「よう、久しぶりだな。スラル」
魔人ガルティアはスラルを見て笑う。
それは懐かしさと嬉しさが入り混じった表情で、その再会を間違いなく喜んでいる顔だ。
「ガルティア! お前どうしてこんな所に…」
「話は後にしようぜ。それよりも大変な事になってるみたいだな」
ガルティアは目の前の大怪獣富嶽を見る。
それはガルティアですらも凄まじいプレッシャーを感じさせるものだった。
間違いなく自分一人では戦いを挑みたくないタイプだ。
ガルティアがどうするか思案していると、突如として頭に衝撃を感じる。
「あだっ! っておい無敵結界があるのに何で痛みを感じるんだよ…ってお前かよ、ランス」
「俺様を無視してスラルちゃんといちゃついてんじゃねー! スラルちゃんは俺様の女だぞ」
ランスはスラルの腰に手を回し、自分の側に抱き寄せる。
「何を言っている。そういう状況じゃ無いだろう」
「ハハハ! 元気そうで安心したぜ。お前とは2,000年以上前に別れたっきりだったからな。ケッセルリンクから色々と話は聞いてたけどよ」
ガルティアはランスの言葉に気分を害する事無くランスの肩を叩く。
「いやー、生きててくれて嬉しいぜ。お前とはあの至高の料理の事で色々と語り合える気がしたからよ」
「…ってお前はそういえばスラルちゃんの料理を美味いと言っていた奴ではないか! そうだ、お前ガルティアだな!?」
「お、名前を覚えてくれてたとは嬉しいねえ。お前さんとは短い間しか居なかったってのに」
「当たり前だ。お前みたいな奇特な奴、そんな簡単に忘れられるか」
ランスは男であるにも関わらず、魔人ガルティアの事は覚えていた。
それは何よりもガルティアがスラルの料理が好きだという異常な奴だったからに他ならない。
それに魔人のくせにやたらと話せる奴だとも感じていた。
これまでランスが接してきた魔人の中では、人間よりの会話が可能であるのが大きい。
魔人サテラもランスにとっては親しいと言えるが、それでもサテラは魔人の価値観が大きいが、ガルティアはそうでも無い感じがあった。
後の世でもあのカオスが殺さなくてもいいかもと思うくらいに、ガルティアは特異な魔人だった。
「ご無事ですか、皆さん」
「お久しぶりですねー。ランスさんにスラル様、そしてレンさんとお町ちゃんも」
そして二人の女性も同時に現れる。
「お。パレロアと加奈代か。お前達も居たのか」
それはケッセルリンクの使徒であるパレロアと加奈代だ。
二人ともメイド服を着ながらも戦闘態勢でいる。
「魔人…!」
そしてそんな中でガルティアに対して強い敵意を向けるのが日光だ。
「待て日光! 今は争っている場合では無い! ガルティアの力があっても勝てるかどうか…」
スラルの言葉にお町が首を傾げる。
「何故じゃ? 魔人がおるのなら、相手の攻撃が一切通用しないのだから、問題は無いと思うが…」
「そうだぜスラル。それじゃあとっとと片付けるとするか! 俺も腹が減って来たからな!」
「待て! ガルティア!」
スラルの制止の言葉を無視し、ガルティアが富嶽に突っ込んでいく。
富嶽もガルティアを敵と認識したのか、その口から再び真空刃を放って攻撃をする。
ガルティアは当然それを無視して突っ込もうとし、
「ガルティア! 受けるな! 避けろ!」
「あ…!?」
スラルの切迫した言葉にガルティアはその剣で真空刃を防ぐ。
その時、その真空刃の余波がガルティアの体を大きく傷つける。
「いってええええ!? ど、どうなってんだ!? 無敵結界が効いてねえ!」
「もう! 世話の焼ける! ヒーリング!」
吹き飛ばされたガルティアに対してレンが回復魔法をかける。
するとガルティアの傷が見る見るうちに塞がっていく。
「おお、わりぃな。だがどうなってんだ!? 俺は確かに無敵結界を使っていたはずだぜ」
ガルティアは塞がった傷を撫でながら難しい顔をする。
魔人は決して無敵では無い―――それはガルティアもよく知っている。
実際ガルティアもまだ人間だった頃、魔人とも交戦していたが、その時魔人相手にも攻撃が通っていた。
無敵結界が出来たのは、スラルによって魔人になった後の事だ。
それからはガルティアも一切傷を負った事は無かった。
「無敵結界は悪魔や神の前には無力だ。そしてあいつは怪獣と言われてはいるが、恐らくは神か悪魔の一味なのだろう」
「…マジかよ。完全に無敵じゃないって事は知ってたけどよ。まさかそんな弱点があったなんてな」
ガルティアの顔が真剣な表情に変わると、その気配が完全に変わる。
戦士の気配に変わったガルティアを見て、日光は思わず息を飲んだ。
「こいつは今までの戦とは全く違うって訳だな。で、スラル…こいつを倒すんだろ?」
「別に完全に倒す必要までは無い。あの頭部に刺さっている刀を手に入れられればそれでいい」
ガルティアは富嶽の頭部に刺さっている刀を見る。
この怪獣に刺さっているのだから、それだけでも名刀だというのは分かる。
「フン、お前は魔人なんだから精々囮になれ。ムシ使いなんだから体を固くしたり出来るだろ」
「出来るけどよ。それよりもお前さん、ムシ使いの事を知っているのか。前からそんな感じはしていたけどよ」
「そんな事はどうでもいい。日光、お前も今はこいつに手を出すな。その後ならぶっ殺してもいいぞ」
「ひでえな。まあ俺も黙ってやられる気は無いけどな!」
ガルティアはそう言って笑うと、その腹部から翼の生えた異形の存在が出て来る。
それはとりのような姿をした異形の存在であり、ガルティアはその背中に乗って富嶽に接近する。
使徒サメザン、ガルティアの使徒のであり、無数のムシの集合体だ。
そのガルティアを追って、同じく使徒のタルゴが富嶽に接近していく。
「あ、おい! 俺様を置いてくんじゃねー!」
ランスもガルティアの後に続いて富嶽に向かって行く。
そんなランス達を複雑な顔で日光は見ている。
「日光、お前の疑問は尤もだ。だが、今は目の前の問題に集中しろ。そうで無ければ死ぬぞ」
「…分かっています。心の乱れは死に繋がる。それは嫌でも身に染みていますから」
日光もやはり優秀な戦士だった。
心の迷いを直ぐに消し、富嶽の攻撃に備える。
悔しいが、今の自分ではランス達について行く事は難しい。
言葉通り、レベルが違うのだ。
「ランスさん達…大丈夫でしょうか。無敵結界が通用しないとあっては、いくらガルティア様でも…」
「問題無い。ガルティアは無敵結界が無い時から魔人をやっていたんだ。そういう戦い方は慣れている」
スラルはガルティアを信頼している。
魔人ガルティアは人間の時から魔物や魔人とも戦ってきたのだ。
生粋の戦士であり、その実力は非常に高い。
「それよりも…2人はお町を頼む。奴から出てくる雑魚を寄せないようにしてくれればいい」
「はい、分かりました」
「お任せ下さい♪」
スラルの言葉にパレロアと加奈代が頷く。
使徒はその身体能力だけでも人間を軽く上回る。
その2人がお町を守ってくれるのならば、これほど頼もしいものは無いだろう。
これでレンもスラルも攻撃に集中できるというものだ。
「さて…やるか」
「じゃあ私も行くか」
スラルはすぐさま魔法の詠唱に入り、レンも富嶽に向かって行く。
レンが向かっていった時には、既にランスとガルティアが富嶽と戦っていた。
「とっとと死ねーーーーーっ!」
ランスの剣が富嶽の肉を抉り、血が噴出す。
だが、その巨体ゆえにどれほどのダメージがあるのか、それはランスにも分からない。
「そらよっ!」
上空から富嶽を強襲したガルティアが、その手にあるハワイアンソードでその肉を抉る。
富嶽はガルティアを振り下ろそうと動くが、その使徒であるタルゴとサメザンがガルティアを支える。
「グオオオオオオオオッッ!!!」
「うおっ! うるせっ!」
富嶽の怒号にランスは思わず耳を塞ぐ。
ガルティアは流石に振り下ろされるという事は無いが、自分の側に新たな気配を感じる。
富嶽の体内からゾゾトンボが生み出され、それがガルティアを囲んでいる。
「…成程、そういう訳かい」
小さいながらも、その殺意は本物だ。
そしてこれだけの数があれば、魔人でさえも倒されるだろう。
富嶽の体が震えると同時に、ゾゾトンボがガルティアに襲い掛かる。
ガルティアは躊躇わずに富嶽から飛び降りる。
ガルティアに合わせてその使徒達も富嶽から降りる。
「ガルティア! 使徒を引っ込めろ!」
「タルゴ! サメザン! 戻れ!」
スラルの言葉にガルティアは即座に反応し、タルゴとサメザンはガルティアの腹の中へと戻っていく。
それを確認し、スラルが魔法を放つ。
「ゼットン!」
スラルは躊躇わずにガルティアごと纏めて富嶽やゾゾトンボを焼き払う。
炎が治まったときに居たのは、煤塗れになっているガルティアだけだ。
ガルティアは煤を払い落とすと、スラルに対して抗議の視線を向ける。
「…まさか俺ごと巻き込むなんてよ。スラル…性格変わったか?」
スラルが魔王だった頃は、間違いなく自分ごと相手を攻撃するなんて事はしなかっただろう。
魔王だった頃とは事情が違うとはいえ、躊躇い無く自分を巻き込んだことに驚愕する。
「どうせ無敵結界でダメージは無いんだ。問題無いだろう」
「まあそうだけどよ…」
その言葉には流石に納得がいっていないようだが、ガルティアはすぐさま戦士の顔に戻る。
「死ねーーーーーーっ!! ラーンスあたたたーーーーーっく!!!」
ランスの必殺の一撃が富嶽の顔に炸裂し、凄まじい怒号が響いたからだ。
ガルティアもすぐさまランスに続いて攻撃を加える。
ガルティアは虫使いとしての実力はまさに伝説級だが、その剣の腕前も凄まじい。
「そらよっ!」
ランスアタックで大きく傷ついた傷をさらに抉るべく、ハワイアンソードを突き立てる。
そしてそのままその傷口に手を突っ込み、その傷口を広げる。
「行くぜ! ラウネア!」
ガルティアが使徒の名前を呼ぶと、その腹からやはり異形の使徒が現れる。
それは上半身が女性で、下半身は蜘蛛という姿をしている。
ラウネアと呼ばれた使徒は、その手から小さな針を飛ばす。
「よし、いいぜ!」
ガルティアは群がってくるゾゾトンボを振り払いながら着地する。
「流石だな、ガルティア。伝説のムシ使いの力、全く衰えていないな」
ランスはスラルの言葉を聞いて、ある少女の事を思い出す。
(そういやあいつ、カロリアみたいな事やっとるな…それにムシ使いだと? あいつが最後のムシ使いだったな)
ムシ使い、と聞けば当然思い出すのはカロリアの事だ。
ゼスによって一族が根絶やしにされ、LP期において最後の一人の存在。
(あいつの腹から出て来た女は全部ムシなのか? という事は、あいつらも成長したら女に…いや、無いな)
そんな馬鹿馬鹿しい事を考えながらも、ランスは襲い掛かるゾゾトンボを叩き斬る。
「ホワイトレーザー!」
レンの魔法も富嶽に直撃し、
「大雷撃!」
お町の術も襲い掛かる。
その事で富嶽は怒号を上げ、さらに攻撃が激しくなっていく。
だが、ランスはその荒々しい動きからは想像も出来ない程に効率よく、そして美しさすらも感じさせる動きを見せる。
日光にとってはそれは自分の理想とは対極にありながらも、やはりその力を羨ましく感じてしまう。
そしてもう一人、ランスの動きを見て口笛を吹いている男が居る。
ガルティアはランスの動きを見て、魔人で有りながらも感心してしまう。
(成程な…スラルがあれ程欲しがったのはこれも理由か。あいつの戦いを見たのはあの時の一瞬だったからな。こうして一緒に戦うと分かるぜ)
自分も剣を使う故に分かる、ランスという人間の剣の腕前とその体捌きが。
(メガラスが苦戦した訳だ。あいつ、争いが嫌いなだけでメチャクチャ強いからな…)
恐らくはあの時よりも遥かにレベルが上がっているだろう。
何しろ魔人レキシントンや魔人カミーラとも渡り合っていると言うのだ。
その力はやはり凄まじいと言う他無かった。
「がはははは! このままぶっ殺す!」
ランスの一撃がどんどんと富嶽の体を削っていく。
富嶽はランスとガルティアを相手に呻くが、そのターゲットをランスに決めたようだ。
大量に現れたゾゾトンボがガルティアやスラル達に襲い掛かり、富嶽本体はランスに向けてその顔を向ける。
そして口を開くと、その口から真空刃を放つ。
「フンッ!」
ランスはその見えないはずの真空刃をその剣で払っていく。
真空刃とランスの剣がぶつかり合う。
その余波がランスを襲うのだが、
「これなら守りやすいわね。ヒーリング!」
レンがランスに回復魔法をかけて守る。
「さーて、そろそろトドメと行くか!」
ランスがトドメを刺そうと剣を構えた時、再び富嶽がその口を開く。
「むっ」
「これは…また来るわね!」
レンの言葉通り、富嶽が再び全てを吸い込もうと凄まじい吸引を始める。
「ぐっ!」
「さっきよりも凄いわね…!」
ランスは剣を地面に突き刺し、その吸い込みに耐える。
レンは日光の体を掴み、吸い込まれないように力を入れる。
スラルはお町と加奈代とパレロアと共に吸い込まれようにしている。
「ヘッ! おもしれえじゃねえか!」
そして残ったガルティアはというと、富嶽の真正面に立ち力を込める。
ガルティアの腹が富嶽の口同様に強烈な吸引を始める。
その腹は何でも吸い込んでしまい、やろうと思えば城の一つも吸い込めるとも言われている。
「おっ…こいつは中々…!」
ガルティアと富嶽は互いに体を踏ん張りながら吸引を続ける。
「お、おいガルティア! お前も大概にしろよ!?」
「んなこと言われてもここは退けないぜ…!」
スラルの言葉にもガルティアは一歩も退かずに吸引を続ける。
勿論ランス達を巻き込むような事はせず、自分が先頭に立ってランス達を守っているのではあるが、その力は互いにどんどん大きくなっていく。
「おいお前ら! いい加減にしやがれ! 洞窟まで崩れそうになってるぞ!」
その吸引力は既に周囲への被害も馬鹿にならなくなりそうだ。
こんな小さな洞窟で大怪獣と魔人が全力を出せば、その洞窟が持たないのはある意味当然だ。
「…そいつは困るな。俺はともかくスラル達がもたねえか。だけど今止める訳にもな…」
ランスの言葉にガルティアは吸引力を弱めながら難しい顔をする。
このまま吸い込み合戦を続けても良かったが、それだとスラル達が間違いなく巻き込まれてしまう。
ガルティアにはそんな事が出来るはずが無く、ならばどうすれば良いかと頭を悩ませる。
「ランス、どうするの!?」
「うーむ…あの馬鹿げた吸い込みを止めさせねばならんのだが…あ、そうだ」
レンの言葉にランスはここである一つの策を思い浮かべる。
それはランスの持つ剣でしか出来ない事であり、上手く行けばあの怪獣の頭に突き刺さっている刀も手に入るかもしれない。
(だが…流石に今剣から手を離すのは自殺行為だぞ。だが、何時までも持たんぞ)
ランスの額に冷や汗が流れた時、富嶽の吸い込む力が少しずつ落ちていくのを感じる。
それは気のせいでは無く、間違いなくあの強烈な吸い込みの力が弱っていっている。
「お、ようやくラウネアの毒が効いてきたか? 流石にこのでかさだと毒が回るのが遅いか」
先程流し込んだ使徒の毒が効いてきた事にガルティアはニヤリと笑みを浮かべる。
この怪獣に毒が効くのかは少し怪しかったが、どうやら効いてくれたようだ。
そしてランスはその隙を見逃さなかった。
「よーし! こいつも喰らえ!」
ランスは勢いよく剣を振りかぶると―――その剣を躊躇う事無く富嶽の口元に投擲した。
それは富嶽の吸引力もあり、凄まじい速度で富嶽の口に吸い込まれていく。
「…え?」
その光景を日光は呆然と見つめ、レンもあんぐりと口を開けて見ているしかなかった。
「ちょっとランス! 何やってるのよ!」
「いいからお前はとっとと攻撃しろ!」
ランスはガルティアに向かって走っていくと、
「おいお前! さっきの空を飛べる使徒を貸せ」
「サメザンをか? 一体何するつもりだよ」
「いいからさっさと貸せ! あいつをぶっ殺すチャンスを逃がすだろうが!」
「…まあいいぜ。サメザン、出てこい!」
ガルティアの言葉に呼応して、鳥のような姿をした使徒がその腹から現れる。
「よしお前! 俺様をあの剣の所に連れていけ!」
「サメザン、言う通りにしてやれ」
「ピィーーーーーーーーッ!!」
サメザンがその腹から飛び出すと、ランスの肩を掴んで富嶽の頭部にまで飛んでいく。
「お、おおおおっ!?」
ランスはその感覚に驚愕しながらも、富嶽の頭部に迫っていく。
そして富嶽の頭部に着地すると、その意外にも固い感触に驚きながらも突き刺さっている刀を握る。
それは非常に固く、ランスの腕力を持ってしても抜けるものでは無い。
だが、ランスとてそれを予想していなかった訳では無い。
「むっ」
その時、ランスに向かってゾゾトンボが向かって行く。
「氷雪吹雪!」
「ライトボム!」
スラルとレンの魔法がゾゾトンボを撃退するが、やはりその数は多い。
完全には対処することはやはり難しい―――この魔人が居なければ。
「よーし、じゃあ俺はこいつらを頂くとするか」
魔人ガルティアの腹が再び吸引を始める。
それは富嶽に対抗したときのような凄まじい吸引ではなく、その周囲のゾゾトンボだけを狙い打った吸引。
ランスに向かっていこうとしたゾゾトンボは皆ガルティアに吸い寄せられていく。
「がはははは! あいつも役に立つな! どれ」
ランスは改めて右腕で刀を掴む。
そして余った左腕を富嶽の頭部に向ける。
「戻って来い!」
その声と共に、富嶽の体が震える。
「おいお前ら! こいつが暴れないようにしてろよ!」
「無茶を言う! お前こそしくじるなよ! スノーレーザー!」
「そういう事か! じゃあこっちもスノーレーザー!」
スラルとレンは富嶽が動けないように氷付けにしようとする。
勿論こんな事では怪獣の動きは止められない。
だが、それでも少しの時間が稼げれば十分なのだ。
「グガアアアアアアアアッ!!!」
富嶽の雄叫び―――いや、苦痛からくる叫びが響く。
「一体何が…?」
「大丈夫ですよ、やっぱりランスさんは勝つための手段は逃さないですよねー」
「ええ。だからこそ、魔人を相手に生きてこれたのですから」
日光と共にお町を守っていた加奈代とパレロアが微笑む。
「…使徒なのに随分とランス殿の事を知っているのですね」
「付き合いも長いですから。こういう時のランスさんって絶対に期待を裏切らない人ですから」
「ええ。こういう危機的な状況でランスさんが行動する時は大抵上手くいくんです」
その2人にあるのは信頼感。
使徒にそこまで信頼されているという事に、日光は頭が混乱して上手く纏まらない。
魔人もその使徒も人間の敵―――そのはずなのに、こうして今自分はその魔人と使徒と共に戦っている。
そのギャップがどうしても飲み込めずに居る。
だが、そんな日光の思いとは裏腹に、事態は進んでいく。
「グギャアアアアアアアアア!!」
富嶽の口から大量の血が吐き出される。
全てのゾゾトンボはガルティアの腹に飲み込まれ、残ったのは富嶽一体。
「何が起きてんだ?」
苦しみの声を上げる富嶽を前に、事情を知らないガルティアは頭を捻る。
唯一つ分かっていることは、富嶽にとんでもないことが起きているというだけだ。
そしてそのとんでもない事は直ぐに分かった。
「おー! 来たな! …うげっ、血で気持ち悪いな」
ランスの手元に戻ってきたのは、ランスが富嶽の口に投げつけた剣だ。
その形がまた異形で、あちこちから鋭い針のようなものが出ている。
複雑な形をした刃が、富嶽の体を引き裂きながら強引にランスの手元に戻ってきたのだ。
そしてそれは刀が突き刺さっていた富嶽の頭部もグチャグチャにかき回していた。
「まあそんな事はどうでもいいか。それよりも」
ランスは改めて刀に手を掛ける。
するとあれほどまでに固かった刀があっさりと抜ける。
「がはははは! 流石は俺様だな! こうも上手くいくとはな!」
「ランス! 早く止めを!」
「分かってる! 俺様の華麗な剣を見ていろ!」
スラルの声に合わせてランスは富嶽から飛び降りる。
そして左手でハデスを、右手で『富嶽』を掴み、
「ラーンスあたたたたーーーーーーーーっく!!!」
両の手で必殺技を放つ。
それは二つの強力な剣の相乗効果で凄まじい威力を発揮する。
どんどんと富嶽の顔が裂けていき、ランスが地面に着地した時、富嶽はついに力尽きたように倒れる。
「がはははは! 俺様大勝利ー!」
倒れている富嶽を足蹴にしながらランスが勝ち誇る。
だが、流石に血塗れなのが気に入らないのか、直ぐに不愉快な顔をする。
「すげえな…剣だけなら俺は負けるな」
ランスの腕前を見てガルティアは感心したように頷く。
「日光。ほれ」
「え」
ランスは日光の所に行くと、手に入った刀の『富嶽』を渡す。
「お前のだ。使え」
「…ですがこれはランス殿が」
「いいからお前が使え。刀はどうも手に合わん」
ランスの言葉にスラルは苦笑する。
手に合わないのはランスの本心だろうが、使おうと思えば使うことは出来るはずだ。
それでもランスは日光に刀を渡した、実にランスらしい決断だ。
「…では」
日光は刀を手に取り―――それを魔人ガルティアに向ける。
「魔人…私にとっては敵です」
そこにあるのは、確かな憎しみが混じった殺意だった。
ガルティアって描写だけならぶっちゃけ強すぎる感もある
本当にゼス宮殿丸ごと飲み込めるなら、人類に勝ち目は無いはずなんだよなぁ…
まあその辺は話の都合ですよね