魔人メディウサ。
それはへびさんから魔人になった存在であり、その種族の残忍さを更に増している。
股間から生えた蛇で女を犯し殺す…そう、ただ凌辱するだけでなく、犯しながら殺すのだ。
ランスにとっては絶対に許す事の出来ない魔人であり、ランスが女性の魔人であるにも関わらず、躊躇う事無く殺す程だ。
そのメディウサがカラーを浚う、それは断じて許す事が出来ない。
「で、そのメディウサの居る所は分かるか」
「ああ。それは分かるよ。アタシも浚われた娘達を取り戻そうとしたけど…流石に魔人の本拠地には侵入は出来なかったよ」
ランスの言葉にハンティは苦い顔で答えるしかない。
いくら始祖のカラーと言われようとも、魔人の前では無力だった。
「で、どれくらいの数が浚われたんだ」
「10人。でもどれだけ生きてられるか…」
「ランス、動くのなら早い方が良いだろう。移動にも時間がかかるからな。もしかしたらカラーを移送している魔物の部隊に追いつけるかもしれない」
スラルの言葉にランスは考える。
「バイクを使うぞ」
「…いいの? あれかなり目立つと思うけど」
ランスの決断にレンは眉を顰める。
バイクは確かに便利だ。
あれほど移動に適した物は無いが、同時に非常に目立つ。
ランスもそれを考えて、なるべくバイクの使用は控えていた。
「構わん。速攻で終わらせて速攻で隠れればいい」
「…難しいわよ」
「やると言ったらやる。それは変わらん」
ランスは一度決めたらそれを曲げない。
それまでの付き合いでそれは分かっていても、やはり心配な物は心配なのだ。
「ハンティ。案内しろ」
「…いいのかい? 死ぬかもしれないよ」
「俺様が死ぬ訳が無いだろ。それより急ぐぞ」
「ああ」
ランスの言葉にスラルは魔法ハウスを広げる。
ランスは魔法ハウスの中に入ると、隠しておいたバイクを取り出す。
「…何だい? それ」
ハンティはバイクを見て目を丸くする。
それはハンティでも見た事の無い代物だった。
「これこそが俺様のスーパーランス号だ。これなら速攻で移動できるぞ」
「緊急事態だ。我はランスの剣の中に入っていよう。ソウルブリング!」
スラルは呪文を唱えると、肉体と魂が分離して霊体になる。
そしてそのままランスの剣の中へと入っていく。
「どうなってんだい?」
それにはハンティも再び目を丸くする。
スラルが立っていた所には、一つの人形が落ちているだけだ。
「話は後。それよりも急ぎましょ」
レンは落ちているスラルの服とIPボディを仕舞う。
そのままバイクに乗って、ランスの体に手を回す。
「ハンティは私に掴まりなさい。結構揺れるからね」
「…まあよく分からないけど、そうさせてもらうよ」
ハンティはレンと同じようにバイクに跨る。
そしてレンがランスに対してそうしたように、レンの体に手を回す。
「皆は隠れてなよ。決して魔物相手と戦おうなんて思わない事。いいね」
「「「はいっ!」」」
ハンティの言葉にカラー達が返事をする。
ランスはそれを見届けるとバイクを動かす。
轟音を立てて車輪が回り、バイクが動き始める。
そしてそのままあっという間に森の外へと消えていく。
その光景をカラー達は茫然と見ていた。
「…何かしら、アレ?」
「分かる訳ないでしょ。でも…」
カラー達は一斉に目をキラキラと光らせる。
「「「かっこいい~~!」」」
ランスが消えた後を、カラー達は何処までも目を輝かせて見送っていた。
「な、なんだいこれ!? うし車より遥かに速いじゃないか!」
バイクの背に乗るハンティはこの速度に目を輝かせる。
「説明は後! それよりもどっち!?」
風の音で声が聞き取りづらいが、それは魔人パイアールの設計したアイテムだ。
人間が使えるように色々と配慮されており、その動きは快適だった。
「ここを真っ直ぐだ! もうすぐ見える! だが、ここからは魔物も多い! 迂闊に近づくのは危険だぞ!」
ハンティの言葉にもランスはバイクで突っ走る。
野良モンスターがランス達の事を見ていたが、その圧倒的な速さには誰も追いつけず、ただ茫然と見ているしかなかった。
「ここで一度止まって! アタシが偵察してくるよ!」
ランス達の視界に、そこそこの大きな城の姿が現れる。
全力でバイクを飛ばしてきたので、かなりの速さで近づくことが出来た。
ランスはバイクを止めると、ハンティの姿が消える。
瞬間移動を使用して、周囲の様子を探っているのだろう。
「ランス、潜入したとしてどうする? カラーは生きていると思うか?」
スラルは厳しい顔でランスを見る。
魔人メディウサの事はケッセルリンクから聞いていた。
メディウサはジルのお気に入りなのか、人間を殺してはならないという命令を受けながらも、何処からか人間を浚って殺しているらしい。
ケッセルリンクとしても文句を言いたいが、魔王ジルによって止められているので何も言えないのだと言う。
野良モンスターや魔軍に関しては、ケッセルリンクの権限でカラーの隠れ里に近づけない事は出来るが、魔人メディウサだけは例外なのだと言う。
そしてその残虐性も魔人一で、とてつもない死臭がその城から漂うのだと言う。
「知らん。それを探るために動いているんだろうが」
「あまり騒ぎを大きくするのは得策では無いぞ。仮にカラーを助けられたとしても、脱出する手段は限られるからな」
スラルは何処までもリアリストだ。
今もあの城に潜入し、そして脱出するための手段を考えている。
ランスは少々イライラしながらも、ハンティの帰りを待つ事にする。
ランスも頭に血が上ってはいたが、無暗に魔人の城に乗り込む様な真似はしない。
これで自分の女が関わって居たのであれば、ランスは全力で魔人の城に乗り込んでいただろう。
ランス達はしばらく待っていると、ハンティが瞬間移動で現れる。
「どう? ハンティ」
レンの言葉にハンティは苦い顔をする。
「もうカラー達は城の中に運ばれたらしい。魔物兵がそんな話をしていた」
こうなってはもう生存は絶望的だ。
ハンティとしても苦しいが、ここで無茶をしてはカラーの未来は閉ざされてしまう。
なので断腸の思いで捕らわれたカラーを見捨てるという選択肢を取らざるを得ない。
「ランス、スラル、レン…カラーの事でお前達に迷惑はかけられない。ここは退くしかない。相手は魔人だ」
ハンティの弱気な言葉にランスは鼻で笑う。
「フン、お前は伝説のカラーだとか始祖とか言われてるくせに、簡単に諦めるんだな。俺様は違うぞ」
ランスは再びバイクを吹かす。
「侵入できそうな所は有るのか無いのかどっちなんだ」
ハンティが想像している以上に真剣なランスの声にハンティは息をのむ。
「…城の中にまで入り込んだ訳じゃ無いからね。そこまでは分からない」
「だったら知っている奴に口を割らせればいい。隠れて近づくぞ」
幸いにもここからはランス達の姿は見えないし、この付近は樹木も多い。
身を隠すには丁度いい場所だし、バイクも隠しておけるスペースも有る。
ランスは慎重にバイクを動かしながら城に近づく。
ハンティの言葉通り、結構な数の魔軍―――それも魔物スーツを着ている魔物兵が出入りをしている。
魔軍の正規兵であり、あの魔物スーツを着ていなければ魔物は組織だった行動をとる事は出来ない。
それが無数に居るのだから、ここは間違いなく魔人の城なのだと実感させられる。
「ランス、一応は近づけたけどどうするの? まさか正面突破なんて考えてないでしょうね」
「俺様を何だと思っとるんだ。そんな無意味な事をする訳が無いだろ。まずはここで情報を集めるぞ」
ランスはじっくりと魔軍の動きを観察する。
この中で魔軍と一番戦闘経験が有るのは間違いなくランスだ。
同時に、戦争という大きな争いにも何度も参加しているのもランスだけだ。
「どいつか一匹くらい捕らえられるか」
「うーん…出来なくは無いかな」
ランスの言葉にレンが考えながら肯定する。
エンジェルナイトなので、隠れて行動するという事は苦手だが、ランスとの付き合いで段々とそういう技術が分かって来た。
「じゃあ行ってくるわ」
レンは翼を生やすと、そのまま上空を飛んで城へと接近する。
そんなレンを見て、ハンティは驚いた顔をする。
「彼女は天使なのかい? って事は元カラーって事か? いや、でもあんな子はアタシは知らないし…」
カラーは生前の行いによって、死した後で天使か悪魔へと変わってしまう。
レンは間違いなく天使ではるが、カラー出身の天使とは違うような気がする。
「エンジェルナイトだ。出来ればこの事は秘密にして欲しい」
「…まあいいさ。アタシもカラーの恩人の秘密をペラペラ話す気なんて無いしね」
スラルの言葉にハンティは頷き、レンの行動を注視する。
流石の魔物兵も上空には無警戒で、誰もレンの姿に気づいてはいない。
魔物達もまさか人間が自分達を襲ってくるなど考えてもいない。
そのせいか、レンはあっさりと単体行動をしている魔物兵を見つける。
そしてそのまま魔物兵の頭上へと移動し、その頭を盾で殴りつける。
エンジェルナイトの強烈な腕力で殴られた魔物兵はあっさりと気絶する。
レンはその魔物兵を担ぐと、そのまま誰にも見られないように慎重にこちらへと戻って来た。
「…凄いもんだね」
「まあこれくらいはね。それにやけに気が抜けてたし」
「時代が時代だ。魔物からすれば、人間が自分達が居る所に攻めてくるという考えも無いのだろう」
「それよりもとっとと尋問するぞ。おら起きろ!」
気絶している魔物兵の頭をランスが乱暴に叩く。
起きる気配の無い魔物兵に対して苛立つと、ランスは剣を抜く。
「止めなさいよ。折角連れてきたのに。もっと楽な方法があるでしょ」
レンはランスを止めると、そのまま雷撃を魔物兵に放つ。
「あばばばばば!!」
その刺激に目が覚めたのか、魔物兵が痙攣しながら奇声を放つ。
「…ん? 間違ったかしら?」
「魔物兵だから別に構わんとは思うが…とにかく目を覚ましはしたようだな」
スラルの声に合わせるように、魔物兵が起き上がる。
ただ、レンの魔法の威力は思いの外大きかったようで、その動きは緩慢だ。
「こ、ここは…」
頭をふらつかせる魔物兵に対し、ランスはその首に剣を突き付ける。
「に、人間!? ど、どうしてこんな所に人間が!?」
「黙れ。大声を出すな。次に俺様の許可なく言葉を発したらその手を落とす。次は足だ」
ランスの殺気にのまれたのか、魔物兵は無言でこくこくと頷く。
「我の問いに答えろ。あの城は魔人メディウサの城だな?」
「そ、そうだ。あそこには魔人メディウサ様が居る」
「つい最近、カラーを捕らえたな」
「あ、ああ! 移動していたカラーを見つけて捕らえた! カラーの捕獲はメディウサ様の命令なんだ」
その言葉にハンティの目が吊り上がる。
(やっぱりケッセルリンクの懸念は当たってたって事かい)
ハンティはカラー達が捕らえられた時、ケッセルリンクを訪ねた。
その時の答えが、
『何故だか知らないが、メディウサの行動はジル様に見逃されている。だから私もメディウサに対しては何も出来ないのだ』
メディウサの凶行を止められないと言う、無念そうな言葉だった。
「そうか。ならば二度は聞かん。城に入る方法を教えろ。勿論正面から以外だ」
スラルの言葉に合わせるように、ランスの剣が魔物兵の喉元に少し刺さる。
「あ、ある! 死体の搬出口だ! メディウサ様が人間を殺した後に死体を捨てる場所! そこからなら入れる!」
「ならばそこに案内しろ。余計な事をすれば…お前はこの世界のありとあらゆる苦痛を受けて死ぬことになる」
「わ、分かった! だ、だから殺さないで…」
魔物兵には人間にはある忠誠心というものがほとんど存在しない。
中には忠義を尽くす魔物も居るが、大体の魔物兵はこんなものだ。
全ては自分の快楽のため、人間を犯し殺す、それが魔物にとって至上の喜びなのだから。
「見つからないように行きなさいよ。変な事をしたら殺すわよ」
レンは剣を突き付けながら笑う。
「こ、殺さないで…」
魔物兵は完全に戦意を喪失してしまっている。
そんな魔物兵を先頭にランスは進んで行く。
そして他の魔物兵にも見つかる事なく、メディウサの城へと潜入出来た。
「…随分と警備がザルだな」
ランスはあっさりと潜入出来たことに鼻白む。
いくらなんでも上手く行き過ぎている。
「警備が手薄なのはある意味当然だな。魔人は無敵の存在なのだからな」
「…そういやそうか」
ランスは魔人とは何度も戦ったが、そもそも魔人とは人間を完全に見下している。
だからこそランス達人間でも魔人に付け入る隙があったのだ。
唯一の例外は、人間に不覚を取っているザビエルくらいだろう。
「それにしても…酷いね」
ハンティは周囲を見て不快な顔をする。
そこには人間の死体と思われる血の滲んだズタ袋が無数に転がっていた。
「うげっ!?」
そしてランスは見てしまう。
それはズタ袋が破れて、死体が見えてしまっている。
つい最近殺されたであろうその死体は、これまでランスが見てきた死体の中では常軌を逸していた。
腹部が内側から破け、その手足は何かに食いちぎられたかのように存在しない。
その顔は苦痛に歪んでおり、その目は存在せずに涙の跡のように血が流れている。
「…酷いな」
死体を見てスラルも不快な顔をする。
スラルは元魔王なので、人間の死体は別に珍しくは無い。
魔物が遊び感覚で人間を殺していたのも知っている。
だが、これは流石に不快感を覚える。
「カラーは何処だ!」
ハンティは声を荒げて魔物兵に詰め寄る。
「し、知らない! 俺は本当に知らないんだ! 俺は唯の下っ端で、カラーを捕らえた事は知っているけどそれ以上の事は知らないんだ!」
魔物兵は怯えながら答える。
ハンティはそれを聞いて苛立ち気に魔物兵を放す。
「で、メディウサとかいう奴は何処にいる」
「も、勿論メディウサ様の部屋だ。でも、俺みたいな下っ端が呼ばれるのは、死体を運ぶ時だけだ」
「使えんな。まあいい。ここまで来たらお前にはもう用は無い」
「え? そんな…うぎゃー----っ!!」
ザクーーーーーーッ!
ランスは魔物兵を躊躇に無く斬り殺した。
「もうちょっと情報を引き出しても良かったんじゃない?」
「こんな下っ端等生かしておく価値は無いわ。それよりも騒がれる方が面倒だ」
ランスはそのまま進んで行く。
ここは死体を運ぶ道だけあって、血の跡が完全に地面に染みついている。
「よーし、ここからは隠れながら行くぞ」
「ああ。魔物兵を見つけたら騒がれないように始末する必要があるからな」
ランスは周囲を警戒しながら進んで行く。
幸いにも魔物兵の姿は無く、ランス達は順調に進んで行く。
「…想像以上に魔物兵が少ないな」
スラルも魔物兵の少なさには首を傾げる。
自分が魔王の時とは時代が違うのは分かるが、それにしても魔物兵の姿が少なすぎる。
城の管理にも便利なメイドさんの姿も見えない。
「基本的に魔人に仕えている魔物兵ってのは少ないみたいだからね。ケッセルリンクの城には、魔物兵は一体も居なかっただろ?」
「そういやそうだな」
この時代、魔人に仕える事が出来る魔物兵などほんの一握りだ。
ケッセルリンクに至っては、魔物兵を一体も側に置いていない。
「基本的にこの世界は魔物にも地獄なのさ。殆どの魔物が魔王に処刑されるために生まれ、それを逃れた奴は人間牧場と魔物牧場の管理に回される。それ以外の奴等は野良モンスターになるのさ」
「…そうか」
スラルはジルの治世を聞いて顔を沈ませる。
ジルの魔物に対しての恨みは深いようで、人間に対しても魔物に対しても地獄を見せている。
「運のいい奴だけが魔人や魔王に仕える事が出来るのさ。でも、そんなのは一握りさ」
「だから魔物兵が少ないのね。私達を探しに来たカミーラが特殊だったって事ね」
カミーラは以前無数の魔物兵と、魔物将軍を率いてレイを探していた。
魔王の命令が無い限り、魔軍は特別な行動は出来ないのだ。
「だけどメディウサだけが有る程度自由にしているってケッセルリンクも言ってたよ。理由は分からないけどね」
魔人メディウサは何故か魔王から目をかけられている…そんな話は魔物の中では有名だ。
なので魔物達は皆魔人メディウサの元へと行きたがる。
「そんな事はどうでもいい。とっとと行くぞ」
ランス達は隠れながら進んで行く。
魔人の城とはいえ、今の時代では魔物兵の数は少なかった。
「うーむ、カラーが何処に居るのか分からんな…」
進んでは行くが、肝心のカラーの場所が分からない。
「…もしかしたらメディウサにもう殺されているのかもしれないね」
ハンティは覚悟をしながら言う。
魔物…いや、カラーが捕らわれるという事はそういう事だ。
人間に捕らわれたとしても、そのカラーの命は無いだろう。
「馬鹿な事を言うな。俺様がこうして来てるんだぞ」
ハンティの苦渋に満ちた言葉をランスが根拠の無い事を言って跳ね飛ばす。
(うむ、そうだ。俺様が遅れる訳が無い)
ランスも少し不安にはなっているが、それでも進んで行く。
「隠れなさい。魔物兵よ」
レンの言葉に合わせてランス達は物陰に隠れる。
そこには赤魔物兵と緑魔物兵が歩いていた。
「あーあ。結局メディウサ様が全部お楽しみかよ」
「言うなよ。牧場に回されるより遥かにマシだろ」
「そうだけどよ。メディウサ様の所に回されたら安泰って話は嘘だったのかよ」
緑魔物兵の愚痴に、赤魔物兵も乾いた声で笑う。
「今度はカラーだからな…俺嫌だぜ、ケッセルリンク様に睨まれるの」
「あの方も怒ると滅茶苦茶おっかないって話だからな…魔物兵も全く寄せ付けない方だしな」
魔人ケッセルリンクは魔人の中でも非常に美しいと評判だ。
その美しさは魔人カミーラに匹敵すると言われており、誰もがその配下になる事に憧れている。
だが、生憎とケッセルリンクは魔物兵を全くと言っていい程寄せ付けなかった。
全ては自分と使徒達で事足りているので、魔物兵を必要としていないのだ。
「俺も野良モンスターになろうかな…」
「ハハハ。こうして生きているだけでも十分じゃねえか」
「だったら今ここで死ね」
魔物兵たちの背後から突然聞こえてきた声に二体が同時に振り向く。
だが、その瞬間には赤魔物兵の胸にはランスの剣が突き刺さっていた。
その剣は急所を微妙に外れて居るが、赤魔物兵はその事を口に出す事も出来ない。
内側からランスの剣の形が変わり、赤魔物兵の中身を内部からグチャグチャにする。
全身から血を噴き出して赤魔物兵が倒れ、驚きで声も出ない緑魔物兵をレンが後ろから盾で殴りつける。
盾で頭を強打された緑魔物兵はそのまま気絶する。
「死体はきちんと処理しないとね」
レンは赤魔物兵を担ぎ上げると、そのままぞんざいに窓から投げ捨てる。
見回りも碌にしていない魔物兵ならば、見つかるにしても大分時間がかかるだろう。
そのまま緑魔物兵の頭を掴んで、物陰に隠れる。
「おきなさーい」
そのまま乱暴に魔物兵を殴りつけると、その痛みで魔物兵が目を覚ます。
「な、なんだお前…むぐ!」
「はい喋らない。あなたは私達の質問の時だけ口を開いていい。じゃないと死ぬ。分かった?」
レンの圧倒的な腕力に恐怖を覚えたのか、魔物兵はコクコクと頷く。
「じゃあハンティ。聞いて良いわよ」
「カラーを捕らえただろう。そのカラーは何処にいる」
ハンティが魔物兵を尋問していると、ランスは奇妙な気配を感じ取る。
他の皆はそれに気づいていないようで、魔物兵を尋問している。
「スラルちゃん。クリスタルソードを貸せ」
「別に構わんぞ」
ランスはスラルからクリスタルソードを受け取る。
何故だか分からないが、剣がランスを呼んだような気がしたのだ。
(気のせいか? だが、このクリスタルソードが俺様を呼んだような…)
喋る剣であるカオスや、しばらくの間ランスの剣に入っていて、そこから声を出していたスラルの例が有るからか、ランスは剣が喋るという事が当たり前のようになっていた。
だからこそ、このクリスタルソードがランスを呼んだような気がしたのだ。
しかし、気のせいだったようでランスがクリスタルソードをスラルに渡そうとした時、
「むっ! そこだ!」
ランスは奇妙な気配を感じ取り、そこに視線を向ける。
「ひいっ!」
「む」
ランスの視線の先には、一人のカラーが身を隠していた。