ランス再び   作:メケネコ

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残念な再会

「遅いぞランス。まあ気持ちは分かるがな」

 ランスが着替えてリビングに降りた時、そこにはスラルとレンが待っていた。

「がはははは! 日光が俺様を離さなかったからな。いやー、いい夜を過ごしたぞ」

 ランスは上機嫌に笑うと、レンが用意してた朝食に手を伸ばす。

「で、肝心の日光が凄い勢いで洗濯してるんだけど…」

「言ってやるな。誰だって言いたくない事はあるだろう」

「…じゃあ聞かない事にするわ」

 レンはランスの言葉に呆れたようにため息をつく。

 何があったのかはレンにも分かるが、それを言わないのも優しさだ。

 エンジェルナイトの自分が人間に優しいというのも変な話だが、女としては良く理解出来る事だった。

「…はぁ」

 ランスが食事を終わると、それを見計らったように日光が洗い場から出てくる。

「大丈夫か、日光」

「ええ…自分自身に少し嫌悪感を抱いただけです」

 この年になってとんでもない粗相をした事に日光は自己嫌悪に陥っている。

 勿論ランスが悪いと言う事も出来るが、ランスにあそこまでやられる事にも心当たりがあるので何も言わない。

「日光。話を聞けるか」

「はい…」

 青い顔をしていた日光だが、その顔が真面目になる。

 レンが食器を下げ、改めて全員が揃う。

「まずは…何があった? お前は年をとっていない。お前が私達から離れて13年経っているからな」

 スラルはしっかりと年数を数えていた。

 この時代に現れてから行ったのは、まずはカラーの住処に行く事だった。

 そこでカラーと出会い、今は何年かを聞いておいた。

 その時にカラーの里で色々とあったのだが…それは今は置いておくことにする。

「ええ…本当に色々とあったのです。ですが…何があったのかは言うべきでは無いと考えています。ただ、スラル殿が危惧した事は起きたのだと思います」

「…成程、つまりはお前は見た目通りの年齢では無いという事か」

 スラルは日光の言葉を聞いて苦い顔をする。

 自分が危惧した通り、あの黄金像には何か曰くつきの事があったのだろう。

「ランス殿も…出来れば私とは違う手段を取って欲しいです」

 日光が真剣な顔でランスを見る。

「分かった分かった。まあスラルちゃんが止めたからにはその方がいいんだろう」

 ランスとしても、あの黄金像で何があったのか…それは想像がついてしまった。

 カオスが言っていた事が実際にあったのだろう。

 つまりはスラルに起こった事がカオスや日光にも起きたのだろう。

 だとすると、ランスとしてもこれ以上関わるのは止めた方がいいと思った。

「そこで何があったのかは…見せた方が良いでしょう。ランス殿」

「おお」

 日光はランスの側に行くと、その姿が見る見るうちに一本の刀へと変わる。

 ランスの手にあったのは一本の刀、『聖刀日光』があるだけだ。

「魔人を倒す力を願った結果、私はこのような姿になりました」

「…成程な。確かにこれは驚くべきことだな」

 スラルも流石に日光の変化には驚く。

「だが、何故お前が姿を変える必要があるのか、これが分からない」

「まあ…それは言っても仕方ないでしょう。問題なのは、今私を扱えるのはランス殿しかいないという事なのですが…」

「なんだ、そうなのか」

 日光の言葉にスラルは目を見開く。

 どうやら誰でも刀である日光を扱える訳では無い様だ。

 スラルも気になったようで、ランスの所へと歩いて行くと、その刀を持ってみる。

 ランスは軽々と持っていたが、スラルにはとても持てそうにない。

 元魔王であるスラルはその肉体も人間よりも上だが、その自分が持てずに、ランスが軽々と持っているのならばそういう事なのだろうと納得する。

 ランスの愛剣である黒い剣も、魔王であった自分でも持つ事が出来なかったのだ。

 ランスはスラルから日光を受け取るが、ランスには普通の重さの刀でしかない。

 ただ、ランスとしてはもう少し重くてもいいとも思ってしまう。

 JAPANの刀は使えない事は無いが、やはり重量のあるバスタードソード等の重めの剣の方がランスの剣技にはあっている。

「ですが、本当に魔人を斬れるのかは分かりません。何しろ試した事が有りませんから…」

 日光としては、本当に自分が魔人を斬れるのか、それが分からない。

 まだ魔人と戦ったことも無いし、自分を任せても良いと思える程の戦士にも会えなかった。

「間違いないだろ。これで魔人をぶっ殺せるな」

 ランスは日光を抜くと、その左手で素振りをする。

「…うーむ、やっぱり軽く感じるな」

「ランスは重い剣が主だしね。それは仕方ないんじゃない?」

 やはり日光の軽さにランスは扱い難いと思ってしまう。

 レンも剣を使うので、ランスの言っている事は分かる。

 剣が手に馴染まないという感覚がやはりあるのだろう。

 エンジェルナイトの自分には神から支給された剣があるので問題無いが、そういう所は人間も大変だなあと思っていた。

「そこは慣れるしかないだろう。まあお前ならば問題無いと思うがな」

 スラルは特に問題視はしておらず、ランスならば刀も扱いこなせると確信している。

 長い間ランスの剣の中に入っていたので、ランスの剣の腕とその技術はランス以上に分かっているのかもしれない。

 日光は人間の姿に戻ると、傍らに置いてあった愛刀である富嶽を持つ。

「技術なら私が教える事が出来ます。剣の腕ではランス殿には及びませんが、刀の使い方ならば教えられますから」

「まあ俺様は天才だからな。JAPANの刀でも問題無いな」

 魔人の無敵結界を斬れるのであればランスとしては問題は無い。

 それも聖刀日光が魔人の無敵結界を無効化出来る事はランスもよく知っている。

「それよりも日光。預かっていたものを返すぞ」

 スラルは道具箱の中から刀の鍔を取り出す。

 それを日光に手渡しすると、日光はそれを見て複雑な顔をする。

「これは…」

「これはお前の物だろう。どうせ我等には使えぬものだ。お前が使えばいい」

 スラルにそう言われても、日光はやはり沈んだ顔をする。

 自分がランスと共に訪れたダンジョンで手に入れた自分専用のアイテム。

 しかし、ランス達と決別する時にこの鍔だけはランスの元へと置いてきた。

「いいから使え。お前は俺様の所に戻って来たんだから問題無し。相変わらず堅物だなお前は」

 全く気にもしていないランスを見て、日光は一度深呼吸すると富嶽にその鍔を嵌める。

 それだけで富嶽が自分の手に馴染んでいく。

 勿論富嶽は素晴らしい刀であり、この鍔が無くても問題は無かった。

 だが、この鍔がある事で自分は更なる刀を振るえるというのも事実だ。

「それよりもランス殿は今まで何処に居たのですか?」

「お前が居なくなった後俺様達はカラーを助けに魔人の所に行ったのだ。だがその後で直ぐにセラクロラスに吹っ飛ばされた。その後はずっとカラーの所だ」

 相変わらずランスの言葉は要領を得ないので、スラルを見る。

「我等は今カラーの所に居る。そこで少々使いを頼まれてな…まあ行けば分かる、行けば」

 スラルは少し疲れた顔をしながらため息をつく。

「フン、カラーの頼みで無ければなんであんな奴のために俺様が動かなければならんのだ」

 ランスは不機嫌となった事で、日光は話についていけずに困惑する。

「レン殿…何かあったのですか?」

「あったと言えば間違いなくあった。まあ…私からは言わないで上げる」

 レンも曖昧な様子で言葉を濁す。

「まずは拠点に戻ろう。全てはそこからだな」

 スラルの言葉に日光も同意し、カラーの里へと向かう。

 

 

 

 カラーの里へ来るのは日光は実に久しぶりだ。

 ランス達と別れてからは全く縁が無かった。

 ブリティシュ達と別れてからはカラーの所に向かおうとも思ったが、行けなかった。

 カラーの所に居れば、ランスと出会えるのではないかという考えもあったが、幸いにもランス達から自分を見つけてくれた。

 その結果とんでもない事になったのだが、自分自身の力を発揮できるのであれば何も問題は無い…と、日光は自分に言い聞かせていた。

「…ランス殿、そういう事は止めて下さいますか? 私はもう子供ではないので」

 日光はジロリとランスを睨む。

「お前…性格変わった?」

 ランスは日光の迫力に思わず後ずさる。

 ランスがちょっぴり苦手な、年上の女性になってきたような気がする。

「少なくとも今はランス殿よりも年上です。今はもうあなた以上に社会を生きていますから」

「…そういやそうか。俺様からしたら別れてから数か月しかたってないんだがな」

 そう言いがらもランスは日光の尻を撫でるのを止めない。

 日光はランスの行動に呆れながら、その手を叩く。

「あ、こら! お前俺様を叩いたな!」

「当然です。あなたも少しは大人になって下さい」

「俺様がお前に剣と冒険を教えてやったのになんて言い草だ」

「感謝しています。でもそれとこれとは話は別です」

 そう言いながら日光はすたすたと歩いて行く。

 日光の背中を見てスラルは感心したような顔をしている。

「成程、ランスはこの手の女性には弱いのか? いや、だがそれだとランスよりも圧倒的に年上の我に対しての態度が解せぬのだが…」

「…いや、スラルちゃんがああなる事は無いな。うむ、断言できるぞ」

「ど、どういう意味だ!?」

 ランスの言葉にスラルが顔を真っ赤にしてランスに詰め寄る。

「いや、自分で態度で示してるじゃない」

「むぅ」

 レンの言葉にスラルは不服そうに呻く。

「まあスラルちゃんでは逆立ちしても日光みたいにはなれんだろ。体も小さい方だしな」

「言われるほどスタイルが悪いつもりは無いのだがな。まあいい、それよりも早く行くとするか」

 最後までスラルは不満を口にしていたのだが、自覚はあるのでそのままカラーの里へと戻る。

 そしてランス達がカラーの里に足を踏み入れた時、黒髪のカラーがランス達の前に現れる。

「おや、戻ったかい。目的の物はみつかったのかい?」

「おう。全く、どうして俺がそんな事をしなければならんのだ」

「ハハハ、悪いね。でも今のカラーにはそんな余裕が無いからね…」

 ハンティはランスに対して笑うが、その笑いには何処か疲れた部分が混じっている。

「…何かあったのですか?」

「日光かい。随分と成長したと言うか…いや、成長してないと言った方が良いのかね。ランス達から聞いてないのかい?」

 ハンティの言葉に日光は素直に頷く。

 ハンティは余計な事を話さなかったランス達に少し感謝する。

 今のカラーの状況はそれだけ悪いのだ。

 もしかしたら、日光が力を求めるあまり、カラーのクリスタルに手を出すという可能性はゼロでは無かったのだから。

 勿論、そんなのはハンティが気にし過ぎているだけなのだが。

「今から10年くらい前に…人間達の襲撃にあってね」

「それは…」

 人間によるカラー狩り、それは日光も知っている。

 ランスと共にカラーを助けたが、その結末は日光に対しても大きな衝撃を与えた。

 人間を信じたかった日光と、その人間を全く信用しなかったランスだったが、カラーにとってはランスの方が有難い存在だった。

「その時にはある人間が助けてくれてね…まあ掟だからってそいつにはクリスタルを渡して出てってもらったけど、問題はもう一人だったんだよね」

「もう一人…ですか?」

「そいつもカラーを助けてくれたんだよ。だけど…勘違いしちゃった娘に呪いをかけられてね。結構強力な呪いで、解除できなかったんだよ」

「あなたでも解除できない呪いなのですか?」

 それは日光にとっては非常に単純な疑問。

 ハンティが非常い強い事は分かっているが故の疑問だ。

「呪いに関しては専門外なんだよ。魔法と呪いは違うからね」

 ランス達はハンティについて行くと、ある家に辿り着く。

 そこからは男の声と女の声が聞こえてくる。

 その声の主が、カラーから呪いを受けた男なのだろうと日光は思う。

 が、それ以上に日光はその男の声に聞き覚えがあった。

(…まさか)

 日光は唾を飲み込みながらその家に入る。

 そこには―――コンクリートから顔と手だけが出ている男が居た。

「いやー、今日も悪いね」

「いえいえ、いいんです。私達が悪かったんですから。あなたが私達のために戦ってくれたことは分かってますから」

 カラーからご飯を食べさせてもらっているその男こそ―――日光が所属していたパーティーのリーダーであるブリティシュその人だった。

「…あなたは何をしているんですか?」

「え、懐かしい声が…ああ! 日光! 君か! 生きていたんだ!」

 コンクリ男―――ブリティシュが嬉しそうに声を出す。

「がはははは! 相変わらず間抜けな顔だな!」

「ははは…言い訳のしようも無いよ」

 ランスの言葉にもブリティシュは苦笑する以外に無い。

「…あの、説明をして頂けますか? どうしてブリティシュがこんな目に…?」

 日光の言葉にハンティは頭を掻きながら苦笑する。

「人間によるカラー狩りが行われた時に、こいつともう一人はカラーを助けてくれたんだよ。でも、カラーの一人が勘違いをしちゃってね…呪いをかけちゃった結果こんな事にね」

「それよりも日光、無事だったんだね。僕は君達が帰ってこないからてっきり死んでしまったものだと…」

「…色々あったのは事実ですが、私達のリーダーのあなたがどうしてこんな事に」

 日光からすればブリティシュのこの状況は非常に頭が痛い。

 何しろブリティシュは自分達のリーダーで、何事にも真っすぐで強い人間だった。

 そんな男がこんな所でコンクリ漬けに、こんな情けない状況になってるとは思わなかった。

「勘違いは誰でもあるからね。まあその勘違いが凄い大きかったんだけど…」

「それよりも目的の物は見つけてくれたんだろ?」

 ブリティシュの言葉を遮り、ハンティがランスを見る。

 ランスは得意げに胸を張ると、レンに合図をする。

 するとレンが一つのハンマーのような物を取り出す。

「これが見つけてきた『いかづちハンマー』だ。これならコンクリートをぶっ壊せるそうだ」

 ランスの言葉にレンがハンマーをぶんぶんと振るう。

 ブリティシュは若干冷や汗をかきながらも、

「じゃあ宜しく頼むよ」

 そう言って覚悟を決める。

「じゃあ行くわよ。そーれ」

 レンは特に気負うでも無く、ブリティシュを包んでいるコンクリにいかづちハンマーを叩きつける。

 轟音と共にコンクリートにヒビが入ったかと思うと、それがどんどんと崩れていく。

 そしてブリティシュの体がコンクリートから解放される。

「あいたたた…でも、体が自由になるって素晴らしいなあ」

 ブリティシュは体を回しながら、自分の体が自由になった事に何より喜びを覚える。

「それと助けてくれてありがとう。いやー、まさか君達に助けられるなんてね」

「フン、リディアの奴がお前を助けてくれと言うから助けてやったんだ。お前はこれから俺様に一生感謝しろ」

「そうだね、確かに感謝の言葉だけじゃ足りないね。ああ…でも僕もカラーの掟とやらで外に行かなきゃならないのかな?」

 ブリティシュは少し困った表情でハンティを見る。

 ハンティはそれを見て肩をすくめる。

「掟は掟だからね…って言いたいけど、アンタはこいつと知り合いなんだろ? だったら少しくらい融通をきかせるさ」

「別に俺様はこんな奴の仲間じゃ無いぞ。それにカラーの里に居れる男は俺様一人で十分だ。お前はさっさと失せろ」

 まるでわんわんでも追い払うようにランスがブリティシュを追い出そうとするが、

「待って下さい、ランス殿。ブリティシュは本当に強いです。これからの魔人との戦いでも必ず彼の力が必要になります」

 それを日光が止める。

 実際にブリティシュの力は凄まじく、エターナルヒーローのリーダーとしてその力は申し分ない。

 ランスの居るLPと比較しても、その力は上位の存在と言っても良いだろう。

「ランス、腕の立つ者は必要だと我も思う。これから魔人メディウサを倒す予定ならば猶更だ」

「フン…」

 魔人メディウサの名を聞いて、ランスがつまらなそうに鼻を鳴らす。

 確かに魔人が相手となれば、腕の立つ者はいくらいても困らない。

 これが女ならば何も文句は無いが、生憎とブリティシュは男だ。

 それもランスが嫌いなタイプの、女性にもてそうなタイプだ。

「…おい日光。お前まさか、こんな冴えない奴とやってないだろうな」

「…突然何を言うのですか」

「いいや、俺様には重大な事だ! もし俺様の日光がこんな野郎とやってたのなら…ぶっ殺すか」

 ランスは剣を抜くとブリティシュに切っ先を突き付ける。

 日光はランスの目を見て、本気でランスがそう言っているのを理解する。

「違います、私とブリティシュはそういう関係ではありません。それに言ったではありませんか…わ、私はあなたにしか体を許していないと」

 日光は顔を真っ赤にしながらランスに言う。

 その様子を見て、ブリティシュは理解をする。

 ブリティシュは仲間の様子には非常に鋭い…のだが、自分に向けられた感情については鈍感だったりする。

(そうか…日光は彼と…)

 予想はしていたが、男女の仲だったのだろう。

 だが、日光の態度でそれだけでは無い事を理解した。

 だからこそ、自分達と合流した時はあそこまで思いつめた顔をしていたのだろう。

 何しろ彼女は好きな男を裏切ってまで自分達と共に戦ったのだから。

「フーン…まあいい。日光もスラルちゃんもレンも俺様の女だ。手を出したらぶっ殺すからな」

「いやあ…流石にそんな事はしないよ。それよりも…魔人と戦うというのは本当なのかい?」

 魔人メディウサと戦うと聞いて、ブリティシュの顔が戦士の顔に変わる。

「ああ。魔人メディウサが今現在の標的だ。ランスとしてはどうしても倒しておきたい魔人だそうだからな」

「当たり前だ。俺様の邪魔をするなら誰であろうとぶっ殺すだけだ」

「そうか…じゃあ僕も君達の仲間に加えて欲しい。魔人を倒すというのであれば、僕にも手伝わせてほしい」

 ブリティシュの顔は真剣そのものだ。

 そしてランスもブリティシュの戦士としての強さは理解していた。

 あの時戦った一瞬だけだったが、ランスもまたブリティシュの強さを感じ取っていた。

「フン、俺様の足手纏いになるなよ。それとお前はガードなんだろう。だったら死ぬ気で守れよ」

 ランスの言葉にブリティシュの顔が綻ぶ。

「ああ。足手纏いにはならないさ。それじゃあ宜しく頼むよ」

 こうしてエターナルヒーローのリーダーであるブリティシュが、ランスと共について来ることとなった。

 

 

 

 魔法ハウスの中―――

「…はあ。これは凄いね」

 ブリティシュは魔法ハウスを見て茫然としている。

「お掃除お掃除ー」

「ランスさん達も掃除しなくちゃだめですよー」

 カラーの娘たちが魔法ハウスの中に入っていくと、それぞれが掃除を始める。

 ランスは自分から掃除をしないため、魔法ハウスの中は相応に荒れてしまっている。

 ランス達への恩返しで、カラー達は率先して魔法ハウスの掃除をしていた。

「まさか小さな模型の家がこんな大きな家に変わるなんて…これも魔法のアイテムなのかな」

「魔法ハウスというアイテムです。ランス殿が何処でこのようなアイテムを手に入れたのかは知りませんが、私も最初は驚きました」

 何しろランスの魔法ハウスはただの家では無く、パイアールの力でより住みやすい家へと作り変えられていた。

 魔法では無く科学で整備された家…まさにこの世界に一つしかない物だ。

「でも…大きすぎて移動には使いにくいかもね…魔軍に見つかる訳にはいかないしね」

 ブリティシュはそれでも初めて見るアイテムには興味津々だ。

「ブリティシュ…そんなに食い入るように見なくても」

 そんなブリティシュを見て日光は苦笑する。

 頼りになるリーダーの新たな一面を見れたようで、日光は少し嬉しくなる。

 同時に、自分達5人が旅をしていた事を思い出す。

 それは辛い事も多かったが、得るものも多い充実した旅でもあった。

「ああ…そうだ。君に何が起きたか聞いてもいいかな? 僕の記憶が確かなら、君はもうさんじゅ…」

「そこまでですブリティシュ」

 ブリティシュの言葉を最後まで言わせずに日光が睨む。

「ああ…そうだね、僕が悪かったよ」

 ブリティシュも背中に冷や汗が流れるのを自覚する。

 女性の年齢を聞くのは流石にタブーだと気付いたのだ。

「まずは…これを見せた方が早いでしょう。ランス殿」

「おう」

 日光の姿が消えたと思うと、ランスの手に一本の刀が現れる。

「…これが今の私の姿です」

「…これは本当に驚いた」

 ブリティシュは刀に変わった日光に目を丸くする。

「私は魔人を倒す力を望みました。その結果がこれです」

「という事は…魔人の無敵結界を斬れる訳だね?」

「試して無いから分かりませんが、恐らくは」

 日光はそう言って元の姿に戻る。

「じゃあ他の皆は…」

「…申し訳ありません、ランス殿。席を外してくれませんか」

「別に構わんぞ」

 ランスの言葉に日光は意外な顔をする。

 ランスの事だから、自分にも教えろと文句を言ってくると思っていた。

 それなのにあっさりとランスは引き下がった。

 実際には…ランスは願いを知っている。

 何しろ本人から話を聞いているのだから、特に日光から聞く必要は無いのだ。

 ちなみにホ・ラガの願いについては完全に興味が無いので、存在そのものを忘れている。

 日光とブリティシュは人気のない所に移動する。

「…何があったのか聞いてもいいかな」

「ええ。あなたには知る権利が有ると思います。ですが、ランス殿には話さないでください」

「分かったよ」

 そして日光は全てを話した。

 ホ・ラガの願い、カオスの願い、そしてカフェの願い。

 それを聞いてブリティシュの顔が歪む。

「…そうか。皆はそんな願いを」

「ええ。勿論私は皆に何か言おうとは思っていません。ただ…その後で皆がどうなったかは知りません」

「ホ・ラガが動いていないのが気になるけどね…そして君と同じことを願ったカオスの事も」

 ブリティシュは皆が生きている事に安堵する。

「それで君は年を取っていないのか…」

「ええ。私は…人ではなくなったようです」

 そう言う日光には後悔が全く感じられない。

「それで、彼が君を使うのかな?」

「ええ。それが一番いいと思っています。贔屓目になるかもしれませんが…あなたよりも、ランス殿の方が剣の扱いは上手いと思いますし…それに」

「それに、何だい?」

「…いえ、何でもありません」

 日光は言葉を濁す。

 自分には相性が有るのだが、それが自分で何となくだが分かってしまう。

 ランスは自分との相性は最高で有ると理解してしまった。

 そして自分を使えるようになる条件を考えると、ランスならば他人が日光を使うなど許さないだろう。

「それよりも、この事はランス殿には内緒にして下さい。出来れば他の者にも…」

「分かったよ、約束しよう。それにしても…君が彼と再会できて良かったよ。特に何も問題が無かったようだしね」

「…まあ、罰は受けました。ええ、受けましたとも」

 ブリティシュはそんな日光に首を傾げるが、それでも日光は複雑な感情を持ちながらも、喜んでいるのは分かる。

「じゃあ行こうか。魔人を倒しに」

「…ええ」

 こうして再び出会ったエターナルヒーローと呼ばれた二人は、魔人を倒す決意を改めて誓ったのであった。




ブリティシュはこうなりました
1人ああなのはちょっと残念かなぁと思ったので…
コンクリ男はそれはそれでおいしいですが
正直ブリティシュは嫌いじゃないキャラなので

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