魔人サイゼルはモヤモヤした気持ちを抱えながら宙を飛んでいた。
「…一体何なの、アイツ」
それをハッキリと自覚したのは最後の最後、ランスと共にあの剣を触れた時だった。
その触れた手が今でも熱を帯びている。
同時に、その時に自分にとっての存在しないはずの記憶が溢れ出てきた。
「それにこの記憶…あんな記憶は私には無い…よね?」
サイゼルの脳裏にあるのは、ランスと戦った記憶。
ただ、それは非常に曖昧でモヤがかかって居るかのようだ。
だが、確かにその記憶の中では自分はランス…だけでなく、他の者達とも戦っていた。
しかし、その他の者が誰かまでは分からない。
「でもそれだけじゃない…」
ランスを相手にした記憶だけでなく、ランスに力を貸したような記憶も有る。
それは見た事の無い相手だった。
だが、それ以外にもあのレキシントンと戦った記憶も存在した。
しかし、当然自分にはそんな記憶も無い。
「一体何があるってのよ…あの人間とは」
真正面から覗き込んだあの顔、あれは間違いなく自分を夢の中で犯した…いや、抱いていた人間だ。
しかも自分が甘えるかのような態度、それこそありえない。
「まあいいか。いや、良くは無いか。ハウゼルにも聞いてみるかな」
サイゼルは取り敢えず自分の妹であるハウゼルの元へと向かう事にした。
「カカカカカカ! 何かあったかと思ったらやっぱりおったか!」
ランスがサイゼルと戦った跡に、一体の巨漢の男が嬉しそうに笑っていた。
「サイゼルが飛んできたと思ったら、魔物隊長や魔物兵が死んでますからね」
「俺、新しく魔人になったあの姉妹は好みじゃないんだけどね」
そこに居たのは魔人レキシントンとその使徒のアトランタとジュノーだ。
レキシントンは魔王ジルの治世でも好き勝手動いていた。
ただ、人間を殺すなという命令が邪魔だったが、そのジルも居ない期間があるのでレキシントンには自由があった。
そもそも人間牧場にも魔物牧場にも興味が無く、ある人間を探して世界を回っているのだ。
「だが…こいつは間違いなくあの小僧が居たな」
レキシントンは真っ二つになった魔物隊長の死体を見て笑みを浮かべる。
魔物隊長を一撃で真っ二つにする等、人間ではあの男くらいしか出来ないだろう。
遥か昔に同じような事をしていた人間は居たが、それは最早遠い過去の存在だ。
「そうだね。ランスが居たのは間違いないと思うよ。でも…もう一つの人間のパーティーにも興味があるんだろ? レキシントンは」
ジュノーも楽しそう笑いながらレキシントンを見る。
「おう! あの小僧だけでなく、他にも楽しめそうな人間は居るようだからな! クックック、楽しみが2倍に増えたわ!」
「そうですよね! でも何処に居るかは全く分からないですけど…」
「カカカカカ! この儂が探しているんだ! どれだけ時間がかかろうが必ずまた儂の前に現れる!」
レキシントンはそう断言し、何処までも楽しそうに笑っていた。
「さて、ここなら魔人にも見つからないだろうさ」
「こんな所にカラーが隠れておったんだな」
ランス達は黒髪のカラーに導かれ、カラーの隠れ里へと案内されていた。
「ああ…何しろカラーは今大変な事になってるんだからね」
黒髪のカラー―――ハンティ・カラーは苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「それにしても久しいな。ハンティ・カラー。我等の感覚ではそんなに時間は経ってはいないがな」
「そうだね。でもあんた等この時代でも変わらないんだね。普通この時代じゃあ人間は堂々とは動かないんだけどね」
「フン、俺様をその辺の雑魚共と一緒にするな」
ランスが胸を張って答えた事に、ハンティも思わず苦笑する。
「それにしても何かあったの? 私達を探していたみたいだけど」
「まあ…そうだね。私はあんた等を探してたのは個人的な事情だけどね」
レンの言葉にハンティはランス達を座らせるように促す。
ここはカラーの隠れ里の一つであり、魔物からも人間からも隠れるように存在していた。
「あの…ランス殿。この方は…?」
「日光は知らなかったな。こいつはハンティだ。黒い髪の珍しい奴だそうだ」
「カラー…ですか。聞いた事は有りましたが、初めて見ました」
カラーという存在の事は話では聞いた事があったが、勿論出会った事は無い。
流石にJAPANにはカラーは存在してはいなかった。
「それにしても…随分と警戒されてるわね」
レンは物陰からこちらを警戒して見ているカラー達を見て鼻を鳴らす。
それは明らかに恐怖、そして敵意が存在していた。
「それはね…まあ昔のカラーの行動がそのまま尾を引いているのさ。自業自得と言えばそれまでだけど、それでも滅んでいい理由にはならないからね」
カラーは魔物からも、そして人間からも狙われている。
それはNC期にあったカラーによる人間の支配が原因だ。
人間の反逆から、カラーのクリスタルが強力なマジックアイテムになるのが分かり、カラーはそれからはクリスタルのために人間に狙われるようになった。
そのため、今のカラーにとっては人間とは魔物と同じく恐怖の対象なのだ。
「おう、俺様は無理矢理襲うなんて事はしないぞ。勿論俺様に抱かれたい奴はウエルカムだぞ」
ランスの言葉にカラー達は蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。
その様子には流石のランスもショックを受ける。
「な、何という事だ…カラーにはモテモテだった俺様が逃げられるとは」
「…まあ、今の時代では人間の男という存在が恐怖の対象なのだろう。お前が悪い訳では無い」
ランスを慰めるようにスラルがその肩を叩く。
「で、どういう用件で我等に接触した? カラーという存在から見れば余計なリスクでもあると思うが」
スラルの言葉にハンティは肩を竦める。
「まあ頼まれてね…あんた等を助けてやって欲しいって。その代り、魔物の襲撃が無くなってるんだ。カラーという種族には良い事さ」
「もしやその相手は…」
「ああ。あんた等の想像通りの奴…魔人ケッセルリンクさ」
ハンティの口から出た『魔人ケッセルリンク』という名に日光は目を見開く。
魔人や使徒からも出た名前だが、まさかカラーからも出るとは思ってもいなかった。
「ほー、アイツがか。まあアイツは俺様にベタ惚れだからな。俺様が心配なのだろう」
「まあ…正直それは否定したいけど出来ないのが現実だね。でもまあその通りさ。アイツの依頼さ」
「魔人の依頼…」
日光には魔人が人間を助けようとしている事は信じられない。
しかもランスのために動いているというのだから、魔人への価値観が揺らいでしまった一幕だった。
「フーン。だがいいのか? カラーは俺様を見て滅茶苦茶脅えているだろうが。俺様としても不本意だが」
「それなんだよね…魔物の襲撃は減った…いや、今は無くなってる状態だけど、人間の襲撃があってね」
ハンティとしては頭が痛い問題だ。
何しろカラーという種族が人間が居なければ存続する事が不可能な種族だ。
それなのに、その肝心の人間が自分達を魔法のアイテムのように扱っているのだから、歩み寄るのは非常に難しかった。
「何だ、そんな事か。だったらその人間共をぶっ殺せばいいだけだろ」
「!? ランス殿! 何て事を!?」
ランスの言葉に日光は強く抗議をする。
「お前こそ何を言っている。カラーの女の子を殺そうとしている奴は悪人だ。悪人は殺しても問題は無い」
「で、ですが同じ人間です。話し合う事は…」
日光の言葉をランスは鼻で笑う。
「いいか、カラーを狙う奴等はカラーを最初から殺すつもりなんだ。そんな奴等とは話し合いにはならん。俺様がそいつらの所に行った時は皆殺しの時だ」
「…!」
ランスの言葉に日光は戦慄する。
確かに男には興味が無いとよく口にしていた。
お世辞でも善人とは言えない…いや、間違いなく悪人なのは分かっていた。
だが、まさかここまで過激な事を言うとは思ってもいなかった。
「人間との軋轢はなるべく避けたいんだけどね。でも、人間が最初からカラーを殺すつもりだというのは本当だからね…」
ランスの言葉にハンティも苦い表情を浮かべる。
人間がいなければカラーは繁殖出来ない、だがその人間がカラーのクリスタルを求めて徒党を組んで襲ってくる。
慈悲を出して逃がしても、もう一度攻めてくる。
そんな事の繰り返しだ。
「何が目的でカラーを狙うというのですか」
「それについては私が説明するよ。カラーから説明した方が分かりやすいだろうしね。入ってきな」
ハンティは一組のカラーを手招きする。
恐る恐る人間の男であるランスを見ていた二人のカラーが部屋に入ってくる。
そのカラーは片方が青いクリスタルで、もう片方は赤いクリスタルをしていた。
「こっちの子達の違いは分かるだろう。赤い方が処女のカラーで、青い方が経験済みのカラーさ」
「経験済みとは…?」
「もちろんあっちの方だよ。この男と一緒に居るんだから、それくらいは分かるだろう」
「あ…」
日光は思わず顔を赤らめてしまう。
経験というのはそういう事だと察しがついたからだ。
「カラーのクリスタルはね、強力なマジックアイテムになるのさ。それを狙って人間達がカラーを狙うのさ。そしてカラーのクリスタルを手に入れるためには、クリスタルが青くなきゃならない」
「…まさか」
ハンティの言おうとする事を理解し、日光は言葉を失う。
「カラーを犯してクリスタルを奪って殺す。これが人間の目的さ」
「そんな…」
その後の言葉を聞き、日光は力が抜けたように椅子に腰を下ろす。
「そしてそのクリスタルで作られたのが…ランスの腰にあるそのクリスタルソードさ。ああ、怯えなくていいさ。こいつはカラーに危害を加えない、それはあたしが保障するから」
「成程ね。カラーがランスを警戒してたのはその剣が原因か」
レンはため息をついてランスの腰にある剣を見る。
ランスの腰にあるのはカラーのクリスタルを用いて作られた剣だ。
これはランスがある人間から奪ったものだが、流石にカラーのクリスタルで作られた武器だけあり、凄まじい斬味を持っている。
ただ、ランスが持っている黒い剣がそれ以上に強く、そして応用性も高いために使われていないだけだ。
魔法の触媒としても有効なので、専らスラルが杖の代わりに使うのがほとんどだ。
「まあそういう事さ。人間はカラーをアイテムとして狩りに来る…言い方は悪いがそれが現実さ」
「そんな事が…」
日光は目の前の現実に唇を噛む。
自分が居たJAPANは確かに魔軍の脅威に晒されてはいたが、人間同士の争いは無かった。
だが、大陸では人間同士の争いも多い事がこの1年で身に染みていた。
それでも自分の考えは甘いのか…と痛感させられていた。
「で、その人間共をぶっ殺せばいいのか?」
「正直言うと、カラー狩りを生業にしている連中には消えて欲しいね。でも、それを人間のあんたに頼むのも筋違いでも有るからね」
「別に構わんぞ。カラーを襲うというのならそいつらはクズだ。だが、カラーの呪いで何とかならなかったのか。えーと、確か男だけをぶっ殺す呪いがあっただろうが」
ランスが思い出すのは、あのポンコツ女王のパステルが使う高度な呪いだ。
何しろランスへの呪いは凄まじく、ランスも一度自殺まで考えたほどだ。
だが、それ以外にもパステルの呪いの力は凄まじく、あのヘルマンの部隊すらも呪い殺した程だ。
「カラーが沢山居ても、呪いの力に長けた奴が生まれるとも限らないさ。人間だってそうだろう」
「成程な。確かにそうだ」
確かにパステルの呪いの力は凄かったが、逆に言えばパステル以外には凄まじい呪いの力を持っている者は居なかった。
ケッセルリンクも確かに強いが、それは魔法と剣が強いのであって、呪いに関しては全く才能が無いと本人も言っていた。
「まあいい。そのカラー狩りの奴等をぶっ殺してやる。だが、その為には条件がある」
「…あんたの事だから、碌でもない条件が出そうだね。でも、カラーの娘を出せとかいうのは聞かないよ」
「うぐっ…ま、まあそれはいい。俺様が出す条件は、ここを俺様達の拠点として使わせろ」
ランスから出たのはそれこそハンティが予想もしていなかった言葉だった。
「そいつはまた随分な条件を出してきたね…」
「俺様も色々と大陸を回っているが、ぶっちゃけ何処も陰気臭くてかなわん。そんな所に行くよりも、可愛いカラーが沢山居る方が俺様としても気分が良いからな」
「それはあたしの一存では決められないね…でもそうだね。あたしの依頼を聞いてくれたら少なくともあたしは認めるよ。そしてあたしが認めたなら…まあ他のカラーは反対出来ないだろうね」
ハンティはため息をつきながら答える。
この男は確かに危険だが、カラーに対しては安全な人間でもある。
それは前回会った時の態度から明白だ。
ただ、ハンティが良くても他のカラーはそうではないという事だけだ。
「それで依頼とは何だ? 伝説の黒髪のカラーの力でもどうしようもない事なのか?」
スラルの言葉にハンティは頷く。
「あたし一人だけならいいさ。でも、他の皆はそうはいかない。それによくよく考えれば、あんた等はあたしのやりたい事を出来る条件が揃っているのさ」
「もったいぶらないでさっさと言え」
「移動さ。ここに居るカラー全員のね。目的はココ…ドラゴンが住まう山の森の中。やっぱりそこが一番安心するのさ」
ハンティはカラーの一人から地図を受け取ると、ある一つの場所を指差す。
そこにあるのはランスも知っているカラーの隠れ家だ。
「というか何でカラーがこんな所にまで居るんだ」
「昔カラーが人間を支配しようとしてたと言っただろ。カラーの穏健派は森に残ったが、大半のカラーは出てきたからね。その子孫があちこちに散らばっているのさ」
「成程な…それは確かにお前一人では難しかろう。それで我等の手を借りたいという事か」
スラルはハンティの言いたい事を理解する。
確かにランスは非常に強いし、スラルもレンもそれこそ一騎当千の強さを持っている。
ハンティも確かに強い…というよりも瞬間移動等も含めればまさに反則級だ。
だが、そのハンティの力を持ってしてもカラーの移動は容易では無いだろう。
いくらハンティが強くても、その手で守れる数には限界があるからだ。
「ランス、これは中々に厳しい依頼でもあるぞ。何しろ我等は魔人に狙われているのだからな」
スラルとしてはこれは非常に難しい依頼だとも理解している。
何しろランスは魔人カミーラ、そして魔人レキシントンに狙われている。
もしかしたら先程遭遇した魔人ラ・サイゼルも狙ってくるかもしれない。
それを考えればリスクがあるのも事実だ。
「別にいいだろ。カミーラはともかく、あのおっさん相手に見つかったらどのみちカラーは全滅するからな」
「そうね。レキシントンは明らかに見境が無いしね」
カミーラはランス以外は眼中に無いので、カラーを見つけても間違いなく無視するだろう。
むしろケッセルリンクとの関係を考え、カラーは見逃す可能性の方が高い。
「問題なのは魔人レキシントン、そして魔人レッドアイ…そしてまだ見ぬ魔人だろうな」
レキシントンは言わずもがな、レッドアイは明らかに常軌を逸した魔人なので間違いなくカラーだろうが殺しに掛かってくるだろう。
「…魔人に狙われてるのかい。そりゃ確かにリスクが有るね…でも、これ以上ここに居る方が危険だ。ここの事は人間にも知られてるからね」
「じゃあとっとと移動した方がいいだろ。居場所が知られた所なんぞ何の意味も無いぞ」
「受けてくれるのかい?」
「ああ。カラーの女の子が死ぬのは間違いなく世界の損失だからな。男はいくら死んでもいいが、カラーはいかん」
ランスにとってはカラーとは特別な種族だ。
何しろ女しかいない、美人が多い、何よりLP期においてランスはカラーにとっては英雄だ。
パステルはあんな感じだが、それでも結構な数のカラーはランスを好意的に受け入れてくれていた。
何よりも、カラーという種族にはランスの娘であるリセットが居る。
それを考えれば、ランスがカラーを見捨てる選択肢は無かった。
「移動に何か必要な物はあるのか? ここからなら結構な距離があるぞ」
「物はそんなに無いさ。何しろ身一つで移動することが出来るだけでも十分なんだからね」
スラルの言葉にハンティは苦笑する。
「じゃあ急がせろ。その前にそのカラー狩りとか抜かす奴等の息の根を止められればいいんだがな」
「ランス殿…」
あまりに物騒な事を言うランスに日光は非難の目を向ける。
「その…話し合いで解決は出来ないのですか?」
「いいか日光。カラー狩りとか抜かす奴らと話し合う必要は無いぞ。そういう連中とはハナから会話にならん。何しろ連中はカラーを犯し殺せる道具としか見とらんからな」
「そんな事は…」
「いいや、事実だ。そんな連中に対して何かを言うだけ無駄だ。話すだけ時間の無駄だ」
断言するランスに日光は悲しい顔をする。
もしかしたら…という希望をどうしても捨てられないのだ。
だが、そんな日光の葛藤を打ち砕く声が聞こえてくる。
「始祖様! 人間です! 人間が来ました!」
「チッ! ここが見つかってたのは分かってたけど、もう来たってのかい!」
ハンティは立ち上がると、ランス達を見る。
「そういう訳だ! 手伝ってくれるかい」
「おう、俺様に任せておけ。俺様が居るならカラーには指一本触れさせんから安心しろ」
「そうね。カラーが死ぬのは私にとっても都合が悪いし」
レンはカラーのシステムを知っているので、カラーを助ける事には抵抗は無い。
何しろカラーは将来的に自分の同僚か、又は敵に回るか…そういう種族なのだから。
「日光。人間と戦うのが嫌なら、お前はカラー達を避難させろ。正直我は人間相手でも容赦はしないからな」
「…いえ、私も付き合います。それが私の選んだ道ですから」
「そうか…ならばハンティ、お前が避難させてくれ。我等がカラー狩りの相手になろう」
「そうかい、そう言ってくれると助かるよ。じゃああんた達も皆を纏めるのに手伝いなさい。ここからはまさに戦争だからね」
ハンティはカラーの事の説明をするために入室させたカラーに指示をだす。
2人のカラーは顔を真っ青にしながらも、気丈に返事をして出て行った。
「さーて、俺様も行くか」
そしてランスも剣を片手に出て行く。
そこではカラーの悲鳴と人間の怒鳴り声が上がっていた。
「ランス! カラーを救うのが最優先だ! そっちは任せるぞ!」
「おう。スラルちゃんもしくじるなよ。レンは日光を見てやれ。あいつは危なっかしいからな」
「分かったわ。そっちも…いや、あんたに限ってそれは無いか。じゃあ行くわよ」
ランス達は3つに分かれてカラー達を救いに行く。
ランスが悲鳴の方に走っていくと、そこには襲われているカラーと、カラーを襲おうとしている人間の姿があった。
「カラーだ! 犯してクリスタルを取れ!」
「これまで散々我慢してきたんだ! 一発や二発で終わると思うなよ!」
男達は下衆な事を叫びながらカラーの服を破く。
「いやーーーーーっ!」
カラーは悲鳴を上げて体を隠そうとするが、屈強な人間の男が相手では抵抗にはならない。
「とーーーーーっ!!!」
そんな男達に向けてランスは剣を投げつける。
「へ?」
剣は正確に男の胸元へと吸い込まれていく。
「うぎゃーーーーーっ!」
悲鳴を上げて男は倒れる。
「がはははは! これだから女にもてないブ男はいかんな。俺様のように紳士でなければいかんぞ」
「な、なんだお前は!?」
「お前人間か!?」
男達は剣を投げつけたランスを見て驚く。
男達からすれば仲間に見えるかもしれないが、勿論ランスにとっては女の子を襲う奴は悪であり、敵でしかない。
勿論自分自身は例外というとんでもない思考の持ち主ではあるのだが―――ただ一つ、ランスは女を襲って殺すような事は絶対にしないという事だ。
「フン、お前らのようなブ男がカラーの相手をする等100年…いや、10000年は早いわ。という訳でぶっ殺してやるからさっさと死ね」
「この野郎! 丸腰の分際で!」
ランスの剣は既にカラーを襲っていた男に投げつけられており、ランスは丸腰に見える。
クリスタルソードも今はスラルに貸しているので手元には無い。
だが、今のランスには凄い便利な機能があるのだ。
「来い」
「野郎ぶっ殺してやる!」
ランスが挑発したように見えたのか、男の一人がハンマーを構えてランスに襲い掛かる。
男の仲間はランスを馬鹿にしたように笑うが、その笑いは直ぐに消える。
「ぐぎゃーーーーーっ!!!」
ランスに向かって行った男の背中に剣が通過し、男の体を真っ二つにする。
ランスの剣はランスの意志で自在に手元に戻す事が出来る。
戻って来る際にはその間に居る者の事などお構いなしに戻って来る。
ランスとランスの剣の間に居た哀れな男は自分がどうやって死んだのかも分からないだろう。
「がはははは! 雑魚共に俺様の剣はもったいないが、カラーが居るから特別に見せてやる! 受けて死ね、俺様の華麗な剣捌き!」
そしてランスは男に向かって突っ込んでいく。
後に残ったのは、一瞬でバラバラになった男達の無残な死体だけだった。
「氷の矢!」
「ぐはっ!」
スラルの放った魔法が男を貫き絶命させる。
「この女! ふざけやがって!」
男の仲間がスラルに向けて突っ込んでくる。
スラルは魔法使いなので、接近戦は弱いはず―――男達はそう確信してスラルに襲い掛かる。
その顔にはスラルを押し倒して、その体を蹂躙してやろうという意志が露骨に見えている。
スラルはそんな男達に対して冷酷に笑うと、魔法の高速詠唱に入る。
スラル程の魔力と知識があれば、初級の魔法ならば連発するのも難しくない。
「氷の矢!」
再び放たれた魔法が男を貫くが、男達は構わずにスラルに襲い掛かる。
スラルは冷静にクリスタルソードを抜くと、襲ってくる男をその剣で斬り倒す。
その剣はランスやレン、そして日光と比べても明らかに技術では劣っている。
だが、それでもスラルの現在のレベル、そして元魔王の肉体を持つのであればそれだけで人間にとっては脅威でしかない。
別の男がスラルの腕を掴みそのまま押し倒そうとするが、スラルの体はびくともしない。
「な、何だこいつ!?」
「我がお前達よりも遥かに強い。それだけだ」
スラルはそのまま男の腕を掴むと、力任せに腕を捻る。
「ぎゃーーーーっ!!」
それだけで男の腕は簡単に折れ、スラルはそのまま男の体を無造作に投げ捨てる。
「確かに我はランスやレンに比べれば接近戦では遥かに劣る。だが、それでもお前達程度には負けはしないな」
スラルは何処までも冷酷な笑みを浮かべていた。
「はああああああっ!」
「ぐわああああ!」
日光の刀が男を斬る。
そこには手加減は無く、容赦なく男達を斬り捨てる日光の姿が有った。
「これ以上はさせません」
日光は刀を構えて男達を見据える。
男達を見た時、日光は既に自分の愚かさを悟っていた。
話し合いで何とか出来るかもしれない、ランスが容赦が無さすぎるだけだ、という思いは直ぐに消えた。
それはカラーを犯そうとする人間の姿を見たからだ。
そこにあったのは魔物と何も変わらない、欲望のままにカラーを蹂躙しようとする人間の姿があっただけだ。
「何で俺達の邪魔をする!? カラーのクリスタルがあれば魔物にも対抗できるんだぞ!」
「…申し訳ありませんが、その程度では魔物に…そして魔人に対抗など出来ません。何よりも、カラーの命を奪ってまで魔物に対抗しようとは思いません」
男の言葉にも日光は極めて冷静であろうと努める。
怒りのままで行動する訳にはいかない、自分の役目はカラーを助ける事なのだ。
「この野郎!」
男達が日光に向かって来るのを見て、日光は刀を鞘に納める。
そしてそのまま凄まじい勢いで男達の横を通り抜ける。
するとそれだけで男達の体が崩れていく。
その腹部からは夥しい量の血が流れており、絶命しているのは明らかだ。
「あなた方と話し合えば分かるかもしれない、そう思った私が愚かでした」
「ま、待て! 話せば分かる! 話せば…」
男が言葉を言い切る前に、日光の刀が男の心臓を貫く。
まさに一瞬、男は自分が死んだ事にも気づかずに倒れ落ちる。
「…私はやっぱり甘いのでしょうか」
日光は難しい顔をしながらも、助けを求めているカラーを救うべく走り始めた。
アリスソフトの発表したガイが人間であった時にあった事として、カラー狩りがあったとの事なのでこの展開となりました
本当は別のイベントがあったのだけれども、GL期の出来事の一つとして人間とカラーの確執を入れました
ランスは当然の事ながらカラーにつきます
ランスがカラーのクリスタルを奪うという展開がまずありえないので