ランス再び   作:メケネコ

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エターナルヒーロー

「私に剣を教えて欲しいのです」

 そう言う日光の目は真剣そのものであり、ランスでも茶化したりする事が出来ない場面だ。

 だが、ランスはその内心でにんまりと笑っていた。

(やーっぱりこうなったか。いや、こういうタイプだったらこうなると思ってたぞ)

 ランスも女を見る目はそれなりにある。

 これまで幾人もの女を口説き続け、実際に数多くの女性がランスの事を真剣に想っている。

 だからこそ、日光がそう言うのはランスも完全に予想していた。

 日光の目の中にある怒り、そして復讐心をランスは敏感に感じ取っていた。

 魔想志津香程激しく復讐心を出してはいないが、それでも彼女と同じ気配をランスは感じていた。

「ほー。それはつまり俺様に従うという事だな」

「…そう取って貰っても構いません」

 ランスの言葉に日光はやはり己の言葉、そして信念を曲げない。

 その言葉にランスは口元に笑みを浮かべる。

 それは完全にランスの計画通りの言葉であり、自分にとっては都合の良い言葉であった。

 勿論これからの事は分からないが、それでも自分の予想通りの展開になったのはランスにも喜ばしい事だ。

 だが、それは意外な所から止められる。

「待て。我は反対だ。ランスに剣を教わっても得る物は何も無いぞ」

 日光の言葉に反対したのはスラルだった。

「何だと。どういう意味だ」

 まさかスラルが止めて来るとは思ってもおらず、ランスも少し不機嫌な顔でスラルを睨んでる。

 スラルはそんなランスの視線を意にも介せずに、

「言葉通りだ。例えお前に剣を習っても、それが身につく事は無い。お前の剣は完全な我流であり、それを極めている。我の見た所、お前と日光の剣は対極にあるだろう」

 それはスラルが見た冷静な観察眼から出た言葉だ。

 元魔王であるスラルにはランスには無い観察力がある。

 そして長年ランスの剣を目にしていたから分かる、ランスの剣はランスにしか扱えない。

「私も同感。それにランスは刀は使った事は無いでしょ」

「馬鹿にするな。JAPANの刀は使った事くらいはあるぞ」

 レンもスラルの言葉に同意する。

 持っている剣にも大きな違いがあり、日光は間違いなく刀を使用する典型的なJAPANの人間。

 対するランスは大陸の剣…ロングソードやバスタードソードといった両刃の、そして重量のある重い剣を使用している。

 まさに対極、そんな人間から剣を教わっても良い事は無いだろう。

「とまあ我は反対はするが、お前自身が決める事だ。ただ、ランスに剣を教わるのは反対だが、お前がついて来るという事は良い事だと思う。ハッキリ言えば、ランスの側はある意味安心だからだ」

「………それは」

 スラルの言葉に日光は考え込む。

 日光からすればこの家の存在は信じられないものだ。

 何しろ人間は魔物から隠れるために、僅かな明かりで生活をしていくしかない。

 簡単に水は手に入り、体を清める浴槽すら存在する。

 更には暖かな布団に豊富な食料、言い換えれば贅沢とも呼べる生活がそこには存在して居た。

 勿論日光はそんな贅沢には心惹かれない。

 だが、日光が何よりも心惹かれたのは、魔人と戦うランスの姿だった。

 自分も剣には多少は覚えがあるが、ランスの剣はまさに別次元の強さだった。

 魔人すらも圧倒する剣技、そして戦い方。

 そして、この人間は魔人を恐れずに真正面から向かって行った。

 それが何よりも…日光には眩しかった。

「それでも…私は家族の仇を自ら取りたいのです。それはおかしな事でしょうか」

 日光の絞り出すような声にスラルもレンも何も言わない。

 どうせ止めても聞く様な相手で無い事は分かっている。

 ただ、それでも一応は止めておいただけだ。

「フン、そんなのはお前の勝手だ。お前のしたいようにすればいい」

「ならばそうさせて頂きます。よろしくお願いします、ランス殿」

 やはりこうなったかと言わんばかりの顔をするスラルだが、直ぐにその顔は真面目なものになる。

 まずは見極めねばならぬ事が有るし、自己紹介もしておかなければならないだろう。

 ランスに関わった以上、どうせ長い付き合いになるのだから。

「まずは自己紹介と行こうか。まずはランスからだな。お前がリーダーなのだから」

「おう、俺様がトップだ。だからお前も敬えよ。このランス様をな」

「次は我だな。我はスラル。ランスのパートナーだ」

 スラルはごく自然に自分がランスのパートナーであると言う。

 もうそれだけ長い時間をランスと過ごしているのだから、そう言うのが自然に感じた。

「私はレン。私の任務はランスを守る事。まああんたも守ってあげるから安心しなさいな」

 レンはあまり日光にも興味を示さない。

 エンジェルナイトである彼女からすれば、人間はやっぱり人間でしかない。

「我は末知女殿…まあお町で構わぬ。見ての通りの妖怪じゃ」

 お町の正体を聞き、日光は納得する。

 何かのファッションかとも思ったが、妖怪ならばあれだけの強さも理解出来る。

「私は…日光です。お願いします」

「自己紹介が終わった所で…突然だが、日光。お前の力を見せて貰おうか」

 スラルの言葉に日光も決意を持った顔で刀を手にする。

「おいスラルちゃん。いきなり何を言っている」

「いきなりだからいいんだ。それに仲間となるならその実力は正確に把握する必要が有る。そうでなければ生きていけない、そうだろう?」

「間違ってはいないわね。いいんじゃない、ランス。剣を教えてあげるんでしょ?」

「そうじゃの。それに主の力を見せるいい機会ではないか?」

 女三人組が揃って同じような事を言う事にランスは憮然とする。

 女三人寄れば姦しいと言うが、まさにその通りだとランスも思う。

「まあいい。俺様の力を見せてやろう。来い、日光」

「はい」

 こうしてランス達は魔法ハウスの外に出る。

 ここは開けた場所ではあるが、特に魔軍が居るという事は無い。

 なので思う存分やり合うことが出来る、そんな場所でもあった。

「よーし、かかって来い」

 ランスが何時ものように剣を構えた時、スラルがそれを止める。

「待て、ランス。ハデスは使うな。その剣は強力すぎる。クリスタルソードも強力すぎるから…何処かで拾ってきた剣があっただろう。それを使え」

「何だと」

「当たり前でしょ。それを使ったら訓練にならないでしょ」

 レンはそう言って適当に拾って来ていたロングソードをランスの足元に投げる。

「当然じゃろ。その剣とまともに打ち合える剣の方が少ないじゃろう」

「分かった分かった。久しぶりだな、こういう剣も」

 ランスはハデスを地面に突き刺すと、そのままもう一つの剣であるクリスタルソードも地面に突き刺す。

 そしてレンが持ってきたロングソードを拾うと、その感触を確かめる様に素振りをする。

「うーむ、いかんな。こんな剣では俺様の力を発揮する事は出来んな」

 ランスは不満を露わにするが、

「それくらいのハンデがあって丁度いい。ではレン、審判を頼むぞ」

「まあ私が妥当か。それじゃあ…はじめ!」

 レンの声に日光が刀を抜く。

 真正面にランスを見据え、その鋭い視線でランスを射抜く。

 対してランスはロングソードを肩に担ぐようにして日光と対峙する。

 勿論それは日光から見れば非常にいい加減な構えに見える。

(…どういう事? こうして相対すると…隙がすごいあるように見える。でも…打ち込むのが怖い…)

 あの時魔人と対峙したランスの迫力は本物だった。

 剣も異常なまでに鋭く、その剣筋は日光の目から見ても達人の一撃と言っても良かった。

 だが、その時の迫力は今は全く無い…にも関わらず、日光は打ち込む事が出来ずにいた。

 しかしそれでは自分の力を見せる事にはならない。

 そう判断した日光は一歩を踏み出す。

 それは非常に素早い動きであり、無駄が全く無い…それだけでも日光の剣は既に一流の領域に達していると言えた。

(いける!?)

 日光の刀がランスの首を狙った時、返ってきたのは剣と剣がぶつかる感触だった。

「ほー。早いな。謙信ちゃんとおんなじ位か」

 ランスは日光の刀をあっさりと受け止め、そしてそのまま力ずくで日光の刀を弾く。

 日光はそれで刀を落すという事は無いが、そのあまりの衝撃に腕が痺れる。

 しかしそれでも日光は優秀だった。

 そのまま独楽のように回転してランスに向かって刀を振るう。

「おっ」

 ランスはその剣を余裕を持って受け止める。

 確かに日光の動きは早いし、威力もある。

 だがしかし、ランスは今の日光よりももっと強い女性を知っていた。

 それこそがLP期における最強の女性剣士である上杉謙信だ。

 流石に謙信程の手数は無いが、それでも日光の剣の腕は彼女と互角と言っても良いだろう。

「だがまだそれだけだな」

 ランスは日光の剣を受けていたが、突如として攻撃に切り替える。

 自分の剣がランスに全く届かぬ事に日光は驚愕と、若干の焦りを感じていた。

 まさか自分の剣がこうまで簡単にあしらわれるとは思ってもいなかった。

 そう思っていた時にランスの剣が日光に迫る。

 縦に振り下ろされた剣を日光は刀で受け止める。

 そのままランスの剣を受け流し、返す刀でランスを攻撃する、その算段だった。

 しかしそれはランスの剣を受けた所で瓦解する。

「っく!」

 それは自分の想像を遥かに超えるランスの剣の重さだった。

 まるで鈍器ででも打ち付けられたかの衝撃は、日光の腕を痺れさせるには十分だった。

 剣を受け流そうにも、その重量がそれをさせてくれない。

 そしてさらなる予想外な行動が日光を襲う。

 それはランスの剣を受け止め体勢が乱れていた日光を襲ったランスの蹴りだ。

「ぐっ!」

 その蹴りは日光の腹部に当たり、それだけで日光は後ろに吹き飛ばされる。

 そして体勢を整える暇も無く、ランスの剣が日光に襲い掛かった。

「ほれほれ、どうしたー」

 余裕の顔と声でランスは日光を追い詰めていく。

 日光はそれに耐えるので精一杯だ。

 ランスの剣を受けるたびに体力がどんどんと削られていき、腕からどんどんと力が抜けていく。

 何とか歯を食いしばっている日光だが、ここからどうやって反撃すればいいのか、見当もつかない。

 そして決壊の時は直ぐに来た。

 ついに耐えられなくなった日光は完全にバランスを崩す。

「がはははは! ラーンスアターーーック!」

 そしてランスの必殺の一撃が日光の足元に炸裂―――しなかった。

 

 バキッ!

 

「あん?」

 鈍い音を立ててランスの剣が根元から折れたのだ。

 結果的にランスは隙だらけになったが、日光には最早そこを攻める体力が残っていなかった。

 日光は荒い息をつきながら地面に腰を下ろす。

 その顔は既に汗で濡れており、火照った体がランスには非常に色っぽく見えている。

 ランスが思わず襲い掛かりそうになったのを見透かしたように、レンが日光の体を抱いて立たせる。

「はいそこまで。ランスもそれ以上考えてるんじゃないわよ。そういう事をしてる訳じゃ無いでしょ?」

「そうだぞ、ランス。まあとにかく我の言った事が身に染みたと思うのだが…どうだ?」

 そしてスラルがこれまた間髪入れずに日光に問いかける。

 結果、ランスの手は行き場を無くして空を掴むしかない。

「…ええ、スラル殿の言っている意味が分かりました。確かに私ではランス殿の剣を真似る事は出来ない」

 日光もまた一流の剣士、スラルの言っている意味が良く分かった。

 ランスの剣は無茶苦茶なようでいて、実に恐ろしい剣だ。

 魔人と戦っている時は非常に綺麗に見えたのだが、受けてみると全く印象が違う。

 確実に相手を倒す、その一点に狙った非常に凶悪な剣技だ。

 それは技量とは違う、純粋に相手を仕留めるという揺るぎない迫力がある。

「もう一つは純粋なレベル差もある。ランスの剣を覚える…のは不可能だが、その戦い方を覚えるのは不可能ではない。どうだ、我等と共に行動をしないか?」

「あ、こらスラルちゃん。それは俺様の言葉だろうが。というかそんなのは決定事項だ。日光、お前は俺様についてくればいいんだ。そうすりゃ仇も取れるぞ。邪魔な魔人は俺様がぶっ殺すからな」

「…私は」

 日光としては自分自身の力で仇をとりたい。

 とりたいが…純粋に人間が魔人に勝てる訳では無い。

 無敵結界が有る限り、そもそも魔人に傷を負わせる事も出来ないのだ。

 ランスも凄まじい強さを持っているのは分かるが、それでも無敵結界には手も足も出ないのだ。

「で、どうする。まあ答えは決まっているだろうがな」

「…ええ。私は皆さんについて行きます。宜しくお願いします」

 日光は改めてランス達に礼をすると、そのまま力尽きたように意識を失った。

「無理をしていたようじゃな。家族を失った翌日にもランスに挑む程じゃが…それでも限界だったのじゃろうな」

 お町は感心したように日光を覗き込む。

 意識は失っているが、その顔には安堵したかのような安らかな顔だ。

「取り敢えず寝かせましょう。ランス、手を出すんじゃないわよ」

 ランスに釘を刺してから、レンは日光を担いで魔法ハウスに連れて行く。

 お町もレンの後について行き、残ったのはランスとスラルの二人だ。

「おいスラルちゃん。俺様の邪魔をするとはいい度胸だ」

 ランスの眼光にもスラルは全く怯まない。

「不可能な事を続けるほど不毛な事は無いだろう。お前の剣は真似できるものでは無いからな」

 スラルは肩を竦めてため息をつく。

(お前の剣は誰にも真似できんよ。お前の剣は間違いなくLV3なのだからな)

 もうスラルはランスの剣のLVが3であると確信している。

 それだけランスの剣の腕は異常なのだ。

 そしてそれはかつてのランスの敵であった藤原石丸も同じ。

 もし両雄が揃って魔軍と戦っていたのなら…もしかしたら本当に魔王以外はどうにかなったのかもしれないとも思う。

「まあお前が日光に手を出すのは自由だ。だが、あの女はそんな簡単には落ちんぞ」

 日光という女性は非常に硬い女だろう。

 それはこれまで色々な存在を見て来たスラルから見れば明らかだ。

「だがお前ならどうとでもするのだろうな。お前は脅迫だろうと取引だろうと何でもする奴だからな」

 非難するような目でランスを見るが、ランスには当然そんなものは通用しない。

「女を口説くためなら何でもするのは当然だ。まああの手のタイプは何度か会ってるからな」

 ランスは気にした様子も無くウキウキで魔法ハウスに戻っていく。

 そんなランスを見てスラルは何度目かのため息をついていた。

 

 そして日光が一眠りし、起きた後―――再びランス達はリビングへと集まっていた。

「改めて…よろしくお願い致します」

 日光は立ち上がり、深々と頭を下げる。

「おう、よろしくされてやる」

 ランスの言葉に日光は椅子に座る。

「さて…改めて聞くが、日光。お前はどうしたい? あの魔人をぶっ殺したいのか」

「はい…私は父上と母上、そして兄上の仇を討ちたいです」

 日光は嘘偽らざる言葉をランスに向ける。

 ランスとしては日光の言葉は好都合だ。

 何しろその過程で日光をモノにする可能性が高くなるからだ。

 それにランスには過去に魔想志津香という復讐に生きてきた女を知っている。

 そしてその後の事も。

「よし、ならば俺様に任せていろ。あのクソボケ魔人を殺せるようにしてやる」

 ランスからすればあの魔人は組し易い魔人だ。

 何しろ魔人特有の厄介さをあの魔人からは全く感じられなかった。

 だとすると、倒すのは容易…ランスはそう思っていた。

「ランス、倒すにしても色々と課題はあるだろう。何よりも倒す場が必要だ。魔王に存在を知られる訳にはいかないだろう」

「…それも何とかする」

 ランスは今は何よりも魔王に見つかる訳にはいかない。

 魔王とて、この世界の全てを見張れるわけではない。

 それにカミーラやケッセルリンクは間違いなくランスの事をジルには報告していない。

 逆に言えば、そんな運任せでしか魔王の追跡を逃れる手段は無いのだ。

「まずはレベル上げだろう? 日光がランス達についていくためにも、それが必要だと思うがの」

「そうねー。今のままじゃあ日光が魔人と戦うなんて無理でしょ」

「そうだな。適当にダンジョンを探すとするか」

 お町とレンの言葉にランスは頷く。

 レベル上げをするならダンジョンが一番だ。

 ランスはこれまでそうしていたし、これからもそれを止める気は無い。

「それは構わんが、まずはレベルアップをしたらどうだ? そうしなければ始まらんだろう」

「そういやそうだな。あの戦いからクエルプランちゃんを呼んでなかったからな。それに日光のレベルも知れるからな。カモーン! クエルプランちゃん!」

 ランスが指を鳴らすと、眩い光と共にクエルプランが現れる。

「………お、お久しぶりですランス。レベルアップですか?」

 現れたクエルプランはランスを見るが、何故かその顔が何時もとは少し違う。

 微妙にランスと視線を合わせ無いようにしている…というよりも明らかに目が泳いでいる。

「おいクエルプランちゃん。しっかりと俺様を見ろ。そしてレベルアップをするんだ」

「え、ええ…そうですね。それが私の仕事でもありますので…で、ではレベルアップします」

 クエルプランが謎の呪文を唱えると、ランス達のレベルが上がる。

「ランスのレベルは87になりました」

「おー、やっぱり初代魔王は違うな。一気に上がったぞ」

「スラルはレベル86になりました」

「…うーむ」

「レンはレベル112になりました」

「感謝します、クエルプラン様」

「日光はレベル22になりました」

「私も一緒に…ありがとうございます」

「以上になります。また用が有ればお呼び下さい」

 そうしてクエルプランは光と共に消えていく。

「…スラル殿の言ってるもう一つの意味が分かりました。確かにレベル差が凄いですね…」

 日光はランスのレベルを聞いて驚愕する。

 レベル87とは正に凄まじいレベルとしか言えない。

 何しろこの世界では才能限界が40でも超一流の世界だからだ。

「それは俺様が天才だからだ。そんな俺様と一緒に冒険を出来るんだ。その幸運に感謝しろよ」

「ええ、そうですね。私は運が良いのだと思います」

 ランスの軽口に日光は軽く微笑む。

(お、こいつもこういう風に笑う事が出来るのか。ただのお堅い侍って訳でも無いようだな)

 そんな日光をどうおとそうかランスは考えてる中、非常に難しい顔をしているスラルがいた。

「どうしたスラルちゃん。知恵熱でも出たのか」

「そんな事では無い。いや、我のレベルだが…86まで上がっているのが少し不思議でな。我の限界レベルがそこまで高いという事は無かったはずだ」

 スラルは自分のレベルに疑問を覚えている。

 魔王だった頃はレベルの事は全く考えた事も無かった。

 しかし人間の体に戻った今、自分の強さを示すのは技能レベルと才能限界しかない。

 そして才能限界はとっくに訪れていると思っていたのだが、自分の想像以上に才能の限界が高い。

 その事にスラルは嬉しくも納得がいっていなかった。

「ああ、そんな事か。そんなの俺様とやりまくったからだろ。何しろ俺様に抱かれれば才能の限界が上がるからな」

「………はあ?」

「そういやスラルちゃんもレンもシィルには及ばないが、やりまくってるからな。だったら限界レベルが上がりまくっててもおかしくないな」

「…はあああああああああ!?」

 ランスの当然だと断言する言葉にスラルは思わず大声を出す。

 何しろ才能の限界とは上がるものでは無い。

 確かに非合法的な手段…それこそ才能限界を上げるアイテムや、レベル神に賄賂を渡すなどという事で才能限界を上げる事は出来る。

 だがまさか、セックスをするだけで才能限界を上げるなど聞いた事が無い。

「スラルちゃんも俺様とやりまくってるからな。限界レベルも上がってるんだろ」

「そ、そんな事など…あ、ありえん…」

 

 バターン

 

「あ、スラルちゃん!?」

 そのままスラルは後方に倒れて目を回してしまった。

 最後に聞こえたのは慌てた様子で駆け寄る誰かの足音だった。

 

 

 

 後にエターナルヒーローと呼ばれる者達。

 彼らは歴代最強のパーティーとして名を残す。

 その一人がランスという本来は存在しない者に遭遇した。

 だが、歴史の歯車はしっかりと動き続け、ここに集結しつつあった。

「さて…今日はこれくらいでいいかな、ホ・ラガ」

「ええ。魔軍では無いはぐれモンスターですが…人に仇を成すならば排除しても構わないでしょう。ブリティシュ」

 ここに居る男こそがそのエターナルヒーローのリーダーであるブリティシュ、そしてそのブリティシュを支えている魔法使いのホ・ラガだ。

「やっぱりまだ人間牧場を解放は出来ないかな?」

「まだ無理でしょう。せめて私達についてこれる者達が後3人は欲しいね」

 ブリティシュの目的は人類の解放、そして魔王の撃破…それは人間ならば誰もが望む事。

 魔法使いのホ・ラガはそんな真っ直ぐなブリティシュに惹かれ、行動を共にしていた。

「まだまだ雌伏の時は続くという事かな…」

「ええ…ここ最近魔軍の動きが活発になってきました。これは噂になっている魔王がいない時間…魔人が好きに動ける時間です。今はまだ耐える時間が続くでしょうね」

 歴史上に数人しかいない魔法LV3を持つのがホ・ラガだ。

 聡明な彼は魔軍が活発になる時期、そして大人しくなる時期を把握していた。

 そして捕えた魔軍から聞き出した情報の結果、魔王がこの世界からいなくなるという話を聞いた。

 半信半疑ではあったが、こうして魔軍が人間を殺しに来る時間が増えた事がその可能性を高めていた。

 何しろ魔物もまた、魔王によって処刑され続けているのだから。

「世界は…変えられるのだろうか」

「それをやるのがあなただと私は確信していますよ。さて、戻りましょうか」

 二人の男は自分達が身を寄せている集落へと引き返していく。

 彼らがエターナルヒーローと呼ばれる事になるのはもう少し先の事だった。




急なレベル上昇は勿論魔王を倒したからです
魔王ケイブリスを倒したら凄い経験値が入りましたので

日光のレベルは少し迷いましたが、これくらいが妥当かなと思いました
いつ頃結成されたとか仲間になった順番とかは不明なので

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