりククルククルは柔らかそうに見えて非常に硬い。

「ランス!」

 ククルククルの口が大きく開く。

「!!!!!!!」

 そしてその口から凄まじい衝撃波が生じ、ランス以外の者が吹き飛ばされる。

「ぐ…が…!」

 そのあまりの衝撃波―――そして音の所為でスラルは立ち上がる事が出来ない。

 何とか耐えていたカインとカミーラはククルククルの触手で叩きつけられる。

「うお!?」

 何故かその衝撃波から逃れられたランスはとうとうククルククルの触手に捕まってしまう。

「ラ、ランス…!」

 スラルと同じ様に起き上る事が出来ないケッセルリンクは、成す術も無く捕らわれたランスを見ているしかない。

「あんぎゃーーーーー!」

 ククルククルに捕らわれたランスはその女性を模った顔の側に近づけられていく。

 その顔にはやはり笑みが浮かんでいる。

 そしてその目を見て、ケッセルリンクは違和感を覚える。

(何だ…? 何故ククルククルはあんな目でランスを見ているのだ? 何処かであの目を見た事があるような気がする…)

 ククルククルがランスを見る目はが何処かで見た事があるような気がした。

 それは一体どれくらい前の事なのだろうか、思い出すことが出来ない。

「ランス…!」

 悲壮な声でランスの名を呼ぶスラルを見て、ケッセルリンクは思い出す。

(そうだ…あの目はスラル様が魔王だった時にランスを見る目と同じなんだ…という事は…!)

 ククルククルの目がスラルと同じだという事を直感的に感じ取り、ケッセルリンクは背筋が凍る。

 それはつまり、ランスが魔人にされるという事だからだ。

 そしてククルククルの口が開かれ、そこから伸びた舌を模った触手が現れる。

 そこにあるのは間違いなく魔王の血だった。

 その触手がとうとうランスの口の中へと入りこんだ。

「ランス!」

 ケッセルリンクの声が空しく響き渡った。

 

 

 

 この試練を考えた時、1級神達はそこまで深く考えていた訳では無かった。

 魔王血魂のバックアップから魔王を復活させる、その程度の考えだった。

 クエルプランの言葉でその一部だけにしたのも、特に深い考えがあった訳では無い。

 そして神々は下界の存在…その心が全く分からない。

 人の心が理解出来ないので、近い未来にプランナーに願いを望んだ者達の願いを額面通りに受け取った。

 それは魔物に対しても同じだ。

 神にとっては、魔王もメインプレイヤーも所詮は創造神を喜ばせるための道具にしか過ぎないのである。

 だからこそ、魔王ククルククルの事も特に興味が無かった。

 ただ、そこにあったから使った、その程度の認識に過ぎなかった。

 それこそが、今のこの状況を作り出していた。

 

 

 魔王ククルククルがランスの事をじっと見ている。

 ランスの手はククルククルの触手に捕らわれており、動かすことが出来ない。

 そんなランスの顔をククルククルが覗き込んでいた。

「うがーーーーー! 放せ!」

 ランスは何とか逃れようとするが、魔王の触手からは逃れる事が出来ない。

 そんなランスをククルククルは楽しげに見ていた。

 そう、ククルククルは間違いなくランスに興味を持っていた。

 ククルククルが目を覚ました時、そこには奇妙な光景が存在して居た。

 目の前はまずはドラゴンが居た。

 そして魔人も存在して居た。

 何故魔人が自分に傅かないのかはククルククルにはどうでも良かった。

 それよりも、目の前にいる小さき存在が気になった。

 非常に弱弱しく、ドラゴンに比べればその力はまさに天と地ほどの差が違いがあった。

 そしてその存在と戦っていくうちに、その小さき存在の一人が気になった。

 相手を見ている内に、小さな存在の一人が中心になっているように感じ取っていた。

 それこそが目の前にいる存在―――ランスだ。

 魔人が何故かドラゴンと共に自分に戦いを挑み、そして魔人がこの小さき存在を守る様に動いている。

 ククルククルはその存在に興味を持った。

 そしてその強さはククルククルから見ても中々のものに見えた。

 確かにドラゴンよりも弱い。

 空も飛べぬし、強靭な生命力も無ければ強き肉体も無い。

 明らかに脆弱な存在でありながらも、ククルククルに何かを感じさせた。

 そう、かつて戯れに造りはしたが、可能性を感じ取り魔人としたケイブリスの様に。

 だからこそ、ククルククルがランスを魔人にしようとするのは当然だった。

 そしてククルククルの血がランスに入り、ランスは自分の魔人となるはずだった。

 だが、そこからククルククルは戸惑った。

 目の前の存在から魔人の気配を全く感じられない。

 魔王の血を与えれば、その存在は必ず魔人となる。

 それはククルククルにとっては常識だった。

 しかし、何度血を与えても目の前の存在は魔人にならない。

 ククルククルが首を小さく傾げると、そこに強烈な衝撃が与えられる。

「おおおおおおおおお!」

 それは雷を身に纏ったレイがククルククルへと突撃したのだ。

 その衝撃でランスを拘束していた触手が外れ、ランスは自由の身になる。

 

 少し前―――

「おいチビ! お前、俺に電撃を放て」

「な、何を言っておる!?」

 レイの突然の言葉にお町は面食らう。

 まさか今の状況で一応は共に戦う仲間とも言える相手に、電撃を放て等とは正気の沙汰では無い。

「いいからやれ! ランスが死ぬぜ」

「なっ…くぅ…」

 今ランスはククルククルに捕えられ、他の者は動けない状況だ。

 咄嗟の判断で何とか難を逃れたレイと、お町と、彼女を護衛していたパレロアだけが動ける状態だ。

「何とか出来ますか?」

「当たり前だ。俺を見くびるんじゃねえよ」

 パレロアの言葉にレイは真っ直ぐに答える。

「…やってあげて下さい」

「パレロア!? いいのか?」

「私では戦力にはなれません。でしたら、出来ると言う方に任せるのが一番です」

 ククルククルの触手がランスに迫るのを見て、お町も決断する。

「死ぬなよ、人間!」

 そしてお町から電撃が放たれ、それはレイに直撃する。

 まだ妖怪としても未熟だが、妖怪王になるべく陰陽師達に造られたお町の一撃は重い。

 レイはそれでもニヤリと笑うと、体中から放電しながらも獰猛に笑う。

 髪は逆立ち、全身からバチバチと音を立てながらレイはククルククルに突き進んでいく。

 それは何も考えていない、全力の体当たり。

 だが、レイの全身全霊の一撃はククルククルの体の一部でしかないが、それでも魔王の体を揺るがせる。

「へっ…見たかよ」

 レイはククルククルに全力で体当たりした反動からか、そのまま地面に倒れて動かなくなる。

 ランスはそんなレイを一瞥もせずに、全力でククルククルに剣を突き刺す。

「なんか気持ち悪いんじゃーーーー!」

 口内を蹂躙された感触は非常に気持ち悪かった。

 女性達と舌を絡める感触には近いのだが、それでも流石に触手は嫌だ。

 そんなランスの全力の拒否がランスに更なる力を与えていた。

 ランスの剣は初めてククルククルの体を貫通し、その剣が根元まで埋まる。

 人間で言う所の心臓部に突き刺さった剣を捻り、更に傷口を広げる。

 だが、それでもククルククルはその顔に笑みを浮かべていた。

「あ…」

 そこでランスは自分のミスに気づく。

 人間の女性の体をしているので、ついその気持ちで剣を突き立ててしまったのだ。

 だが、実際にはこの女性の体を模した部分はククルククルの触手の一本に過ぎない。

 ランスにとっては心臓を抉ったつもりであっても、ククルククルからすれば触手の1本に剣を突き立てられたに過ぎない。

 そんなミスに気づいてももう遅く、ククルククルの触手が再びランスを捕えようとした時、

「調子に乗るなよ…!」

 カミーラの爪がククルククルの背中を突き刺さす。

 カミーラはそのままもう片方の手を、ランスが突き刺した剣の逆側から無理矢理突っ込んでいく。

 そのままククルククルの体の中からグチャグチャにしていくが、それでもククルククルの体は揺るがない。

「いい加減に死ねーーーーーっ!」

 ランスもそれに合わせて傷口を広げていくが、ついにカミーラがククルククルの触手に捕らわれる。

 そのままカミーラは地面に叩きつけられる…瞬間、七星がカミーラを捕えていた触手に噛みつく。

「カミーラ様…!」

 全力でカミーラを救った七星だが、ククルククルの触手が七星を貫き血を吐き出す。

 カミーラはその目に怒りを滲ませるが、

「カミーラ! ランスと七星と共にその場から離れろ!」

 ケッセルリンクの声を、そこに高まる魔力を感じ取り素直にそれに従う。

「七星、人間体になれ」

 カミーラの言葉を聞き、七星の姿がドラゴンから人間の姿に変わる。

 ダメージは大きく、使徒である七星でも動く事が出来ないようだ。

 カミーラは七星を担ぐと、そのままランスの背中を掴み、ククルククルから引き剥がす。

「あ、コラ! 俺様の剣が!」

「黙っていろ」

 カミーラ達がククルククルから離れたのを見て、ケッセルリンクが魔法を放とうとする。

「いいぞ…ケッセルリンク!」

 その時、ケッセルリンクは自分の魔力が更に高まるのを感じる。

 スラルがクリスタルソードを地面に突き刺し、魔法陣を描いていた。

「感謝します、スラル様。ゼットン!」

 ケッセルリンクの火炎魔法がククルククルを包み込む。

 それはスラルの助力もあわさり、まるでLV3魔法でも使用したような威力でククルククルを襲う。

「いけるか!?」

 ケッセルリンクがそう思った時、地面から何かが蠢く気配を感じる。

 そしてそれはケッセルリンクでは無く、スラルを狙っているのを感じ取る。

「危ない、スラル様!」

 ケッセルリンクはスラルを突き飛ばすと、地面から現れた触手に体を貫かれる。

「ケッセルリンク!」

 ケッセルリンクは激しく吐血するが、それでも無様に倒れるという事は無い。

「スラル様…ランスを…!」

 スラルはその言葉で全てを理解する。

 ケッセルリンクは僅かな時間ではあるが、ここでククルククルの触手を足止めするつもりなのだ。

 スラルはクリスタルソードを持ったままランスの元へと向かう。

 炎が晴れると、そこには全身を黒く染め上げたククルククルがそれでも悠然と微笑んでいた。

 まるでここまで自分と対抗できる者が居るのを喜ぶかのように。

 そしてその胸に突き刺さっているランスの剣だけが不気味な赤い光を放っていた。

「ククルククル! いい加減にくたばりやがれ!」

 雷を纏ったカインがククルククルへと突撃する。

 触手がカインを撃退しようとし、その体を貫く。

 だが、カインはそんな事など意にも介さずにククルククルへと突撃する。

 その巨大な爪がとうとうククルククルの体を捉え、その体を引き裂く。

「―――――!」

 ククルククルは大きく口を開けると、そこから放たれた光線がカインの体を貫く。

 それと同時にカインのブレスもまたククルククルの体に浴びせられる。

 そのブレスはククルククルの胸に突き刺さった剣に収束する形で飲み込まれていく。

 ククルククルはその衝撃に体を震わせると同時に、カインもとうとう力尽き地面に倒れる。

「いい加減死ねーーーー!」

 スラルからクリスタルソードを受け取ったランスがククルククルの背中から突き刺さる。

 左胸に突き刺さった剣とは逆側…右側の胸をクリスタルソードが貫く。

 その衝撃にククルククルの体が激しく動き、ランスが振り落とされる。

 それをキャッチしたレンだが、地面から放たれた触手が二人を襲う。

「くっ…ランス! 行きなさい!」

 ククルククルの触手がレンの足に絡みつくと同時に、レンは地面にランスを投げる。

 ランスは不安定な状態でありながらも着地する。

 目の前ではカミーラがククルククルと向かい合い戦っている。

 だが、流石にカミーラだけではククルククルの触手を捌ききる事は出来ない。

「クソが! 来い!」

 ランスはククルククルに刺さった黒い剣を呼ぶが、黒い剣が戻って来る様子が無い。

「ククルククルの中に埋まっているのか…!」

 それを見てスラルが驚愕する。

 まさかそんな方法でランスの武器を封じ込めるとは思ってもいなかった。

 そしてこれはランスには武器が無くなった事を意味している。

 いかにランスと言えども、獲物が無ければ無力だ。

 そんな二人のやり取りを聞いていたかどうかは分からないが、触手を捌いていたカミーラがククルククルに爪を突き立てようとする。

 その胸にカミーラの爪が突き刺さったと思った時、ククルククルの触手がカミーラの腕に絡みつく。

 やはりカミーラだけではククルククルの触手には対抗する事は出来なかった。

 だからなのかは知らないが、カミーラは残った手でランスの剣に手を伸ばした。

 そしてそれを勢いよく引っ張る。

 ククルククルの肉に絡みついた剣を見て、

「来い!」

 ランスは改めて己の剣を呼ぶ。

 すると今度はランスの剣がククルククルの肉体を傷つけながらランスの手元に戻って来る。

 それと同時に、カミーラの体が触手に貫かれる。

 だが、カミーラはそれでも一歩も退かなかった。

 ククルククルに向けて間近でブレスを放ち、ククルククルの胸の傷を更に大きくする。

 それに対抗するようにククルククルが口から光線を放ち、カミーラの腹部を抉る。

 その衝撃には流石のカミーラも対抗できず、その体から力が抜けていく。

「ラーンスあたたたーーーーっく!」

 ランスの一撃がカミーラの触手を断ち切り、ランスはそのままカミーラを回収しようとした時、カミーラの目がギラリと光る。

 そのままランスの腕から跳び上がったカミーラは、そのままククルククルの腕から伸びる触手に攻撃を加える。

「ランス! 最後のチャンスだ!」

「何がだ!」

「今ククルククルの大きな触手をケッセルリンクとカミーラが抑えている! ここで決めなければもう勝つ事は出来ない!」

 もう既に戦える者は少ない。

 ケッセルメイド達は全員倒れ、レイもエドワウも最早満身創痍だ。

 お町とラインコックは残念ながら戦力にならない。

 カインはククルククルの攻撃を受け止めた結果、動く事が出来ずにいる。

 レンは襲ってくる触手から何とか逃れようともがいている。

 そしてケッセルリンクとカミーラはククルククルの両腕から生えている触手を相手にしている。

 それを認識した時、ランスの決断は早かった。

「行くぞスラルちゃん!」

「ああ! ランス、私の最後の力…お前に託す!」

 スラル自身ももう魔力が限界に近い。

 皆を援護するための魔法陣の作成に、バリアを貼って皆を守り、そして白色破壊光線も使っている。

 それでもスラルが立っていられるのは、元魔王としての魔力がある事、そしてランスに何度も抱かれているせいで、その基本的な力が僅かでも上がっているからだ。

「ランス…後は任せた!」

 スラルは魔法の詠唱を始める。

 それは古代語…スラルが魔王の時代から使っている言語で放たれる言葉。

 それが何を意味するのか、ランスには分かる。

 ランスの剣が黒く輝き始め、そこから強大な力が溢れる。

「バスワルド!」

 そしてスラルの詠唱が終わると、ランスの背後に2級神であるラ・バスワルドの姿が一瞬現れ、そして消える。

 それと同時にランスの剣の黒い輝きが最高潮に高まる。

「がはははは! これで最後だ! 死ねーーーーーーっ!!」

 スラルはランスが駆けていく所を見て、地面に膝をつく。

 既に体は限界で、これで魔力も全て空っぽになってしまった。

 もう後はランスの天運を信じるしかない。

「ランス…」

 ランスは全力で駆け、今まで以上の力で大地を蹴る。

 全力で必殺の鬼畜アタックを放つ準備に入った時、ククルククルの目はランスを捕える。

 その時、ランスの背筋が凍る。

 ククルククルの口が開き、そこから光が放たれようとしていた。

(げげ! ヤバイぞ! この一撃で相殺するか…いや、それだとこいつに届かんぞ!)

 スラルの言葉からして、バスワルドの力でククルククルを斬れるのは恐らく一度だけだ。

 だが、このままでは魔人すらも貫くククルククルの光線がランスを貫くのは明らかだ。

 その一瞬の悩みをあざ笑うかのようにククルククルの光線がランスに放たれる。

「あ…ヤバ…」

 ランスもそれには本気でまずいと思った時、ランスの目の前に魔法の障壁が現れ、その光線の軌道をずらす。

「な、何だ!?」

 ランスもそれには驚くが、直ぐにそれは普段の不敵な笑みに変わる。

 ランスの剣の中から放たれた光…それにはランスも感覚で覚えていた。

(ランス様…死なないで…)

 そしてランスの耳に聞こえてくるのは、ランスが今取り戻そうとしている女の声。

「がはははは! お前はやっぱり俺様の奴隷だ! ジル!」

 それはランスの剣の中にいる、ジルの魂の僅かな声だったのかもしれない。

 間違いなくジルがランスを守った、それはランスにとっては揺るぎない事実だった。

「調子に乗ってくれたがこれで最後だ。俺様の女を傷つけた事は絶対に許さんぞ!」

 ランスの剣の光が尚も強くなり、ついにランスの剣そのものが黒いオーラで包まれる。

「鬼畜! アターーーーーーーック!!!」

 そしてその勢いのまま、ランスの超必殺の一撃である鬼畜アタックがククルククルに直撃する。

 その瞬間でも、ククルククルは尚もランスに対して笑みを浮かべていた。

 




年末の忙しさで投稿が遅れました
もっと早くしたいけど今度は風邪をひいたりと上手くいかない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。