ここに書かれていた事実。
それは日光の心を打ちのめした。
これが本当にあの魔王ジルが書いたとは限らない…そう思っているはずなのに、その目には涙が浮かぶ。
「日光、お前はこれを見て何を思う」
スラルの言葉ももう頭に入ってこない。
それだけ、日光はこの日記に心を打たれていた。
人々に裏切られ、奴隷として売られそうになった事。
そのジルを買ったのがランスだった事。
奴隷として買われたからには、自分の人生にはもう先が無いと思ったこと。
だが、それは良い意味で裏切られたこと。
JAPANで加奈代と出会ったこと。
魔人トルーマンと戦ったこと。
魔封印結界が本当に魔人に対して有効だった事。
そして…ランスの子を妊娠していた事。
最初は諦めのような諦観を感じされる日記だったが、日が経つにつれてどんどんと感情が溢れ出ている。
最後の文章は不安が有りながらも、嬉しさが滲み出ていた。
「これが…本当に魔王ジルが書いたものなのですか」
「正確には人間のジルだ。魔王になったからには、かつての人格は殆ど失われるのだろう。そうでなければあのジルが世界をこんな風に作り変えたりはしない」
「魔王…」
この日記が魔王ジルが書いたとは誰も信じないだろう。
日光も状況が状況で無ければ全く信じない。
だが、ここに書かれているランス、スラル、レン…そして魔人ケッセルリンクとその使徒の事。
その全てが日光にこの日記に書かれていることが事実だと伝えていた。
「ランス殿は…目の前で彼女を失ったのですね…」
「いくらランスでも魔王の前には無力だった。いや…魔王ナイチサは死にかけだったから、一矢報いたとは言っても良いがな」
「そして…自分の子供も…」
日光の言葉にスラルは辛い顔をする。
「ああ…ジルは妊娠していたようだ。ケッセルリンクとその使徒しか知らなかったようだが…そんな事で嘘をつく理由は無いからな…」
何よりもスラルはあの時のジルの顔が忘れられない。
魔王となり、その異形の手足をしながらも、自分の腹に触れるジルを。
魔王でありながら、その顔には酷い虚無感があった事。
そして…狂おしいまでにランスを渇望していたあの目を。
「ランス殿は…もしかして魔王ジルを」
「ああ。ランスの目的はジルを魔王から取り戻すことだ。それがどれほどの苦難で無謀なのかは我にも分からぬ。だが、ランスは決して止まらない。そういう男だ」
「そう…ですか」
日光は改めてランスという人間の事を思う。
無茶苦茶で我儘で横暴で女好きで…間違いなく悪党だ。
決して外道ではない、ほんの僅かだが優しさも感じられる。
だが、そこには凄い真の熱さがあるのだ。
一度決めたことは決して曲げない、どんな苦難だろうとも決して諦めない。
あの真っ直ぐで意志の強い目が、日光にとっては憧れだった。
「だから…魔人を倒す力を求めているんですね」
「魔人を倒す…というよりも無敵結界を何とかする方法だな。その手がかりを求めて動いているのだからな」
「無敵結界を…ですが、あの時は魔人も傷ついていましたよね」
日光が思い出すのは、怪獣富嶽と戦った時の事だ。
あの時魔人と共闘したのだが、魔人であるにも関わらず富嶽からダメージを受け出血していた。
その時に日光は無敵結界にも穴があるとは確信した。
だが、やはり無敵結界は自分達には破れなかった。
魔人サイゼルに対しても傷一つつけることは出来なかったのだ。
「天使、悪魔、怪獣、聖獣…これらの存在には無敵結界は働かない。恐らくは意図的にそうなっていると考えるのが自然だ。だが、知っての通りそんな存在は滅多にお目にかかれないし、魔人と敵対することも無いだろう」
人を超えた存在は魔人でも敵わない。
無敵結界が無ければ地力で戦わなければならないのだが、当然の事ながら魔人よりも強い奴は存在する。
「ランスが目をつけたのが…神の力だ。それがあってこそ、初めて魔人と魔王に戦いを挑める。その下地を作れる」
「…そんな事が」
「お前に話さなかったのは…まあランスに関しては本当に話す事は無いと思ってたのだろうな。それに…言いたくない気持ちも分かる」
スラルはランスの気持ちが少し分かる。
それに、あんな事は進んで言いたくないのも無理は無い。
何しろあのランスが、結果的には何も出来ぬまま逃げる以外の方法が無かったのだから。
それも助かったのは本当に偶然であり、あのままならば間違いなくランスは魔人にされていただろう。
ランスがそんな事をペラペラと誰かに話すなんてそれこそありえない。
「我は…ランスが言わない限り、話す事は出来ないと思っていた。レンに関しても同じだろう、彼女も話すつもりは無かっただろう」
「…それなのにいいのですか? こうして私に話しても」
「ケッセルリンクが話したんだ、私が口を閉ざす理由は無くなった。それにランスもお前になら話しても良いと考えているだろう」
口には出さないが、スラルもランスとは長い付き合いだ。
それくらいは分かる。
「ランス殿は復讐を考えてはいないのですか?」
それは日光にとっての当然の疑問だ。
自分は家族を奪ったあの魔人イゾウの事は忘れれない。
何としてもこの手で…と思っているし、それを隠した事も無い。
だが、ランスからはそんな復讐心が全く感じられない。
「相手がいないのでは復讐など出来ないからな…復讐相手は先代魔王ナイチサだ。だが、当然の事ながらもう生きてはいないだろう」
(…何よりも、ジルがナイチサを許すとは考えられない)
スラルとしては、既にナイチサはこの世には居ないと確信している。
人間に戻ったのなら当然寿命で死んでいるだろうし、そもそもランスと対峙した時にももう死に掛けだった。
何よりも、魔物に対しても地獄を見せているあのジルが、自分の子供を殺した魔王を生かしておくとは思えない。
例え魔王になっても、人間の時の記憶は恐らくは消えない…あのランスへの目を見れば分かる。
「そうですか…ランス殿の復讐相手は既に…」
日光の顔が沈む。
自分の復讐相手は既にこの世界には存在しない、それがどんな気持ちなのかは分からない。
ただ、ランスには自分には想像も出来ない事情があるのは理解出来た。
「改めて聞こう。お前はどうする? 決めるのはおまえ自身だ。まあ…馬鹿正直に言ってもランスがお前を逃がすとは思えないがな」
スラルは一度ため息をつく。
「だが…お前がどうしても嫌だというならば、ここからお前を逃がす。その後の事は保障は出来ないがな」
日光はその言葉に苦笑する。
「私の答えは決まっています。私はランス殿…そして皆と行動を共にしたいと思っています」
日光の言葉にスラルは微笑む。
「そうか。ならその言葉を直接ランスに言ってくれ。そうすればランスも喜ぶ」
そう言ってスラルはジルの部屋を出て行こうとする。
「待って下さい」
そんなスラルを日光は引き止める。
「私からも聞いても良いですか?」
「ああ。構わない。答えられる範囲でならな」
「スラル殿は何故そこまでランス殿に協力をするのですか? あなたも元魔王なのでしょう? 人間の敵のはずです」
日光の疑問にスラルは微笑む。
「簡単だ。私にも責任があるからだ。それに…我の方が先にランスに目をつけていたのだ。それなのにジルにはやれんだろう」
そう言うスラルの顔は間違いなく元魔王の顔だった。
だが、日光にはその顔のもう一つの一面が見えたような気がした。
「スラル殿も…ランス殿が好きなのですか? 人間だった頃のジルのように」
日光の言葉にスラルは目を丸くする。
その後でスラルは微笑んだ。
「ああ。我はランスが好きだ。あいつと一緒に居ると楽しいし、何よりも安心できる。我が魔王であった頃でも味わえなかった感覚だ」
「魔王であった頃は安心しなかったのですか?」
「ああ。我は所詮は最強の存在とは程遠かったという事だ。だからこそ、我は自分に無いものをランスに求めたのかもしれぬ」
「あなたに無いもの…ですか」
スラルは少し悔しそうな顔をする。
無いものねだりなのは分かってはいるが、それでも羨ましいと思ってしまう。
「自分を信じて疑わない自信と決断力、そしてあいつの持つカリスマをな」
その夜—―—
「という訳でランスさん。頼まれた通り本を用意出来ましたよー」
「グッドだ! がはははは!」
加奈代とランスは二人で笑いながらハイタッチをする。
「…前から思ってたけど、あの二人って兄弟かってくらい意気投合してるんだけど」
「まあ…同じ女好き同士気が合うのでしょう。付き合うこっちは大変ですが」
バーバラの言葉にエルシールは諦めたようにため息をつく。
人間の頃から仲の良かった二人だが、その関係は今でも変わらない。
付き合わされる身としてはたまったものでは無いが。
「それでですね、私はまずはこちらの方からハウゼル様に貸します。内容をどんどん過激にしていって…最後にランスさんが持ってたこれを貸します」
「ほー。何が狙いがあるんだろな」
「勿論です。ハウゼル様の本好きは相当ですからね。それでですね、私は確かに本を貸しますが、後半はランスさんが持っててください」
加奈代は魔法ハウスから持ってきた本の一部をランスに渡す。
「その部分が、この本の一番良い所なんです。そしてこの本をランスさんが持っているとハウゼル様に言えば…」
ランスは加奈代の言いたいことを勿論理解している。
考え方は同じだからだ。
「俺様の所に自らやってくるわけか。それはやりやすいな」
ランスとしても相手からやってくるというのであれば都合がいい。
広い上に移動が難しい状況では、相手から来てくれる方が有難い。
「ハウゼル様はお優しい方ですから、力尽くでランスさんから本を奪うなんて事はしないはずです。そうなれば後は分かりますよね」
「がはははは! そこまで出来れば余裕だ余裕。で、そのハウゼルって強いのか?」
「さあ。私、ハウゼル様が戦ってる所を見たことは有りませんから。ケッセルリンク様なら知っていますよね?」
話を振られたケッセルリンクは少し呆れた顔をしながらランス達を見る。
(…ランスの事だからハウゼルに対して罠をしかけるとは思っていたが…まさか加奈代が積極的にそれに加担するとは)
自分の使徒ながらとんでもない事を考えていると思いながらも、その行動を咎めることは無い。
全てはジルの、そしてランスのために必要な事なのは理解している。
「ハウゼルは…結論から言えば強いよ。サイゼルと戦ったのだろう。彼女は氷の使い手だが、ハウゼルは炎を使う」
「そういや双子だって言ってたな」
「ああ。性格は逆だがね…ただ、怒らせるのだけは止めた方が良い。彼女が激怒すればその時はとんでもない被害を出すだろう。彼女はそういう魔人だ。私はそこが心配だがな」
「問題ない。俺様ならば絶対上手くいくからな。だがそうか、サイゼルと同じような奴か…」
ランスは魔人サイゼルの事を思い出す。
ゼスでの戦いの時はサイゼルはランスの事を完全に馬鹿にしていた。
ランスがカオスを持っているにも関わらず、終始人間を見下して油断をしていた。
だからこそ、ランスのカオスの投擲をまともに受けた結果彼女は敗れた。
(サイゼルはバカだったが、まともに戦うと厄介だったな…そういやゼスの時は洞窟の中で戦ってたからあいつも高く飛べなかったな)
空を飛ぶというのはやはり強みだ。
ましてやサイゼルは魔法を組み合わせた遠距離戦を行っていた。
接近戦も弱いわけではないが、完全な接近戦だけならばランスとレンとスラルで囲めば何とでもなるレベルだろう。
1対1だと厳しいが、相手を飛ばせず、尚且つあの厄介な武器を使わせなければ何とかなる。
ならば、その状況を作り出せばいい。
「がはははは! 流石俺様だな! もうハウゼルは楽勝だな!」
「お前の事だ。どうせ碌でもない事なのだろうが…あまりハウゼルを追い詰めないでくれよ。彼女は優しい存在で、今の人間の現状にも心を痛めている」
「…変わった魔人ですね」
ケッセルリンクの言葉を聞いて日光は目を丸くする。
まさか今の人間の現状を憂いている魔人が居るとは思ってもいなかった。
「魔王に対しては絶対に逆らえないから味方には出来ないがな。だが、逆に言えば魔王の命令が無ければ話が通用する奴だ。だからこそ、お前に騙されやすいのだろうな…」
自分の同僚がこの先どんな目に合うのか、それを考えると少し心が痛む。
ましてやハウゼルは友人と言ってもいい立場の存在だ。
だが、その友人がランスにとっては絶対必要となるパーツなのだからもう仕方がない。
ランスとハウゼルのどちらかを選ぶとなれば、ケッセルリンクは迷わずランスを選ぶのだから。
「だが、サイゼルには気をつけろ。あいつはハウゼルとは違う。自ら望んで人間とは戦わないが、それでも人間を見下している典型的な魔人だ」
「まあそうだろうな」
ゼスでサイゼルと戦った時からそれは分かっている。
あの時の態度は間違いなくランスを見下していた。
サテラもそうだったのだから、それが魔人というものだろうとランスは思っている。
こうしてランスと近い存在であるケッセルリンクこそが魔人の中では異質なのだ。
「だが、サイゼルがお前を襲ったのは私も気になる所だ。短気な所はあるが、無暗に誰かを襲うという事も無い奴なのだがな…」
サイゼルが何の理由も無くランスを襲うはずが無い。
もし人間を襲うだけなら、空を飛ぶことのできるサイゼルならば人間の住処を簡単に見つけ、襲っているはずだ。
今は魔王が居ない期間、言わば魔人が自由に動ける時間なのだから。
「サイゼルとハウゼルは俺様に任せておけば問題は無い。まあ何時来るかは分からんが」
ランスの作戦の欠点は、いつハウゼルが自分たちの目の前に来るかが分からないという点だ。
勿論それを何とかするだけの自信はあるが、もし他の魔人も来るとなると面倒くさい事にはなる。
「そういやカミーラはどうしてるんだ」
魔人といえば、もう一人ランスと関わり合いの深いあの魔人を思い出す。
あの時は決着をつける事も出来ず、カミーラとしても相当フラストレーションがたまっているはずだ。
流石に今の状況でカミーラにまで狙われるのは避けたい所だ。
「動きは無いな。基本的には怠惰な奴ではあるからな…ただ、用心はしろ。私もそうだが、お前とはよくよく縁があるからな」
「ふーん、そうか。まああいつに関してはもう言うだけ無駄だな」
カミーラがランスを狙うのはもうランスとしても慣れてきた。
(ナギに狙われた志津香みたいなもんか)
「で、これからの目標は例の黄金像なのかい?」
話が一区切りついたのを感じ取り、ハンティが口を挟んでくる。
「そうだな。スラルちゃんとしても気になるんだろ」
「ああ…確かにアレは我の字だった。ケッセルリンクの言う通り、我があの手の物を書物に残していたのは気になる所だ…だが、手掛かりが無いのがな」
「そういうのは人間に聞いた方が良いぞ。こういう金になりそうなものは魔物よりも人間の方が知ってるもんだ」
「そうなのか? だが、そういう事はランスの方が詳しいだろうから、我はランスに合わせるぞ」
こういう金目の物は魔物よりも人間の方が詳しい。
そもそもモンスターがこういう金目の物を収集しているなど、ランスもあまり聞いたことが無い。
勿論中にはこういった金銀財宝を集めているモンスターも居るのだが、少なくともランスはそういうモンスターに出会った記憶が無い。
もしかしたらあるのかもしれないが、少なくともランスは覚えていなかった。
(まあボスモンスターくらいはいるかもしれんがな)
アイテムを守るボスモンスターというのは存在するが、それは別に宝を収集して居る訳ではない。
「魔人やモンスターが持っているという線は薄いとは思うがな。私はその手の情報は集めてはいるが、今までに聞いたことが無いからな」
魔人や魔物が持っていればケッセルリンクの所に情報は来るはずだ。
勿論隠している可能性はあるのだが、そんな事を隠す理由がケッセルリンクには見当たらない。
そもそも、黄金の像など魔人にとっては何の価値も無い。
それはモンスターにとってもそれほど変わらないはずだ。
「ランスが思うままに探すでいいんじゃない? これまでもそうして色々な物を見つけてきたし」
「そうだな。それにもの探しについてはランスがよく知っている。その点はランスに任せるのがいいだろう」
レンとスラルはもの探しは不慣れなので、完全にランスを頼る形だ。
「まあ俺様に任せておけば間違いない。うむ、そのはずだ…」
ただ、ランスとしても当てが無いという現実も有る。
何しろこの時代で情報を集めるのは大変だ。
LP期ならば、各町にギルドや酒場があるので情報の収集には事欠かない。
勿論デマも有るが、何も手掛かりが無いよりははるかにマシだ。
(こういう時はあのハゲが役に立つんだがな…)
ランスはキースギルドのハゲを唐突に思い出す。
あの男は色々な情報を持っているし、おいしい依頼はランスに回してくれているのは間違いなかった。
口では何だかんだ言っても、ランスはキースから情報や依頼を貰っていたのだ。
(だが無いものを言っても始まらん。だったら俺様の好きにするか)
「スラルちゃんはこの黄金像の事は覚えていないんだよな」
「ああ。色々なアイテムを収集していたのは覚えているのだが、この黄金像に関しては記憶に無いな…」
スラルはランスの問いに不機嫌な顔をして答える。
今になってようやく疑問が湧いてきており、何故自分がこの黄金像のこと「だけ」を覚えていないのかが不愉快だった。
まるで誰かに記憶を奪われたような気がしてきたのだ。
「で、その時はどうやって宝を集めてたんだ」
「その時は…まあ我自身が動いたり、ケイブリスやガルティア、メガラスを動かしていたな。特にメガラスは行動が早くて重宝したぞ」
「そうか。まあスラルちゃんが自分から動くのは考えられんからな」
魔王なのだから、部下にそういう事をやらせるのは当然だ。
ランスは冒険が好きだからこそ自分で行動するが、偉い奴というのはそういうものだろう。
「ランス、我はお前に任せていいと思う」
「そうだね。私は色々と世界を回ってはいたけど、ダンジョンには入ったことは殆ど無いからね。慣れてるやつに任せるさ」
スラルの言葉にハンティが同意する。
「日光。お前は何かあるか」
「え? 私ですか…その、私はこの中では一番世界を知らないですから…」
「フン、少しはお前も考えろ。まあいい。だったら適当な人里を探すぞ。こういった金目の物は人間の方が知っているからな」
こういった金目の物の話は人間の方が聡いだろう。
確かにLP期程の情報網は無いだろうが、人類のしぶとさを考えればそういった裏の情報網は絶対に存在する。
こんな時代でも娼館はあるし、商売はされていた。
ならば情報の売り買いがされていても全くおかしくは無い。
「人間の里かい…それだったらあたしは行けないね。その辺りはそっちに任せっきりになるね」
「それは構わん。それにお前はそういうのに向かなそうだからな」
「…そう断言されるとは腹が立つね。否定はしないけど」
ランスの言葉にハンティは面白くない顔をする。
自分がこうも役に立たないと言われれば、腹が立つのは当然だ。
だが、当たっているので何も言う事が出来ない。
「もう夜も遅い。今日はここに泊まって明日から行動すればいい。本当はもう少し歓待したいのだがな…いつ魔人が私の屋敷を訪ねるかわからぬからな」
「そうだな。夜の間行動するのはなるべく避けたいからな。ランス、ここはケッセルリンクの好意に甘えるべきだろう」
「当然だ。俺様もこんな夜に行動するのはごめんだからな。それにまだまだやりたりんからな」
ランスの視線にケッセルリンクは苦笑する。
昨日あれほど自分を抱いたというのに、まだ足りないらしい。
「がはははは! 今夜も楽しみだ」
ランスは何処までいってもやっぱりランスだった。
「ランス、気をつけろよ。お前は何処で何と出会うか分からない男だからな」
「お前も意外と心配性だな。俺様なら問題ない」
次の日、ランス達は次の冒険に出るべくケッセルリンクの城を出ることとなる。
当然の事ながら、魔人とその使徒達はランス達を見送りに来ていた。
「ケッセルリンク。ジルには気をつけろよ。だが、正直我は心配はしていないのだがな」
「スラル様…」
「あまり動きすぎると他の魔人にも気取られる。カミーラは勿論、レイもお前とランスの関係を知っているのだからな」
「あん? 誰だそれ」
レイという名前が出た事でランスは首を傾げる。
「………ちょっと待てランス。お前、つい最近共にカイズの迷宮を進んだ奴の事も覚えてないのか」
「男なら知らん。覚える必要は無いからな」
「お前という奴は本当に…お前に喧嘩をよく吹っ掛けていた奴がいただろう。あいつが魔人になったんだ」
スラルの言葉にランスは少し考えると、
「ああ。あいつか。ククルククルの印象が強烈すぎて忘れてたぞ」
唐突にその存在を思い出す。
そういえばそんな奴が居たな程度の記憶でしかなかった。
ランスにとっては男の扱いなどこんなものだ。
それにあの魔王の印象が強烈すぎて、そんな奴が味方だった事すらも忘れていた。
「レイ様もランス様を探しているようです。見掛けた時はお気を付けください」
「メイド達から聞いたが、どうやら雷を操る魔人になったようだ」
「ふーん。まあ男なんぞどうでもいい。それよりもとっとと行くぞ。じゃあな、ケッセルリンク。それとお前等も」
ランスは話を切り上げると、最後にケッセルリンクに言葉をかけるとそのまま歩いていく。
「ああ。またな、ランス」
ケッセルリンクも短くそう言うだけだが、何れ必ず出会う事になると確信している。
ランス達の姿が小さくなるまでケッセルリンク達はその姿を見届ける。
「ケッセルリンク様。そろそろお休みになって下さい」
「そうですケッセルリンク様。朝はケッセルリンク様にとっては辛い時間です」
「分かっているよ、パレロア、バーバラ」
使徒の言葉に素直に従い、ケッセルリンクは屋敷の中に入る。
やはり太陽はケッセルリンクにとっては天敵だ。
(さて…ハウゼルには気の毒だが、全てはジル様のためだ。それ以外にも色々と考えることもある…それにスラル様の言っている事も気になる)
自分は魔王には睨まれていないという言葉…正直気になってはいる。
冷遇されてはいないが、優遇もされていない。
だが、無関心だとも思えない。
(一度魔王城に行くべきか…いや、やはり呼ばれぬ限りはその必要は無いな)
ジルに対して思う事はあるのだが、それでも魔王城に行くのは危険だと判断する。
「お前達、この後も頼むぞ」
「「「「「お任せください、ケッセルリンク様」」」」」
ケッセルリンクの言葉にメイド達は一斉に返事をした。
「クソッタレが…!」
一人の男が呻きながら起き上がる。
そこには脂汗がびっしりと染みついており、その口からは血が滲んでいる。
(ジーナ…)
その男には恋人がいた。
だが、その恋人は魔人によって殺された。
それからはこの男―――シーフカオスは魔人への復讐心を忘れずに生きていた。
そして一人旅をする内に、ある男達と出会った。
「大丈夫かい、カオス。大分うなされていたけど」
「…大丈夫に決まってるだろ。人間だったら時にはこんな事もあるだろうがよ。ブリティシュ」
その男の名はカオス…後に魔剣カオスと呼ばれる魔人の無敵結界を破る事の出来る剣になる男。
「そうか。ならいいんだ」
ブリティシュはそう言うと眠りにつく。
そんなブリティシュを見て、カオスは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
この男のそういった気遣いが今のカオスには有難かったが、同時に気に入らない。
だが、この男はカオスですらも認める男だった。
「カオス。あなたもシーフならもう少しその鼾をどうにか出来ませんか?」
「うるせえよ、ホ・ラガ。ほっとけ」
「…まあいいですけどね」
ホ・ラガと呼ばれた男は特に何も言うことも無く、ブリティシュと同じように眠りにつく。
そんな二人を見て、カオスも同じように眠りにつく。
(…魔人は絶対にぶっ殺す)
そんな冷たい復讐心を胸に秘め、カオスも眠りについた。
色々読み直していると自分もかなり設定忘れていると感じました
問題はガイなんだよなぁ…一体GL何年生まれなのか