洞窟の外―――レイは何とか水から這い上がると、大きく深呼吸する。
「…しんどいな。窒息はしないが苦しいのには変わりは無い訳か」
レイはそのまま地面に大の字になって寝そべる。
水を吸った服の感触が不快だが、流石のレイもそんな事を気にする余裕は無かった。
「無敵結界ってのも言葉通りの訳じゃ無いって事か」
レイは水に飲み込まれた時、水と一緒に大きな岩が何故かレイに目掛けて襲い掛かって来た。
当然の事ながらレイは無敵結界を発動させたが、流れてくる水には無敵結界は無力だった。
流れてきた岩に対しては効果はあったが、その衝撃までは防ぐことが出来なかった。
「流石にこっから追うのは面倒くせえな…」
ランスとの決着をつけられなかったのは残念だが、流石に今から再戦という気分にもならない。
「それよりも…窒息はしねえが、苦しい事には変わりねえか」
流石に人間だったら死んでいたかもしれない。
「…こいつがあいつの持っている強運ってやつなのかね」
長年カミーラがランスの事を追っているらしいが、ランスは悉くこれを退けてきたらしい。
魔人になったからこそ、魔人カミーラの強さが分かる。
そのカミーラが何度もランスを取り逃がすと言うのだから、ランスには悪運とも言える何かがあるのだろう。
レイはそのまま疲労から眠りについた。
「がはははは! 死ねーーーーーっ!!」
ランスの剣がモンスターを蹴散らす。
「…凄い」
カフェはそれを見て目を見開く。
自分達のリーダーであるブリティシュも素晴らしい剣の腕前だが、カフェの目から見てもランスの剣はブリティシュを上回っていた。
勿論強さというのは剣だけで決まるものでは無い。
ブリティシュは素晴らしい剣の腕前以外にも、凄まじい防御技術を持っている。
その二つがあるからこそ、ブリティシュという男は強いのだ。
ランスはそんなブリティシュと比較しても引けを取らない…ブリティシュに憧れているカフェの目でも、ランスの実力はまさに一級品だった。
「凄いんだけど…スカウト技能を持っている人は居ないんだね」
だが、罠を踏んで痺れているランスを見て、カフェは回復魔法をかける。
「生憎とな…少し前はスカウト技能を持つ者が居たのだがな。生憎と別行動をしなくてはならなくてな」
「そうなんだ…」
ランスを見て苦笑するのがスラルだ。
(この人も凄い…ホ・ラガも凄いけど、この人も負けてないかも…)
銀髪の少女はあのホ・ラガと比較しても引けを取らない魔法使いだ。
その魔法の力は凄まじく、威力ならばホ・ラガと互角かもしれない。
(純粋な魔法使いとしてはホ・ラガの方が強いかもしれないけど…もし二人が戦ったら勝つのはこの人かな…)
スラルが強いのは、魔法使いとしてだけではなく、魔法使いなのに普通にモンスターを殴り倒している事だ。
あの細腕にどんな力があるのか知らないが、何とハニーを殴って壊していた。
それだけでなく、非常に美しい剣を使ってモンスターを倒している。
その技術は勿論ランスやブリティシュには遠く及ばない。
だが、それでも普通にモンスターを倒せるだけでも凄い事だ。
接近戦になると脆いという魔法使いの弱点を、ある程度カバー出来ているのだ。
(でも、一番凄いのはこの人なのかも…)
カフェはもう一人の女性である、レンを見る。
彼女が一番強いのではないかと思っている。
剣だけでなく、ガードとしても超がつく一流だ。
それだけでなく、魔法と神魔法も使えるのだからどれだけ才能があるのだと思ってしまう。
そのどれもが一級品、同じ神魔法使いとしても、彼女の方が上なのをカフェは思い知らされた。
だが何よりも、その神々しいまでの美しさにカフェは打ちのめされた。
自分が勝っている所が何一つない…そんな風に思ってしまった。
「…皆強いんだね」
「当然だ。俺様は英雄だからな」
「英雄かどうかは分からないけど、確かに強いよね」
カフェはブリティシュとは全く違うタイプのランスには困惑するしかない。
これまでに色々な人間を見てきたが、流石にランス程の人間には出会ったことは無かった。
良くも悪くも印象に残る男だ。
「ねえ…何で私達を襲ってきたの? 別に私達が戦いあう必要は無いと思うんだけど」
カフェは当然の疑問をぶつける。
カフェからすれば、ランス達と争う必要は無い。
「お前達は黄金像を持ってるんだろ。だったらそれを奪うのは当然だろうが。お前達だって同じような事を考えてたはずだぞ」
「…流石にあなた達みたいに極端じゃないわよ。まあカオスとホ・ラガ辺りは分からないけど」
カオスは目的のためには何でもやるタイプだし、ホ・ラガも必要とあれば躊躇わないだろう。
ブリティシュは止めるだろうが、それでもどうなるかは分からないのが人生だ。
「ならば我等が争うのは必然という事でもあるな」
「どうして皆そんなに極端なのかなぁ…協力するって考えは無いの?」
呆れたようなカフェの声に、
「無いな。お前達が俺様の部下になるなら考えてやらんことも無い」
「探している物が同じであっても、目的が違えば協力関係にはなれないだろう。最終的に必ずぶつかり合うはずだ」
ランスとスラルはあっさりとカフェの願いを弾き飛ばす。
「…あなたは?」
カフェは最後の希望とばかりにレンを見るが、
「私はどっちでも良いし」
興味が無いと言わんばかりの言葉に嘆息する。
結局、自分達と彼等はぶつかり合う運命にあったのかもしれない。
「全く、日光の奴は何処に行ったんだ。まさかもう地上に戻ったんじゃ無いだろうな」
「可能性は無くは無いが…彼女の性格からして、ランスを探すと思うぞ」
洞窟はかなり広かったようで、元の場所も何処だか分からなくなってしまった。
こうなったらお帰り盆栽で地上に戻るのも選択肢の一つなのだが、日光の性格を考えれば一人で脱出しているとも考えにくい。
「あいつらと一緒に居るとは思うわよ。一緒の方向に流れていったし」
「何だと? 何でそれを先に言わん!」
レンの言葉にランスが怒鳴る。
「どっちにしても探す事には変わりないでしょ。それよりもまた来るわよ」
レンが武器を構えると、モンスターが現れる。
「全く、面倒くさい奴等だな」
こうもモンスターと出会うと、流石のランスも面倒くさくなってくる。
しかもモンスターは結構強いタイプが多く、現にランス達の前に居るのはダブルハニーやリアカー、とっこーちゃんやにょ~等が出てくる。
「さっさと蹴散らそう。レン、彼女を頼むぞ」
「分かってるわ。しっかり守ってあげるわよ」
「がはははは! 雑魚は黙って経験値になるがいい!」
ランスはそのままモンスターに突っ込んでいき、尋常ではない剣でモンスターを蹴散らしに行った。
ブリティシュ達も疲れた体を癒し、行動を開始していた。
ヒーラーであるカフェが行方不明なので、行動はどうしても慎重になるが、それでも後の世界でも最強のパーティーと呼ばれるエターナルヒーローの力は絶大だった。
モンスターも難なく蹴散らしながら、ブリティシュ達は進んで行く。
「で、彼は一体何者なんだい? 恐ろしいくらいに強いみたいだけど」
一息つこうとした時、ブリティシュが日光に尋ねる。
「何者か…と聞かれても答え辛いです。謎が多い人ですから…」
ブリティシュの言葉に日光は曖昧な顔で答えるしかなかった。
(まさか魔王ジルが元奴隷だの、魔人ケッセルリンクと恋人同士だの…普通に考えれば信じられる事では無いですし…)
日光は魔人ケッセルリンクに直接出会い、ランスとの関係を察している。
人間と魔人が肌を重ねるなど、それこそあり得ない事だろうと思っている。
実際には男の魔人が人間の女を性欲処理にしたりはしているのだが、ケッセルリンクは女性の魔人だ。
その魔人があれほど嬉しそうにランスを抱きしめるなど、考えられない事だ。
「ただ…本当に強いです。魔人とやりあえるくらいに」
その言葉に反応したのがカオスだ。
「お前等…魔人とやりあったことがあるのか」
「…やりあった、とは言えないですけどね。ですが魔人イゾウによって私の故郷は滅ぼされました」
そう言う日光の目には暗い決意が見えている。
それを見たカオスはそれ以上の事は何も聞かなかった。
(魔人イゾウ…聞いた事のねえ魔人だ。ジーナを殺した魔人じゃねえな…)
「そのイゾウとランス殿は互角の戦いを繰り広げていました。剣だけならば勝っていると言っても良かったでしょう」
「…それは興味深いですね」
魔人と互角にやりあう人間というのは流石に聞いた事が無い。
伝説では、世界の統一を成そうとした藤原石丸も魔人と戦ったらしいが…それでも魔人には敗れている。
人間と魔人の間にはそれほどの差があり、無敵結界が有る限りは人間は決して魔人には勝てないのだ。
「魔人か…彼も魔人を倒そうとしているのかな?」
「それは…間違いは無いです。ランス殿にとっても魔人は敵だと言ってましたから」
日光は一つ嘘をついた。
確かにランスにとっては魔人は敵だが、中にはランスに友好的な魔人も居る。
それが日光が出会った魔人ガルティア、そして魔人ケッセルリンクだ。
魔人ガルティアは人間に対して悪意は全く感じられず、むしろ人間であった頃に苦労を重ねてきた存在だ。
それ故にガルティアの言葉には重みがあった。
ただ、それを感じさせない明るさがあの魔人にはあった。
そしてケッセルリンクに至っては、魔人だと言うのに魔人を倒すために行動をしているランスに協力している。
実際には魔王であるジルをランスの元へとかえすためらしいが…それこそ雲を掴む様な話だ。
魔人を倒すという事よりも余程難しいだろう。
「だったら協力できないかなあ。別に僕達が争う必要は無いと思うんだけどねえ…」
ブリティシュは困った顔をする。
勿論ブリティシュにはランスと戦う気など更々無い。
悪意や憎しみを持っているならともかく、ランスからはそれを感じなかった。
ただ、自分達が邪魔だから排除しようとしているだけ、そんな感じがしてくる。
「悪い人では無いとは思うんだけどね」
「まあ…ただの悪い人では無いです。ですが、良い人では無いですけど…」
その言葉には日光も同意する。
確かに悪人ではあるが、弱者をいたぶるような人間では無い。
日光がこれまで見てきた外道とも言える人間からは遠い人間だ。
むしろ相手が外道ならば躊躇わずに排除する人間だ。
「おいおい、そんな上手い事ばかりいくわきゃねえだろ。ブリティシュ、そんな奴等はこれまでにも居ただろうが」
「分かってるよ。でも、彼とは争う必要は本当に無いと思うんだ」
勿論まだ碌に話した事の無い人だ。
もしかしたら凄い悪人なのかもしれない。
だが、それでもブリティシュはまずは話してみたいと思った。
「何れにせよ、探す必要は有ると思いますよ。カフェが彼等の方向に流されて行ってますからね…」
ホ・ラガの言葉にカオスは舌打ちする。
「ああ、別にあなたのせいだとは言っていませんよ、カオス。あの状況ではあなたの行動は理にかなってますからね」
「変なフォローいれるんじゃねえよ! お前にそう言われたら寒気がするわい!」
「ははは…まあカフェを探すしかないさ。それに、彼も君を探しているだろうしね」
「…どうでしょうか」
ブリティシュの言葉に日光は俯く。
自分はランスにハッキリと反抗した。
前からランスの行動には完全には同意出来なかったが、今回の事でそれが限界を迎えた。
(もう少し…男性にも優しくなれないのでしょうか)
女性には優しいのだが、男に対しては厳しすぎる。
カラーに対しての優しさのほんの十分の一でもいいから、男に向けてくれてもいいのにと思ってしまう。
勿論ランスに限ってはそんな事はありえないのではあるが。
「それにしても何故あなた方は黄金像を集めているのですか」
「…分かりません。ランス殿が何かを感じ取っていたようですから。理由までは」
日光は嘘をついた。
実際には先々代魔王が書き残したとされている情報を元に、ランス達は動いていたのだ。
だが、それは日光の口からいう訳にはいかない。
もしそれを他の者に話してしまえば、それはランスに対する裏切りだ。
もう裏切ってしまってはいるのだが、それでもその情報を誰かに話すわけにはいかなかった。
「とにかく急ぐぞ。カフェの奴を探さねえとな」
「…ああ、そうだな」
ブリティシュはカフェの事を心配しているカオスを見て、静かに笑みを浮かべる。
口では色々というが、カオスはカフェの事をよく見ている。
リーダーであるブリティシュは仲間の事を良く見ていた。
だからこそ、目の前の女性が自分達に何かを隠していると言うのは分かる。
だが、それは口には出来ない事なのだろう。
でもブリティシュはそれでも良いと思っている。
「さて、行こうか」
休憩を終わらせ、ブリティシュ達は進んで行く。
モンスター達を蹴散らしていく内に、ホ・ラガが何かを感じ取る。
「…近いですね」
「ホ・ラガ?」
「強い魔力を感じました。これほどの魔力を持っているのは、あの時に出会った彼女しかいないでしょう」
ホ・ラガの脳内にいるのはあの銀髪の少女だ。
あの少女もまた恐ろしい魔力を持っている存在だ。
「近いですね。どうしますか、ブリティシュ」
「話すさ。ボク達が争う理由は本当に無いからね」
ブリティシュ達はそのままその場に待っていると、爆音と共に笑い声が聞こえる。
「がはははは! いいぞスラルちゃん! このまま突き進むぞ!」
「もう! 無茶ばっかりしないでよ!」
笑い声と共に、自分達の仲間の声も聞こえてくる。
そして現れたのはランス達だ。
「む、貴様等は」
ランスはそのまま剣を向ける。
そのままランスの後をついて来るように、三人の女性が現れる。
「カフェ!」
「あ、みんな! 無事だったんだ!」
ブリティシュ達の姿を見てカフェがそちらに駆け寄ろうとしたのをレンが止める。
「はいストップ。そんな簡単にそっちに行かす訳にはいかないの、こっちも」
レンは日光がブリティシュ達の方に居るのを見て嘆息する。
「待ってくれ。僕達は彼女に何もする気は無い。だからそちらもカフェを放してほしい」
「ランス殿、お願いです。彼女を放してください」
ブリティシュの言葉に続いた日光を見て、ランスは不愉快そうに唇を曲げる。
「おい日光。お前いつからそっち側になったんだ」
「そうではなく…私は別に人質になっている訳ではありません。ですのでランス殿も彼女を放して欲しいだけです」
日光の言葉にランスの顔が更に不機嫌になっていく。
「…お前、やっぱり洗脳されとるな」
「そんな事は…」
「どうにも怪しいと思っとったんだ。そこのホモ臭い男! お前が日光を洗脳したな!」
「………私ですか?」
ランスの言葉に微妙な空気が流れる。
「そうだ。お前の視線がどうにも気に入らん。お前の目があのホモ焼き鳥になんか似てるんだ。つまりお前はホモで俺様を狙っている奴だな。だったら殺す!!」
「………マジかよ」
その言葉にはカオスも絶句するしかない。
理由は勿論ホ・ラガがホモだと見破っている事だ。
洗脳云々は戯言だが、ホ・ラガがホモなのは事実なのだ。
「落ち着けランス。お前の個人的な感情だけでは解決しないだろう」
ホ・ラガに殺気を向けるランスをスラルが何とか押さえる。
このままでは話が全く進まないからだ。
「まずは聞こう。日光、お前は完全にそちら側という事か?」
「違います。私は彼等と争う必要は無いと言っているだけです」
「…まあ理解は出来る」
日光の行動は人間としては当然の事…らしい。
これまで共に行動を共にして生きた者達の行動を思い返しても、確かにこの状況ならば助けるのが人間なのだろう。
確かにこれまでスラルが見てきた人間はそうだった者が多い。
「で、お前は何がしたい?」
「私は…ここに居る者達で協力が出来ると思います。だから、私は彼等を助ける事を選びました」
それは日光の本能に近い行動だったが、今は確信している。
ここに居る者達が力を合わせれば、必ずこの暗い世界に光が灯せると。
人が魔物や魔人を恐れ、隠れながら生きる世界を必ず解放出来ると。
「だそうだ。ランス」
スラルの言葉にランスは不機嫌な感情を隠さずに言う。
「そんなのは知らん。俺様は俺様のやりたいようにするだけだ。大体何で俺様がこんなむさ苦しい奴等と協力せねばならんのだ」
それは日光にとってはあんまりな言葉だった。
日光にとって、ランスの言葉は非常に幼稚で、自分本位の言葉にしか思えなかった。
「ランス殿! あなたは人類がどうなってもいいというのですか!?」
そんな日光の言葉に対して、ランスが放った言葉は彼女に更なる落胆を与えた。
「知らん。人類がどうなろうが俺様の知った事ではない」
それはランスの偽らざる言葉。
ランスは本当に人類の未来など気にしてはいない。
自分の目的のために、結果的に魔人と戦ったという事の方が圧倒的に多い。
何よりも、ランスの行動の全ては女の為にある。
ランスが魔人ケイブリスを倒したのも、シャリエラという一人の少女のため。
そしてランスが魔王となったのも、来水美樹という一人の少女を救うためなのだ。
「そんな…」
ランスの言葉を聞いて日光はその場に崩れる。
確かに良い人では無かったが、それでも尊敬出来る人だった。
魔人に恐れず向かって行く姿は、日光にとっては憧れだった。
「…それは君の本音なのかな」
「当たり前だ。俺様は俺様のやりたい事をやる。それだけだ」
ブリティシュの言葉にもランスは一切の迷いを見せずに答える。
その言葉を聞いて、ブリティシュは苦い顔をする。
その人となりは日光から聞いてはいたが、まさかこれほどまでの人間だとは思わなかった。
「私からも良いですか? あなた方二人も彼と同じ意見という事で良いですか?」
ホ・ラガも目を細めてスラルとレンを見る。
その言葉に対して二人は強い意志で答える。
「私は人類の未来がどうなろうが別に構わないわ。私がどうこうする事でも無いし。それに私の任務はランスを守る事。それを邪魔するなら潰すだけ」
「我もさして興味は無いな。だが、ランスのこれまでの行動を否定はさせない。どれ程自分勝手に行動しようとも、これまで共に歩んできた結果がある」
「…成程」
ホ・ラガはその言葉を聞いて引き下がるしかなかった。
もし日光と同じように考えていれば…と思ったのだが、どうやらそうもいかないようだ。
「カフェを解放してくれないかな。僕達の大事な仲間なんだ」
「カフェをか…うーむ」
ブリティシュの言葉にランスは考える。
エターナルヒーローというカオスの仲間の事は、本人であるカオスとカフェから聞いていた。
相当に辛い世界だったのは流石にもう分かっている。
そしてその末にカオスと日光はそれぞれ魔人の無敵結界を破れる剣となった。
カフェは拷問器具に捕らわれ、ランスとカオスが救うまで苦しむこととなった。
(うーむ、どうするか)
ランスとしても非常に悩ましい事ではあった。
初めてランスはここが過去の世界だという事に悩みを見せた。
普段なら、そんなのは知らないとばかりに勝手にするだろうが、こと魔剣カオスが関わって居るのであれば話は別だ。
何しろカオスが無ければランスは魔人には勝てないのだから。
(いや、そのために俺様の剣があるんだろうが。うむ、そうだ。カオスの馬鹿はともかく日光は剣になるのはもったいないな)
「よーし、良いだろう。だが、日光と同時に交換だ。それ以外は認めんぞ」
だからランスはカフェを解放する事を認める事にした。
正直、ランスの目から見ても中々強いので、ランスとしても必要の無い戦いは面倒くさいと思っていた。
日光はカフェがレンの手から解放されたのを見て、ランス達の元へと向かう。
ただ、その時ホ・ラガが何かを日光の耳元で囁く。
日光はそれに聞こえなかったふりをしてランス達の元へと向かう。
カフェも同じようにブリティシュ達と合流する。
「カフェ、無事か」
「うん。別に何もされなかったよ」
「…そ、そうか」
カオスはカフェを心配するが、カフェのあっけらかんとした言葉に戸惑いを覚える。
「…僕達は協力する事は出来ないのかな」
「知らん」
ブリティシュの言葉をランスは無慈悲に断ち切る。
「さーて、次は黄金像を渡してもらおうか」
「悪いけどそれは出来ないね。君達だって断るだろう」
ランスの言葉をブリティシュはハッキリと否定する。
「だったら話は早いな。だったら殺してでも奪い取るだけだ」
ランスは再び剣を構えるが、
「悪いが付き合ってられねえな。一人で言ってろ」
カオスがそのまま帰り木を使い、ブリティシュ達の姿が消える。
「あ、こら待ちやがれ!」
ランスは慌てるが、もうその姿は完全に消えてしまっていた。
「レン、追うぞ!」
「追うのはいいんだけど…地上にレイが居るんじゃない?」
「…あ」
魔人レイの事を思い出し、ランスは悩む。
別にレイが脅威だという事では無く、今魔人と戦うのが面倒だという事だけだ。
「ぐぐぐ…まあいい。奴等が黄金像を持っているのは分かっとるんだ。改めて奪えばいい」
そういうランスを、日光は複雑な顔で見ているしかなかった。