「さて…まずは聞きたいんだけど、魔人を倒すと言ってもどうするんだい?」
ブリティシュは早速ランスに尋ねる。
日光と話が終わり、今はカラーの家に主なメンバーが集まっていた。
そこにはランス一行とブリティシュ、そしてハンティを始めとした複数のカラーが集まっていた。
「俺様のやる事は変わらん。まずは魔人メディウサをやる。奴は許せんからな」
「………魔人メディウサ」
メディウサの名前を聞いて、大きく成長したリディア・カラーが拳を握りしめる。
自分の母や仲間を嬲り殺しにした魔人…リディアにとっては仇だ。
「奴の居場所は分かる、能力も分かる、ならば問題はどうやって奴の居る所に行くかだな」
スラルはいざ戦いとなれば、メディウサと言う魔人ならば何とかなると思っている。
聞けばGL期に魔人となった存在なので、流石に古参の魔人よりも劣るだろうと感じている。
勿論そう思い込むのは危険だと分かっているが、それでも何とでもやりようはあるのだ。
無敵結界が無ければ魔人は決して無敵では無いのだから。
「あれから警戒しててもおかしくは無いしね。ただ、あの時にメディウサ本人が出てこなかったのも気になるんだけど…」
以前にメディウサの城に潜入した時も、魔人メディウサ本人は姿を現さなかった。
結局はそこにたまたま訪れた魔物将軍、そして魔人アイゼルとの戦いになってしまった。
「…ランス殿は魔人の城に乗り込んだのですか?」
日光はランスがメディウサの城に侵入した時は既にランス達と別れていた。
なので何故ランス達がその魔人を倒そうとしているのかは知らない。
「カラーが浚われてね…何とか魔人の城に侵入したけど、助けれたのはこの子だけだった」
ハンティがリディアの頭を撫でる。
「そんな事が…」
日光はハンティの顔を見て全てを察する。
彼女もまた、魔人によって自分の家族を殺されたのだと理解する。
「前と同じように行くとは思わない方が良いな。ただ、今は魔人の動きが活発な時期…つまりは魔王が居ない時期だ。警備が手薄な可能性はある」
魔人や魔物にとっては、魔王ジルがこの世界に居ない事が唯一の癒しの時間だ。
何しろジルが居ると魔人は好き勝手に人間を殺せない。
最初から人間に興味が無いケッセルリンクやパイアール、人間を襲う気も無いガルティアやメガラスといった者達には関係は無い。
だが、人間を積極的に襲う他の魔人にとっては、この時間こそが何よりの楽しみなのだから。
「…じゃあ君達は僅かな人数で魔人の城に乗り込んだのかい?」
ブリティシュは驚愕の表情を浮かべる。
まさか無敵結界がある状態の魔人を相手に突っ込んでいくとは思っていなかった。
「まあ無謀と言っちゃあ無謀だね。それでも何とかはなったんだけどね」
ハンティも苦笑するしかない。
あの時はカラーが浚われたことでハンティも頭に血が上っていた。
なので魔人の城に乗り込むという事をしてしまった。
が、それでもこの人間達はやってのけたのだ。
あの魔人ケッセルリンクが手を貸すにはやはり理由があるという事だ。
「それは驚きだ…僕達でもそんな無茶はしないよ」
「…相変わらずですね、ランス殿は」
ブリティシュも日光もそんなランス達の行動には呆れるしかない。
ただし、ブリティシュ達も人間牧場を解放しようとして、乗り込んだこともある。
だが―――その結果はブリティシュとしても不本意に終わった。
人間牧場、それはブリティシュが考えているよりも壮絶な場所だったのだ。
「移動するのにも時間がかかるからな。魔王が居ない時間は魔物も活発になるから猶更だ」
「バイクが無くなったのは痛いわね」
「むむむ…」
スラルとレンの言葉にランスも不愉快そうな顔をする。
ランスのバイクはメディウサの城に乗り込んだ時、魔物将軍に見つかって壊されてしまった。
それからはランスも移動には不便を強いられていた。
「バイクが無くなったのですか?」
「魔物達に壊されてな。まあアレで移動すると目立つから滅多に使えないのだが…どの道この人数だとバイクも使えないからな」
日光もランスのバイクを知っている。
あれ程の速度で移動できる乗り物は確かに貴重だ。
ただ、目立つのでランスもあまり多用はしていなかった。
「まあ簡単だな。作った奴にもう一回作らせればいいだけだ」
ランスは極あっさりといい放つ。
「…確かに正解だが、難しいだろう。今何処に居るのかも分からないだろう。それに今の我等の頼みを聞いてくれるかも分からんだろう」
スラルはランスの言葉に難しい顔をする。
確かにあの天才を頼れば新しいバイクを作ってもらえるだろうが、何しろ相手は魔人だ。
もう一度会っても作ってもらえるとは限らない。
「あいつの居る場所はケッセルリンクに聞けばいいだろ。パレロアの奴は今でもあのガキの所に行ってると言ってたからな」
ランスは女性の言った言葉は良く覚えている。
そして男でも、特徴的な者の存在は忘れない。
それに魔人となったのならば、流石のランスもパイアールの事は忘れていなかった。
「ちょっと待ってくれ。ケッセルリンクとは…魔人ケッセルリンクの事かな?」
ケッセルリンクの名前が出た事でブリティシュが口を挟む。
魔人ケッセルリンク…それはエターナルヒーローが最後に対峙した魔人であり、自分達が手も足も出なかった存在だ。
しかも無敵結界も使わず、明らかに手加減をしていた。
その魔人の名前が出てきたのだから、ブリティシュとしても見逃せなかった。
「あん? お前、ケッセルリンクの事を知ってるのか。アレは俺様の女だぞ」
ランスがジロリとブリティシュを睨む。
「………ランスの言うケッセルリンクとは、もしかしてショートヘアのカラーで、胸の大きい魔人かい?」
「よし、俺様の女に手を出す気だな。やっぱり殺すか」
ランスは本気で剣を抜くが、日光が慌ててランスを止める。
「止めて下さいランス殿!」
何しろランスは本気で相手を殺しかねないのだ。
「魔人ケッセルリンクと知り合いなのかい…?」
「俺様の女だぞ」
ランスの言葉にブリティシュは頭が痛くなる。
魔人と人間が知り合い…というのは別におかしくは無い。
勿論敵対的にという意味では知り合いではおかしくないのだが、何しろランスが『俺様の女』と言っている。
普通に考えれば狂人の戯言にしか過ぎないのだが、何しろ相手はこの男だ。
「…日光、もしかして君はあの魔人の事を知っていたのかい?」
ブリティシュの言葉に日光は複雑な顔をする。
「…申し訳ありません。ですが伝える訳にもいかず」
「まあ君の立場からしたらそうか…だけど何故魔人と…その、そういう関係なんだい?」
「信じられないかもしれませんが、魔人ケッセルリンクがカラーである頃から知り合いのようです」
日光の言葉にブリティシュは尚も頭が混乱する。
魔人というのは不老不死、そして魔人ケッセルリンクと言えば魔人四天王の一人、即ち古参の魔人だ。
その魔人がカラーの頃からの知り合いとなると、目の前の男と二人の女性の年齢が気になる。
気になるが、ブリティシュとしてはそんな事は問題では無かった。
ランスの目的が魔人を倒す事である以上、ブリティシュにとっては同じ目的を持った存在なのだ。
「そうか…僕もそんなに詳しく聞く気は無い。ただ、これだけはハッキリしておきたい。魔人ケッセルリンクは人類の味方なのかい?」
ただ、これだけはハッキリしなければならない。
だが、そこに帰って来たのは否定の言葉だった。
「間違っても人類の味方では無い。元々がカラーだからな…今の時代を考えれば人間に対していい考えは持っていない」
スラルが首を振る。
「ケッセルリンクはあくまでもランス個人に対して味方というだけだ。それこそ昔からの戦友なのだからな」
「そうか…だとすればあの魔人の助力は願えないか…いや、明らかに彼女は僕達を見逃したから、何か理由はあるのかなとは思っていたんだけど」
「人間と積極的に敵対する気は無い、という事だけは覚えておけばいい。ただ、魔人である以上魔王の命令には逆らえないという事実があるだけだ」
ブリティシュはあの恐ろしい強さを持った魔人が、積極的に人間と敵対する気は無いと聞いて内心で安堵する。
あの魔人には全く勝てる気がしなかった…無敵結界を使わずにして尚、かすり傷をつけるので精一杯だったのだから。
「パイアールの所に行くよりは、やはり魔人メディウサを狙う方が良いとは思うぞ。移動には一応はうし車が使える訳だからな」
「分かっとるわ。まあ俺様のやる事は変わらん。とにかくあいつをぶっ殺す」
あの魔人は絶対に殺す、それは揺ぎ無い事実だ。
「と、言ってもまだ乗り込む訳にもいかないでしょ? まずは準備じゃない?」
レンもランスと長い間冒険をしているので、その手の事が分かって来た。
人間はそれ相応の準備をする必要があるのを理解している。
「そうですね…ランス殿にも刀の扱いには慣れて欲しい所も有りますから」
ランスは確かに剣に関しては天才的だ。
だが、それはあくまでもランスの手に合う大剣の話であり、刀に関しては話は別だ。
自分を扱ってもらうためには、それなりの修練が必要となるだろう。
「そしてブリティシュもですね。戦闘の勘を取り戻してもらわないと」
「いやあ、面目ない」
日光に指摘されてブリティシュも苦笑するしかない。
「少しの間大人しくしているのもいいだろう。どうだ? ランス」
「フン、俺様の言葉を無視して勝手に決めるな。まあ少し待ってやる。俺様に感謝するんだな」
ランスとしても、何としてもメディウサを倒したいという訳でも無い。
勿論カラーを苦しめた奴を生かしておく訳は無いが、腐っても相手は魔人、ランスも油断は全くしない。
魔剣カオスと違って、JAPANの刀はランスもそんなに使った経験は無い。
なので少しは練習しておくのもやぶさかでは無かった。
(まあ日光が俺様のモノになったんだから当然だな。あの下品で煩いカオスよりも100万倍はいいからな)
あの電波な男にはもったいない程の美女、それが聖刀日光だ。
どうせならあの馬鹿剣よりも、美女の方が圧倒的にテンションが上がるというもんだ。
(少しくらい休むのもいいな。ここ最近は俺様も働き過ぎたな)
娯楽が殆ど無いGL期だが、幸いにもここはカラーの里。
目の保養には十分だし、スラルもレンも日光も居る。
という訳で、ランスは少しの間休息を取る事となった。
だが―――生憎とランスの特訓はそう上手くいくものでは無かった。
「だああああ! またぶっ壊れたぞ! なんだこのナマクラは!」
ランスは曲ってしまった刀を投げ捨てる。
それを見て日光とブリティシュは難しい顔をする。
「うーん…まさかこんな問題が待っているとはね…」
ランスが使っていた刀は極標準の刀で、特に劣っているという事は無いだろう。
流石に富嶽よりも数段劣る刀ではあるが、日光からすれば問題は無いと言えるレベルだ。
しかし、ランスにとってはそんな刀でもナマクラ扱いだ。
ランスの剣の腕が悪いのではなく、刀がランスの腕についていく事が出来ないのだ。
「あの時と同じだな。刀がランスの腕についていけていないのだろうな」
その様子を見ていたスラルはさもありなんといった感じで頷いている。
ランスの持つ剣の腕が凄まじく、並大抵の剣ではランスの腕にはついていけあいのだ。
だからこそ、スラルはランスを勧誘するために剣を渡そうとしたのだが、それよりも早くランスは剣を見つけてしまった。
ただ、そのおかげで今の自分があるのだから、結果的には良かったと言えるだろう。
「困りましたね…」
日光としてもランスに刀の扱い方を教えたくても、ランスがその刀を壊してしまう。
そうであれば教えるのは難しい。
「かといってランスが富嶽を使うと、今度は日光が使う刀が無くなるしね」
レンの指摘に日光は苦い顔をする。
ランスが富嶽を使い、日光が普通の刀を使って教えようとしたのだが、今度はランスの刀が日光の刀を簡単に斬ってしまった。
「僕も刀は不得手だからね…」
ブリティシュは普通の剣は扱えても、刀は扱ったことが無い。
使ってやれない事は無いと思うが、それでも日光に比べれば断然劣ってしまう。
「やめだやめだ! おい日光、お前が刀になれ。それで俺様がこいつに刀を振るえばいいだろ」
「いやー…それは困るかなあ」
ランスの指摘にブリティシュは苦笑いする。
戦いの勘は戻っては来たが、流石にランスの相手をするのは厳しい。
ブリティシュもランス達と共に居る内に、彼等の凄まじい戦闘力を身に染みていた。
(僕達もかなりのパーティーだったと自負してるけど…個々の力は彼等の方が上かなあ)
ランスは間違いなく自分よりも強いだろう。
そしてランスの仲間の二人も凄まじく強い。
勿論自分の仲間であるホ・ラガやカフェ、日光、カオスも強いが、個々の実力ではランス達の方が上だろう。
ただ、戦いは個々の力だけで全てが解決する訳ではない。
仲間たちの協力があってこそなのだ。
「…そうですね、取り敢えずは刀である私を持った方が教えやすいかもしれません。レン殿、これを」
日光はレンに富嶽を渡す。
そして富嶽についている日光の運命の道具である刀の鍔を外す。
これを刀になった自分に付ければ、また違った何かが見えるかもしれないと日光は考えたのだ。
日光はまずは刀の鍔をランスに渡す
「ではランス殿」
「おう」
日光の姿が刀に変わり、ランスの手に収まる。
「ランス殿、この鍔をつけてくれますか」
「構わんが…しかし刀というのは面倒くさいな」
「大陸とは違う独自の形ですからね」
ランスはその鍔を聖刀日光に嵌める。
それは意外とすんなりと日光に収まる。
極自然に聖刀日光に日輪の形をした鍔が嵌り―――そしてランスの隣には聖刀日光を握った『日光』が立っていた。
「…は?」
突然現れた日光にランスは思わず間の抜けた声を出す。
「…え?」
それは日光も同じで、聖刀日光を握ったまま茫然としている。
「…日光、お前刀のまま人間になれたのか?」
スラルも目を丸くしている。
もしそうなら、これまでの事は一体何だったのかという事になってしまう。
「い、いえそんなはずは…でも」
日光は意識を集中させ、聖刀日光を振るう。
それはまるで自分の手足のように振るうことが出来る。
出来るのだが、日光はその一撃に若干の不満も感じていた。
「どうなってるのかしらね」
レンも不思議そうに目の前の光景を見ている。
神になったとはいえ、レンはこの世界の出来事に詳しい訳では無い。
なので聖刀日光がどういうものなのかは知らないが、それでも想定外の事態が起きている事は分かる。
「一体何が…? 違う事があったとすれば…やはりこれでしょうか?」
日光は聖刀日光につけられている鍔を見る。
これはランスと共に電卓キューブの中で見つけたアイテムで、これが自分が『運命の女』である証らしい。
これをつける事で、確かに自分は聖刀日光を自分の手で確かに握っている。
日光は試しに刀の鍔を外してみる。
「あ」
すると日光の体から重さが抜け、刀と鍔が地面に落ちる。
ランスはそれを拾い上げると、再び刀に唾を嵌める。
すると先程と同じように、刀を持った日光が現れる。
「成程、そういう事か。だとすると…一つ試させて貰いたい。日光、その手の刀をランスに渡してみてくれ」
「あ、はい」
スラルの言葉に日光は素直に刀をランスへと手渡す。
ランスは受け取った刀を2、3回振るうが、特に違和感は無いし、日光本人もランスの隣に居る。
「ランスが手にした場合はそうなるか…では次は我が持ってみるか」
スラルはランスの側に行くと、ランスから日光を受け取る。
すると日光の姿は消える。
それを見て、スラルは日光を抜いて見せる。
「…え?」
日光はその感覚に驚く。
こんな事は今まで感じた事が無かった…日光自身、持ち主のDNAを取り込まなければ、自分は聖刀しての力を発揮出来ないと確信していた。
「そういう事か。成程、これが日光の持つアイテムの効果という事か」
スラルは一人納得したようにうなずいて見せる。
そして聖刀日光をランスに返すと、再び日光の姿がランスの隣に現れる。
「おいスラルちゃん。一人で納得してないで説明しろ」
「はい。私も何が起きているのか知りたいです」
ランスと日光の言葉に、スラルは胸を張って答える。
「つまりはこの鍔…日光が電卓キューブで見つけてきたアイテムをつけていれば、契約を結んでいなくても誰でも日光を持てるという事だ」
「何だと!?」
ランスはスラルの言葉に怒鳴り声をあげる。
それはランスにとっては非常に都合の悪い事…何しろ、契約と称して日光を色々出来るというスケベな事を考えていたからだ。
それが無に帰してしまう…ランスはそれを危惧していた。
「ただ、ランスが契約者ならば、聖刀日光にその鍔をつけていれば、日光自身が聖刀を振るえるという事だろう」
「そんな事が…」
日光はランスの手にある魔人を斬る事の出来る刀を見て茫然とする。
「勿論そのままという事は無いと思うが…日光、お前自身がこの刀を振るってどう思う?」
スラルに問われて、日光はランスから聖刀を振るってみる。
それは先ほどと同じように手に馴染む。
手に馴染みはするが、一つの違和感を日光は感じていた。
それはランスが手にしていた時より、刀そのものの強さが弱いという事だった。
「そういう事ですか…ランス殿が私と契約をしているのならば私自身がこの刀を振るえる…しかし、この刀の真の力を引き出すのならば、ランス殿が使えばいいという事ですか」
「そうだろうな。試しに他の者も持ってみればいい。そうすれば分かるだろう」
スラルの言葉に日光は頷くと、その意識を刀に向ける。
すると聖刀日光に日光の意識が移る。
それはまさしく自分自身が刀になった感覚だ。
「レン、持ってみてくれ」
「まあいいけどね」
スラルの言葉にレンは聖刀日光を手に持つ。
「うーん…私自身が刀を使わないからか、違和感は凄いわね。持てはするけどランスのようには扱えないでしょうね」
「それもあるだろうが…日光、どうだ?」
「ええ…確かにスラル殿の言う通り、普通に力は出す事が出来ますが…ランス殿が持っている時よりも力は大分劣っているのは分かります」
日光自身、自分の力が上手く発揮出来ないのが分かる。
ランスが手にしたときは、自分自身の力をフルに使えるのが分かったが、スラルとレンが持った時は力が上手く使えない。
恐らくは、それこそが相性というものなのだろう。
「では次はブリティシュにお願いします」
「僕かい? そうだね…もし僕が使えるのであれば…とも思ってしまうね」
ブリティシュはレンから日光を受け取る。
それは普通の刀を持っている感覚で、何の問題も無く振るう事が出来る。
契約していない自分では、日光を抜く事が出来なかったのは既に確認しているので、ブリティシュとしてもそこは安堵する。
「で、どうだい、日光」
「…駄目ですね。やはりランス殿が持っている時のような力は発揮できません」
「そうか…」
ブリティシュは少しがっかりした様子で、日光をランスへ手渡す。
日光はそこで刀のまま、ランスに手にある事を望む。
すると、日光は刀のまま問題なくランスの手に収まる事が出来る。
「どうやら私の意思で刀にも人にもなれるようです」
「俺様が特別という事だな。がはははは!」
「ええ…それにこれまで以上に力を感じます。恐らくはこれが相性なのでしょうね」
日光はこれまでに無い力を感じ取る。
このままランスが自分を振るえば、あの魔人の体も容易に斬れるであろう事を確信させる力だった。
「ですがこれでランス殿に刀を教えられますね」
日光は人の姿に変わり、レンから富嶽を受け取る。
自分専用の鍔は無いが、それでもこの刀は自分の愛刀、何の問題も無い。
「これで問題無くランス殿に刀を教えられますね」
「む…そういやそうか」
ランスは日光から刀を教えてもらうという事に、わくわくしていたのだが―――それは甘い考えだと思い知らされたのはすぐの事だった。
日光は理知的ではあるが、スパルタだという事をランスは思い知らされたのだった。
だが、その甲斐あって、ランスの刀を扱う技術は飛躍的に延びる。
それはランスが神の気まぐれによって与えられた、LV3という技能があっての事だろう。
そして夜になると―――ランスは当たり前のように日光を抱き、日光も拒否する事無く抱かれる。
今は自分の近くにはブリティシュが居るというのに、それでもランスの誘いを断ることが出来ない。
日光はそんな事を考えていた時、ブリティシュはスラルと話していた。
「聞いて良いか?」
「何かな?」
「日光はランスと体の関係があるのだが…お前は仲間として気にならないのか?」
それは素朴な疑問だった。
スラルは生まれながらにしての魔王、人の気持ちというものが全くと言っていい程分からなかった。
ランスのおかげで魔王という存在を辞め、今はこうして人となっても尚、完全には人の心は分からない。
「それは日光の自由だからね。彼女が誰かを選ぶというのであれば、それで良いと思っているよ」
ブリティシュは本心からそう思っている。
むしろ、彼女がこうして再び仲間たちと合流できたことを喜んでいる。
(日光にもああいう顔が出来たんだな…)
自分達と合流した日光は、何処か罪悪感を持って自分達と行動していた。
勿論冒険や戦いで手を抜いた事は一度も無い。
自分達を信頼してくれていたし、自分達も日光の事を信頼した。
ただ、それでも壁のようなものは感じていた。
「それに、彼女があんなに感情を露にするなんて思わなかったしね」
日光がランス達と再会した時、その態度に驚いたのは自分自身だ。
「彼と出会って日光はよく笑うようになった。それが嬉しくもあるよ」
「そんなものか。しかしお前も中々に強いな。これほどの人間はそうはいないからな」
「それは光栄だ。ただ、僕から見れば君達の方が気になる所ではあるけどね」
魔人ケッセルリンクと知り合いという事、そして10年以上経過しているのに年を取っていない事。
それらは当然疑問なのだが、ブリティシュにとってはそこまで重要ではないので、特に気にしていない。
「我等は別に話す事は無いな。ただ、人類の敵ではないとだけは言っておくがな」
「その割には、あの時僕達に襲い掛かってきたけどね」
「あの時はお前達は黄金像を巡ってのライバルだったからな。確かにランスは短気ではあるが、効率がいい行動だったと思っている」
ブリティシュもスラルの言う事も分からなくは無い。
実際、このGL期ならばそう考える者も多いだろう。
ブリティシュ達もそんな悪質な冒険者とは何度かやりあっていた。
「さて…実際問題お前は本当にランスを裏切らないか」
「ああ。言っただろう、僕の目的は魔人を倒す事。君達と目的が同じな以上、裏切る事は無いさ」
「…まあそうか。お前は腹芸が上手ではなさそうだ」
スラルの言葉にブリティシュは苦笑する。
それはかつての仲間達にも言われていた事。
自分は素直過ぎると。
その時何処かの扉が開く音と、一瞬だが日光の嬌声が聞こえてきた。
「レンが行ったか」
「…君達は本当に彼とそういう関係なんだね」
「別に問題は無いだろう。それに、ランスに抱かれる事は良い事だからな」
「? どういう意味だい?」
「お前には関係の無い事だ。絶対にな」
スラルはそう言うと、手元にある本を再び読み始めた。
こうしてランスの雌伏の時は続いていく。