ランス再び   作:メケネコ

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手に入れた鍵

 ヒラミレモンが取れる山―――後にサーレン山と呼ばれる場所。

 ランス達はその山を目指して歩いていた。

「しかし本当にハンティの瞬間移動は便利だな。斥候やら何やら何でもこなせるのだな」

「だからこそ、私達カラーにとっては救世主なんですよ。始祖様が居なければ、私達カラーは絶滅しててもおかしくないですから」

 スラルの言葉にウトスカが胸を張って答える。

「ケッセルリンク様はカラーの英雄ですけど…魔人になってからは態とこちらと距離を取ってくれてるんですよね。自分のせいでカラーが憎まれないようにって」

「ケッセルリンクはそういう奴だ。本当はカラーの窮地を何とかしたいと思っているだろうが…魔王に睨まれているからな」

 ハンティがカラーの救世主なら、ケッセルリンクはカラーの英雄だ。

 何しろ魔人を初めて倒したカラーとして、そしてカラーを守るために魔人になったとされている。

 真実は違うのだが、そういう伝承がカラーには根付いてしまっていた。

「ケッセルリンク様がカラーのために動くと、かえってカラーのためにならないって始祖様も言ってますし。昔の出来事が原因って聞いてますけど、何百年たっても続くんですね…」

 カラーの先祖が何をしたか、それはハンティから伝えられている。

 NC期にカラーの王国を築くも、人間の反逆にあって瓦解したこと。

 それからカラーのクリスタルが強力なアイテムになる事が知られ、各地でカラー狩りが始まった。

「いやー…私達の先祖がやったこととはいえ、700年以上たっても狙われるっていうのはね…人間からしたら便利なアイテム扱いなんでしょうねぇ…」

 ウトスカは寂しそうに笑う。

 本当はカラーも人間とは敵対したくない。

 何しろカラーは人間が居なければ数が増えないのだ。

「そういうアホはどの時代にもいるんだな。全く、そんなくだらん物のためにカラーを殺すなど許せんな」

 ランスにとってはカラーは美女なので、お近づきになってお相手してもらう者なのだ。

 クリスタルを取るなど言語道断、そんな人間は殺しても構わないとランスは本気で思っている。

 そんな話をしていると、ハンティが姿を現す。

「こっちは大丈夫だよ。魔軍もモンスターも居ないよ」

「そうか。だったらとっとと行くか」

 やはりハンティが居るとかなり…いや、大分便利だという事をランスは実感する。

 ヘルマン革命の時はハンティが合流したのは最後の最後、闘神MMとの戦いの時だった。

 なのでランスはハンティが何をしていたのか、全く知らないのだが、彼女の功績は非常に大きい。

 その中でもやはり瞬間移動の強さが非常に有用で、それこそがハンティの力と言ってもいい。

 瞬間移動の恩恵を受けて行動するのだから、この旅が順調に行くのは当然だった。

 そして後のサーレン山と呼ばれる場所に来る。

「何もないな」

「そうだな…本当に何も無いな。無さ過ぎて拍子抜けしてしまうほどだ」

 ランス達はサーレン山を登るが、本当に何も無くて少しガッカリしてしまう程だ。

 ランスとしては新たな冒険だと思っていたのだが、どうやらここは本当にただの山らしい。

 モンスターらしいモンスターもおらず、時たまハニーやきゃんきゃんを見かける程度だ。

「ここに例の黄金像があるんですよね。でも見つけるのが大変そうですね…」

 日光は周囲を見渡すが、本当にここはただの山だ。

 その中で例の黄金像を見つけるのは非常に難しい。

「よーし、手分けして探すぞ。しっかり探せよ」

 こうしてランス達は分かれてアイテムを探す。

 幸いにもモンスターは見当たらないので、万が一も無いだろう。

 一番戦闘能力が低いウトスカにはレンがついている。

 ランスはスラルと二人で黄金像を探していた。

「あれがヒラミレモンか。こんな所にもあるんだな」

 ランスはヒラミレモンがなっている木を見る。

 かつてはJAPANの蜜柑という地域のダンジョンでヒラミレモンを見つけた。

 その時に必要となったのは、LP期における魔王であるリトルプリンセスの覚醒を防ぐためだ。

 何故だか知らないが、ヒラミレモンには魔王の覚醒を抑制する力があるらしい。

 非常に酸っぱいので、ランスとしては食べるのはごめんだが。

「そういやスラルちゃんはヒラミレモンが欲しくなったりした事は無いのか」

「奇妙な事を聞くな。我が魔王であった頃はヒラミレモンなど食べたいとも思ったことは無いぞ」

「スラルちゃんは生まれながらの魔王と言っていたな。じゃあ美樹ちゃんとは違うんだな」

「ふむ…ランスは魔王は美樹という者だと言っていたな。その魔王とは知り合いなのか?」

「ああ。魔王に覚醒しないためにヒラミレモンを食ってたな。だから魔王に効果があると思ったんだがな」

 ランスの言葉を聞いてスラルは少し考える。

「その美樹という魔王はまだ魔王として覚醒していなかったのだな?」

「そうだな。美樹ちゃんは危ない所も有ったが、魔王では無かったな。まあ危なかった時があったが…」

 美樹が覚醒しかけた時、シィルが犠牲となった。

 魔王の氷の中に閉じ込められたシィルだったが、ランスがヘルマンで見つけてきたアイテムの効果で解放された。

 …現実には違うのだが、今のランスはそれを知る事は無い。

「とにかくジルと、ジルを魔王にした奴と、スラルちゃんも美樹ちゃんと同じだったな。あとククルククルだったか、あいつもだな」

 初代、三代目、四代目、五代目、七代目の魔王と出会い戦っている。

 勿論全ての魔王が全力では無かった訳だが、それでも魔王とここまで出会った『人間』はランスしかいないだろう。

「魔王の覚醒を拒む魔王か…我には分からん感覚だがな。しかしそういう存在も居るという事か」

 スラルからすれば考えられない事ではあるが、それも個々それぞれというものだろう。

 人間にちょっとだけちょっかいを出していた自分、基本的に人間を放置していたが定期的に殺戮を繰り広げた結果、寿命を減らしたナイチサ、そして人間牧場と魔物牧場を作り全ての生命体に地獄を味わわせているジル。

「覚醒するとヒラミレモンは意味が無いか。だったらいらんな。酸っぱいし」

 ヒラミレモンは異常なまでに酸っぱい。

 美樹はよくこんなものを食べられたなと思っていたくらいだ。

 スラルはそんなランスを見て複雑な顔をする。

 当然の事ながら、スラルはランスがこの時代の存在ではない事は察しがついている。

 ランスがそれを話さないならそれでも良いと思っている。

(ジルに関しては…やはりランスは知っていたのだろうな。だが、それは人間のジルではなく魔王ジルの事なのだろう)

 ランスが魔王ジルと対面したときの顔…それは驚愕の顔だったのだが、唯の驚愕では無かった。

 まるで何か懐かしい存在に出会ったかのような表情をしていた。

 それこそが恐らくはランスが知っている『魔王ジル』なのだろう。

 それが何の運命のいたずらか、人間としてのジルとランスが接触してしまった。

 奴隷と言いつつも、実際にはランスにとっては大事な存在なのは分かっている。

 だからこそ、ジルを取り戻そうとしているのだ。

 それがどれ程険しい道のりでも、ランスは決して歩みを止めないだろう。

「なあランス…」

「ん、何だ」

「もし我がジルのような立場だったら…お前は我を助けてくれるか」

「はあ?」

 スラルは自分が放った言葉に驚く。

 それは自分でも意図せずに放たれた言葉であり、自分がランスに一番問いかけてはいけない言葉なのだ。

「す、すまない! 忘れてくれ!」

 スラルは慌ててランスから背を向ける。

(我は馬鹿か…! これはランスには言ってはいけない言葉だろう…)

 ジルがああなってしまったのは、自分の死が原因なのだろう。

 まだ仮定にしか過ぎないが、自分が死んだことで魔王の血は受け継がれるものになったのだろう。

 そしてその原因こそが無敵結界なのは容易に想像がつく。

 それを願ったのは自分なのは間違いなのだから。

「何くだらん事いっているんだ」

「…ほ、本当にすまない。お前の気持ちを考えずに」

 くだらない事、それを言われればもうスラルには何も言えない。

 本当を言えば、ランスに合わせる顔が無いはずなのだ。

 どんな恨み言を言われようとも仕方がない…スラルはそう思っていた。

「ほれ」

「えっ。きゃ、きゃああああ!?」

 突如として自分の胸が背後から掴まれ、スラルは少女のような悲鳴を上げてしまう。

「お前は俺様の女なんだ。だったら助けるに決まっているだろうが。くだらん事を聞くな」

「そ、それがくだらない事だと…?」

 ランスはむにむにとスラルの胸を揉む。

 スラル自身は小柄だが、意外とボリュームがある胸の感触にランスはご満悦だ。

「そうだ。大体スラルちゃんが気にする必要は無いだろ。起きてしまった事はもうどうしようも無いからな。そんなうじうじとしている暇が有ったら、俺様を手伝えばいいんだ」

「そ、そうは言うがな…んっ…わ、我はお前に対して…」

「しつこいぞ。前にも言ったが、スラルちゃんが悪いんじゃない。悪いのはあのナイチチとかいう奴だ」

「ナ、ナイチチではなくナイチサだ…あ、こら…」

 ランスの手がスラルの服の中に入ってきて、直にその胸を揉みしだく。

「だから気にするな。俺様に任せておけば何とかなる」

「そ、それはいいのだがな…あ、こら、そこまではダメだ」

 下着にまで手を伸ばしてきたランスの手は流石に止める。

「お前という奴は、どういう時でも女を抱かないと気が済まないのか」

 スラルは顔を真っ赤に染めながらランスから離れる。

「むう。ここは行ける所だっただろうが」

「そんな訳が無いだろう! そ、それにこういう時はキス…ではないのか」

 スラルは上目遣いにランスを見ると、緊張した様子で目を閉じて唇をランスに向ける。

 その体は少し震えており、これでいいのか分かっていない感じがまるわかりだ。

 ランスは割と素直にスラルの頭に手を回すと、彼女の願い通りに唇を奪う。

 勿論軽いキスだけで済むわけも無く、その口内をランスの舌が蠢く。

 その唇が離れると、スラルは素直にランスに抱き着く。

「ランス。我は少し怖い。正直に言うと、お前に黄金像を集めて欲しくない」

「あん? 何でだ」

「もしかしたらこれを集めたことが、魔王と魔人が無敵結界を手にする結果になったかもしれない。その結果、我は死んでお前に救われた。お前がそうなったらと思うと…」

「そんなくだらん事は気にするな。黄金像が必ずしも魔王に無敵結界を与えたとも限らんだろ」

 ランスの胸に顔をうずめながらスラルは不安を口にする。

「…考えすぎるのは我の悪い癖だと思うが、これも性分なんだ。我がお前を巻き込んでしまったようなものだからな…」

「だから気にするなと言ってるだろうが」

「我が男だったら見捨てるくせに…」

「当たり前だ。スラルちゃんがいい女だから許すのだ。男なら知った事ではないわ」

 ランスの言葉にスラルは苦笑する。

 ランスの言っている事は本当に自分勝手で、本当に利己的だ。

 だがそれでも、今のスラルにはその言葉が救いだった。

「我は…お前を好きだと言ったな。だが、本当を言うと好きという感情がよく分からない。だが、お前と一緒に居ると楽しいし…求められると嬉しい」

「がはははは! スラルちゃんが俺様の事を好きなのは知ってるわ。俺様もスラルちゃんが好きだぞ」

「ケッセルリンクはお前の事を愛していると言った。だが、愛というのもやっぱり分からない」

「だったら俺様がしっかりと教えてやる」

 ランスの言葉にスラルは微笑むと、ランスの体から離れる。

「さて、我等も探すとするか。皆が一生懸命探しているのだからな」

 二人は皆と同じように黄金像を探す。

 山にはモンスターが居ないので、時間はかかっても確実に探索できる。

「ありましたー! 黄金像ありましたー!」

「おっ。見つかったみたいだな」

 ウトスカの言葉にランスとスラルはその声の方向に向かう。

「ありましたよー! ランスさんー!」

 ウトスカが掲げるのは、ハニーの言っていた通り盆栽の形をした黄金の像だった。

「おお…こいつがそうか」

 ランスはウトスカから黄金像を受け取るとそれをまじまじと見る。

「うむ、これは良いものだ気に入った」

 その黄金像はランスから見ても中々の逸品だった。

 ランスは宝石には興味は無いが、この黄金像はランスの目から見ても気に入ったと言えるモノだ。

「珍しいわね。ランスがこういうのに興味を示すなんて」

「この黄金像からは何か特別なものを感じるというか…とにかく、これは重要なモノだ。間違いない」

 これこそが自分が探している黄金像だとランスは確信する。

「で、これだけなのか? スラルちゃん」

「いや、我に聞かれても困る…記憶が全く無いからな」

 スラルはランスに振られても正直困る。

 何しろ記憶が無いせいで、これが本当に自分が使用したのか、そしてそれをどう使用したのか分からないのだ。

「まあ見つかったならいいんじゃない? とりあえずは一歩じゃないの?」

「そうですね…本当に黄金像という物はあるんですね」

 日光も珍しそうに黄金像を見る。

「ケッセルリンクが探してきたスラルの本にあったのはひまわり型だったわね」

「そういえばそうだな。じゃあ他にも黄金像はあるという事だな」

「でも…黄金像っていくつあるんですか?」

 ウトスカの言葉にスラルが難しい顔をする。

 自分でも全く記憶が無いので、これが本当に無敵結界を得る時に使ったものなのか、そして黄金像を何個揃えたのかも分からないのだ。

「とりあえず2個かい。スラルが残していた本にあったって事は、昔からあったアイテムって事だしね…まだ何個かありそうだね」

「ハンティは本当に知らんのか」

「悪いけど本当に知らないね。そんな暇が無かったっていう事もあるしね。カラーより人間の情報の方が精度が高いと思うよ」

 ハンティの言葉にランスはため息をつく。

 1個見つけるのにも大分時間がかかってしまった。

 ひまわり型の黄金像というヒントはあるが、正直それだけでは探すのは難しいだろう。

「うーむ、もう少し効率良く探せればいいのだがな」

「それならもっと大きな人間の隠れ里を探すのがいいさ。そういう所の方が情報は集まるだろ。人間の里はある程度把握しているよ」

「そうなのか」

 ランスの言葉にハンティは少しバツの悪い顔をする。

「人間はカラーを狙ってるからね…やっぱり人間の居る所をある程度は把握しておく必要があるのさ」

「…なるほど」

 その言葉を聞いて日光は何故ハンティがそんな顔をしたのか理解する。

 そんな理由で人間の居る所を把握していたとなれば、あまり言いたくは無いだろう。

「とにかく行ってみるのが良いだろうな。やはり情報が必要に…」

 スラルが『必要になる』と続けようとした時、異質な気配を感じる。

 ランスもそれを感じ取り、その方向に視線を向ける。

「ククククク…まさかこんな所で会えるとは思わなかったぞ…人間!」

 そこに居たのは、日光の家族を惨殺した魔人イゾウだ。

「魔人イゾウ…!」

 普段は冷静な日光が激高し、魔人に強い殺意を向ける。

「人間! 今度こそ貴様を殺す!」

 そしてイゾウは両の手で刀を抜くと、そのままランス達に向けて走ってくる。

「ハンティ、ウトスカを頼むわよ」

「相手は魔人だよ。どうするんだい」

 ハンティの言葉にランスがニヤリと笑う。

「そんなの逃げるに決まってるだろうが。まともに相手するのもバカバカしいからな。スラルちゃん、準備はしておけよ」

「分かっているさ。幸いにも相手は大したことが無い魔人だからな」

 ランスも剣を抜くと、魔人相手に向かっていく日光を追う。

「魔人…! 家族の仇、討たせてもらう!」

 日光は刀を抜いて魔人へと刀を振るう。

「失せろ雑魚が! 貴様など相手にならんわ!」

 魔人は日光を一蹴しようと刀を振るう。

 魔人イゾウの考えでは目の前の女などあっさりと斬り伏せられるはずだった。

 しかしイゾウの刀は空を斬り、逆に日光の刀ががイゾウを襲う。

「クッ!」

 だが、日光の放った一撃は当然の事ながら魔人の無敵結界に阻まれる。

 しかし、その結果が魔人を激怒させる事となる。

「この…ザコの分際で! 死ね!」

 イゾウは刀を振るい日光を斬り殺そうとする。

 日光はその刀を受け流すと、魔人に向けて刀を振るう。

 無敵結界があるので意味は無いと分かっていながらも、日光は刀を振るのを止めない。

「がはははは! 死ねーーーーーッ!!」

 そこにランスが参戦する。

 ランスの一撃は非常に重く、魔人ですらもその衝撃にふらつくほどだ。

 そしてランスの一撃が無敵結界に阻まれるが、ランスとイゾウは互いにその衝撃で吹き飛ばされる。

 ランスは軽業師のように見事に着地する。

「日光。今こんな奴を相手にする必要は無いぞ。とっとと逃げるぞ」

「ランス殿…」

 日光はランスの言葉で一度冷静になる。

 家族の仇と思いがけずに出会った事で頭に血が上ってしまったが、ランスの言う通りだ。

 今は魔人相手にはダメージを与えることは出来ない。

 ならばこんな所で魔人と戦う必要は全く無い。

「クカカカカカ! 人間…この俺を侮辱した貴様は絶対に許さん! 必ずこの手で殺す!」

 イゾウはもう片方の手で刀を抜くと、それをランスに向ける。

「この二刀流の俺の刀! 貴様に受けられるか!」

 そしてそのままランスへと向かっていく。

「フン、貴様のような雑魚が俺様に勝てる訳が無いだろうが!」

 ランスはそのままイゾウとの剣のぶつかり合いになる。

「死ね!」

 イゾウは二本の刀でランスを斬り殺そうとするが、ランスはその刀を芸術的とも言える剣捌きではじき返す。

 それどころか、ランスの一撃が無敵結界の上からイゾウを押し返す程だ。

 その結果にイゾウは信じられないように顔を歪める。

「バ、バカな!? 何故魔人である俺が剣で押されるのだ!? たかが人間に!」

「そんなのは簡単な事だ!」

 ランスの剣がイゾウの右手の刀を弾く。

 凄まじい一撃で弾かれた刀はイゾウの手から離れて地面に突き刺さる。

「貴様がザコで俺様が強い! それだけだ!」

 ランスの剣が形を変え、刀身が厚みを増す。

 その剣をイゾウ本体ではなく、その刀に向けて振るわれる。

 

 バキッ!

 

 まるで鈍器で叩いたかのような鈍い音がしてイゾウの刀が砕かれる。

「な、何だと!?」

「フン! ザコが! とっとと死ねーーーーーッ! ラーンスあたたたたーーーック!!」

 ランスが飛び上がるとその必殺の一撃をイゾウへとぶつける。

 無敵結界によってその攻撃はイゾウには当たらない。

「今の俺様ならば無敵結界なぞなんぼのもんじゃーーーーっ!!!」

 ランスは無敵結界に負けず、その剣を完全に振りぬいた。

「ぬ、ぬおおおおおおおおっ!!!?」

 凄まじい衝撃が地面を走り、イゾウの巨体が吹き飛ばされる。

 イゾウは直ぐに立ち上がるが、ランスに対して明らかに二の足を踏んでいる。

 イゾウは信じられなかった…無敵の魔人のはずが、目の前の人間に対して負けているという事を。

 最強の剣士になるはずが、まさか人間に剣で負けるなど思ってもいなかった。

(馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 俺は魔人だ! 藤原石丸を超えるのだ! 俺こそが最強の侍なのだ!)

 イゾウは憎しみを込めてランスを睨み、ただただランスを殺すべくその殺意を向ける。

 だが、

「スノーレーザー!」

「ライトボム!」

「ぬおっ!?」

 足元で二つの魔法が炸裂し、土煙と光でその視界が塞がれる。

 イゾウも人間から魔人になった存在、当然相手を認識する手段はその目に限られる。

 その目を再び開いた後は、そこには既にランス達の姿は無かった。

 イゾウは憎しみに顔を歪めたまま刀を拾う。

「………」

 一本の刀は無事だが、もう片方の刀は砕かれてしまっている。

「おのれ…」

 その砕けた刀をイゾウは踏み砕く。

 刀は武士の魂、そんな事すらも忘れた狂気の侍は憎々しげに宙を睨む。

「あの男…絶対に殺す。俺こそが最強の剣士なのだ…!」

 魔人イゾウは己が人間に剣で負けている事が認められない。

 その歪んだ憎しみは完全にランスに向けられていた。

 

 

 

 どこかの隠れ里―――

「いやー…これは見事な物だね。皆もそう思わないか?」

「ええ…私は黄金には特には興味は有りませんが…これには興味が惹かれる」

「儂はどーでもいいわ。まあ価値はあるんだろうけどよ」

「変わった形ねー。ひょうたんの形をしているなんて」

 ブリティシュ達エターナルヒーローは、この日の成果である黄金像を見てため息をついていた。

 今回の冒険で見つけたのは黄金の像だった。

 魔王を倒す手がかりを求め、世界中を冒険しているが、見つけたのは黄金の像だ。

 当然そんな物に価値は無い…と思っていたのだが、これに関しては勝手が違った。

「これを守るために居たモンスターを考えると…何か重要なアイテムなのかもしれないね」

「同感です。今の世界にこんな上質な黄金からこのような物を作る暇があるとは思えませんからね。恐らくはもっと昔から存在していたのでしょう」

「そんなもんかね。今の時代にもとんでもない馬鹿が居るかもしれないだろ。儂等みたいなな」

「もう…カオスったらまた捻くれた事を言って」

 カオスはあまり興味が無さそうに見えるが、それでも黄金像から視線を離さない。

「ちょっと気になった事があるんだけどいいかな?」

「なんだい、カフェ」

「うん。この前カオスと情報を集めていたんだけど、どうやら黄金の像を探している人達が居るみたいなんだよね」

 カフェの言葉にブリティシュは目を丸くする。

 逆にホ・ラガはその目が細くなる。

「成程…意図的に黄金像を集めている者が居るという事ですか。それは興味深いね」

「それで…その黄金像を探しているのが、例のパーティーみたいで…」

「例のパーティーって言うと…噂のとんでもないパーティーの事かい?」

「そう。黄金像の情報を餌に色々と画策した人が居るみたいなんだけど…みんな殺されちゃったって」

 カフェの顔を曇る。

 どんな状況だろうが、人と人同士の争いは不毛でしかない。

 今は人が協力し合わねば生きていけない時代なのだ…とカフェは思っている。

 だが、実際には自分の欲に素直に生きている者も多い。

「どんな人達なのか覚えていたのかい?」

「うん、覚えてたって。黒い剣を持った茶髪の男と、小柄な魔法使い風の女性と、金髪の凄い美人と、黒髪の女性の4人だって」

「ケッ! こんな時代に女連とはね。全く羨ましいね」

 カフェの言葉にカオスが言葉を荒げる。

「女性3人に男が1人…確かに妙な組み合わせ…なのかなぁ」

「比率はどうであれ、その者達が意図的に黄金像を探しているという事は気になりますね」

「…出来れば会ってみたいんだけどね。その人達に」

 ブリティシュはその人間達に会ってみたいと思っている。

 共に協力すれば、魔王に対抗する手段が見つかる可能性は高くなるからだ。

「で、そいつらが何処に行ったのかは分かるのか?」

「そこまでは分からないかな…結構前の話みたいだし。何でもここを牛耳ってたグループがその人達に潰されたみたいで…」

「ああ…例の噂の出所はここって事か」

 ブリティシュはカフェの言葉に苦笑する。

 どうやら意図せずして、自分達は例の者達に近づいているらしい。

「もしかしたら彼等はこの黄金像の使い方を知っているのかもしれないね」

 ブリティシュはひょうたん型の黄金像を見て、まだ見ぬ者達に出会う事を楽しみにしていた。

 




黄金像ネタは本編では結局出てこなくて残念
鬼畜王でしか情報が無いからオリジナル要素が出るかもしれません
エターナルヒーローはどういう根拠が有って黄金像を集めていたのかなあ…

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