「む~~~~~~」
スラルはダンジョンの中で納得がいかない表情を隠さない。
その視線の先に居るのは勿論ランスだ。
張本人はと言うと、日光と共にモンスターの駆除をしている。
ランスの剣は圧倒的で、バンバラ系のモンスターが面白いように駆逐されていく。
一振りされるだけでモンスターは一撃で両断される。
しかもその切断面は鈍器で殴られたように滅茶苦茶なものもあれば、綺麗な切断面で真っ二つにされるモンスターと色々だ。
「スラル。何時までそんな顔をしているのじゃ? それ程気にかかる事があるのか?」
「お町には分からないだろうが、我からすれば非常に納得がいかない事があるのだ」
お町の言葉にもスラルは未だに納得がいかない顔を崩す事は無い。
「そういうものかの…ランスに関しては考えるだけ無駄なのではないか?」
「我もそういう風に割り切れれば良かったと思っているさ。だが、これも性分だ。しかも我自身が気づかぬ内にその恩恵を受けていたとはな…」
スラルの悩みは勿論ランスの持つこの世界のバグの一つ、他人の才能限界を上げられるというとんでもないモノだ。
この世界の才能限界は不変…生まれた時から変わる事は無い。
中にはスラルが見つけたような、才能限界を上げられるというアイテムも有るのだが、そんなものは本当に極稀だ。
しかも上がるのは大体3~5の間でしかない。
それなのに、ランスとセックスをすればその女性の才能限界は上がっていく。
ランス自身がバランスブレイカーの存在だと言っても過言では無い。
「難儀な性分じゃな。当の本人はそんな事微塵も考えておらんだろうに」
「だから腹が立つ…いや、腹を立てても仕方が無いと言うのは分かっているのだが」
スラルは肉体を得てからは何度も何度もランスとセックスをしている。
だから自分のレベルもここまで高レベルになってしまったのだ。
「悪い事では無いから気にする必要は無いと思うがな」
「…まあ、そうなのだがな」
才能限界が上がるという事は良い事だ。
何しろこれからも強くなれるという事なのだから。
「どうしたスラルちゃん。なんか最近機嫌が悪いな」
「誰のせいだと思っている。本当にお前と出会ってからは我は色々な意味で休まらん。我をここまで悩ませるとはとんでも無い男だ」
近寄ってきたランスの体をスラルは軽く叩く。
勿論そんな事ではランスの体は揺るがないが、それくらいしなければスラルの気が収まらなかった。
「それよりも日光も大分強くなってきたのではないか? どんな感じだ?」
「え、ええ…何とか私のレベルも30にまで届きました」
日光がランスと出会って数日。
レベル上げにはダンジョン攻略が最適だと思っているランスは、今日もダンジョン攻略を楽しんでいた。
中々珍しいアイテムこそ見つからないが、それでも冒険はランスのライフワークだ。
どれだけ時を重ねようとも、これだけはランスは止められない。
「スラル、あなた何時まで引き摺ってるのよ。考えるだけ無駄よ無駄」
今でも悩んでいるスラルに対し、レンは気軽そうに手を振る。
「無駄なのは分かっているが、そう簡単には割り切れないだけだ」
「強くなれるんだから良いだろうが。それよりもとっとと先に進むぞ」
ランスの言葉にスラルはやはり納得がいかない顔をしながら進んでいく。
ただ、日光は既に肩で息をしており、体力に余裕が無さそうにも見える。
流石にレベル80を超えているメンバーと、まだ力不足とはいえ妖怪王について行くにはまだレベルが足りない。
「ランス、一回戻った方がいいのではないか? 日光が限界に近いと思うのだがな」
「い、いえ…そんな事は…」
お町の言葉を日光は否定するが、その上気した顔と汗を見れば既に限界に近い事は明らかだ。
「そう焦るな。今焦った所で体を壊すだけだ。そうなったらまた一からやりなおしだぞ。そんなのは面倒臭いからな」
ランスは日光の様子を見て、今日はここまでで終わりと判断する。
ランスの合図を受けて、レンがお帰り盆栽を取り出し、その枝を一本折る。
するとランス達は地上へと一瞬で戻って来る。
そして直ぐに魔法ハウスを起動し、疲れを癒す。
「…何度体験しても、アイテムというのは便利ですね」
疲れているにも関わらず、日光は進んで炊事を引き受けていた。
それくらいしか自分は皆に返せるものが無い、そんな日光の心から出た行為を止める者はいなかった。
ただ、それには炊事を出来る者がいないというリアルな状況もある。
ランスはそんな面倒な事をしないし、お町も家事についてはまだまだだ。
レンが一応は引き受けてはいたのだが、それでも料理が上手かと問われればノーだろう。
そしてスラルに関しては問題外、キッチンに立つ事すらランスとレンによって止められている。
スラルとしては非常に不本意だが、自分の作った料理を食べると相手が気絶するため料理は作らないでいる。
「なんだ、こんなのが便利なのか」
ランスとしてはこれが当たり前の生活のため、日光の言っている事が今一わからない。
今はGL期、人間にとっての暗黒の時代―――人間は魔物から隠れて生きてきた。
人間をとことん憎み、苦しめてきた本来のジルでさえ、人間を完全には追い込みはしなかった。
だからこそ、エターナルヒーロー、そしてガイという人類のバグが生まれたのだ。
「ええ…生きるのにも苦しむのが当たり前ですから。だからこそ、ランス殿達がこんな生活をしているのが信じられません」
ここは日光にとっては…いや、この世界に住む人間にとってはまさに夢の世界だ。
人は灯りを灯して生きる事すらも出来ない…それなのにここは当たり前のように灯りがある。
そして新鮮な食材と何時でも飲める新鮮な水、温かい寝床。
誰もが願ってやまない世界…それがここだ。
「日光、我から聞きたい事がある。知り得る限りでいいので答えて欲しい」
「分かりました、スラル殿。私の答えられる事であるならば」
「本当はもっと早く聞くべきだったのだが…少し頭が混乱していてな」
スラルは一度深呼吸する。
「魔物…いや、魔人の動きは活発になっているのか?」
スラルが気になったのはやはり魔軍…正確には魔人の動きだ。
魔人レキシントンはともかく、新たに現れた魔人の動きが不透明過ぎる。
魔人カミーラと魔人ケッセルリンクは魔王ジルの命令で動いていたので問題は無い。
そして魔人ケッセルリンクと話を聞き、魔軍の現状を正確に理解出来た。
その上で、魔王ジルの時代をスラルなりに分析した。
スラルが出した結論は、魔王としてのジルの人間への徹底した管理世界。
それがどんな意図を持っているかは分からないが、あの頭の良いジルが無意味にこんな事をする訳が無い。
もう一つは、自分が魔王にされた事…自分とランスの子を殺された事から来る、魔物への憎しみ。
その相反する感情が、人間と魔物を縛り付けている。
それがスラルの出した結論だ。
勿論それはスラルの予想であり、それが本当に正しいとは思っていない。
だが、大きく外れているとも思っていない。
それを考えれば、魔人が好き勝手に動いている…それにスラルは疑問を覚えた。
「…スラル殿の言う通り、魔人の動きが活発となったのはここ最近…という話を聞いた事が有ります」
「ここ最近…というのは具体的にどれくらいだ?」
「このような状況でも、人間は交易を続けています。勿論魔物に見つからないようにひっそりとですが。その中で魔物の動きが活発になる時期と、大人しくなる時期があるのです」
「理由は…分からないだろうな」
「流石にそこまでは…」
スラルは日光の言葉を聞いて考える。
今の状況とはまるで違うが、スラルも元魔王だ。
日光の言葉を合わせると、スラルには色々な可能性が思い浮かぶ。
(ジルが魔王として不安定…ではあるが、命令権はしっかりと使えていると考えていい。だとすると可能性は…魔王は定期的に不在の時間があるという事か?)
魔王も常に世界を見ている訳では無い。
スラルが魔王の時代でもそんな面倒臭い事はしなかった。
そして魔王一人でこの世界の管理など出来るはずが無い。
そのために魔王に忠実な24体の魔人と数億もの魔物が存在するのだ。
「我にも考えはあるが、あくまで推測の域を出ない段階で話すべき事では無い。確証を取りたい所だが…」
自分の考えの答えを得るためにも、ケッセルリンクには接触はしたい。
だが、そのケッセルリンクと接触するのは流石に難しい…基本的に、向こうから会いに来るのを待つしかないのが現実だ。
「そんな考えても分からん事など今は放っておけ。それよりも今は日光の事だろ」
ランスが少し憮然とした様子で日光を見る。
そんな視線に日光は少し居心地が悪くなったのか、体を小さくする。
「な、何か問題があったでしょうか」
「お前、しっかりしているようで少し間が抜けてるよな」
「あ、それは我も同感じゃ」
ランスの言葉にお町も頷く。
「そ、それはどういう事でしょうか」
「だったら少しくらい罠の事も考えろ。お前一人だったら間違いなくダンジョンで野垂れ死んでるぞ」
「うっ…」
ランスの指摘に日光も苦い顔をする。
(とにかく素直すぎるな。謙信とは違って愛ちゃんがいないからそこが危ういな)
日光は何処となく上杉謙信に似ている所があるとランスは感じた。
魔人への復讐心は志津香のラガールに抱いていた物に近いが、根本はお人好しの善人だ。
ただ、ランスからすれば善人とは決して褒め言葉では無い。
ランスにとっての善人とは騙されやすいという意味でだ。
「レンがいなければ危ない所も多かったからのう。注意力が無いという訳では無いのだが…」
「も、申し訳ありません…」
日光は顔を赤らめて小さくなる。
確かに今の自分ではランス達についていけないとは思っていた。
何しろ日光にとっては、ランス達は正に雲の上の強さを持つ存在だ。
「そんなに気にする事も無いだろう。そうならないために今強くなっておるのだから」
お町の言葉にも日光は小さくなるしかない。
「まあ気を付けろ。お前のミスでパーティーが全滅するという事もあるからな」
「はい…」
ランスの言葉は正しい。
何しろ一つのミスがダンジョンでは死に繋がる。
誰かが足を引っ張れば、それだけそのパーティーが苦境に陥る。
それがダンジョンというものだ。
「日光のレベル上げと考えれば出だしは上々だろう。だが、強いモンスターを求めて他のダンジョンに行くのも手だと思うが」
スラルの言葉にランスは考える。
日光が強くなったと言っても、そのレベルはまだ30程度。
勿論レベル30というのは決して低い値では無く、普通の冒険者としてもやっていけるだろう。
しかし、ランスのレベルは既に87、生半可な敵を倒してもレベルは上がらない。
つまり、このまま日光に付き合っていても、ランスのレベルは上がらない。
今ランスがアタックしているダンジョンは、出て来るモンスターはアカメやねこつぼ、サワーやフィッスネ等といった中級モンスターが出て来る。
「無理する事は無いだろ。まあとにかく今は日光のレベル上げでいいだろ」
「分かった。ではこのまま続けるとするか」
「申し訳ありません」
とりあえずこのまま、という事で本日も終わりを告げた。
その夜―――
「ふう…」
日光は沐浴を終えると、さっぱりとした気分で部屋へと向かっていた。
家族と居た頃はこんな贅沢など出来なかったが…それを考えると複雑な感情が芽生える。
(皆の仇を取りたいけど…まだ私は弱い。もっと強くならなければ…)
ランス達と居ると嫌でも分かる、自分とのレベルの差。
ランスもスラルもレンも恐るべき強さだ。
ランスはその剣の腕が恐ろしい程の強さ…そして、ダンジョンにおいては冷静な判断力を持っている。
スラルは凄まじい魔法の使い手であるだけでなく、魔法使いにも関わらずその肉体も強力だ。
更にはその冷静な判断力と、その知識。
非常に頼りになる人だ。
レンはガードであり剣士であり魔法使いであり神魔法も使えるという、まさに器用万能とも言える存在だ。
お町は自分で力不足と言っているが、それでも非常に強い。
その生命力、雷を操る力は凄まじい。
(私が一番の足手纏い…でも、こんな私を受けて入れてくれたランス殿達には感謝をしないと…)
本来であれば自分は見捨てられてもおかしくは無い。
それがこのGL期では当たり前だからだ。
日光が改めて決意を固めていた時、ランスの部屋が少し開いているのが見えた。
(ここは温かいけど、万が一があってはいけませんね)
日光としてはそれは気を使ったつもりだった。
だが、そこは最早お約束…日光が扉に近付いた時、そこから女性の嬌声が聞こえてきた。
(…え?)
その中で何が起きているのか分からなかった日光は、思わずその扉の隙間を覗いてしまった。
「!!!」
思わず悲鳴を上げそうになるのを日光は必死で堪える。
日光は自分が目にした光景が信じられず、もう一度その隙間から覗いてみる。
そして自分の目が間違っていなかった事に衝撃を受けると同時に、心臓が早鐘のように鳴り始める。
その顔は羞恥からか真っ赤に染まっており、一汗かいたはずなのにまた別の汗が噴き出てくる。
そこで目にしたのは日光からすれば信じられない光景だった。
そこにあったのはランスとスラルがセックスをしている所だった。
勿論日光も子供では無いので、二人が何をしているか分かっている。
だが、まさか自分の身近にいる二人がそういう事をしているのには流石に驚いた。
(あのスラルさんが…)
常に冷静のようでいて、実際には結構ポンコツな所が有る所も日光には好ましかった。
そして彼女の強さ、冷静さは日光にとっては見習いたかった。
その彼女が、ランスの上で体を仰け反らせながら悶えていた。
体全体を真っ赤にそめ、ランスに腰をがっちりと固定されながらその上で激しく喘いでいる。
普段から冷静な顔からは想像も出来ない程に顔を蕩けさせ、汗だくになりながらもその姿は美しい。
「!」
その時日光は心臓が止まりそうな程の衝撃を受ける。
一瞬スラルと目があったような気がしたのだ。
勿論それは杞憂なのだが、日光にはスラルが自分を見ていたように見えたのだ。
日光は急いでその場から離れる。
そして自分の部屋に戻り頭から布団を被って丸くなる。
「はぁ…はぁ…」
沐浴を終えた後だと言うのに、日光の体からは大粒の汗が流れる。
全身が火照り、荒い息をつきながら何とか心臓の鼓動を収めようとするが、そんな事では当然の事ながら収まらない。
(ラ、ランス殿とスラル殿がそういう関係だったなんて…いえ、おかしくは無いのですけど…)
ランスという人間は、確かに性格的には褒められた人間では無いのかもしれないと思っていた。
正直、日光もランスが自分をそういう目で見ている事は気づいていた。
それは男ならば特におかしな事でも無く、自分に熱い視線を向けてくる男は少なくなかった。
ランスは露骨に自分を見てはきたが、別にその事で嫌悪感を感じるという事も無かった。
そういう所はあれど、冒険に対する姿勢は真摯だし、何よりも不器用な優しさのようなものも感じていた。
だがそれでも、ああしてセックスをしている所を目にすると言うのでは話は別だ。
(うう…)
日光は布団の中で丸くなり、何とかあの光景を忘れようとしたが、どうしてもスラルのあの目が忘れられない。
あの蕩けた目の奥にある感情。
この時代では滅多に見られない、安心感と幸福感に満ち溢れたあの顔を。
日光の悶々とした夜は何処までも長く感じられた。
???―――
異質な空間。
その空間の裂け目からは悪魔のような姿や異界の魔物、そして下界が見え隠れする異形の空間。
そこに一人の女が佇んでいた。
その女こそ、魔王ジル―――第5代魔王にして現在の魔王。
魔王ジルの魔法レベルは3、その力が持つ通り彼女はミラクルと同じ様にゲートコネクトの魔法が使用できる。
その魔法を使い、ジルは新たな発見を試みていた。
「さて…どうするか…」
色々な異空間を見つけてから、ジルはこの空間の探索を続けていた。
ランスの事も気にかかるが、ランスに関しては自ら動くのを待つしかない。
いくら魔王といえども、この世界に居るか居ないかも分からない人間を見つけるのは難しかった。
だからといって魔人や魔軍を動かす気も無い。
ランスは自ら見つけるか、若しくはランスからやってくるか…その二つしかジルの頭には無かった。
それでこそ、自分はランスの運命の女だと思う事が出来るからだ。
「ケッセルリンクは…接触しているのだろうな…」
ケッセルリンクが自らの意志で動いている事は知っている。
だが、ジルはその事について何も言うつもりは無かった。
もっと言えば、ジルはケッセルリンクを優遇していたと言っても良い。
それはジルが人間だった頃に出会ったケッセルリンクという存在。
自分の妊娠を喜び、そして自分と同じ目でランスを見ていた女。
魔王の下僕の魔人でありながら、一人の人間を愛した女。
だが、間違いなくランスと結託し、何かを企んでいる。
それを邪魔しては、ランスは自分の目の前には決して現れないだろう。
ランスという人間はそれだけ我慢強い所も有るし、無茶はするが無理はしない…そんな人間が何の策も無しに自分の元に来る訳が無い。
ジルは自分の腕を見る。
そこにあるのは黒い異形の腕…ランスに抱きしめられ、そして抱きしめていた腕は存在しない。
そしてそこにあるはずの自分とランスが見つけた指輪も。
「…!」
それを見るたびにジルは感情が爆発しそうになるが、それを必死で抑える。
(いいや…絶対にランスは来る。だからこそ、神の褒美とやらも受けたのだ…)
魔人ラ・ハウゼルと魔人ラ・サイゼル。
神がジルに与えた褒美との事だが、ジルはそんな言葉は全く信用していない。
何らかの意図があるのは明らかだが、それでも知っていて放置している。
全てはランスが自分の元へとやってくるようにするためだ。
「ランス…様…」
最近ジルはランスと共に戦ったような気がした。
ランスの危機を救ったような感触があったのだ。
その力も有り、ランスは危機を脱し…そして自分の元へとやってくるのだ。
「ランス…」
魔王ジルと人間ジルの思考の狭間。
だが、その両方がランスという人間を狂おしい程に求めている。
「だが…時間だけは待ってはくれない…そのために出来る事をしなければ…」
魔王ナイチサから聞いた魔王の限界。
それは1000年という期間しか魔王で有る事は出来ないという事実。
そしてその500年をジルは消費してしまった。
「まずは…スラルの書にあったモノを探させるか…」
それを挽回するためには、スラルの書物が真実であると証明しなければならない。
500年消費してしまったが、まだ時間はある。
そのためには魔王自らが動く必要もあるのだろう。
「精々働け…魔人共…」
ジルはどこまでも酷薄な笑みを浮かべていた。
ハウゼルの家―――
「!!!!!!」
つい最近魔人となったラ・ハウゼルは自分の家のベットから飛び起きた。
その顔は真っ赤に染まっており、凄まじい汗をかいている。
「な、な、な、な…なんて夢を…」
ハウゼルは荒い息をしながら、何とか心臓の鼓動を収めようとするが中々収まらない。
そして自分が眠っている布団が惨事になっているのに気づいて、急いで身を清めてから着替える。
「私…欲求不満なのかしら…」
ここ最近、ハウゼルには定期的に見る夢がある。
それは自分が荒々しい人間に滅茶苦茶に犯される夢だ。
それがどんな相手なのかは覚えていないが、とにかく魔人である自分が一方的に蹂躙されるという信じられない夢なのだ。
(うう…)
だが、ハウゼルはそれに嫌悪感を覚えているという訳では無かった。
むしろそれを嬉々として受け入れ、相手に合わせてそういうプレイをしている、そんな感じだったのだ。
いや、むしろ自分からねだってプレイをしているかもしれない―――そんな恐怖感さえも覚えてしまった。
「どういう事なんだろう、本当に…姉さんは大丈夫なのかしら…?」
色々な意味で自分と繋がっている双子の姉を心配する。
そしてその頃、魔人サイゼルは―――
「うっぎゃーーーーーーー!!!」
やはり魔人ラ・サイゼルも勢いよく飛び起きた。
その顔は妹であるハウゼルと同じ様に真っ赤に染まり、大粒の汗を顔いっぱいに浮かべていた。
「な、な、な、何であんな夢を見てるのよ! っていうか毎回同じ様な夢とか、気持ち悪いんだけど!」
サイゼルは木の上から飛び起きるが、自分の服がとんでもない事になっているの気づき、急いで湖に飛び込む。
そして火照った体を冷ますように全身まで水に浸かってから湖から出て来る。
「ううう…何がどうなってるのよ…」
尚も顔を真っ赤に染めたサイゼルはため息をつきながら体を乾かす。
(ハウゼルに相談…ってこんな事言えるか! まさかハウゼルが読んでた本みたいになるなんて…)
サイゼルもまた人間の男に乱暴に犯される夢―――ではなく、自分が滅茶苦茶に甘える夢を見ていた。
相手の男はそんなサイゼルを可愛がり(性的な意味で)、時には優しく、時には乱暴に抱かれる夢。
「あ、あ、あ、ありえないから! 私がそんな事になるなんて!」
魔人である自分があんな事をする訳が無い、という怒りと羞恥心からサイゼルは大声で叫ぶ。
その気迫は周囲の温度を下げ、サイゼルが浸かっていた湖の表面が凍りつくほどだ。
「絶対に許さないわよ! 誰だか知らないけど!」
サイゼルは自分の見た夢に怒鳴り、まだ見もしない男に対して声を荒げていた。
「うーむ、今日も素晴らしい夢を見たぞ」
「素晴らしい夢って…どうせあんたの事だからHな夢なんでしょ」
ランスの隣にいるレンが呆れた目でランスを見ている。
昨夜自分を滅茶苦茶に犯していたくせに、尚もそういう夢を見るなんてとんでもない男だ。
「がはははは! 夢の中で俺様がどう楽しもうと俺様の勝手だ! うーむ、それを思うとどんどんその気になって来たぞ」
「何大きくしてんのよ」
再び臨戦態勢となるランスに付き合っていられないとばかりに立ち上がり、昨夜の痕跡を綺麗にしようと思って立ち上がった時、レンはランスによって押し倒された。
「ちょ、ちょっと! 私お風呂に入りたいんだけど!」
「がはははは! 気分がいい内にもっと気分がいい事をするに限る! という訳で行くぞ!」
「あ、こら触るな! ちょっとそんなに揉まないでよ!」
自分の胸を揉みしだき、そしてハイパー兵器をこすり付けられた事でレンの体はその気になってしまう。
何しろレンは結構色ボケな面もあるからだ。
そうで無ければ最初にランスに犯された時、もう一回やられてもいいだなんて思う訳も無く―――
「とーーーーーっ!」
「んんんん! や、やっぱり…気持ちいい」
そして容易くその体から力が抜け、レンは朝からランスに激しく抱かれる事となった。
ちなみに、魔人姉妹が変な夢を見る時は、スラルがラ・バスワルドの力を使った時、そしてその夜にランスがレンを抱いた時なのだが―――当然の事ながらそんな事に気づく者は誰一人としていなかった。