ランス達は進んでいく。
細かな戦いは勿論何度もある。
人間との戦いは無いが、やはり野良モンスターとの戦いはどんな時でもある。
野良モンスター故に纏まりは無いが、徒党を組んで襲い掛かってくるので危険な事には変わりは無い。
ハンティがいくら強かろうとも、たった一人ならば大きく犠牲者が出ていただろう。
だが、
「死ね──────っ!!」
カラー達にはこの男が存在して居た。
やたら無暗に強く、非常に高い幸運を持ち、世界をも統べる事の出来るカリスマを持った男が。
モンスターはランスの一撃で体が引き裂かれる。
殺傷力を増したランスの剣には細かな刃が浮き出ており、それがモンスターの肉を掴んで離さない。
更には凄まじい切味も持ち、それを扱うランスが並外れた腕力と剣技を持てば野良モンスター等相手にならない。
「うわー……すっごいなぁ……」
「モンスターをあんな簡単に倒せるのだな……」
「いや、あいつは参考にならないから。人間の中でも規格外だね、あれは……」
感心した様子でランスを見てるカラー達にハンティは注意をする。
(全く……そりゃケッセルリンクも認める訳だね。魔人を倒したってのも理解出来るよ)
ハンティも確かに強いが、それでも魔人には当然及ばない。
無敵結界を破れないし、そもそもの生命体としての強さが違う。
ドラゴンカラーという種族であっても、やはり魔人の強さは別格なのだ。
「でも皆さん本当に強いですね……私達も手伝いたいですけど何の出番も有りませんね」
カラーは弓や魔法が得意な種族故に、接近戦には向かない。
それが出来ていたケッセルリンクという存在がある意味異質なのだ。
「まあ戦ってくれるならそれでいいんじゃない? 安全第一さ」
ハンティの言葉にカラー達は頷く。
ハンティにはカラーを守るという役目があるのでモンスターとは戦っていない。
ランスとスラルとレンだけで無数のモンスターが倒されていくのだ。
それは確かに異質な光景だった。
「ねえねえ、日光さん」
「何でしょうか」
日光はハンティと共にカラーを守る役目についている。
本当はレンがこの役目をすべきだとは思ったのだが、彼女も少しはストレスの解消がしたいらしい。
「日光さんってランスさんの事どう思ってるんですか?」
「あ、それ私も気になるー」
「そうだよねー。ランスさんってあんな感じだしねー」
「…………突然何を?」
モンスターの危機はほぼ無いためか、カラーの数名が日光に対してキラキラした目を向けてくる。
「あんた達……こんな状況で何言ってんだい」
「いやー、ランスさんって人間で露骨にエッチなのに、カラーに対しては妙に優しいから……ちょっと気になっちゃって」
カラーの一人が照れくさそうに頭をかいている。
「スラルさんもレンさんも日光さんもランスさんとエッチしてるでしょ? どんな感じなのかなーって」
そう言うカラーのクリスタルは赤い。
つまりはまだ未経験のカラーだ。
「それは私も少し気になるな……襲われているカラーは皆悲鳴を上げ、必死に抵抗していた。だからそういう感じなのかと勝手に思い込んで居たが……そうでも無いみたいだからな」
もう一人のカラーもうんうんと頷いている。
人間はカラーを襲う者、そういうイメージがもうカラーにはついてしまっている。
よって性行為もカラーにとっては恐ろしいものという認識が広まっていた。
それによってしか子孫を残せなくとも、やはりそういう行為はカラーにとっては恐怖だった。
「……あの、皆さん何故それを?」
「え? ランスさんの部屋からそういう声って凄い聞こえて来ますよ? 今でもランスさんが怖くて近づけない子も居るけど、大半の子は知ってますし」
その言葉にカラー達は一斉に頷く。
ハンティはそんなカラーの娘達に頭を抱える。
「アンタ等ね……いやまあ年頃の娘なんだから仕方ないっちゃあ仕方ないんだけど……」
「やっぱりエッチって凄い気持ちいいんですか? ランスさんとエッチしたあとの日光さんって、次の日に凄い満足した顔をしてましたし」
「あ、それ分かる。スラルさんも日光さんと同じでエッチの後って凄い充実した感じしてるんだよね」
「レン殿もそうだな。ランス殿と共に過ごした後は、やる気に溢れている感じがするからな」
「な、な、な……」
日光はカラー達の言葉に顔を真っ赤にする。
まさか自分がランスとそういう関係なのは……正直知られているとは思っていた。
だがまさか、そう言った日常の観察もされているとは思ってもいなかった。
いや、気づく事も出来なかった。
「で、どうなんですか? エッチってやっぱり気持ちいいんですか?」
「し、知りません!」
興味津々といった形で聞いてくるカラーに対し、日光は顔を真っ赤に染め上げてそう言うしかなかった。
そうしてようやくランス達がハンティの案内する場所に来た時、そこには信じられない光景が存在して居た。
「おいハンティ。どういう事だ」
「アタシに聞かないでよ! いや、これってまずいわね……一体何がどうなってるのやら」
ランス達は物陰からその問題の光景を伺っていた。
そこに居たのは、まさかの存在……それこそ予想だにしなかった光景が広がっていた。
「ゴイハッグ将軍! ここにカラーが居るのでありますか?」
「……だと良いのだがな。何しろジル様はカラーについては放置しているからな……ケッセルリンク様と何やらあるとも聞いた事もあるのだが」
魔物将軍と魔物兵、それらが森の入り口に整列していた。
数は100程だろうが、まさかの魔物将軍の存在にハンティは厳しい顔をしていた。
「魔物将軍が何でこんな所に……」
「何だ、珍しいのか?」
ランスからすれば魔物将軍が動いている事は最早珍しくも無かった。
NC期、GL期、そして本来のランスの時代であるLP期でも何度も魔物将軍を討ち取っていた。
なので少々ランスの感覚はマヒしていた。
「珍しいなんてもんじゃないよ! 何しろ魔物将軍が動くなんて滅多に無いからね。魔王の命令で人間牧場と魔物牧場に回されてて、滅多に動けるもんじゃないからね」
「という事はこいつらは誰かの命令……魔王以外の命令で動いているという事だな。だとすれば結論は一つ、魔人だな」
ハンティの言葉を聞いて、スラルは一人納得する。
魔王ジルの事はケッセルリンクから聞いているが、魔物将軍……どころか、魔軍を動かす事すら無いらしい。
動かすのは専ら魔人であり、一般の魔物の9割は魔物牧場と人間牧場で強制労働をさせられている。
そんな中で魔軍が組織的に動くなど、それこそ魔人の命令以外には考えられない。
実際、以前に出会ったカミーラがそうだった。
「魔人って言ったって一体誰が……ケッセルリンクが厳しい目を向けているはずなのに……」
「だからだろうな。魔物将軍は魔物隊長を200、魔物兵ならば4万は指揮できる能力がある。それなのに魔物兵100程度しか動員してないという事は、隠密で動いているつもりなのだろう」
魔軍が万単位で動くという事は簡単な事では無い。
食料の問題も有るし、何よりそんな数で動けば明らかに目立つ。
「何だってこんな時に……!」
ハンティが悔しげに唇を噛む。
ようやくカラーが纏まって暮らしていける土地を確保できたし、魔人ケッセルリンクの協力も取り付けられた。
だが、当然の事ながらケッセルリンクも万能では無い。
魔王に命令されれば動けないし、昼間には碌に動けないという欠点もある。
(これは……カラーを移動させなくちゃだめか。だが、どれだけの数が犠牲になるか……)
「よーし、じゃあとっとと奇襲をかけてぶっ潰すぞ。まずは魔物将軍をぶっ殺す。その後で一匹残さずに潰す。それでいいな」
「それしか無いな。まああの程度の数ならば、ランスと我の合体剣でいけるだろう。だが、そのためには連中に一か所に集まって貰うのが有難いな」
「そうね。後は……私とハンティでやれるでしょ」
悲愴な決意を固めていたハンティだったが、まさかの言葉に思わず三人の方を向く。
それは日光も同じで、魔物の正規兵である魔軍に対しても全く恐れを抱かず、倒せることを前提に話しを進めている事には驚くしかない。
「ちょ、ちょっとアンタ達何言ってんだい! 100は居るよ!」
「100居るのではなく、100しか居ないの間違いだ。真正面から挑めば確かに脅威だが、奇襲不意打ちはランスの十八番だ」
「……いや、凄まじい事を言ってるね。相手は雑魚モンスターじゃ無くて魔物兵だよ」
「じゃあお前はどうするつもりだ。言ってみろ」
「う……」
ランスの言葉にハンティは何も言い返せない。
如何に伝説のカラーであり、瞬間移動が有ったとしても、それでも全てのカラーを守る事は出来ない。
一人だけなら何とでもなるのだが、仲間のカラーを救うとなれば話は別だ。
そしてハンティは個で動く事が多いので、こういった集団率いて戦った経験は無い。
なのでハンティはランスに対して特に建設的な意見を出す事が出来なかった。
「それよりも目的が気になるな。目的次第では色々な策を練れる。ハンティ、何とかならないか?」
「目的……確かにそうだね。まだカラーを狙ってるとは限らない訳だしね……取り敢えず行って来るよ」
そう言うとハンティの姿が完全に消える。
「これが瞬間移動か」
ランスはハンティが瞬間移動する所をみるのは初めてのような気がする。
そういう能力があるとは聞いてはいたが、何しろハンティと共に戦ったのはあの闘神MMと戦った時だけだ。
それ以外にも色々と使っていはいたようだが、その光景を見た記憶が無かった。
「さて……我も準備だけはしておくとするかな。この相手なら……やはり雷か」
スラルも直ぐに魔法の準備にかかる。
「殲滅戦ね。まああれくらいなら何とかなりそうかな」
レンも剣を抜いた所でランスも剣を抜く。
「フン、何であろうとカラーに手をだすならぶっ殺す」
ハンティは瞬間移動で魔軍の近くにまで移動する事に成功した。
幸いにも魔軍はテントを利用しているため、隠れる先はいくらでも存在する。
(さて……こいつらは何をしに来たのか)
ハンティとしてはただの通りすがりであって欲しかった。
だが、
「本当にここにカラーが居るのですかね……」
「さあな。だが、メディウサ様の命令だ。従わない訳にはいかないだろう」
魔物将軍とその配下の言葉にハンティは心の中で舌打ちする。
ハンティの悪い予感が当たった結果になってしまった。
「しかし今度はカラーですか。いくらメディウサ様が魔王様に気に入られているとしても、こうも大変だとは思っても居ませんでしたよ」
「そう言うな。俺達はそのお零れをいただくことだって出来るんだ。それに牧場に回されるよりも遥かにマシだろ」
「それもそうだな……」
魔物兵は『牧場』という言葉が出た事に露骨に意気消沈する。
何しろ魔物達にとっては『牧場』に送られる事は即ち死同然を意味していた。
人間牧場に送られた魔物はその世話で一生が終わる。
人間に手を出す事が出来る訳でも無く、全てを管理する事で一生を終える事になるのだ。
そして性質が悪いのが、全ては連帯責任という恐ろしい環境が待っている。
10,000の魔物が管理していたとしたら、その内の一匹でもミスをすればその10,000全員が処刑される。
勿論ミスは隠蔽する事も可能だが、魔王……いや、魔人にそれを知られてもまずい事になる。
魔王直々の処刑は苛烈であり、魔王が造った処刑場からは常に悲鳴と怨唆の声が響き渡っている。
最期の一匹になるまでの無限の殺し合い、そして生き残っても最後は魔王の手で八つ裂きにされる。
いや、八つ裂きにされるくらいならまだマシで、酷い時は一生……それこそ寿命で死ぬまで魔王によって生かされてしまう。
自分で死ぬことすら許されない、永遠の地獄が待っているのだ。
一方の魔物牧場こそ、まさに生産工場と言っても差し支えない所だ。
この世界の魔物の9.5割が牧場に回され、そして魔王によって毎日のように処刑されていく。
残った一割が、魔人の手駒として生かされる……そんな小さな可能性に賭けて魔物達は生まれるのだ。
魔物牧場で生まれた魔物は即座に人間牧場に回され、そして些細なミスから恐ろしい数の魔物が処刑されていく。
ジルはそれには一切の妥協はしなかった。
ジルは確かに人間に地獄のような環境を作ったが、それは魔物でも変わりは無かった。
そしてここに居る魔物はそんな0.5割の中でも更に幸運……魔人メディウサの配下の魔物だった。
「でもカラーを探すって言うけどよ……ケッセルリンク様に殺されたりしないだろうな……?」
「ケッセルリンク様はもの凄い美しいと聞いてるけどよ……でも使徒以外には容赦無いって話だしな……」
カラー出身で、この世界の魔人の中でも上位である魔人四天王の一人。
誰もがその配下になりたいと思ってはいるが、生憎とケッセルリンクは魔物の部下を持つ事は無かった。
「おいお前達! 無駄話をしてないで整列しろ!」
「あ、は、はい!」
赤魔物兵の言葉に緑魔物兵と青魔物兵は一斉に姿勢を正し、魔物将軍の元に整列する。
魔物達が整列するのを見ると、魔物将軍は一度咳払いをする。
「お前達! 我等の目的はカラーの捕獲だ! そしてカラーは森の中に居ると聞いている! そして私はそこに目を付けた! 後は分かるな!?」
魔物将軍の言葉に魔物兵達は一斉に頷く。
この翔竜山の麓にある森こそがカラーの住処……だと言われている。
実際に魔物達はカラーの事を殆ど見た事が無いので、そんな曖昧な情報から何とかしてカラーを見つけるしかない。
「ここがどれ程危険な場所かは理解しているはずだ! いいかお前達! 絶対にドラゴンを刺激するな! だが、絶対にカラーを見つけろ! いいな!」
「「「「「はっ!!!!!」」」」」
魔物将軍の言葉に魔物兵達が一斉に返事をする。
その返事に魔物将軍は満足したように笑うと、
「よし! 本格的な捜索は明日になってからだ! その時にもう一度整列しろ! 今日はもう休め!」
「「「「「はっ!!!!!」」」」」
その言葉に魔物達は一斉に散り散りになる。
ここまで強行軍で来たのだから、一日くらいは休んでも良い、魔物将軍はそう判断した。
ドラゴンさえ刺激しなければ問題は無いと思った所もある。
だが、まさか魔物将軍もこのやり取りを全て知られているとは流石に思わなかった。
(奴等が集まるのは朝か……さて、本当に奴等を全部倒せるのかね)
ハンティはそう思いながらも、あのケッセルリンクと共に魔人を倒したというあの男に賭ける以外に道は無かった。
「という事だよ。連中は一度集合するって事らしいから、殲滅するんならその時じゃない?」
戻ってきたハンティの言葉を聞いて、スラルは地図を見る。
「ふむ……他の魔軍の動きが無いなら、その時に一網打尽にするしかないな。万が一にもカラーの住処を魔軍に知られるのは避けたいのだろう?」
「本当は人間にも知られたくないんだけどね……この男が何時心変わりするがわからないし」
ハンティはランスを睨む。
この男は確かにケッセルリンクと共にカラーを助けたようだが、ハンティの目から見ればやっぱりロクでも無い人間にも見える。
ただ、カラー達がランスに対してそこまで嫌悪感を抱いている訳では無いのは分かる。
元々から人間不信のカラーの娘達が見る目と、ランスという人となりを見てランスを嫌悪するかどうかは話は別だからだ。
「そいつはどういう意味だ」
「アンタの行動を聞いてれば明らかだよ。ハッキリ言ってカラーにとっては毒だね」
「俺様は今からカラーを助けてやると言うのに何という言い草だ!」
そうまで言われて、流石のランスもハンティに文句を言う。
「アンタね……自分のやってる事を見直した方がいいわよ。悪影響にも程がある!」
「一体俺様の何処が悪影響だというのだ」
「人間の男に自分からホイホイついて生きそうな子が出来そうなのが悪い! そういう悩みを相談されるアタシの身にもなってみな!」
「それこそ俺様の知ったことでは無いわ! 大体カラーのそういう所が遅れておるのだ!」
「知るか! とにかく! アンタには近づかないようにカラーの子達にはきつく言っておくから」
「カラーの英雄になる俺様に対して何て言い草だ!」
「あの……そこまでにした方が。それよりも魔軍をどうするのかを話し合ったほうが」
ランスとハンティの言い合いが激しくなりそうなので、日光が仲裁をする。
このままだと話が進まないと危惧したという事もある。
「……悪いね、カラーの未来を考えるとね。確かにまずはあの魔軍をどうにかしないとカラーそのものの未来に関わるか」
「フン、お前が勝手に俺様が悪いみたいな事を言ってるだけだろうが。まあやる事は変わらん。まずは俺様がぶっ放す。魔軍はアホだから簡単に引っかかるだろ」
「……まあそれは間違っては居ないか」
ランスの言葉にスラルは複雑な表情で頷く。
藤原石丸は人類の半分を制圧したが、魔人ザビエルが一体動いただけで瓦解した。
それらの結果や、これまでの魔軍の動きを見てていても、魔軍が人間に対して油断をしているのは明らかだ。
だからこそ、人類は魔軍に対しては付け入る隙があるとも言える。
「とにかくまずは魔物将軍をぶっ殺す。その後で残った魔物兵も一匹残らずぶっ殺す。それだけだ」
「それが望ましいな。カラーのためにはな」
「簡単に言うね……でもやるしかないのも事実か」
ハンティも覚悟を決めて頷く。
確かにランス達の言う通り、ここでは一匹残さず魔物兵を殲滅するしかない。
一匹でも逃せば、カラーの将来に禍根が残ってしまう。
「よーし、じゃあ休むか。ハンティ、お前は見張っておけよ」
「分かってるさ。ただし、何かあったら叩き起こすからね」
そして次の日──―
「結局魔軍に動きは無しか。だが、今の内に接近しておく必要はあるな」
幸いにも魔軍は動く事は無かった。
ハンティは一日魔軍を見張っていたが、特に何かがある訳でも無かった。
「こっちも森の中のカラーには話は通しておいたよ。念のため森の入り口に戦えるカラーは集まっているさ」
夜の内にハンティもカラー達に話しておいた。
魔軍が接近している事を知り、カラー達は驚き恐怖していたが、それでも戦う事を選んだ。
それはハンティがカラー達を説得したという事も有るし、カラー達も自分達には逃げ場はもう無い事を理解しているからだ。
「ランス殿。戦えない方々はどうするのですか?」
「そんなの待機に決まってるだろうが。いざとなればハンティが動くから大丈夫だろ」
「そのための瞬間移動だからね。まあ見つかる可能性は低いと思うよ。何しろこの辺りは野良モンスターすらいないみたいだからね」
幸いにも、今ランス達が隠れている所には野良モンスターが近づいて来る事も無かった。
念のため、昨夜は魔法ハウスも使わなかったので、ランス達の居場所がばれるという可能性は皆無だ。
「よーし、じゃあ今の内に接近するぞ。見つかるなよ、お前ら」
ランスの言葉に、この戦いに参加を決めた者達が頷く。
カラーの中でも、腕に覚えのある者はこの戦いに参加する事を決めていた。
それはたったの5名だが、何れもレベルが30を超えている中々の使い手だ。
魔法と弓があれば、決して足手纏いにはならない。
ランスも数が増える事は問題無いと考えているので、同行する事を許した。
「そういや見つかりにくくなる魔法とかは無いのか?」
「そういう便利なのは無いよ。魔法だって万能じゃない。こればかりは技量がモノを言うのさ」
「そうか。そういやそういう魔法は俺様も聞いた事が無かったな」
変身魔法があるので、その手の魔法もあるのかと思ったが、ハンティが知らないのなら本当に無いのだろう。
なのでランスは隠れながらも確実に魔軍に近づいて行った。
幸いにも魔軍の注意は全て森に向けられており、ランス達に気づく様子は無かった。
そしてランス達はとうとう魔軍のテントのすぐ側にまで接近する事に成功した。
「さて、我はそろそろ準備をするか」
「こっちもね。目的は一匹残さず殲滅する事だしね」
スラルはランスとの合体技のために魔法の詠唱に入る。
レンも剣と盾を出し、何時でも動けるように準備をする。
(さて……ここはやはり雷でいくか。そろそろレベル2魔法である雷神雷光の付与を試してみたいが……ライトニングレーザーでも十分か)
スラルはライトニングレーザーの詠唱に入る。
流石に雷神雷光まで行くとどんな被害が出るかも分からない。
「よーし、準備はいいな」
ランスの言葉に皆が頷く。
ランス達は魔軍のテントを陰にして、見つからないように移動をする。
そしてとうとう魔物将軍と、整列している魔物兵を見つける。
「よし、お前達。今から森の中へと入る。目的はカラーだ。だが、連れて来るのは僅かのカラーだけにしろ。ケッセルリンク様に睨まれれば我等の命は無い」
魔物将軍の言葉に魔物兵達は一斉に唾を飲み込む。
魔人四天王の一人にして、夜の女王の異名を持つ魔人ケッセルリンク。
もし彼女を怒らせれば……自分達の主が魔人メディウサだろうが、そんなものは関係無く自分達は殺されるだろう。
だが、メディウサの命令にも逆らう事は出来ない。
それが魔物兵達の宿命だった。
「ここで見つけておけば、次の時は容易になる。よし、お前達見逃すなよ」
「「「はっ!!!」」」
魔物将軍の言葉に魔物兵が一斉に返事をした時、
「がはははは! 俺様の目の前でカラーに手を出そうとするなどいい度胸だ! という訳でお前ら全員死ね──────っ!!!」
ランスが物陰から猛然と走ってきて、勢いよく跳び上がる。
魔物兵達はそれをぽかんとして見ているしかなった。
何故なら、たかが人間一人、どうする事でも無い……それが魔物達の認識なのだから。
だが、その認識は即座に間違っていたと思い知らされる──―暇も無く、魔物兵達は命を失う事となった。
「ラーンスあたたた──────ーっく!!!」
ランスの必殺の一撃が魔物将軍へと振り下ろされる。
魔物将軍はその名の通り、魔物の中でも相当に強い部類のモンスターである。
だが、その魔物将軍でもその不意打ちを防ぐことは出来なかった。
ランスの剣が振りおろされると同時に、魔物将軍の腹が大きく切り裂かれ、その剣が大地すらも抉った時、凄まじい雷撃が魔物兵達に襲い掛かった。
「ぎ」
少しでも声をだせた魔物兵はまだ幸せだ。
自分に何が起こったのか知る事も無く死ぬことが出来たのだから。
問題なのはランスから離れていた魔物兵達だ。
「な、なんだ!? うぎゃ──────っ!!!」
突如として襲ってくる雷の嵐に魔物兵達はどうする事も出来なかった。
もし少しでも身構えていたのであれば、防御体勢でもとれたのかもしれない。
だが、ランスの完全な不意打ちは魔物兵達に完全に突き刺さった。
雷に飲み込まれた魔物兵は皆炭になって倒れる。
残ったのはランスの一撃の範囲外にいた僅かな魔物兵のみ。
そしてそんな魔物兵が取れる行動は只一つ──―それは逃げる事だった。
「う、うわぁぁぁぁぁ! に、逃げ……」
「そんなに甘い事が出来る訳が無いでしょ。死になさい」
そんな魔物兵のすぐ側に現れたのは、金色の髪をした美しい女性であるレンだ。
レンの剣は魔物兵を容易く斬り裂き、剣の範囲外にいる魔物は彼女の放つ光の矢で貫かれる。
神としての格が上がっただけでなく、世界のバグであるランスに何度も何度も抱かれていた彼女は、その基礎能力をも上がっていた。
下級の魔人と同じくらいの力を持つ彼女の魔法は、初級の魔法であっても魔物兵にとっては致命傷だ。
「はっ!」
日光も生き残っている魔物兵に止めを刺すべく駆ける。
彼女の動きは非常に早く、そして鋭い。
ランスの一撃を受けて大混乱に陥った所に現れた日光に対し、魔物兵はもうどうする事も出来なかった。
日光の居合斬りが、ランスの一撃を受けて思うように体が動かない魔物兵を両断する。
日光はそんな威力の攻撃を矢次に放つ事が出来るようになるまで、己の技を高めていた。
(……相変わらずランス殿の一撃は非常識だ)
ランスとスラルの合体技を見るのは初めてではないが、その威力には感心すると同時に恐れも抱く。
だが、それが味方ならばこれほど頼もしい事は無いだろう。
「行きます」
日光は大混乱にある魔物兵達に対し、容赦なく刀を振るい続けた。
「……これがケッセルリンクが認めた人間の力か」
ハンティは初めて見るランス達の力に舌を巻いていた。
強いのは分かっていたが、まさかここまで強いとは流石に想像もしていなかった。
ケッセルリンクと共に魔人を倒した男だとは聞いていたが、想像を遥かに上回る力を持っていた。
「まあ……それがカラーを助けてくれるのなら、それはそれで問題は無いか。電磁結界!」
ハンティも生き残った魔物兵を一匹も残さない気で、瞬間移動を駆使しながら魔物兵を倒していった。
こうして本来の力を全く発揮する事も出来ずに、魔物兵達は目的を果たす事無く全滅した。
ワクチン接種でまた熱が出てしまいました
当日は何とも無くとも次の日にくるのが辛いですね