GL期―――あらゆる生物の地獄の時期であり、それは魔物であっても例外は無い。
だが、そんな地獄でも人は隠れながらも魔王に対抗していたように、魔物達にも例外もある、そんな時代。
そんな流動する世界の中で、何一つ変わらず行動をする者も居る。
相変わらず怠惰のように見えて、実は密かに刃を研ぎ続けるカミーラ。
日夜努力を重ね、ついに最弱の魔人から脱出したケイブリス。
好き勝手に暴れるレキシントン。
新たな魔王が相手でも全く動こうとしないますぞえ。
そんな中で、一人黙々と作業を続けている魔人がここにも一人存在していた。
それが魔人パイアールで、彼は姉を助けるべく今でも研究を続けていた。
ただ―――その研究がどんどんと外れて言っているのを指摘出来る者はだれ一人としていなかった。
そんなパイアールの元に、一人の女性が現れる。
「相変わらずですね、パイアール様。きちんと寝ていますか?」
「…姉さんを助けるまで、僕にそんな暇は無いね」
ケッセルリンクの使徒であるパレロアが、魔人パイアールの元を訪れていた。
この二人は共に人間だった頃からの知り合いで、パイアールもそんなパレロアの事は邪険には扱わなかった。
それは自分の姉であるルートとパレロアが親しかったからに他ならない。
「魔人とは言え、食事くらいはしなくちゃ駄目ですよ。ここにサンドイッチを置いておきますので、食べて下さいね」
「んー…そうだね。少しくらいはいいかな」
パイアールはパレロアの言葉に素直に従い、彼女が用意したサンドイッチを食べる。
「ルートさんはまだ治りませんか?」
「色々と問題が発生しているんだ。説明しても理解出来ないだろうけどね」
「まあそうでしょうね。私は未だにパイアール様が何をなさっているかさっぱり分かりませんし」
事実、パレロアはパイアールが何をしているのかさっぱり分からない。
説明されても全く理解が出来ないというのが本音だ。
「で、今回は何か要件があるんだろう? 君が1人で僕の元に来るのはそれなりの理由があるだろうからね」
パイアールもパレロアとは長い付き合いがある。
彼女の主人であるケッセルリンクとはあまり付き合いは無いが、それでもパレロアの主なのでパイアールとしてもそれなりに親しくしていても損は無い。
彼女と争う事は極力避けるべきだとパイアールは思っていた。
そのケッセルリンクの使徒であるパレロアが1人で自分の所に来たという事は、何か特別な出来事があったという事だ。
それこそ主であるはずのケッセルリンクに関係の無い事がおき、尚且つ自分が関わって居るという複雑な事情があるのだろう。
「はい。パイアール様が昔作ったバイクの事を覚えてますか?」
「バイク…ああ、PBシリーズの一部だね。僕自身が扱えないから結局は封印したけど…アレはランスが持っているだろう?」
「そのバイクですが…魔物によって壊されてしまったようです」
「…ああ、そういう事か。まああいつらに僕の作った作品が理解出来る訳が無いしね」
そう言いつつも、パイアールは不愉快そうに眉を顰める。
PBシリーズの一つとして開発したバイクだが、最初は遠隔操作で動かそうと思っていたのだが、思った以上に扱いが難しく結局計画は凍結された。
その内の一つを、有人仕様として改良したのがランスに渡したバイクだ。
その結果はパイアールの想像以上で、ランスはバイクを見事に使いこなしていた。
ならばと思い、新たな有人仕様のバイクを作って、自分が事故をおこして爆発したのはパイアールの黒歴史の一つだ。
「成程、だったら僕の所に新しいバイクを取りに来るかもしれないという事かい?」
「はい。ランスさんはパイアール様が魔人で有る事を知ってますから。会いに来ても不思議は無いでしょう。普通はそんな事誰も考えないのでしょうけどね…」
人間が魔人に会いに来る、そんな事は本来はありえない。
だが、そのありえない事を平然とやってのけるのがランスという男なのだ。
「ふーん…そうだな。ランスのバイクの操縦技術は確かに凄かったしな…」
自分が爆発させたのは、自分には肉体を使った行動に向いてないと改めて気づかされた事だった。
ただ、正直自分が作った道具をあそこまで上手く使う事に対し、製作者として色々と思った事も事実だ。
「ええ。ですので…前と同じようにしたら如何ですか?」
「前…ああ、アレは僕が彼に報酬として渡したものだったからか」
バイクは魔人を捕獲する際の報酬として支払ったものだった。
パイアールとしては別に渡しても問題は無い作品だったので、色々と色をつけて報酬を支払った。
「そうだな…色々と聞いてみるのもいいかもしれないな。そういや人間の事なんて気にも留めてなかったし…」
昔にJAPANの藤原石丸が大陸の制覇を目指していた時も、パイアールは全く無関心だった。
本来のパイアールであれば、人間を見下し関わる事すらも下らないと思っていただろう。
だが、パイアールはあの時のランスの戦いぶりを見た。
見下していたはずの野蛮人が、圧倒的な力で魔人を相手にしても一歩も退かなかった。
それどころか、無敵結界さえなければ魔人を倒せていたと思うくらいの戦いぶりだった。
その経験から、
「分かったよ。ただ、彼等が僕の元に辿り着けるかどうかは別問題だ。ジルは僕には無関心だからその辺りは大丈夫だと思うけどね」
「その辺りはランスさんが何とかするでしょう。これまで何体もの魔人とも戦っていますから」
「相変わらずだね。まあPBの発展型と思えばいいか…でも要望を聞かないとどうすればいいかは分からないか」
パイアールの作ったものが必ずしも相手の求めるものとなるかは分からない。
それはランスと共に魔人に挑んだパイアールがその身をもって知っている。
「新しいプランは考えておくか。姉さんの事も有るけど、有益な情報が手に入る可能性も有るからね」
「ええ、お願いします。私はランスさんに伝えておきますので」
「今ランス達が何処にいるのか、そっちは完全に把握しているのかい?」
「はい。尤も、こちらからの接触は可能な限りはしませんが」
「まあそうだろうね。向こうもこっちと接触するなら、魔王が居ない時期を選んだ方がいいと思うよ。ここは魔王城に近いからね」
そこまで魔王城から近い訳では無いが、そう遠くも無い、パイアールが居るのはそんな所だ。
実際にはLP期におけるレッドの街の付近にパイアールは拠点を構えている。
GL期になってからこっちに移ったが、幸いにも魔王はパイアールに何も要求する事は無かった。
「さて…久々にPBについて考えるけどどうしたものかな」
パイアールが1人開発に没頭したのを見て、パレロアは一礼してから静かにその場を去っていった。
ケッセルリンクの館―――そこは魔人四天王であるケッセルリンクの根城。
なのだが…結構な魔人が彼女の館を訪れる。
同じ魔人四天王のカミーラはケッセルリンクとよくワインを飲んでいるし、色々と話をしている。
レイは魔人ケッセルリンクに喧嘩をふっかけ、何時も軽くあしらわれている。
魔人ジークも魔人一の淑女と言われるケッセルリンクに好感を抱いており、よく彼女の元を訪れる。
そしてそんなケッセルリンクの館に最も訪れているのが、魔人ラ・ハウゼルだった。
「有難うございます、加奈代さん。借りていた本を返しに来ました」
「はーい。確かに受け取りました。ハウゼル様は本当に本が好きなんですねー」
加奈代は魔人ハウゼルから本を受け取ると、それを本棚に仕舞う。
そして返却された本棚を見て、ハウゼルから見えない位置でニヤリと笑う。
その笑いを見て、バーバラは露骨にドン引きしていた。
「その…続きを借りたいのですが、宜しいですか?」
ハウゼルは少し顔を赤らめて、返却した本の続きを要求する。
ハウゼルの言葉を聞いて、加奈代は少し悲しげな顔でハウゼルを見る。
「申し訳ありません、ハウゼル様…私としても続きをお貸ししたいのはやまやまですが、無い物をお貸しする事は出来なくて…」
「え…? な、無いのですか?」
「はい…これは昔の書物ですから、見つからないのも無理は無いんです…」
実際にはそんな事は無いのだが、これも全てはこれまでの計画のためだ。
それには長い年月が必要だった…と言っても、永遠に生きる魔人や使徒にはそれほど大した時間でも無いのだが。
ハウゼルに本を貸し出し続け、最初はソフトな内容から、そして少しづつ過激な内容になるように、加奈代は少しづつ時間をかけてきた。
そしてそれがようやく花開いたのだ。
(思ったより時間かかりましたが、まあ早い方でしょうか。ランスさんも常にこの時代に居るとは限らない訳ですし)
運に任せている仕掛けではあったが、こうして花開いたことに加奈代は内心で安堵する。
「そんな…折角良い所まで読めたのに…」
ハウゼルは加奈代の言葉に肩を落とす。
続きを読みたいのに、その続きが存在していないのだ。
だが、それはケッセルリンクが悪い訳では無いので、ハウゼルとしては何も言えない。
「ふむ…ハウゼル、そこまで続きを読みたいのかね?」
「ケ、ケッセルリンク様!」
「あ、ケッセルリンクさん!」
ケッセルリンクが現れ、ハウゼルが返却した本を手に取る。
「続きか…これは私が昔にJAPANに行った時に手に入れた本だ。ただ、JAPANもあれから荒廃し、続きがその場所にあるとは考えられないな」
「…そうですか」
ハウゼルはその言葉に痛ましい顔をする。
JAPANでの話…それはケッセルリンクから聞いた事がある。
藤原石丸が大陸に進出し、それに怒りを覚えた先代魔王ナイチサが魔人ザビエルに討伐を命じた。
その時に、ケッセルリンクも駆り出されたらしい。
直接戦闘に参加してはいなかったが、その時にこれらの本を手に入れた―――という事にしてある。
実際にはこの本を持っていたのはランスであり、ある目的からケッセルリンクが預かっているに過ぎない。
「だが、その本の続きを持っている者について心当たりがある」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。私としても君に対して中途半端な事はしたくない。だが、少し時間をくれないか」
「も、勿論です! 何時でも待ってますので、連絡ください!」
ハウゼルは興奮気味にそう叫ぶと、そのまま出て行ってしまった。
そこには喜びが溢れており、バーバラはそんな彼女を見て罪悪感を抱いてしまう。
「あの…ケッセルリンク様、宜しいのですか? 私、ハウゼル様を騙している事に凄い罪悪感が…」
「君の言う事も分かる。だが、そうしなければランスの…そして私の願いが叶わぬのも事実だ」
「…申し訳ありません、出過ぎた事を」
真剣で、そして愁いを帯びた顔の主を見て、バーバラは自分が軽率だったと頭を下げる。
あの時の…ジルがナイチサによって無理矢理魔王にされた時の主の顔を見ているのに、自分は使徒にも関わらず自分の感情を優先させてしまった。
それは使徒にとってあるまじき事なのだ。
「いいんだよ、バーバラ…騙しているのは事実なのだから。私も心苦しいが、嘘は言っていないからね。ランスが持っているという事は事実なのだから」
「まあ…そうなんですけどね。あの男と加奈代が喜々としてハウゼル様を騙しているのが申し訳なくて…」
これらの行動は全てランスと加奈代の策略だ。
あの男はともかく、同じ使徒である彼女が喜々としてこういう行動を取っているのが信じられないくらいだ。
「加奈代、後の手筈は君に任せる。私が下手に行動するより、君とランスの間で決めた方が良いだろう」
「お任せください、ケッセルリンク様。時間は有りますから、まずはランスさんに伝えないと」
ランスならばハウゼルを嵌めるための手段を絶対に思いつくだろう。
卑怯と言えばそれまでだが、ランスはそういった心の隙を突くのが非常に上手い。
それもまた、ランスの才能なのだろう。
加奈代は少し楽しくなりながら、ウキウキで計画を練り始めた。
バーバラはそんな同僚に対して、呆れたようにため息をつく以外に無かった。
「がはははは! とー---っ!」
「っ!!」
ランスの一撃をブリティシュは何とか受け止める。
その手に有るのは刀であるにも関わらず、その一撃は重い。
(日光とは対照的だ…! でも、強い!)
ブリティシュも訓練で何度か日光と打ち合った事がある。
その日光の教えを受けているはずのランスだが、その動きは日光とはやはり全く違う。
にも拘わらず、ランスの一撃は非常に重く、そして正確で―――そして非常に速い。
(それ以上に…凄いやりにくい…!)
日光との決定的な違いは、ランスの剣が非常に見切りにくい事だ。
日光の剣は素晴らしいが、ブリティシュから見ればある意味型通りの強さだ。
勿論それは素晴らしい事であり、日光の技量の高さが読み取れた。
だが、目の前の男の剣は非常にやりにくい。
型は滅茶苦茶だし、一見すると刀を扱いこなす技量があるようには思えない。
しかし、こうして相対するとランスの剣の異質さ―――容赦の無さに戦慄する。
態勢を崩しても、その一撃が何処から飛んでくるか分からない。
そして確実にこちらの命を狙ってくる、そんな独特な技だ。
「相変わらずランス殿の剣は滅茶苦茶ですが…それでも強いですね。一見すると滅茶苦茶なのですが…」
日光はランスにそれこそ手取り足取りと刀の扱い方を教えた。
ランスも日光に教わるのならばと、面倒くさがりな性格の割には真面目に刀を覚えていた。
勿論今のランスの戦い方は、普通に見れば刀を扱っているとは思えない程の乱雑さだ。
ランスの剣の異質さは、実際に目の前で相対しないと分からないのかもしれない。
それくらいランスの剣は『異常』だった。
「がはははは! 来い!」
「あ、それは…」
ランスが声をかけると、ランスの片手に黒い剣が現れる。
何時の間にか日光を右手で持っていたランスが、左手に持った黒い剣でブリティシュを斬りつける。
聖刀日光を振るっていた時とは違う重さを感じ、ブリティシュはバランスを崩す。
「はいはい、そこまでね」
そして右手の日光が振るわれるのを、レンがその盾で防ぐ。
「どわ!?」
その衝撃にランスは弾き飛ばされる。
「おいレン! 突然出てくるとはどういう了見だ!」
「了見も何も無いでしょ。あのまま日光を振るってたら死んでてもおかしくないわよ」
「別に俺様は死んでも構わんが」
「はいはい、そういうのは無し。今は一緒に行動するって決めたんだから、少しくらいは自重しなさいよ。まあ、それをランスに求めるのは間違っているとは思うけど」
レンにそう言い切られて、ランスはつまらなそうに剣を収める。
ブリティシュも苦笑しながら立ち上がる。
「やれやれ、突然剣が増えるのはずるいよ」
「戦いにずるいもクソもあるか。勝った奴が偉いんだ」
「それもそうだけどね…」
ランスの言っている事は非道な事なのだが、戦いにおいてはある意味真理もついている。
結局、勝たなければ何も始まらないのだ。
ただ、ランスはそれを平然と公言するので、反発を招くというのも事実だ。
「私の教えとは全く違う刀の使い方ですね…でも、それでもブリティシュと戦えるのですから、それがランス殿にとっての正解なのでしょう」
ランスの刀の使い方は日光の教えとは違う。
だが、それでも現実に自分やブリティシュと戦える力があるのだ。
だとすれば、ランスには思う存分に自由にやらせるのが一番なのだろう。
(それに…基本はしっかりと出来ていますし)
何だかんだ言っても、ランスは生粋の戦士なのだろう。
基本はきちんと出来上がっているので、教えるのにも時間は殆どかからなかった。
「僕もモンスターとの戦いでしっかりと体を戻せたし…そろそろいいんじゃないかな?」
「フン、お前に合わせてやったんだ。感謝しろ」
「はは。面目ない。でもありがとう、ランス」
「だったらせいぜい俺様の役に立つんだな。まあ盾くらいにはなるだろ」
ランスの言葉に日光は少し眉を吊り上げる。
「ランス殿…ブリティシュは本当に強いんです。そういう言い方は…」
「いいんだよ、日光。それに僕の事情に付き合わせたのは事実だしね。実際、君達のレベルの高さを聞いて驚いたくらいさ」
「がはははは! 俺様はお前達よりも強いのが分かっただろう」
「そうだね…まさか僕が一番レベルが低かったなんて驚いたよ。尤も、君達のレベルが高すぎるだけかもしれないけどね」
まさにレベルが違う、その事を思い知らされた瞬間だった。
「それよりも聖なるアイテムだ聖なるアイテム。それが見つからなければ中々レベルが上がらんぞ」
アレからは…ランスのレベルは上がっていない。
レベルを維持するだけの経験値で手一杯だった。
この世界は怠けていれば自然とレベルが下がるというシステムになっている。
だからこそ、ランスは大きな冒険が終わった後は直ぐにレベルが下がっていた。
今はレベルが上がりにくい分、下がりにくくもなっているのが救いだろう。
「中々見つからないからね。そう簡単に見つかってもらっても困るんだろうけど」
聖なるアイテムをクエルプランに捧げれば何か良いアイテムを貰える…との事だが、生憎と聖なるアイテムはあれから見つかっていない。
あと二つ渡せばいいのだが、その二つを見つけるのが大変なのだ。
何しろ聖遺物は魔人に対抗するために神が用意した道具なのだから。
「聖なるアイテム…魔封印結界の道具になるんだったよね? で、実際君達はそれを使ったのかな?」
ブリティシュとしてはそこに興味があった。
以前に聞いた話では、その魔封印結界を使って魔人を倒した事があるらしい。
ただ、自分達はそれを信じる事が出来るかと言われれば、そうではなかった。
やはり自分達で使ってみなければ、それが真実かどうかは分からないからだ。
ランス達はそれを知っている…という話を日光から聞いた事があった。
日光本人は魔封印結界を見た事が無いので、その詳細を聞く事は出来なかった。
「使ったぞ。毎回破られるし、道具を集めるのが面倒くさいから使わんが」
「破られる…か。確かにそれだと使いにくいだろうね。その後が続かないからね」
ランスの言葉を聞いて、ブリティシュも難しい顔をする。
有効ではあるが、決定打では無い。
そして魔人に対してはその決定打に欠けていてはダメなのだ。
何しろ魔人には無敵結界が有るので、どんな攻撃も通用しないのだから。
「ランス殿の力をもってしても、まだ見つからないのですね」
日光はランスの冒険者としての勘、そして強運を知っている。
目的の物は必ず見つけてきたし、その過程でも色々なアイテムを見つけてきた。
実際に黄金像も見つけられたし、冒険者としての運はランスの方が上だと日光も思っている。
「ここ最近は外にもあまり出ていない。この周囲にはもう大したものは残っていないのだろう」
「何だスラルちゃん。珍しく俺様の側に居なかったが、何かあったのか」
ランスの軽口にスラルは不満気な顔をする。
「別に何時も居る訳でも無いだろう。パレロアに会っていた」
「パレロア? あいつ、来てたのか」
「ああ。森の外で会って来た。あいつもカラーに配慮してくれているのだろう」
パレロアはケッセルリンクの使徒、そんな存在が大っぴらにカラーと接触するのはカラーに対して悪いと思っているのは明らかだ。
その辺りも、ケッセルリンクとハンティの間に細かなやり取りがあった事は想像に難くない。
「ランス、バイクが壊れた事がパイアールに伝わったそうだ。奴の依頼を受ければ新たなバイクが貰えるそうだ」
「何だと!? うむ、そいつはいいな。だったらさっさとあのガキの所に行くか」
ランスはバイクを非常に気に入っていた。
うし車よりも早いし、何よりも非常に爽快感があった。
道具にはあまり執着しないタイプのランスだが、バイクに関しては話は別だった。
「だが、パイアールが居るのはここからは反対の方向だ。流石にそこまで行くのには時間がかかるぞ」
スラルは地図を取り出すと、パイアールが居る地点を指さす。
「む…確かに遠いな」
それを見てランスは難しい顔をする。
この時代は中々移動が難しい。
LP期ならそれこそうし車を使えばいいが、今の時代でそんな物を使うのは自殺行為に等しい。
ましてや今は魔物達が活発な時期、うし車の使用は避けるべきだ。
(レッド辺りか。確かハイパービルがある辺りだな)
スラルの指さしたのは、ランスも登った事があり、あの魔人サテラと戦ったビルだ。
(そういえばあれは見当たらなかったな。誰があんなもん作ったんだ?)
ランスは世界を見てきたが、スラルの時代にもナイチサの時代にもハイパービルは見当たらなかった。
かなり大きい建物なので、これまでの冒険で目に入らない訳が無いのだ。
「その…パイアールって誰だい? 君達の知り合いみたいだけど…」
「あのバイクを作った人ですよね?」
ブリティシュと日光は当然パイアールが誰なのかは分からない。
魔人の中でも全く表に出ず、人間に対して悪意も敵意も持っていない…もっと言えば無関心なので、人間の間でも特に名前が知られている存在では無かった。
一応は魔王ナイチサの命令で人間を殺す機械を作りはしたが、それもナイチサの死と共に全て失われた。
新たな魔王であるジルは、パイアールには全く干渉しないので、パイアールとしては有難い魔王ではあった。
「…魔人パイアール。あいつが人間だった頃に依頼を受けて魔人と戦った。その後で魔人となった。そんな関係だ」
「「!!!」」
スラルの言葉に二人は言葉を失う。
「じゃあ…魔人の元に向かうっていうのかい!?」
「そんな…アレが魔人が作ったものだなんて…」
「驚くだろうな。だが、我等はそうして今まで進んできた。気に入らないなら何時でも抜けてくれていい」
「コラ、何勝手な事を言っている。そこの男は別に構わんが、日光は絶対許さんぞ」
ランスは日光を抱き寄せると、その尻を撫でる。
「ラ、ランス殿! 今真面目な話をしているんです。こういう緊張感の無い事は止めて下さい」
日光はランスの手からするりと抜けると、真面目な顔でスラルを見る。
「彼女以外にも協力者が居るという事ですか?」
「協力者では無いな。それに魔人になる前の付き合いであって、それからは会っても居ない。今どういう態度を取るかは分からないからな」
「そうですか…」
スラルの言葉に日光は悩む。
魔人を倒す事は日光の絶対的な願いだ。
だが、それで魔人ケッセルリンクを倒したいのかと思えば…ノーだ。
何しろ彼女はあくまでも個人的にではあるが、ランスに手を貸している。
黄金像にしてもそうだし、何よりも彼女本人と話もしている。
「…私はランス殿の意思に従います。そこに何があっても、私は受け入れます」
「がはははは! 当然だな。お前は俺様の女だからな」
ランスは日光を抱き寄せようとするが、今度は日光はするりと躱す。
「…おいこら日光」
「時と場所を弁えて下さい。今は真面目に話しているのですから。ブリティシュ、あなたは…」
「僕も受け入れよう。魔人は確かに人類の敵だけど…よく考えたら僕は魔人の事は何も知らなかったからね。魔人を知るいい機会なのかもしれない」
ブリティシュも真剣な顔でスラルに答える。
その目には強い意志が宿っており、新たな決意に満ち溢れている。
(成程…ランスとは違うが、確かに強い力を感じるな。ランスとは違うカリスマを持っているか)
ブリティシュもまた、強い力と意思を秘めた素晴らしいリーダーの素質の持ち主だとスラルは見抜く。
ランスとは合わないタイプだと思ったが、実際にはそんな事も無いのだろう。
(ランスとの違いは…責任感だろうな。ランスには責任感というのは皆無だからな。だからこそ、大胆な手を打てるという所もあるのだが)
「まずは日光が本当に無敵結界を斬れるのか…その検証をしたいのだがな」
そのためにケッセルリンクに頼もうか、という言葉を続けようとした時、
「大変です! ランスさん! 大変です!」
「あん? どうしたウトスカ」
大声を出しながら走って来たのは、ウトスカ・カラーだ。
息を切らしながらウトスカは声を絞り出す。
「魔軍です! 魔軍がカラーの森に近づいてきています!」
「何だと!」
ウトスカの知らせは何と魔軍が現れたという報告だった。
「しかも…魔人が居るんです!」
「な…魔人が!?」
魔人が現れる、それは驚きの言葉だった。
「ハンティ様が見張っています! ランスさん、お願いです…助けて下さい!」
「おう、俺様に任せておけ。おい日光、早速やるぞ!」
「はい!」
ランスの言葉に日光は力強くうなずいた。