ブリティシュ達が黄金像を手に入れてから数年後のGL533年―――エターナルヒーローと呼ばれた彼等は、消えてしまったと噂が流れた。
だが、彼等が消えても人々の生活が変わる訳では無い。
人々は魔物や魔人に怯え、息を潜めて暮らしていた。
そして時間が経つにつれ、人々はエターナルヒーローの事を口にしなくなった。
しかし―――彼等は消えたわけでは無かった。
あるダンジョンを見つけ出し、そこの手応えを感じ取り、古代の遺跡に挑戦していた。
彼等は数年間魔人を倒す事が出来る伝説の武器やアイテムを求め、世界中を巡り巡った。
そしてこの古代遺跡の中に「何か」があると信じ、ここを入念に探索していた。
勿論それは順調にいった訳では無く、様々な困難が彼等を襲った。
彼等はそれを退け、そしてついにその「何か」を見つけた。
そしてその場所に挑むために覚悟を決めて向かう事にする。
食事をしながら最後の打ち合わせをしていた時、カオスが言葉を放つ。
「儂はわしのやりたい様に、この夜を過ごす。いいか?」
その言葉には誰も反対せず、各々が好きなように過ごす事になった。
彼等は思い思いにその夜を過ごした。
ブリティシュは黄金像を見ながら、この先に何があるのかを思案していた。
答えは勿論でないが、それも次の日には明らかになる。
それを思いながらいよいよ最後の日は近づいてきた。
カオスは娼婦を抱き、ホ・ラガは少年を抱く。
そしてカフェは自分の容姿の事で悩んでいた。
最後の夜に、ブリティシュに想いを伝えられぬまま…
本来であれば、日光は己の部屋のベッドで静かに瞑想をしているはずだった。
いや、瞑想をしている事には変わりない。
己の家族が殺された日の事は今でも忘れていない。
魔人や魔物に対する暗い復讐心…それこそが日光を突き動かしている根本的なものだ。
だが、それとは別に彼女はもう一つの『仲間』の事を思い出していた。
(ランス殿…スラル殿…レン殿…そしてカラーの皆…)
それは自分を助けてくれたランス達の事。
あれから再び出会う事は無かった。
本音を言えば…一度くらいはランスと出会うかもしれないと思っていた…いや、期待していた。
だが、それが運命だとでも言うのか、ランスとは出会えなかった。
(私は…結局ランス殿に伝えられなかった)
感謝の言葉は何度も伝えた。
自分を助けてくれたこと、自分を強くしてくれたこと、そして自分に世界を見せてくれたこと。
その全てをお礼として口にも出した。
ランスには体を要求されたが、日光は多少は躊躇いながらもランスに体を許した。
だが、結局は違ったのだ。
自分がランスに抱かれるために『へまをする』なんて理由付けに過ぎなかった。
(スラル殿の言葉が今なら分かる…私は女だった)
日光の頭に有るのはスラルの言葉。
『お前はどこまでも女だよ』という最後の言葉。
それを嫌と言う程思い知っていた。
(ランス殿に会いたい…)
これで最後になるかもしれないのだ。
それなのに、自分はランスに自分の本心を伝える事が出来なかった。
ランスとは道を違えはしたが、やはり自分の心には嘘はつけなかった。
「ランス殿…」
ランスと共に冒険をしていた時に見つけた刀、富嶽を手に日光は涙を流す。
女は捨てたなんて言葉はやはり嘘だった。
会えなくなって、より一層ランスという男の事を強く想うようになった。
だが、これが最後…日光は己の本来の目的のため、心を切り替えた。
いや、切り替えるしかなかった…全ては自分の今の仲間達のために。
そして次の日…本来の歴史通りにエイナが襲来する。
全ては自分の好意を踏みにじったブリティシュとホ・ラガに復讐するため。
そして彼等が持つ黄金像を奪うため。
だが、当然の事ながら彼女の襲撃は失敗する。
彼女の部下のメイはブリティシュによって斬られた。
そしてもう一人の部下のシン…後にブリティシュに呪いを与え、コンクリート付けにしてしまう男。
日光は…やはり彼を斬れなかった。
無暗に人を斬ることが出来ない、彼女の優しが引き起こした事だ。
そして魔女エイナは…
「あんたは殺す! ホ・ラガ!」
「そう…ですか。目には目を…歯には歯を…私ももう手加減なしです」
そのやり取りの後で、エイナはホ・ラガに殺されるはずだった。
ホ・ラガが魔法を放とうとした時、凄まじいプレッシャーを感じ取る。
ホ・ラガは自分の体温が一気に冷えるのを自覚する。
それはエイナも同じのようで、怒りに真っ赤に染めていた顔を真っ青にする。
「な、何…?」
「これは…」
「ホ・ラガ!」
エイナの仲間達を全て倒したブリティシュ達が合流する。
「ブリティシュ…」
「ああ…何かとんでもない存在が居る…」
ブリティシュも今まで感じた事の無い気配に顔を青くしている。
この気配は間違いなく魔人だ。
「おい! どうなってやがる!?」
魔人への敵意を隠さないカオスも、この空気には流石に顔を引きつらせている。
(ジーナを殺した魔人とは比べ物にならねえ程の気配だと!?)
自分の恋人を殺した魔人も、当時のカオスからすれば手の届かない存在だった。
勿論今でもその魔人には勝てないだろう。
だが、それでも無様にやられるような事は無い、それだけの実力は身に着けたつもりだ。
しかし、今感じる鬼気はそんな生易しいものでは無かった。
「ブリティシュ…」
カフェは震える手でブリティシュの腕を掴む。
それは本能的な恐怖からくる行為だ。
「これは…」
これまで色々な魔人を見てきた日光も、この気配には背筋を凍らせる。
ただ、同時に何処かで感じた事のある気配だとも感じていた。
「フム…ランス達が来るかと思っていたが、違ったか」
闇から現れたのは絶世の美女だった。
青い髪をしており、その額には特徴的な青いクリスタルが有る。
それが有るのでカラーだという事は分かる。
だが、その身に纏った気配がこれまで自分達が感じていた脅威と何も変わらない。
「魔人…」
カフェが震える声で答える。
そう、目の前に居る絶世の美女…その正体は魔人ケッセルリンクだ。
「その通りだ。私は魔人だ。尤も、君達を探していた訳では無いがね」
ケッセルリンクがここに来たのは必然ではあるが、探していたのは彼等では無い。
当然の事ながら、ケッセルリンクが待っていたのはランス達だ。
ランス達が消えた事はハンティから聞いていた。
ただ、日光がランス達と別れてこの者達と一緒に居るのは知らなかった。
(袂を分かったか…? だが、ランスの事で彼女に不利益になる事はあってはならないか)
ケッセルリンクは日光を見るが、彼女にあるのは当然の事ながら警戒だ。
何故ランスと共に居ないのかを聞きたかったが、今それを聞く訳にもいかない。
「魔人がランスという名前を出す…彼の事を知っているのか」
ブリティシュの言葉を聞いて、ケッセルリンクは理解する。
(…そうか。彼女はランスの事を話している訳では無いという事か)
正直ランスの事が人間の間で広まるのは、ケッセルリンクとしても都合が悪い。
ましてや自分とランスの関係を知られているのは、不利益でしかいない。
しかし、日光はランスの事を話していないという事は、自分としてもそういう態度を取らねばならないという事だ。
即ち、魔人四天王としての態度を。
「答える必要は無いな。そしてそれを知る必要も無い」
ケッセルリンクの明確な拒絶にブリティシュは唇を歪める。
どうやら答える気は全く無い様だ。
「いないのであれば仕方あるまい。後は好きにすればいい」
ケッセルリンクはそう言って背を向けた時、
「ファイヤーレーザー!」
ケッセルリンクの前で固まっていたエイナの魔法がケッセルリンクに直撃する。
それは無敵結界によって弾かれるが、同時にケッセルリンクがその歩みを止める。
「…私はお前達に興味は無い。だが…降りかかる火の粉を振り払うのに躊躇いは無い」
ケッセルリンクの気配がどんどんと膨れ上がる。
「ヒッ!」
それだけでエイナの背筋が凍り付き、蛇に睨まれたカエルの如く動けなくなってしまう。
そしてケッセルリンクの手から魔法…炎の矢が放たれる。
例え下級の魔法でも、魔人が放てば人間などひとたまりもない。
「あ…」
エイナは茫然と迫りくる炎を見ていると、その体の前に誰かが割り込んでくる。
「くっ!」
「え…?」
エイナの前に現れたのはブリティシュだった。
ブリティシュがその盾でケッセルリンクの放つ魔法を受け止めたのだ。
「…君達は殺し合いをしていたはずだ。何故君が彼女を庇う?」
「殺し合いをしていても…魔人が相手ならそれば人間の共通の敵さ」
ブリティシュはエイナを立たせると、そのまま仲間たちの元へと戻る。
その仲間達も武器を構えてケッセルリンクに対峙する。
ケッセルリンクはそんなブリティシュ達を見てため息をつく。
「ふむ…では君達もまた私にとっては降りかかる火の粉…そう判断しても良いのだろうね」
「ハッ! 魔人が偉そうに何をいってやがる!」
「魔人は…私達人間にとっては共通の敵です」
「目の前の人を…魔物達に殺させる訳にはいきません」
「そうだよ! 例え私達の敵でも、魔人の方がもっと敵なんだから!」
カオス達は臆することなくケッセルリンクに啖呵を切る。
「あんた達…」
エイナは茫然としてエターナルヒーローを見るしかなかった。
「そうか。だが、私は君達とは特にやりあう理由も無いのだがね…しかし、ここ最近は人間の行動にも少々思う所もある」
ケッセルリンクの気配が膨れ上がり、それが強力な重圧となって襲い掛かる。
だが、それでもエターナルヒーローは退かない。
ここで退く訳にはいかないのだ。
「どうしてもやると言うのであれば来たまえ。私も無敵結界を使わない。君達の全力を見せるがいい」
「何…?」
ケッセルリンクの言葉にブリティシュが怪訝な顔をする。
魔人の強さは殆どがその無敵結界の厄介さにあると言ってもいい。
それが有る限り、人間はどんな手を使おうが、魔人を相手にする事すら出来ないのだ。
「ファイヤーレーザー」
ホ・ラガが真っ先にケッセルリンクに向けて魔法を放つ。
魔法は絶対に当たるので、ケッセルリンクはそれを避けようともしない。
その変わりに、ホ・ラガの放ったファイヤーレーザーはケッセルリンクの目の前で弾かれる。
「…バリアで防ぎましたね。無敵結界に弾かれた様子はありません」
「という事は本当に無敵結界を使わないで僕達と戦う気なのか…」
もしそうであれば、魔人を相手にもやれるかもしれない。
魔人は恐ろしい相手だが、必ず付け入る隙はあるはずだとブリティシュは常々思っていた。
強すぎる故に、魔人は相手を見下す癖があるのを、ブリティシュは見切っていた。
ならば行けるかもしれない…ブリティシュは常に前向きに、希望を捨てる事は絶対に無い。
「中々の威力だ。だが…それでは私は倒せない。ではこちらかも行かせて貰おう」
ケッセルリンクはそう言うと、剣を抜く。
「カラーが剣を!?」
カラーの魔人が剣を抜いた事にカフェは驚く。
カラーという種族は弓と魔法、そして呪いを使って相手を攻撃する。
だが、剣を使うカラーは流石に見た事も聞いた事も無い。
そんなカフェの驚きを嘲笑うかのように、ケッセルリンクは恐ろしい速さで接近してくる。
それこそあのホ・ラガが魔法を使うタイミングを逃すくらいにだ。
「防いでみたまえ」
そしてそのまま剣を振り下ろし、ブリティシュとの間に火花を散らす。
「クッ!」
カラーの細腕から放たれたとは思えない重い一撃にブリティシュは思わず呻く。
ケッセルリンクの意識がブリティシュに向かっている隙に、日光とカオスが動いた。
日光はその側面から、そしてカオスは背後からケッセルリンクに襲い掛かる。
ケッセルリンクは特に慌てずに二人に対応する。
そのマントが生き物のように動き、カオスへと襲い掛かる。
「何だと!?」
カオスはそのマントを斬ろうとするが、明らかに普通のマントとは違う。
そして日光の刀をケッセルリンクはもう片方の手で受け止めた。
「!」
「いい一撃だ。だが、まだまだだな」
ケッセルリンクの手からはバリアが張られており、その小さなバリアで日光の刀を完全に止めている。
「フッ」
ケッセルリンクはその場で独楽のように回転すると、ブリティシュ、日光、カオスの三人を吹き飛ばす。
「電磁結界」
そのままブリティシュ達に向けて強力な魔法を放つ。
「ブリティシュ!」
カフェは何とかバリアを張って皆を守ろうとする。
「っ!」
魔女エイナの魔法すら完璧に無効化したバリアだが、魔人ケッセルリンクには紙のように破られるのが分かる。
人間とは魔力の差が桁違いだ。
それこそホ・ラガの使う魔法よりも威力は上だ。
「スノーレーザー!」
カフェが何とかケッセルリンクの攻撃を受け止めた事で、フリーになったホ・ラガが魔法を放つ。
それはケッセルリンクの体に直撃し、ケッセルリンクの体は吹き飛ばされる。
だが、ケッセルリンクは慌てる事無く着地をする。
その体はホ・ラガの魔法が直撃したにも関わらず、全く応えた様子が無い。
「中々だ。だが、それで私を倒す事は出来ない」
ケッセルリンクの体には僅かに傷がついている。
その白い肌が傷つき、その肩からは一筋の血が流れる。
だが、その血は直ぐに止まり、ケッセルリンクは何事も無かったかのように悠然と立っている。
「まさか私の魔法が直撃してこの程度とは…」
ホ・ラガは魔法に関しては稀代の天才だ。
人類史の中にも数人しかいない、LV3技能の持ち主が放つレーザー級の魔法を受けて尚、ケッセルリンクはぴんぴんしている。
ブリティシュ達は嫌でも人間と魔人の力の差を思い知らされた。
「人間の中では相当か…しかし、それでもまだまだだな」
だがしかし、それでも魔人の体を傷つける事が出来たという事は事実だ。
そして血が流れたという事は、間違いなく倒す事が出来るという事だ。
ケッセルリンクは剣を構えてそのまま悠然とブリティシュ達を見る。
そこにあるのは絶対的な余裕だ。
事実、ホ・ラガがつけたはずの傷も完全に消えている。
「さあ、その力を見せてみるがいい。君達のような強さを見たのは数百年ぶりだ」
「数百年人間を殺し続けてきたってか」
ケッセルリンクの言葉にカオスが吐き捨てる。
それに対して、ケッセルリンクは心外だと言わんばかりに首を振る。
「そうではない。私は別に人間をどうこうしようなどとは思っていない。信じる信じないはそちらの自由、君達がどう思おうが私にとってはどうでもいい話だ」
そしてケッセルリンクの手に再び魔力が集まる。
「カフェ」
「うん!」
ホ・ラガの合図に、二人は再び魔法バリアを詠唱する。
「ファイヤーレーザー」
そしてケッセルリンクから魔法が放たれ、それは二人の魔法バリアで弾かれる。
だが、その威力は凄まじく、もしこんな魔法が連続して放たれれば、間違いなく自分達は死ぬだろう。
人間と魔人の間には絶対的な差があるという事を嫌でも思い知らされる。
しかし、ブリティシュ達は当然諦めない。
魔人を倒すためにこれまで色々と旅をして来たのだ。
そして今目の前の魔人は無敵結界を使わずに自分達と戦っている。
ならば、これを倒せずして人間が魔人に勝てる訳が無いのだ。
「うおおおおおお!」
ブリティシュは雄たけびを上げてケッセルリンクに突っ込んでいく。
「来たまえ」
ケッセルリンクはそんなブリティシュを嘲笑う訳でもなく、その手に持った剣でブリティシュとぶつかる。
ブリティシュとケッセルリンクの剣は激しくぶつかり合う。
純粋な腕力は魔人であるケッセルリンクが上回っているが、剣の腕ではブリティシュが上回る。
だが、それでも二人には絶対的な差が存在した。
生物としての絶対的な能力値の差がどうあっても埋められない。
それでも、ブリティシュはケッセルリンクに食い下がった。
腕力で負けてはいても、手数では負けない。
そしてブリティシュには人並外れたガードの技術がある。
剣とガードの二つの技術を使い、ブリティシュはケッセルリンクと渡り合っていた。
「む…」
その剣と防御の技術を前にして、ケッセルリンクの顔色が変わる。
それは純粋な驚きだ。
(剣では私を上回るか。ランスとは違った意味で強い人間だ)
剣だけの腕ならばランスの方が上だろうが、戦闘技術に関してはこの男はランスを上回るかもしれない。
ケッセルリンクはブリティシュを見てそう感じた。
(こんな時代でもこのような者達が居るのだな。あの時の私達と同じように)
ケッセルリンクがカラーの時は酷い時代だった。
魔物の脅威もそうだが、昔は今よりも強いまるい者やムシが無数に存在していた。
そんな相手と戦いながらケッセルリンクは生きてきた。
その時の仲間と同じように、この人間達は目の前の脅威に抗っていた。
ギン!
そんなケッセルリンクの過去が彼女の剣の腕を鈍らせたのか、その手の剣がブリティシュによって斬られる。
「む」
ケッセルリンクはそれには驚くが、その程度で彼女を倒せる程甘くは無い。
ケッセルリンクの腕の動きにブリティシュは本能的にその手を盾で防ぐ。
まるで鋼と鋼がぶつかるような鈍い音を立ててブリティシュが吹き飛ばされる。
「ブリティシュ!」
カフェの声が響くが、ブリティシュは即座に体を起こす。
そして自分が持っていた盾を見て背筋が凍る。
自分の持つ盾が引き裂かれるように抉れていた。
「見事だ。特に愛着がある訳でもないが…剣を折られるとは思わなかった」
ケッセルリンクは折れた剣を投げ捨てる。
「余裕のつもりかよ」
カオスの言葉にケッセルリンクは苦笑する。
「そのようなつもりは無いが…君達に負ける気はしない。だが…これ以上は無用だな。後は君達の好きにするがいいさ」
そう言ってケッセルリンクからは殺気が消える。
「私は結末を見届けようと思い、ここに来ただけなのだが、待ち人は来なかった。別に君達と戦いに来た訳では無い」
ケッセルリンクの言葉にブリティシュ達は困惑する。
確かにこの魔人の行動は不可解だった。
これまで見てきた魔人の中でも理知的ではあるし、何よりもこちらに対して全く本気を出していなかった。
「私は消えるとしよう。後は君達の好きにしたまえ」
そしてそのまま闇の中に消えていく。
「待って下さい!」
「日光!?」
そのケッセルリンクを日光が呼び止めるのを見て、カオスは驚きの声を出す。
「あなたの待ち人は…ここには来ないと思いますよ」
日光の言葉にケッセルリンクは一度足を止め、日光に向かって振り向く。
「ならば待つさ。待つ事には慣れている」
その表情は…何処までも美しく、慈愛に溢れていた。
もし魔人だと知らなければ、その顔には誰もが見惚れるだろう。
その一瞬の表情を見せた後、ケッセルリンクの姿は完全に闇へと消えていった。
ケッセルリンクの気配が完全に消えた事で、ブリティシュ達は大きく息を吐いて腰を下ろす。
「あれが魔人ケッセルリンク…『夜の女王』か」
「完全に…レベルが違いましたね。見逃された…と言ってもいいね」
「なんだってんだ、あいつ」
見逃された、それが正しい意見だろう。
ブリティシュ達は全く相手になっていなかった。
あのまま続けていても、間違いなく自分達は負けていただろう…何しろ相手は本気で自分達と戦っていなかったのだから。
「…あんた達、本当にあんなのと戦う気なの」
「あ、まだ居たんだ」
ブリティシュ達に声をかけてきたのは、魔女エイナだ。
そして何時の間にか気づいたのか、シンもその隣に居る。
「ああ。僕達は魔人を倒すために世界を見てきたんだ。それが揺らぐことは無いよ」
ブリティシュの強い目に、エイナは何も言えなくなる。
魔人は強いとは知っていた…だが、これほどまでの絶望感を味わうとは思っても居なかった。
「あんた達も…十分イかれてるよ」
エイナはそう言うと、震える体を何とか立たせる。
「おや…もう私達を殺す…と言わないのですか?」
「…ああ、言わない。あんなのと戦おうだなんて思わないからね。生きてるだけでも儲けものさ…」
「エイナ様…」
エイナの震える体を、シンが優しく包む。
ケッセルリンクとはそれほどまでに恐ろしい存在だったのだ。
「もう関わる気は無いさ…」
そう言って、エイナはシンと共に何処かえと消えていった。
魔女エイナ達が消えた後をブリティシュは少しの間見ていた。
「…もう僕達を狙う事は無いかな?」
「そうでしょうね…彼女は折れてしまった。絶対的な力を持つ魔人を目の前にして…」
ブリティシュの言葉に日光は顔を伏せる。
別に彼女を責めるつもりはない。
それはこの時代では極当たり前の感情だ。
「少し…時間を取られたが…改めて行きましょうか…私達が目指した先へ…」
ホ・ラガの言葉にブリティシュは立ち上がると、
「そうだね。行こうか…僕達はそのためにここまで来たのだから」
ブリティシュの言葉に皆が決意を秘めた顔で目的の場所を見る。
このために自分達はここまでやって来たのだ。
エターナルヒーローは、この世界で最も神に近い場所へと入っていった。
そして…エターナルヒーローは世界からその姿を消した。
日光は願った―――それは魔人を倒す事が出来る力だ。
ソレは日光の願いを聞いて確かに笑った。
その瞬間、皆は光に包まれていった。
カフェの願いには驚いたが、それも彼女の願いだと思い、何も言わなかった。
この場所にこれなかったリーダーの事は気になったが、それでもカオスと自分は当初の目的を叶えたのだ。
ただ―――それは日光が思っていたものとは違った。
日光自身が刀となる事で、魔人の無敵結界を斬る事が出来るが、そのためには男の遺伝子を取り込まねばならない。
一体何のためにそうする必要があるのかは分からないが、とにかく自分の体は変わった。
今の自分は一振りの刀、魔人の無敵結界を斬る事が出来る刀に過ぎなかった―――はずだった。
「がははははは! 俺様から逃げられると思ったら大間違いだぞ!」
その日光の隣に居るのは―――自分が最も求めてやまない人間の声だった。
短いですが、エターナルヒーローの話は終わりです
あまり長くしても話が進まないので、道中の冒険は省きました
ぶっちゃけどんな事があったのかは分からないし…知りたいけど無理だろうしなあ…
魔女エイナとシンは鬼畜王のブックレットに出てきた人間です
知らない方はいらっしゃらないと思いますが、エイナがホ・ラガに殺されて、シンは日光に倒されるのですが、殺されませんでした
その結果シンはホ・ラガに掘られてしまう事に…で、その後でブリティシュにコンクリの呪いをかける訳です
まあここではこの通りですが…