「はにほーはにほー」
「あいやーあいやー」
ハニー達が動き回るのをランスはうんざりした顔で見ている。
何しろ相手はハニー、深く考えるだけ無駄だからだ。
「はーにほー! まさか人間がこんな所まで来るなんてねー。驚いちゃったけど歓迎するよ!」
そんなランスの元に1体のスーパーハニーがやってくる。
「…ランス、何だココは」
「ハニーが金を作っとるんだろ」
「…ちょっと待て! この世界の貨幣はもしや全てハニーが作っているのか!?」
「だそうだ。俺様は別に興味は無いがな」
「な、なんという…」
自分が魔王だった頃から人間界ではお金、GOLDが使われている。
それで人間が物の売り買いをしている事は知っていた。
そして何故かモンスターも結構な者がGOLDを集めているのも知っていた。
特に興味は無かったが、ランスと共に冒険をする内にGOLDの価値というものが分かった。
何をするにしろ、まずは先立つ物が無ければどうにもならないと。
だが、そんな重要なモノをまさかハニーが作っているとは思いもしなかった。
「いやー、実はハニーの造幣局は本当はもっと東側にあったんだけどねー。結構昔にJAPANから人間が攻め込んできたから、こっちに移動したんだよね」
「結構昔…それはもしや藤原石丸という奴か?」
「誰かはボク達も知らないけどねー。おかげでこんな辺鄙な場所にまできちゃったんだよ」
ハニーの言葉にスラルは一人納得する。
確かにあの時の世界の覇者がお金を押さえればどうなるか、それは藤原石丸に負けた自分が良く分かっている。
(金が大事なのは分かるのだが…問題はその金に今はそんなに価値が無い事なのがな…)
もしこれがJAPANでの戦いの時に有れば…いや、既に遅かったかと思いつつも、スラルは目の前の光景には複雑な気分になる。
「で、何しに来たのかな? ここにあるお金は渡さないよー」
スーパーハニーの言葉に、ハニーナイトやレッドハニーがわらわらと出てくる。
「いらん。俺様は黄金像を探しに来たんだ。今は金に用など無いわ」
「黄金像…」
ランスの言葉にスーパーハニーの顔が沈む。
そこにあるのは静かな怒りなのだが、勿論ハニーの顔からはそれを察する事は出来ない。
「昔ね…ゴールデンハニーを模った黄金像があったんだ。でも何時の間にか無くなっちゃってね…ボク達ハニーは怒ってるんだよ…」
「黄金像? ハニーがそういう物をあやかるとは少々意外だったな」
ハニーの言葉にスラルは少し驚く。
何しろハニーと言えば訳が分からない行動をし、それは人間にも魔物にも全く理解出来ない事だ。
人間にも魔物にも歩み寄れる存在…それがハニーだ。
「別に価値があるって事じゃなくてね。ほら、やっぱりそういう象徴も必要じゃない? 我らが偉大なるキング様の像もあるしねー」
「ハニーの黄金像…?」
スーパーハニーの言葉を聞いて、日光がランスの顔を見る。
つい最近、そんなモノを見つけているのだ。
ランスがレンに合図を送ると、レンが道具袋からハニーの黄金像を取り出す。
「それってもしかしてコレ?」
「え…? あ、ああっ! そ、それこそゴールデンハニーの像! な、何でキミ達がこれを!?」
「これはある盗賊だ」
「これは俺様が大冒険の上で見つけ出したものだ。これを手に入れるには苦労したぞ、うん」
日光が正直に言おうとしたのをランスが遮る。
その顔には意地の悪い笑みが浮かんでおり、それだけでランスが何をしようとしているか分かる、分かるようになってしまった。
ランスは基本的に悪党なので、こういう時は必ず何かを相手の要求するのだ。
「そ、それを返してね! ボク達の大切なお宝なんだ!」
「がはははは! そんなのは俺様は知らん! 俺様が苦労の末に見つけたのだから、これは俺様のモノじゃー!」
「う、うううう…ど、どうしたら返してくれるのかな」
「返してほしかったらそれなりのモノを出してもらおうか」
ついに脅迫じみた事まで言い始める。
日光は相手がモンスターとはいえ、それを咎めたいのだが、こういう時はスラルとレンはランスを止めてくれない。
レンは基本的にランス以外の事にはどうでもよく、ランスのこうした行動を止めることは全くない。
ランスを全肯定しているのではなく、あくまでもランスを守ることがレンの目的だからだ。
ランスが余程無謀な事をしない限り、レンはランスを止めない。
スラルに関しては基本が魔王のためか、ランスのこうした行動に更に上乗せしてしまう。
何だかんだ言って、ランスとは気が合うあたり、スラルも十分悪人の素養は持っているのだろう。
「それなりのモノ…ボ、ボクのハニ美さんは渡さないぞ!」
「アホか! そんなの頼まれてもいらんわ! おいスラルちゃん。この頭の悪いハニー共に説明してやれ」
アホな事を言い始めたハニーに蹴りをくれてやると、ランスはスラルに丸投げする。
正直ランスもハニーの相手をするのは面倒くさい、という思いがあった。
「ハニーよ。お前達はこれと同じような黄金の像を知らないか。ああ、勿論ハニーの形をしたものは論外だ。具体的に言うとひまわりの形をした黄金像だ」
「え…そんなのは知らない」
「そうか、使えないな。ランス、このハニーは黄金像を返す必要は無いと言っている。さっさと金に換えてしまおう」
スラルはハニーの事はを受けてあっさりとハニーとの会話を切り上げる。
「ちょ、ちょっと待って!」
ハニーはそんなスラルを必死で止める。
その時、ハニーに背を向けているスラルの唇が吊り上がるのを日光は見逃さない。
(やっぱりスラル殿も結構悪人ですね…元魔王なのだから、それが当然なのかもしれませんが…)
ただ、それが交渉のやり方だというのも理解している。
このくらいの事、人間同士でも当たり前のように行われており、日光もその光景は何度も見ていた。
「み、皆から話を聞いてくるから待ってて」
そう言ってスーパーハニーは凄まじい速度で駆けていく。
「うわ…はや…」
そんなハニーを見てウトスカは目を丸くする。
「スーパーハニーだからな。ああ見えて魔物の中でも最上位種の存在だからな」
スーパーハニーは実際もの凄く強い。
まともに戦えば今の日光でも苦戦は免れないくらいの強さが有るのだ。
「ランス殿、スラル殿。素直に渡してあげる事は出来ないのですか?」
「何で俺様がそんな事をしなければならんのだ。欲しかったら対価を払うのは当たり前だ」
「それは…そうですが」
「別に返す必要も無いからな。人間達に売って路銀にするのも一つの選択肢だ。まあハニー達が有用な情報を持ってこなければ売ってしまおう」
ランスとスラルは相変わらずシビアで容赦がない。
だが、そこそが冒険者として必要な事でもある…とは日光も分かってはいる。
そこの辺りが甘い、と言われる原因だと自覚しながらも、中々性分を変えることは出来ないでいる。
「あ、あの…ひまわりの形をした黄金像は分からないです…」
「じゃあもう用は無い。全く、無駄なダンジョンだったな」
「価値が有ると言えば間違いなく有るとは言えるのだがな。まあこういう事もあるだろう」
ランスとスラルは最初から期待していなかったのか、あっさりと踵を返す。
「あ! ちょ、ちょっと待って! ひまわりの形をした黄金像は分からないけど、他の情報は有るんだ! 盆栽の形をした黄金像を見たことが有るって!」
そのハニーの言葉を聞いて、スラルの足が止まる。
「ほう。そんなものが有るのか」
「う、うん…山之内君、話してよ」
「はにほー! 盆栽の形をした黄金像なら最近見たよー!」
スーパーハニーが連れてきたグリーンハニーが話し始める。
「あれはね…ハニ代さんがヒラミレモンを食べたいって言ってきたんだよ。その時に変な形をした黄金の像を見たけど、お帰り盆栽じゃ無かったからそのままにしちゃった」
「で、そこは何処だ?」
「えーと…あれはね、確か北の方だったかな。確か変な船がある寒い所の方だったよ」
グリーンハニーの言葉にスラルがピンとくる。
変な船がある寒い所、となると一つしか思い当たらない。
「ホルスの船の方の山か…その中でヒラミレモンが取れるとなると大分絞られるな」
「ヘルマンの方か。ケッセルリンクに聞けば分かるかもな」
ホルスの船はヘルマンの方角に有り、尚且つその地方にはケッセルリンクの城がある。
ケッセルリンクに聞けばその山が分かるかもしれない。
「じゃあ次はその山を見てみるって事ね」
「山なら場所も限られますしね」
次の場所が分かった、となると行動しやすい。
「ランス殿、それが分かったのであれば、そのハニーの像は…」
日光はもう渡してあげてもいいのでは、と言おうとした時その口を閉ざす。
ランスの顔にあったのはやっぱり人の悪い笑みだった。
「そんだけか」
「え?」
「だからそれだけか。そんなものではこいつは渡せんな」
「え、ええええええ!?」
「当たり前だろ。そんな情報だけで金が手に入るとでも思っているのか。こいつは結構な金になるんだぞ」
ランスはレンの持っている黄金像を取るとそれでハニーの頭を叩く。
「お前の情報にそれだけの価値があると思うか」
「そ、それは…」
ハニーもそれは分かっているのか、口ごもる。
「欲しけりゃそれに見合うもんを出せ。そんな情報には人間は金は出さんぞ」
(まあ情報なんぞにそんな金を出すなどありえんがな)
勿論ランスは最初からこのハニーの黄金像を渡す気は無い。
確かに売れば高く値段がつくのは事実なのだ。
今の時代、そこまでお金を使うという事は無いが、それでもあって困るものでは無い。
「う、ううう…」
ハニーは悔しそうにするが、結局は何も出すものは無い―――そう思われた。
「ねえ、ハニ吉リーダー。ここに引っ越してきたときに見つけたっていうあのお宝はどうかな? あれ、ボク達ハニーにはつけられないしいいんじゃない?」
「え? い、いいのかなぁ…でも500年以上前のお宝みたいだし…無くなっても誰も困らないしいいか」
スーパーハニーは再び凄い勢いで消えると、一つの宝箱を持って現れる。
「じゃあ等価交換でこれを出すよ。これなら満足してくれるんじゃないかな」
そして器用に宝箱を開けると、そこには光り輝く腕輪が入っていた。
それを見てウトスカが目を丸くする。
「あーーーーーっ!! これカラーのクリスタルが使われてる! あんた達まさか…」
「ち、違うよ! 確かにボク達はカラーが嫌いだけど、流石に殺すまではしないよ!」
ハニーはウトスカの言葉を否定するが、ウトスカは胡散臭そうにハニーを見てから光り輝く腕輪を手に取る。
「…確かにこれからはカラーの持つ恨みとかは感じられない…でも、詳しくはリリーカに調べてもらった方がいいかも」
「それ程のモノなのか?」
「はい。これは…クリスタルリングって言えば良いのかな。多分魔力を高めるアイテムだと思います。カラーのクリスタルって魔法のアイテムになるみたいですし…」
カラーのクリスタルは素晴らしい素材になる。
それはランスも知っているし、実際にその力を味わった。
ヘルマンでミネバが使ったのが、カラーのクリスタルを使ったアイテムだった。
あの筋肉ババアが増えるというのはランスとしても非常に嫌な光景だった。
「あの…これならどうですか?」
「どうだ。スラルちゃん」
この中でその手のアイテムに一番詳しいのがスラルだ。
そのスラルがクリスタルリングを見てため息をつく。
「これは…凄いな。持ち主の魔力を高める道具だ。我が魔王でも、このアイテムなら間違いなく回収していたな。人間でいう所のバランスブレイカーだろう」
「そんなにか」
バランスブレイカーはランスも色々と知っている。
この世界のバランスを壊すと言われるアイテムで、AL教団が回収をしている物だ。
ランスは特には興味は無いが、実際にはランスの周りにはそれほどのアイテムや人物が集まっていた。
かくいうランス自身も世界から見れば十分にバランスブレイカーなのだ。
「うむ…これなら十分な価値があるな。ランス、ハニーの黄金像はこいつらにくれてやってもいいんじゃないか」
「スラルちゃんがそう言うなら構わん。レン、くれてやれ」
「はいはいと」
ランスの言葉に合わせてレンが宝箱の中にハニー型の黄金像を入れる。
「おおおお! やったああああ!」
「ボク達のご神体が戻ってきたよ!」
「「「「ばんざーい! ばんざーい!」」」
ハニーの黄金像が戻って来た事にハニー達は歓声を上げる。
ランスには全く理解出来ないが、ハニーには大事なもののようだ。
「これは我が使ってもいいか? 我は魔法使いだからな」
「いいんじゃない? 魔法ならスラルが一番得意だし」
「別にいいぞ。俺様は魔法は使えんしな」
「ええ、私も賛成です」
スラルの言葉にランス達は同意する。
魔力を上げるアイテムならば、魔法使いのスラルが持つのが正しい。
「一度リリーカに見せて下さいね」
ウトスカも何かを言いたげだが、それでも納得する。
「よーし、じゃあ戻るぞ」
ランスはお帰り盆栽を使って地上に戻る事で今回のダンジョンの攻略は終わりを告げた。
カラーの里―――
「…大丈夫ですね。これはカラーの呪いがかかっているものでは無いです。それどころか、これには強い意志を感じます」
リリーカは渡されたクリスタルリングを見てため息をつく。
「これを託したカラーは余程強い思いを持っていたのでしょうね…ですから、これはランスさん達が使ってください。その方がこのクリスタルを託した者も浮かばれますから」
「そうか。だったら使わせてもらうか」
ランスはリリーカからクリスタルリングを受け取ると、それをそのままスラルに渡す。
「では我が使わせてもらうか」
スラルはそのままクリスタルリングを手にはめる。
それは図ったかのようにぴったりとスラルの腕に嵌る。
「うむ…これは確かに素晴らしい力を持っているようだ。我の目に狂いは無かったな」
「ふーんそうか。まあカラーのクリスタルで出来てるんだから役には立つんだろ」
ランスがまるで興味が無いように言い放ったのを見て、リリーカは少し驚く。
「あの…ランスさんってカラーのクリスタルが凄い役に立つって知ってるんですよね」
「うん? まあな。そのせいで色々と苦労をした事もあるからな」
カラーのクリスタルを原動力にするロボや、ミネバが使ったマジックアイテム。
それらはランスの障害となって立ちはだかったが、ランスに言わせれば敵では無かった。
ちょびっとだけ苦労した、そんな感じだ。
「その剣もそうですけど…ランスさんってカラーのクリスタルには本当に興味が無いんですね」
「クリスタルを取ったらカラーは死ぬんだろうが。そんな勿体ない事が出来るか。そんな事をする奴は男として終わってるな」
ランスの言葉を聞いてリリーカは面白そうに微笑む。
「そんな考えを持ってる人間の男性はランスさんくらいかもしれませんね…人間にとってはカラーはクリスタルのための道具みたいなものですから…」
辛い記憶が蘇ったのか、リリーカの顔が曇る。
そんなリリーカの頭をランスがやや乱暴に撫でる。
「そんな顔をするな。俺様が居る間なら守ってやるからな。まあそうも出来ん事情もあるが…」
ランスとしてはやはりカラーの事は守ってやりたい。
美人しかいないし、何よりもカラーにはずっと世話になっている。
「そうですね…ランスさんにはずっとここに居てもらう訳にはいきませんからね。重大な使命があるのでしょう?」
「フン、生意気にも魔王をやっている俺様の奴隷を元に戻すだけだ」
ランスの言葉にリリーカは微笑む。
言っている事は滅茶苦茶だし、無謀この上ない。
だが、不思議とランスが言うと冗談には聞こえない。
「戻ったよ」
その時、ハンティが瞬間移動で現れる。
「…相変わらず便利な術だな」
「悪いけど教えられないよ。リスクが大きすぎるしね」
スラルの言葉にハンティは手をひらひらさせながら答える。
そこにあるのは明確な拒絶だ。
ハンティがそう言うのだから、本当にリスクが大きい術なのだろうとスラルは納得している。
「ヒラミレモンのある山が分かったよ。ここから北の方角にある山がそうさ。モンスターはいなさそうだから、そんな難しい事は無いと思うよ」
ハンティが示した場所は、ランスがよく知っているヘルマンと首都であるラング・バウからさらに西にいった所だ。
(そういやこっちの方には行ったことが無かったな。ヘルマンは寒くて飯もまずいし良い所じゃ無かったからな)
ヘルマン革命の時はランスは東側から侵略を開始した。
なので西側には全く寄り付かなかったし、パットン達が言うにはヘルマンでも最大の人数が配備されているヘルマン2軍は動かしたくなかったらしい。
そういう背景も有り、こちらの方はランスも全く知らなかった。
「行くんなら明日でいいんじゃない? こっちは安全そうだしアタシも同行するよ。道案内も兼ねてね」
「ハンティが同行するなら簡単に終わりそうだな。魔物の動きも活発では無いようだしな」
スラルの言葉にハンティは厳しい顔をする。
「…魔物の動きが活発じゃないって事は魔王がこの世界に居る証拠さ」
魔王が居ると魔物の動きは沈静化する。
それは魔王が魔物が勝手な事をしないように目を光らせているからであり、まさにこの世界の恐怖の象徴として君臨していると言っていい。
だが、それは人間にとっても同じことが言え、活発に動くのは躊躇われる時期でもある。
魔王が居る間は誰もが身を潜める以外に方法は無いのだ。
「うーむ、バイクを使えんのは意外とストレスが溜まるな」
「あ、その気持ちはよく分かるわ。私も飛べないのが不便だなーって思うし」
ランスのちょっとした不満にレンが同意する。
レンはもうエンジェルナイトとしての力は戻っており、羽も生やすことが出来るし空も飛べる。
だが、今の世界ではなるべく目立たないようにするために、羽は隠している。
空を飛ぶと魔王に見つかる危険性が有り、魔王がジルの間は空を飛ばないようにしている。
ランスもバイクで移動をするのは控えている。
バイクは長距離を移動出来て便利なのだが、流石に目立ちまくりだろう。
人間がランスの持つ魔法ハウスやバイクを狙って来たことは無数にあったが、勿論人間などランスの相手ではない。
だが、魔王ジルはランスがバイクを持っていることを知っている。
なのでバイクで移動すれば、それでランスが移動しているという事が一発で分かってしまう。
ランスとしては腹立たしいが、バイクの使用は控える以外に無かった。
面倒くさがりなランスだが、流石に魔王相手に戦えるとは全く思っていない。
ランスは一応は耐えるという事を覚えていた。
「そんなに遠くは無いさ。案内があれば猶更だろ。それにケッセルリンクがその山へ向かう道を押さえてくれているし、魔物が出ることも無いと思う」
「まあいい。ようは黄金像が見つかればいいだけだからな。それに翔竜山すら踏破した俺様にとっては今更どうって事は無いわ! がはははは!」
「ランス、油断は禁物だぞ。お前の悪い癖だ」
ランスの馬鹿笑いにスラルが釘をさす事は忘れない。
これもまた何時もの光景だった。
何処かの平原―――
「おらっ!」
男のナイフが魔物兵の腕を斬り飛ばす。
「ぎゃーーーーーっ!!」
魔物兵は悲鳴を上げてのたうち回るが、男は容赦無く魔物兵に止めを刺す。
「カオス! 次が来る!」
カオスと呼ばれた男はすぐさま魔物兵から離れる。
盾を構えた男が魔物の攻撃を受け止める。
魔物兵の力は人間を超えているので、魔物兵は盾で受け止めても無駄だと思っていた。
が、突如として自分のバランスが崩れたかと思うと、それを感じる前に突き刺さった剣の一撃で絶命させられる。
「ホ・ラガ! 頼む!」
「ええ。カフェ、そっちは大丈夫ですね」
「大丈夫! 思いっきりやっちゃって!」
「白色破壊光線」
ホ・ラガと呼ばれた魔法使いが白色破壊光線を放つ。
その威力はまさに異常と言うべきもので、直線上に居た魔物兵達は全て光に飲まれて消滅する。
「さて、後は残りを片付けるだけですね」
「かっこつけてないで! 来るよ!」
「この! 死ねーーーーーっ!! 炎の矢!」
生き残った魔法魔物兵が炎の矢を放つ。
「させないよー!」
それをカフェと呼ばれた少女があっさりと無効化する。
それに驚愕した魔物兵だが、直ぐにカオスが投げたナイフが頭に突き刺さり絶命する。
「こ、こいつら…! 強すぎる…!」
魔物隊長は盾を持った剣士と戦うが、明らかに押されている。
剣士は盾を巧みに使い魔物隊長の剣を弾くと、そのまま魔物隊長の頭を飛ばす。
「う、うわあああああ! 隊長がやられた!」
「に、逃げろ! 俺はまだ死にたくない!」
魔物隊長がやられたのを見て魔物兵達が一斉に逃げ出し始める。
「追いますか? ブリティシュ」
「いや、無理に追って魔物将軍が待っている、なんてことは困るからね。僕達もここから離れようか」
「それがいいでしょう。しかし魔物兵が動き出したという事は、魔王がこの世界に戻ってきたのでしょうね」
ブリティシュの言葉にホ・ラガが厳しい顔をする。
魔王…即ちこの世界の支配者がこの世界に居るという事は、人間も魔物もその行動を制限される事に他ならない。
それは探索の制限を意味していたのだが、万が一にも魔王に見つかるのは避けたい。
なので慎重に動く必要がある、それがこのパーティーの行動方針だった。
「しっかし本当に魔王が居ると魔軍が動くってのか? ワシは未だに信じられねえな」
「魔物兵から聞き出した情報です、嘘では無いでしょう。それよりもあなたはシーフなんですから、ここからが仕事ですよ」
「ケッ! 言われるまでもねえよ。こっちだ」
カオスを先頭に、ブリティシュ達もそれに続く。
そして丁度良い小さな林を見つけると、その中に入ってく。
「今日はここまでだね。それにしてもまさか魔軍と出くわすなんてね」
「そういう事もあるでしょう。しかし思った以上の強さですね、魔軍は」
「やっぱりもう一人か二人仲間がいればね。僕とカオスだけじゃあ足りないね」
ブリティシュの言葉にホ・ラガとカフェが頷く。
カオスだけは好きにすればいいといわんばかりの態度だが、全てはリーダーのブリティシュの決定に任せている。
内心、カオスはこの若いがリーダーシップを持つ男を認めていた。
「私達と同じように魔王を倒そうとしている人も居るって聞いたけど、やっぱり会えないね」
「世界は広い。そうそう出会えるという事は無いでしょう」
ブリティシュ達の目的は魔王を倒し、人類を魔王の支配から開放する事。
そのために集まったメンバーであり、歴史上最強のパーティーと呼ばれた者達である―――が、本来はここに居なければならない者の姿は無かった。
「何でも凄い強いパーティーが居るって話だけど…まだ痕跡が見えないんだよね」
「ハッ! すげえ我侭で女好きの男の事か? そんな奴が本当に居るのかね」
「まあ…その男の被害者が多数居るみたいだから、実在はしてるんじゃないかな…」
カオスの言葉にブリティシュは苦笑する。
その冒険者は決して良い噂は聞かなかった。
曰く、物凄い我侭で、人を殺すことを全く躊躇わない。
曰く、物凄い女好きで報酬と称して女性を襲う。
曰く、気に入らない奴は皆殺しにする。
聞いていれば完全なならず者であり、とてもまともな人間には思えない。
「だけどあちこちでモンスターを倒してるんでしょ? その圧倒的な力で」
「酷い情報も多いけど、それだけは共通してるんだよね…」
その冒険者は、圧倒的な力で魔物や盗賊達を捩じ伏せてきたらしい。
被害も多いが、結果的に良い結果を出しているという非常に不思議な者達だ。
「一度会ってみたいね」
ブリティシュはまだ見ぬ自分と同じ冒険者の事を考えていた。
(出来れば…一緒に魔人を倒す方法を探してくれればいいなぁ)
その者も、自分達の目的に賛同してくれればいいなと希望を抱きながら。
クリスタルリング…それは鬼畜王ランスに登場したアイテムである
ただ、バグで効果が発揮しない上にバグが無くても手に入るのが後半なので使えない…
そんな不憫なアイテムである
能力自体は本気で強いアイテムなんだけどね…