ランス再び   作:メケネコ

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日光の成長

 ランス達は冒険を続けている…が、最近日光の調子が少しおかしかった。

 ランスとは距離を取っているのが丸わかりで、スラルとレンの顔を見ると顔を赤らめて視線を外してしまう。

 そんな事が続いていれば、当然誰もが気づく。

 ランスはそんな日光の態度が気に入らないし、スラルも流石にその様子を怪しむ。

 レンは日光にもあまり興味が無いのか、特に気にした様子は無い。

 日光がこうなるのは勿論理由がある。

 最初はスラルだけだと思っていたのだが、ランスがレンともセックスをしているのに気づいてしまった。

 というよりも、ランスとスラルとレンが三人でセックスをしている光景もその目で見てしまった。

 そうなれば、日光も混乱してしまった。

 最初日光はランスの恋人はスラルだと思っていた。

 それならそれで別に構わないと思っていたのだが、そこにレンという女性が加わった。

 今の時代、人間は可能な限り隠れて生きてかねばならないが、絶滅しないように子孫は増やす。

 当然そのためにはセックスは必要な行為なのだが、まさかそれが3人で行われる等日光にとっては信じられない事だった。

「おい日光!」

「え、あ、はい」

 ランスに呼ばれて日光は慌てて返事をするが、ランスからの視線は微妙に外す。

 今日も今日とてダンジョンの中に居るのだが、日光の様子は明らかにおかしかった。

 当然ランスにはその態度は気に入らないし、日光としてもどうしればいいのか分からずに居るのだから、ズレが生じるのは当然の事でもあった。

「お前、一体どうした。何か最近おかしいぞ」

「そ、それは…」

 ランスの言葉に日光は言葉を濁す。

 まさか、自分の異変の原因がランスだとは本人を前にしていう事は出来ない。

 そんな日光を見かねたとか、お町がため息をつきながら言葉を放つ。

「日光はお前達がまぐわっているのを見てしまったんだ。それで頭か混乱しておるのだろう」

「………またか」

 お町の言葉にスラルは嘆息する。

「日光。まさかお前そんな事でうじうじ悩んでいたというのでは無いだろうな」

「えっとその…それは…」

 日光は言葉を濁すが、ランスの刺すような視線にとうとう首を縦に振る。

「…そうです。その…まさか皆さんがそういう関係だったとは思いもよらず…」

 最後の方は消え入りそうな声で呟く。

「…我はそういう星の元にあるのか? カミーラとの情事を覗いたかと思ったら、ランスとの情事を覗かれる。感覚がマヒしていたな」

 自分とランスのセックスはかなりの者に見られている。

 それがあってか、スラルは覗かれた事に関しては最早怒りもしない。

「そんな事気にしてたら、ランスと一緒に冒険なんて出来ないわよ」

「…申し訳ありません。その…頭では分かっているのですが…」

「それにランスはあんたにも手を出すつもりなんだから。慣れろとは言わないけど、覚悟くらいはしときなさいな」

「え、ええ!?」

 レンの言葉に日光は顔を真っ赤にしてランスを見る。

 そういう目で見られているとは知ってはいたが、こうもあっさりと、そしてランスに近いものから言われるとなると流石に混乱してしまう。

「おいコラ。そういう事は目の前で言うな」

 ランスの言葉もレンはあさっての方向を向いてその視線から逃れる。

「え、えーと…ランス殿はスラル殿とレン殿と体の関係があるのですよね?」

「そうだ。二人とも俺様の女だ。だからセックスしてても何も問題無いだろうが」

「…ま、まあそうなのかもしれませんが…お二人はいいんですか?」

 日光の言葉にスラルは嘆息するだけだ。

「今更だ。我はランスがそういう人間だと知っていて一緒に居る」

「私は別にランスとセックスするの嫌じゃない…というか結構好きだし。それにスラルの言う通り今更ね」

「…ちなみに我は手を出されておらんぞ。ランスの好みとは違うようでな」

「当たり前だ。もっと成長してから言え」

 ランスはお町の頭をぽんぽんと叩きながら言う。

 お町はまだ成長期だし、それにランスはお町の未来の姿を知っている。

 それにお町の体は初めて出会った頃のミルの体型とあまり変わらない。

 ミルに手を出したのはランスにとっては汚点として残っている。

 なのでランスはお町に手を出す気は今の所全くと言ってよい程無かった。

「まあこいつ等が言ったから俺様ももう隠さんぞ。日光、俺様の女になれ」

「…随分とストレートに言うのですね」

 日光は真正面から言葉を放ってきたランスに目を見開く。

 下心を全く隠しもせずに、真っ直ぐな目で見てくる。

 それには流石の日光も驚くしかない。

「私の言葉は…お断りします」

 日光は頭を下げてランスに断りを入れる。

「私は…家族恩仇を討ちたい。それまで、女で有る事も捨てるつもりです」

「ふーん、そうか。じゃあ俺様があの魔人をぶっ殺したら俺様の女になるんだな?」

「え? いえ、そういう事を言ったつもりでは…」

 あの魔人を倒したら自分の女になる、いともあっさりとそんな言葉を放つランスに日光は困惑する。

 まるで魔人を倒す事を当然だと思っているかのような言葉には驚くしかない。

(…でも、この人は本気なのでしょうね)

 日光はあの時魔人と戦っていたランスを思い出す。

 余裕の表情で魔人と斬り合い…いや、あれは剣の打ち合いですらも無かった。

 魔人を相手に、無敵結界があるにも関わらずにこの男は余裕で打ち合っていた。

 そして圧倒的な技量…日光も剣の才能がある故に分かる。

 ランスの剣技は雑に見えていて、実際には恐ろしい技量が兼ね備わっているものだと。

 それは既存の剣技とは全く違う、ランスだけが出来る剣の技なのだ。

「で、どうなんだ? 口に出して言え」

「も、申し訳ありません…正直、そこまで考えていませんでした」

 ランスの言葉に日光は思わず本音を口にしてしまう。

 魔人を倒した後でどうなるか、その事を日光は全く考えてもいなかった。

 その心にあったのは、魔人に対する復讐心だったからだ。

「やっぱりな。お前みたいな奴はそうやって極端に突っ走るんだ。少しは周りを見るんだな。という事で魔人がどうなろうが、お前を俺様の女にする。これは決定事項だ」

「そ、そんな強引な…」

「嫌なら嫌と言え。まあ嫌だと言ってもお前は俺様の女になるだろうがな」

 ランスは話は終ったと言わんばかりにダンジョンを進んでいく。

 日光はそんなランスの背中を見ていたが、スラルがこちらを労わる様に背中を軽く叩く。

「お前もランスに狙われたな。本気で嫌ならきちんと断ればいい。ランスはあれでいて意外と手を出さないと思うぞ。まあそうなったらそうなったでどんな手段を使ってもお前を狙うだろうがな」

「そんな…」

 スラルの言っている事は滅茶苦茶で、どんな言葉を言おうがランスがこちらを狙って来るのには変わらないという事になる。

「もしランスに抱かれたら死ぬとかそういう覚悟があるならランスは手を出さないだろう。だが、少しでもその気があるならどこまでも踏み込んでくる男だ」

「…スラル殿はいいのですか? その…ランス殿は随分と好色のようですが」

 日光の言葉にもスラルは笑うだけだ。

「そんな事で止まる奴じゃない。女に対するモチベーションがあってこそ、ランスは常に良い結果を導き出す。それに…我はランスにそんな事を言える立場では無いからな」

「え?」

 スラルはそうとだけ言って、ランスの後に続く。

 日光はスラルの言葉の中に後悔、そして自分への憤りのようなものを感じていた。

 まるでランスに対して贖罪を続けているかのような、そんな風に思ってしまった。

「悩むのは戻ってからにしなさい。戦場では迷いは禁物、それが鉄則ってやつでしょ?」

「…はい、そうですね」

 レンの言葉に日光は頷くと、気を引き締めてランスの後を追っていく。

 彼女の言葉の通り、ダンジョンの中でそんな感情を引きずる訳にはいかない。

 ただでさえ自分はレベルが低いのに、己の感情で仲間を危険に晒すなどあってはいけない。

 その切り替えが出来るのも、日光が己を律している証拠だった。

 そしてランス達は進んでいき、ついに最下層と思わしき所に辿り着く。

 そこはダンジョンというには不自然な程に広い。

 あからさまに何かが待ち構えている、そんな気配が丸出しだ。

 その予想通りに、地響きと共に地面から何かが出て来る。

 地面から出て来たのは、ストーンガーディアンと呼ばれるという強力なモンスターだ。

「ストーンガーディアンか。面倒臭いな」

「フン、俺様なら余裕だ余裕。一気に攻めればあんな奴の装甲など意味無いからな」

 ストーンガーディアン、モンスターの中でも上位に相当するモンスターであり、その厄介さはランスもよく知っている。

 その巨体通りの耐久力、攻撃力もそうだが、何よりも厄介なのがその防御力。

 生半可な攻撃ではその装甲を破ることは出来ない。

 ガーディアンの名に相応しく、相当に強力なモンスターである。

「それよりも取り巻きも多いな」

 スラルの視線の先にはストーンガーディアン以外のモンスターも存在していた。

 不自然に大きな広場なので少々怪しく思っていたが、そういう場所だと言うのならば納得はいく。

 ランス達を取り囲んでいるのはゲンジと呼ばれるモンスターだ。

 鎧を纏ったモンスター達が色々な武器を持ってランス達に敵意を向けている。

 刀だったり槍だったり弓だったりと様々だが、これだけ数が揃えば脅威となる。

「まあいい。ぶっ飛ばすぞ」

「そうね。これくらいなら問題無いでしょ」

 ランスとレンの2人が前に出る。

 そう、この程度の相手ならば、何も問題は無い…ランスのレベルはそれくらいまでに高まっているのだ。

「私もいけます」

 そして日光もランスの隣に並び立つ。

 日光のレベルも既に40に近づいており、もう立派な剣士として成長していた。

「よーし、行くぞ!」

「はい!」

 ランスと日光はゲンジ達に突っ込んでいく。

「がはははは! 死ね──────っ!!」

 ランスの剣がゲンジを頭から真っ二つにする。

 刀を構えいていたはずなのに、その刀ごと真っ二つにする力に日光は息を呑む。

 ただの力任せの一撃のはずなのに、その切断面は恐ろしく鋭い。

 そして返す刃で迫りくるゲンジをやはりたったの一振りで倒す。

(やっぱり凄い…)

 日光は皆の力に改めて目を見張ってしまう。

 レンはガード…との事だが、攻撃魔法も神魔法も剣も使えるとんでもない存在だ。

 何よりもその防御技術が凄まじく、攻撃を仕掛けてきた相手の方がやられるという光景が非常に多い。

 彼女こそ、このメンバーの最大戦力と言っても良いかもしれない。

「氷雪吹雪!」

 スラルの放った魔法が無数のゲンジを凍りつかせ、動けなくする。

 そして続けざまに攻撃魔法を放つ。

「電磁結界!」

 電気の嵐が先程と同じ様にゲンジを飲み込む。

 その威力は凄まじく、複数のモンスターが一撃で倒される。

(それでいて肉体も強いのですからね…スラル殿は)

 スラルの強さは魔法だけでなく、その肉体の強さも信じられない程だ。

 流石に剣の腕では負けないが、それでもまともにスラルとぶつかっても、今の日光では手も足も出ないだろう。

 何しろ拳だけでハニーすらも叩き壊す事が出来る程に強いのだ。

「相変わらず凄いの…」

 お町は襲い来るゲンジに向けて無数の雷撃を放つ。

 その威力は十分すぎる程に強く、ゲンジを打ち倒していく。

 確かに彼女の力はランス達にはまだまだ及ばない…だが、それでも日光と同じくらいの強さを持っている。

 妖怪王を名乗るだけあり、幼い姿とその力は全く一致しない。

 肉体的にも、モンスターの攻撃を受けてもそれ程のダメージが無いくらいに頑強だ。

「がはははは! 死ね──────っ!!!」

 そして誰よりも日光がその強さに憧れを持つのがランスだ。

 一見すると剣術など無い、ただただ力任せに剣を振るっているように見える。

 だが、日光にはそのランスの豪快だが確実な戦い方が眩しく見えている。

 何よりもランスは戦場では意外なほどに冷静だ。

 判断力も高く、冒険者として一流だという事を日光は感じ取っていた。

(私にはランス殿の剣は真似できない…でも)

 ランスの剣はランスの腕力、そして天性の勘のようなもので成り立っている。

 その技を真似しようにも、真似出来る者は恐らくは居ないだろう。

 だが、それ以上に日光が目を見張るのはランスの戦い方だ。

 その動きは派手なようで無駄が無い。

 最小限の動きで最大限の効果を上げる、それが日光から見たランスの剣だ。

 相手の防御ごと相手を叩き潰す豪快さ、それでいて相手の急所を確実に狙う正確性。

 その相反するような剣が一体化した技術──―日光にとっては剣士としての理想となっていた。

 剣の力強さは自分には真似できない、だがその動きならば自分でも身につけられるのではないか。

 そう思い日光はランスの動きをその目に焼き付けて来た。

 限りなく無駄を無くし、一瞬で相手の急所をとらえる。

 それこそが今の日光にとっての理想の動きだ。

「はっ!」

 日光はそのまま続けざまにゲンジを斬り捨てていく。

 目の前のゲンジを全て倒した時、残っていたのは既にストーンガーディアンだけだった。

(…早い)

 日光も自分ではかなりのペースでゲンジを倒していたと思ったが、ランス達はその倍の速さでゲンジを倒していた。

 何しろランス達のレベルは80を超えており、それこそ日光と二倍以上の開きがある。

 それに加えて、これ程の技術を持っているのだ。

(魔人と戦っていたあの姿…本物なのだ)

 そして自分は今本物の英雄とも呼べる存在と共に居る。

 それが日光には何よりも心強かった。

「後はあのデカブツだけだな」

「そうだな。まあ今更ストーンガーディアンが相手だろうが何も言う事は無いだろう」

「そうね。さっさと片付けましょうか」

 ランスは真っ先にストーンガーディアンに向かって行く。

「ガアアアアアアアッ!!」

 ストーンガーディアンがその大きな手を地面に叩き付けると、その衝撃が地面を走っていく。

「がはははは! お前の攻撃パターンなどお見通しだ!」

 ランスは大きく大地を跳ぶ。

 するとランスが居た場所から巨大な岩が付き出て来る。

 それでランスを攻撃したのだが、ランスにとってはそんなのはもう見慣れた光景だ。

「死ね──────ーッ!!」

 そのままランスは勢いよくストーンガーディアンに向かって剣を振り下ろす。

 ランスの剣はストーンガーディアンの頭を軽々と砕く。

 そのままランスの剣はストーンガーディアンが生えている地面にまで到達する。

「ぬ」

 ランスは眉を顰めてストーンガーディアンから距離を取る。

 頭を砕かれ、地面にまで剣が到達する程の衝撃を受けたにも関わらず、ストーンガーディアンはランスに反撃をしてきた。

 その巨大な腕がランスを捕えるべく動いたのを察知し、ランスはその腕を避ける。

 そしてランスを捕えようとしてた手の逆の手で地面を激しく叩く。

「おっと」

 ストーンガーディアンの手から逃れたランスを狙った攻撃は、レンがランスを抱えて跳び上がる事で無効になる。

「スノーレーザー!」

「雷撃!」

 そしてランスが射線から離れたのを確認し、スラルの魔法とお町の電撃がストーンガーディアンに突き刺さる。

「ほう…耐えるか。中々強力な存在だな」

 スラルのスノーレーザーが直撃して尚ストーンガーディアンが崩れない。

 それどころか両手を地面に叩き付ける。

「おっと」

 それはストーンガーディアンが広範囲に攻撃をした証拠で、辺り一面から岩の刃が現れランス達に襲い掛かる。

 ランスはその攻撃をあっさりと避ける。

 スラルは魔法バリアで攻撃を防ぎ、レンは日光とお町の二人を担いで尚無傷で攻撃を避ける。

「じゃあとっとと倒しましょうか」

 日光とお町を地面に降ろすと、レンもストーンガーディアンに狙いを付ける。

 取り巻きは全員倒したので、ここのボスであるストーンガーディアンを手早く倒す事にする。

「そうだな。とっととぶっ殺すか」

 ランスも早くにストーンガーディアンを排除しようとした時、

「待ってください。私にやらせてくれませんか」

 日光がランス達の前に出る。

「私は自分の力を確かめてみたい…何時までも皆さんに頼りっぱなしで居る訳にはいきません」

 それは日光が常日頃思っていた事。

 今の日光はランス達に守られながら戦っている。

 順調にレベルアップしているが、それも全てはランス達と共に居るからだ。

 もし自分一人なら…いや、それ以外の者達と協力したとしても、これ程早くレベルを上げるなど不可能だっただろう。

「ふむ…ランス、日光がこう言っているのだ。任せたらどうだ」

「本気かスラルちゃん。あんなやつフクロにした方が早いだろうが」

 ランスは一対一という戦い方には全く拘らない。

 どんな形だろうと、相手を倒せればそれでいいのだ。

「やりたいと言ってるならやらせればいいじゃない。それに援護はしてあげるわよ」

 レンはどっちでもいいのか、気楽な顔をしている。

「…まあいい、好きにしろ。だが、お前が無理だと思ったら俺様がぶっ殺す。それでいいな」

「ありがとうございます。では…日光、参る!」

 日光はストーンガーディアンに向かって駆けていく。

 その日光を見て、お町は心配そうな顔をする。

「良いのか? 流石に日光一人では手に余る相手ではないのか?」

 日光がいくら強くなったと言っても、それはあくまでも平均的な人類の中では抜きんでているだけだ。

 お町の目から見てランス、スラル、レンの実力はずば抜けている。

 今現在の人類の中でも頂点に居る存在…ランスとスラルはまさにそのレベルにいるのだ。

 ましてやレンはエンジェルナイト、人間という生命体とは根本的に違う。

 流石の日光もその中では大きくレベルが落ちると言わざるを得ない…今の現状では。

「まあどれだけやれるか見るのもいいだろ。それに負けそうになったら俺様が格好良く助ければいいだけだ。それでお礼にセックスをすればいいのだ」

 がはははと何時もの様に笑うランスにお町は呆れたため息をつく。

 ここまでぶれないと言うのはある意味立派な存在だ。

「それにやられんだろ。あれくらいなら余裕だろ」

「随分と信頼しておるのじゃな。女だから…という訳では無いのだろう」

 ランスの言葉に少し意外そうにお町は首を傾げる。

 付き合ってみて分かったが、ランスは結構シビア…現実的な一面もある。

 そのランスがいくら女の頼みだろうが、一人で戦わせるのは意外だった。

「まあ大丈夫だろ。あいつはそこそこ強くなってきたからな」

 ランスの目から見ても、日光の力の上昇は驚くべきものだ。

 女としては、あの上杉謙信に匹敵する力があると見ている。

 その日光があんな相手に負ける訳が無いと確信していた。

「これから日光がどのように成長するか…ある意味その分岐点だろうな」

 スラルも日光が負けるなどとは思っていない。

 だが、どのように成長を遂げるか…それは本人次第だ。

 日光は大地から放たれる石の刃を避けながら接近する。

 そしてストーンガーディアンの懐に入ると、そのままランスが抉った傷に向かって刀を振るう。

 

 ガン!

 

 だが、それは凄まじい装甲の前に阻まれてしまう。

 このストーンガーディアンは普通のストーンガーディアンより一回り大きく、その装甲も見たままに非常に硬い。

 しかし日光はその程度では諦めない。

 ストーンガーディアンの手が日光を捕えようと動くが、日光はその体捌きでその腕を避ける。

 その後も何度か日光はストーンガーディアンを攻撃するが、やはりその装甲は非常に厄介なものだ。

(硬い…でも、魔人はこんなものではない…)

 どれだけ強かろうが、所詮はモンスターに過ぎない。

 その強さは魔人に遠く及ばない…ならば、この程度のモンスターを倒せねば話にならない。

(何度も斬りつけても無意味…ならば、一撃で相手を絶つ)

 日光は一度刀を鞘に納める。

(私にはランス殿のような腕力は無い…だが、それでも戦える方法はある)

 そしてその機会を伺う…一撃でストーンガーディアンを断ち切る機会を。

 何度も何度もストーンガーディアンの攻撃を避けるが、その内に日光の体から大量の汗が流れる。

 それでも日光の集中力は全く落ちない。

 ただ、相手を一撃で倒す、それだけを考え一瞬のチャンスを狙う。

 そして何度目かのストーンガーディアンの攻撃を避けた時、その機会が訪れた。

 両手を組んでハンマーナックルの形で地面に手が叩きつけられた時、日光は既にその場には居ない。

 そして足元から大地が隆起する前に日光は既に跳び上がっていた。

 ストーンガーディアンの懐に飛び込み、刀を抜き放つ。

 日光が狙ったのはランスが大きく傷をつけ、そしてスラルの魔法が直撃した箇所。

 その部分に向けて刀を抜き放つ。

 刀が悲鳴を上げるのが分かるが、それでも日光は刀を振り切った。

「ガハアアアアアアアア!!!」

 ストーンガーディアンは一際大きな声を上げると、その体がどんどんと崩れていく。

 同時に『パキン』と音を立てて、日光の刀が砕ける。

「…やっぱりこうなったか」

 スラルはそれを見て頭を抱える。

 日光も呆然として砕けてしまった自分の刀を見る。

 それは日光にとっては兄の形見であり、家族との絆だった。

 それが音を立てて崩れた事にショックを隠せないでいる。

「予想してた訳? スラル」

「…まあ可能性としてな。昔のランスもそうだっただろう。自分に合う剣が無くて探していただろう。日光の技術に刀がついていけなくなる可能性は十分にあったからな」

「そういやそんな事もあったな」

 スラルの言葉にランスは自分の剣を見る。

 急激なランスの剣の成長に耐えられる剣が無かった。

 その所為で魔人とも満足に戦う事が出来なかった事を思い出す。

 結構昔の事であるのに加え、それ以上に大変な事があったのですっかり忘れていた。

「じゃあもしかして…」

「そう、今度は日光に合う刀を探す必要があるという事だ。今のこの時代でな」

 

 

 

 ランス達が冒険を終え、地上に戻り何時もの様に見つかりにくい場所に魔法ハウスを建てている。

 ただ、ランスの持つ魔法ハウスは当然の事ながらかなりの大きさを持つ。

 なので完璧に隠す事は難しいのだが、コソコソと隠れるのが嫌なランスは堂々と使っている。

 ランスに良い結果を齎したのは、今のこの時代は魔人といえども好き勝手出来るような時代では無いという事だろう。

 だが、見つかる時は見つかる、これもまた当然の出来事だと言えた。

「あら~。ランスさん、意外と早く見つけちゃいましたね~」

「そうですね。アレからあまり時間が経っていませんでしたから、これほど早く見つかるとは思いませんでした」

 ランスの魔法ハウスを見ているのは、ランスとも長い付き合いがある二人。

 魔人ケッセルリンクの使徒であるパレロアと加奈代だった。

「加奈代、良い機会ではないですか? ランスさんに大まおーさんの鎌を返さないと…」

「そうなんですどねー…ちょっと問題も有りますよね」

 加奈代はパレロアの言葉に結構悩んでいた。

 確かにランスに大まおーの鎌を渡すいい機会なのだが、少し懸念材料が有る。

 それはランスと共に居た加奈代達も知らない人物。

「ランスさんは問題無いですけど、その周囲はそうはいきませんからねー。レイ様はかなり特殊でしたけど」

「…そうですね。何しろ魔人とその配下が暴れた後のようですから」

 加奈代とパレロアがこのJAPANに居るのはケッセルリンクの命令だ。

 情報収集とランスの捜索、勿論これは雲を掴む様な話しではあるのだが、加奈代もパレロアも自分の主に、そしてランスに恩返しをしたいという気持ちは変わらない。

「少し様子を見ましょうか?」

「そうですねー。ケッセルリンク様へ報告をしたいですけど、ちょっと遠いですからねー」

 何しろJAPANはケッセルリンクの居城とは正反対の方角にある。

 うし車を使って移動してきたが、流石に今から報告に行くとしては遠すぎた。

「おいおい、何悩んでるんだよ。そんなの堂々と正面から会いに行けば良いだろ」

「ガルティア様」

 遠い所からランスの魔法ハウスを見ている二人の元へとやって来たのは魔人ガルティアだ。

 いくら使徒とはいえども、人間に襲われないとは限らない──―という事で、二人のボディガード役を買って出たのがガルティアだった。

 スラルが生きている事も聞いており、何度か会いに行こうと思ってはいたのだが、中々その機会が無かった。

 魔王の人間を殺すなという言葉を尤も忠実に守っている魔人だ。

「スラルも居るんだろ? 俺は早くスラルと会いたいんだぜ」

「まあまあ落ち着いてください。まずは情報の収集が必要ですよ。スラル様も突然ガルティア様が現れたらびっくりしますよ」

「それもそうか。しっかしスラルが居ると分かったら途端に腹が減るのが我慢出来そうだぜ」

 魔人ガルティアは非常に嬉しそうに携帯食料に手をつけ始めた。

(ねえ…ガルティア様の我慢ってどれくらいの我慢なのかなあ?)

(ガルティア様ですから…あれで本当に我慢しているのでしょうね)

 移動するたびにどこからか食料をかき集め、絶えずモノを食べているガルティアに対して二人はため息をつくしかなかった。




ガルティアの登場です
今まで出番が全く無かったのは話の都合です
ガルティアが出てくるとどうしても食い物の話になっちゃうんですよね…

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