急流の中、カミーラはランスを追って泳いでいく。
ランスは気を失っている様で、動く気配は無い。
カミーラはランスを掴むと、そのまま水上へと上がっていく。
そして見つけた小島にカミーラはランスを下ろす。
「カミーラ! ランスは息をしているか!」
スラルの言葉にカミーラはランスの口元に手を寄せる。
カミーラが難しい顔をしたのを見て、スラルは苦い顔をしながらカミーラに指示をする。
本来であれば自分でやれば済む事なのだが、何しろ今のスラルには実体が無い。
なのでカミーラがするしかないのだが、果たしてカミーラはそれに従うか…それがスラルにはネックだった。
だが、意外にもカミーラはスラルの指示に素直に従った。
躊躇う事無くランスに人工呼吸を行う。
そしてそのままスラルはカミーラに指示をし…最後にはカミーラがその肌でランスを温めていた。
その手はカミーラが貫いたランスの傷をなぞっている。
血は完全に止まっており、ランスを見ても少し顔色は悪いながらも眠っている。
「…カミーラ。お前は何故ここまでランスに拘る」
「…話す必要はあるのか。スラル」
カミーラは自分の胸の中で眠っているランスの頭を軽く撫で、地面に横たわっている剣を見る。
そこからスラルの霊体が姿を現し、腕を組んで難しい顔をしてカミーラを見ていた。
「必要は無い。ただ、興味が有るだけだ。我が魔王で有った時からは想像も出来なかったのでな」
スラルの言葉にカミーラはランスの頭から手を離して起き上る。
「この男は私に無礼を働いただけでなく…このカミーラのプライドを傷つけた。それだけだ…」
「フン、そんな理由ならお前はとうの昔にランスをなぶり殺しにしている。だがお前は自らの手で、しかも無敵結界を解除してまでランスに力を見せつけている」
スラルの指摘にもカミーラは何も返さない。
元々スラルとの関係は良いものでは無かった。
カミーラ自身が魔王という存在が気に入らない…それはスラルの前の魔王であるアベルの時から続いている。
それは今でも変わっていないし、誰が魔王になろうがカミーラには特に興味も無かった。
最初にランスを殺そうとしたのも、スラルが魔人にしようとしている男を殺すため…そんなくだらない理由からだ。
「ならばスラル…お前は何故この男を魔人にしようとした?」
「ランスが強き人間だったからだ。ランスはどんな手段で有ろうとも、魔人を倒した人間だ。だから興味を持った。それだけだ」
スラルの言葉に嘘は無い。
最初は本当にその程度の理由でしかなった。
各地に散らばる魔血魂を回収している最中、ランスとケッセルリンクを見つけた。
そして魔人オウゴンダマをランスとケッセルリンクは見事に倒して見せた。
倒した手段もまたスラルには興味深いものだった。
だからこそ、スラルは二人を魔人にしようと動いたのだ。
ただ、結果はスラルの望んでいた形にはならなかった。
ケッセルリンクは命の危機から魔人にする事になってしまったし、ランスに至ってはそれは叶わなかった。
「まあ今は…別の理由でランスと共にいるがな」
スラルは一度死んだ所をランスによって魂だけは救われた。
その後紆余曲折を得て、肉体を何とか見つける事は出来た。
そして今は…自分が奪ってしまった、ランスの奴隷を助けるべく行動をしている。
「フン…貴様がこの男にどんな事を考えていようが興味は無い…だが、この男は私の使徒にする。それだけだ」
「お前も難儀な性格だな…本当にそれだけならば、とうの昔にランスは使徒になっていた。まあそれもお前と言えばそれだけか…」
スラルはこれ以上カミーラは話す事は無いと判断し、剣の中へと消えていく。
スラルとしても色々と調べたい事もある。
スラルが消えたのを見て、カミーラは不快そうに鼻を鳴らす。
相変わらずスラルという存在は気に入らない。
昔は魔王で有る事と、綺麗な女という事で気に入らなかった。
だが今は別の意味でスラルという女が気に入らない。
(貴様も十分すぎる程拘っていると思うがな)
カミーラは目の前で眠るランスを見る。
今回の戦は危なかったと言えば危なかっただろう。
勿論カミーラが本気でランスを捩じ伏せるつもりならば、カミーラは既に勝利している。
だが、それではカミーラ自身が納得しないのだ。
ランスが言うには面倒臭いプライドなのだが、そのプライドこそがカミーラが取り戻した大きな事。
カミーラはランスという、取るに足らないと思っていた人間にその事を思い出させられた。
「フン…」
ランスの血色はどんどんと良くなってきている。
今回の出来事はカミーラにとっても非常にプライドを傷つけられた。
(よりにもよって…あのような結末になるとはな…)
突如として襲ってきたはぐれ魔人…ランスはあの時自分が無防備になろうとも、あの魔人を狙った。
そしてカミーラはそれに気づきながらも、その手を止める事が出来なかった。
それが何よりも、カミーラの癇に障った。
「貴様は…どれだけ私を侮辱するのか…」
眠っているランスを見て、カミーラはその手を首に持っていく。
今ここでランスに己の血を与えれば、ランスは容易く自分のモノにはなる。
しかしカミーラはそんな安易な方法は望まない。
ランスを打ち砕いてこそ、己が満たされるのだ。
カミーラがランスに触れていると、カミーラはランスの変化に眉を顰める。
それはランスであるならば当然の事、ハイパー兵器に力が入ってきているのだ。
「こういう時も貴様という男は…」
何処までも下品で、下衆で、己の欲に正直な男。
そのくせ、永遠の命には全く興味を示さず、己の決めた道を決して曲げない男。
「…」
そして何を思ったか、カミーラはランスの上に跨る。
「非常に腹立たしい事だ。だが、今更お前の無礼を咎めようとは思わぬ」
言い訳のようにカミーラは呟くと、そのまま自分の準備が出来ている所にランスを迎え入れる。
隣のスラルが見ていようが最早関係無い。
そのままカミーラは意識がまだ戻っていないランスを犯し始めた。
「むぐ…な、何だ?」
そしてその感触があれば、当然ランスは目を覚ます。
素晴らしい感触と共に、ランスの体にはぽたぽたと汗が落ちてくる感触がある。
ランスの目に入ったのは、ランスの上で腰を振るカミーラの姿だった。
「って何をやっとるんだお前は」
「…起きたか」
カミーラは構わずにランスの上で動き続ける。
「勝手に使わせて貰っている。文句は無いな」
「勝手な事を言うな! あっ…」
ランスは何かを言おうとするが、やってきたのは快感の波だった。
そしてハイパー兵器から皇帝液が放たれ、カミーラも満足したようにランスの上に倒れる。
「ふぅ…」
「貴様、俺様に攻撃をしておいて、さらにレ○プするとは何て奴だ」
「フン…」
カミーラはランスの上から体をどけると、そこからは大量の精液が流れてくる。
「どれだけやっとるんだお前…」
「お前は私のモノだ。お前をどうしようが私の勝手だ」
カミーラは微笑みながらランスの体を起こす。
そしてランスの傷跡に触れる。
「…治っているようだな。どうやら貴様の傷の治りは早いようだな」
「そんな事はどうでいい! それよりもあいつは何だ!?」
ランスが憤っているのは、折角カミーラを倒せるかもしれないタイミングだったのに、それを邪魔をされた事だ。
「私も知らぬ。だが、魔人の気配はした。ジルも存在を把握していないはぐれ魔人だろう」
「そんなのがおるのか。だがそんな事はどうでもいい。俺様が勝っていたはずなのに邪魔をしおって…そうだ! あの戦いは俺様の勝ちだ! そうだろうカミーラ」
ランスの言葉にカミーラは薄く笑う。
「知らんな。これが今の結果だ…だが、そんな貴様にも褒美をやらねばなるまい」
「何をだ」
ランスの胡散臭そうな顔をすると、カミーラはランスの手を引きそのまま自分の胸元にランスのハイパー兵器を包み込む。
「私がお前の望む快楽を与えてやろう。好きにするがいい」
そんなカミーラの様子に、ランスは気を良くしたようにニヤリと笑う。
「よーし、じゃあお前にはした事無い事をしてもらおうか」
その後はスラルは呆れと驚愕の顔で二人の情事を見ていた。
(まさかあのカミーラがここまでやるとはな…)
今のカミーラはランスのハイパー兵器を口に含んでいる。
まさかあのプライドの高いカミーラがそんな事をするとは思っていなかった。
しかもかなりの情熱的な行為にはスラルも無いはずの心臓がどきどきしている気がする。
そのままカミーラはランスの精液も躊躇わずに飲み込み、そのままその胸も使ってランスに快楽を与えていた。
そして二人はそのまま貪るように体を求めあい、ランスは戦いの疲労も有り眠ってしまった。
「ランスー! 何処よ!」
「レン! あそこじゃ!」
その時、上空からレンとお町の声が聞こえてくる。
「来たか…」
カミーラはそれを見て服を着る。
ランスとの戦いで傷はついてしまったのが不快だが、戦いの結果として納得する。
「スラル…後は貴様の好きにするがいい。心配するな。ジルにはランスの事は言わぬ」
「…まあ信じるさ。お前がランスの事を魔王に報告するメリットが無いからな。それにしても…お前は本当に我の事を何とも思っていないのだな」
スラルの言葉にカミーラは薄く笑って飛び去って行った。
残ったのは全裸で眠っているランスと剣の中にいるスラルだけだ。
そしてレンとお町がランス達を見つけ、小島に降りてくる。
「大丈夫ランス! って何よこれ!」
レンは地上に降りて思わず鼻を抓む。
そこには外にであるにも関わらず、猛烈な淫臭に満ちていた。
「カミーラが飛んでいくのが見えたと思ったら…何をやってたのよ」
レンは呆れた顔で眠っているランスを見る。
その傷口が塞がっているのを見て、取り敢えず安堵のため息をつく。
「いい加減起きなさいよ」
そしてランスの顔を抓ると、ランスは唸りながら起き上る。
「ううー朝か」
ランスは気怠そうに起き上る。
「あれ? カミーラはどうした」
「もう行ったぞ。全く…お前という奴は大怪我を負ったと言うのに相変わらずな奴だ」
「ふーん」
ランスは取り敢えず乾かしてある服を着るが、穴が開いている服に少し嫌な顔をする。
「後で我が直してやろう。それくらいは出来るからな」
お町がランスの服の穴を見てそう答える。
「おう、そうか」
ランスをお町の言葉を聞いて気分が良さそうに答える。
あのお町がこんな事を言うとは、非常に喜ばしい事だ。
「で、ここは何処だ」
「ここは何処かの島ー。久しぶりランスー」
「うお!?」
ランスが周囲を見渡した時、突然足元からのんびりした声が聞こえてくる。
そこに居たのはセラクロラスだ。
「じゃあランス。何時ものいくねー。てやぷー」
そしてランス達は再び光に包まれ消えていった。
翔竜山―――そこには1体のドラゴンが戻ってきた。
ドラゴンの名前はカイン、かつての魔王アベルの兄弟にして、その戦いで消えたドラゴン。
そのドラゴンが非常に不満そうな顔で同じドラゴンに愚痴っていた。
「どーなってやがんだ! あれがKDだってのか!? 一体何があったらああなるんだよ!」
「落ち着きたまえよカイン…変化というのは誰にでも起こる。そういうものだろう」
「起こり過ぎだっての! だけどよ…本当に絶滅寸前なんだな…信じられないけどよ…」
深刻な顔で項垂れるカインを見て、同じドラゴンであるキャンテルも複雑な顔をする。
カインの常識は魔王アベルにカミーラが囚われた時のままなのだ。
つまりは、あの大破壊をカインは全く知らない。
今の世界の変化を中々受け入れられないのは無理も無いだろう。
「そしてノスの野郎も魔人になったのか」
「ああ…魔王ジルに魅せられたようだ。ドラゴンの変化もまたノスには耐え難いものだったのだろう…」
「頭がこんがらがって来たぜ…それに人間ってやつはそんなに弱いのかよ。ランスの奴が別格だったって事かよ」
「話を聞く限り、とんでもない人間も居たものだね。まあ人間だから寿命も早いと思うのだがね…」
キャンテルの言葉を聞いて、カインは鼻息荒く闘志をむき出しにする。
「まあそいつは心配無いだろうよ。あいつは…すげえ面白い奴だ。事情はスラルって奴に聞いたしな…」
時間を移動しているというのはにわかには信じ難い事だが、カインにはある種の確信があった。
自分がこうして時を超えて来たのだ。
だったらそれが他の存在にあってもおかしくは無い。
「少しは大人しくしていてくれよ、カイン。アベルはもういないのだから…」
「しばらくは退屈って奴を満喫してやるよ」
キャンテルの苦笑いに、カインもまた苦笑で返すのであった。
そして魔軍でも大きな変化が起きていた。
魔王ジルによって新たな魔人が4体生まれていた。
魔王ジルの元に神が現れ、ある存在をジルに差し出した。
創造神ルドラサウムは今の世界を気に入っていた。
それ故に、この世界を構築した魔王に褒美を授ける事を3超神に命じた。
3超神が選んだ褒美とは、破壊神ラ・バスワルドを二つに分けて魔王に与える事だった。
それを渡されたジルは、二つに分かれたバスワルドにそれぞれ魔血魂を与え、二人の魔人が生まれた。
それが魔人ラ・ハウゼルと魔人ラ・サイゼルの二人だ。
だが、ジルはその二人の魔人を警戒していた。
神からの褒美と言っても、ジルは神を信じてはいなかった。
しかし、それでもジルはその二人を注視もしていた。
それはランスの剣にあったのが、ラ・バスワルドの力の欠片だったのは分かっている。
ならばランスと何らかの関係がある…ジルはそう確信していた。
そしてもう二人の魔人が生まれた。
まずはカミーラが捕えて来た人間の男で有るレイ。
そして人間牧場から戯れにジルが魔人にした男のアイゼル。
新たな魔人が4体も生まれ、更に人間の情勢は悪くなっていった。
しかし、同時に魔物牧場もまた稼働しており、魔人が増えたからといってどうなる事でも無い。
むしろ新たな魔人が生まれた事により、魔人の枠が減った事が魔物達には重荷になっていた。
女の子モンスターであるメディウサが生まれた事で、魔物からも魔人になれるという僅かな希望はどんどんとすり減っていく。
だが、そんな事は魔王ジルにはどうでも良い事だった。
人間も魔物も同時に苦しめばいい、魔王ジルの頭にあるのは人間と魔物への憎悪。
そして、自分に足りないものを埋める為の男が必要である、ただそれだけだった。
「ふむ…今回はこれで全てかね」
「はい、ケッセルリンク様。どうやらスラル様の書かれた書物はこれ以外には無かったようで…」
「ああ、それは仕方のない事だよ。スラル様の書物が残っているだけでも僥倖だ」
ケッセルリンクは使徒達が集めて来た書物に目を通し、それが間違いなくスラルの筆跡である事を確認する。
もう何度も見た筆跡なので、間違えるはずは無い。
これは間違いなくスラルが書き残した書物ではあるが、これが果たして自分の望むものかどうかは分からなかった。
「ケッセルリンク様。ラ・ハウゼル様とラ・サイゼル様がいらっしゃいました」
エルシールの言葉にケッセルリンクは読んでいた書物を棚に戻す。
ここは後にトランシルバニアと呼ばれる土地でケッセルリンクが建てた城だ。
魔王城からは程々に遠く、またかつてのカラー達が住んでいた森の近く。
そこはケッセルリンクからしても丁度良い土地だった。
「失礼しますね。ケッセルリンクさん」
「邪魔するわよ。ケッセルリンク」
そして二人の魔人が部屋に入ってくる。
二人は髪形、髪の色、目の色、服と違う所は有れど良く似ている。
それもそのはず、彼女達は双子の魔人―――そういう事になっているからだ。
そしてエンジェルナイトの魔人、という事でケッセルリンクはまずは一番に彼女達にコンタクトをとった。
エンジェルナイトならばもしかしたらレンの事も知っているのではないかという事と、そしてランスに関わりがあるのでは無いかという事。
生憎とその二つは空振りだったが、それでも彼女達はケッセルリンクとしても非常に話しやすい存在だった。
こうして彼女達がここに来るのもケッセルリンクが普段からよく交流が有るからだ。
「よく来た、二人とも。ハウゼル…もしかしたら新しい本を探しに来たのかね?」
「はい…その、恥ずかしながら」
「相変わらずよねー、ハウゼルは。こんなの見て面白いのかしらね」
恥らいながら頷くハウゼルに、サイゼルは呆れたように近くにあった本を取る。
少し内容を見るが、直ぐにその本を元の場所へと戻してしまう。
「双子だというのに性格は随分と違うな。まあそれも不思議では無いがね」
ケッセルリンクは薄く微笑みながら、ハウゼルに渡す本を使徒に持ってこさせる。
「こちらになります、ハウゼル様」
シャロンがハウゼルに望んでいた物を渡すと、ハウゼルは嬉しそうにその本を抱きしめる。
ハウゼルはまだ使徒を作っていないので、火炎書士はまだ存在して居ない。
なのでこうしてケッセルリンクの所に熱心に通い詰めていた。
(ある意味魔人とは思えぬ性格だな。しかし、そんな性格だからこそランスとも会わせやすくもある…)
ケッセルリンクはスラルから全てを聞いていた。
あの時ククルククルを倒した後で、ランス達は神と出会ったようだ。
生憎と自分達にはそれを認識できなかったようだが。
その話によると、破壊神の力が二つに分けられ魔人となると。
詳細を聞けば、間違いなく目の前にいるラ・ハウゼルとラ・サイゼルで有る事は想像に難くない。
だからこそケッセルリンクは二人と積極的に交流を持っていた。
全てはランスの元にジルを戻すために。
「おう、居るかケッセルリンク」
「あ、レイ様! 今ケッセルリンク様は来客中です!」
その時突如として入ってきたのは新しく魔人になったレイだ。
「げ、レイだ」
レイが入ってきたのを見て、サイゼルが露骨に嫌な顔をする。
「サイゼルとハウゼルか。お前達も来てたのかよ。まあどうでもいい。ケッセルリンク、リベンジしに来たぜ」
サイゼルとハウゼルを一瞥すると、レイは突然ケッセルリンクに勝負を挑んでくる。
レイは魔人になってから、他の魔人にも喧嘩を売っていた。
他の魔人はそんなレイを無視したり、喧嘩を買ったりと色々だ。
そしてケッセルリンクは、レイに力を見せつけるためにレイを叩きのめした。
魔人四天王であるケッセルリンクが、魔人となって日の浅いレイに負ける事は無かった。
「レイ。生憎と私も忙しい。そうお前と付き合っている時間は無い」
「ああそうかよ。まあ今はいいけどな」
ケッセルリンクの言葉にもレイは特に気を悪くす訳でも無く椅子に座る。
「いや、あんた何で当然のように座ってるのよ。相変わらず図々しいやつね」
「お前こそ何時も何時もハウゼルと一緒じゃねーか。金魚のフンかよ」
「あ、何よ。死にたい訳?」
一瞬で剣呑な空気になるサイゼルとレイ。
共に気が短い二人なので、こうなるのはある意味当然でもある。
「そこまでだ。私の館でこれ以上のいさかいは止めて貰おうか」
ケッセルリンクの気配が変わり、魔人四天王としての濃厚な気配が湧き上がってくる。
それは魔人相手でも背筋を凍らせる程の迫力を持っている。
それには流石のレイも降参と言わんばかりに手を上げる。
「分かったよ。まあ俺は色々と回って来るか」
レイは素直に立ち上がると、そのまま部屋を立ち去る。
「おっと、さっきはわりぃな。じゃあな」
そしてバーバラに一言詫びてから消えていく。
魔人レイは短気で喧嘩っ早い所は変わっていない。
だが、ランスという人間と出会い、それと競い合おうとした事で少し心に余裕が出来ていた。
「まったく…あいつ、人間じゃ無くてヤンキー出身なんじゃないの?」
サイゼルは去っていったレイに対して毒づく。
「姉さん…あんまりレイを怒らせるような事はしないでよ」
「相変わらずいい子ちゃんなんだからハウゼルは。ま、私もちょっと出て来ようかな」
サイゼルも立ち上がると、そのまま窓を開くと自分の翼で何処かへと飛んで行ってしまう。
そんなサイゼルを見てケッセルリンクはため息をつく。
「全く…あいつも破天荒な奴だ」
「ごめんなさい、姉さんはあんな性格だから…」
ハウゼルはケッセルリンクに謝るが、ケッセルリンクは気にしていないと言わんばかりに手を振る。
「それにしても…例の感覚は今でもあるのか?」
「はい…私も姉さんも、誰かに会わなければいけないという思いが有るんです。姉さんが世界を回っているのも、それが関係しているんだと思います」
サイゼルはよく世界を飛び回っている。
だが、それは退屈凌ぎと言うよりも、何かを探している動きだと言ってもいい。
「黄色いトリが囁くのだったな。何者かに会えと」
「ええ…私も姉さんも全く同じ夢を見るんです。姉さんはそれが気になって飛び回っているみたいで…」
「そうか…見つかると良いな」
ケッセルリンクはその言葉を少しだけ複雑な顔をする。
黄色いトリ、それはケッセルリンクも知っている例の存在だろう。
つまりは運命の女…というヤツなのだろう。
(やれやれ…知ってはいたが、あいつの運命の女というのは一体何なのだろうな)
だが、サイゼルが積極的に運命の相手とやらに会いに行くのはケッセルリンクにとっては好都合だ。
(このままランスとコンタクトを取れればいいのだが…ランスが今の時間に居るかはわからんからな。そこばかりは運命とやらに身を任せるしかないか)
「ハウゼル。君はその相手を探さないのかね?」
「あ…探した方がいいかもとも思うのですが…」
ハウゼルはそこで少し恥ずかしそうに頬を染める。
「相手に探してもらう…というのもいいかなぁって…」
恥らいながら本を手にするハウゼルを見て、ケッセルリンクは苦笑するしかなかった。
この時代、人類の歴史―――どころか、魔王の歴史すら揺るがせるある事が起きる。
それこそが歴史上最高のパーティーと呼ばれるエターナルヒーローの登場である。
だが、エターナルヒーローの結成の前には色々な事がある。
ある者は魔人への復讐心から、ある者は純粋に魔王を倒すという決意から、ある者はその純粋な者を助けるために。
そしてその復讐心を抱く事になる者に、その瞬間が襲って来ていた。
それはある者が住む平和な村へと訪れた悲劇。
「げひゃひゃひゃひゃ! 殺せ殺せー!」
「今魔王はいないんだ! だったら好き勝手やって死んでやるぜー!」
魔王ジルは魔物にとっても恐怖の象徴。
勝手な事をすれば即処刑、悪ければ魔物牧場に送られ一生をその中で過ごす事になる。
「そうだ。魔王はいない。ならば人間を殺しても問題は無い。だから殺しつくせ」
そんな恐怖を吹き飛ばすのが、魔人という存在。
そしてここには魔人が存在していた。
「日光! 逃げろ! 逃げるんだ!」
「お前だけでも生き延びるんだ!」
「父上! 兄上!」
JAPANにあるごく普通な平凡な村。
魔物から隠れて過ごしていた者達は、それでも何とか平和に過ごしていた。
だが、その平和は終わりを告げ、魔人を含めた魔物達からの襲撃を受けていた。
「行け日光! 振り返るな!」
「そんな事は出来ません! 私も戦います!」
日光と呼ばれた少女は己も刀を抜いて戦おうとする。
そんな日光を兄が諭す。
「駄目だ! 魔人が相手ではどうする事も出来ない! 私達が時間を稼ぐ! だから今の内に逃げるんだ!」
「兄上…!」
兄の言葉に日光は唇を噛みしめる。
周囲では既に目を覆う光景が広まっている。
魔物兵達が欲望のままに人間を殺しまわる光景。
ある者は嬲り殺され、ある者は面白半分に痛めつけられて殺される。
まさに地獄の光景…それがここにある。
「魔人め! これ以上好きにはさせんぞ!」
日光の父が魔人の前に立ち塞がる。
「愚かな…人など魔人の前には無力」
それは侍のような鎧に身を包んだ一体の魔人。
魔人の名前はイゾウ、ある侍が魔血魂を飲み込んだ事で魔人となった存在。
魔人になってからは、ジルから隠れながら人を斬り殺して回っていた。
侍とは名ばかりの只の殺人鬼でしかない存在だ。
「だが我が剣の試し斬り程度にはなるだろう」
イゾウは刀を抜くと、そのまま日光の父に斬りかかる。
日光の父はその刀を躱して魔人に斬りかかる―――が、魔人の無敵結界の前に攻撃は弾かれる。
そしてその瞬間、日光の父の体が両断される。
「ククク…今宵の剣も血に飢えておる。もっと斬らせろ…もっと血を吸わせろ!」
魔人イゾウは狂ったように笑うと、そのまま手当たり次第に人間を斬っていく。
「日光! 逃げろ!」
日光の兄もまた刀を持って魔人へと向かって行く。
「死にに来たのはお前か。何人でも構わん。その血を捧げよ!」
日光の兄は魔人の攻撃を受け流しながら魔人と斬り合う。
魔人の持つ刀までは無敵結界で覆われていないようで、何とか斬り合う事は出来る。
だが、魔人と人間ではその力が違い過ぎる。
斬り合えているのもごく僅かな時間で、直ぐに体力の限界が来る。
そして体勢を崩した瞬間、魔人の剣が日光の兄の手を斬り飛ばした。
「!!!」
日光は声にならない悲鳴を上げる。
だが、倒れそうになる兄の顔を見てその言葉を思い出す。
『逃げろ』、とその口は言っていた。
日光はその意志を受け、唇を噛みしめながら逃げようとした時、本来の時間の流れとは違う事が起こる。
「ぎゃははははは! 人間発見!」
「!」
魔物兵の一体が日光の腕を掴む。
「おうおう! 上玉じゃねえか! こりゃ楽しめそうだな!」
「俺が見つけたんだから俺が最初だぜ!」
「どうせぶっ壊すんだから同時にやればいいだろうよ!」
下卑た魔物兵の声が響くが、それでも日光は諦めるつもりは無い。
無いのだが、
「おらっ!」
「あぐっ!」
魔物兵の一人が日光の腕を折る。
それだけで日光は呻きながら地面に倒れる。
「じゃあ俺からやらせてもらうぜ。いやー、人間をぶっ壊れるまで犯すなんてやった事がねーからよー! 簡単に死ぬんじゃねーぞ!」
魔物が日光の服を引き裂き、その凶悪な性器を露出させた時、まるでスローモーションのように魔物の体が真っ二つになって倒れる。
「…え?」
その様子に魔物兵が困惑した声を上げる。
だが、その困惑は一瞬、直ぐに他の魔物兵も同じように体が両断されていく。
「フン、それは俺様の女になる奴だぞ。貴様等のような雑魚共が触れるだけでも問題外だ」
「相変わらず変な所に拘るのね。ま、いいけどね」
「それよりも魔人が居るようだな。だが男か…ランスが探している魔人では無いな」
「そんな事よりも早く移動した方がいいのではないか? 他の魔物達が来ては厄介じゃ」
戦闘に乗り込むのにはまるで緊張感が足りない言葉が響いてくる。
「何だてめえは!」
「ぶっ殺してやる!」
生き残った魔物兵が男に襲い掛かる。
「フン、雑魚共が」
男は襲ってくる魔物兵に対して剣を抜く。
日光はその剣を見て体が震えるのを止められなかった。
闇のような深さを持つ黒い剣は、まるでそれ自体が生きているかのような存在感を放っている。
魔物達はそれに気づかずに男に襲い掛かる。
「死ぬのはお前らじゃー! 女を傷つける奴は許さん!」
「げべ!?」
男の剣が振りおろされると、魔物兵は頭から真っ二つになって倒れる。
「え?」
「邪魔じゃ」
同僚が人間に一太刀で倒された事に動揺した魔物兵だが、狐の耳をした少女がその手から電撃を放つと黒焦げになって倒れる。
「お町も随分強くなった。まあ俺様の側に居れば当然か」
「フン、これでも妖怪王じゃぞ。これくらい出来なくては黒部殿に笑われる」
男は狐耳の少女の頭を乱暴に撫でる。
少女は得意気に胸を張る事でそれに応える。
「大丈夫? 取り敢えずヒーリング」
そして日光に近づいてきた金髪の美しい女性が回復魔法をかける。
日光はその光景を呆然と見ていた。
「さて…相手は魔人だがどうする、ランス。我としては今魔人相手に事を構えるのは避けるべきとも思うがな」
銀色の髪をしたこれまた美しい女性が男に問う。
ランスと呼ばれた男はその言葉を鼻で笑う。
「俺様の女を襲った奴は絶対に許さん。ぶっ殺す!」
ハウゼルとサイゼルは鬼畜王から好きだったから出せて嬉しい
ランス10での変化はかなり嬉しかったですね
日光がついに登場です
いや、本当に長かったなあ…