ランス再び   作:メケネコ

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魔人アイゼル

 魔人アイゼル―――それはランスが一番最初に倒した魔人。

 正確には、アイゼルは魔血魂になっておらず、LP期にもリーザス城を徘徊する幽霊だと言われている。

 だが、今はGL期なので、当然の事ながらアイゼルは生きている。

 そして再びランスの目の前に立っていた。

「お見事ですね。あれ程の攻撃を受けながら、まだ生きている…それは驚愕に値します」

 魔人アイゼルは本心からそう言っていた。

 魔王ジルへの恐怖心がトラウマとなり、魔人となった今でもジルの前では恐怖が先に立つ。

 それ故に自分の弱さは人間の弱さと切り捨て、魔人として生きてきた。

 だが、その魔人の城へと侵入した挙句、数百の魔物兵とも戦い今でも五体満足で立っている。

 そんな人間を見て、心の底から感心していた。

「こちらへと来なさい。ここではあなた方も具合が悪いでしょう」

 アイゼルの言葉をランスは疑うが、

(ランス、今は奴の言う通りにするしか無いだろう)

(そうよ、ここで他の魔人が出てくるなんて事になったら厄介よ)

 スラルとレンに耳打ちされ、渋々ながらも魔人アイゼルの後についていく。

 ランスはアイゼルの背中を見ながら、こいつがどういう魔人なのかを思い出そうとしてた。

(…いかん、こいつは俺様が志津香を使って不意打ちしたくらいしか覚えてないぞ)

 魔人アイゼルのとの戦い…それは確かにランスの勝利に終わった。

 ただ、その時はアイゼルが志津香を狙っている事を見抜き、その志津香を使ってアイゼルに不意打ちをしかけた。

 胸をカオスで貫かれたアイゼルは死にはしなかったが、それでもランス達と戦った時には半死半生という感じだった。

 なので、ランスはまともに魔人アイゼルとは戦っていないのだ。

 だから、アイゼルがどういう魔人なのかは覚えていなかった。

 何しろその後のジルの方が衝撃的過ぎて、魔人ノスの事すらも忘れていたくらいだ。

 ランス達はしばらく歩いて行くと、アイゼルがその歩みと止め振り返る。

「この辺で良いでしょう。さて…次は私が相手になりましょう」

 そう言ってアイゼルは剣をランスに向ける。

「さっきは魔軍との戦いを止め、次はお前が我等に剣を向けるか。どういう趣向だ?」

「魔軍に関しては、明らかにジル様の命令を無視していた魔物将軍を止めただけの事。その後にどうしようが私の勝手です。それに…」

 スラルの言葉にアイゼルは唇を吊り上げて笑う。

 が、その後で一転してその端麗な顔に闘志を宿らせる。

「あなた方の力、是非ともこの身で確かめておきたい」

 魔人一の美形と評されたその顔は確かに美しい。

 だが、当然ランスにとっては女にもてそうな男は敵でしかない。

「フン、お前みたいな雑魚が俺様の邪魔をするなど100年早いわ。まあいい、今度こそ止めを刺してやる」

 ランスの言葉にアイゼルは喜色を浮かべる。

「ええ。かかって来なさい。このアイゼルの首を取れると言うのなら」

 そう言うとアイゼルの魔人としての気配が膨れ上がる。

(む…こいつはそこそこやりそうだぞ)

 リーザスの時は完全な不意打ちによってその力の大半を削いだが、今のアイゼルこそが本気のアイゼルという事なのだろう。

 勿論LP期程のレベルは無いだろうが、それでも半死半生だった時よりも遥かに強い。

 ランスはその肌でアイゼルの力を感じ取っていた。

「そこのカラー。私はあなたに手を出す気はありません。ケッセルリンクに恨まれるのは流石に御免ですからね」

「…そうかい」

 アイゼルの言葉にもハンティは固い声で返す。

「ハンティ、下がって居ろ。その子を巻き込むわけにはいかない」

「…分かったよ」

 スラルの言葉にハンティは素直に引き下がる。

 ランスと魔人の戦いに巻き込まれればこの子はひとたまりも無いだろう。

 ハンティがこの子を守らなければならないので、どの道魔人アイゼルとの戦いには参加は出来ない。

「さて…行きますよ。あなたの力、存分に見せてみなさい」

「偉そうに上から目線で言ってんじゃねー! ぶっ殺す!」

 そしてランスとアイゼルは同時に駆ける。

 ランスの剣とアイゼルの剣が激しくぶつかり、火花を散らす。

 魔人としての圧倒的身体能力から、アイゼルはランスを力で押すが、そんなものはランスも当然の事ながら分かっている。

 ぶつかり合う剣から力を抜き、アイゼルのバランスを崩す。

 バランスを崩したアイゼルだが、それでも魔人であるが故か、そのまますぐに態勢を立て直そうとするが、その時にはランスの剣がアイゼルの首目掛けて放たれていた。

 ランスの剣が無敵結界と激しくぶつかりあり、ランスはランス自身の剣の衝撃で弾き飛ばされる。

「ライトニーングレーザー!」

「エンジェルカッター!」

 同時にスラルとレンの魔法がアイゼルにぶつかるが、それも無敵結界に阻まれる。

 二人の魔法が無敵結界にぶつかった事で、アイゼルは一瞬ランスの姿を見失う。

 ランスの姿は、自分が強い衝撃に襲われたことで初めて見ることが出来た。

「クッ!」

 アイゼルは無敵結界の上からでも感じる衝撃に唇を噛む。

 ランスの攻撃は無敵結界の上からでも矢継に放たれる。

 効いていないのは分かっているのだろうが、それでもお構いなしだ。

 アイゼルは心の中で笑うと、

「そこまでです。火爆破!」

 ランスに向けて魔法を放つ。

「ランス!」

 魔人アイゼルの魔法からランスを庇ったのはレンだ。

 その高い防御能力を使い、ランスが受けるダメージを極限まで減らしている。

「あちち…こいつ、こんな魔法まで持ってやがったのか」

 リーザスでの戦いが嘘のように強力な力を持つアイゼルには、流石のランスも驚いてしまう。

「昔に倒したって言ってたわね。その事は忘れなさいな」

「フン、どっちにしろもう一度倒せば良いだけだ」

 レンの小言にランスは不敵に笑うと剣を構える。

「お前、魔人の中では大したこと無いだろ」

 ランスの言葉にアイゼルは少し驚いた顔をする。

「その口ぶり…他の魔人も知っているとでも言うのですか?」

「カミーラやケッセルリンクに比べればお前なんざ雑魚だ雑魚。そんな奴が俺様に勝てるとでも思っているのか」

「…成程、少しは知識があるようですね」

 ランスの言葉にアイゼルは内心では驚いている。

 カミーラとケッセルリンクは魔人四天王であり、その力はまさにずば抜けている。

 だが、知られているのはあくまでも魔物界だけ、人間界ではこの二人の名前はそこまで知られていないはずだ。

 何しろカミーラは基本的に怠惰で、自分の好きなようにしか行動しない。

 人間には興味が無いようで、人間牧場にも全く興味を示さなかった。

 ケッセルリンクはカラーの魔人だが、この魔人こそ全く表立って動いていない。

 人間と対立した事も無く、人間にとっては殆ど無害と言ってもいい魔人だ。

 だが、この二人の共通点は圧倒的な強さだ。

 ドラゴンの魔人であるカミーラは、その種族通り恐ろしい力を持っている。

 ケッセルリンクはカラーの魔人だが、その力はトップクラスだ。

 その二人の名前を出してくるという事に、アイゼルは疑問を持った。

「とにかく死ねー!」

 ランスは再び駆け出し、アイゼルへと斬りかかる。

 アイゼルにはランスの剣を受ける必要は無い。

 無敵結界が有る限り、魔人は決して傷つくことは無いのだから。

「フフ…威勢がいいですね」

 だが、アイゼルはあえてランスの剣を受けた。

 アイゼルも剣には覚えはあるので、こうして人間と剣を合わせるのは初めてだが、その感覚に聊かの高揚を覚えていた。

 それは魔王によって与えられた血が影響しているのかもしれない、とにかくアイゼルは初めて自分の体の中の魔人の血が熱くなっているように感じていた。

「まさか今の時代にこんな人間が居るとは…思っても居なかったな」

 アイゼルはランスの剣を受け止めながら笑う。

 魔人でありながら、アイゼルは心の底からそう思っていた。

 何故なら、アイゼルもまた人間牧場で生まれた人間だったからだ。

 何が魔王ジルの琴線に触れたかは分からないが、とにかくアイゼルは魔人になった。

 それ故に、アイゼルは人間牧場がどんな所なのかよく知っている。

 何しろ人間牧場の人間は『人間』ではない。

 何も考える事も出来ず、ただただ子供を産むだけ。

 そんな事が続けば、人はもう何も考える事が出来ない。

 それこそまさに『地獄』と呼ぶにふさわしい場所だ。

(私は違う)

 アイゼルはそんな人間牧場の中で魔王ジルに選ばれ、魔人となった。

 その日から、アイゼルは弱い自分と決別した、そう思っていた。

「剣では私をも上回る…だが、これならどうです。ファイヤーレーザー」

 アイゼルの魔法がランスへと放たれる。

「っと!」

 レンがアイゼルの放った魔法を盾で受け止める。

 流石に魔人の放つ魔法の威力は大きく、エンジェルナイトであるレンも傷つく。

「流石に魔人の魔法。でも…他の魔人に比べればまだまだ。魔人になりたてといった感じかしらね? 違う?」

「…」

 レンの指摘にアイゼルは何も答えない。

 だが、その間こそが真実であることを如実に語っていた。

「フン、なり立ての奴が俺様に勝てるとでも思っているのか」

「人間が中々言いますね」

 ランス達の態度にはアイゼルも魔人としてのプライドが刺激される。

 だが、アイゼルはその程度では激昂はしない。

 何だかんだ言っても、アイゼルはランス達の指摘の通り、魔人となって日が浅い。

 魔人としては新参も良い所だ。

(ふむ…どうやら他の魔人とも戦っている様子。だが…彼等は人間のはずだ)

 アイゼルはランス達を見る。

 年齢は何れも20前後に見える。

 間違いなく魔人では無いし、使徒でも無い。

 しかし、アイゼルはある違和感を感じ取っていた。

 それは、この人間達が魔人に対しても全く臆していないどころか、まるで魔人と何度も戦っているような感じがするのだ。

「ランス、行くぞ。粘着地面!」

 スラルが魔法を唱えると、アイゼルの立っている地面がぬかるみ始める。

「む」

 魔人の無敵結界も攻撃でなければ効果は発揮しない。

 粘着地面の魔法は拘束系の魔法なので、無敵結界の効果の範囲外だ。

 そしてアイゼルはその事を知らなかったので、ぬかるんだ地面に足を取られる。

(だが、これでは相手も私に攻撃出来ない。そもそも、無敵結界がある限り私にはダメージを与える事は出来ない)

 その事は人間達も承知のはずだ。

 だが、それでも目の前の人間達はアイゼル向けて攻撃の手を緩めない。

「がはははは! どうせ近づかなければ何も出来ないとでも思っとるんだろ! だが、超スーパーな俺様にはそんな事は関係無いわ!」

 アイゼルがランスを見ると、ランスの持つ剣が不気味な光を放っている。

 黒い刀身が白いオーラのようなもので覆われ、そこから凄まじい力が感じ取れる。

 アイゼルにはランスが何をしようとしているのか、全く分からなかった。

 だが、それは直ぐに分かる事になる。

「死ねーーーー! ラーンスあたたたーーーーーック!」

 ランスは手にした剣を逆手で持ち、それで地面を斬るようにアイゼルに向かって放つ。

 当然剣は届かない…のだが、その代わりに剣に纏っていたオーラがアイゼル目掛けて襲い掛かる。

「!」

 流石のアイゼルもまさかそんな攻撃が来ることは予想もしていなかった。

 ランスの放ったオーラは地面を抉りながらアイゼルの体に襲い掛かった。

 轟音と共に土煙が舞う。

 その光景をハンティは目を見開いて見ていた。

(凄いね…)

 ランス達の実力は分かっているつもりだったが、どうやらそれはハンティの予想を遥かに上回っていたようだ。

 まさに人を超えた一撃だ。

 だが―――

「成程。色々とやるものですね。ですが、魔人の持つ無敵結界は破れませんよ」

 そこには悠々と立っている魔人アイゼルの姿が有った。

 いかにランス達の力が凄まじくても、やはり無敵結界がある限りは傷一つつける事は出来ないのだ。

「…チッ。スラルちゃん、アレを使うぞ」

 ランスは舌打ちをしながらスラルを見る。

「…それしか無いのかもしれないな。ランス、機会は多くないぞ。確実に仕留めなければいけない」

「分かっとるわ」

 不完全のバスワルドの力を使わねば魔人にダメージは与えられない。

 ランスはそれを悟りあの力を使う事を決める。

 その力を使うと、スラルの消耗が激しく、しばらく間スラルは全く魔法を使えなくなる副作用があるが、それでも使うしかない。

「ランス…ランスと言うのですか」

 アイゼルは人間の名前を聞いていなかった事を今更ながら気づく。

 同時に、その名前には聞き覚えがあったのを思い出す。

(あれは確か…そう、レイだ。レイがその名前を出していた)

 魔人レイはアイゼルとほぼ同時期で魔人になった人間だ。

 特に仲が良い―――という訳では無いが、同じ時期に人間から魔人になったので、それなりに話す事はあった。

 そしてレイの行動の一つに、世界を放浪しているという所があった。

 特定のテリトリーを持たず、気ままに世界を見て回っているようだ。

 そんなレイに興味を持ち、一度聞いた事があった。

 勿論不愛想なレイは話すような事は無いが、一度だけ誰かの名前を出していた事があった。

 興味本位でその事を聞いてみたのだが、レイは当然の事ながら『関係ねーだろ』と言うだけだった。

 だが、あの喧嘩っ早いレイが誰かに固執する理由は一つしかない。

 即ち、人間の時に何かの因縁があったという事だ。

 しかし、それにも疑問が有り、レイが魔人となったのは今から10年以上前の事だ。

 そんなレイが寿命がある『人間』を狙うというのが不自然だった。

(…では、何かが有る、という事ですか)

 目の前に居る人間には人知を超えた何かが有るのかもしれない。

「行くぞスラルちゃん。ぶっ殺すぞ」

「ああ。最初からそうする以外には無いからな」

 アイゼルの目の前に居る人間の目にはまだ強い光が灯っている。

 そしてそれはアイゼルをして『何かが有る』と感じ取れるモノがあった。

「…ここまでで良いでしょう」

 アイゼルは剣を収める。

「あん?」

 ここからバスワルドの力を使って、アイゼルを倒そうとしたランスは気が削がれてしまう。

「どういうつもりだ」

 スラルが怪訝な顔をする。

 ハッキリと言えば、魔人がここで自分達を見逃す理由は無いのだ。

「フッ…レイに恨まれるのは面倒ですので。それでは失礼しますよ」

 アイゼルはそう言うと、ランス達に背を向けて本当に去っていった。

「…何だアイツは」

「さあね。でも一応は助かった、ていう形になるんじゃない?」

 ランスの疑問にもレンは気楽そうに答える。

 勿論まだまだ自分達は戦えるが、それでも魔人を倒せるがどうかは怪しい。

 それに、下手に目立ってしまうと、魔人カミーラや、最悪魔王ジルに見つかる可能性が高くなる。

 それは避けたいのが現実だ。

「…驚いたね。まさか魔人とあそこまで渡り合えるなんてね」

 ハンティは本気で感心しながら現れる。

「無事か」

「ああ。おかげさまでね。この子も良く寝ているさ」

 ハンティの腕の中ではカラーの娘ががまだ眠りについている。

「本当に何だったのだろうな、奴は。魔人アイゼルと言ったな…」

 スラルはあの魔人の行動に首を捻る。

 まだ若い魔人であるのは分かるが、魔人の行動としては不可解だ。

(まあ不可解なのは他の魔人も一緒か)

 だが、考えても恐らくは答えは出ないだろう。

 なのでスラルも考えるのは止めた。

「それにしても…バイクが壊されたのが痛いわね…」

「あ、そうだ! 俺様のバイクが…」

 レンの言葉にランスは本気でショックを受けた顔をする。

 あのバイクはランスにとってはお気に入りだった。

 運転している時はランスも気分が良かった。

 何よりも非常に便利だ。

 だが、そのバイクはあの魔物将軍によって壊されてしまった。

「パイアールにしか作れないだろうな。今は魔人になってるから作ってもらえるか怪しいがな」

「…あの乗り物、魔人が作ったものだったのかい!?」

 スラルの言葉にハンティは驚く。

 奇妙な道具だと思っていたが、まさか魔人パイアールが作った物だとは思っても居なかった。

「ああ、奴がまだ人間の時に依頼の報酬として受け取った。尤も、あれを使いこなせるのはランスしかいないがな」

「魔人が人間だった頃か…アンタ等、魔人にどれだけの知り合いが居るんだい」

 魔人は人間の敵ではあるのだが、ランスはその魔人とも繋がりを持っている。

 それが良い事なのかどうかは、ハンティにも想像出来なかった。

「ランス、どうする」

「…フン、まずは戻るぞ。戻ったら何発かやらなきゃ収まらん」

 ランスはバイクを壊された事は、セックスで解消するしかないと考えた。

 幸いにも、ランスとのセックスを全く嫌がらない二人の尻を掴むと、そのままぐにぐにと揉む。

「盛るのは戻ってからにしなさいな」

「こんな時でもそういう事を考えるお前は本当に底なしだな」

 二人はそう言いながらも、ランスの好きにさせている。

 少しでも苛立ちを発散させないと後が面倒くさい。

「生き残ったのはこの子だけ…でも、礼を言わせてもらうよ」

 ハンティは改めてランス達に頭を下げる。

 カラーは魔人に殺されてしまったが、それでも一人は助ける事が出来た。

 今のカラーの情勢では、一人生き残る事の意味は非常に大きい。

「気にするな。あ、いや、やっぱ気にしろ」

「どっちだい、全く…」

 ランスの言葉にハンティは苦笑するしかない。

 この男の事だから、恐らくは本気で言っているのだろう。

「魔人メディウサ、か。どうしてあんな奴が魔王に放置されているのかね…」

 ハンティはまだ見ぬ魔人メディウサに対して、強い殺意を持っている。

 あの魔人は出来る事なら倒してしまいたい…だが、その方法が見つからない。

(…でも、こいつらなら本気で何とかしそうな感じはあるんだよね)

 ハンティはスラルとレンの胸に手を伸ばして、二人に頭を叩かれているランスを見て呆れていた。

 だが同時に、この男には何かとんでもない『何か』があるのかも、とも感じていた。

「すごい…」

 そしてハンティの腕の中で眠っていたはずのカラーが、目をキラキラさせてランス達を見ていた。

「がはははは! 見てたか、俺様の強さを」

「魔人相手に凄かったです…」

 カラーの少女には正にランス達が過去の自分達の英雄である、ケッセルリンクと同じ存在に見えていた。

「フン、当然だ。俺様は何体も魔人をぶっ殺してきたからな」

「すごいです…」

 少女の頭を軽く撫でながら、ハンティは呆れた顔をする。

「それはいいから早く戻った方がいいんでない? 目的は果たせたんだからさ」

「それもそうだ。カラーの里までは遠いが、急いだほうが良いだろう」

「そうね。ランス、取り敢えず戻りましょう」

 女たちの言葉にランスは忌々しげに舌打ちする。

 バイクが有れば、簡単に戻る事が出来たのだ。

「まあいい。取り敢えず戻るぞ」

 ランスがそう言った時、

「やっほー、ランス。久しぶり~」

 突如として、間延びした声がランスの足元から聞こえてきた。

「む。あ、セラクロラス!?」

 そこに居たのは聖女の子モンスターであるセラクロラスだった。

「少ししか力戻ってないけど、また行くね~。てやぷ~」

 気の抜けた声と共に、ランスとスラルとレンの体が光に包まれたかと思うと、そのまま姿を消す。

 ハンティはその光景を茫然として見ていた。

「…ああ、これがケッセルリンクの言っていた事かい」

 ランス達は時間を超えている、ケッセルリンクからそう聞かされていたが、いざ目の前でそれを見ると不思議な感覚に陥る。

 さっきまで間違いなくランス達は存在していたのだ。

「始祖様? あの人達消えちゃったよ?」

 カラーの少女は首を傾げる。

 今目の前で起きた事が理解できていないのだろう。

「ああ、大丈夫さ。また何れ会える時が…来るさ。お前が会えるとは限らないけどね。もし会えたら…お前はどうしたい?」

 ハンティの言葉に、カラーの少女は強い意志を持って答える。

「恩返しする!」

 その言葉にハンティは笑う。

「ああ、その意気さ。あいつらなら必ず魔人メディウサを倒すだろうさ。あいつの持ってるクリスタルがある限りね」

 ランスの手に有るのは、今回メディウサによって殺されたカラーのクリスタルだ。

 恐らくは、メディウサへの強い恨み、そして呪いが込められているだろう。

 無敵結界がある魔人にはカラーの呪いも効かない。

 だが、あの男なら必ずあの魔人を殺すだろう。

「その時まで力をつけな。死んじまった皆の分までね」

「はい! 始祖様! 私絶対強くなります!」

「その意気だ。じゃあ帰るよ…えーと、名前は何て言うんだい?」

「リディア! リディア・カラーです!」

「ああ。じゃあ強くなりな。あの魔人に呪いをかけられるくらいにね」

 ハンティ達はそのままカラーの里へと戻っていく。

 何れ来るであろう、魔人とランスの戦いに備えるために。

 そしてそれは意外と早く訪れる事になるのを、この二人は知らなかった。

 




ここから少しエターナルヒーローの視点に移りますのでランス君は少しの間出番無しです
でも、鬼畜王のブックレットのエターナルヒーローが分からない人には本当に分からないよな…

ガイに関してはあまり詳しくは描写出来ないと思います
公式の描写が無いので難しいです…

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