ランス再び   作:メケネコ

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ランスの答え

「ランス…私の使徒になれ」

「…はぁ?」

 

 それは非常に…いや、ランスからすれば考えられない一言。

 まさかのカミーラからの使徒の勧誘だった。

 そしてそれはランスを困惑させると同時に、言葉を放ったカミーラをも困惑させていた。

(私は何を言っている…)

 最初はスラルへの反発みたいなものだった。

 この男を殺そうとし、その結果自分は手傷を負った。

 ケッセルリンクの邪魔が入ったとはいえ、結果的にカミーラはランスを見逃した形になった。

 その後のスラルからの『手を出すな』という命令から、ランスが魔人となった後で殺そうと思った。

 だが、この男は魔王の誘いを魔人となるのをつまらないという理由で拒否をしたのだ。

 

「…お前、頭でも打ったのか?」

「………そうかもしれぬな」

 

 カミーラは自嘲的に、そして何処か楽しそうに笑う。

 だが、決して不快ではなかった。

 むしろこのような『人間』が存在しているのかという新鮮な驚きだ。

 

「まあいい…今は答えは聞かぬ」

 

 カミーラは椅子から立ち上がると、そのまま部屋を出ていく。

 

「…何だったんだ?」

「ランス…あの魔人の事知ってるの?」

 

 レダはランスとカミーラの関係を知らないため、ランスが女性を警戒しているというのが意外だった。

 過去に何かあったのは簡単に推察出来るが、それでも聞きたくなる。

 

「昔俺様が倒した魔人なんだが…しかしどうなっとるんだ。あいつはゼスで封印されてたはずなんだがな」

「ランスが過去に倒した…か」

 

 レダはその言葉で完全に確信する。

 やはりこの世界は過去の世界…セラクロラスによって飛ばされてしまった世界なのだと。

(でもこれは…どうすればいいんだろうか)

 ランスに話した方がいいかと思ったが、やはり話す事は躊躇われる。

 世界の歴史が変わる…これがどういう結果をもたらすか、1エンジェルナイトに過ぎない自分には分からない。

 もしこれが原因で世界の歴史が変わるというのであれば、自分よりも上…それこそ2級神や1級神が動く事案だ。

 いや、もしかしたらもう未来は完全に変わってしまっているのかもしれない…その不安が拭いきれない。

 

「あいつは俺を恨んでいるはずなんだがな」

 

 これまでランスがした事を考えれば恨まれていて当然であり、カミーラも自分に鋭い視線を向けていた。

 そんなカミーラがランスを使徒に誘う等考えられない事だった。

 

「そうか…不思議だな」

 

 レダは結局ランスに今の状況を話す事をやめた。

 自分の上の存在が動かないのであれば、自分の判断で話すのはやめた方がいいと思ったからだ。

 ランスが自分で気づくのならば構わないが、自分からは言うまいと決めた。

 

 

 

「カミーラ…?」

 

 スラルはランス達を捕えている部屋から出てくるカミーラの姿を見る。

 そのカミーラの顔には今までにない表情が浮かんで見えた。

(あのカミーラが…機嫌が良い?)

 普段は割と自堕落で、たまに狩りに出かける程度しかなく、常に詰まらなそうな顔をしていたカミーラがだ。

(一体何が?)

 スラルが部屋に入ると、そこには何時もと変わらないランスとレダの姿があった。

 

「…今カミーラが来ていただろう。何かあったのか」

「ん? ああ。何か使徒にならんかと言われた」

「何?」

 

 その言葉にスラルは目を丸くする。

 自分が魔人に勧誘したのを断られた事よりも驚いているかもしれない。

 

「あのカミーラが…か」

 

 同じドラゴンである七星を使徒としたのは納得いくが、まさか普段から見下している人間を使徒に誘うとは思っても見なかった。

 

「…受けたのか?」

「受ける訳ないだろ」

 

 スラルの予想通り、ランスは使徒になるのを拒否したようだ。

 しかしその割にはカミーラは何処か上機嫌に見えた。

 あのプライドが非常に高く、我儘なドラゴンの魔人がだ。

 

「そう…か」

 

 スラルはそうとだけ言うと、部屋を出る。

 

「…何だったんだ?」

「さあ…カミーラがここに来たから様子を見に来たんじゃない?」

 

 

 

(あのカミーラが…)

 魔王の間に戻ったスラルは再び思考の海に沈む。

 カミーラが自分に対して良い感情を持っていない事は知っているが、魔王には逆らう事が出来ない為にその命令には従ってはいる。

 ドラゴンとしての本能かどうかは分からないが、時たま『狩り』に出かける事もある。

 そして何よりも人間に対しては徹底的に見下している…元が強いドラゴンという種族であるため、それは納得がいった。

 だがそのカミーラが人間を使徒に誘う等、考えられない事だった。

 

「あの男にはカミーラの考えを変えさせる何かがあるという事か…?」

 

 確かに強さに関してはこれまで見た人間の中では1、2を争う。

 カミーラが狩りたくなるのは理解できる。

 しかしそのカミーラが何故あの男を、という疑問は残る。

(我に対する嫌がらせ…いや、違うな。例え使徒であろうとも我が血を与えれば魔人となる)

 魔王の血は絶対であり、血を与えれば何者であろうとも魔人となる。

 それなのにカミーラは己の使徒へと誘った…という事は、カミーラは己の意志であの男を使徒として欲しがったという事。

 

「…一体何者なのだ、あの男は」

 

 剣の強さだけではない、魔王や魔人…自分よりも圧倒的に強い存在に対しても、あの男はその在り方を変えない。

 色々な意味でどこまでも真っ直ぐで…そして危険な魅力を持つ男だ。

 自分も魔人の誘いを断られたというのに、どうやってあの男の心を得られるかという事に心を注いでいる。

 あの男が魔人となる事で、どのような変化が起きるのかが楽しみで仕方がない。

 

「さて…次はどのように話すか…」

 

 一体どうすればあの男を手に入れられるか…スラルの頭はそれでいっぱいだった。

 

 

 

 ―――カミーラの城―――

 

 己の城に戻ってから、自分の主が何か考え込んでいるのを七星は見ていた。

 自分が使徒となってから、あのように何処か楽しげな自分の主を見るのは初めてだった。

 表情には表れないが、七星ならばカミーラが纏っている空気でそれが分かる。

 カミーラはランスに傷つけられた己の右腕を見る。

 そこには既に傷跡は残っていないが、確かにあの時あの人間の一撃は自分を傷つけた。

 本来であればそれだけで殺してやるべきだと思ったが…しかし今はその気が何故か湧かなかった。

『魔王の下僕になるのが嫌だからだ。それと魔人になって偉くなってもつまらん』

 その言葉が頭から離れない。

 

「七星…」

「はっ…」

「お前は…私の僕となり幸せか?」

「勿論です。私はカミーラ様の使徒としてこれからも仕えさせて頂きます」

 

 七星の言葉にカミーラは笑みを浮かべる。

 この男は自分に対して嘘をつける男ではない…まさに本心から出た言葉だ。

 

「あの男は私の使徒への誘いを断った…」

「…!」

 

 まさか自分の主の誘い…それも使徒への誘いを断る存在がいるとは思ってもいなかった。

(しかしカミーラ様はそれを楽しんでおられる…)

 七星の知ってるカミーラならば、その誘いを断った時点で殺していてもおかしくはないが、今のカミーラは断わられた事を楽しんでいるようだった。

 使徒である七星にとってはカミーラの楽しみが何よりの楽しみだ。

 だから七星も自然と笑みを浮かべていた。

 

「楽しそうだな…七星」

「いえ…カミーラ様の誘いを断る男がいるとは思いませんでしたので…それで如何いたしましょうか」

 

 カミーラが自分に話を振ったという事は、それは自分にも動けという事に他ならない。

 そしてカミーラは無理矢理その男を使徒とする事を望んでいない、という事は理解できた。

 

「………特に考えてはいないな。私の誘いを断った存在は初めてだからな」

「しかしそれではスラル様が…」

「スラルとて今は何も思い浮かばぬだろう…奴とて己の意のままに動かぬ存在は初めてだろうからな」

 

(後はあの男がスラルを取るか、このカミーラを取るか、か)

 カミーラの好みのタイプではないが、かといって醜いわけではない。

 むしろその剣技はカミーラも見事な物と認めたほどだ。

 そしてあのメガラスにフォースを使わせる程の実力…使徒とするには十分な理由だ。

 が、そこでカミーラは少し頭を捻る。

 

「さて、どうしたものか…」

 

 いくらあの男がスラルの申し出を拒否したとしても、それは自分も同じだ。

 力ずくでとも考えはしたが、それをしてしまうとカミーラの支配から逃れるために、魔人へと変わる可能性が高い。

 何よりもあの男には、眼前に跪かせながら使徒にして欲しいと望む所を見てみたかった。

 そのためには己の力を見せ付ける必要がある。

 が、直接力を見せるのは流石に厳しい…何よりも魔王の命令は絶対、ランスに己の力をぶつける機会は残念ながら無い。

 

「思いもしなかったな…」

「カミーラ様?」

 

 カミーラは自嘲するように唇を歪める。

 

「まさか私が人間の事で悩む日が来るとはな…だがそれも悪くは無い…」

 

 どこか楽しそうに笑うカミーラに対し、七星は頭を捻る。

 己の主のためならばどんな事でもする覚悟が七星にはある。

(その人間…どのような人間か一度見極める必要があるか)

 

「カミーラ様…私もその人間と話がしたく思います」

「………いいだろう。許す」

「はっ」

 

 

 

 魔王の間…日が沈んでから、ケッセルリンクは魔王スラルに呼ばれていた。

 夜以外だとどうしても体が上手く動かないケッセルリンクには有りがたかった。

 

「何でしょうか。スラル様」

「うむ…あの男だが、残念ながらレベルの件では無理だった」

「そうですか…」

 

 ケッセルリンクはやはり…という思いと、ランスのレベルの問題が解決しなかった事で複雑な思いを抱えていた。

 この世界の強さの基準はやはりレベルであり、それが上がらないという事は誰にとってももどかしいものだ。

 

「他に何か無いものか…あの男を魔人にするための材料は…」

「それは…」

 

 自分の主が悩んでいるが、ケッセルリンクには到底思いつく事が出来ない。

 改めてあの男というのが、自分の想像以上の思考を持った人間だと思い知らされていた。

 勿論その部分は自分にとっては好ましい事だが、その好ましい部分こそが魔王の僕たる魔人になる事を拒んでいる。

 自分の主とランス…ケッセルリンクもその間で揺れていた。

 

「ランスは女以外に対しては、執着心があまり無いようなので…」

「うむ…永遠の命、権力、財宝…それら全てがあの男にとっては興味の無い事か」

「女のためならば魔人とでも戦う男なのですが」

 

 そのためならば如何なる手段をも取る男なのだが、それ以外の事に関しては本当にさっぱりだ。

 ある意味分かりやすい性格かもしれないが、実際にはまるであの男の事が分からない。

(だがそこも魅力的だと思うが)

 何時の間にかランスの事を考えている自分に気づき、思わず赤面する。

 

「ケッセルリンク。お前からも話して貰う事は出来ないか?」

「話はしてみますが、恐らくは意味は無いでしょう」

「お前でもか?」

「ええ…まだ短い付き合いですが、あの男はそういった面では首を振らないでしょう。あの男の矜持といいますか…」

 

 スラルはため息をつくが、その顔には明るさが濃い。

(それでこそ我が勧誘する価値が有るというものだ。魔王としてではなく、スラルとしてあの男を部下に欲しいものだ)

 

「一先ずは話してみてくれ。それとなくな」

「はっ…」

 

 

 ケッセルリンクは魔王の間から下がるが、どうしたものかと頭を捻る。

(ランスならばやはり女を…というのが一番良いのだろうが、女を宛がった所で首を振るとも思えないな…)

 ランスは確かに女が好きだし、セックスも好きだろうが、どちらかと言えば自分の力で女性を口説く事の方が重点を置いている気がした。

 自分の時もそうだった…初めての時はあんな感じだったが、あの魔人オウゴンダマを実際に倒して見せた。

(それからは寧ろ自分の方が…いや、考えるな)

 オウゴンダマを倒した後の自分の事を考えて、慌てて首を振る。

 

「地道に説得を続けるのが一番か…」

 

 ケッセルリンクがランス達が居る部屋の前に来た時、そこからランスとレダ以外の気配を感じる。

(…妙だな。この時間は私の担当だったはずだが)

 

 

 

 ケッセルリンクがランス達の部屋に来る少し前、この部屋には一人の人間…いや、使徒が訪れていた。

 

「はじめまして。ランス殿、レダ殿。私はカミーラ様の使徒、七星でございます」

 

 七星と名乗ったカミーラの使徒は、人間であるランスにも丁寧に頭を下げる。

 これがただの人間ならば七星もこんな態度は取らない…相手は自分の主が使徒に欲しがる存在故に、七星もそれに倣った態度を取る。

 七星は改めてランスを見る。

(なるほど…カミーラ様が使徒として欲しがるのも納得がいく)

 自分がこの部屋に入ったとき、ランスは自分を鋭く見据えた。

 その手が剣の柄に触れていた所を見ると、この男はここから脱出する事も視野に入れているのを理解する。

 勿論自分がそう簡単にやられるとは思わないが、相手は自分の主にすら手傷を負わせる程の手練れだ。

 こうして相対していても、まるで抜き身の剣を突きつけられている気分だ。

 一方のランスはというと、

(こいつ…何処かで見た事あるような気がするぞ)

 そんな事を考えていた。

 男に関してはとことん覚えていないため、目の前の存在がカミーラの使徒である事も忘れていた。

 正確には七星と一緒にいたもう一人の使徒の影響が強すぎるのだが。

 

「男が何の用だ」

 

 ランスの声はどこまでも冷淡だ。

 まるで自分には興味が無いという感じの態度にも、七星は苦笑いを浮かべるだけだ。

(男には興味が無い…という感じですか)

 

「いえ、何故カミーラ様…そしてスラル様の誘いを断られたのか気になりまして」

 

 それは七星も興味がある事だった。

 あのプラチナドラゴンといわれるカミーラに声をかけられた時、七星は歓喜に包まれすぐにカミーラの使徒となった。

 それからカミーラに仕えて来たが、自分の主は非常に気難しい存在だ。

 しかしそれでも誇り高く、やる時はやられるお方だとも思っている。

 そんなカミーラに使徒に誘われながら、何故この人間はその誘いを断ったのか…どうしても知りたかった。

 

「…何でお前等は同じ事を聞くんだ。いい加減に腹が立ってきたな」

「それは申し訳ありません。カミーラ様は理由を話してくれないもので」

「だから詰まらんからだ。魔人などにも興味は無い」

「詰まらない…ですか」

 

 ランスから帰ってきた答えはやはり七星にも理解できないものだった。

 人間の事は七星も知っているが、人間も魔人になりたがるのが普通だ。

 欲望に弱い人間ならば猶更…だが、目の前の人間はそれに興味が無いというのだ。

 

「…魔人に興味が無いとは意外でした」

「俺は魔王の下僕になる気は無いし、魔人の下僕にもなる気は無い」

「成程…そうですか」

 

 七星は、カミーラがランスに興味を持ったのを理解できた。

 普通の人間とは違う考え方を持っており、魔人の地位にも使徒にも興味が無い。

(カミーラ様は…この人間を跪かせたいという事か。そして己の意志で使徒にさせる…その気でいらっしゃる。ならば少しつついてみるか)

 

「しかし使徒となればカミーラ様の寵愛を授かる事が出来ますよ」

「…む」

 

(効果が有り、ですか…)

 ランスがカミーラとセックスした時は、何れもカミーラが動けない時にしただけだ。

 だとするとカミーラと普通にやれる、というのはランスにとっても魅力的だった。

 

「うーむ…」

 

 しかし、とも思う。

 カミーラは結構独占欲が強そうだし、何よりあの時ゼスでの動乱の時には人間に対しては苛烈な態度だった。

 100人強姦の時もそうだし、躊躇なく人間を殺していた事を考えると、やはり割に合わない。

 

「いや、やっぱりないな。俺様は一人の女に縛られる男ではない」

「そうですか…」

 

 使徒の自分からすればカミーラの寵愛は何よりのものだが、目の前の人間にはあまり効果が無かったようだ。

(ですが彼の人となりは大分わかりましたね)

 この男は誰かに縛られるのを嫌う人間だ…あくまで自由が好きであり、魔人や使徒という立場に縛られるのが嫌なのだ。

 だがそれは同時に、カミーラの使徒として迎え入れるのも難しい事を表していた。

 

「わかりました。では私はこれで…」

 

 七星は優雅に一礼すると、そのまま部屋を出ていく。

 

「人気ねーランス」

「男なんぞにモテても嬉しくもなんともないわ」

 

 

 

(ふむ…これはどうしましょうか)

 話してみて改めてあの男の事が分かった。

(カミーラ様が使徒に迎え入れようとしたのも納得はいきますが…少々危険な男かもしれません)

 あの男は自分の主と同じく、誰かに支配され、束縛されるのを嫌うタイプだ。

 そして自分の主は支配を良しとする性格ゆえに、あの男を完膚なきまでに支配をしたいのだろう。

(ですがそのためには…スラル様が問題ですか)

 カミーラが力でランスを手に入れないのは、主である魔王の存在が大きい。

 あの男ならばカミーラの支配を逃れるために、魔人になる事は十分に考えられる…だからカミーラも力づくという手段を取らないのだろう。

 七星は色々と手を考えながら、自分の主が待つ城に戻っていった。

 

 

 

「そうか…あの男、カミーラの使徒か」

 

 七星と入れ替わりに部屋に入ってきたケッセルリンクに、レダはこれまでの経緯を話す。

 

「そしてカミーラはランスを使徒に誘っているのか…」

 

 魔人カミーラとはあの時以来顔を合わせていないが、一体何があってカミーラがランスを使徒へと勧誘しているのか分からない。

 ランスがそれを断っている事に一先ず安堵するが、それでもまだ安心は出来ない。

 

「改めて言おう。ランス、魔人になる気は無いのか?」

「無いな」

「…即答か」

 

 ケッセルリンクの問にもランスは即拒否の回答を出す。

 ここまで言ってダメならば、ランスは本当に魔人に興味が無いのだと思い知らされる。

 しかしケッセルリンクも、スラルのためには何とかしてやりたいとも思う。

 命を助けられたのもそうだが、あの魔王は…いや、魔王となってしまった少女には頼れる存在が必要だ。

 自分とランスならばそれが出来る、という思いもある。

 

「その…お前が魔人となれば…私を好きにしても構わないのだぞ」

「何を言っている。魔人だろうが魔人じゃ無かろうがお前は俺の女だ」

 

 その言葉にケッセルリンクは複雑な表情を浮かべる。

 ランスにとって自分は魔人ケッセルリンクではなく、どこまでもケッセルリンクとして見てくれているという事。

 そして自分という存在をもってしても、ランスの考えを変える事は出来ないという事。

 

「お前は意外と頑固なのだな…しかし、スラル様にしろ、カミーラにしろ無理矢理迫ってきたらどうするつもりだ?」

「その時はその時だ。魔人にしろ使徒にしろやめる方法くらいはあるだろ」

「…お前なら出来そうなのがな」

 

 ランスの言葉にケッセルリンクは苦笑いを浮かべる。

 確かにこの男ならやりかねない、というのは短い付き合いだが嫌というほど理解させられている。

 そしてそれだけの強さ、実行力、運を兼ね備えた男だ。

 

「お前は本当に不思議な奴だ…欲望にまみれているかと思えば、魔人という力には興味が無いのだからな」

「与えられたものなど俺様には意味の無い物だ。魔人が好き勝手してもそんなの当たり前だろ。人間の俺様だから意味があるのだ」

 

 それはランスの矜持とも言えるのだろう。

 その言葉を聞いてケッセルリンクはため息をつく。

 カラーだった時はそういった所も魅力の一つだったが、その魅力が主の願いを拒んでいるのかと思うと複雑な気持ちだ。

 カミーラに対しても同じ理由で拒んでいる事が救いと言えば救いだ。

 

「それよりも俺は今非常に苛立っている」

「何がだ?」

「ここに閉じ込められてる事に決まってるだろうが! 何時まで閉じ込めるつもりだ!」

 

 ランスの言葉にケッセルリンクはすまなそうな表情を浮かべるも、

 

「だったら魔人になればいい。魔人になれば自由になるぞ」

「そういう事ではないわー! 俺様は冒険に出たいのだ!」

 

 ランスの絶対的な趣味…いや、生きがいはやはり冒険だ。

 村を出てからランスはずっと冒険を続けてきた…世界にはどうにもできないことがあるが、それすらも打破できる、その達成が何よりも気持ちがいい。

 それは今になっても変わらない。

 確かに人間とは一人しか会っていないし、魔人やムシとも戦ったが、それでも何処か冒険へ行きたいという気持ちは微塵も変わらない。

 魔王城に軟禁され3日だが、やはり何処にも行けないというのはランスにとっては多大なストレスだ。

 

「だからこれしか出来る事は無い!」

 

 だからランスはそのストレスを性欲という形で発散しようと、ケッセルリンクを抱き上げる。

 そしてレダも一緒にベッドに押し倒すと、まさに早業といった感じで全裸になる。

 

「…お前はそれしかないのか」

「まあランスはずっとそうだったけどさぁ…」

 

 ケッセルリンクもレダも呆れるが、やはり抵抗らしい抵抗は無い。

 

「がはははは! こういった時はセックスに限る! それにケッセルリンクも期待しているではないか」

「あ、本当だ。昨日とは違う下着着てる」

「…これはただの身嗜みだ」

 

 顔を赤くするケッセルリンクにランスは辛抱出来ないという風に押し倒す。

 こうして魔王城での夜は更けていく。




今回は話が本当に進まなかったですね…
次こそ話を進めていきます

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