ランス再び   作:メケネコ

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魔人カミーラ

「はぁ…それにしてもこの剣は何なのかしらね…」

 

 スラルはランスが持っていた剣を改めて調べていた。

 流石にあんな場面を見た後では、ランス達の勧誘など出来なかった。

 今思い出しても顔が赤面するのを抑える事が出来ない。

 だからこそ今はそれを忘れるかのように、ランスが持っていた剣を調べていた。

 昨日から調べていても、この剣がどんなものなものかが全く分からなかった。

 物凄い切味を持つ剣という事しか未だに分からない。

 

「やはりまだまだ世界には我の知らない事が沢山有るな…だからこそ退屈はしないが」

 

 スラルは魔王となり、プランナーに会ってもまだその知識を貪欲に求めていた。

 その中にはこの世の理を覆しかねないアイテムも多々存在している。

 魔人の無敵結界を破るアイテムこそ存在していないが、魔人にすら効果がありそうなアイテムも存在している。

 だからこそそのようなアイテムは排除しなければならない。

 自分の脅威となるものは徹底的に取除く、これがスラルのスタイルだ。

 

「でもこれは…」

 

 これはランスが持っていた剣だが、これをランスに返していいかどうかは迷ってしまう。

 もしランスが魔人となれば、当然無敵結界は意味をなさなくなるが、この剣は少々強力すぎる。

 あの男の性格からすれば他の魔人ともぶつかる事もあるだろうし、その場合にはこの剣が猛威を振るうだろう。

 

「代わりの剣を用意したほうがいいか…だがあの剣の腕を考えればおしい…」

 

 ランスという男の剣の腕は、それほどまでにずば抜けている。

 恐らくはあの男ほどの剣の腕前を持つ存在はこの先出会えるかどうかはわからない。

 中途半端な剣では、あの男の剣の腕を逆に殺してしまいかねない。

 スラルが頭を捻っていたとき、唐突にランスの剣が震える。

 

「え?」

 

 そして次の瞬間には剣はスラルの目の前から消える。

 

「な…これは…」

 

 スラルが呆然としていた時、ケイブリスが魔王の間に飛び込んでくる。

 

「ス、スラル様! 大変です! スラル様が捕らえた人間共が…」

「どうしたケイブリス。きちんと報告をしなさい」

 

 ケイブリスは息を整えると、

 

「カ、カ、カ、カミーラさんが…スラル様が捕らえた人間を連れ出しました!」

「はぁ!?」

 

 スラルは驚きの声を上げるが、同時に心の中で舌打ちする。

(あのカミーラが人間に興味を覚えるとは思わなかった…命令をしなかった我のミスか)

 カミーラは基本的に魔王にすら興味を抱かないため、まさか自分が連れてきた人間に関わるなど考えてもいなかった。

 

「で、何処にいる?」

「…あ!」

 

 ケイブリスも魔王に報告する事で頭が一杯だったため、カミーラ達が何処に行ったのかは分からなかった。

 

「…まあいい。我が探す」

「ご、ごめんなさい」

 

 

 

 

 ランスの剣とカミーラの爪が交差し、ギチギチと音を立てる。

 意外な程強いランスの力に、流石のカミーラも感嘆の声を出す。

 

「…成程な。スラルが興味を持つだけの事はあるか」

「何を言っとるか!」

 

 ランスは剣を巧みに使い、カミーラの爪を弾くと、無防備になったその腹部に剣を叩き込む。

 が、勿論無敵結界に阻まれるが、それが逆にカミーラに驚きを与える。

 無敵結界は衝撃までは防いではくれない。

 巨大な体躯を持つドラゴンならばともかく、こんな小さな人間が魔人にこれほどの衝撃を与えるとは驚きだった。

 それにその剣は早く、鋭い。

 

「楽しませてくれるな…」

「フン、余裕を言うのも今の内だ」

 

 カミーラの言葉にランスは威勢よく啖呵を切るが内心は、

(ヤバイぞ。やっぱりこいつは強いぞ…)

 以前ランスがカミーラに勝てたのは、カオスの存在があり「ランスアタック」が直撃したからだ。

 カオスは魔人に対しては非常に強力であり、その一撃は今でもカミーラの傷口として残る程だ。

 この剣も強力だが、魔人の無敵結界の前にはやはり無力だ。

 

「ならばこれならばどうだ?」

「何!?」

 

 そう言うとカミーラが宙に浮く。

(あ、ヤバ…)

 ランスはこの光景を知っている。

 ゼスのマジノラインの決戦の時、カミーラは空中からのブレス攻撃をしてきた。

 その時はランスと言えどもどうしようもなく、逃げ回る他無かった。

 しかもあの時に存在した、シィルやセル等のヒーラーもいないし、パットンやロッキーといったガードもいない。

 

「グッ!」

 

 凄まじい威力のブレスがランスにぶつけられる。

(マジか! あの時よりも威力が上だぞ!?)

 ランスは知らない事だが、あの時のカミーラはケイブリスとの衝突も有り、その牙を失っていた状態だ。

 今の状態のカミーラはランスが倒した時のカミーラよりも強い。

 そして何よりも今のカミーラには、後の時のような諦めや弱さが存在しない。

 使徒であるアベルトが言っていた『凛として、鋼のように強く、鞭のようにしなやかで、どんな事にも負けない。それでいて艶やかな女性』が全て当てはまる存在だ。

 カミーラもこのランスとの戦いを楽しんでいた。

(まさかここまで人間が楽しませてくれるとはな…)

 相手はかつての世界の支配者であるドラゴンでも、そのドラゴンと覇権を争っていたまるいものでも無い。

 ドラゴンが滅んだ後に生まれた弱く愚かな存在。

 しかしその弱く愚かな人間が自分の攻撃をふせぎ、あまつさえ反撃すらしてきた。

 今も自分のブレスすらも避けて見せている。

 カミーラが何よりも気にいったのはその目だ。

 その目には諦めは存在していない、それどころかいつ自分に噛み付こうかを伺っている目だ。

 だからカミーラはその目を恐怖と脅えに変えたくなった。

 そして無様に自分に命乞いをさせよう…その後で惨たらしく殺してやろうと思っていた。

 だからこそカミーラはその攻撃が単調になっている事に気づいていなかった。

 ランスはその瞬間を待っていたといってもいい。

 これまでの体力の消耗、そしてつい最近に鬼畜アタックを放ったときの反動がまだ体に残っている。

 勝負はまさに一瞬、ランスはその瞬間に全てを賭けていた。

 ランスは手に持った剣に力を貯める。

 そして単調になって来たカミーラのブレス攻撃にタイミングを合わせる。

 

「ラーンスあたたたーーーーっく!!!」

「!?」

 

 それはカミーラすら予測もしていなかった攻撃。

 自分の破壊力のあるブレスに攻撃を合わせてくるなど、想像すらしていなかった。

 その一撃はカミーラのブレスを押し返し、それどころかその衝撃波は宙に浮いているカミーラすらも巻き込む。

 これこそがランスの目的、せめて空中からは引き摺り下ろしたかった。

 

 ドンッ!

 

 カミーラは地に叩きつけられる。

 無敵結界がある故に、勿論ダメージは無いが、それはカミーラに精神的に衝撃を与えた。

(私のブレスを打ち返しただと…?)

 それでもカミーラは直ぐに起き上がり―――目の前に迫ってくるランスの姿を見る。

 それはカミーラにとっても反射的な行動と言っても良かっただろう。

 無敵結界ではなく、己の爪でランスの一撃を受け止める。

 

「…貴様!」

「ぐぬぬ…!」

 

 今度はカミーラの方が体勢が悪いため、ランスの一撃がカミーラを吹き飛ばす。

 カミーラは己の翼を振るい、再び宙に舞う。

 

「クソ!」

 

 ランスが悪態をつくが、カミーラは宙で己の腕を見ていた。

 思わず無敵結界を使わずに己の腕で受け止めていた。

 そして自分の腕から流れる一筋の血。

 あの男の剣が自分の腕を傷つけていた。

 別に自分が血を流すのは初めてではなかった…魔人相手に血を流した事もあるし、無敵結界をあえて使わずにムシとも戦った事もあった。

 しかしまさかこの弱くて愚かな人間に傷をつけられる等、考えてもいなかった。

 

「ククク…」

「あん?」

 

 突如として笑い始めたカミーラに、ランスは違和感を覚える。

 ランスの記憶の中のカミーラは、あのような笑いをするような相手ではなかった。

 冷笑はあれど、あのように楽しそうに笑う事など無いと思っていた。

 

「どこまでもこのカミーラに無礼をはたらいてくれるな…人間風情が」

「うお!」

 

 そして今度は凄まじい怒りを見せる。

(なんだこいつは…こんな感情の起伏が激しい奴だったか?)

 どこまでも冷淡であり、そしてどこか無気力と認識していたため、このような怒りを見るのは初めてだった。

 だがその顔にあるのは怒りだけではなく、どこか喜びも感じられるものだった。

 

「人間…貴様の名はなんという。名乗る事を許す」

「だったらいい加減覚えておけ! 俺様はランス様だ!」

「ランス…か。光栄に思え…このカミーラに直々に殺される事にな」

 

 カミーラがその爪でランスを襲う。

 その速度は先程のスピードよりも速いが、ランスはその一撃を防ぐ。

 

「防げるか…」

「当たり前だ!」

 

 しかし今度の一撃はランスでも防ぐので手一杯になってしまっている。

 スピード、何より攻撃力が段違いだ。

 先程ランスがカミーラを吹き飛ばせたのは、カミーラの油断と体勢が悪い状態でランスの剣を受け止めたせいだ。

 しかし今のカミーラは本気でランスの命を狙っている。

 そうしてランスとカミーラの鍔迫り合い続いている時、ランスの体勢が崩れる。

(あ、やば…)

 やはり魔人と人間では体力が大きく異なる。

 

「終わりだ」

 

 カミーラの爪がランスの首筋に迫った時―――

 

「ファイヤーレーザー!」

 

 何者かの魔法がカミーラに直撃し、カミーラですらも吹き飛ばされる。

 

「無事か、ランス」

 

 ランスの横にケッセルリンクが立つ。

 

「おお、ケッセルリンク!」

「レダから話は聞いた。どうやら間に合ったようだな」

 

 ケッセルリンクがレダとランスに会いに行ったときに魔物隊長から話を聞き、部屋に通されたがそこに居たのは気を失ったレダだった。

 そしてレダから話を聞き、ランスを探しに来た結果、まさかランスが魔人と戦っているとは思ってもみなかった。

 

「………貴様がスラルが作った新たな魔人か」

 

 カミーラはゆっくりと立ち上がる。

 直撃を受けた手は焼けているが、それほどの傷は受けていないようだ。

 それを見てケッセルリンクは苦い顔をする。

 魔人となった自分の魔力は相当上がっているはずだが、目の前の魔人にはそれほどのダメージを与えた様子は無い。

(これがドラゴンの魔人、カミーラか)

 その力は魔人最強と聞いてはいたが、まさか自分の魔法が直撃してほとんどダメージが無いとは思ってもいなかった。

 今の自分は体質が変わってしまい、昼には力が出ないどころか体が痛くなるほどだが、夜の間は昔よりも遥かに力を出す事が出来る。

(そのはずなのだがな)

 目の前の魔人は悠々と歩きながらこちらに向かってくる。

 カミーラは自分に魔法を当てた魔人を見る。

 一目で分かるほどの美女だ。

(気に入らんな…)

 カミーラは自分以外の美女が好きではない。

 七星に色目を使った人間を惨たらしく殺した事もある。

 そして何よりも気に入らないのは、その女が人間の男を守った事だった。

 魔人になる前からの知り合いとの事だが、それでもまさか人間を守る等とは魔人の立場からすれば考えられない事だ。

 

「…貴様も死ぬか?」

「悪いがこんな所で死ぬつもりは無いな」

 

 カミーラの爪をケッセルリンクの剣が防ぐ。

(剣も使うか…カラーがな…)

 剣を使うカラーとはカミーラも聞いた事が無かったが、目の前の魔人はその剣で自分の爪を防ぐ。

 そこにランスの一撃が襲うが、それは無敵結界に阻まれる。

 だが衝撃だけは逃がすことが出来ず、カミーラですらもよろける。

 そこにケッセルリンクの剣がカミーラを襲うが、それはカミーラの翼に弾かれる。

 そしてしばらくはそんな攻防が続いていく。

 ランスがカミーラの体勢を崩し、ケッセルリンクが魔法で攻撃する。

 カミーラの攻撃をケッセルリンクが魔法バリアで防ぎ、その爪はランスが弾く。

(ふむ…)

 カミーラは再び宙へ飛ぶ。

 流石に宙にいてはランスの剣は届かないため、ケッセルリンクの魔法しかない。

 だが、ファイヤーレーザーが直撃してもあまりダメージにはなっていない所を見ると、カミーラの魔法防御力はかなりのものなのだろう。

 一方のカミーラは、空中から一方的にブレス攻撃が可能である。

 だがカミーラはランス達を見下ろしたまま、攻撃をする気配は無い。

 

「…飽いた。この場は見逃そう」

 

 一方的にそう言うと、カミーラは夜の闇に消えていく。

 ランス達はしばらくの間警戒していたが、どうやら本当にカミーラはこの場から消えたらしい。

 それを確認すると、ランスはその場に腰を下ろす。

 

「無事か? ランス」

「…疲れた」

 

 ランスの傷は当然ケッセルリンクよりも多い。

 体には火傷と切り傷が無数にあり、そのマントは既に消失してしまっている。

 ケッセルリンクは魔人故にほとんど傷が無い…というよりも並外れた再生能力で、カミーラに負わされた傷ももう治りつつある。

 

「お前は全然傷ついてないな」

「そのようだな。どうやら魔人となった事で再生能力が増したらしいな」

 

 ケッセルリンクはランスを引き起こし、その体を支える。

 

「前はお前に支えられ、背負われたのだがな…今は立場が逆になったな」

 

 ケッセルリンクは笑いながらそう言うが、ランスにはそれが少し面白くなかった。

 今までランスは女性を守り支える側であり、物理的に支えられた事などほとんどなかったはずだ。

 

「魔人なって俺様より偉くなったつもりか。魔人になろうがお前は俺様の女だ!」

「ランス?…ムグッ」

 

 ランスはケッセルリンクの後頭部を掴むと、その唇を無理矢理奪う。

 ケッセルリンクも驚きつつも、抵抗はしない。

 それどころか、ケッセルリンクの方もランスの首に手を回すと、ランスのキスに応える。

 ランスとケッセルリンクの唇が離れ、二人の間に僅かな糸を作る。

 

「…お前は私が魔人になっても何も変わらないな」

「何故変わる必要がある。お前が俺様の女だという事実は何も変わらんだろう」

 

 ランスの言葉にケッセルリンクは目を丸くし、そして微笑む。

 その微笑みはカラーの時代の時と全く変わらない。

 だが、そこでケッセルリンクはランスの体の変化に気づく。

 

「ランス…前も言ったと思うがお前という奴は…」

「そんなエロい恰好をしているお前が悪い」

 

 ケッセルリンクは自分の格好を改め見るが、やはり自分の衣装は胸を強調していると言わざるを得ない。

 何故こんな恰好なのだろうかと疑問には思うが、この衣装が自分に似合っていると思うのも事実だ。

 ランスはケッセルリンクの胸に手を伸ばすが、ケッセルリンクにはそれを拒む様子は無い。

 そして今まさにその手が触れようとした時、

 

「…何をやっているのだ、お前達は」

「! ス、スラル様!」

 

 魔王の呆れ声にケッセルリンクは慌てて跪く。

 

「ぐえっ」

 

 ケッセルリンクに支えられていたランスはその動きに巻き込まれ、地面に倒れる。

 

「ああ、すまないランス」

「いきなり何をする」

 

 再びケッセルリンクはランスを助け起こすと、目の前にいる自分の主を改めて見る。

 目の前にいる魔王はどこか呆れた目をしており、そしてため息をつく。

 

「はぁ…で、カミーラは?」

「もう去りました」

 

 もういないカミーラにスラルは内心舌打ちをする。

(この場で会えれば直ぐに命令できたのに…)

 魔王の絶対命令権も、命令を下せる状況でなければ意味は無い。

(一度カミーラに会いに行かないと駄目だな)

 来い、と言って来る相手ではないため、やはり自分からカミーラに会う必要があるとスラルは考える。

 カミーラの実力は評価しているが、その行動は気まぐれすぎる。

 今回もケッセルリンクがいなければランスは死んでいたかもしれない。

 スラルはランスを見るが、その手には先程スラルが調べていた剣が握られていた。

(主の危機に剣が動いたか? いや、それともこの男が剣を呼んだか…いずれにしても、この剣を手元に置くのは難しいか)

 

「とにかく休むがいい。人間、お前には新たな部屋を用意させよう」

 

 スラルはそう言うとマントを翻して去っていく―――前に、マントの裾を踏みつけ前に倒れる。

 

「ス、スラル様!?」

「…前にも同じ光景を見たぞ」

 

 スラルは立ち上がり、体についた埃を振るうと、何事も無かったかのように歩いていく。

 

「やっぱりドジっ子だろ」

「違うぞ、我は断じてドジっ子などではない」

 

 鼻を赤くしているため説得力がまるで無いが、あまりの気迫にランスもそれ以上何も言う事が出来ない。

 ケッセルリンクもどう反応していいか迷っているようだった。

 こうして魔人カミーラとの最初の出会いは終わった。

 

 

 

「カミーラ様!?」

 

 先にカミーラの城に戻っていた七星が、衣装の一部が明らかに燃えた痕跡がある主の姿に驚きの声を上げる。

 そして驚くべき事に、その右手には一筋の血が流れている。

 魔人には無敵結界があるため、基本的に傷を負う事は無い…あるとすれば、自分の意志で無敵結界を解除するか、又は魔人同士の争い以外には無い。

 

「ご無事ですか! カミーラ様!」

「…大事無い」

 

 カミーラは何時ものように気だるげに椅子へと座るが、その視線は自分の右手に向けられている。

(傷の直りが遅い、か。まるでドラゴンである私への殺意だな…)

 普段であれば直ぐに塞がる傷だ。

 特に深い傷ではないが、とにかく傷が治るのが遅い。

(ランス、と言ったな…あの男の剣の腕はガルティアよりも上か…そしてこの傷…)

 

「ククク…」

「カ、カミーラ様」

 

 七星は主を見て驚く。

 カミーラた浮かべているのはいつもの冷笑ではなく、楽しげな笑みだ。

 何か非常に楽しい物を見つけたような笑みは、七星が使徒になってから初めてかもしれない。

 

「あの男…スラルにくれてやるには惜しいな…」

 

 カミーラは何処までも楽しげな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 ―――カラーの村―――

 

 カラーの村には暗雲が立ち込めていた。

 理由は勿論ランスとレダが魔王に捕われた事、そしてまさかのケッセルリンクが魔人になってしまった事。

 この報告をしたアナウサは今でも寝込んでしまっている。

 ケッセルリンクが魔人となってしまったのは自分のせいだと、己を責めている。

 カラーの女王、ルルリナは勿論アナウサのせいでは無いと分かっている。

 魔王が直々に動いたからには、いかにランスやケッセルリンクでもどうしようもないのは理解していた。

 しかし、中心人物とも言えるあの二人が一度にいなくなってしまったのは、カラーにとっては途轍もない痛手だ。

 ただ、モンスターが全くカラーの村に寄り付かなくなった事だけが救いだった。

 

「ルルリナ様…どうしましょう…」

 

 皆が不安を抱えているのは分かる。

 何しろ皆の精神的支えであったケッセルリンクがいなくなり、さらには絶対的な強さを持っていたランスとレダがいなくなってしまった。

 その全てが一夜にして無くなってしまった…カラー達が絶望するのも無理らしからぬ事だった。

 

「今はこの村を守る以外に道はありません…」

 

 女王の口も非常に重い。

 ケッセルリンクを一番頼っていたのは、彼女自身だと自覚もしている。

(もうカラーは…)

 口には出さないが、皆の顔がそう思ってしまっている。

 もう未来は無いのではないか…そんな絶望感が支配してしまっている時だった。

 

「あー、ようやく見つけた」

 

 その時突如として何も無い空間から、人…いや、カラーが現れる。

 額の赤いクリスタルは間違いなくカラーだが、その髪の色は黒い。

 

「あ、あなた様は!」

「んー…あ、ここにたどり着けたんだ!」

 

 メカクレ・カラーが黒髪のカラーの手をとる。

 黒髪のカラーも嬉しそうにニシシと笑う。

 

「メカクレ…知っているのですか?」

「ハイ! この方こそハンティ・カラー様…幼い時に私を救ってくれた方です!」

「別に大した事はしてないよ。それよりもここにもカラーの村があったんだ」

 

 ハンティ・カラーの顔にあるのは間違いなく喜びだ。

 

「いやー、中々こっちには来れなくてね…」

 

 ここならばカラーの皆がいると思ってはいたが、ドラゴンの住まう山が近くにあったため、ハンティもここに近寄るのは躊躇われた。

 それよりも散らばっているカラーを探すほうが忙しかった。

 

「それよりもどうしたの? 皆顔が暗いけど」

 

 それはカラーにとっての新たな希望。

 伝説の黒髪のカラーが現れた事だった。




SS期とNC期では恐らくカミーラが魔人最強だと思うんですけどね…
GL期になるとガイとかいう頭おかしいくらい強いのが生まれるけど

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