ランス再び   作:メケネコ

24 / 367
魔王城

(うーむ、グッドだ!)

 ランスはご満悦だった。

 必死になって快楽に耐えるレダの姿が非常に色っぽい。

(こんな所に閉じ込められてどうなる事かと思ったが、魔王も中々気が利いてるではないか)

 何しろこの部屋にはベッドも風呂もある。

 しかも囚われているのに監視も無いと来れば、こうしてSEXをするには絶好の空間だ。

 

「んん…」

 

 レダはベッドシーツを掴み、枕に顔を埋めて必死に快楽に耐えていた。

 普通にランスに抱かれている、それだけの事なのに何故かランスを引きはがすことが出来ず、素直に快楽を受け入れてしまっている。

 

「とーっ!」

「ああっ」

 

 ランスに精を出され、レダも共に絶頂する。

 こうして普通にされているだけで、レダは以前よりも強い快楽を覚えていた。

 

「がはははは! 随分素直になってきたではないか」

「うる…さい…」

 

 ランスのからかいにも、もう何時もの様に声を返す事も出来ない。

 汗で髪が体につき、ベッドのシーツも二人の体液でぐちゃぐちゃになってしまっている。

 しばらく肩で息をしていると、ランスのハイパー兵器が顔につきつけられる。

 

「綺麗にしろ。出来るな?」

「………」

 

(…私、何すればいいんだっけ)

 レダは快楽で染まった頭でそう考えつつ、ランスの言葉通りに顔を近づけた。

 

 

 

「さて、何て切り出そうかしらね」

 

 スラルは、ランス達を軟禁している部屋へと向かって歩いていた。

 あえてスラルはあの部屋にランス達を閉じ込めていた。

 見張りは置いているが、部屋の中までは監視させていない。

 もちろん逃げる事など出来ないが、破格の待遇をしているつもりだ。

(ケッセルリンクの時は仕方なく魔人になってしまったけど…あの二人には自分の意思で魔人になってもらいたい)

 無理矢理魔人にしては、これからの事に支障が出るかもしれないし、自分としてもあまりしたくはなかった。

 これからも魔王として君臨していくためには、やはり信頼でき、自分を支えてくれるような人材が欲しかった。

 その点ケッセルリンクは文句無しの人材だった。

 何より気に入ったのは、自分の身を省みず仲間のために身を挺した所だ。

 強さだけではなく、その心もスラルは気に入った。

 だからこそ、今回は無理にでも魔人になって貰ったのだ。

 金色の髪をした女もスラルは気に入っていた。

 何より気になったのは、あの女の使う術…モンスターの使う癒しの術よりも圧倒的に上のあの力。

 さらには魔人の攻撃すら防ぐ圧倒的な防御力。

 高い水準の技能を持っているので、非常に強い魔人が生まれるだろう。

 だが一番気になっているのは勿論あの男…ランスだ。

 高い剣の腕は勿論の事、何よりも魔人の無敵結界を貼らせない為の策略、そして自分の予想を超える行動力。

 若干不安要素もあるが、それでも一番楽しみな人間でもあった。

 だからこそ自分でも歩みが弾むのを抑え切れない。

 

「スラル様!」

 

 ランス達を軟禁している部屋には、2体の魔物隊長をつけていた。

 己の実力で魔物隊長の座を勝ち取った魔物であり、スラルもその実力を認めていた。

 

「変わりはないか?」

「ハッ! 人間達に動きはありません!」

「そうか」

 

 この部屋には少し仕掛けを施してあり、ドアが2重に存在している。

 一つはアイテムによる解錠、もう一つが魔力による解錠だ。

 人間を閉じ込めるには少々やりすぎかと思ったが、あの男は何をしでかすか分からないため、最大限の警戒はしておいてもいいと思った。

(さて…今は何をしてるのかしらね? この状況に絶望しているか…それとも我に歯向かう事を考えているか…)

 どちらにしてもスラルには構わなかった。

 魔人になるという事は、永遠の命を得られるという事…人間ならばそれを受け入れないわけがない。

 人間というのは愚かで、欲深く、鼻先に餌をぶら下げれば喰らいつくような奴だ。

 今までにスラルもそんな人間を沢山見てきた。

 あの男は欲が深そうで、恐らくは自分の提案に乗ってくるだろうとも考えていた。

(あの男はそれでいい…欲望こそがあの男の強さであり魅力でもある。そのような魔人がいても問題はない)

 

 ガチャ…

 

 スラルが微笑みながら二つ目のドアを開けたとき、そこにあったのはスラルも予想もしてすらいなかった光景だった。

 

「うむぅ…ランス…」

「がはははは! かわいいぞレダ!」

 

 後ろからランスに抱き上げられ、上下に揺すられるレダの姿だった。

 

 バタン

 

(…えーと、今ちょっとあり得ない光景を見たような)

 スラルは若干混乱しながらも息を落ち着かせる。

(そうだな、勘違いだな。まさか魔王に囚われていているのに、呑気にセックスしてるなんて普通では考えられぬな)

 もう一度深呼吸して、スラルは改めて目の前の扉を開く。

 

 カチャ…

 

 何故か扉をそーっと開けた気がするが、自分は魔王なのであってそのような事を気にしてはいないと自分に言い聞かせる。

 そしてスラルの目に飛び込んだのは、

 

「ランスゥ…」

「中々素直になってきたではないか」

 

 今度は正面から抱き合い、ガッツリと唇を合わせている二人の姿だった。

 

 バタン

 

「………」

 

 スラルはその場を振り返ると、最初の扉を開く。

 

「スラル様? いかがしましたか?」

 

 直ぐに出てきた魔王に対して不思議そうな顔をする。

 スラルはそれに対して、顔を俯かせて歩いていく。

 そんな自分の主に対し、二人の魔物隊長は顔を見合わせていた。

 

 

「………いや、あいつは何をやっているんだ」

 

 自室に戻ったスラルは自分のベッドに座り、頭を抱えていた。

 確かにランスと初めて出会った時、あの時はケッセルリンクとどうすればセックスを出来るかを考えていた男だ。

(だがそれでもまさかこんな所で始めるとは…)

 しかもガッツリ繋がっている所を見てしまった。

(ううう…)

 人間がああいう行為をする事は知ってはいたが、こんなにじっくり見るのは初めてだった。

 今スラルが見ている光景は、ランスとレダが肌を重ねている所だった。

 咄嗟に遠隔目玉を二人の部屋に放ってしまった。

 そして今、二人の情事を覗き見てしまっている所だ。

(うわ…あんな事までするんだ…まさか口でだなんて…)

 それを見ると、どうしても自分の体温が上がっているのを自覚してしまう。

 二人を魔人に勧誘するために自らが向かったのに、まさかこの状況でセックスを始めるなど想像すらしていなかった。

(そういえばケッセルリンクもクリスタルが青かった…)

 それを考えると自然と顔が赤くなる。

 今思えば、彼女はしきりにランスの事を気にしていた…ならば二人は男女の仲になっているだと嫌でも感じさせられた。

(ケッセルリンクも彼女みたいにしてるのかしら)

 見ればランスはレダに覆いかぶさり、レダもランスの首に手を回し、腰に足を絡めている。

(…何時までヤッてるのよ)

 結局スラルは2時間、ずっと二人のセックスを覗き見るはめになった。

 

 

「ふーっ…いい運動をしたな」

「はぁ…はぁ…」

 

 互いの体液に塗れたベッドの上で、レダはランスの胸を枕にして大きく息をしていた。

(…凄かった)

 あの時、廃棄迷宮でした時とは全然違う感覚。

 初めての時のように無理矢理やられていた訳では無く、互いに求めあってしまった。

 以前には感じられなかった感覚に、エンジェルナイトである自分が我を忘れてランスを求めた。

 体全体でランスを感じ、そこにあったのはとてつもない充実感と高揚だった。

 ランスの大きな手、唇、体、それらの全てが愛おしかった。

 

「ランス…」

 

 レダの方から自然に唇を重ねる。

(うーむ、レダも俺様のものになったな…オーケオーケ、これも俺様が大人になったからだな)

 ケッセルリンクに続いて、レダも完全に自分の女にしたとランスは満足げにレダの肩を抱く。

 レダもランスの胸に顔を埋めると、そのうちに寝息を立て始めた。

 

「しかし…本当にどうなっとるんだ」

 

 セックスに満足したランスは、今日何度目かの疑問の声を出す。

 ここ最近で3体の魔人と立て続けに出会っている。

 リーザスの時もゼスの時もそれぞれ3体の魔人と出会ったが、今回出会った魔人はランスも見た事も無い魔人だった。

 やはり何よりも謎なのが魔王の存在。

 ここが違う世界ならば別の魔王が居てもいいが、ランスも知っているモンスターもいるし、何より無敵結界を持つ魔人もいる。

 

「…まあ考えても仕方ないな。後はなるようにしかならんか」

 

 ランスは考えるのをやめ、自分も目を瞑る。

(今まで何とかなってきたんだ。今回も何とかなる)

 ランスはそれを信じて疑わない。

 自分ならば必ずこの状況を打破する事が出来ると確信し、ランスは眠りについた。

 

 

 

 ―――翌朝―――

 

「ううう…私は何て事を…」

「今更何を言っておるんだ」

 

 レダは顔を赤くして頭を抱えていた。

 昨夜は勢いにまかせてとんでもない事をしてしまった。

 性質が悪い事に、エンジェルナイトである自分はそれを全て覚えてしまっている。

 

「がはははは! 随分と素直で可愛かったぞ」

「お願いだからもう言わないでよぉ…私もどうかしてたのよ…」

 

 ランスは笑いながらレダの肩を抱くが、レダは小さくなるだけだ。

(まだ唇に昨日の感触が残ってる…)

 キスだけでなく、とんでもないものを口に含んでしまった。

 ランスの唾液もそのとんでもないものも全て飲んでしまった。

 

「お前も俺様に惚れただけの事だろう。何を悩んどるんだ」

「…ランスのそういう前向きすぎる所は本当にすごいと思う」

 

 レダは少しの間頭を抱えていたが、徐に立ち上がると自分の顔をパンッ!と両の手で叩く。

 

「よし、切り替えよう」

「…ミラクルみたいな事するな」

 

 かつてミラクル・トーも同じ様な切り替え方をし、それで頭を切り替えるのはまったく一緒だった。

 ミラクルよりも体力があるため、下半身がしっかりしているのは違うが。

 

「それよりもランス。本当にどうするの?」

「だからなるようにしかならんだろ。ここから逃げるのは難しいだろ」

 

 かつてランスはゼスでの戦いで、魔人カミーラ率いる魔軍に捕らわれたことがある。

 その時はガンジーらの助けで何とか命拾いしたが、今回は完全に魔軍の真っ只中だ。

 この状況では流石に逃げるのは難しい。

 殺されない所を見れば、相手は何か自分に用件があるのは分かるが、一体魔王が自分に何の用なのかという疑問がわく。

 

「まあそうよね…」

 

 レダもランスの行っている事は分かる。

 人間が魔王に捕らわれれば最後、無残に殺されるのがこれまでの歴史だった。

 特に酷かったのは魔王ジルの時代…LP時でも魔王といえばジルという認識があるのも、その残虐性からきたものだ。

 

「待てば必ずチャンスは来る」

 

 あまりにも自信たっぷりに言うランスに、レダは逆に感心する。

 思えば、エンジェルナイトである自分達がランスを襲撃した時もこの男には戸惑いはあれど、恐れはまったく無かった。

 

「ある意味感心するわね…どれだけ神経図太いのよ」

「それは褒めてるのか?」

「もちろんよ。ランスみたいな人間は多分世界でも一人だけよ」

 

 

 

 その夜、カミーラは実に久しぶりに魔王の城を歩いてた。

 いや、自分の意思でここに来たのはもしかしたら初めてかもしれなかった。

 カミーラの歩く姿に、その場にいる全ての魔物兵、そして城の掃除を行っているメイドさんが跪く。

 

「カ、カ、カ、カミーラさん…ど、どうしてここに!?」

「…ケイブリスか」

 

 魔人ケイブリスは普段は魔王城で暮らしている。

 魔王の命令が無い限り、ケイブリスはここを離れようとはしない。

 ここが一番安全な場所であり、少しずつ力をつけていくには最高の環境だからだ。

 そしてケイブリスは密かに憧れている女性がいた…尤も、他の者からすればバレバレなのだが。

 

「ちょうどいい…スラルが捕らえた人間はどこだ」

「は、はい! 案内させて頂きます!」

 

 カミーラに声をかけられ、舞い上がったケイブリスは嬉々としてカミーラの案内役を買って出る。

 カミーラは一瞬迷ったが、案内させるだけならば誰でも構わないと思い直し、

 

「いいだろう…」

「ハイ! こちらになります!」

 

 ケイブリスに案内され、カミーラはランス達が軟禁されている部屋の前にやってくる。

 

「カミーラ様! ケイブリス様!」

 

 スラルに見張りを任されていた魔物隊長が一斉に跪く。

 

「ここにスラルが連れて来た人間がいるのか」

「ハッ…その通りです」

 

 カミーラは改めて人間を捕らえている部屋を見る。

 この部屋は明らかに牢ではない…だとすると、スラルが人間達を捕らえた理由は一つしか思い浮かばなかった。

(…そういう事か)

 ガルティアの時と同じく、スラルはその人間を魔人へと勧誘するつもりだろう。

 

「通せ」

「し、しかしスラル様が…」

「このカミーラが通せと言った」

「うっ…」

 

 カミーラの言葉が魔物隊長に凄まじい圧力をかける。

 その場にいるケイブリスも思わず縮こまる程の圧力だった。

 それでも魔物隊長が動かないを見ると、カミーラが魔物隊長の一人の頭を掴む。

 

「このカミーラの言葉が聞けぬのか?」

 

 ギリギリと音を立てる魔物隊長を目にして、ケイブリスが慌ててもう一人の魔物隊長に指示を出す。

 

「おい! いいから開けろ! このままだと死ぬぞ!」

「は、はい! お待ち下さいカミーラ様! 今開けます!」

 

 魔物隊長が鍵を取り出し、扉の一つを開けるのを見てケイブリスは安堵する。

 勿論魔物隊長のためというのではない。

(このままだと俺様まで責任を取らされちまう…それだけはゴメンだぜ)

 愛する女性の願いを叶えるという事もあるが、もしここで魔物隊長がカミーラに殺されれば、ここに彼女を案内した自分も責任を取らされるだろう。

 スラルは自分には厳しいが、カミーラには若干甘いところもあるため、カミーラならば見逃されるという打算も働いた結果だ。

 魔物隊長はもう一つの扉の鍵を開けると、カミーラの前に再び跪く。

 

「か、鍵をお開けしました!」

「そうか」

 

 カミーラはそれを聞くと部屋に入っていく。

 ケイブリスはそれを見ると、一目散に駆け出す。

(こいつはもしかしたらヤバイ事になるかもしれない…スラルに報告しないとカ、カ、カ、カミーラさんが…)

 カミーラが恐ろしい性格をしているのをケイブリスもよく知っている。

 もし、カミーラがスラルが連れて来た人間を殺したとなれば、スラルもカミーラに厳しい罰を下すかもしれない。

 それを防ぐためにはやはり魔王に報告をする必要がある。

 魔王の命令は魔人にとっては絶対であり、カミーラといえども逆らう事は出来ない。

 それを防ぐため、ケイブリスは魔王の元に走っていった。

 

 

 

 ガチャ…

 

 突如として開かれた扉に、ランスとレダの視線が集まる。

 入ってきたのは、ランスが予想もしない人物だった。

 

「な…カ、カミーラ!?」

 

 ランスは過去に魔人カミーラと戦った事がある。

 その時は辛うじてランスが勝利したが、もしあの時謎の光が無ければ自分達は負けていただろう。

 だがそれ以上に、今のカミーラはゼスの永久地下牢に閉じ込められており、ランスも5回程カミーラを犯していた。

 だからこの場にカミーラがいるはずは無いし、何よりカミーラは自分に強い殺意を覚えているだろう。

 

「…人間か」

 

 カミーラの目に入ったのは、人間で言えば20前後の男と、金髪の美しい女だった。

(…これがスラルの魔人候補の人間という訳か)

 

「何でお前がここに!」

 

 ランスの言葉にカミーラは目を細める。

 この男は自分を知っている…そんな気がした。

 しかし自分はこんな人間など知らない…というよりも人間程度に興味は無い。

 戯れに人間の里を焼き尽くした事もあったが、その際の生き残りかもしれない、その程度の認識だった。

 

 一方のランスはこの状況を理解する事が出来なかった。

 何しろ、ここに来てから初めて出会った知り合い(?)がまさかカミーラだとは夢にも思わなかったからだ。

 しかも相手は自分が敵対し、挙句の果てには何度か犯した相手となれば、その復讐に来たと思うのも無理は無い事だ。

 

「…人間如きがこのカミーラの名を呼ぶか」

 

 カミーラは薄く笑う。

 まさか自分が初対面の人間から『カミーラ』と呼ばれる等考えてもいなかった。

 もしかしたら初めての事かもしれない。

 

「うおっ!」

 

 ランスはカミーラの発するプレッシャーに驚く。

 ゼスでの時以上の気迫を感じられる。

 ランスがゼスで出会った時、そして捕らわれていた時にランスが感じたのは、どこか怠惰な印象だった。

 確かに自分に対して怒りを向けてはいたが、それでもこれほど鋭い目をしてはいなかった。

(…まるで別人だぞ)

 ランスは知る由も無いが、これこそがあの時代にケイブリスと衝突する前のカミーラの気質だ。

 その圧倒的な存在感がよりランスを困惑させた。

 

「…面白い」

 

 カミーラは素早くランスの首を掴むと、ランスを引きずるように連れて行く。

 

「うお!」

「ランス!」

 

 レダはランスを助けようとするが、カミーラの一撃を喰らい吹き飛ばされる。

 強く頭を打ったのか、そのまま起き上がる事が出来ないようだ。

 

「レダ! ぐえっ」

「カ、カミーラ様! 何を!」

 

 捕らえていた人間を引きずって出て来たカミーラに、魔物隊長が声を出す。

 流石にこの行為は見逃す事は出来ないが、相手は恐らく現魔人最強の存在、とても止める事など出来ない。

 だから二人の魔物隊長はそれを黙ってみている以外に無かった。

 

 

 

「どわあっ!」

 

 ランスはカミーラに放り投げられる。

 

「何をする!」

 

 ランスの言葉にカミーラは何も答えない。

 その場を見渡すと、そこには篝火が無数にあり、空からは月明かりが煌々とカミーラを照らしている。

 それだけならば非常に美しい光景だが、カミーラに浮かんでいるのは酷薄な笑みだ。

 

「…貴様はこのカミーラに無礼をはたらいた…だからこの場で殺す」

「なんだと!」

 

 ランスはいきなり理不尽な事を言ってきたカミーラを見るが、その目は何処までも冷たい。

 しかしランスが知っているカミーラと違うのは、何処かその声に熱が篭っている事だ。

 

「抵抗する事を許す…私を楽しませろ」

 

 その言葉と共にカミーラの爪がランスを襲う。

 その動きはかつてのランスが知っていたカミーラの動きよりも早い。

 

「どわっ!」

 

 ランスは慌ててその一撃を避けるが、その際にマントがカミーラの爪に引き裂かれる。

 

「少しは楽しめそうだ」

 

 今の一撃を避けた事をカミーラは逆に喜ぶ。

 大抵の敵は今の自分の一撃をかわせずに引き裂かれて終わる。

 ランスは次々に繰り出されるカミーラの攻撃を必死に避ける。

 剣が無い今、相手の攻撃を避ける以外に方法は無かった。

 カミーラもそう簡単に終わらせるつもりは無く、まるでいたぶる様にランスを追い詰めていく。

 これはカミーラにとっては「狩り」だ。

 

「ぐっ!」

 

 カミーラの爪がランスの顔を掠め、血が流れる。

(せめて剣があれば…)

 あの剣があれば、少しは対抗出来るが、今はその剣が無いために無様に逃げ回るほか無い。

 

「あっ…」

 

 ついにランスは足が縺れて倒れる。

 カミーラはそれを見て笑みを浮かべる。

 

「そろそろ殺すか…」

 

 自分は魔王から『この人間を殺してはならない』という命令は受けていない。

 ランスが逃げ回る姿を見るのは中々楽しかったが、そろそろ飽きてきた。

 カミーラがその爪をランスの胸に突き立てようとしたとき、そのカミーラとランスの間に1本の剣が降ってくる。

 

「…!」

 

 カミーラはその場を飛びのき、ランスはその剣を手に取る。

 一瞬遅れてカミーラがランスにその爪を振るうが、なんとランスの持つ剣はカミーラの爪を受け止める。

 

「私の爪に耐えるか…」

「そう簡単に俺様を殺せると思うなよ!」

 

 ランスは力任せにカミーラの爪を弾き飛ばす。

 その意外な程強い力に、カミーラは一瞬驚きの表情を浮かべる。

 が、すぐさまその顔に笑みが浮かべられる。

 

「そうか、ならばせいぜい私を楽しませろ」

 

 カミーラは久々に心からの笑みを浮かべた。




この時の魔王城って何処にあったんでしょうね
SS期は情報が少ない分好きに考察できますが、ちょっとは情報欲しいなーと思ったり

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。