「君が目の前の出来事に困惑しているのは分かる。だが、私の話を聞いてほしい」
「魔人が何を話すと言うのですか…!」
日光の目にあるのは怒りだ。
ランスの事を信じていた…魔人とは深い繋がりが有り、元魔王と名乗るスラルという者が居る。
それでも、日光はランスと共に行動を共にした。
常々「魔人を倒す」という事も言っており、そのために色々と冒険をしてきた。
そして現実に魔人ラ・サイゼルとも戦った。
だが、それでも魔王ジルが関わって居るとなれば話は別だ。
何しろ魔王ジルはこの世界を地獄に変えた存在、そんな存在と関りが有るとなればランスに対しての信頼感が揺らぐのも無理のない事だった。
「魔人か…君が信じるかは君次第だが、私はランスに対して魔人として接しているつもりはない。一人のカラーとして接しているつもりだ」
日光にとって魔人の言葉は信じられない。
信じられないが…昨日見たランスとケッセルリンクの関係は、間違いなく信頼関係があるように見えた。
(違う…そうじゃない。この魔人は間違いなくランス殿を…)
「ランスが君にジルの事を話さなかったのは言いたくない理由もあるのだろう。ランスはいい加減な奴ではあるが、ランスにだって言いたくない事はある」
「それは…」
日光はケッセルリンクの言う事も分かる。
人には誰にでも言いたくない事の一つや二つはあるものだ。
スラルが元魔王だという事を言いたくない理由も分かるし、ランスが自分に魔人との関りを話さなかったのも分かる。
一番最初に出会った魔人イゾウはランスの事を知らなかった。
「ジル様の事はランスにとっては言いたくない事だ…」
「…魔王ジルとランス殿に何があったというのですか」
日光は剣呑な目でケッセルリンクを睨む。
「…ランスは自らは話すまい。ならば私が真実を話そう。だが、その前に屋敷に戻ってくれないか。流石にこの日差しは体に悪いのでな」
ケッセルリンクと日光は屋敷の中に戻る。
幸いにも誰も来ることも無く、二人だけで話が出来る。
「まずは…君は何が知りたい。私の答えられる範囲であれば答えよう」
「…ランス殿と魔王ジルの関係について」
日光が知りたいのはランスとジルの関係だ。
もしランスがジルと繋がっていたら…という事も考えてしまう。
勿論そんな事は有りえないと、冷静になった今ならば分かる。
だが、それでも知りたい…と思うのは当然の事だった。
「ランスとジル様の出会いについては私は直接は知らない。それはジル様の手記をランスから許可を得て見てくれ。ただ、ジル様がああなった経緯は知っている」
「それでもかまいません」
日光の言葉にケッセルリンクは一度ため息をつく。
あの事はケッセルリンクにとっても思い出すのが辛い事だ。
「ジル様が人間だった頃、ランスの奴隷だったというのは事実だ」
「奴隷…ですか」
奴隷という事ならば、ジルが人間を恨むのは無理はない…とも思ってしまう。
だが、あのランスが女を無下に扱うという事も考え辛い。
「誤解の無いように言うが、ランスの言う奴隷とは一般的に言う奴隷とはかけ離れている。むしろ、ジル様はランスに大事にされていただろう」
「…え?」
奴隷、という言葉は当然の事ながら良い言葉ではない。
日光も奴隷のように扱われる人達を見てきた。
ランスはその事については特に何も言わない。
日光は何とか解放したいと思っていたが、ランスは「無駄だ」と言って何もしなかった。
そのランスが奴隷であるジルを大切に思っていたなど、到底信じられるものではない。
「ジル様はランスの事を愛していた…それは間違いない。だが、そんなジル様の幸せは長くは続かなかった」
ケッセルリンクは唇を噛む。
そんなケッセルリンクの顔には後悔、悲しみ、そして怒りが入り混じったような複雑な顔をしていた。
「そんなジル様の前に現れたのが…先代魔王のナイチサだ。魔王ナイチサはジル様を強引に魔王にした。ランスの目の前でな」
「!!」
ケッセルリンクの言葉に日光は顔面が蒼白になる。
まさかランスとジルにそんな関係があるとは思ってもいなかった。
いや、魔王ジルの事を最初から『魔王』としてしか見ておらず、人間だった頃があるとも思っていなかった。
「私は…そんな魔王ナイチサの命令に逆らえなかった。私はランスの邪魔をした。魔人は魔王の命令には逆らえない事を実感したよ」
「そんな事が…」
ケッセルリンクの言葉を嘘だと言うのは簡単だろう。
だが、目の前の魔人がそんな嘘を言うとは思えなかった。
何よりも、昨日見た魔人の顔…ランスの事を見るあの目を見ると、彼女がランスに対して不利な事をするとは思えなかった。
「そして…私の一番の罪は、ランスの子を殺すことに加担してしまった事だ」
「え…」
ケッセルリンクの目から涙が零れる。
あの時の光景は今でも忘れることが出来ない。
それこそがケッセルリンクの一番の罪。
どうあっても忘れることが出来ない、悲しみの象徴とも言える。
「ジル様はランスの子を妊娠していた。だが、魔王ナイチサによってその命を奪われた…」
「そんな…」
ケッセルリンクの告白に日光は顔面が蒼白になる。
「ランスの目的はジル様を魔王から取り戻すことだ。そのためには魔王の無敵結界を何とかする必要がある。そのためにランスは魔人を倒す術を求めているのだ」
「………」
日光は何も言う事が出来なかった。
魔人の手によって家族を失う事は珍しい事ではない。
だが、まさかランスも失っているとは思ってもいなかった。
まだ生まれていなかったとはいえ、自分の子供を。
そして魔王ジルもまた、同じ魔王であるナイチサによって子供を殺されているとは思ってもいなかった。
「君は魔人によって家族を奪われた…その憤りは私にも分かる。だが、それはランスも、そしてジル様も同じなのだ。だからこそ、ジル様はこの世界を地獄に変えた…魔物に安息を与えなかった」
「それが魔物牧場の理由ですか」
「ああ。間違いなく、ジル様は魔物にも憎しみを持っている。魔王城では毎日のように魔物が処刑されている」
「では何故人間にまで…」
日光の言葉にケッセルリンクは首を振る。
「それはジル様にしか分からぬ。ただ、魔王というのは人類に対して巨大な悪意を持っている…それは間違いない。だが、ジル様が何故人間牧場を作ったのか…それは分からぬ」
人間牧場と魔物牧場、これこそがこの世界を地獄に変える全ての要因。
人には自由が与えられず、ただただ子を産むことを強要される。
魔物達はそんな増えた人間の管理を強要され、少しでもミスがあればその牧場で働かされている魔物は殺される。
魔王によって殺された数は、人間よりも魔物の方が圧倒的に多いだろう。
魔物達はそんな鬱憤を晴らすように、野に流れてモンスターとして生きていくのだ。
どうせ死ぬのであれば、思う存分好きな事をして死ぬ…そんな魔物達も多い。
だが、ケッセルリンクにはそんなジルの行動に違和感も持っている。
ジルは聡明な女性で、理由も無くこんな事はしないのではないかと考えている。
(魔物に対しては明確な悪意が感じられるが…人間に対しては事務的であるとも言える。ナイチサとは別の意味で人間には関心が無いように見える。ランスを除いて…)
ジルの真意はケッセルリンクには分からない。
だが、必ず何かしらの理由はあるはずなのだ。
「私が話せるのはここまでだ」
ケッセルリンクの言葉に日光は考えが纏まらない。
それ程までに衝撃的な事実だった。
勿論今の時代を作ったことは許すことなど出来ないが、魔王ジルもまた人であったころに愛しき者の子を失った一人の人間だったのだ。
そしてランスも…自分と同じく、家族を失った人間の一人だった。
だが、ランスはそれを全く感じさせない。
「ランス殿は…どうしてこの事を話してくれなかったのでしょうか」
「ランスは自らを語ることはあまり無いからな…繊細という言葉からはかけ離れている男だが、あいつの生きてきた人生は平穏なものでは無かったのだろう」
どういう人生を送ってきたかはケッセルリンクは知らない。
ランスが話さない限りは別に知る必要は無いと考えている。
「信じてやってはくれないか。魔人である私が言うのは可笑しな事だとは分かっているが」
「………まだ、分かりません。でも、ランス殿も私と同じ経験をしている事は分かりました」
日光はただ静かにそう言うだけだ。
「…スラル様にジル様の事を聞くといい。スラル様は私より人であった頃のジル様を知っている」
「そうします。でも…あなたがランス殿に肩入れする理由はそれだけですか? あなたの罪の意識からそうさせているのですか?」
日光の言葉にケッセルリンクは笑う。
それは非常に優しく、そして温かみのある笑みだった。
「私は…魔人になる前、カラーだった頃からあの男が好きだったんだ。想いを伝えたのは最近だ。それまで…私自身がどうしていいか、分からなかった」
切っ掛けはあのカイズの迷宮での事だ。
あるモンスターの力で無理矢理ではあるが、ランスに対して思って居る事を全て吐き出せた。
それからはケッセルリンクは自分に正直にありたいと思った。
だが、魔人故にそれを他の者達に感づかれる訳にはいかない。
ジルは勿論知っているだろうが、何も言わないのはケッセルリンクには有難かった。
ガルティアもメガラスも知っているかもしれないが、そんな事を他人に言いふらすような男では無い。
カミーラは間違いなく知っているだろうが、あのプライドの高いドラゴンがそんな事を言う事は絶対に無い。
だからこそ、他の魔人に知られる訳にはいかない。
それが自分の弱みになるという事をケッセルリンクは自覚していた。
「君も…それは誰かに言いふらすような事は止めてほしい。私はともかく、ランスが狙われる可能性も有るからな」
「言いませんよ。それに誰も信じないでしょう。夜の女王と呼ばれた魔人ケッセルリンクが、一人の人間を今も想い続けているだなんて」
日光はケッセルリンクの言葉に少しだけ微笑む。
この魔人の言っている事に嘘は無い、日光はそう確信していた。
純粋に、ランスのために、魔王ジルをランスの元へと戻すために動いているのだと。
「…話してくれて有難うございます。ですが…これだけは言います。私は必ずしも、ランス殿と意見を同じくする事は無いと」
「それは当然だ。君もまた一人の人間だ。君には君の考えが有り、ランスにはランスの考えがある」
日光の言葉にケッセルリンクは頷く。
それは当然の事であり、日光が将来的にどうするか…それは彼女の自由なのだ。
そこにはケッセルリンクの言葉など不要であり、彼女自身が決める事なのだから。
「では…失礼します」
日光はケッセルリンクに一礼して去っていく。
ケッセルリンクはそれを見届けて、その場で頭を押さえる。
「ふぅ…やはり直射日光を浴びるのは辛いな。これを持っていてもこんな状況だ…」
久々に日光を直接浴びてしまったが、やはり日光はケッセルリンクにダメージを与える。
夜には無類の強さを発揮するが、昼になると弱体化が避けられない、それがケッセルリンクの弱点だ。
「大丈夫? 随分と辛そうだけど」
「レン…君か」
ケッセルリンクに声をかけてきたのはエンジェルナイトのレンだ。
彼女との付き合いもランスと同じく長いが、彼女はランス以外にはあまり関心が無い。
ランスを守ることが任務だと聞いていたが、やはり天使は人とも魔物とも全く違う存在なのだろう。
「まさか君が私の心配をしてくれるとはな…」
「…まあ私も長い時間下界で人間と接して…影響されてるんでしょうね。正確に神の1柱になれたから、もう堕天しないのは有難いけど」
レンはケッセルリンクの言葉に苦笑する。
「それよりも…ランスのために色々とよくやるわね」
「私はそれだけの事をしてしまった…それに、あの男ならば成し遂げられると信じてもいる。数々の奇跡を私は目にしてきたのだからな」
「それは…そうね。ランスって間違いなく人間の中じゃ規格外だし」
ランスとの最初の出会いは最悪だったと言ってもいい。
はぐれ悪魔を狩ろうとしたら、人間に返り討ちにあった挙句に犯された。
こんなのは誰にも言えない、エンジェルナイトとしての恥だ。
だが、犯されたにも関わらず、レンはそれに気持ちよくなってしまった。
もうちょっとエッチをしてもいいかなぁと思ってしまった。
そして1級神ALICEの命令でランスを守護する事になったと思ったら、今度はこんな事になってしまっている。
「…君は何処まで知っている?」
「何を?」
「ランスは…カミーラの事を知っていたようだし、それ以外の魔人の事も知っているようだった。だったら君も知っているのかと思ってな」
「それは言えない。私にはその権限が無いから。でも、ランスを守ることが私の今の全て。私はそういう存在だから」
レンの言葉にケッセルリンクは苦笑する。
「ランスもそうだが…君も秘密が多いな。だが、言わないのならそれでいい。私にとっては君も戦友なのだからな」
ケッセルリンクの言葉にレンも同じように苦笑する。
「元カラーだからその言葉は色々な意味で相応しいのかもね。ほら、使徒の所に送ってあげるわよ」
レンはケッセルリンクに肩を貸すと、そのまま使徒達の所に連れていく。
こうして、魔人と人間の邂逅は終わりを告げた。
「ほー、じゃあそれがハウゼルって奴の特徴か」
「はい。ハウゼル様は無類の本好きです。ケッセルリンク様が収集していた書物をよく借りに来ますよ」
「ハウゼル様って魔人とは思えないほど優しい方ですし、コロッといけるかもしれませんねー」
レンがケッセルリンクをシャロンとバーバラに預けた後、元の部屋に戻った時ランスはエルシールと加奈代の二人と話していた。
「で、どういう本が好きなんだ」
「本なら何でも…と言いたいですが、今の時代を考えると本は貴重品です。ですので、どんな本が好きなのか、と聞かれても難しいですね」
「あ、でも恋愛ものとかも結構好きみたいですよ。借りに来るときもすごいうきうきしてましたから」
「それに料理が好きです。私達にも時々振るってくれますよ」
「当然お前よりも上手いんだろうな」
ランスの言葉にエルシールは赤面する。
「わ、私の料理の腕の事はいいでしょう!」
「なんだ。まだ上達しとらんのか。あれからもう何百年もたってるんだろ」
「…どうにも不得手でして。それに私達は完全に役割分担をしていますから。私の仕事はメイド達を束ねることです」
エルシールは未だに家事が苦手であり、料理に関しては壊滅的だ。
なのでランス達も決してエルシールには料理をさせなかった。
ちなみにスラルは厨房に近づくことも禁止されている。
「とにかく良いことを聞いたな」
ランスは二人の話を聞いて色々と悪知恵を巡らせる。
魔人サイゼルはあの通りの性格なので、それこそ力押しで何とかはなりそうな気配はある。
だが、二人の話を総合すると、やはりサイゼルよりもその妹のハウゼルの方が何倍も与しやすいようだ。
しかも無類の本好きとなると、ランスとしても多少の心当たりは有る。
ランスは本には対して興味は無い(たまにエロ小説やエロ漫画を見る程度)が、スラルもジルも本が好きだ。
なのでスラルの部屋には大量の書物があるし、ジルの部屋にも沢山の本がある。
中にはジルが趣味で集めていた恋愛ものの小説もある。
『がはははは! お前、こんなものが好きなのか!』
『か、返してくださいランス様!』
『ほー、普通の恋愛小説だと思ったら意外と過激だな。バッチリセックスしているではないか』
『ラ、ランス様ー!』
『良いことを思いついたぞ。今日はこれと同じようなシチュエーションでやってみるか』
『え…そ、それは…い、いいかもしれない…』
昔こんな事があった事を思い出す。
(おお、そうだぞ。ジルが読んでた中々過激な小説もあったな。だが…いきなりそれだと何があるか分からんからな…)
「よし、お前達。今から俺様の魔法ハウスに行くぞ。その中からいい感じの恋愛ものとかとにかくハウゼルが好みそうな本を探せ」
「何かお考えがあるのですね? 分かりました。色々なジャンルがあった方が良いですから、皆で行きましょう。加奈代、皆を呼んできて」
「はーい! 分かりました」
エルシールの言葉に加奈代はニコニコと笑いながら返事をすると、そのまま他のメイドを探しに行く。
「ついでに魔法ハウスの掃除もしましょう。ランスさん、昔のように宝物をあちこちにぶん投げたりしないでくださいよ」
「フン、問題無い。俺様の宝はきちんとしまってあるからな」
「あんたの宝って…あの貝殻の事?」
「レン様」
レンが居たことに気づき、エルシールが一礼する。
「変わった趣味よね。別にケチをつける訳じゃ無いけど」
「フン、俺様の高尚な趣味が分からんとは」
ランスにとっては貝の収集は非常に価値のある趣味だ。
ただ、クルックー以外にはその趣味はあまり理解されていないという事だけだ。
「まあいいわ。それよりも、何の話をしてたの?」
レンの言葉にランスはニヤリと笑う。
「魔人ハウゼルとやるための作戦だ」
ランスの悪い笑みを見て、レンはため息をつく。
どうせ碌な事を考えてはいないのだろうが、不思議とランスの作戦はピタリとはまる。
だが、その作戦はほとんど碌な事ではないという事だけだ。
「さて、皆さん掃除を始めますよ」
「「「はい」」」
「はーい」
エルシールの号令に使徒達は一斉に返事をする。
「悪いな。またランスの変な思いつきに付き合わせる形になったな」
「いえ。ここは私達が過ごした場所でもありますので」
スラルの言葉にシャロンが微笑む。
この魔法ハウスはメイド達も過ごした場所であり、大事な家でもある。
「加奈代とスラル様はランス様に言われた本を探します。私を含めた皆は清掃をして下さい」
エルシールの言葉に皆が散っていく。
スラルと加奈代はジルの部屋に入る。
そこはジルが人間だった頃のまま維持されている。
ランスがそれを望んだのだ。
「さて…日光、お前が見たいのはこれだろう」
そしてここに来たもう一人…それが日光だ。
スラルは一冊の本を日光に手渡す。
「お前がそれを見て何を思うかは分からない。だが、これが真実だ」
「…拝見します」
日光は手渡されてた本…恐らくは日記を見る。
本来は誰かの日記を許可なく見るなど絶対にやらない事だ。
だが、日光はどうしてもこれを見なければならなかった。
今更これが魔王ジルの物だという事を疑うつもりはない。
自分を騙すためだけに、こんな大掛かりな事をする必要は無いし、何よりも不自然すぎる。
「さて…加奈代。そのラ・ハウゼルとやらが好みそうな書物とかは分かるのか? 我はその手の娯楽に関しては全く分からん」
「はーい、大丈夫です。私にばっちりお任せください」
加奈代はランスと気の合うエロスの持ち主だ。
なので今回のランスの作戦の趣旨はバッチリ理解している。
「でもランスさんは女心がいまいち分かっていませんからねー。いきなり過激なものはいけませんよ。それよりももっとソフトにいかないと」
(そう、ハウゼル様は絶対むっつりです。恋愛小説は好きでも、こういったエロスも好きだと思うんですよね。でも、いきなりそれはいけないです)
加奈代は短編小説を手に取る。
これはNC期に書かれていた本で、このGL期においては非常に貴重だ。
こういった娯楽も今は人の間でも中々存在していない。
主であるケッセルリンクはスラルが残したとされる書物を探すついでに、色々な書物を集めさせた。
勿論全く関係無い書物が殆どだったが、使徒の娯楽のためにと取っておいてくれた。
その中で皆が選んだ本をハウゼルに貸している、という形だ。
(ハウゼル様は本が好きですが、同時に自制心も強い方ですからね。借りていく本の数は決まっています。ならばまずはこういったソフトな物から行きます)
加奈代の手の中にあるのはごく普通の恋愛書物だ。
NC期ではありふれた本であり、特に珍しくは無い。
だが、その珍しくない事こそが加奈代にとっては重要だった。
「それとこれですねー」
「…随分と選ぶのだな」
スラルは加奈代が手に取った書物の量には驚く。
それは長編小説と呼ばれるもので、ギャングを乗っ取った時にジルと加奈代が手に入れたものだ。
「こういった事が重要なんです。で、その中でこれとこれは除いてと」
「む、どうして最終巻とその手前だけは抜くのだ?」
加奈代は手に取った長編小説の中から、最終巻とその手前の巻だけは本棚に仕舞う。
「これでいいんですよ。で、この後で私たちがハウゼル様に言うんです。『この本の最終巻の有りかを知っていますよ』って」
「…成程な。それがランスの狙いか」
スラルの言葉に加奈代は悪い笑みを浮かべる。
「ハウゼル様は続きが気になりますからね。だから絶対続きを探します。その時に私達がハウゼル様にランスさんの事を言うんです」
「魔人の好奇心を刺激する訳か」
「はい。それにハウゼル様は生真面目な方ですから、自分の私用に軍を動かすなんて事は絶対にしませんから。必ず一人で動きます」
「…君はランスの作戦を本当に理解しているんだな」
少し羨ましそうな声を出すスラルに対し、加奈代は少し寂しげな笑みを浮かべる。
「まあこれくらいしか役には立てませんからねー。それにランスさんは本当に良いエロス仲間だと思ってるんです。私、ランスさんのそういう所が好きですから」
「確かに昔から君とランスは意気投合する事が多かったな。まあその作戦とやらはランスと君に任せればいいか」
「はーい、任せてください。あ、そうだ。ランスさんに言われてたんだ。ランスさんの部屋にすっごい本があるから、それは絶対にハウゼル様に読ませろって」
加奈代はそのままスラルに一礼すると、ランスの部屋を目指して歩いていく。
スラルは一冊の本をとると、それを開いて読み始める。
「…やはり我にはあまり理解出来ん事か。それも我が魔王だったという事が影響しているのかもしれんな」
かつて色々な知識を求め、スラルは魔人をも動員してとにかく情報を集めた。
ケイブリスの昔話も根気よく聞き、人間界の事はガルティアからも聞いた。
恐らくは、その中で無敵結界に関わる何らかのヒントを得たのだろう。
そこの部分だけはどうしても思い出せないが、最近引っかかっている事も有る。
(何故我は消滅する事になったのか。問題はそこか…)
初代魔王のククルククルはアベルに止めを刺されて死んだ。
そのアベルは死因は不明…そこはケイブリスも知らなかった。
どうやらカミーラもメガラスもその件に関しては何も知らないようだった。
なので魔王アベルだけは何故死んだのか、それは分からない。
そして自分は普通に死んだ。
ククルククルやアベルのように誰かと戦っていたという事は無い。
あの日、突然自分は死に…そしてその魂だけがランスの剣の中にあった。
次の魔王であるナイチサは死にかけだった。
何故魔王が死にかけるのか、それは全く分からない。
超上的な何かと戦っていたとしか思えないが、それが何であるかは当人であるナイチサしら知らない事だろう。
(そしてナイチサはジルを次の魔王とした。明らかにジルという個人を狙っていた。そこに魔王の何かがあるのだろうな…)
魔王が次の魔王を決める、そんな事は今までは無かった。
何故自分が魔王になったのかという疑問は残るが、とにかく自分は後継者を探そう等という気は全く起こらなかった。
(ジルと話せれば解決するのだが、恐らくは不可能だろうな…それに関してはもうどうしようもない。だが、魔王に何か変化があった…と考えるのが自然。と、なると原因はやはり我か…)
その原因に心当たりは当然ある。
恐らくはその原因こそが『無敵結界』なのだろう。
これまでの魔王と魔人の中で違うのは、自分の代になって無敵結界というものが出来た事。
それによって魔王と魔人はこの世界の頂点に立ったと言えるのだ。
(そうなれば…やはりケッセルリンクの推測通り、失われた我の記憶に答えがあり…そのパーツの一つが黄金像…という可能性があるか)
ランスの言う通り、自分があんなものを書き残していたというのは疑問がある。
自分は確かに色々なバランスブレイカーを集めてはいたが、黄金などという物に価値など見出してはいないはずだ。
(ランスの冒険の勘はよく当たる。ならば、ランスに任せるのが一番か)
スラルが改めてそう思った時、
「…そんな」
日光の声がスラルを現実に引き戻す。
「日光。お前の望む真実はそこにあったか?」
スラルの言葉に日光は何も答えなかった。
ただ、その目から一筋の涙が零れ落ちていた。
意外と早くPCが来ました
でもモニターをまだ買ってなかったから急いで購入
自分の準備の悪さが本当にね…
ただ、データの復旧がまだなのがキツイです