ランス再び   作:メケネコ

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魔人イゾウの最期

 魔物達を襲った光をブリティシュは茫然と見ていた。

 スラルの体が半透明になって、ランスの剣の中に消えてくのにも驚いたが、この衝撃はそれ以上だ。

 まさに戦場を一撃でひっくり返す、そんな一撃が目の前で放たれたのだ。

(…やれやれ、本当に敵にならなくて良かったよ。いや、完全に敵とならなくて良かったと言った方が良いかな)

 もしこんな一撃が自分達に放たれていれば、なす術も無く自分達は全滅していたであろう。

「いちち…レン、治療だ治療」

「分かったわ。はい、ヒーリング」

 ランスの手は電撃の衝撃で火傷をしており、その鎧も電撃を受けてヒビが入っている。

「ランスが強くなった分、威力も大きくなったが制御も難しくなる。悩ましいな…というよりも、ランスの特性上その悩ましさが永遠に続いてしまうのもな…」

 剣の中からスラルが悩ましい声を出す。

 ランスのレベルが才能限界に到達すれば制御も上手く行くと思っていた。

 だが、ランスにはその限界が無いので、強くなろうとすればどんどん強くなっていってしまう。

(つまりは終わりは無いという事か…だがしかし、それでこそ我が認めた人間だ)

 最初は才能限界が無いという、この世界の理を無視したランスには驚愕し、思わず失神してしまった。

 だが、逆に考えればそれは自分の人を見る目の確かさがあったからだと、思い直す事にした。

「あの魔人は…!」

 ランスの手の中にある日光が、こちらを見ている魔人を見て怒りを放つ。

 あの魔人こそ、自分の家族を殺した存在…魔人イゾウだ。

「日光…気負わないようにね。心の乱れは本来の強さを発揮できない…そう言ってたのは君だよ」

「ええ、分かっています、ブリティシュ。ランス殿…」

「フン、俺様に任せていろ。それよりもお前等、打ち合わせ通りにやれよ」

 ランスの言葉にレン、ブリティシュ、ハンティが頷く。

 スラルはランスの剣の中から返事をし、日光もランスの手の中で返事をする。

 聖刀日光の初めての戦いが今、始まろうとしていた。

 ランス達は悠然と魔人へと向かって行く。

 対する魔人は、ランスに対して確かな狂気を宿しながら同じようにランスの方へと向かう。

「フン、まだ生きていたのか。あの時俺様から逃げ出した腰抜けの魔人が」

「フ…クク…ククククク…フハハハハ! 見つけたぞ人間! お前は必ず殺す! この俺様がこの手で必ず斬り殺してやる!」

「何だこいつ」

 ランスの言葉に反応する訳でも無く、ただただ殺意を向けてくる魔人に対してランスは気味悪がる。

 これまでの魔人とは全く違う、まるで狂った人間を相手にしているような感覚に襲われる。

「俺が最強なんだ! 俺が最強の侍なのだ! 藤原石丸では無い! この俺なのだ…だから死ね! 俺以上の剣の使い手は存在してはいかんのだ!」

 そのまま狂気の笑みを浮かべながら、魔人イゾウはランスに向かって襲い掛かって来た。

 その動きは魔人だけあって非常に速い。

 やはり基礎能力は魔人が圧倒的に人間を上回っている、という事をブリティシュは改めて実感させられた。

「死ねぃ!!」

 その手の刀を勢いよく振り下ろす。

「フン!」

 ランスは日光では無く、黒い剣を使ってその刀を受け止める。

 その腕力にランスの体が沈む―――と思われたが、ランスは重心を移動させるだけでイゾウの刀を受け流した。

「死ぬのはお前だ!」

 ランスの強烈な一撃がイゾウの腹部に突き刺さる。

 が、当然の事ながらそれは魔人の持つ無敵結界に阻まれる。

「ははははは! 魔人は無敵だ! この無敵結界があれば誰だろうが恐れるに足らんのだ! 石丸もそうだ! 今戦えば俺が石丸に勝つんだ!」

 無敵結界の力を誇示しながら、イゾウは狂気の笑いを浮かべてランスに襲い掛かる。

「フン、典型的な頭の悪い魔人だな」

 ランスはそんなイゾウを鼻で笑いながら、その刀を捌き続ける。

「…凄い」

 日光は間近でランスの剣捌きを見て驚嘆するしかない。

 ランスが凄いのは分かっていた。

 分かってはいたが…その力の真髄を改めて感じ取っていたと言っても良い。

(私に稽古をつけてくれた時は、相当に手加減してくれていた…)

 ランスは人に剣を教えるのは得意では無いと思っていた。

 実際、日光はランスの言う剣が全くと言っていい程分からなかった。

 まるでいい加減な構えから、それでも必殺の一撃を無数に繰り出してくる―――日光から見たランスの剣はこれだった。

 だが、こうしてランスの手の中に居る事で、ランスの持つ地力の強さを理解できる。

 恐らくはランスも本能に近い動きをしているのだろうが、それでもその技術は非常に緻密で高い。

 最小限の動きで相手の攻撃を弾き、時には避け、そして斬り返す。

 自分には絶対にできない、ランスだけの力をその全身で感じ取っていた。

(…見惚れるだけではだめだ。機会を伺わなければ)

 ランスの技術に惚れ込むのはまだ先だ。

 今は何とかこの魔人を倒す事が先だ。

 日光の力は確かなものだし、ランスも魔人の無敵結界が斬れるのを知っている。

 だが、それなのに何故それをしないのか―――それが今回のランスの作戦に繋がっていた。

 

 少し前―――

「日光、お前はまずは剣になっていろ。あいつの無敵結界を斬るのはまだ先だ」

「え?」

 魔物部隊を全滅させる話をしていた時、ランスは真っ先にそう言った。

 日光としては、真っ先に無敵結界を斬りたいと思っていたのだが、それをランスによって否定されてしまった。

「理由を聞いてもいいかな? 無敵結界がある限り、魔人には勝てないけど」

 ブリティシュも、ランスの言葉には少し懐疑的だ。

 まずは無敵結界をどうにかしなければいけない、これが何よりも先決だ。

 日光が無敵結界を斬れるのであれば、真っ先に無敵結界を斬るべきと考えるのは普通だ。

「いいや、駄目だ。あいつはここで殺す。そのためにはここで確実にぶっ殺す確かな手が必要だ」

「…成程、確かにな。万が一があるか…その可能性は潰しておきたいな」

 ランスの言葉をスラルが肯定する。

「私はランス程魔人を相手にした経験が無いから、ランスに任せる」

 レンはランスの考えに全てを任す。

 実際、魔人と戦った経験は圧倒的にランスの方が上なのだから、ランスに任せるのが一番だろう。

「日光、あいつは前に俺様と戦った時に逃げただろうが。つまりあいつは何かあったら直ぐに逃げる奴だ」

「…あ」

 ランスの言葉に、日光は最初にイゾウと出会った時の事を思い出す。

 あの時、確かにイゾウは無敵結界があるにも関わらず、ランスの前から逃げていった。

「そういう奴は次に逃がした時にどうなるか分からん。懲りずにカラーを襲う可能性は高いからな。実際俺様が居ないときに襲われたらカラーはひとたまりも無いからな」

「そうだね。魔人がカラーを狙ったという事実は、私達カラーにとっても脅威さ。ここで逃がしたら、今後あの魔人の脅威が私達を襲う訳だからね」

 ハンティはランスの言っている事を理解する。

 ここで確実にあの魔人を倒さなければ、カラーは今後あの魔人に狙われ続けるのだ。

 ケッセルリンクが抑止力になってくれるという保証は無いし、ケッセルリンクとしてもカラーにべったりというのは避けたいと言っていた。

 だとすると、ここで禍根を断っておく必要がある。

 カラーが魔人に利用されるという前例は決して作ってはならないのだ。

「それでは…どうするのですか?」

 日光の言葉にランスは得意げに胸を張る。

「うむ、奴を思いっきり油断させる。その後で俺様の必殺の一撃を喰らわす。魔人はカオスがあろうが何だろうが油断するからな。まずはそこで逃げられない程のダメージを与える」

 それがランスがこれまで戦った魔人相手の経験だ。

 これまで戦った魔人の中で、カオスを警戒したのは魔人ザビエルくらいだ。

 後の魔人は例えランスがカオスを持っていようが、馬鹿正直に真正面から襲ってきていた。

「最初に致命傷に近いダメージを与えれば、奴は逃げる事が難しくなる。まずはその最初の一撃を与えられる最適な場を整えなければならない」

「そうだ。まずは俺様のスーパーな一撃をぶちかます。だが、そのためには相手を思いっきり油断させる必要があるからな」

 ランスがカオスや日光を持ち、不意打ちがクリーンヒットすれば間違いなく相手を倒せる。

 何しろ、カオスを持ったランスの一撃は、あの魔人カミーラとの戦いですら、一撃で戦況を覆す事が出来たのだから。

「油断か…確かに魔人を相手にするにはそれが一番かもしれないね」

 人間が魔人に付け入るためにはそれが一番良いのかもしれない。

 ブリティシュもそう思って覚悟を決める。

「まあ魔人なんてちょっと弱ったふりをすれば直ぐにいい気になる。余裕だ余裕だ」

 ランスは最後まで余裕の表情を崩さなかった。

 

 

「グハハハハ! 死ね! 死ね!」

「む…」

 だんだんと激しくなる攻撃に、ランスは防戦一方になっていく。

 イゾウは二本の刀を手に、それを力任せに振るいながら攻撃を重ねる。

「クッ! 流石は魔人か…!」

 ブリティシュはその攻撃を盾、そして剣で防いでいるが、それでもどんどんと自分に疲労が蓄積していくのが分かる。

(ランスはこの魔人を『弱い魔人』と言っていた…確かに、あの時に戦った魔人ケッセルリンクよりも弱いだろうが…それでもこれが魔人か)

 ブリティシュも勿論魔人と戦ったのは初めてではない。

 ケッセルリンク以外にも、魔人に襲われた事は有る。

 ただ、その時は無敵結界がある魔人とは戦おうとはせずに、逃げる事を第一に考えて行動した。

 なので、本当の意味で魔人と真正面から戦うのはこれが初めてだ。

 そして、下級の魔人とはいえ、その力の恐ろしさを身をもって味わっていた。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」

 その動きはどんどんと苛烈になっていき、ランスも流石にここまでこの魔人が暴れるとは思っていなかった。

(うーむ、カミーラやケッセルリンクに比べれば別に強いとも思わんが、それでも面倒くさいぞ。とっとと無敵結界を斬ってぶっ殺すか?)

 ランスの比較対象がおかしいのだが、実際にランスはこれまで上澄みの方の魔人とも多く戦ってきた。

 それこそ魔人四天王級の魔人であるノス、ザビエル、そして大きく力を落としてはいたが、現役の魔人四天王のカミーラを倒してきたのだ。

 それらと比べればぬるいと言っても良いだろう。

 ノスのような攻撃をしていけばどんどんと固くなり、再生していく体が有る訳では無い。

 ザビエルのように人間を見下してはいても、絶対に油断はしない訳では無い。

 カミーラのように、空を自由に舞いそこから強力な魔法やブレスを放ってくる訳でも無い。

 ただ、只管に魔人のポテンシャルと、剣の腕で強引に攻め立てるだけ。

 ハッキリ言えば、魔人の中ではランスも特に何の感想も出ないというのが本音だ。

 魔人特有の厄介さがこの魔人からは感じられないのだ。

「どうした! 手も足も出ないか!? そうだ、それが正しいのだ! 俺こそが最強の侍なのだ! 断じて藤原石丸でも、お前でも無い!」

「訳の分からん事を!」

 凄まじい勢いで刀を振り回すイゾウの刃をランスは受け止める。

 その受け止めた方の逆側から更にイゾウの刃が迫るが、それはレンの盾によって受け止められる。

「うるさいわね…ランス、とっとと殺した方がいいんじゃない?」

 レンはランスを庇いながら魔人に聞こえないくらいの小さい声を出す。

「私も賛成です。確かに確実に倒す必要は有りますが、これでは皆の体力が…」

 日光もレンの言葉に刀の姿で同意する。

 何しろ相手は無敵結界に任せて、我武者羅にこちらに攻撃を繰り返している。

 ハンティの放つ魔法も完全に無視し、ひたすらにランスを殺すべく刀を振るってくる。

「ククククク! そうだ! 手も足も出ないだろう! この俺の剣の前には誰もが平伏すのだ!」

「ぐぅ!!」

 そしてついにイゾウの刀がブリティシュを大きく吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたブリティシュは受け身も取れず、そのまま地面に倒れて血を吐き出す。

「ブリティシュ!」

 日光が声を出すが、ブリティシュはその衝撃のためか起き上がれない。

 そんな光景を見て、イゾウは攻撃の手を緩めて高笑いする。

「ははははははは! そうだ! そうやって地べたを這いずり回れ! 貴様等人間にはそれがお似合いだ!」

 それこそ正に隙だらけの姿。

 戦いの最中に己が勝ったと勝手に認め、相手に隙を晒すという愚かな行為。

 そしてランスはその隙を見逃す程甘い人間では無かった。

 ランスは黒い剣を一度鞘に納めると、そのまま左手で日光を抜く。

 その感触に、日光はようやう己の力を振るう時だと判断する。

(申し訳ありません…ブリティシュ)

 倒れているブリティシュには申し訳ないが、おかげでこの魔人は完全に無防備になった。

 ランスは素早く移動すると、魔人に向かって飛び上がった。

 それこそ、ランスの必殺技であるランスアタックの構えだ。

「ははははは! 何処までも無駄なあがきをするか、人間よ! 自分の無力さを思い知るがいい!」

 ランスが飛び上がった事を嘲笑い、イゾウは無防備な姿を晒す。

 そしてその瞬間、イゾウの背筋が異常なまでに凍り付いた。

 目の前の男は笑っていた。

 それも完全に自分を馬鹿にした笑い―――そして、その手の刀から感じられる異常なまでの殺意と敵意。

 だが、全ては遅かった。

 イゾウは防御しようと思っても、体がついて行くことが無かった。

「ラーンス…あたたたたー------っく!!!!」

 何かが破られる音と共に、イゾウの肩から下半身にまで日光が斬り裂く。

「え?」

 イゾウは自分の体から勢いよく血が飛び散る光景に目を丸くした。

 だが、そんな行為はまさに自分を殺してくれと言っているのと同じことだった。

 今のランスアタックは一撃ではなく、連撃なのだ。

 鬼畜アタック程の連撃では無いが、ランスアタックを無理なく、そして倍以上の威力で叩きこむ。

 それが新しいランスの必殺の一撃。

 その返す刃がイゾウの利き腕である右腕を容易く飛ばした。

「は、はうううあああああああ!?」

 飛んでいく自分の右腕を見て、イゾウは目を見開いて絶叫する。

「今だ! やれ!」

 ランスはイゾウから離れると、ハンティがため込んでいた魔力を解放し、魔法を放つ。

「メタルライン!!」

 猛烈な電撃が嵐となってイゾウに突き刺さる。

「ぐぎゃあああああああ!?」

 イゾウは先ほどの斬られる痛みとは別の痛みを受け、悶絶する。

「…やった、行けた! 無敵結界が存在していない!」

 その様子を見て、ハンティはその顔に笑みを浮かべる。

 本当に、魔人の無敵結界を斬る事が出来る武器が生まれたのだ。

 その時、ハンティはこの時代の確かな移り変わりを確信していた。

「日光、もういいぞ」

「え?」

「仇だ。こいつがお前の家族を殺したんだろうが」

「あ…ええ、そうです」

 魔人の無敵結界を斬り、魔人に致命傷を与えた事で高揚していた日光が正気に戻る。

 自分の意識を外に向けると、そこには聖刀日光を構えた、侍日光が立っていた。

「ば、馬鹿な…!? む、無敵結界が…魔人の無敵の象徴が…!?」

「もうそんなもんは無敵でも何でもない。お前、藤原石丸を超えるとか言っときながら、結局は無敵結界頼みだったろうが」

 ランスは嘲笑しながらイゾウに近づく。

 魔人に対して特効である日光…それも相性の良いランスの一撃を受けて、イゾウは最早立つ事もままならなかった。

 直ぐに癒えるはずの傷なのだが、聖刀で斬られたせいで傷が治る気配が全く無い。

「お前は魔人になろうがあの藤原石丸以下だな。魔人のお前よりもあいつの方がまだ強かったぞ」

「き、貴様…俺を愚弄するのか! うぎゃあああああ!」

「黙れ。うるさい」

 イゾウは吼えてランスに向かって行こうとするが、その胸元にランスの黒い剣が突き刺さった。

 最早無敵結界は無敵でも何でもなく、こうして魔人の体に傷をつける事が出来る。

 更には利き腕を飛ばされて、最早戦う事も出来ない。

「こういう奴はとっとと黙らせるに限る。日光、とっとと止めを刺せ。男の喚き声程不快なものは無いからな」

 ランスは心底どうでもよさそうに言い放つ。

 その言葉を聞き、イゾウは魔人であるはずの自分が逆にムシケラ扱いされているのを知り、激高しようとする。

 だが、そんなイゾウの気配に気づいたのか、ランスは更に剣を捻って傷口を広げる。

「ほれ、早くしろ、日光」

「…ええ、ランス殿」

 ランスの言葉に促され、日光は刀を抜く。

「魔人イゾウ…私の家族はお前に殺された…だから私はお前を斬る。これまでお前がやってきた事を思えば当然だ」

「ま、待ってくれ…俺はこんな所では死ねない…だ、だから…」

「…見苦しい。侍ならば侍らしく、潔く死になさい!」

「や、やだ…待っ」

 イゾウはそれ以上言葉を放つ事が出来なかった。

 日光がイゾウの首を刎ねたのだ。

 イゾウの体が力なく崩れ…そして光ったかと思うと、そこには一つの赤い球が落ちていた。

「…父上、母上…そして兄上。仇は討ちました」

 日光の目から一筋の涙が零れる。

 とうとう己の家族を蹂躙し、殺した魔人を討つ事が出来たのだ。

 そんな日光の頭をランスがぽんぽんとやや乱暴に撫でる。

「がはははは! 俺様に感謝しろ」

「はい…有難うございます、ランス殿」

 日光は素直にランスに頭を下げる。

「やったな、日光」

 レンに回復魔法をかけてもらったブリティシュも顔を綻ばせる。

 ようやく…ようやく、人類が魔人を倒す事が出来たのだ。

 そして聖刀日光の力は本物である事が証明されたのだ。

 自分達のやってきた事は無駄じゃ無かったのだ。

「魔血魂はどうする? 一応回収しとく?」

「このまま復活されても面倒だ。今度ケッセルリンクに会った時に渡しておけばいいだろ」

 レンとランスの言葉にブリティシュと日光が反応する。

「復活…? イゾウは死んだはずでは…」

「魔人は死んでも魔血魂というものに変わるだけだ。そしてこの魔血魂を飲み込めば、元の魔人と魔血魂を飲み込んだものの間で争いが起きる。そしてその争いに勝った方が新たな魔人となる」

 日光の疑問に答えたのはスラルだ。

「…そうなのか」

「ああ。魔血魂を初期化できるのは魔王だけだ。魔人の数は24体と決められているからな。まあそんな事は兎も角、今は大人しく引き上げる方が良いだろう。この争いに感づいている奴が居ないとも限らないからな」

「そうだな。とっとと引き上げるぞ。このまま新しい魔人が来るのは厄介だからな」

 ランスとしても、ここから更に魔人と戦うのは面倒くさい。

 それがカミーラやレキシントンといった強い魔人ならば猶更面倒だ。

「魔人を倒してくれたんだ。カラーはあんた達を歓迎すると思うよ」

 ハンティは少し柔らかい表情で笑う。

 ハンティは無敵結界が無い頃の魔人も、有る頃の魔人も知っている。

 それ故に、無敵結界の存在にはハンティも悩まされていた。

 だが、こうして魔人という存在を倒す事が出来た。

 これは確かな快挙だ。

 そして、世界は確実に動くのだったが…実際はこの世界を動かしていたのはランスでは無かった。

 ランスでは無い、別の存在…この世界のバランスブレイカーが今正に動いているのを、ランス達はまだ知らなかった。

 

 

 

「ぐがあああああああ!? き、貴様本当に人間か!? ば、バケモノめ…!」

 一体の魔人が血まみれになりながら目の前の人間を睨む。

 その目は驚愕と怯えに満ちており、間違っても魔人が人間に向ける目では無い。

 だが、現実として魔人は目の前の人間に手も足も出なかった。

 いや、出す事が出来ぬまま無力化されたと言っていい。

「クカカカカカ! いいぞ、ガイ! このまま魔人をたたっ斬れ! ワシに魔人の血を吸わせろ!」

 ガイと呼ばれた男の手には黒い剣が握られていた。

 その剣からは中年の男の声が響く。

「何だというのだ! 無敵結界が働かぬなど…!」

 魔人の無敵結界は黒い剣―――魔剣カオスによって無力化されていた。

 それだけでなく、カオスによって傷つけられた傷は癒えず、魔人の高い再生能力すらも殺していた。

「本当に斬れるんだな。ただのうるさい馬鹿剣じゃなかったって事か」

「だから最初から言っとるだろうが! ワシは魔人を斬れる剣じゃと!」

「俺から言わせればお前はただのうるさくてスケベな剣だ。鬱陶しいから喋るなよ」

「嫌じゃ嫌じゃ! もうワシは自分の意思では動けんのだから、それくらいいいじゃろうが! それよりもあの魔人をさっさとぶっ殺そう」

 カオスの殺意は完全に魔人に向けられている。

 ガイはそんな魔人に近寄る。

「魔人は殺す。魔王も殺す。それでいいな」

「ああそうだ。お前ならやれる。さーて、まずは一匹ぶっ殺すんじゃ!」

「ま、待て…うぎゃああああああ!」

 魔人の言葉を待たずに、ガイはカオスで魔人を斬り殺した。

 そして魔人の体が光ったかと思うと、そこには赤い球が残されただけだった。

「…死んだのか?」

「知らん。じゃが、魔人が消えたのなら死んだんじゃろ。もう魔人の気配が感じられんからな」

 魔人を殺した事で満足したのか、カオスから物騒な殺意が消える。

 ガイは紅い球―――魔血魂を拾うと、それを袋にしまい込む。

 何かの魔法のアイテムとして使えるかもしれない、ガイはそう思ったのだ。

「それにしても、お前は剣より魔法の方が圧倒的に得意じゃな。もっとワシを使え。ワシなら魔人の再生能力を殺せるぞ」

「大きなお世話だ。それよりもお前と一緒に居るとおちおち女も抱けん。何が心のちんちんだ、下品な事を言いやがって」

「ワシは確かにうごけんが、心のちんちんがあれば女をいかせられるんじゃ! そしてその心のちんちんが満足した時こそ、ワシは絶好調になるんじゃ」

「何て下品な剣だ。お前、人間だった頃から女から敬遠されてたんじゃないのか」

 ガイはカオスを鞘に納めると、遠くに存在するはずの魔王城を見る。

 ガイは別に正義の味方では無い。

 だが、それでも魔王と魔人はガイにとっては敵だった。

 それはガイの過去から来るもので、魔人によって色々と苦しめられた事も有る。

「で、お前の仲間ってのは本当に居るのか?」

「そのはずじゃがな…まあその内会えるじゃろ。それよりもここを離れた方がいいぞ。お前の魔法は派手だからな、魔人なら気づくじゃろ」

「…そうだな。今回は上手くいったが、次はどうなるか分からねえからな。とっとと移動するか」

 ガイは魔王の城を目指すが、それはまだ先の事になると自分で分かっている。

 魔人を殺す事が出来た以上、必ず魔人が自分を殺すために現れるだろう。

(その魔人を1体ずつ潰していけばいいか…)

 ガイは魔人が相手でも負けるだなんて思っていない。

 自分には圧倒的な力がある…それこそが、魔法レベル3という力だ。

 それもただのレベル3技能ではなく、あらゆる禁術をノーリスクで使えるという恐ろしい力だ。

 ガイ自身が持つ、二重人格の性格がそれを可能としていた。

「さて、行くか…魔人はまだまだ居るだろうからな」

「そうじゃな。一匹ずつ確実にぶっ殺せばいい」

(そうすればあいつを殺した魔人も…)

 カオスはその言葉を飲み込む。

 人を捨て、剣になってもカオスは決して己を変える事は無かった。

 全ては魔人と魔王への殺意に変え、カオスは第二の人生を送る事となった。




ガイが登場しましたが、ランスと関わる事は…無いです
関わっても良い事は無いし、これからの事を考えるとどうしてもね…
魔人があっさりと死にましたが、実際カオスがまともに当たると、魔人でも数日間戦闘が困難になるくらいなので
ゲーム上は特に無いですけど、シナリオ上はカオスは異常な切れ味を持ってるんですよね
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