ランス再び   作:メケネコ

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必然のすれ違い

 エターナルヒーロー達は突然現れたランス達を警戒しながら見る。

 外見はまだ若い。

 それこそカフェと近い年齢だと分かる容姿をしている。

 まだ20になっていないくらいの年齢だろう…ただし、それは外見上だけだ。

 禍々しいオーラを放つ剣を肩に、こちらを見下ろしている顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

(強い…剣だけなら僕を上回るかもしれない)

 ブリティシュは冷静に相手の実力を見極めようとしてた。

 勿論ブリティシュも強い…人類の中では唯一のガードLV2を持つ男だ。

 それだけでなく、剣戦闘LV2を持つ人類史に残るレベルの強さを持っている。

 だが、目の前の男には剣だけでは勝てる気が全く起きなかった。

 戦って負けるつもりは無いが、それでも目の前の男がとてつもない強敵なのはその肌で感じ取っていた。

「君達は…何者だい」

 だから警戒心は全くとかない。

 自分達を助けてくれたとはいえ、目の前の者達が味方だという保証はない。

(だけど…今の状況では厳しいか…)

 今の自分ははにわフィーバーとの戦闘で大きく負傷している。

 あのモンスターは毒を持っており、それがブリティシュの体を傷つけていた。

 カフェに解毒はしてもらったが、それでも体調は万全とは程遠い。

「フン、俺様の要求はただ一つ! 貴様等の持ってる黄金像をよこせ。そうすれば見逃してやる」

 男からの要求はブリティシュにとっては驚きの言葉だった。

 同時に理解もする…目の前の者達が、黄金像を探している者達であると。

「何故そんな物を要求するのですか」

 口を挟んできたのはホ・ラガだ。

 こういう時は知能担当の彼に任せるに限る。

 ブリティシュはホ・ラガを見るが、あの普段は飄々としているホ・ラガが厳しい顔で男達を見ていた。

「そんな事貴様等に言う必要は無いな。とにかくよこせ。じゃないとこの場でぶっ殺す」

 男は冷淡に言い放つと、剣をブリティシュに突き付ける。

 その漆黒の剣からは不気味なオーラが放たれており、間違いなく恐ろしい剣だというのは分かる。

「待ってくださいランス殿! 彼等は傷ついていますし、そんな要求をしなくても…」

「黙ってろ日光。大体お前が余計な事をしなければもっと楽にいったんだ。お前はお人好し過ぎるぞ」

 この日光というJAPANの衣装を身に着けた女性は、この男達の仲間のようだ。

 どうやら、彼女だけは自分達を助けるという選択肢を取ってくれたようだ。

「助けてはいけないのですか? 私達は同じ人間でしょう」

「同じ人間だろうが何だろうが俺様の邪魔をするなら許さん。神だろうが悪魔だろうがぶっ殺すだけだ」

 日光の言葉にも男は冷淡に、だが強い意志を持ってブリティシュを見ている。

「待て、ランス。別に無理に敵を作る必要も無いだろう。お前は性急すぎる」

 そんな二人を止めるように、一人の少女が前に出てくる。

 銀色の髪をした美しい少女だが、ブリティシュはこの少女の持つ気配に思わず息をのむ。

 まるで魔人と相対したかのような錯覚に襲われてしまったのだ。

 それは気のせいだったのかは分からないが、それでも得体の知れない何かをこの少女から感じ取ってた。

「我等の目的は黄金像を集める事。お前達が黄金像を手に入れた…という情報を持っている。尤も、それはそちらも同じようだがな」

 銀髪の少女はこちらを見て目を細める。

「それを求めてここに来た事もな。お前達はどんな形の黄金像を持っている。まずはそれを聞きたい」

 その迫力は異様なものであった。

 だが、それでもブリティシュは一歩も退かない。

「悪いけど…突然脅迫してきた人達にそんな事は教えてあげられないかな」

 その言葉に少女は目を丸くする。

「…そうか、これは脅迫になるのか。それは盲点だったな…我としては譲歩をしたつもりだったのだが」

 本気でそう言っているらしい少女にブリティシュもまた目を丸くする。

「いや、十分に脅迫だったわよ。ランスもスラルも上から目線でしか物を言えないじゃない」

 その様子を見て金髪の女性が呆れたように声を出す。

 非常に美しい容姿を持った女性で、それには神々しさすらも感じさせてしまう。

「まあ力づくって言うのは別に否定しないけどね」

 そう言う彼女の視線も非常に鋭い。

(…これはまずいな)

 ブリティシュは目の前の相手にどう対応するか悩む。

 目の前の連中は間違いなく、自分達が冒険の時に見つけた黄金像を狙っている。

 それも力づくで奪う事も厭わない連中だ。

 そんな相手に交渉など役には立たない。

 それに今戦えば、間違いなく負けるのは自分達だ。

 自分とカオスは毒で体力を奪われている。

 ホ・ラガとカフェは体力にはまだ余裕は有るが、魔法力をかなり使っているはずだ。

 そんな状態ではこの男達の相手をする事は無謀過ぎる。

 ホ・ラガも何とかこの状況を打破する方法を探っているが、恐らく答えは出てこないだろう。

「待って下さい! ランス殿は本当にこの方達を殺してでも奪うと言うのですか!?」

 そんなランスを止めるべく、日光がランスの前に立つ。

「それが一番楽だろうが。今なら簡単にぶっ殺せるだろうが」

 ランスの言葉にブリティシュは背筋が凍る。

 この男は人の命を奪う事に何の躊躇いも無い男だ。

 勿論そんな珍しくは無い。

 仲間のカオスも、目的のためには何だってする男だ。

「お願いします…! やめて下さい…!」

 しかし、それを止めるのがこの男の仲間と思われる女性だ。

「俺様に逆らう気か、日光」

「はい。あなたが無意味な争いをすると言うのなら、私はこの体であなたを止めます」

「うーむ、固い奴…」

 ランスも流石にここまで自分に面と向かって歯向かう奴は…まあ居ただろう。

 ゼスではランスの部下だったはずのカオルがランスに向かって歯向かった。

 その時は事情を聞けばまあ理解はした。

 だが、この状況で日光がこう出るとは思っていなかった。

「日光、どうしても我等の敵に回ると言うのか?」

 冷たい声でスラルが言う。

「敵になるという事では無く…人間同士での争いが無意味だと言っているのです」

 日光としては、ここに居る者達は信頼に足る人物だと思っている。

 それはただの直感だが、それでも彼らを信じたいと思っている。

 そしてもう一つ…それはランスがやはり悪人であるという事だ。

 カラーの味方ではあるが、人間の味方では無い。

 男に関しては本当に冷淡で、どんな相手でも容赦なく殺してしまう。

「おい日光。お前本当に逆らうつもりか」

「あなたが正しいとは思えませんから」

 そう言って日光はランスにも刀を向ける。

「うーむ」

 ランスはそんな日光を見て悩む。

 勿論ランスには日光を殺すつもりは全くない。

 というよりも日光は自分の女という認識なので、まさかこの状況でこんな事を言うとは思っても居なかった。

(まあ志津香も前は本気で俺様に魔法をぶっ放そうとしてたしな…)

 ランスは志津香が本気でランスに向けて魔法を放とうとした事を思い出す。

 マリアに手を出したランスを許せず、志津香は本気でランスに魔法を放とうとしていた。

 それを思い出し、ランスとしても少し躊躇う。

 別に無理して殺す必要は確かに無いのだ。

 大人しく黄金像を渡せばそれでいいのだ。

「待ってくれ。彼女の言う通り、僕達は君達と争う理由は無いはずだ」

 ブリティシュは日光の言葉に合わせて、何とかこの場を収めようとする。

 彼女の言う通り、人間達で争う事は無いのだ。

「いいんじゃない? 別に無理して争わなくても」

 レンもブリティシュの言葉に同意するように言葉を放つ。

 実際には彼女は別にブリティシュ達の事はどうでもいい存在であり、別に無理して戦わなくても良いという判断だ。

「うーむ…うん?」

 ランスは改めてブリティシュ達を見渡す。

 そこに居たのは精悍な顔つきの青年と、長身長髪の男、そしてブ男。

 最後の一人を見た時、ランスは思わず目を見開いた。

「あ! お前カフェか!?」

「ん…え、ええ!? な、何で私の名前を知ってるの!?」

 最後にランスの視界に入ったのは、ランスとも知り合いである凄腕のヒーラーのカフェ・アートフルだった。

 ランスが持つ魔剣カオスとは、カオスが人間だった頃からの仲間だと言っていた。

 だが、何の因果か拷問器具に囚われていたが、カオスがその名前を呼んだことで救われたのだ。

「おいカフェ! お前こいつと知り合いなのか!?」

「えーと…うん、絶対知らない。知ってたら流石に忘れないタイプだし…」

 カフェの言葉を聞いて、ランスは一つ納得する。

(ああ、そうか。そういやここは過去の世界だったな。じゃあカフェが居てもおかしくないか。確かジルが魔王の時に冒険してたとか言ってたしな)

 カオスの言葉には全く興味は無いが、カフェからは話を聞いていた。

 かつてはカオス、日光…後だれか居たような気がしたが、特に興味も無かったので忘れてしまった。

「まさかの男とか無いだろうな…」

「ちょっとカオス! 失礼な事言わないでよ! 私だって選ぶ権利くらいあるわよ!」

「なにー!」

 カフェの言葉に流石にランスは激高する。

「ん? カオスだと?」

 ランスはカフェにカオスと呼ばれた男を見る。

 どっからどうみてもブ男の中年のおっさんだ。

 だが、その声には何処か聞き覚えがある。

 それは非常に五月蠅く、魔人と戦っている時も『魔人を殺せ』とやかましいダミ声だ。

(…まさかこいつがカオスか!?)

 カオスは人間から魔人を殺せる魔剣になったと言っていた。

 それはカフェも保証していたので、別に疑ってはいなかった。

 カオスが剣になった経緯に興味も無かったので、カフェとカオスという名前が出てようやくお思い出した程度だ。

(む…待てよ。日光…まさか、あのバカが持っていた刀が日光か!?)

 ランスは日光の声を何処かで聞いた事があるかなぁ程度の認識だった。

 だが、今思い出してみれば、今目の前で悲壮な顔でランスに刀を向けている女性の声と、健太郎が持っていた刀は同じ声だ。

 ランスは改めてカオスと日光を見比べる。

 そしてランスに湧いてきたのは…当然の事ながら怒りだった。

「うがあああああ! 俺は貴様のようなブ男を持っていたのか! 許さん!」

「うげ!? な、何しやがる!?」

「きゃああ! カオス!?」

 ランスはカオスに蹴りを入れる。

「何であの馬鹿がいい女で俺様がお前のようなブ男なのだ! 絶対に許さん!」

「意味分からねえよ!」

 あまりに理不尽なランスの怒りに日光は思わず毒気を抜かれてしまう。

「や、やめて下さい!」

 慌ててランスの体を押さえるが、

「お前もお前だ! 何であの馬鹿がお前を持っとるんだ! そんなのは俺様が許さん!」

「ちょっと! 突然何を!?」

 ランスの怒りは収まらず、暴れ続ける。

「はいはい、落ち着きなさいよ、ランス」

 だが、そんなランスをレンは軽々と押さえる。

「離せレン! 俺様は今まで騙されてたのだ! こいつは絶対に許さん!」

「だから落ち着きなさいって。今そんな事を言っても仕方が無いでしょ。正直私も驚いてるし…」

 レンはランスが魔剣カオスを持っている事を知っている。

 あの剣はレン…当時はレダ0774だったが、自分にもいやらしい視線を向けてきた。

 同時に、一緒に冒険をしているはずの魔人サテラに対しても殺意を向けていた。

 間違いなく、目の前に居る男こそが、あの魔剣カオスが人間だった頃の姿なのだろう。

「意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ! 大体お前らは何なんだよ!」

 そういうカオスの疑問は尤もで、この男達が何を考えているか全く分からない。

 そんな事をやっているランス達をホ・ラガは油断なく見ている。

「あなたが一番話が出来そうですね。黄金像を渡せという事は…あなた達も同じものを持っているのですね」

「我か。まあ別に答えてもいいだろう。確かに我等も持っている。だから奪いに来た。ごく単純な事だろう」

「…成程、奪うという事が標準な訳ですか」

「楽だからな。違うか」

 そういうスラルにホ・ラガは内心で苦い顔をする。

(なるほど、この少女…かどうかは分からないが、中々に手強いか)

 この少女にとっては相手から物を奪う事は当然の事であり、そこには何の良心の呵責も無い。

 それが当たり前の状態で生きてきたのだろう。

 それはこのGL期においてはそれほど珍しくも無い。

 事実、ホ・ラガもそれが必要ならば躊躇いなくそうするタイプの人間だ。

「何故欲しいのですか。黄金像には何かがあると掴んでいるのですか?」

「さあな。だがそれを探すために動くのは当然だろう」

 ホ・ラガの言葉にスラルは何処までも興味無さ気に答える。

 その態度がホ・ラガの疑問に拍車をかけていた。

(この少女は黄金像にそこまで興味は無い、か。だとすると、リーダーであろうあの男が求めているか)

 ホ・ラガはもう一人の仲間であろう金髪の女によって止められている男を見る。

 口は大きいが、中々に整った容姿をしていると言っていいだろう。

 言い換えれば、それはホ・ラガにとっては余裕の射程範囲であった。

「…何か寒気が」

 そんなホ・ラガの視線に感づいたのか知らないが、ランスは急に体に寒気が走る。

「はいはい。とにかく落ち着きなさい」

 レンは抵抗が弱まったランスを引っ張っていく。

 そしてスラルの横に並んでからランスを離す。

 そうして改めてランスとエターナルヒーローは真正面から向かい合う事になった。

「おい日光。どうしてお前がそっち側に居る」

「ランス殿が止めてくれない限りは、私はこの方達の味方をします」

 日光は毅然としてランスを見ている。

 ランスはその様子に少しの間無言だったが、その剣をブリティシュ達に突き付けた。

「そうか、お前等日光を洗脳したな。そうで無ければ日光がこうまで俺様に逆らう訳が無いからな。そこのロンゲ、お前だな」

「…え、えええええええ!?」

 ランスのとんでも理論に日光は思わず声を上げる。

「うむ、そうだ。さっきこいつから変な視線を感じたからな。よーし、お前等。このロンゲをぶっ殺すぞ。そうすれば日光は元に戻るだろ」

「ラ、ランス殿!? わ、私は別にそんな事は…」

「いーや! ありえん! この状況でお前が俺様にこうまで逆らうなど有る訳が無い! おいお前等、覚悟はいいな」

 ランスはそう言って本当に殺気を向ける。

 その圧倒的な気配を感じ取り、ブリティシュは思わず額に汗を流す。

 それだけ、目の前の男からは危険な気配を感じ取ったのだ。

「ちょっと待ってくれ! 僕達はそんな事はしていない!」

「無駄だぜブリティシュ。この手の奴には何を言っても意味はねえ。襲ってくるってんならやるしかねえだろ!」

「同感だ。なら死んでもらおうか」

 カオスの言葉に同意したのはスラルだ。

「スノーレーザー」

 スラルの放ったスノーレーザーがブリティシュへと襲い掛かる。

 その魔法の威力は仲間のホ・ラガに勝るとも劣らない。

「くっ!」

 それを防いだのはやはりホ・ラガだった。

 最初からランス達の事を警戒しており、既に臨戦態勢にあった。

 幸いにも魔力を少し消耗しただけで、傷は無かった。

 なのでこうして魔法を防ぐことが出来たのが、その威力にホ・ラガは呻く。

(なんという魔力…これはカフェでは厳しいか)

 カフェも超一流のヒーラーで、防御魔法にも長けている。

 だが、単純な魔力なら魔法LV3のホ・ラガの方が圧倒的に上だ。

 その自分でも完全に防ぐのは厳しいレベルの魔法を使ってくるとは思っても居なかった。

「日光。あんまり抵抗はしないでよ。ランスがこうなったら止まらないのは知ってるでしょ」

 レンは日光を制圧すべく動く。

「レン殿! ランス殿を止めて下さい! あなたなら出来るでしょう!?」

 日光の言葉にレンは特に表情を変える事無く言い放つ。

「悪いけど私の仕事はランスを守る事。止める事じゃない」

「クッ!」

 日光はレンの攻撃を防ぐ。

 相変わらずレンの一撃は非常に重く、日光の力では完全に防ぐのは難しい。

 技量だけは上回っている自信は有るが、日光はレンに勝てる気は全くしなかった。

 ランスに対しても勝てる気は全く無いが、日光としてはランス以上にレンの方が戦いたくないと思っていた。

「大人しくしなさいよ。光の矢」

「あうっ」

 それがレンの放つ魔法攻撃だ。

 レンはガードで有るだけでなく、剣も使え魔法も使え神魔法すらも使いこなす。

 まさに器用万能、何でも出来てしまうのがレンという存在なのだ。

 仲間としてはこれほど頼りになる人は居なかったが、まさかこうして敵となると恐ろしい程の脅威になると思い知った。

「痛いの痛いの飛んでけー!」

 レンから受けた魔法の痛みが突如として消える。

「あなたは…」

 日光の隣に立っていたのはカフェだ。

「あなた…この人の仲間なんでしょ!? 何でそんな簡単に攻撃できるのよ!」

 カフェは怒っていた。

 それはこの綺麗な女性二人は仲間らしいのに、こんな簡単に仲間割れを起こしてしまう事にだ。

「うーん…別に簡単に攻撃しているつもりはないけど。思いっきり手加減してるし。で、どうなの日光。あなた、本当に洗脳されてるの?」

「…そう思いますか?」

 レンは日光の言葉に苦笑する。

「そんな訳無いわね。でも、そうだとしたら自分の意志でそっちについたという事。私にはそれで充分」

「………」

 その言葉には日光は何も言えなくなる。

 日光は正直に言えばレンが無機質な存在に見えていた。

 普通に会話もするし、自分同様ランスとは何度も肌を重ねている。

 だが、何処か冷たい壁のようなものが有るとは感じていた。

「殺しはしないわよ。ランスは望んで無いからね」

 レンはそう言って日光とカフェを戦闘不能にすべく動き始めた。

 

 

 

「死ねー------!」

 ランスの剣がブリティシュを襲う。

 その一撃は異常なまでに鋭く、ブリティシュも積極的にその剣を受けようとはしない。

「くっ!」

 何とかギリギリのタイミングでその刃を避け、反撃する。

 ブリティシュもまた天才的な剣士、そのタイミングは完璧のはずだった。

 だが、そんなブリティシュに襲ってきたのはランスの蹴りだった。

 その足がブリティシュの鎧に突き刺さり、ブリティシュも思わず体をよろけさせる。

 まさか足が飛んでくるとは思わず、ブリティシュも反応が遅れてしまった。

「俺様の女を洗脳するとはいい度胸だ! ぶっ殺してやる!」

「だから…! 僕達はそんな事はしていない…!」

 ランスの言っている事は完全な言いがかりであり、ブリティシュ達からすれば迷惑な事この上ない。

 しかしランスはそんな事は知らないと言わんばかりに攻撃を加えてくる。

 恐ろしい程の勢い、そして想像以上の速さにブリティシュはどんどんと押されていく。

(やりにくい…! なんて剣だ…!)

 一見するとその剣は滅茶苦茶に見える。

 己の身体能力に頼り、ただただ剣を振り回しているだけにしか見えない。

 だが、そう思って攻撃すると予想もつかない所からその刃が飛んでくる。

 しかもその剣の重さが半端では無く、まともにぶつかれば間違いなく体が両断されるだろう。

「中々しぶといな。だが俺様の敵では無いな」

 ランスから見てもブリティシュの強さはかなりものものだ。

 技術においてはランスが認めているリーザスの赤い死神、リック・アディスンにも劣らないだろう。

 それ以上に、ブリティシュは盾を使い防御を行うのが上手い。

 ランスもその防御技術には手を焼くほどだ。

 だが、それはあくまでもブリティシュの体が万全ならばの話だ。

 今のブリティシュははにわフィーバーとの戦いの疲労、そして毒を受けたダメージが体に残っている。

 そんな状態ではランスの相手が出来る訳が無かった。

「野郎!」

 カオスがランスに向かって行くが、

「フン!」

 ランスの剣にはあっさりと吹き飛ばされる。

 カオスは戦闘力にも長けたレンジャーだが、その自分が先の戦闘による疲労とダメージがあるとはいえ、相手にもなっていない。

 その状況にカオスは歯噛みするしかなかった。

(チッ! まさかこんな奴らが儂達をつけてたとはな…見誤ったか)

 カオスをして気配が完全に感じ取れなかった相手が、これほどまでの実力だとは思っていなかった。

 これまでブリティシュ達はどんな困難な状況でも必ず切り抜けてきた。

 しかし、目の前の相手はその困難全てを上回るかもしれない存在だった。

「さーて、そろそろ覚悟を決めるんだな。俺様の女に手を出す奴は絶対に許さん」

「ケッ! 女一人で目の色を変えるとはとんでもない奴だな」

「フン、お前みたいなブ男に何を言われても何とも思わんわ。やーい女にもてないブ男」

「…ガキかお前は」

 カオスはランスに態度に困惑するしかない。

 明らかに子供の口喧嘩レベルの言葉を発しながら、こちらを容赦無く殺そうとしてくる。

 これほどまでに恐ろしい事は無い。

 ましてや相手は超がつく一流の戦士であることは疑いようのない。

「がはははは! じゃあそろそろ止めを刺してやるか」

 ランスの黒い剣が鈍く輝き、その刃が不気味な振動を発しているようにブリティシュは感じた。

 目の前の剣士も異質だが、ブリティシュは本能的にその黒い剣も恐れていた。

 ある意味、この男よりもこの剣の方が恐ろしい存在に感じていた。

「待ってくれ! 僕は別に君と戦うつもりは無いんだ!」

「そんなのは知らん。俺様の女に色目を使った奴は殺す」

 どうやら本当に女の事だけで自分達に殺意を向けている事を思い知り、ブリティシュは思わず苦い顔をする。

 ここまでいい加減な理由…ハッキリ言えば子供のような理由でこれほどまでの殺意を向けてくるとは思わなかった。

(やるしかないか…?)

 戦って勝てるかどうかは分からないが、自分達もまだ倒される訳にはいかない。

 ブリティシュが覚悟を決めるが、当のランスがブリティシュから視線を外し、別の方向を見る。

 それはブリティシュ達も通ってきた通路で、ブリティシュも思わずランスの視線を追う。

 そしてその先には―――

「やれやれ。別の奴等を追ってきたと思ったら、まさかお前まで居るなんてな。これも俺の日頃の行いの良さかね」

 そこには一人の男が歩いて来ていた。

 紫色の髪をしており、その髪が男の目を隠している。

 そしてタハコを手に男はランスに向かって歩いていく。

「久しぶりだな、ランス。前の続きをやりに来たぜ」

 そう言って男はニヤリと笑いタハコを投げ捨てると、ベルトのバックルから櫛を取り出し、前髪を上げる。

 すると男から凄まじい雷光が生じ、男の髪を逆立たせる。

「さあ、やろうぜランス。あの時の続きをよ!」

 レイ・ガットホン―――今は魔人と化した男がランスを見て楽しそうに笑っていた。

 

 




エターナルヒーローはもう敵対関係にならないと仕方ない…と最初から決めてました
ぶっちゃけランスとは合わないキャラだと思いますので…
日光に関してはもう仕方ないと割り切るしかないと思いました
ちょっと強引にでも原作ルートにもっていかないと、ジルとザビエルとレッドアイがどうにもならなくなってしまうんですよね…

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