ガルティアがランス達と別れてから間もなく、使徒達は一度ケッセルリンクの元へと集まっていた。
「ご苦労、お前達」
「いえ…大した成果は得られてはおりません」
ケッセルリンクの労いの言葉にも、メイド長であるエルシールは難しい顔を隠さない。
その言葉通り、成果というのは中々得られる物では無い。
「気にする必要は無い。それよりも、加奈代とパレロアがランスと出会ったとの事だからな。報告を頼む」
「はーい。報告しまーす」
「はい、ケッセルリンク様」
加奈代とパレロアはランスと出会った時の事を話す。
ただ、そこには大して真新しい発見という物は無い。
ランスと再会し、また大きな戦いがあったという話があるだけだ。
「中々見当たらないものですね…」
「当然だ、シャロン…殆どの書物はジル様が持っているのだからな。だが、それ以外の物が実際に世界に散っていた…」
ケッセルリンクは手元にある書物を見る。
そこは何の事も無い、魔法の構築の事が書いてある。
これ自体は大した事ではない…何しろ1,500年程前の話で、あれから魔法も進歩している。
だが、それ以外の事も記載されており、その中でケッセルリンクが気になったのは黄金像の事だ。
「アイテムというのは必ず意味がある。そしてスラル様はこのアイテムの事を記載していた…それが何の意味を持つかはまだわからない。ただ、スラル様が書き残したのならば、必ず何か意味があることなのだ」
(そしてその事をスラル様が覚えていないという事もな)
ケッセルリンクが気にしているのは、スラルには一部の記憶が存在しないこと。
無敵結界を何かに願ったとは言っているが、その何かが分からない。
「そしてスラル様はこの黄金像の事を覚えていない…ならばそこに真実があるのかもしれない」
「手探り同然ですね」
「そう、手探りだ。だが、スラル様もその手探りから事を成していったのだ。ならば我等も同じようにすればいい」
何も無いスラルが、これらの知識を発掘するのにどれくらいの時間を有していたのだろう。
しかもスラルは自分が魔人になる前からその知識を得ていた。
ならばヒントが手元にあるのに、それに気づかないのは自分の怠慢でしかない。
「お前達にも苦労をかけると思うが…よろしく頼む」
「「「「「お任せください、ケッセルリンク様」」」」」
主の言葉に、使徒達は嫌な顔一つする事もなく一礼した。
ランス達の冒険は当然の事ながら続いていた。
勿論全てが上手くいく訳ではないが、それでもランスにとっては冒険はライフワークだ。
ただ、時代が時代なのでダンジョンの情報は中々手に入らない。
人里にも訪れはしたが、隠れるように暮らしている陰気な空気にランスはうんざりしていた。
だからといって、道のど真ん中で魔法ハウスを使うほどランスは向こう見ずではない。
そんな中でも、ランスと日光の交わした約束は未だに守られていた。
それは日光が冒険でミスをしたらランスに抱かれるという約束。
日光からすればそれは覚悟のいる行為だった。
ランスの事は嫌いでは無かったが、恋愛的に好きかと聞かれればそうでは無い。
やはり、ランスという人間は性格的には褒められた人間では無いし、その性格が嫌いだという人間は居る。
日光もランスの性格は確かに問題が有るとも感じていた。
だが―――それを帳消しにするくらいの魅力、強さがランスにはあった。
それはランスに近い者しか分からない事なのかもしれない。
そして日光はそんなランスの魅力を感じている者の一人だった。
「ほーれほれどーしたー。そんなんじゃ何時まで経っても終わらんぞー」
「は、はい…ご、ごめんなさい…」
寝転がるランスの上で、日光が必死になって体を動かしていた。
日光はハイパー兵器に貫かれながらも何とか快感に耐えている。
だが、その刺激は体が成長した日光には確実に快感を与えていた。
何とか耐えるのだが、ハイパー兵器が日光の大切な所に当たるたびにその体を震わせる。
ランスの胸に手をつき、何とか体重を支えてはいるが、そうする事で余計に刺激が強くなってしまっている。
(うーむ、日光もようやく慣れて来たな。最初は五十六みたいにお堅い奴だったが、今は結構情熱的だな)
最初の頃はやはり体も固く、緊張しているのが丸わかりだったが、こうして時間が経ち何度もランスと肌を重ねる事で彼女の体も開発されていた。
もしこれが日光の精神が成熟していたとしたらこうはならなかっただろう。
エターナルヒーローと呼ばれる者達が揃っていれば、日光はランスの事を拒んでいただろう…その強烈な意志力で。
だが、そうはならなかった。
日光はまだ幼く、精神的にも成熟しない内にランスと出会う事で、彼女の精神にも余裕が出来た。
それ故に、ランスとのセックスを自然に受け入れてしまっていた。
それどころか、今ではランスとの性行為で強い快感を覚えるまでになっていた。
「ほれほれ。お前が動かないなら俺様が動いてやるぞ」
「ん、あああぁっ!」
ランスは日光の腰を掴むと、下から日光の体を突き上げる。
それだけで日光の体は仰け反り、その形の良い大きな胸がランスの前で揺れる。
そして日光の動きが止まり、ランスの上に崩れ落ちる。
絶頂を迎えた日光がランスの上で荒い息をつきながらしがみ付く。
「日光も慣れて来たな。いい感じだぞ」
「…言わないで下さい」
日光はランスに顔を見られないように目を逸らす。
心地よい感覚に身を委ねていた時、ランスが日光と体を入れ替える。
「ほれほれ。顔を隠すな」
ランスが手で顔を隠している日光の手をとかすと、そこには真っ赤な顔で蕩けた顔をしている日光の顔が有った。
それは明らかに絶頂を迎えた顔で、日光がそれを恥ずかしがっているのは明らかだ。
(私は…これ以上ランス殿の誘いを断れるのだろうか…)
日光は辛うじて自らランスに抱かれるという事はしていない。
自分が何かミスをすればランスに抱かれる…それは今でも守ってはいるが、それももう怪しくなってしまっている。
それだけ自分の心情の変化があるのを自覚していた。
ランス達と共に一年間冒険をした事で、良い所も悪い所も分かって来た。
分かって尚、日光はランスの事が嫌いにはなれない…むしろ一人の男としてはやはり魅力的な人間だと映ってしまった。
やはり一年という期間は長い…ましてや日光はまだエターナルヒーローとして精神が成熟する前にランスと出会ってしまった。
そんな思春期の少女がランスという人間に出会えばどうなるか…それは明らかだった。
「お前も十分に感じる様になってきたではないか」
「私はそんなつもりは…」
早鐘のように鳴る胸を押さえ、日光は首を振るだけだ。
「ほれほれ。だから俺様もこんな事をしちゃうぞー」
ランスは日光に顔を近づけると、そのまま彼女の唇を奪う。
「ん…」
日光は特に抵抗もする事なくそれを受け入れる。
ランスの舌と日光の舌が絡まるだけでなく、ランスの口から唾液も入って来るが、日光はそれを躊躇う事無く飲み込む。
「さーて、今度は俺様が好きに動く番だな。これも俺様を絶頂せられないお前が悪い」
ランスは日光の収まっているハイパー兵器を激しく動かす。
日光はシーツを掴み、ランスから与えられる刺激に必死で耐える。
耐えるのだが、そんなのものは蟷螂の斧に過ぎず、直ぐにその口から官能的な喘ぎ声が出て来る。
激しいピストン運動に日光は小さく絶頂を迎えながら、ランスにしがみ付く。
「がはははは! 可愛いぞ日光!」
「言わないで…」
ランスの褒め言葉にも日光はその言葉を否定するが、その仕草すらもランスには可愛らしい。
「とりあえず一発いくぞー。とーーーーーっ!」
「ランス殿…ランスさん!」
ランスの動きがより一層激しくなり、日光の声もより高くなっていく。
日光の最奥にまでランスのハイパー兵器が入り込み、二人はついに絶頂を迎える。
「あ、あっ…」
自分の体に注がれる熱い塊に日光はトロトロになってしまう。
「がはははは! 良かっただろ日光」
ランスはハイパー兵器を日光の中から引き抜かれると、そこからランスが放った皇帝液が大量に出て来てシーツを濡らす。
「それにしてもようやく俺様の事を殿付でよばなかったな」
「…わ、忘れて下さい」
日光としてはランスとの間に壁を作っていたつもりだった。
この男は人類の敵である魔人とも親しく、あろうことかその魔人の中に恋人がいる。
そのカラーが魔人になる前からの付き合いだと言っていたが、それでも人類にとっては敵になってもおかしくない男だ。
(それなのに…)
そんな男に日光は惹かれているのを自分でも自覚していた。
何かを成し遂げるためにはどんな困難も成し遂げようとする男。
例えそれがろくでも無い事でも全力でぶつかり、決して諦めない男。
それは自分が両親と兄の仇を取るという決意と何も変わらない。
「本当に…妊娠しないのですよね?」
日光は自分の中に大量に出された精液に熱いため息をつく。
「ああ。心配するな。その辺はスラルちゃんにちゃんとさせてる」
ランスには避妊魔法がかけられているため、女が妊娠する事は無い。
それはランスにとってもある出来事が苦い記憶となっている事も有る。
『ランス…私の中に居たお前と私の子がいないんだ…』
魔王ジル…いや、ランスの奴隷であるジルは確かに泣いていた。
それは怒りとも悲しみとも取れる顔であり、ランスは自分の奴隷にそんな顔をさせた魔王ナイチサが絶対に許せなかった。
ジルが妊娠したのは、丁度その避妊魔法が切れた時だったのだ。
それからはランスは避妊魔法をしっかりとかけさせていた。
ランスは認めないだろうが、それはジルの事があったからなのは明白だ。
スラルもそれを分かっているからこそ、間違いが無いように魔法をかけている。
「なんだ。妊娠したいのか」
「いえ…私は女を捨てたつもりです…その、こんな事をしておいて説得力が無いのは分かっていますが…」
「当たり前だ。こんなになっておいて女を捨てたとかそれこそ鼻で笑うぞ」
ランスの指摘に日光は顔を真っ赤にして俯く。
確かにこんな言葉は説得力全く無いどころか、明らかに矛盾している。
まあランスはそんな事は全く気にしていない。
何しろどんな言葉が出ようが態度を取られようが、セックスが出来れば満足するのだから。
「さーて、それよりもまだまだ続くからな。さーて、まずは綺麗にして貰おうか。出来るな」
ランスは日光の眼前にまだまだ大きなハイパー兵器をつきつける。
まだまだ大きなハイパー兵器を見て、日光の顔が真っ赤に染まる。
何度も何度もその口で奉仕しているが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「は、はい…」
日光は自分の液体とランスの精液で濡れたハイパー兵器をその舌で舐めて綺麗にする。
一通りハイパー兵器を舐めまわした後で、日光は口に含む。
相変わらずランスのハイパー兵器は大きく、口に含むだけでも苦労するが、それでも日光は必死になって奉仕する。
(ああ…私はどうなってしまうのだろう…)
日光は今の自分に大きな疑問を抱きながらも、ランスを受け入れるのは止められそうには無かった。
何度も言われているが、今の時代は人間の地獄である。
人間はこの時代では隠れて生きる以外に道は無く、常に魔物に脅えながら日々を過ごしている。
灯りをつける事もままならない状態だが、それでも人類は生き続けていた。
だが―――それは魔物も似たようなものだ。
人間を管理するために魔物は生産され続け、使えなくなったら魔王によって処刑されるか、人間牧場の人間のストレス発散の道具として殺される。
全ては魔王の思うがままの世界であり、これこそがジルが望んだ世界―――という訳でも無い。
本来の歴史にジルは人間によって犯され、四肢を斬り落とされて死の寸前で魔王ナイチサによって魔王にされた。
しかし、ランスと出会った事でジルの運命は変わり、その四肢は魔王によって落とされただけでなく、自分の愛した男の子まで殺された。
人間牧場を作るのは、魔王に対抗できる唯一の存在である勇者への対策に過ぎない。
そしてそんな世界の魔物兵達もまた、地獄のような日々を送っていた。
だが、そんな魔物兵の中でも一部の者は好き勝手に動いている者達が居る。
それが魔人メディウサの配下の魔物兵だった。
「ゾナンデン隊長。こっちです」
「そうか。ご苦労」
魔物隊長が率いる人間狩り部隊、それが人間達の隠れ里を見つけていた。
「その中でも上質の人間はメディウサ様に差し出さなければいけないのですよね…」
「言うな。そのメディウサ様がジル様のお気に入りなのは分かっているだろう。そのメディウサ様の言葉を聞いているからこそ、我々は牧場に送られないのだからな」
魔物達にとってもこの時代は地獄なのだ。
魔物大将軍ですらも使い捨てられ、魔王によって処刑される…それが現実だ。
だが、その地獄から逃れる手段は存在する…それが魔人の私兵になる事だ。
魔人は自分の命令に忠実な魔物兵を探している。
しかし、魔人の中でも私兵を欲しがるなどそうある話では無い。
ケイブリスとレッドアイは、魔王を恐れて大陸の西側に引っ込んでいて出てこない。
レキシントン、レイ、パイアール、メガラス、ますぞえ、ラ・サイゼルは魔物兵など必要としていない。
ジークとアイゼルも基本的には魔物兵を使う事は無い。
魔王に命令されれば使うのだろうが、ここ最近はそんな気配は全く無かった。
そんな魔物達の中では唯一希望になりえるのがカミーラ、ケッセルリンク、ラ・ハウゼルだ。
だがしかし、カミーラの方も扱いは良くは無い。
基本的に使い潰される…消耗品でしかない。
ただし、命令に忠実ならば生きながらえる事が出来る。
ケッセルリンクとラ・ハウゼルだけが魔物兵達の希望なのだが、生憎とその二人の魔人も魔物兵を使う事は無い。
それでも魔物兵達は希望を持たずにはいられなかった。
そして残ったのがメディウサなのだ。
メディウサの下に居れば割と好き勝手に出来る、それが魔物達の認識だった。
そのメディウサの命令が、人間の女を捕える事だった。
メディウサは人間の女を犯し殺す事が何よりの楽しみで、人間を捕えては自分の城で殺していた。
そんなメディウサの楽しみのために動くのが、メディウサの配下の魔物兵だった。
その魔物兵が今、人間の隠れ里の一つを偶然とはいえ見つけてしまったのだ。
そして魔物兵に見つかった人間の運命は最後、魔物達によって殺されてしまうだけだ。
だが―――当然そんな運命などあっさりとぶち壊す者が存在して居た。
それは物陰から魔物兵の事を覗いてた。
「アレは魔物兵ですよね…そしてあの青いのが…」
「そうだ。アレが魔物隊長。魔物兵を200体指揮する事が出来る存在だ。ちなみにその上に居るのが魔物将軍、その魔物将軍を束ねるのが魔物大将軍だ」
「向かっている方向を考えれば…人間の隠れ里なのでしょうね」
レンが何でも無い事のように呟く。
エンジェルナイトであるレンにとっては、正直人間の事などどうなって構わない。
あくまでも彼女の任務はランスを守る事なのだ。
そんな冷たいとも感じるレンの言葉に日光は顔を顰める。
「ああ…そう言えば人間が居たな。あまりに陰気過ぎて忘れてた」
「ランス殿…」
ランスの言葉に日光は少し責めるような表情を浮かべる。
日光から見てランスもレンも、そしてスラルすらも少々冷たく見える。
「分かった分かった。まああいつらが何か情報を持ってるかもしれないからな。適当に生かして情報を引き出すか」
「それが良いだろう。魔人の事も色々聞けるだろうしな」
「別にいいけど。それじゃあ何時もの通り不意打ちでもしましょうか」
「え…私達だけで戦うのですか?」
ランス達の言葉に日光は驚愕するしかない。
強い事は勿論身に染みて知っているが、相手は30はくだらない数が居る。
しかも魔物兵は普通の魔物よりも強いと聞いている。
それを自分を含めた4人で戦うなど、普通に考えれば無謀極まりない。
「あれくらいならば余裕だ余裕。真正面からやり合うのは馬鹿のやる事だ。それに魔物兵は頭を潰せば何も出来ん奴等だからな」
「強さはあるが、統率力は無い。それが魔物兵の特徴だ」
スラルもランスと共に居たからこそ知り得た事。
確かに魔物兵は強いが、意外な程に脆い…魔物の強さはやはり魔人の力があってこそなのだ。
「魔物隊長程度なら問題無いでしょ。で、まずは魔法で一発行く?」
「そうだな。まずはそこであいつらの出鼻を挫き、そこからランス達が突っ込めばそれでいいだろう」
「よーし、日光。準備はいいな」
「え、は、はい…」
あっさりと決まっていく出来事に日光は目を白黒するしかない。
だが、ランス達が戦闘態勢に入った事で日光も刀を構える。
「さて…行くか! 氷雪吹雪!」
「ライトボム!」
スラルと日光は魔物達の前に出ると、不意打ちで魔法を放つ。
「あ、な何だ? うぎゃーーーーーーっっ!!!」
二人の魔法が魔物兵に炸裂し、複数の魔物兵が吹き飛ばされる。
「襲撃か!?」
「に、人間です! 人間が目の前に居ます!」
「人間だと! …何だ、たったの二人、しかも女だ!」
魔物隊長の言葉に魔物兵達は即座に良い気分になって襲い掛かろうとする。
何しろ目の前に居るのは極上の美人の女、魔物からすればまさに餌が自らやって来たも同然だ。
だが、魔物隊長や魔物兵…いや、この世界の全ての魔物達が持つ、人間を見下すという行為。
それこそが人間が魔人や魔物に付け入る隙を作っていた。
「がはははは! 死ねーーーーーーーっ!! ラーンスあたたたたーーーーーーっく!!」
魔物達がスラル達を取り囲もうとした時、その背後からランスが強襲する。
「え、うぎゃーーーーーーーっ!!!」
「た、隊長ーーーーーっ!?」
ランスの一撃を受けて魔物隊長が一撃で真っ二つになる。
それだけでなく、今のランスアタックは一撃では無くもう一撃が放たれる。
「そ、そんな! うげーーーーっ!?」
その一撃に巻き込まれた周囲の魔物兵も衝撃波で切刻まれる。
「はっ!」
そして日光もまたランスに合わせて不意打ちを行う。
速度に任せた日光の一撃で魔物兵が真っ二つにする。
「え、な、何が!?」
魔物隊長が一瞬で殺された事で、残された魔物兵はパニックになってしまった。
そしてそのパニックを見逃すランス達では無かった。
「氷の矢!」
「光の矢!」
魔物兵達に向かってスラルとレンの魔法が襲い掛かる。
それは下級魔法のはずだが、二人の力は人間を遥かに超えている。
そんな存在の魔法を受ければ只では済まないのは当然の事だ。
「な、何だこいつら強いぞ!?」
「ほ、本当に人間か!?」
生き残った魔物兵達は目を白黒させるが、そんなものはランスにとっては隙でしかない。
「雑魚が! 死ねーーーーーっ!!」
「こ、この! 人間が調子に乗るなよ!」
赤魔物兵がランスに向かって斧を振るうが、ランスはそんな事はお構いも無く剣を振り下ろす。
「馬鹿が! このパワーゴリラZの俺に力で敵うと思うなよ!」
中身がパワーゴリラZの赤魔物兵がランスの剣など簡単に打ち砕けると思い、その鎧の中でほくそ笑む。
だが、それが驚愕に変わったのは自分の斧が、まるで木でも斬るかのようにあっさりと自分の腕ごと斬り落とされた事。
「え?」
飛んでいく自分の腕を呆然と見ていたが、その頭が即座にランスによって割られる。
悲鳴を上げる暇も無く潰された赤魔物兵を見て、全ての魔物兵は即座に怖気づいた。
だが、怖気づいた事で何が変わる訳でも無い、結局はランスにとっては経験値でしかない。
「魔物は…敵!」
日光は混乱の極みにある魔物に向かって突っ込んでいく。
魔物兵は一般的な人間の騎士が3人でようやく倒せるくらいには強いとされる。
だが、こうしてパニック状態になってしまっては脆い。
日光の刀は魔物兵もあっさりと斬り捨てる。
(この刀…やっぱり凄い…)
1年前にランスが手に入れてくれた刀は相当な切れ味だ。
「はあっ!」
「うげろ!?」
日光の居合斬りが魔物兵を両断する。
「何だ!? こいつも強い…いや、こいつら強すぎるぞ!?」
最早魔物兵は部隊としての体を成していなかった。
魔物隊長が死んだ時から最早部隊としては死んでいたが、こうまでも脆いとは日光は思わなかった。
ランスが言っていた『魔軍は頭を潰せばいい』という言葉は真実だった。
(ただ…それを出来る人間がどれ程いるかという事なのですが…)
ランスはあっさりとやってのけたが、そんな事が出来るのはそれこそほんの一部だろう。
だから日光はランスのそんな所を吸収したいと思ってはいたのだが…
(ですが私には出来そうにもありませんね。ランスさんのような事は)
こんな無茶とも言える奇襲をあっさりとやってのけるのは、それこそランスくらいのものだ。
こうして一緒に居て分かった事は、ランスの戦闘における機微が尋常では無い事だ。
奇襲不意打ち何でも有り、勝つためには手段を厭わない、そして判断力の高さ。
自分では到底ランスには及ばない…というよりも考え方が違うので、日光では思い浮かばない。
「1匹は残しておけよ。聞きたい事が有るからな」
「あ、はい」
ランスの言葉に、魔軍を相手にして少し興奮状態にあった日光は冷静になる。
魔軍は既に逃げ出そうとしていたのだが、
「業火炎破!」
「エンジェルカッター!」
そんな魔物兵はスラルとレンの魔法によって討ち取られる。
そして残ったのは緑魔物兵ただ一体。
「ひ、ひいいいいいいいい! ぐげっ!」
腰が抜けているのか、這ってでも逃げようとする魔物兵の背中をランスは踏みつける。
「おい逃げるな」
「な、何なんだよお前等は! お、俺達に何の用だよ!」
「今からスラルちゃんの聞く事に答えろ。答えたら見逃してやるのを考えてやる」
「わ、分かった! 何でも話す! だから殺さないでくれ!」
魔物兵は必死に命乞いをし、何としてでも生き延びようとする。
そんな魔物兵を見て、日光は微妙な表情を浮かべる。
日光にとっては魔物は全て敵であり、憎むべき相手だ。
だが、そんな魔物兵が無様に命乞いをするのを見るのは何とも言えない気分になる。
「我が聞きたいのは一つ、お前達は誰の命令で動いている?」
「お、俺達は魔人メディウサ様の命令で動いているんだ! に、人間を捕えてメディウサ様に渡すのが俺達の仕事だ!」
「つまりは人狩り部隊という訳か。それを魔王は黙認しているという事か…」
ケッセルリンクから与えられた情報と違わない事にスラルは頷く。
魔人メディウサを狙う理由は、人間の女に酷い事をしているからというランスの個人的な理由からだ。
それからスラルは魔物兵に幾つかの質問をする。
それに答えていく魔物兵だが、スラルの顔がどんどん無表情になっていく。
「分かっていた事だが、大した情報が無いな。まあそれも無理は無いのだがな…」
予想通りではあったが、やはり真新しい情報が無いというのは寂しいものだ。
「こ、これでいいだろう!? 全部話したんだ!」
「まあいいさ。我は見逃してやる。我はな」
「へ、へへへ! そ、それじゃあ…うぎゃーーーーーーっ!!!」
立ち上がって逃げようとした魔物兵をランスが斬り殺す。
「ラ、ランス殿!?」
「俺様は考えてやるとは言ったが、見逃してやるなんて一言も言ってないぞ」
平然と言ってのけるランスには日光も驚愕する。
確かに魔物に対しては遠慮が必要無いとは思っていたが、これ程容赦なく殺すとは予想も出来なかった。
「一匹も見逃す訳にはいかないからね。余計なトラブルは避けるべきよ」
「…そうですね」
日光は刀を収めようとした時、異常な気配を感じて刀を構える。
それは突如として空から降って来た。
「数が少ないとはいえ、まさかこんな簡単に魔物隊長も倒すなんて…中々やるじゃないの」
天から降って来た存在は人の形をしていた。
端正な容姿をしているが、それは間違いなく人では無い。
紫色の髪からは黒い角が生えている。
一番の特徴はその背中から生えている青い翼だ。
「さーて…見つけたわよ。人間!」
青い翼の女―――魔人ラ・サイゼルはランスを見て怒りの表情を浮かべてその手にある、クールゴーデスを構えた。
サイゼルはランス10で好きになったキャラです
あのポンコツぶりがね…ハウゼルも凄いポンコツでしたが