魔物の役割は、メインプレイヤー…即ち、人間を殺す事。
それが魔物の本能であり、誰もがそうしたいと思っている。
中には人間を殺すだけでなく、人間を嬲り、痛めつけ、管理しようとする者も居る。
ただ、それが出来ないのは魔王が存在しているからだ。
魔物は魔王の命令には絶対服従、逆らう事は決して許されない。
だが、魔王が居なければある程度は自由に動けてしまう。
そして今の時期はその魔王ジルがこの世界に居ない時間だった。
よって魔物の処刑は止められ、魔物牧場に居ない魔物達はある程度好きに暴れる事が出来る。
中には、抑圧された鬱憤を晴らすかのように、人間を襲う魔物も居る。
それは魔物兵であっても例外では無く、今まさに好き勝手に動いている魔物兵が存在していた。
それこそが中身がハラキリである、魔物隊長だ。
そして魔物隊長が強気になっているのは、その隣にいる強大な力を持っている者だ。
それこそが魔人イゾウだった。
「ここにカラーが居るそうで、イゾウ様」
「そうか…ここにカラーが居るのか。ここにクリスタルがあるのだな」
魔人イゾウは、あの時人間に剣で負けた事を未だに認められずにいた。
そして自分に足りないのは…武器だと結論付けた。
それは非常に短絡的だが、魔人としては当たり前と言える事でもあった。
魔人が人間に負けるはずがない、それは魔人の共通認識だ。
そもそもそれは当たり前で、無敵結界がある限り魔人は決して負ける事などありえない。
「カラーのクリスタルがあればより強き刀となる…カラーを犯せ、殺せ。そしてクリスタルを持ってこい」
「「「はっ!!!」」」
イゾウの言葉に魔物兵達は嬉しさを隠しきれずに返事をする。
日常的に強いストレスに晒されている魔物兵の中には、自分が殺されると分かっていても自暴自棄になる奴等も居る。
ただ、そんな奴でも好きに出来ないガチガチの管理体制がジルにはあるのだ。
しかし、何事にも例外は有るし、ジル自身も実はそこまで厳しくは見ていない。
実際には人間牧場は魔王を殺せる唯一の手段である、勇者を無力化するシステムでしかない。
むしろ、ジルにとっては魔物牧場こそ怒りと憎しみだけで作ったものなのだ。
とにかく、魔物達の中にはこうした自棄になった魔物が現れる。
そういう奴等は自然と淘汰されるので、特に魔王が動いていないという印象を作り上げてしまったのだ。
そして今回はその中に魔人が存在していた。
魔人イゾウは、人間に手は出すなという言葉を逆手に取り、人ではないカラーを狙う事を考えた。
それに、カラーのクリスタルの事は前から話には聞いていたが、魔人故の全能感から特に興味を持たなかった。
しかし、人間相手に剣で押されたことで、イゾウの頭の何処かが壊れた。
「俺に足りないのは武器だ…そうだ、そうでなければありえぬのだ」
ある人間に剣で負けた事に対する憎悪。
それがイゾウの目を曇らせ、そして破滅へと導いていった。
「チッ…まさか魔人がカラーを名指しで狙ってくるなんてね…」
ハンティは物陰から魔軍の姿を見て唇を噛む。
いくら伝説のカラーと呼ばれている自分であっても、魔人には到底敵わない。
無敵結界の前にはハンティの魔法も効果をなさない。
「だからと言って、ここから逃げるにしてもどれだけが逃げられるか…」
ようやくカラーが落ち着いてきた…と、言っても、それでもカラーの数は少ない。
ましてやカラーは人間に狙われている事を考えると、この森から出ても生きていけるかどうか分からない。
下手をすれば、カラーという種族が絶滅する可能性も有る。
(人間を頼れば良くてクリスタルを生む道具にされるだけ…だからと言って、ケッセルリンクには頼めないか…)
人間は論外、ケッセルリンクを頼った場合は将来に必ず影響が出る。
それを思うとハンティとしては苦しい選択を迫られる事になる―――のだが、今は事情が違う。
「おう、ハンティ。どれくらいいる」
「ランスに…皆来たんだ。数は魔人が1に魔物隊長が2、魔物兵がざっと200位と言った所だね」
「意外と多いな…」
数を聞き、ランスも少し悩む。
何しろ魔軍というのは魔物兵1体でも相当な強さを持っている。
ランス達のような規格外の者なら問題無いが、一般兵からすれば脅威以外の何物でもない。
カラー達がその数の魔物相手に戦えるとはランスも思っていない。
「言っとくけど、逃げる気は無いよ。ここで逃げても行くところが無いからね。だから…本当に魔人を斬れるのかどうか、それだけが私達の希望さ」
ハンティが日光を見る。
魔人を殺すための力を手に入れたというが、それが真実がどうかは分からない。
だが、それ以外にカラーという種族が生き延びる道は無いのだ。
「それに今回の魔人の目的は明確にカラーだ。カラーのクリスタルが狙いだって言ってたからね」
忌々しい事に、カラーのクリスタルの事は魔物達にも伝わっているらしい。
それも無理も無い事だとは思うが、まさか魔人がこんな明確にカラーのクリスタルを狙うとは思っていなかった。
「まさかこれほどの数の魔軍が動いているなんてね…」
ブリティシュとしても、これほどの数の魔軍が動いているのを見た事が無い。
そんな数の魔軍を相手に戦う必要は無かったし、そんな無謀な事はした事が無かった。
「まあいい。どれだけ数が居ようが、ああいう連中は頭を潰せば脆いもんだ。だからまずは魔物隊長からぶっ殺すぞ。魔人は最後だ最後」
ランスは何とも無いように言い放つ。
「…本気で言っているのかい?」
「何時だってランスは本気だ。それに、意外と多いとは言ったが、対処できない数でも無い。それこそ頭である魔物隊長が死ねば魔軍の士気は大きく鈍る」
「よーし、早速ぶっ殺しに行くぞ。ハンティは魔人の動きを見張ってろ。動いたら教えろ」
「…分かったよ」
ランスの言葉にハンティの姿が消える。
瞬間移動が出来る彼女にとっては、その程度の事は何という事は無い。
「行くぞ」
こうしてブリティシュと日光にとっては初めての魔軍戦が始まる事となる。
ランス達は魔軍を監視する。
こうして不意打ちするのに丁度いいタイミングを計っているのだ。
「ランス殿…魔人の方はどうするのですか?」
「魔人は後だ後。まずは魔物隊長を潰す。その後の混乱の後で魔人をぶっ殺す」
「まずは魔人から…では無いんですね」
日光は少し悔しそうに顔を歪める。
魔人が相手だというのならば、自分の力を振るえる機会だと思ったのだ。
だが、そんな個人的な感情よりも、カラーを助ける方が先だと頭を切り替える。
「それにしても…完全に無警戒と言うか、油断をし過ぎていると思うんだけどね」
ブリティシュは魔軍の動きを見ながら呟く。
「魔軍なんてあんなもんだぞ。相手がカラーだからと完全に舐めてるんだろ。それよりも見ろ。奴等が部隊を分けるぞ」
ランスの言葉通り、魔物隊長が魔物兵に対して指示を出している。
「隊長…ここは広い森ですし、ドラゴンを刺激したくありませんな」
「そうだな…よし、どうせ相手はカラーだけなんだ。ここは部隊を分けるぞ。カラーを見つけたら真っ先に報告しろ」
「「「ハッ!!!」」」
魔物隊長の指示に魔物兵達は一斉に返事をする。
そして1部隊に魔物兵を10体程に分け、それぞれが散っていく。
残ったのは1体の魔物隊長と、10程度の護衛の兵だ。
もう一体の魔物隊長と残りの魔物兵は、まだ魔人の所に居るのだろう。
「よーし、別れたぞ。後は一隊ずつぶっ殺していけばいい。どうせ連中はカラーの魔法で簡単にカラーの里を見つけられないんだからな」
LP期程では無いが、今のカラーの里も見つかりにくい様に魔法がかけられている。
ランスはカラーから特性の通行証を渡されているので、問題無くカラーの里へと出入りできている。
ただ、その魔法も万能ではないので、カラーのクリスタルを奪いに来る人間の数は尽きないのだ。
「じゃあそっちは任せるわ。私は一人で潰せるから、逆の方に行くわ」
「そうか。じゃあ行ってこい」
レンの言葉にランスは何ともない様に言う。
だが、当然彼女の事を知らないブリティシュは驚くし、レンの本質を知っている訳では無い日光も驚く。
「ランス殿、危険すぎます!」
「その通りだ。せめてもう一人一緒じゃ無いと…」
「構わん。あいつなら問題無いだろ」
ランスは当然といった感じで二人の抗議を遮る。
実際、今のレンならば問題無しとランスは判断していた。
何しろ、今の彼女はエンジェルナイトとしての力を完全に取り戻しているうえに、神としての格も上がっている。
それに加え、ランスとの冒険でレベルも上がっている。
そんな彼女が魔物兵くらいに負けるはずが無いのだ。
「よーし、まずはあいつらから行くぞ」
ランス達の前に居るのは、別れた魔物兵の一部だ。
「全く警戒していないね…」
ブリティシュは魔物兵を見て呟く。
連中は確かに全くの無警戒だ。
「よーし、ぶっ殺すぞ。なるべく音を立てるなよ」
「分かりました。ブリティシュ…衰えてませんでしょうね?」
「勿論さ。戦いの勘は何とか戻しているさ」
ランスはタイミングを計る。
こと奇襲や不意打ちはランスの十八番だ。
そして魔物兵が呑気にランス達が隠れている木を通り抜けた時、
「今だ! 全員ぶち殺せ!」
「ああ」
「分かった!」
「分かりました」
ランスの合図にスラル、ブリティシュ、日光が一斉に動く。
「とー------っ!!」
ランスが魔物兵の背後から思いっきり斬りかかる。
「うぎゃあああああ!」
ランスに斬られた魔物兵は頭から真っ二つになって崩れ落ちる。
「な、何だ!?」
背後から仲間の断末魔の悲鳴が聞こえてきた魔物兵は当然驚くが、その隙にランスは既に動いていた。
ランスの剣は一太刀で魔物兵すらもあっさりと殺せる。
魔物兵が武器を構える前に、ランスの剣が更に二体の魔物兵を斬り捨てていた。
「スノーレーザー」
そしてスラルの放った魔法が確実に魔物兵の命を奪う。
突如として放たれた魔法に、魔物兵は更に混乱するのだが、結局その混乱から立ち直る事は出来なかった。
「はあああああ!」
「行きます」
ブリティシュと日光も飛び出し、魔物兵を確実に葬っていく。
エターナルヒーローの力は衰えておらず、ブリティシュの剣は魔物兵すらもあっさりと斬り捨てる事が可能だ。
そしてそれは日光も同じで、日光の刀が魔物兵の頭部を飛ばす。
返す刀で魔物兵の心臓を突きさし、絶命させる。
そして魔物兵達は助けを呼ぶことも出来ぬまま、全滅する。
「フン、余裕だ余裕」
「…いや、凄いな…分かってはいたけどね」
剣を仕舞ったランスを見て、ブリティシュは心の底から感心した声を出す。
ランスとは何度か摸擬戦をしたが、ランスが本気で自分と戦っていないのは分かっていた。
だが、こうしてランスの剣を見てブリティシュはようやくランスの力を感じ取った。
「成程…日光、君は彼と共に戦っていたのか。君が凄く強かったのも納得いくよ」
「ランス殿は…剣に関してはあなたを上回ると思っています。それだけ、ランス殿の剣は異質ですから」
ランスとブリティシュ、人間的にはブリティシュの方が上だと人は判断するだろう。
ランスは性格が性格だけに、敵も作りやすい。
しかし、ランスにはどんな困難な事でもやってくれるのではないかという希望がある。
それこそがランスという人間の魅力でもあるのだ。
「無駄口を叩いてないで次の魔物兵を探すぞ」
「ああ、そうだね」
「分かりました」
ランスの言葉にブリティシュと日光は頷く。
そしてランス達は次なる魔物兵達を探して慎重に行動を開始した。
その一方で、レンは軽快に枝と枝の間を飛んで魔物兵を探す。
そして何回目かの移動で、やっと1部隊の魔物兵を見つける事が出来た。
「案外時間かかったわね。まあそれは後で挽回すればいいか」
魔物兵達は完全に油断をし切っており、自分の方を全く警戒していない。
相手がカラーならば、樹の上から矢が飛んでくるのが普通なのだが、魔物は別にカラーと争っていた訳では無いので、完全に油断しているのだろう。
実際にはカラーの恐ろしさはその呪いの強さにあるのだが、一般の魔物兵達はそんな事は知らない。
「さて…久々にやるか」
レンは一呼吸入れると、全身に力を溜める。
そして久々の感覚に、ようやく自分がエンジェルナイトだった事を思い出す。
今は階級が上がり神としての格が上がりはしたが、それでも自分は前線で悪魔を狩るエンジェルナイトなのだと改めて実感する。
背中に生えた翼がレンに更なる力を与えてくれるような気がした。
「今までずっと地面で戦ってたしね…でも、今回は遠慮なくやらせて貰うとするわね」
レンは久々に好戦的な笑みを浮かべる。
そして完全に油断しきっている魔物兵の上空から襲撃を行う。
「ん?」
突然出来た影に魔物兵の一体は怪訝な声を出すが、結局それが何であるかは知る事は無かった。
魔物兵の脳天に剣が突き刺さり、それは容易く魔物兵を絶命させる。
「え?」
突然の事に魔物兵は間の抜けた声を出すが、結局それが魔物兵達の最後の言葉となる。
「エンジェルカッター」
レンの放った光の魔法が魔物兵の体を斬り刻む。
その凄まじい魔力の前には、魔物兵であっても耐えられるものでは無い。
ましてやこの魔物兵達は一般的な緑魔物兵であり、特殊な魔物兵では無いのだから。
「な、なんだこいつ!?」
「に、偽エンジェルナイトか!?」
生き残った魔物兵が斧を構えながら驚愕の声を出す。
「生憎ね。その『偽』がつかないエンジェルナイトよ。死になさい」
そしてそのまま宙を舞うと、魔物兵の背後に回り込みその心臓を一突きにする。
「う、うわああああああ!?」
最後の魔物兵がやけくそ気味にレンに襲い掛かってくる。
レンは全く慌てる事無く盾を構え、その斧を弾き飛ばす。
「ぐべっ!?」
弾き飛ばされた斧が魔物兵の頭部に突き刺さったかと思うと、レンは止めと言わんばかりに頭部に向けて盾を振り下ろす。
鈍器で殴られた鈍い音がして、魔物兵の頭が潰れる。
「魔物兵ならこんなものでしょ。ランス達も上手くやってるだろうし…私はこっちから行くか」
レンは再び樹の上に飛び上がると、次の魔物兵を探しに移動を始めた。
「…遅いな」
魔物隊長は一向に報告に来ない部下達の行動を不審に思っていた。
「カラーも無抵抗という訳では無いのでしょう。少々手間取ってるだけでは?」
「命令はカラーの集落を見つける事だと言ったのだがな…仕方のない奴等だ」
恐らくはカラーを相手に楽しんでいるであろう部下を考え、魔物隊長は苦笑する。
何しろこうした戦い、そして凌辱こそが魔物の本懐だからだ。
それが出来ないこの時代は、魔物達にとっても地獄と言える時代なのだ。
しかし、魔王が居なければ…そして上手く立ち回れば魔物は楽しめるのだ。
事実、魔王が居ない間は好き勝手やって処罰されないレキシントンや、魔王が居ても好き勝手やれるメディウサが居る。
そして、魔人はこれまで魔王に処罰された事は一度も無いのだ。
なので、ここに居る魔物兵達も、魔人であるイゾウの元で好き勝手する事にしたのだ。
「それよりも…本当に大丈夫なんですか?」
一体の魔物兵が恐る恐るといった感じで声を出す。
「どうした?」
「いや…カラーを狙ったら、ケッセルリンク様が怒るんじゃないかなーってさ…」
魔物兵の言葉に、他の魔物兵にもその不安が伝搬する。
そう、カラーを襲うという行為の不安の一つが魔人ケッセルリンクの存在だ。
何しろ彼女は魔人四天王の一人で、カラー出身の魔人だ。
勿論表立って何か動いている訳では無いが、それでも不安というものはどうしても存在してしまう。
これは世の常であり、そう考えてしまうのはある意味必然だ。
「心配するな。もし本当にケッセルリンク様が動くのなら、それ以前に人間を殺してるだろ」
「そうだぜ。俺達以上に人間はカラーを殺してるんだ。ケッセルリンク様が動くとしたら、そっちにだろ」
別の魔物兵が気楽そうに言う。
「そうか…そうだよな」
その言葉に納得したのか、魔物兵達の声が明るくなる。
実際、ケッセルリンクがカラーのために何かをしたという話は聞いた事が無い。
これはケッセルリンクが意図的にそうしているだけなのだが、勿論本人でも無い限りはそんな事は知りえないだろう。
「それにしても…9部隊の内一部隊くらいは報告に来てもいいと思うのだがな」
魔物隊長は気楽な魔物兵とは違い、難しい顔をする。
いくら何でも遅すぎる…それが魔物隊長の感想だ。
確かに魔物兵は大雑把ではあるが、魔物隊長や魔物将軍、そしてその上に魔人が居るとなれば話は別だ。
その辺りはきちんと出来るはずだと、魔物隊長は確信していた。
それなのに1部隊も報告に来ないのはいくらなんでもおかし過ぎた。
だが、そんな魔物隊長の不安も疑問も、全ては彼の中だけで消える事になる。
「がはははは! 死ねー-----っ!!! ラーンスあたたたー-----っく!」
「なに…? うぎゃあああああああ!!!」
突然上空から聞こえた声に魔物隊長はその方向を見上げるが、その目に映ったのは真っ黒い剣が自分の脳天に突き刺さる光景だった。
そのまま魔物隊長は頭から真っ二つになり、その屍を己の部下の晒す事になる。
「へ?」
突然の出来事に魔物兵達は何が起きたのか分からない。
魔物隊長とは、魔物兵から見ても相当に強く、その魔物隊長が人間に一撃で殺されたなど考えられる訳が無いのだ。
「貴様等全員皆殺しじゃー---っ!」
男―――ランスはそのまま茫然としている魔物兵に斬りかかる。
反応が遅れた魔物兵はそのままほぼ無抵抗のままランスに一撃で斬り殺される。
「な、何だおま」
何だお前は、そう言おうとした魔物兵の背後から一本の刀が伸びる。
そのまま魔物兵は絶命し、日光はその魔物兵を乱暴に投げ捨てると、生きている魔物兵を襲撃する。
そこにブリティシュ、スラル、レン(羽根はしまっている)が集まる事であっさりと魔物兵達は全滅する。
「フン、雑魚が」
「うーん…ザコでは無いとは思うんだけどね。君達が明らかに強すぎるんだよ」
ランスの言葉にブリティシュは苦笑するしかない。
魔物隊長は明らかに強い魔物なのは間違いない。
事実、自分達も魔物隊長や魔物将軍とも戦ったことはあったが、まさかその魔物隊長を不意打ちとはいえこんなにあっさりと倒せるとは思わなかった。
「残るは魔物隊長と魔物兵…そして魔人か」
「魔人と魔物兵を分散させる事は出来ないのでしょうか…」
スラルの言葉に日光が難しい顔をする。
流石に魔人と残りの魔物兵と魔物隊長、それらを一度に相手にするのは流石に厳しいだろう。
「それについては問題は無いと思うぞ。魔人のプライドを考えると、魔物兵と一緒に襲ってくるなど考えられないからな」
「そうなのかい? そういえば、僕達も魔人とは戦ったけど、ほとんど魔人単体だったな」
ブリティシュはこれまでの事を思い返す。
魔人は好き勝手暴れているが、魔人が人間と戦う時は必ず魔人1体だけだったような気がする。
同時に暴れる事はあっても、一緒に襲ってくる事は確かに無かった。
「そういやそうだな。魔人はやたらと一人で襲ってきてたな」
ランスも魔人が魔物兵や他の魔人と共に襲ってきた、という記憶は無かった。
実はそれには理由があり、魔人は魔人同士で連携を取る事が出来ない、という神が作ったルールがある。
そのルールを破れるのは、同じ神出身であり破壊神の欠片であるラ・サイゼルとラ・ハウゼルくらいだろう。
ただ、誰もそんな事を知る由が無い、というだけだ。
「じゃあこのまま乗り込む? 魔物兵達はアレを使えば何とでもなりそうじゃない?」
「…駄目だな。カラーの森に近すぎる」
レンの言葉をランスは否定する。
「…ああ、成程ね」
その言葉を聞いてレンは小さく笑みを浮かべる。
(酷い人間だとは思うけど…カラーにだけは甘いのよね、ランスは)
あの必殺技を使えば、魔物の小隊程度なら一撃で吹き飛ばせるだろう。
だが、それをしないのはカラーの森に影響が出てはまずいという事だろう。
「それなら私が何とかするさ」
「うおっ!? いきなり出てくるな」
すると突然ハンティが瞬間移動で現れる。
意外と気配を読むのにも長けているランスではあるが、流石に瞬間移動にまでは対応できない。
これこそが、ハンティの強さの秘密なのがランスは身に染みて分かった。
「一気に行った方がいいんじゃないかい? あんた達ならそれくらい出来そうだと思うんだけどね」
ハンティの言葉にランスはニヤリと笑う。
「がはははは! 当然だ!」
「それが手っ取り早いな。ならば真正面から行くのも良いさ」
「そうね。それが一番簡単よね」
さも当然のように言うランス達に、ブリティシュは驚愕する。
「いや、それは危険すぎるよ」
そう言うのは当然だ。
何しろ100を超える魔物兵と戦うのは無謀極まりない―――本来であればだ。
「フン、余裕だ余裕。お前は黙って見ていればいいんだ」
それでもランスは余裕の表情を崩さない。
ブリティシュは日光を見る。
「…そう言えばブリティシュは知らないのでしたね。ランス殿とスラル殿の二人の事を」
日光もかつて一度だけだが見た事がある。
ランスもスラルもあまりその力を使おうとはしなかった。
「久々にやるぞ、スラルちゃん」
「ああ。全力でやらなければ制御は出来るからな」
ランス達の会話にブリティシュは首を傾げるしか無いのだが、その結果は直ぐ思い知らされる事となる。
「…遅いですね」
残った魔物隊長が恐る恐るといった感じで魔人イゾウを見る。
「遅いのならば貴様が見に行け」
だが、イゾウはそんな魔物隊長の事などどうでもいいかのようにぞんざいに言う。
そんなイゾウの殺気に魔物隊長は怯えるが、それが魔人というものだ。
魔物隊長も未だ戻らぬ相方の事も気になり、森の中へと入るべく決断する。
(仕方が無いか…しかしどうして戻ってこない?)
魔物隊長は部下の魔物兵に指示を出し、部隊を纏める。
「隊長! 森から何者かが出てきました! 恐らくは人間です!」
「何だと!?」
その時、部下が慌てた声で魔物隊長に報告する。
確かに部下の報告通り、人間と思しき者達が森から出てくる。
何故人間がカラーが居るとされる森から出てくるのかは分からなかったが、それでも人間が出てきたというのであればやる事は変わらない。
人間を殺す事こそ、魔物の本懐だからだ。
「よしお前達! あそこの人間を血祭りに…」
そしてそれが魔物隊長の最後の言葉になった。
魔物隊長は巨大な稲妻に飲み込まれ、消し炭になって消滅する。
魔人イゾウはそんな光景をただ無言で見つめていた。
そして光が収まった時に立っていた人間を見て、イゾウは確かに口元を歪めていた。
まず最初にお知らせですが、新型コロナに陽性判定が出ました
おかげで執筆にも取り掛かる事が出来ず、大分遅れました
そしてその後の事も有るので、少しの間更新が遅くなると思います
私事で申し訳ありません