ランス再び   作:メケネコ

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運命の女 日光

 ランスは冒険を続ける。

 何の目的も無く気ままに世界を見回るのも良いが、こうして目的の物を探す旅というのもいいものだ。

 いいものなのだが…それでも目的の物が見つからないというのは困りものだ。

 だが、ランスはそんな事は全く気にならない。

 何故なら、極上の女が常にランスの側に居るからだ。

 いい女とセックスをするのはランスにとっては至上の喜びであり、楽しみでもある。

 そしてランスはカラーの里で思う存分楽しんでいた。

「がはははは!」

 ランスの側には三人のいい女、レンとスラルと日光が居る。

 冒険に一区切りをつけて、ランスはカラーの里で休息を取っているのだ。

 カラーは人間には警戒心が強く、敵意を抱いている者も多い。

 だが、ランスという男は不思議とカラーからは信頼が厚い。

 パステルとは出会いが出会いなので関係は悪いが、普通のカラーからは信頼されている。

 だからこそ、人間の男で有りながらもランスはカラーから受け入れられていた。

 本来は掟で人間は排除しなければいけないのだが、始祖であるハンティが認めているので、完全に例外となっていた。

「もう…ランスは本当にセックスが好きなんだから」

 レンはランスに頭を寄せてその鼻をつまむ。

 だが、その顔は非常に満足しており、ランスの事を潤んだ目で見ている。

「お前だって相当に好きだろうが」

「…否定しない。実際気持ちいいし…初体験はレイプ同然だったけど」

「それはお前がフェリスを殺しに来たから悪いんだ。俺様はお前にオシオキをしただけだ」

「それが仕事だったから仕方ないでしょ。今はランスを守るのが仕事だから…」

 レンはランスに抱き着き、キスをする。

 軽く触れあうだけのキスだが、レンはそれだけでも満足するくらい充実している。

「それにしても…凄いアイテムよね。私はエンジェルナイトだからそんなに影響は無かったけど…」

「うむ、中々良いアイテムだったな」

 ベッドに横たわって荒い息をついているのはスラルと日光だ。

 二人は体を桜色に染め、その股間からはランスの放った皇帝液が流れている。

「媚薬って本当に効果があるのね…私は少し効きが悪かったみたいだけど。それよりもランス…まだやれるの?」

 レンはランスのハイパー兵器がまだ元気な事に驚く。

 人間がこんな連続でセックスをが出来るなんてありえない…と思う。

 レンは優しくランスのハイパー兵器を触ると、まだまだ硬いそれを見て息をのむ。

「うむ、今日の俺様は絶好調だからな。まだまだ出来るぞ」

「…だ、だったらもうちょっと…いい?」

 上目遣いでランスを見るレンの目は潤んでおり、既に欲情している事が分かる。

 ランスも当然女にそんな顔をされたら断れる男では無い。

「当然だ。で、どうしてほしい」

 ランスの言葉にレンはランスを押し倒す。

「う、上で…」

 そのままハイパー兵器を飲み込む。

「がはははは! 今日は良い日だなー!」

 

 

 

 次の日―――

「うむ、カラーの作る料理も中々美味いな」

「そうね。こうして美味しい料理を食べられるのは良い事よね」

 ランスとレンはカラーの作った料理を食べている。

「お口にあって良かったです」

 料理を持って来たカラーはニコニコと笑いながらランス達を見ている。

「そういや君の名前を聞いてなかったな。というかあの時は名前を教えてもらえなかった」

 ニコニコと笑っているのはあの時御者の男に呪いをかけたカラーだ。

「あの時は皆人間に対して良い感情を持っていませんでしたから…私の名前はリリーカです」

「うむ、リリーカちゃんは料理が上手いな」

 ランスの言葉にリリーカは嬉しそうに微笑む。

「あの…お二人はどうしたんですか?」

 この場に居るのはランスとレンだけだ。

「ああ。あいつらはダウンしてるぞ。全く、情けない奴等だ」

「そ、そんなに激しかったんですね…」

 リリーカは顔を真っ赤にしてランスを見る。

 ランスがそういう事をしているのはカラー達には既に知れ渡っている。

 ただ、カラー達は顔を真っ赤にしながらも、その営みを覗きに来るものも居るくらいだ。

「全く…ホントにアンタはカラーに悪影響だね」

 ハンティは微妙な顔でランスを睨むが、ランスは間違いなくカラーの恩人だ。

 なのでハンティとしても無下には出来ないし、する気も無い。

 ケッセルリンクとの約束も有るし、何よりもこの男が魔人を倒したという事実が有るからだ。

 魔封印結界の存在はハンティにとっても驚きだった。

 まさかそんな技があるとは知らなかった。

 実践するのは少々難しい…というよりも手間はかかるが、魔人に有効打を与えられるのはやはり大きな進歩だと感じている。

 これまで人類は無敵結界の前にはなす術も無く蹂躙されてきたのだから。

「でもまだ黄金像は見つからないんですよね…」

「問題ない。俺様ならば直ぐに見つかるからな。それよりもこっちは変化無しか?」

「はい。始祖様もよくこちらには戻ってきてくれますので。今の所は魔物兵も人間もこちらに近づいてくる様子は有りません」

「そうか。なら問題は無いな」

 ランスとしてはやっぱりカラーの事は気になる。

 それはやはり未来の娘であるリセットの事、そして自分に協力してくれるケッセルリンクの存在が大きい。

 なのでランスとしてはカラーならば助けてやっていいという考えがある。

 こうして人間の身でありながら、カラーの集落を拠点に出来るというのはやはりランスの強運、そしてこれまでの積み重ねがあるからだ。

「でも黄金像って何処で使うんですか?」

「む? そりゃどういう事だ、リリーカちゃん」

「いえ、その…ランスさん達が探している黄金の像って、何処かで使うんですよね? だったら何処で使うのかなーって」

「言われてみりゃそうだな。その黄金像とやらを集めて願いが叶ったなんて話は聞いたことが無いな」

 ランスは自分の記憶を辿るが、そんな話は聞いた事が無かった。

 もしそんな便利なアイテムがあるのなら、リアが回収に動いていてもおかしくは無い。

 勿論叶える願いはしょうもない事だろうが、それでもリアならば確かめようとはするかもしれない。

(そういや俺様が居た時代でもそんな話は聞いた事が無いぞ)

 スラルは『何か』に願って無敵結界を得た、と言っていた。

 カミーラも昔は無敵結界なんて無かったとも言っていたので、スラルがその『何か』に願いを叶えて貰ったと考えるのは自然だ。

 スラルにはその『何か』に関わる記憶が一切無いが、リリーカの言う通りただ集めただけで良いなんて事は有るはずが無い。

「レン。お前は何か知らんのか」

「私に聞かないでよ。私はエンジェルナイトの一兵卒に過ぎなかったんだから」

 ランスに話を振られるが、レンとしても知らないと答えるしかない。

 実際に知らないのだから仕方がない。

「ふーむ。使う場所と使い方か…」

 今まで考えてもいなかったが、確かにその通りだ。

 それに黄金像が何個必要なのかも分からないし、どんな形をしているかも分からない。

(これは思ったよりも面倒くさいな…)

 自分の想像以上に事は大変だという事に気づかされた。

(まあその時はその時か。まずは黄金像とやらを見つけないと話にならん)

 ランスは考えを切り替え、取り敢えずは普段と同じように冒険をする事を考える。

 まずは情報と探索、これがランスの冒険のスタイルだ。

 しかし、その情報源が乏しいというのはやはりランスであってもやりにくかった。

「まあいいか。そんなもんは後に考えればいい。それよりも目的の物が無ければ何にもならん」

「そうね。まずは実物を探さないとね。と、言っても何が実物で何個あるかも分からないけどね」

 レンの言う通りだが、まずは何をするにしても実物を探さなければならない。

 それにそういうアイテムを使う場所というのは、結構あからさまに見つかるものだ。

「スラルちゃんと日光が起きるまで待つぞ。動くのはそれからだな」

「…あんたがやりすぎなければ良かっただけでしょ」

 未だに眠っている二人を待つことにする。

 疲れ切った二人が起きてきたのは昼過ぎだった。

 二人はあれだけ自分たちを好きにしたのにも関わらず、スッキリした顔をしているランスを見てため息をつく。

「元気ね…ランス」

「それが男性の普通なのでしょうか…」

 勿論気持ち良かったし、それについては文句は無いのだが、自分達をあれだけ絶頂に導いておいて元気なのは納得がいかない。

「はぁ…ランス殿に付き合っているからでしょうか…最近奇妙な夢を見るようになりました」

 日光は疲れる体で椅子に座る。

 薬の影響もあったとはいえ、あれほど乱れた姿を見られたのはやはり恥ずかしかった。

 だがそんな疲労でも、あの奇妙な夢はあれからずっと続いていた。

 しかも夢なのに、内容をしっかりと覚えているという、日光からすれば非常に不可解な状況だった。

「夢だと? そういや最近様子がおかしかったな」

「ええ…奇妙な黄色いとりが現れて言うんです。運命の相手と共に電卓キューブに来いと。しかし何のことか分からず…」

 日光としてはこの奇妙な夢を誰にも相談できずにいた。

 そもそも運命の相手とは一体何なのかが分かないのだ。

「ほー。お前がそうか。じゃあ行くか」

「え?」

 だが、ランスは日光の夢の内容を全て分かっていると言わんばかりの態度だった。

「ランス殿は分かるのですか?」

「おう。まあお前はいい女だからな。俺様が運命の相手なのは当然だな。がはははは!」

 

 そしてランスと日光は奇妙な迷宮へと入っていた。

 そこはこれまで見たどのダンジョンよりも異質で、この世のものとは思えなかった。

 ただ、ランスの態度が全く変わらない事が日光には不思議だった。

「ランス殿…ここは」

「ここは電卓迷宮だ。ここには俺様の運命の女のアイテムがある場所だ」

「…他の方と来たことがあるのですか?」

「おう。ケッセルリンクとも来たし、ジルとも来たぞ」

「…魔人に魔王ですか」

 ランスの言葉に日光が複雑な顔をする。

 魔人と魔王と同じ…となると良い感じはしない。

「誤解するなよ。ここに来たのはケッセルリンクが魔人になる前だし、ジルも人間だった頃だぞ」

「あ…」

 その言葉に日光の顔が沈む。

 ランスとケッセルリンク、そして魔王ジルの関係は全て知っている。

 ケッセルリンクは魔王スラルに命を救われる形で魔人となり、ジルは魔王ナイチサによって無理矢理魔王にされた。

 そこにはランスの意思は無く、全ては魔王が全ての元凶と言える。

「しかし…ランス殿にはそんなに運命の相手というのが居るのですか?」

「おう。ここに来たのは…シィルとかなみと志津香とシーラとチルディとミラクルと戦姫だったな。それとケッセルリンクとジルか」

「それは女性から見ればとんでもない事のような気がしますが…」

 女性から見れば運命の相手とは、自分にとっての一番大切な存在なのではないだろうか?

 日光はそう思うのだが、どうやらランスは違うようだ。

 ごく自然に運命の相手とやらが複数居るのを受け入れている。

 それが女として、日光は一番納得がいかない。

(それは本当に運命の相手なのでしょうか…)

 ただ、納得はいかないが自分がこうして奇妙なダンジョンにランスと共に入ったのは事実だ。

「それでランス殿。このダンジョンはどういうダンジョンなのですか?」

 壁も床もこれまでのダンジョンとは違いすぎている。

 まるで自分が別の世界に来てしまったかのような感覚に陥ってしまう。

「ここか。まあよく分からんダンジョンだ。来た奴に合わせて条件が変わったからな」

 シィル、かなみ、志津香の時は数字合わせだったが、シーラ達はまた条件が違った。

 なので日光もきっと条件が違うのだろう。

 少々面倒臭いが、それでも強力なアイテムが手に入るのであれば十分だろ。

 そして何処からか声が聞こえてくる。

『現れるモンスターを全て倒せ』

 その声と同時に、モンスターが何処からともなく湧いてくる。

 それはぶたバンバラやマジスコ、アントーンやハニーといった初級モンスターだ。

「あれらをぶっ殺せばいいのか。まあ楽勝だな」

「そうですね…では行きましょうか」

 ランスと日光は同時に駆けていく。

 そしてモンスターの群れに向かってその剣を振るう。

「死ねー-ーーーっ!」

「はっ!」

 ランスと日光の剣がモンスター達を断ち切る。

 今の二人のレベルならば初級モンスターなど相手にならない。

 モンスター達は一度斬られるとそのまま消えていく。

 どうやら普通の世界とは違う法則で成り立っているようだ。

 モンスター達を倒していると、再び何処からか声が聞こえてくる。

『モンスターを追加』

 その声と共に新たなモンスターが現れる。

「む」

「これは…モンスターが変わりましたね」

 次に現れたのはブラックハニー、まじしゃん、アカメ、おかゆフィーバー、オッズといったモンスターだ。

「…ランス殿、これはもしかして」

「何だ。言ってみろ」

「どんどんとモンスターが強くなっていくのでは無いでしょうか」

「…そうかもな」

 日光の言う通り、モンスターが明らかに強くなっている。

 となると、そういう試練だと考えるのが妥当だ。

「チッ、だったら少しセーブするか」

 いくらレベルが上がっても、もちろん体力には限界がある。

 ランスは襲い掛かるモンスターを一撃で叩き斬る。

 中級モンスターであろうとも、今のランスからすればやはり雑魚同然だ。

 それに加え、ランスの剣戦闘レベルは3…伝説に名を残す力を持っているのだ。

 その剣の一撃はまさに不条理とも言うべきもので、一振りで数体のモンスターが倒れるのも珍しくない。

 日光も剣士として一流で、中級モンスターであろうとも一撃で倒せる程の腕は有る。

 更には手にあるのはあの月餅すら認めた名刀である富嶽。

 それだけでも十分すぎるほどの力がる。

 だが、

「炎の矢!」

「っく!」

 まじしゃんの放つ炎の矢が当たり日光が唇を噛む。

 絶対に当たる魔法攻撃だけはどうしようもない。

 日光も魔法防御が上がるアイテムを持ってはいるが、ランスが持つドラゴンの加護のようなレアアイテムではない。

 なので魔法攻撃でどうしても足が止まってしまう。

「ラーンスあたたたたーーーっく!!」

 ランスの剣が黒く輝き、その光がモンスター達を飲み込んでバラバラにする。

 何とかランスが息をつこうとした時、

『モンスター追加。これが最後です』

 そのアナウンスと共に再びモンスターが複数現れる。

 今回は数は多くは無い…だが、目の前のモンスターを見て日光は息をのむ。

 サイクロナイトやライデン、スーパーハニーにソードマスター、バルキリーにシロメ等の上級モンスターがランス達の目の前にいる。

 肩で息をしている日光は強く唇を噛む。

 流石に厳しい…そう思った時だった。

「がはははは! こいつらで最後か! 行くぞ日光! とっととこいつらをぶっ殺してお前のアイテムを取りに行くぞ!」

 ランスは今の状況などどうでも無いと言わんばかりに笑う。

「ランス殿…」

「何を呆けている。こいつで最後だと言ってただろうが。だったらとっとと蹴散らすぞ」

「…はい!」

 今思えば、このランスの言葉と楽しそうな笑いにどれだけ救われたのかと思う。

 相手は確かに強力なモンスターが多いが、それでも数は少ない。

 そしてどんなに強力だろうと、ランスの前ではちょっと強いだけのモンスターにしか過ぎないのだ。

「がはははは! 俺様の邪魔をする奴は死ねーーーーー!!!」

 ランスはやはり何の躊躇いも無く、モンスターの群れへと突っ込んでいった。

 

 

 

「日光…お前大丈夫か」

「何とか…正直全身に鉛をつけられているように体が重いですが…」

 ランス達はモンスターの群れを全て蹴散らした。

 だが、その代償として二人は決して軽くは無い傷を負っていた。

 流石に上級モンスターが相手では、スラルとレンとハンティの援護無しではランスでも辛かった。

 それでもランスは最後の力を振り絞ってモンスターを蹴散らした。

 そして今まさに最後の扉を開こうとしている。

 その扉はランス達が近づくと自動で開き、そこには一つの宝箱が置いてある。

「ほれ。これがお前専用のアイテムだ」

「私専用の…」

「ああ。形は色々とあるがな」

 シィルやケッセルリンクは手袋のようなアイテムで、志津香、かなみ、シーラ、チルディ、戦姫は直接的に武器と言える代物が宝箱から出てきた。

 ただ、ミラクルだけはよく分からないアイテムが出てきたのだが。

 日光は緊張した様子で宝箱を開ける。

 その中に入っていたは、三日月を重ね合わせたような形を模った刀の鍔だった。

「これが私専用の道具ですか…」

「そうだ。使ってみろ」

「…そうします」

 日光は自分の刀である富嶽にその鍔を嵌める。

 それはまるで富嶽専用かと思うくらいにぴったりと嵌る。

「これは…月影…というアイテムだそうです」

「ふーん。お前の名前とは反対だな」

「そうですね…」

『日光』という名とは対になる名前の『月影』。

 まるで自分の事を揶揄している名前には日光も苦笑するしかない。

「で、何か変わったか」

「…体が疲労しているはずなのに…この刀が羽毛のように軽いです」

 体が悲鳴を上げているはずなのに、日光は軽々と刀を振り回す。

 まるで自分の体の一部であるかのように錯覚してしまう。

「ありがとうございます、ランス殿。私はあなたのおかげで色々な事を知る事が出来ました」

「フン、別に礼などいらん。俺様に礼をするなら別の方法があるだろ」

 ランスは疲れているにも関わらず、日光の尻に手を伸ばす。

 日光は軽くその手を払うと、

「…ではお礼は戻ってからさせて下さい」

 本当に小さく、ランスの耳元でそう言うしかなかった。

 ランスはその言葉を聞いてにんまりと笑うと、

「じゃあまずは手付金を貰うぞ」

 そのまま日光を抱き寄せると、その唇を奪う。

 それは普段ランスとセックスをしている時のような荒々しいキスでは無く、優しく触れ合う感じのキス。

 日光はそれを全くの抵抗なく受け入れる。

「よーし。帰るか」

「はい」

 ランスの言葉に日光は年相応の顔で微笑んでいた。

 

 

 

 魔王城―――それはこの世界の地獄の象徴であり、誰もが恐れるこの世界の絶対的支配者の居る城。

 その城をケッセルリンクは歩いていた。

 理由は勿論魔王からの命令だ。

 そうで無ければ誰もこの城に近づこうだなんて思わない。

 唯一の例外が居るとすれば、それは魔王ジルの崇拝者である魔人だけだ。

 魔王の間では無数のモンスターの死体が転がっていた。

 中には魔物将軍の死体もある。

 だが、それはこの魔王城の日常茶飯事だ。

 日々無数のモンスター達が処刑されるのが、魔王ジルの時代では当たり前の事となっていた。

「参りました。ジル様」

 ケッセルリンクは魔王ジルの前に跪く。

 やはり魔王ジルは恐ろしいほどの存在感を放っている。

 その背後に居る巨漢の魔人であるノスすらも、ジルの前では霞んでしまう。

「ノス…」

「はっ」

 ジルの言葉にノスが魔王の間から消えていく。

 ノスはジルの言葉には絶対服従だ。

 魔王の絶対命令権が無くてもノスはジルの命には従うだろう。

 それ程の忠誠心をノスは持っていた。

 普通は魔王に呼ばれれば誰もが背筋を凍らせる。

 それ程の威圧感が魔王ジルには存在してた。

 だが、ケッセルリンクはそうではない。

 今ジルに殺されようとも仕方のない事を自分はしてしまったし、今現在でもしているのだ。

「ケッセルリンク…」

「はい、ジル様」

 ジルは椅子から立ち上がると、ケッセルリンクの側まで来る。

 ケッセルリンクの視界にジルの黒い足が目に入り、ケッセルリンクが悲しげな顔をする。

 その禍々しい手足と美しく長い水色の髪こそが魔王ジルの象徴だ。

 だが、その手足がそうなってしまったのは、自分にも原因がある。

「ランスと…会ったな…」

「…」

 ジルの言葉にケッセルリンクは何も答えない。

 それは魔王の絶対命令権から出る言葉ではなく、ジル本人の言葉だからだ。

 絶対命令権が発動していれば、沈黙は決して許されないはずだ。

「まあいい…お前は好きに動けばいい…私が許す…」

「!?」

 その言葉には流石のケッセルリンクも驚いて主を見る。

「フフフ…久々にお前の顔を見たが…やはり美しいな、お前は。ランスが執着するのも…分かる…」

「お言葉ですが…ランスが今一番執着しているのはジル様です」

 ケッセルリンクの言葉にジルは楽しそうに笑う。

「そうか…ランスは居るか…ならばいい…ランスの事は…好きにさせろ」

「ジル様…」

 ジルが望んでいる一番の存在はランスのはずだ。

 それが分かっているからこそ、ケッセルリンクの胸は締め付けられてしまう。

 ランスとジルの関係を知っているからこそ、今のジルの事が不憫でならないのだ。

 望まずして魔王となり、愛しい男との子供もその魔王に殺されてしまった。

 まさに悲劇としか言いようの無い事だ。

「ランスは…必ず我が元に来る…それが分かった。ならば…つまらぬ真似は不要だ…」

 ジルはケッセルリンクを立たせると、その美しい顔を撫でる。

「お前が動けば…必ずランスが我が元へと来る事に繋がる…」

「宜しいのですか。ジル様」

「構わぬと言った」

 ジルは薄く笑うと、ケッセルリンクの顔を離す。

「下がれ…お前に干渉する気は…もう無い」

「はっ…」

 ジルの言葉にケッセルリンクは一礼すると魔王の間から消えていく。

 一人残ったジルは、少しの間ケッセルリンクが消えていった方を見ていた。

 が、その顔がどんどんと変わっていく。

「ランス…お前はケッセルリンクを抱いたのだな…ああ…もう私は何百年もお前と出会えていないのに…」

 ジルは自分の腹を撫でる。

 そこには確かに自分とランスの子供が居たのだ。

 だが、今はその部屋は空っぽで何もない。

「ああ…そうか…これが妬ましい…という事…なのか。嫉妬しているのか…」

 それを自覚したとき、ジルから凄まじい魔力が溢れ出る。

 その片方の目からは涙が、もう片方からは怒りの炎を見え隠れする。

 ランスはまだ自分の所には現れない、だがケッセルリンクの所には現れる。

 そしてケッセルリンクはランスに愛を囁き、そして心ゆくまで体を重ねるのだろう。

 それを思うと心が悲鳴を上げそうになるが、ジルはそれを抑える。

 魔王として自分のモノに手を出すことは許さないという感情と、ジルとしてケッセルリンクのランスへの愛が理解出来るからだ。

「ランス…早く来い…その時こそ…再びココに命を宿すのだ…」

 ジルはどこまでも優しく自分の腹を撫で、そしてもう片方の手で魔物の死体を全て焼却する。

「次の処刑を始めるとするか」

 次の瞬間、ジルに顔にあった優しい顔は既に無く、そこには魔物に憎しみを向ける一人の魔王の姿があった。

 


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