ランス再び   作:メケネコ

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決戦 カミーラ 前編

 ランスが試練を終えて2日後、ランスはカミーラと対峙していた。

 ハニー達は全て煙のように消え去り、残ったのはランス一向と魔人カミーラと魔人ケッセルリンク、その2人の使徒とレイを捕らえにきた魔軍だけだ。

 カミーラはランスに戦う場所を選ぶようにと迫った。

 その結果、ランスはこの島に上陸した場所を選んだ。

(…チッ、ハニー共め。何処へ消えやがった)

 ランスとしてはそのまま何とか逃げたかったのだが、生憎とハニーの渡しは存在しない。

 ランスの目論見の一つは潰されたが、それでも当然ランスは諦めては居ない。

「…さて、ランス。覚悟は出来たか」

 カミーラはその顔に酷薄であると同時に、非常に楽しそうな笑みを浮かべている。

 この瞬間を誰よりも待っていたのがカミーラなのだ。

「フン、何の覚悟だ」

「当然…私のモノになる覚悟だ。言ったはずだ…貴様は私の前に跪き、使徒となる事を望むとな」

「ありえんな。俺様が特定の誰かのものになるなど人類の大きな損失だ。お前が俺様の女になると言うのが当然だ」

 ランスの言葉にカミーラはより楽しそうに笑う。

「おい…あの人間は何だ? 自殺願望でもあるのか?」

「カミーラ様に対して愚かな事を…だが、使徒にだと? 人間をか?」

 魔軍はランスとカミーラの間の言葉に首を捻る。

 何しろ魔軍にとっては人間とは管理されるモノだからだ。

「黙っていろ。魔人や使徒にも元人間は居る。カミーラ様が誰を使徒にしようが、それはカミーラ様の御心次第だ」

 魔物将軍ドーイクスはただこの戦いを見るだけだ。

 自分達の任務はこの人間達を逃がさないようにする事。

(もう少し数が居れば良かったのだがな…ケッセルリンク様がいるから大事にはならんと思うが)

 ドラゴンのブレスで67体の魔物兵が死亡してしまった。

 更には魔物隊長も1体死んだので、その損害は非常に大きい。

 人間相手…ではないが、人間一人を捕らえるのにこれだけの損害…しかも魔人も居たにも関わらずにこの体たらくは、ドーイクスとしても頭が痛い。

「さて…私がこの戦いを見届ける。カミーラ、ランス、依存は無いな」

「好きにしろ。貴様が手を出すとも思わんからな…」

 ケッセルリンクの言葉にランスは不機嫌な顔になる。

 ランスはケッセルリンクに何とかこの状況から逃げ出せるように言ったのだが、ケッセルリンクの言葉はランスの望むものではなかった。

 そもそもが魔王の命令で動いている以上、ケッセルリンクにはカミーラを止める権利は無いのだ。

(ランス…ここは己の力で切り抜けてくれ。だが、お前ならば切り抜けれるはずだ。そうでなければ、魔王に挑むなど夢のまた夢だ)

 カミーラはランスを決して殺さない。

 使徒にするのが目的なので、カミーラも無意識の内に手加減はするだろう。

「さて…レン、貴様も来るがいい」

「あら、いいの? あなたとランスの1対1だと思ってたけど」

「構わぬ。貴様の正体が分かった以上、貴様も私の敵だ」

 カミーラの言葉にレンは肩をすくめる。

 レンの正体はエンジェルナイト…先の戦でそれがハッキリした以上、カミーラにとっては完全な敵だ。

 ドラゴンの世を終わらせた存在ではあったが、カミーラには特に興味は無かった。

 いや、当時はそんな事はどうでも良かった。

 それ程までにカミーラは歪んでしまっていたからだ。

 だが、ドラゴンのプライドを取り戻したカミーラにとっては忌まわしき敵だ。

「貴様等は下がっていろ…邪魔をするなら殺す」

「そうはいかないな。私は参戦させて頂く。相手が魔人ならば尚更だ」

「我もだ。妖怪王として、魔人相手に退く事は出来ぬ」

 カミーラの言葉をエドワウとお町は拒否する。

 相手は魔人四天王の一角だが、エドワウもお町も退ける相手では無い。

 エドワウは人として、そしてお町は今代の妖怪王として、どうあっても避ける事が出来ない相手なのだ。

 だが、それを制したのはスラルだった。

「お前達は下がっていろ。カミーラ相手にお前達をカバーしながら戦う余裕は無い」

「スラル殿…」

「そうよ。悪いけどあんた達まで守りながら戦う余裕は無い」

「…分かった」

 レンの強い言葉にお町は唇を噛みしめながらも従う。

 二人の言っている事は分かっているのだ。

 これが黒部ならば、スラルとレンだけでなくランスすらも戦いに参加させただろう。

 それだけの強さを持っているし、何よりも魔人ザビエル、そして魔人レキシントンとの戦闘経験も有る。

 その黒部の足元にも及ばない力しかない自分では、戦力になるどころか足手纏いになるという事も分かっているのだ。

「こちらへ」

 スラルとレンの言葉を受けて、シャロンとバーバラが二人を安全な場所へと移す。

 それは即ちケッセルリンクの使徒達の所。

 ケッセルリンク達の使徒は主の側へと移動する。

 即ち、そこが一番安全だという事だ。

「さて…準備はいいな?」

「少し待て…よし、いいぞ」

 カミーラの言葉にスラルが魔法を唱えると、スラルの肉体が消えてその魂がランスの剣の中にと入る。

 それこそが、対魔人戦においては最適な方法だとスラルは判断した。

 レンは地面に落ちたIPボディを仕舞うと、己の剣と盾を構える。

「ランス。今度こそ決着をつけるぞ」

「フン、そう言うのを負けフラグという事を教えてやる」

 ランスも剣を構え、臨戦態勢を取る。

「では始めるがいい。このケッセルリンクがこの戦いを見届けよう」

 その言葉と共に動いたのは―――ほぼ同時だった。

 カミーラはその翼で最速のタイミングでランスに襲い掛かる。

 攻撃手段はブレスと爪、そして魔法。

 本来であれば上空からブレス、魔法で攻め立てれば空を飛べないランスには勝ち目はない。

 だが、勿論カミーラはそんな手段は取らない。

 そんな事では己の力を見せつける事にはならないからだ。

 そしてランスの剣とカミーラの爪がぶつかる。

 ランスとカミーラの間で火花が飛び散り、再びランスとカミーラは顔を突き合わせる。

「ククク…より強くなったな。だからこそ私の力を味わえる。そうだろう」

「フン、いい加減お前も諦めろ!」

 ランスの剣がカミーラの爪を弾き飛ばすが、元々はランスは膂力で負けている。

 即ち、カミーラがランスの剣に逆らわずに受け流したとも言える。

「光の矢!」

 ランスに更に爪を向けようとしたカミーラに、レンの魔法が突き刺さる。

 魔法に関してはカミーラも受けるしか手段は無いが、元々魔人は高い魔法防御力を持っている。

 それが魔人四天王のカミーラならば尚更だ。

 姿勢を崩すのが精一杯なのだが、その一瞬の隙でもランスには十分だった。

 ランスの剣がカミーラの胸元に突き刺さろうとするのを、カミーラは高速で後ろに飛ぶことで防ぐ。

「スノーレーザー!」

 スラルはランスの剣をカミーラが避ける事を見越したうえで、詠唱をしていた魔法を放つ。

「フッ」

 しかしそれはカミーラの前に現れた魔法の障壁で防がれる。

 その光景を見て、スラルは剣の中で苦い顔をする。

「魔法を使うか。カミーラ」

「私が使える力だ。それを使って何が悪い」

「ドラゴンの力以外を使って屈服させると言うのか?」

 スラルの言葉にカミーラは笑みを浮かべる。

 それは普段のカミーラの冷笑では無く、真っ直ぐにランスを見据えた剛毅な笑みだ。

「そうだ。ランスが全ての力を使うならば私も使う。これでも私はお前達に譲歩しているつもりなのだがな」

 カミーラの言葉にスラルは舌打ちをするしかない。

 カミーラの言う事は真実で、カミーラが本気になればランスには成す術は無いのだ。

 それでもカミーラがランスと同じ土俵で戦うのは、その高いプライドと、ランスを跪かせるという強力な意志に他ならない。

「カミーラ様…無敵結界を使っていないのか!?」

 ランスとカミーラの戦を見ていた魔軍がどよめく。

 魔軍にとっては、この戦いは一方的な蹂躙となるはずだった。

 だが、その予想に反してカミーラは無敵結界を使わずに、その力だけで人間と戦っている。

 しかも上空からのブレスでは無く、その爪と魔法を使用してだ。

「いや…それでも人間がカミーラ様と渡り合えるはずが無い。あの男は何者なのだ…!?」

 魔物将軍はカミーラと一瞬でも渡り合った人間の力に驚愕する。

 何度も魔軍を退けて来たという人間…今は魔軍に捕らえられているレイもそうだが、この人間の力は異常だ。

「ケッ! ランスの野郎とケリを付けるのは俺だってのによ…」

 魔軍に捕らわれているレイが不服そうに悪態をつく。

 この試練とやらが終わったらランスと決着を付けようと思っていたが、それは叶わない。

 勿論レイも今の状況から逃げ出すのを諦めてはいないが、流石に状況が悪すぎる。

「では前回と同じ状況で行こうか…ランス、防いで見せろよ」

 カミーラが大きく息を吸い込むと、そこから膨大な力が溢れてくる。

 それこそがプラチナドラゴンのカミーラの必殺の一撃、ドラゴンのブレスだ。

 カミーラの体から強大なブレスが放たれると同時に、ランスは体を旋回させる。

「だーーーーーりゃーーーーー!」

 ランスが横薙ぎに剣を振るうと、そこから放たれた闘気の渦がカミーラのブレスにぶつかる。

 ブレスと闘気は互いに干渉し合うと、そのまま霧散する。

 そしてランスとカミーラはブレスと闘気が完全に消える前に既に動いていた。

「ラーンスあたたたたーーーーーっく!!」

 ランスが跳び上がり、その必殺の一撃を放つ。

 そこから放たれた一撃は大地を大きく抉り、カミーラの眼前に土の壁を作り出す。

 カミーラは眼前の土の壁を避けると、その先に居たのはレンだ。

 エンジェルナイトの翼を生やしたレンがその剣をカミーラに突き立てようとしていた。

「フン」

 だがカミーラは慌てずにレンの剣を爪で受け止める。

 激しい火花が二人の間に生じ、人を超えた美しさを持つ者達が睨みあう。

「エンジェルナイトか。かつてドラゴンを滅ぼした存在…まさか貴様がソレとはな」

「力を取り戻したのはつい最近。別に隠しておくほどでも無いけどね」

 カミーラは力押しでレンの剣を弾き、逆の爪でレンの首筋を狙う。

 レンは慌てずにその爪を盾で弾く。

 それどころか、弾かれた威力でカミーラの爪が傷つくほどだ。

 勿論それは大した事では無いのだが、その事実にカミーラの顔が若干歪む。

 だが、それでもカミーラの戦意が衰えるという事は無い。

 カミーラはランスとレンの二人を相手に大立ち回りを演じていた。

「…これが魔人四天王の力なのか」

 人と魔人の戦い―――いや、人外の戦いを目の当たりにしてエドワウは冷や汗が止まらない。

 もし自分がこの戦いに参加したとしても、恐らくは神魔法による援護くらいしか出来ないだろう。

 それだけ目の前の戦いは次元が違う。

「同じ魔人四天王であるザビエルと渡り合った黒部殿の力…成程な。ランスが我に不満を言うのも無理は無いか」

 お町もまた同じように戦慄していた。

 かつて人は…人類軍は魔人一人とそれに従った魔軍の手によって蹴散らされた。

 人は藤原石丸という絶対的な指導者を失い、再びバラバラになってしまった。

 それは妖怪も同じで、黒部という絶対的な王を失った結果、妖怪同士での争いも絶えなかった。

 だからこそ、人はお町という妖怪王を作り上げたのだ。

「アレでもカミーラ様は本気では無いですよ。本来ならば、上空からブレスと魔法を繰り出すだけで終わりますから」

「…そうだろうな」

 エルシールの言葉にエドワウは唇を噛みしめる。

 ランスと共にククルククルと戦い、魔人四天王の強さは分かっていたつもりだった。

 だが、エドワウの想像を遥かに超えて、魔人四天王の強さは強大だった―――いや、強大過ぎた。

「ランス殿でも敵わぬのか…」

 エドワウから見たランスの強さもまた別次元の強さだ。

 レンもレイも、エドワウから見れば遥か彼方の存在なのだが、そのランスとレンを持ってしてもカミーラに有効な一撃は与えられていない。

 それどころか、カミーラはまるでランスの成長をその体で味わうかのように楽しんでいるように見える。

 それだけ人と魔人の間には埋められない差があるとエドワウは思い知らされた。

 魔人は無敵結界があるから強いのではなく、生物としての絶対的な力の差が存在して居るのだ。

「じゃが…そこに付け入る隙はあろう。カミーラはランスを殺す気は無いのだろう?」

 お町はこの戦を見て、ランスにも勝機はあると見ている。

 ククルククルとの戦いでは、お町には出来る事は全く無かった。

 それは純粋な力不足の結果であったが、同時にランスとククルククルの戦いを全て見る結果にも繋がった。

 だからこそ分かる、それこそがランスが付け入る隙…いや、そこしか隙が無いのだ。

 そしてランスがその隙を逃すはずが無い、それがお町のランスの評価だ。

 ランスと言う男は戦いに関しては非常に抜け目なく、勝つためにはどんな手段も取る事が出来る。

 だが、それでもやはりカミーラという存在は非常に強大だった。

 いかにランスが強くなろうとも、魔人という壁は非常に大きかった。

 ランスは何度もぶつかっているカミーラに対して苦戦していた。

(チッ、こいつこんなに面倒な奴だったか)

 カミーラの動きが明らかに洗練されている。

 前回戦った時もそうだが、ゼスで戦った時とは比較にならないくらいにやりにくい。

 あの時とは違い、カミーラの戦い方が大きく変化しているからだ。

 何しろ今のカミーラはランスの攻撃を的確に避けてくる。

 カオスを持っていてもランス相手に油断をしまくっている他の魔人とは違い、ランスの剣を受けないようにして戦って来る。

 ランスの剣を受けない魔人はザビエルもそうだったが、油断が無い魔人というのは本当に面倒くさい。

 それでいてカミーラは本気では無いのだ。

「カミーラめ…あれからレベルを上げているようだな。しかも今のカミーラには油断は全く無いぞ」

「フン、そんなのは関係無いわ。俺様ならやれる! …多分」

 流石にランスも少し弱気になる。

 まさかここまでカミーラが進化しているとは考えてもいなかった。

 技量が上がったと言えば良いのだろうか、とにかく魔人とは思えぬ動きをしてくる。

 無敵結界に頼り切った動きでは無く、そんなものは無いと言わんばかりの回避行動をとってくる。

「耐えて見せろよ。ファイヤーレーザー」

「ランス!」

 そしてカミーラが使って来る魔法。

 ゼスでの戦いでもカミーラはその強力な爪と、ドラゴンが使用するブレスを使ってきた。

 だが、今のカミーラは魔法すらも使って来る。

 流石に破壊光線級の魔法は使用してこないが、レーザー系の魔法を魔人が使う、それだけでも人間には脅威以外のなにものでもない。

「っ! 流石に魔人の魔法を防ぎきるのは難しいわね」

 レンはカミーラの魔法を受け止めて冷や汗をかく。

 完全に威力を抑えきる事は不可能で、レンの体にはいくつもの傷や火傷を負っている。

「ヒーリング!」

 それもレンの高い回復魔法の力で何とか抑えているが、このままでは間違いなくジリ貧だろう。

 レンの魔法力も無限という訳では無いのだ。

 現状は圧倒的にカミーラが優勢…それがこの戦いを見ている者の見解だ。

 だが、そんな状況にも関わらず内心ではそう思っていない者達がいた。

(カミーラ…完全な状態では無いな)

 一人はケッセルリンクだ。

 同じ魔人だからこそ分かる、カミーラの不調。

(今は体を誤魔化しているが…長期戦になれば絶対にそれが響いてくるだろう。ランスがそこをどう突くか、だな)

 ククルククルから受けた傷はまだ完治してはいない。

 同じくククルククルと戦った者だからこそ分かる。

 今は問題は無いが、長期戦になれば必ず影響は出て来る。

(カミーラのプライドか…しかし彼女自身が望んだ事、私にそれを言う権利は無いか)

 ランス達の傷が癒えた時点でカミーラは即戦う事を決断した。

 相手に弱みを決して見せない、カミーラのプライドがそうさせたのは間違いない。

(だが…ランスは平気でそこを突いて来るぞ。ランスは『勝つ』ためならばどんな手段をも使う男だ)

 そして残りの者はカミーラの使徒達だ。

「ねぇ七星…カミーラ様大丈夫だよね?」

「カミーラ様が望んだ事です。私達使徒が口を出す事では無い」

 不安そうなラインコックの声に、七星は何時もの様に冷静に言い返す。

(そう…これはカミーラ様が望んだ戦い。私達には口が出せぬ…)

 魔王ククルククルとの戦い…それはカミーラにも大きな傷跡を残していた。

 ドラゴンへの殺意とでも言えば良いのだろうか、カミーラが受けた傷は今も癒えてはいない。

 それにも関わらず、カミーラはランスとの戦いを優先させた。

 それはカミーラのプライドの高さが招いた事なので、七星には何も言う事は出来なかった。

 何よりも、あれ程楽しそうにランスとの戦いを待っていた主の顔に泥を塗る事は出来ない。

(うう…あの人間、メチャクチャ強いよ…アレ本当に人間なの? もう片方は間違いなく人間じゃないけど…)

 ラインコックは主と戦う人間を見て焦燥感を覚える。

 勿論主が負けるなんて思っても居ない。

 間違いなく主は勝つ…だが、今のカミーラに不安があるのは事実だ。

 もし戦の最中に傷が開いてしまったら…という不安、そして無敵結界を使っていないカミーラへの心配。

 その事からラインコックは気が気では無かった。

(あの人間…スケベで口が大きくて下品で気に入らないけど…大人しくカミーラ様の使徒になってよ。そしたらボクは何も言わないから…)

 何よりもカミーラが心配なラインコックは、ただ只管に祈り続けるしかなかった。

 

 

 そんな外野の思いとは裏腹に、ランスは確実にカミーラに追い詰められていく。

 それは単純な魔人と人間の絶対的な力の差だ。

 例えカミーラが空も飛ばずにブレスを多用せずとも、そのスペック差は覆す事は出来ない。

「ランス、大丈夫か」

「…あかん。しんどい」

 スラルの言葉にランスも軽口を叩く余裕も無い。

 ランスは肩で息をしながら、それでもカミーラの挙動を逃さぬ様にしている。

 だが、確実にランスは追い詰められている。

 それを自覚しているからこそ、非常に困っているのだ。

「流石にきつくなってきたわね」

 レンはランスよりも体力はあるのだが、ランスを庇いながら戦っているので、その疲労はランスよりも濃い。

 勿論ランスは諦めてはいない。

 これまでランスは諦めなかったからこそ、魔人…そして魔王とも戦い勝って来たのだ。

「よく耐える…だがそれもこれで終わりだ。ランス、ここまでだ」

 カミーラも無傷では無い。

 ランスの一撃やレンの魔法を受けており、その体には細かな傷が多数ある。

 その服も一部が破けており、その見事な肉体が見え隠れしているのだが、所詮はそれだけだ。

 魔人の再生能力でその傷は直ぐに癒えてしまう。

 ランスの剣はカオスでは無いため、魔人の再生能力を阻害する事は出来ない。

「終わりだ…そして私のモノになれ、ランス」

 カミーラは息を吸い込むと、再びランスに向けてブレスを放つ。

「チッ!」

 ランスはそのブレスを剣で斬る事で威力を相殺しようとするが、

「ぐがっ!」

 その斬ったブレスを少しでも浴びると体が痺れてしまう。

 これはゼスでもカミーラが使っていたブレスで、破壊力のあるブレス、痺れるブレス、そしてこちらの力を阻害するブレスと厄介な攻撃が多い。

 それでいて威力もあるのだから、ランスとしてはたまったものでは無い。

 いくらレンが回復をしたり、庇ったりとしていても限界はどうしてもあるのだ。

 そしてランスが体勢を崩したのを見計らい、カミーラがランスへと接近する。

 ランスは少し痺れる体に鞭を打ち、何とかカミーラの爪を弾く。

 接近戦ではランスの方に分があるのだが、いかんせんもうランスの体も限界に近い。

 スラルも魔法バリアを使って何とか攻撃を防いでいるが、その度にカミーラの攻撃は苛烈になっていく。

(いかん。いよいよ俺様ピンチか!?)

 カミーラの爪を何とか弾くランスだったが、その胸に凄まじい衝撃を感じる。

「ぐおっ!?」

 それはカミーラの蹴りがランスの胸に突き刺さったからだ。

 流石にランスの鎧を砕くほどの威力は無いが、その蹴りの威力には流石のランスも息がつまる。

「ランス!」

 レンがランスの盾になり、カミーラの放ったファイヤーレーザーを受ける。

 ファイヤーレーザを防いだレンだが、その眼前にはカミーラの姿があった。

「くっ!」

 レンは何とか剣を振るってカミーラに攻撃をしようとするが、その動きはやはり緩慢になっている。

「遅いな」

 カミーラはレンの攻撃をその翼で弾くと、そのままレンの首を掴んで地面に叩き付ける。

「ぐぅ!」

 その衝撃にレンは呻き声を上げるしかない。

 カミーラはそんなレンを無視してランスへと接近していく。

 翼を使って高速移動するカミーラの攻撃はやはり避けにくい。

 ランスの剣とカミーラの爪が火花を散らすが、その威力にランスの体がどんどんと押し込まれていく。

「終わりだ」

 そしてカミーラが急接近してくると同時にランスはカウンターを狙って剣を振り下ろす。

 が、突如としてカミーラの動きが急停止する。

「何だと!?」

 突如として急停止したカミーラに対し、ランスの剣はもう止めることは出来ない。

 ランスの剣が空を斬ったのを見て、カミーラは笑みを浮かべる。

 それは勝利を確信した笑みだったのだろうか、ランスにはそれが非常にスローモーションに見える。

(まずい…詠唱が間に合わないか!?)

 同じくその光景を見ていたスラルだが、流石に今からでは魔法バリアは間に合わない。

 だが、今放とうとしているライトニングレーザーを放っても、カミーラはその威力を無視してランスに攻撃を加えるだろう。

 スラルもまたランスの敗北を予感した時、何かの気配を感じる。

(…何だこの違和感は。ラ・バスワルドともジルとも違う…何か濃厚な気配を感じる。一体何があるというんだ!?)

 そんなスラルの思考を無視し、カミーラはとうとうランスに向かって接近してくる。

 ランスは何とか剣を引き戻そうとするが、それよりもカミーラの爪がランスの首を捕えるのが早い。

(うげ!?)

 何とか剣を戻してカミーラの爪を弾こうとするが、間に合わない。

 ランスもまた本格的に自分のピンチを悟った時、突如としてカミーラの体が吹き飛ばされた。

「…!?」

「な、何だ!?」

 ランスの剣は確かにカミーラに直撃していた。

 だが、問題なのはそのランスの剣だ。

 ランスが愛用している黒い剣が明らかに変形していた。

「これは…!?」

 スラルもランスの剣を見て驚愕するしかない。

 一般的な長剣だったはずのランスの剣だが、その刀身が伸びているだけでなく、更なる厚みを感じられる。

 まるでバスターソードのような大きさに変わったランスの剣がカミーラに届き、ランスのピンチを救っていた。

 その剣の先端はまるで斧のような変形しており、その剣をより重厚に見せている。

 斧のような部分にはまるで目のような赤い球体が出現している。

「な、何じゃこりゃー!?」

 ランスは驚愕するが、起こってしまった変化は今更戻る訳では無い。

 そしてスラルはこの剣の変化に一つの可能性へと辿り着いた。

「まさか…ククルククルか!?」

「何だと!? どういう事だ!?」

 スラルはククルククルの最期を思い出す。

(そうだ…あの時ククルククルはまるでランスの剣に吸い込まれるように突き刺さっていった…まさか、あの時にククルククルは感じ取ったというのか!? ランスの剣の力を!)

 ランスの剣には魂を宿らせる力があるとスラルは考えている。

 だからこそ自分がランスの剣の中に居る事が出来るし、ラ・バスワルドの力の一部がこの剣の中にある。

 そしてジルの魂の欠片もこの剣の中に存在する。

 だとすれば、最期にこの剣に突き刺さっていったククルククルの力があっても何もおかしな事では無い。

「ククルククルか…ククク…ランス、貴様は余程魔王に縁があるらしいな」

 勝利を確信していたカミーラだが、それを邪魔されても尚もその顔には笑みが浮かんでいる。

「だが…それでこそだ。だからこそ…貴様を屈服させた時に喜びがあるというものよ」

 カミーラはより戦意を高め、ランスへと襲い掛かっていった。




あけましておめでとうございます
突然ですが事故りました
怪我をしましたが、こうして何とか回復しました
もう雪道は沢山です…

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