ランス再び   作:メケネコ

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日光の選択

 次の日の朝―――ランスは何時もの時間に起きる。

 ランスの体内時計は完璧で、一定の時間には起きる様になっている。

 まあランスの気分次第でそんなのは変わるが、過去の生活からその辺りは規則正しいとも言える。

「なんだ。日光、起きてたのか」

「はい…おはようございます、ランス殿」

 そこには既に日光が起きており、そこには朝食が用意されていた。

「考えは決まったのか」

「ええ…私の考えは…」

 日光は一度言葉を切ると、改めてランスに向かって頭を下げる。

「ランス殿、私はあなたを信じます。例えあなたが魔人と恋仲であったとしてもです」

「そうか。ならいいな。とにかく飯だ飯」

「はい。私の作ったもので宜しければ」

 日光は微笑みながら椅子に座る。

 その顔は間違いなく吹っ切れた顔をしており、昨日のような悲愴な顔は消えていた。

「おー、朝飯かー。こいつはまた良い匂いだな」

 そして魔人ガルティアが顔を出すのと同時に、スラル達も起きてくる。

 その食事はごく普通の時間として経過していた。

 それはGL期とは思えぬ程に穏やかな時間だった。

 しかも魔人と使徒と人間が共に食事をするという異質な空間で有りながらも、日光はその空気を非常に温かく感じていた。

「日光。吹っ切れたようだな」

「はい。ご迷惑をおかけしました。魔人の事は許せませんし、どうにかしたいとも思っています。それで良ければ…ですが」

 日光の言葉にスラルは笑う。

「それでいい。お前の信じる道を行けば良い」

「それはもういい。所でお前は何時までここに居る気だ」

 ランスがガルティアを睨む。

「え? そりゃあ俺がスラルの料理を心行くまで堪能するまでのつもりだが」

「帰れ! お前が居るとそれだけで目立つだろうが!」

「そうか?」

 ランスの怒鳴り声にガルティアはどこ吹く風と言わんばかりの表情だ。

「いや、ランスの言っている事は正しい。お前と一緒に居ると、間違いなく目立つ。我等は今は目立つのが避けたい所だ。魔王の件もあるからな」

「あー…そういやそうか。ケッセルリンクが魔王がこいつを探しているみたいな事言ってたからな。そりゃ確かにまずいな…」

 ガルティアもケッセルリンクから話は聞いている。

 ケッセルリンクも全てを話している訳では無いが、それでも大凡の事はガルティアも理解していた。

 それは魔人を何とかする、という実質的に自分達への敵対宣言でもあるのだが、ケッセルリンクはそれを良しとしている。

 ガルティアは魔王の命令には従うが、それ以外の事では完全に自由に振舞っていた。

 だからこそ、ガルティアもまたスラルのために何とかしてやれれば良いとは考えていた。

「ジルに見つかれば最後、ランスは間違いなく魔人にされる。それは避けたいからな…お前は嫌でも目立ってしまう」

「まあそうだよな…」

 スラルの言っている事は勿論ガルティアも理解している。

 何しろガルティアは一回の食事の量が異常なまでに多い。

 その食料を用意するとなればそれこそ膨大な食料と、そしてそれを作る広場が必要になる。

 今回の旅路ではガルティアはかなりの量の食事を我慢してきたのだ。

 それでも人間からすればとんでもない量なのだが、それがガルティアにとっては我慢の一言だった。

「だから大人しく戻ってくれると助かるのだが」

「そいつは仕方ないな。じゃあ俺は最初の通り、この二人の護衛をするさ」

「というかお前等は何をしに来たんだ」

 ランスは素朴な疑問をぶつける。

 昨夜は当然の事ながら加奈代とパレロアとセックスをしたのだが、逆に言えば本当にそれしかしていない。

 何故この二人がJAPANに居るのか、肝心な事を全く聞いていなかった。

 日光への説明で全ての時間を費やしてしまっていたのだ。

「私達はケッセルリンク様の指示で、かつてスラル様が残した書物を探しています。尤も、そう簡単に見つかる物ではありませんが…」

「我の書いた書物だと? だがそれはジルの手元に渡ったのだろう」

 以前にカイズでケッセルリンクと再会した時、魔王の状況は聞いていた。

 その時に、ケッセルリンクはジルの書いた書物を魔王に手渡したと聞いていた。

 内容を確かめる事も魔王によって禁じられ、兎に角事務的にケッセルリンクはスラルの書物を探し、ジルに渡していた。

 その結果がどうなるか、それはまだ誰にも分からないというのが現実だ。

「まだ残っているものがあるのではないか、ケッセルリンク様はそう考えて色々と探っています。私達は大陸の東側を見るように言われてたのですが、その時に偶然皆様に出会えました」

「そうですよー。いやー、不思議とランスさんとはよく出会えますよねー。あ、そうだ。これお返ししますね」

 加奈代がケースを取り出すと、それをランスに渡す。

「なんだこりゃ」

「大まおーさんからお借りしたものですよー。でも、あれから大まおーさんは見つからないんですか?」

 そのケースを開けると、そこに入っていたのはかつて大まおーが使っていた悪魔の鎌だ。

「ああ…これがあれば何とかなる…可能性があるか」

 スラルはその鎌を見てため息をつく。

 これが一歩になるとは限らないが、それでも必要な物であることは間違いない。

「こうして直ぐに返せて良かったですよー」

「ふむ…これが悪魔の鎌というものか。噂では天志教にも同じようなものが伝わっている…という話を聞いた事はあるがの」

 悪魔の鎌…それは非常に強力な武器だ。

 実際に天志教の教祖である性眼が持つ鎌こそが、あの月餅が持っていた鎌なのだ。

「天志教ねぇ…」

(うーん…私はこれを報告すべきなんだろうか…でも、ここで報告するのは絶対に間違っているのよね)

 レンは大まおーの鎌を見て複雑な顔をする。

 もしお町のいう事が本当なら、天志教は悪魔が作ったものだという事になってしまう。

 本来であればそれを上に報告するのがエンジェルナイトの役目ではあるのだが。

 しかし、本来の自分はこの世界には居ない存在だし、自分の任務はあくまでもランスの護衛だ。

 その自分が歴史を変えていいのか…そうも思ってしまう。

(私が元の時代に戻っても、ここで知り得た事は言われない限りは黙っておくべきね)

「という訳で私達の寄り道は終わりました。本来の役目に戻りますねー」

「あん? 何だ、もう行くのか」

「名残惜しいのですが…私達がランスさん達と出会ったのは偶然です。あまり長居は出来ませんし、ガルティア様の食事の事も有りますから」

「ああ…確かにガルティアならな。膨大な量の食糧が必要になるからな。あまり遠出は出来ないか」

 ガルティアの燃費の悪さは恐らくは世界一だろう。

 その分戦いでも強いのだが、こうして何処かに行くというのはガルティアにも厳しい事なのかもしれない

「こうしてスラルの飯を久々に食えたしな…まあまた何百年後かの楽しみが出来たと思えばそれもいいさ」

 ガルティアは笑いながら席を立つ。

「俺もスラルに迷惑をかけるのは本意じゃ無いしな。じゃあまた会おうぜ」

「短い間ですが、お世話になりましたー」

「それでは失礼致します」

「ああ。またな、ガルティア。そして二人とも」

 そしてそのまま魔人と使徒二人は魔法ハウスから出ていく。

「あいつ…結局何しに来たんだ。ただスラルに会って飯を食ってっただけか」

「本来はケッセルリンクの用事でこちらに来ていたんだ。我等との出会いはイレギュラーだったのだろう」

 ランスの言葉にスラルは笑いながら答える。

 その顔や言葉に嬉しさがあるのは、やはり自分が魔人にした者との再会があったからだろう。

「で、日光。お前はガルティアと何を話したのだ。言いたくないなら構わないが、我等と敵になるか…それだけは教えてもらいたいものだな」

 スラルの顔や言葉から喜びが消え、鋭い視線を日光に向ける。

「おいスラルちゃん。どういう事だ。日光が俺様の敵になるとでも言うのか」

「ああ。日光はそういうタイプの人間だ。日光にとっては魔人は全て敵であり、倒すべき存在なのだろう」

 スラルの声は非常に重い。

「改めて聞こう。日光、お前はランスの敵になるか?」

 スラルの本気の言葉に日光は息を呑む。

 それだけの迫力が有り、嘘等は通用しない…それは明らかだ。

 なので日光は―――

「分かりません。その時になってみなければ」

 自分の中の感情をハッキリと口にした。

「…ふざけている訳では無いようだな」

「ええ…一日で全ての答えは出ませんでした。ですが魔人と話して…色々と考える事も有りました」

 昨夜日光が決めたのは、魔人ガルティアと話すという事だった。

 ガルティアと談笑していたスラルには席を外してもらい、日光はガルティアと言葉を交わした。

 そこには、日光が思っていたのとは全く違う魔人の姿があった。

 魔人と戦いながらも、同じ仲間に疎まれて餓死する所だったのを救われた…それがどんな事なのか、日光には想像も出来なかった。

 だが、ガルティアはそれを恨みには思っていなかった。

 思う所はあったとは言うが、それでもガルティアは人類を憎む事無く、一魔人として生きてきたのだ。

 魔人だというのにそこには敵意も殺意も無い…それが日光には信じられなかった。

 自分の家族を殺したあの忌まわしい魔人と違い、ガルティアからは何処か温かさすらも感じられた。

「魔人は敵、それは今も変わりません。そこだけは曲げられません」

「頑固な奴だな。まあ俺様の女に危害を加えなければ別に構わんが」

 日光の言葉には流石のランスも呆れている。

 まるで志津香のような頑固さ、そして決意が感じ取れる。

 それでいて、志津香よりも遥かに冷静だ。

 …志津香が冷静で居られないのは、ランスが色々とちょっかいを出すという事もあるのだが。

「ランス殿が魔人とただならぬ関係であっても…私には関係の無い事です。私は私の信じる道を行きます。それだけです」

「我等を前によくもまあそこまで言い切ったものだな…」

 日光の言葉を聞いて、スラルの目が細くなる。

 それだけで周囲の温度が下がるような感覚に日光は襲われる。

 ガルティアの言葉通り、元魔王というのは間違いなく事実なのだろう…それを改めって実感させられていた。

「日光を脅すな。スラルちゃん」

「あたっ! だ、だがなランス! ここはしっかりと釘を刺さねば、お前にその刃が突き刺さるかもしれんのだぞ!」

「そんな心配はいらん。大体日光は甘い奴だからな。口ではそう言っても、肝心な所で躊躇する奴だ。間違いない」

「………」

 ランスの言葉に日光は何も答えない。

 だが、それこそが日光という人間の本質をつく言葉でもあった。

 何故なら日光という人間は優しく、甘いと言っても良い性格だ。

 だからこそ、未来の世界において魔王と共に旅を続けるという選択肢をとったのだから。

「とにかく問題は無い。で、次はどうする」

 ランスは会話を切り上げ、次はどうするかを議題にあげる。

 普段ならばランスが自分で決めて行動するのだが、流石にGL期にあっては慎重に動かざるを得ない。

 隠れてコソコソするのは性に合わないが、今は何よりも魔軍に見つからない事が重要だ。

「それなのじゃがの…我はしばらくの間修行をしたいのじゃが良いか?」

「お町?」

「しばらく…とは言うが、実際には年単位じゃな。色々と文献を漁ったりはしているが、やはり一度本格的に学ぶ必要がある」

「成程な。確かに我では陰陽師の修行相手にはならぬからな。独学でも限度があるだろうからな」

 スラルの言葉にお町は神妙な顔で頷く。

 妖怪王とは名乗っていても、所詮は名ばかりの張りぼてに過ぎない。

 色々と考えてはみたが、やはり強さを磨くためには基本が無ければならない。

「お主達とは別れる事になるが…なに、どうせ長い時間の中で再び会えるじゃろう」

「ふーん。まあいいんじゃないか。お前が強くなるならばそれはそれで構わん」

「あら意外ね。ランスなら自分の手元に置いておくものだとばかり思ってたけど」

 ランスの言葉にレンが目を丸くして驚く。

 女への執着心が人一倍強いランスが別れを許容するとは思わなかった。

「セラクロラスに会えばどうせまた移動させられるんだ。だったら俺様にとっては少しの間に過ぎん。それまでにはお町も色々と成長してるだろ」

 ランスの視線にお町は半眼でランスを睨む。

「女好きなのは分かってはいるが、存外に今は手を出さないと言われるのも腹が立つものだのう…」

「ガキは論外だ。ミルくらいに育てばハイパー兵器が反応するが…今は無理だな」

 お町はランスの範囲外のため、ハイパー兵器は反応しない。

 ただ、ランスの場合は極限状態になればそれも定かでは無いのだが。

「で、当てはあるのか?」

「我が生まれた場所に行く。そこには陰陽師も沢山居たからのう…そこならば文献も色々と残っておるだろう」

「そっか。まあ頑張れ。そして俺様の役に立てよ」

「フン、相変わらず上から目線じゃな。じゃが、お前に認められてこそ、我は黒部殿と並び立てる。その時こそ、我が妖怪王となれるのだ」

 ランスの言葉にお町は気分を悪くする事無く、不敵な笑みを浮かべる。

「で、この後ランスはどうするつもりなのじゃ?」

「俺様のやる事は変わらん。あのメディウサとかいう奴をオシオキする。それだけだ」

「そう言えばそんな事を言ってたわね。でもJAPANとは反対側の方に居るんでしょ? そこまで行くのも大変じゃない?」

 ランスの今の目的は女を苛めているという魔人メディウサをオシオキする事だ。

 そのために無敵結界を何とかする手段を探した結果、破壊神ラ・バスワルドの力の事を示された。

 ただ、その破壊神ラ・バスワルドの力というのが今一分からないのも事実だ。

「そうだな。ラ・バスワルドの力の事もあるからな。やはり一度大陸に行かねばならぬだろうな」

「大陸ですか…」

 日光はJAPANから出た事は無いので、大陸とはどんなものなのかは分からない。

 ただ、聞いた話では人間牧場があるという恐ろしい場所だとは分かる。

 だが、同時に魔物牧場と呼ばれる施設も有り、この世界の地獄と呼ばれる場所なのだ。

「ランス殿も魔人を倒す力を求めているのですか?」

「そうだ。魔人はぶっ殺す」

「…それなのに魔人の恋人がいるのですね」

 ランスの言葉に偽りは無いだろう。

 だが、同時にランスには魔人の恋人が居るという。

 その魔人が魔人になる前からの関係との事だが、一体何がどうなっているのかさっぱり分からないのが本音だ。

「あいつはいいんだ。あいつは俺様の味方だからな。だが、魔王となると話は別だ。魔人は魔王の命令に絶対服従だからな。魔王の命令があればあいつも俺様の敵になる」

 実際に、魔王ナイチサの命令でケッセルリンクとその使徒はランスの敵に回った。

 その経験があったからこそ、ランスも魔王の厄介さをより一層理解した。

 魔王が居る限り、ケッセルリンクには本当の意味での自由は無いのだ。

「…私は魔人について何も知ろうとしませんでした。ただ、憎い人類の敵であるだけだと」

「それは別に間違ってないぞ。魔人が人類の敵なのはそうだからな。ケッセルリンクくらいだろ」

「それとガルティアとメガラスもな。ガルティアは人間に敵意は無いし、メガラスもそうだ。魔王の命令が無ければ人類と戦おうとはしないだろう」

「ああ…あいつか」

 魔人メガラス…男を覚えるのが苦手なランスでも覚えている。

 この世界に来る前に、ホルスという種族と共に巨大戦艦を巡ってたので記憶に残っていたのだ。

 それに無敵結界を抜きにしても、強敵だった。

 正直あの時戦っていても、間違いなくランスは負けていただろう。

「まああんな奴はどうでもいい。まずはあのバスワルドの力とやらを探すぞ」

「正直雲を掴むような話なのだがな。だが、お前なら必ず見つけるのだろうな」

「そうね。まずはそこからね」

 ランス達の目的はジルをこの手に取り戻す事…そのためには無敵結界をどうにかしない限りは手を出す事も出来ない。

 本来であれば魔王に挑むなど無謀な事…それでも人は魔王に抗い続けるのは誰しも例外では無いのだ。

「その…「ばすわるど」とは何でしょうか?」

 日光は話に全くついて行けず、首を傾げるしかない。

 ただ、それは魔人の無敵結界を何とかする方法なのだという事は察しがつく。

「そうだ。それがあれば無敵結界を無視出来るのだ」

「無敵結界を…破れる…」

 それは日光からすれば…いや、人類にとってはまさに夢のような話だ。

 無敵結界があるからこそ、魔人は好き勝手が出来るのだ。

「ただランスの剣だけでは、魔人にダメージを与えられるのはランスだけという可能性が高いのだがな…」

 ランス『だけ』が無敵結界を破れるというのはスラルにとっては不都合だ。

 確かにランスは強いが、それでも1対1で魔人を相手にするのは難しい。

「無敵結界を破らなければ結局は人類は魔物には勝てないだろうな」

(半分以上、我のせいなのだが…)

「無敵結界を破る…」

 スラルの言葉に日光は考える。

 ただ、我武者羅に強くなる事だけを目指して来たが、こうして色々な話を聞いて視界が広くなってきた気がする。

「バスワルドとは破壊の神だ。神の前には無敵結界は意味は無い。ランスの剣にはその神の力が宿っている。それを完全なものにするためにその力の欠片を探さなければならない」

 問題なのはそれが何処にあるのか、そしてどうすればそれが手に入るのかなのだが。

「ただ分かっているのは、そのバスワルドの力が魔人として分けられたという事だ。だからその魔人を探す必要が有る。ただ、魔人と言っても女だという事は分かっている」

「魔人の…女性ですか?」

「そうだ。信じられないだろうが、ランスがその魔人の女を抱く事で、バスワルドの力を解放出来るらしい」

「…は、はぁ」

 スラルの言葉にも日光は曖昧な顔をするしかない。

「その…魔人を倒すのに、その魔人を抱かなければならないのというのは、おかしな事だと思うのですが…」

「その辺りは突っ込むな。神のやる事に一々突っ込んでてはキリが無い」

 日光の言う通り、普通に考えればおかしな事なのは間違いは無い。

 だが、それがランスの望みに沿っているといえば沿っているので、スラルとしてもどうしようもない。

「魔人の数は24体…そして魔王ジルが生み出した魔人である事は間違いない。除外できる魔人も複数居る」

 魔人の数は24体と決められており、その中の内の2体、それも女だと限られれば限定するのは容易い。

「今の魔人はケイブリス、カミーラ、メガラス、ガルティア、ケッセルリンク、ますぞえ、レッドアイ、パイアール、レキシントン、ザビエル、ノス、メディウサか…」

「パイアール…ああ、あのガキか。結局魔人になったんだったな」

「どういう手段かは全く分からんがな。恐らくは、あの時の魔人が死んでその魔血魂を手に入れたのだろう」

「男なんぞどうでもいいがな」

(そういや魔人もそんなに居たんだったな。何体か俺様がぶっ殺した奴も居るがな)

 スラルが名前を挙げた魔人の中には、かつてランスが倒した魔人も存在して居る。

 今の世界ではまだ生きている魔人だが、LP期においてはランスはノス、アイゼル、ジーク、ザビエル、カイトは既に倒し魔血魂へと変化している。

 そして倒して来た魔人は全て男なのでその辺りは全く違う。

(女の魔人…そういやサイゼルの奴が居たな。そういやアイツもレンみたいな羽根が生えていたよな)

 魔人の中でもランスが見逃した魔人が一人いる。

 エロい事をしようと思ったが、あの時は時間も無く、サイゼルを抱く事は出来なかった。

「魔人の数は24体…そんなに居るのですね。そして私の家族を殺したイゾウも魔人の一人…」

 スラルの言葉を聞いて、日光は難しい顔をする。

「女の魔人を探せば良いのだろうが…失敗したな。ガルティアに詳しい話を聞けば良かった。そうすれば新たに魔人となった者が分かったかもしれないのに」

 恐らくは既にこの世界に例のバスワルドの力を持った魔人は存在して居る。

 だが、それが誰なのかは分からないし、何処に居るのかも分からない。

 ガルティアにその辺りの事を聞けば良かったと、今更ながら考えが足りなかったと思っている。

 再会した嬉しさでその辺りの事をすっかりと忘れてしまっていた。

「まあいい。とにかくその魔人とやらを探しに大陸へ戻るぞ」

「そうね。JAPANに居るとも思えないしね」

「大陸…か」

 日光はまだ見ぬ世界を想像し、ため息をついていた。

 

 

 

「ここが天満橋ですか」

 日光は初めて見る天満橋をみてため息をつく。

 大陸とJAPANを繋げる唯一の道、それにも関わらず何故か魔軍の配備はされていない。

「ここからが本当の地獄になるかもしれない。覚悟は出来ているか?」

「はい。魔人を倒すと決めた時から出来ています」

「そうか。ならば何も言う必要は無いな」

 大陸にこそ、この世界を支配する魔人達が無数にいる。

 何よりも、魔人を束ねる魔王が存在して居る。

 そして人間と魔物に等しく地獄を見せている、人間牧場と魔物牧場がある。

「で、お町はここまでついてきたけどいいの?」

「構わん。あそこで別れるのも味気なかったからの。それよりも、お主等も達者で居ろよ」

「おう。次に会う時までにはでっかくなってろよ」

 ランスはお町の頭をやや乱暴に撫でる。

 お町はそれを嫌がる訳でも無く、されるがままになっている。

「フン、お前こそ次に我に会う時は覚悟しておけよ。我は妖怪王として相応しい姿になっているのじゃからな」

「がはははは! それだけ言えるなら十分だな。そいつはお前が持ってろ。それがあれば大陸に来れるだろ」

「…いいのか? これは黒部殿がお主に託した物だろう」

 お町は自分の首にかかっている黒部の牙を見る。

 それがあれば、妖怪でも大陸へと進出することが出来る。

「いいんだ。それが無いとお前がこっちに来られないからな」

「ならば有難く受け取ろう。では皆…息災でな」

「おう。じゃあな」

「また会おう。お町」

「どうせまた会う事になるでしょうしね」

「お町殿もお元気で」

 ランス達は天満橋を渡り、お町はランス達が見えなくなるまで手を振り続けた。

 その姿が見えなくなった時、お町は決意を込めた顔で黒部の牙を見る。

「黒部殿。お主の代わりに我がランスの助けとなる。だから…それまでは待っててくれ」

 お町はゆっくりと歩き、己が生まれた所へと向かい始めた。

 

 

 

 ランス達が大陸に渡り1年が経過した。

 その間に色々と問題があったりしたが、幸いにもランス達は魔軍に見つかる事無く旅を続けられていた。

 ランスがカオスから聞かされたとおり、人々は世界の各地に隠れ住んでいた。

 小さいながらもコミュニティも有り、そこには娼館があったり道具を販売していたりと様々だ。

 そんな中、日光もまためきめきと力を付けて来ていた。

「はああああああっ!!」

「中々強くなったじゃない。でもまだまだね」

 日光とレンが剣の打ち合いをしている。

 ランスとスラルはそれを見ながら呑気に飲み物を飲んでいた。

 この時代では貴重な甘い飲み物でも、ランスの実力があれば問題は無い。

「はい終わり。光の矢」

「っく!」

 レンは日光の刀を盾で弾くと、その体にレンの魔法が直撃する。

 それで日光は倒れるが、その顔には満足感が有った。

「ようやくレン殿に魔法を使わせられるようになりました」

「そうねー。昔に比べれば強くなったでしょ。レベルも50になったみたいだしね」

「ええ。ようやく私もランス殿達について行けるようになったと思います」

 レベルの話が出て、ランスの顔が不機嫌になる。

「言われてるわよ、ランス」

「やかましい。スラルちゃんも大して俺様と変わらんだろうが」

 日光のレベルはとうとう50となり、その実力はランスが良く知る上杉謙信に近づいていた。

 流石にまだ謙信の方が強いが、ランス達との冒険によって冒険者としての心得も身に着けていた。

「レベルはねー…ちょっとの間魔軍と戦わないだけで停滞するものねー」

「フン、今までが異常だったんだ」

 ランスとスラルとレンのレベルはアレから1しか上がっていなかった。

 流石にレベルが80を超えると、普通に戦ってたのではレベルが上がるはずが無かった。

 何しろランスは少し冒険をサボるだけで、60以上あったレベルが10にまで下がる程だ。

 ただ、ランスのレベルが上がりにくくなっているので、同時にレベルが下がりやすいという事も無かった。

「アレから本当に何も無かったわね。嫌なくらいに会っていた魔人にも出くわさないし」

 レンはランス達の所に行くと、同じように用意されていた飲み物を口にする。

 日光も同じように飲み物を口にする。

 その姿を見て、ランスは何とも言えない色気を日光から感じ取る。

 日光の体はアレから大きく成長していた。

 少女の体から大人の体に近づいていき、そのスタイルもより一層素晴らしいものになっていった。

「…お前は本当に成長が無いな」

 ランスの顔を見てスラルは半眼になってランスを睨む。

 最早病気とも言えるが、逆に言えばそれくらいの欲望が無ければランスもここまで成長しなかったのかもしれない。

「おい日光。お前、この前もミスってたよな。ならば当然覚悟は出来てるんだよな」

「え…あ」

 ランスの言葉に日光は顔を真っ赤にする。

 あの時の約束は今でも継続されており、日光は今でもランスに好きなように抱かれていた。

「がはははは! 今夜も楽しみだなー!」

 ランスは何時の時代でも、どんな時でも変わる事は無かった。




ちょっと話が強引過ぎというか…正直悩んでもいます
思った以上に人類側を動かしにくいというか、少し巻いていくしかないです
早くエターナルヒーローを全員出したいんですけどね…後はガイかな

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