レイ・ガットホンは魔人カミーラに捕らえられ、魔王の前に連れてこられた。
そして目の前に居る魔王ジルを見て、レイは心底震え上がった。
どんな魔物相手にも臆することなく向かって行った自分が、目の前の女性に対して足が震えていた。
あの時ランスと共に戦った魔王ククルククルと同じ気配を持つが、そのククルククルよりも圧倒的な存在感を放っている。
(これが…魔王ジルって事か)
レイは自分が居の中の蛙だという事を思い知った。
ランス相手にも勝てなかったが、目の前の存在はまさに次元が違う。
どんな事が起ころうが、絶対に勝てないという事を側に居るだけで感じ取ってしまった。
そしてそのジルの背後に居る魔人も恐ろしい力を持っている。
ジルはレイの元へと歩いていく。
それだけで背筋が凍るが、レイはそれで吹っ切れた。
(ランスの奴とケリをつけられなかったのは気にくわねえが…ま、それでも楽しめたか)
魔王ククルククルとの激戦はレイにとっては納得出来る事だった。
ランスとの決着をつけたかったが、それでも十分だと思った。
レイが覚悟を決めていると、その口に何かが入ってくる。
(グ…ガ…)
レイの体が震えると、そこから燃えるような力が溢れてくる。
その体が発光し、全身から雷が放たれている。
ジルはそれを見届ける事も無く、玉座へと座る。
「カミーラ…ランスに会ったな」
その声からは何の感情も感じられない。
「ああ、会った。だがあいつは消えた」
ジルはその言葉を聞いてカミーラから興味を無くしたようだ。
そして無言になったジルを見て、カミーラはそのまま魔王の間から消えていく。
レイはそれを見て、同じように魔王の魔から去っていく。
魔王ジルが自分に全く興味を示していない事が分かったからだ。
(…何故俺を魔人にした? それが分からねえが…ランスか)
魔王の口からランスの名前が出た事で、レイは改めて決意する。
「探してみるか…その前に、ケッセルリンクに話を聞くか」
魔人ケッセルリンクがランスと夜な夜な体を重ねていたのは知っている。
相当に深い仲なのは分かっているので、話を聞きに行こうと思った。
そして―――レイは地面に転がっていた。
(つ、つええ…)
「魔人になったからといって調子に乗っているようだな」
自分を見下ろすケッセルリンクを見て、レイは呻きながら起き上がる。
「…まさかここまで力の差があるとはな」
「当たり前だ。私は1000年以上魔人をやっている。魔人になったばかりの奴に負けるはずが無いだろう」
「フン…まあいいさ。聞きたい事があって来た」
レイの言葉にケッセルリンクは鼻で笑う。
「話を聞くために現れたとは思えんな。それに話すつもりはない。失せるがいい」
人間であった頃とは打って変わって冷淡な態度を取られる。
「ランスの事だ。魔王とは何か関係あるんだろ」
レイの言葉にケッセルリンクは何も答えない。
だが、その態度がレイに確信させた。
魔王ジルとランスの間には絶対に何かが有ると。
そうで無ければあの魔王が1人の人間の名前を出すとは思えない。
(…探してみるか)
幸いにも魔人になった事で時間は増えた。
それからレイは世界を色々と回ってみた。
そこにはレイが全く知らなかった、興味も無かった世界が広がっていた。
ランスの姿は全くと言っていい程見当たらず、手掛かりすら無い状態だった。
魔人の権限を使って魔物に命令できると思ったが、その魔物が魔王によって雁字搦めになっているので、碌に動かすことも出来ない。
だとすれば、自分の足を使って探すしかなかったが、それは直ぐに限界が訪れた。
「無理だな」
1年ほど歩き回ったあたりで、レイは闇雲に動いてもランスが見つからない事に気づいた。
だとすれば、ケッセルリンクやカミーラはどうやってランスの位置を把握しているのかという疑問は湧いたが、それを教えてはくれないだろう。
だとすると、取れる手段は唯一つだった。
「人間の隠れ里ってやつか…」
レイはランスと共に行動を共にしている時に、色々と人間の隠れ里も回っていた。
魔人になったとはいえ、こそこそ隠れている連中を潰してやろうとは全く思えない。
それに、人間を殺す事は魔王によって禁じられていた。
中にはそれを破っている連中も居るらしいが、レイは別に弱い人間には全く興味は無かった。
そしてレイは人里を歩き、時には金で、時には力で、時には魔物を蹴散らす事で情報を集めた。
勿論不愛想で暴力的なレイは上手く情報を集めるなど出来なかった。
だが、それでも経験を積めば出来るようにはなってきていた。
そして最近の情報が、やたらと強い冒険者が居るという情報だった。
人相を聞き、ランス達では無い事は分かってはいたが、レイはその人間に興味が湧いた。
退屈凌ぎにはなるかもしれないと思い、その人間の後を気紛れで追っていた。
だが、その気紛れは功を奏し、レイはようやく目当ての人間を見つけることが出来た。
それこそが、黒い剣を持ち、人間だった頃の自分をあっさりと打ちのめした男、ランスだった。
「久しぶりだな、ランス」
レイは口元に笑みを浮かべながら歩いてくる。
勿論それは友好的な笑みでは無く、これからの熱い戦いを楽しむ者の目だ。
だが…
「誰だお前」
ランスから放たれた言葉にレイが固まる。
「…おい、まさか覚えてねえのか」
「男など知らん。覚えてやる価値は無いからな」
「………」
どうやら本気でそう言っているらしく、それには只でさえ気の短いレイは爆発寸前になる。
「魔人になったか…そういえばカミーラは元々はお前を捕らえに来たのだったな」
「そういう事だ。スラル」
スラルは流石に自分の事を覚えていており、レイは密かに安堵する。
まさかスラルにまで忘れられていたら、正直どうしようかとも思っていた所だ。
「…スラルちゃん、こいつを知っているのか?」
「むしろ何故忘れられるのか、これが分からないな。一応一緒にカイズを攻略したんだぞ」
スラルの言葉にランスは何か考える。
「カイズ…カイズ…あ、こいつあの時のアフロか!」
「ちげえよ! 何でエドワウの事は覚えてて、俺の事は覚えてねえんだ!」
「こんな奴本当に居たか? 全く覚えてないぞ」
本気でレイを覚えていない態度を取っているランスにスラルはため息をつく。
「いや、本当に居たぞ。お前に何度も喧嘩を売っていた奴が居ただろう。お前は盾くらいにはなるからと言っていただろうが」
「うーむ…ドラゴンだの魔王だの色々有りすぎて覚えてないが、スラルちゃんがそう言うのなら居たんだろうな」
「本当に覚えてねえのかよ! お前、どういう頭してやがんだ!」
レイは流石に自分の事をここまで完全に忘れられているとは思っていなかったのか、流石に怒鳴り声を上げる。
「まあいい。とにかくよ、ランス。ケリをつけに来たぜ」
レイの体から凄まじい光が放たれ、その周囲がバチバチと放電している。
「フン、また魔人か。いい加減面倒くさいぞ」
ランスはレイの闘志を感じ取り、剣を構える。
一流の戦士のランスは、目の前の魔人の実力をその肌で感じ取っていた。
即ち、この魔人は日光の仇の魔人よりも強いと。
そんなランスを見てレイは一度笑うと、そのままランスに向かって突っ込んでいった。
「行くぜ!」
レイがそのままランスに向かって突っ込んでいく。
ランスも剣を構えてレイを迎え撃つ。
レイの拳とランスの剣がぶつかる。
「むっ!?」
ランスはその衝撃に思わず後退する。
ランスの想像以上に、目の前の魔人の攻撃が早く、そして重かった。
「流石に受けやがるか。そうでねーとな!」
レイはそれを見て唇を吊り上げると、その腕から雷を放つ。
ランスはそれを反射的に剣で斬り飛ばす。
「相変わらず出鱈目な奴だな。俺の雷まで『斬る』なんてよ」
口とは裏腹に、レイは心底楽しそうに笑う。
ドラゴンのブレスすらも斬る事が出来るランスなら、自分の放つ電撃くらいは斬れるとは思っていた。
レイの雷は魔法によって放たれる雷では無く、純粋な雷だ。
魔人となってもレイは魔法は使えないが、その変わりに雷を扱う力を手に入れた。
魔人になってからその技術を磨いてきたつもりだが、やはりランスは自分の雷を防ぐことが出来る。
それを確認したとき、レイは驚きよりも喜んだ。
それでこそ、自分が全力でぶつかる必要があり、その価値が有ると。
「フン、男に褒められても嬉しくも何とも無いわ! というかお前は何だ! 今俺様はこいつらの相手をしとるんだ。お前なんぞ相手にしている暇は無いわ」
「お前に無くても俺にはあるんだよ。お前を倒す事と…姉御の元にお前を連れていくためにな!」
レイの体から更に電気溢れ、空中でスパークする。
そのままランスへの距離を詰め、その拳を振るう。
ランスはそれを剣で受け流すが、レイの体から放たれる雷がランスの肌を焦がす。
その鋭い痛みにランスは顔を歪めるが、それでもレイに対する攻撃を緩める事は無い。
レイの拳を受け流した勢いを利用して、そのまま魔人の体を両断しようとする。
ランスの懐に入り込もうとしていたレイは、ランスの剣の軌道を見て後ろに飛ぶ。
その剣の力はレイも分かっており、固いドラゴンの皮膚やあの魔王の触手すらも貫いた。
魔人となり耐久力も上がったが、だからと言ってランスの剣をまともに受ける訳にはいかない。
「魔人が…攻撃を避けた?」
そんなレイの行動をブリティシュが驚きに目を見開く。
魔人には無敵結界が有り、その体を傷つける事は決してできない。
だからこそ、人類は魔人に勝つ事は出来ないのだ。
しかし、目の前の魔人はランスの攻撃を『避けた』。
する必要のない回避行動を魔人がとったのだ。
「相変わらずじゃねえか。アレから結構時間が経ってるってのによ…それでこそやりがいがあるぜ」
レイは好戦的に笑うと、体から放たれる雷がより激しくなる。
「男が俺様になれなれしくするな」
ランスはそう言いながらも、自分の体に出来た小さな火傷に顔を顰める。
魔人と化したレイは戦闘態勢の時には常に雷を纏っている。
その際に溢れている雷が自動的にランスの体を焦がすのだ。
ランスもドラゴンの加護というアイテムを持っているので深刻なダメージは無いが、それでもこれが続くとなると非常に鬱陶しい。
「スノーレーザー!」
「エンジェルカッター」
その時スラルとレンの放った魔法がレイに直撃する。
「うおっ!?」
レイは突如として飛んできた魔法に少し慌てるが、その魔法は無敵結界の前に消える。
「ふむ…無敵結界を張っていないと思ったが、しっかりと使っているのか。いや、今使ったか? レイ」
「また魔人か…知り合いが魔人になるのが流行っているのかしらね」
「いきなりだな、スラル、レン。ま、俺の目的はランスだけだ。タイマンなら無敵結界は使わねえが、お前達が来るなら話は別だぜ」
レイの体が再び光り始め、ランスと激しい打ち合いが始まる。
ブリティシュはそれを見て、ランスを助けようとするが、それを止めたのはホ・ラガだ。
「ブリティシュ、今のうちに引きますよ」
「ホ・ラガ! でも相手は魔人だ!」
「だからです。今の私達では魔人には勝てません」
「既に準備は出来ています。退きますよ」
ブリティシュもホ・ラガの言っている事は分かっている。
今の自分達では魔人には勝てないのは事実だ。
しかし、目の前で魔人と戦っている人を…例え自分達を狙って来た人間であっても、魔人と戦っているのであれば助けるべきだと思った。
「よし! 黄金像があったぜ!」
カオスは台座に置かれていた罠を外し、宝箱を開く。
そこには口を押えた猿の黄金像が入っていた。
カオスはそれを持ちあげると、スイッチが入った音に顔を歪ませる。
(チッ! 急ぎ過ぎたか!?)
魔人が現れた事も有り、カオスは台座の罠は外したが宝箱の罠までは外せなかった。
すると突如として地響きが起こる。
「こ、これは!?」
日光は突如として起こった地響きに思わず膝をつく。
戦っていたランスとレイもその手を止める。
すると壁が洞窟の壁が破壊され、そこから大量の水が流れてくる。
「な、何だと!?」
ランスはそれに驚く暇も無く、水に飲まれる。
ランスの近くに居たレイもそのまま水に流される。
「ランス!」
レンはランスを追おうとするが、やはり同じように水に飲み込まれる。
その場にいた全員が水に飲み込まれ、何処かへと流されていく。
ただ、その場にあった台座と空の宝箱だけが物静かに佇んでいた。
「うっ…」
日光は頭を押さえながら起き上がる。
「大丈夫かい」
日光に声をかけてきたのは、ブリティシュと呼ばれていたこのパーティーのリーダーらしき男だ。
日光も確信は無いが、恐らくはこの男がリーダーだと思っている。
「ケッ! 助ける必要あったのかよ」
「そう言うものではありませんよ、カオス。彼女からは聞きたいことが有りますから」
そして残りの男達二人…カオスとホ・ラガと呼ばれた者達も居た。
炎の魔法で暖をとっているが、日光の服は濡れたままだ。
「悪いね。流石に女性の服を脱がすのは気が引けてね…」
「かまいません」
日光は躊躇わずに服を脱ぐ。
下着になるが、特に恥ずかしいとは思っていない。
何故なら、ランスにはもうそれ以上に凄い姿を見せているし、日光は自分としては女を捨てたつもりだ。
「ヒュー」
カオスは見事なまでの日光の肢体に口笛を吹く。
ホ・ラガは全く興味が無く、油断なく日光を見ている。
「…話を聞いてもいいかな」
「かまいません。話せる範囲であれば」
ブリティシュの言葉に日光は頷く。
ここに至っては、日光は特に隠し事をするつもりは無かった―――ただ一つ、ランスの目的やスラルの正体を除いては。
「君は…あの人の仲間なんだよね?」
「…はい。ランス殿は、魔人に襲われている私を助けてくれた人です」
日光は自分がランス達に助けられた時の事を話す。
己の家族が魔人に殺された事、それからランス達と行動を共にした事。
ただ、お町の事に関しては話せなかった。
「そうか…君も魔人に…」
ブリティシュは日光の過去を聞いて痛ましい顔をする。
カオスも無表情の顔の下では、自分と同じ過去を持っている事に共感する。
そんな人間は珍しくは無いが、復讐をしようとする者は滅多に居ないだろう。
「それで…どうして君は僕達を助けたんだい? 彼は…僕達とあのモンスターが相打ちになる事を狙ってたみたいだけど」
ランス達の意図は当然分かっている。
共倒れを狙うか、残った方を倒すという計画だったのだろう。
だが、それは彼女が自分達を助けた事で狂ってしまった。
「…私とランス殿の考えが必ずしも一致している訳ではありません」
「それは彼の行動が間違っているという事ですか?」
ホ・ラガの言葉に日光は頷く。
「人間同士協力出来るはず…私の言葉をランス殿は聞き入れてくれませんでした…」
「ハッ! そいつはすげえな。まあどんな時代だろうが馬鹿は居るって事だろ。で、お前はそれが許せなかったって事だよな」
「…はい。スラル殿とレン殿はランス殿よりの考えなので」
スラルは元魔王なので仕方ないしても、レンのあの無関心ぷりには日光は疑問を抱いてしまう。
人の姿をしているのに、人と話していないような感覚に陥ることもある。
それが日光には不気味でならなかった。
「そうか…まずば礼を言わせて貰うよ。君の助けが無ければ、僕達は彼にやられていただろうからね」
「いえ、謝らなければならないのは私です。結局は止める事は出来ませんでしたから…」
ランスの有り方は日光にとっては非常に残念だ。
強さも決断力も持っているのに、それが全ては自分ため、そして女を助けるために向けられる。
それが悪だとは思っていないが、ランスの場合はそれが極端すぎる。
もう少し、弱い者の気持ちになる事は出来ないのだろうかと思ってしまう。
「私からも質問が有ります。あの魔人はあなた達の知り合いですか」
ホ・ラガの言葉に日光は首を振る。
「いえ、私は知りません。ランス殿は…もしかしたら本当に忘れているのかもしれませんが」
「…スラル、という女性でしたか。明らかに面識があるようでしたから。名乗っていないはずの魔人の名前を口にしていました」
銀髪の少女は魔人の事をレイと呼んだ。
そして魔人もあの男の事をランスと呼び、女性の事もスラルとレンと呼んだ。
しかも『魔人になった』と言っていた事から、人間の頃からの知り合いだったのかもしれない。
「ランス殿は…男性の事は全く記憶に入れない人ですから…」
日光はそれには本当に呆れてしまう。
かつての知り合いが魔人になったというのに、それを覚えていないなんて事があるのだろうか?
だが、ランスならあり得そうだと日光は思ってしまう。
「魔人の事にも相当に詳しそうですが…あなたは何か聞いていませんか?」
ホ・ラガの言葉に日光は少し考えるが、首を振る。
「申し訳ありません、それ以上の事は言えません」
それは非常に強い意志を持って放たれた言葉だった。
その意思を感じ取り、ホ・ラガも敢えて問いただそうとはしない。
「言えないって事はあいつは色々知ってるって事だろ。言えないような事でもあんのか」
だが、カオスはそんな事をお構いなしに聞いてくる。
カオスは魔人に対して強い憎しみを覚えている。
なので魔人の事ならばどんな事でも聞きだす覚悟が有る。
「本当に言えないのです。ランス殿の口からでしか…」
日光はランスと魔人の関係を話す事は出来なかった。
もし伝えてしまえば、ランス達とブリティシュ達の関係は殺し合いの中に発展するはずだ。
それは日光の望む所ではない…日光はランスとこの人達が協力する事を望んでいるのだから。
「そうか…なら直接聞いてみるしかないかな。話してくれるかは分からないけど」
ブリティシュは少し笑うと、乾いた衣服を着こむ。
「何にしろ、まずはここを脱出しなきゃね。それにカフェも探さないといけないしね」
「ったく…カフェの奴は何処に流されたってんだ」
ブリティシュの言葉にカオスが呆れたように言う。
だが、その実は彼女の事を一番心配しているのがカオスだ。
何しろ最後に見た光景は、カフェがあの金髪の女に体を掴まれている光景だったからだ。
「…私も同行しても良いですか?」
日光の言葉にブリティシュは笑う。
「勿論だよ」
「…うーん」
カフェ・アートフルが目を覚ますと、そこにあったのは洞窟の天井だった。
(…そうだ。私確か水に流されて…誰かが掴んでくれたみたいだけど)
生憎とその誰かがカフェには分からなかったが、もしかしたらカオスかもしれないと思った時だった。
「目を覚ましたようだな」
カフェの顔を覗き込んできたのは、銀色の髪のした少女だった。
「…あ!」
カフェは何とか戦闘態勢を取ろうとするが、もう一人金髪の女性もその場に居るのを見て諦めたように力を抜く。
ヒーラーの自分がこの金髪の女性に勝てる気配が全く見えなかったからだ。
「お前の仲間は別の方向に流された。尤もそれは我等も同じだがな」
「…私をどうする気」
カフェは気丈に二人を睨む。
だが、そんなカフェの気概も二人にとってはそよ風に等しいようだ。
「どうもしない。本当はお前に色々と聞きたい事もあるのだが…ランスが止めたからな」
「ランス…あの男…あ、魔人と戦ってたけど大丈夫だったの!?」
「ああ。魔人になりたての奴に負けるような奴じゃない。今戻ってくるさ」
スラルの言葉を肯定するように、誰かが歩いてくる。
それは自分達に攻撃を加えてきた男だった。
「おう、目が覚めたか。カフェちゃん」
だが、意外にも男は普通に声をかけてきた。
普通どころか、若干馴れ馴れしいような気もする。
「…誰?」
「…そういや当然俺様の事は知らんよな。まあいい。俺様こそがこの世界の英雄ランス様だ」
「…どう見ても悪党なんだけど」
「それはお前の目が濁っているだけだ。俺様のこの澄んだ目を見ろ」
「濁り切ってるんだけど…それにどうして私の名前を知ってたの」
カフェはランスに対して最大限の警戒をする。
カフェの記憶にこんな男の記憶は無かった。
この男の強さ…あの剣の技を見たことがあるならば、それを覚えていないはずが無い。
あれ程の凄まじい剣を見たのは初めてだった。
自分達のリーダーのブリティシュとは違い、ただただ荒々しく暴力的な剣。
だが、それでも一目見ればこの男の強さを誰もが理解できる、そんな剣だった。
「俺様がカフェちゃんの名前を知ってることか…」
ランスは考える。
(ここでカフェちゃんの未来の話をしても…うーん、いい事無いな)
何しろカフェはランスと初めて出会った時は拷問器具に捕らわれていた。
そこをカオスが彼女の名前を呼んだことでようやく解放されたのだ。
ランスはカフェがどうやって拷問器具に捕らわれたのか知らないし、何時頃捕らわれたのかも知らない。
なのでその事を話す事も出来ない。
「うむ、俺様はハイパーないい男だからカフェちゃんの名前を知っててもおかしくないのだ。まあ細かい事は気にするな」
「いや、気になるわよ…」
がははと笑うランスをカフェは困惑した様子で見る。
あの時ブリティシュや魔人と戦った時はまるで空気が違う。
「それよりも日光を探すぞ。全く、俺様に逆らったのだから厳しくオシオキせんとな」