ランス再び   作:メケネコ

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束の間の休息

 外の世界では魔人達が色々な思惑で動いている時、森の中に居るランス達は平穏な日々を過ごしていた。

 ランスとしても魔人を倒したいのだが、そのための準備は必要となる。

 ランスは決して無鉄砲に魔人とぶつかる性格ではない―――ある条件を除いては。

 自分の女がピンチとなれば、ランスは真っ先に動くという男なのだから。

「いやー、凄いねこのアイテム。こんなアイテムがあれば僕達のダンジョン攻略ももっとスムーズに行けたかな」

 そこにダンジョンの攻略に出かけていたブリティシュ達が帰って来る。

 その手に有るのは、ランスがハニーキングから手に入れたお帰り盆栽だ。

「ランスさーん、あんまりいいアイテムは見つかりませんでした…」

「ダンジョンの攻略って凄い大変なんですね…」

 非常に残念な顔で戻って来たのはウトスカ・カラー、そして青い顔で戻って来たのはリディア・カラーだ。

「大丈夫か。怪我なんてさせて無いだろうな」

 ランスがブリティシュをジロリと睨む。

「大丈夫よ、私が居たんだから」

 レンは当然と言わんばかりに胸を張る。

 実際、レンが居れば大抵の敵はどうにかなってしまう。

 それも人間の力を遥かに超えているのだから、野良モンスター程度にはやられないだろう。

「それにしても…大丈夫? リディア。無理は駄目よ」

「大丈夫です…私はもっとレベルを上げて、皆の仇を取るんです」

 リディアは青い顔をしながらも、決意を込めた目をしている。

「…申し訳ありません、ランス殿」

 そんなリディアを見て、日光は申し訳なさそうにランスに謝る。

「別にお前が悪い訳じゃ無いだろ。まあ出来るんなら好きにさせておけ」

 リディアが仇として狙っているのは、当然魔人メディウサだ。

 彼女は日光から自分が仇を討てた話を聞き、自分も何とか家族の仇を取りたいと思っていた。

 リディア自身は弓の才能も卓越した魔法の才能も無かった。

 だが…彼女には呪いの力があった。

 ハンティも認める彼女の呪いの力は必ず力になる、それはスラルも認めていた。

 ただ、そのためには必要なのはやはり基本的なレベルだ。

 レベルが低ければ、どんな才能も意味は無い。

 闘神都市でレベルが1に戻ってしまったランスは、その都市の実力者であるフランソワーズにも勝てなかった。

 レベルを上げれば簡単に勝てたが、いくらランスでもレベルが低ければその辺の兵士にも負けてしまうのだ。

「これくらいで根を上げたら仇なんて討てないよ。ま、精進しな」

 ハンティは苦笑しながらも、自分の力をつけようとしてるリディアの頭を撫でる。

「は、はひ…」

 リディアは日光に渡された水を飲み干すと、魔法ハウスのソファの上で横になる。

 よほど疲労がたまっていたのか、そのまま寝息をたてて眠ってしまった。

「で、実際どうなんだ?」

「あら、心配? ランスもやっぱりカラーには甘いわね」

 ランスの言葉にレンは楽しそう笑う。

「アホ、そんなんじゃない。実際こいつの呪いはどうなんだ?」

 カラーの呪いの力はランスが身をもって思い知っている。

 ランスをして本気で自殺を考えさせる、恐ろしい呪いがこの世界には存在するのだ。

 それ以外にも、ヘルマンの男を皆殺しにした凶悪な呪いも知っている。

「呪いの力は直接戦闘でかけるのは難しいからね。基礎能力が高まればそれだけ制御も楽になる。だからレベルを上げるのが一番さ」

「時間がかかるな。まあ別に今更急ぐ必要も無いがな」

 レベル上げとは地味で時間がかかるものだ。

 何しろ日々の特訓などでは自分のレベルを維持するので精一杯、レベルを上げるにはモンスターを倒すしかない。

「今は彼女のレベルは14だからね。時間はかかるだろうけど、呪いの力を制御できるように僕が手伝うさ」

 彼女のレベルを上げる事に名乗りを上げたのがブリティシュだ。

 冒険者としてはランスと同様に一流で、その腕は確かだ。

 そこに護衛役として、レンが随行しているのだから間違いは決して起きない。

 ただ、冒険レベル2という規格外の技能を持つランスが居ないので、アイテムに関してはそれこそ期待は薄いだろう。

 目的の物が必ずと言っていい程見つけられるランスが特殊なのだ。

「それはそうと、そっちの準備は大丈夫なの?」

「フン、特に問題は無い。俺様なら余裕だ余裕」

「本当かしらね…」

 レンは何時もの通り自信満々のランスに対して不安になる。

 そうやって調子に乗るのはランスの悪い癖だからだ。

 それで痛い目にもあっているのだが、全く懲りないのもランスという男なのだ。

「魔人が来る、か。普通に考えたら一大事なんだけどね…」

 これからランスの元へ魔人が来る、これは決定事項だ。

 それはランス達が魔人イゾウを倒した少し後の事―――

 

 

「さーて、とっととメディウサをぶっ殺しに行くか」

「それは構わないが…本当に大丈夫か? もう少し準備を整えてもいいと思うが」

 魔人イゾウを倒し、日光と激しいセックスをした翌日。

 ランスはイゾウを倒した勢いをそのままに、魔人メディウサをとっとと殺そうと思った。

 こういう時は勢いが大事で、ランスは自分の直感をこれまで疑う事無く信じてきたのでここまでの成功があるのだ。

「いいや、直ぐに行くぞ。こういう時は直ぐに行動した方がいいもんだ」

「…まあお前の言う事だから分からんでもない。確かにいざという時のお前の判断はいつも正しかったからな」

 これまでの長い付き合いで、ランスの直感は気味が悪いくらい上手くいくのを実感している。

 だとすると、ランスがやる気ならばその気の内にとっとと行動した方がいいかもしれない。

「ランスが行くなら当然私もよ。私の任務はランスを守る事だしね」

「魔人を倒すというのならば…当然私も付き合います」

「僕も行こう。魔人が倒せるのならばそれが一番いいからね」

「よーし、さっさと行ってぶっ殺すぞ」

 仲間達がやる気になった事で、ランスも当然その気になり行動を起こそうとする。

 その時、ハンティが瞬間移動でランス達の前に現れる。

「あー、やる気の所申し訳ないけど、ちょっと待ってくれるかい。アンタに話があるっていう奴が居てね」

 ハンティは複雑な表情でランスを止める。

「む、俺様に会いに来ただと? 当然女なんだろうな」

「会えば分かるさ。あんたの知り合いだって言ってるしね」

 ハンティはため息をつくと、そのままランス達を案内する。

 カラーの里から出て、そのまま森の中を歩く。

「もういいよ。出てきな」

 そして一本の木に声をかけると、その木の後ろから二人の女性が現れる。

「お久しぶりです、ランスさん」

「ランスさーん、元気でしたかー。スラル様とレンさんと日光さんも」

「エルシールと加奈代か。どうしてここに」

 現れたのはケッセルリンクの使徒であるエルシールと加奈代の二人だ。

 スラルは二人の名前を呼ぶと、二人の使徒は一礼する。

「…人間? でもどうして人間がここに? それにその服装は…」

 彼女たちが身に纏っているのはメイド服だ。

 それも非常に綺麗で、明らかにこの場には似つかわしくない。

 ブリティシュは不審な目を彼女に向ける。

 それは彼女達から得体の知れない気配を感じ取ったからだ。

 そしてもう一つ、使徒である彼女たちが日光の名前を呼んだことだ。

「ブリティシュ…押さえて下さい。ここで押さえられなければ、ランス殿とは行動を共に出来ませんよ」

 日光がブリティシュに警告する。

 日光自身も正直まだ納得はいっていないが、彼女達はランスの味方だ。

 ただし、ランスの味方であっても、決して人類の味方では無い…そんな複雑な関係だ。

「初めまして。私は魔人ケッセルリンク様の使徒のエルシールです。一応メイド長を任されています」

「私も同じくケッセルリンク様の使徒です」

「! 使徒!?」

 使徒という言葉を聞き、ブリティシュは反射的に剣を抜こうとし、その手をレンに止められる。

「レン!?」

「ダメよ。それを抜くなら私は力ずくであんたを押さえる。私はアンタより強い、分かるでしょ?」

 レンの言葉にブリティシュは剣から力を抜く。

 実際に、自分ではレンには勝つ事が出来ないと分かっているかだ。

「まあ知らないとそういう反応ですよねー…でも、こう見えても私達は人間だった頃はランスさんの仲間として行動してたんですよ」

「はい。信じる信じないは勝手ですが…私達はかつてランスさんと共に戦った仲間です」

 使徒の言葉にブリティシュは尚混乱する。

 全く理解できない事と、とんでもない情報が一気に入ってきて混乱するのは無理も無かった。

「そんな事はどうでもいい。それよりも何をしに来た」

 ランスは極自然にそれを聞いた事に、ブリティシュはやっぱり違和感を覚える。

 人間が使徒とこうして気軽に話しているという事は、ブリティシュにとっては異常だった。

「それなんですけどねー。ランスさん、魔人サイゼル様と戦ったんですよね」

「サイゼル…ああ、あいつだな。確かに戦ったぞ」

 魔人サイゼルとはランスは何度も戦っている。

 ただ、それはゼスでの動乱の時、そしてこの時代で一度戦っている。

「そのサイゼル様には妹のラ・ハウゼル様という方が居るのは話しましたよね」

「おう。俺様はそのハウゼルちゃんには会った事は無いがな」

 サテラからそんな話は聞いた事はあるかもしれないが、実際に会った事は無かった。

 なので、ランスにとっては魔人ハウゼルは全く未知の魔人だ。

「ハウゼル様の件で、加奈代と色々と策略を練っていたようですが…その時期が来ました」

「…何だったっけ。色々あり過ぎて忘れたぞ」

 ランスは少し思い出せなくなっている。

 実際、アレからレイと戦ったり、日光が裏切ったりとランスとしては結構忙しかった。

「あの本ですよ。ハウゼル様も何だかんだいって結構興味ありありでしたよー」

「ああ、あれか」

 加奈代の楽しそうな笑いにランスは思い出す。

 魔人ハウゼルは本をダシにして倒そうとランスは考えていたのだ。

「その本ですが、とうとうハウゼル様がランスさんが持っている本の所まで読み終えました。で、その続きはランスさんが持ってるってケッセルリンク様がハウゼル様に話したんですよ」

「…そのタイミングはこちらで選びたかったのだが…そうも言ってはいられんか」

 加奈代の言葉にスラルは難しい顔をする。

 だが、こちらの都合通りに行かない事など多々ある事だ。

 それを嘆いても仕方が無いし、問題は今の好機をどう活かすかだ。

「とにかく、ハウゼル様はこれからランスさんの事を探すと思います。ただ、ハウゼル様は魔人では非常にお優しい方ですので、直ぐに戦いになるという事は有りえません」

「サイゼルの妹なのにか?」

「はい。サイゼル様の妹なのにです。ですので、ハウゼル様はまず間違いなく、ランスさんが持っている本を貸してくれと言ってくるでしょう。よっぽど酷い事をしない限り、力ずくで奪うなんてことは絶対にしません」

「ほー。そいつはまた変わった魔人だな。まあそんな奴ならやりやすいな」

 そういう馬鹿正直な奴ならば、ランスにとっては与しやすい相手だ。

「で、戦ったら強いのか?」

「魔人ですから勿論つよいですよー。何より、空から襲ってくる脅威はランスさんも知ってるでしょ? カミーラ様と違って、ハウゼル様なら遠慮なく空から炎を放ってくるでしょうし」

「サイゼルが氷ならハウゼルは炎か。まあいい。まずはどんな奴か知る必要が有るからな」

 ランスとしてはまずハウゼルの容姿を見てみたい。

 サイゼルの双子の妹で、サイゼルに似ていると言っているので、美しい女なのは間違いは無い。

「という訳で私達からの報告はここまででーす。頑張ってくださいねー」

「ご武運を、ランスさん」

 加奈代とエルシールはランスを応援するような事を言って頭を下げる。

「ちょっと待ってくれ。君達は魔人ケッセルリンクの使徒なのだろう? なのに何故人間に利する行動を取るんだい?」

 ブリティシュはどうしてもそれだけは聞かなければならなかった。

 魔人ケッセルリンクはあの古代遺跡で戦ったカラーの魔人だ。

 恐ろしい強さを持っており、無敵結界を使わない状態でも自分達は全く相手になっていなかった。

 その魔人の使徒が、自分と同じ魔王に仕えているはずの魔人を罠に嵌めようとしている。

 ブリティシュにはそれが理解できなかった。

「あー…別にケッセルリンク様は人類の味方をしようなんて思っていませんよ。ケッセルリンク様はあくまでもランスさん個人の味方なんです」

「ランスさんはケッセルリンク様がカラーだった頃から共に戦った戦友。例え魔人になったとしても、その絆は決して消えたりはしません」

 真面目な顔で話す二人の使徒に、ブリティシュは無言になる。

 ただ、二人が嘘を言ってるようには見えない。

 そして、以前に聞いたスラルの言葉と同じような言葉を彼女たちは言った。

「あくまでもランスと個人同士の付き合いだと?」

「はい。ランスさんがしている事がたまたま人類に利する事になっているだけですので」

 ブリティシュは複雑な顔をするが、恐らくはこれ以上の事を聞いても同じような答えしか返ってこないだろう。

 だとすると、もう一人の当事者に詳しく話を聞いておきたい所だ。

 色々とあって、自分も聞く機会を逃してしまった感があるのも事実だからだ。

「じゃあランスさん、頑張ってくださいねー」

「失礼いたします」

 二人は改めて一礼すると、そのままカラーの森から姿を消していった。

 それを見届けて、スラルがランスに声をかける。

「ああは言っていたが、具体的な策はあるのか?」

「うむ、あの様子では滅茶苦茶本が好きみたいだからな。どうとでもやりようがあるだろ」

 どれくらい本が好きなのかは分からないが、魔人の使徒が言うのだからまず間違いは無いだろう。

 つまりは、ランスが持っている本を使えば、上手くいけばそのままハウゼルとセックスまで持って行けるかもしれない。

「がはははは! メディウサの前にハウゼルをいただくとするか!」

 ランスはサイゼルと同じ容姿を持っているというハウゼルに期待して、高笑いをしていた。

 

 その日の夜―――ブリティシュは日光を訪ねていた。

 ランスは今夜はスラルとレンの二人と3Pをしており、日光は普通に自分の部屋に居た。

「…要件は分かっています」

「それは助かるね。ただ、どうしても言いたくないなら無理に聞こうとは思わないよ。だけど僕は普通の人間だからね…」

 ブリティシュの言いたい事は良く分かる。

 正直自分もあの時は受け入れられなかった。

 自分がランスと一度袂を分かったのは、それが原因の一つでもあった。

「魔人ケッセルリンクとランスの事は前にも聞いたけど…君の口からも詳しく聞いておきたくてね。彼等は間違いなく話してくれないだろうから」

 ブリティシュの指摘に日光はため息をつく。

 流石にここまで来たら隠し通すのも難しいし、何よりも隠していてもあまり良い事になるとも思えない。

「魔人ケッセルリンクはランス殿の協力者です」

 魔人ケッセルリンクはランスに協力している。

 それを知った時は驚いたし、何よりも魔王ジルとランスの関係を知った時も驚いた。

 しかし、その経緯を聞いて日光は何も言えなくなったのも事実だ。

 この世界を地獄に変えた魔王が、一人の男を愛し幸せになるはずだった…しかし、それは先代魔王によって打ち砕かれた。

 だからと言って、魔王ジルを倒すという目的は変わらない…変わらないのだが、ランスの事を考えるとどうしてもあの時は一緒に行動する事が出来なかった。

「魔人が協力か…信じられない話だけどね」

「魔人ケッセルリンクが魔人になる前からの知り合い…いえ、戦友との事です。何でも遥か昔に二人は協力し合って魔人を倒したそうです」

「…もう彼の過去について考えるのは止めた方がいいな。これは多分誰にも信じられないだろうからね」

 ブリティシュとしてもランスの過去は気になるが、詮索しても恐らくは何も語ってくれないだろう。

(申し訳ありません、ブリティシュ…私は一つ嘘をつきました)

 1人悩んでいるブリティシュを見て、日光は罪悪感に襲われる。

 日光は一つの真実を伝えていない…それは、ランスとケッセルリンクの本当の関係だ。

 二人はただの戦友では無く、ケッセルリンクがランスの事を本当に大切に思っているという関係なのだ。

 ケッセルリンクの使徒は二人は恋人同士だと言っていたが、その当の魔人本人がそれを全く否定しなかった。

 それに、ケッセルリンクがランスに見せている顔を見れば、基本的に鈍感な日光でも流石に察する事は出来る。

「日光…君はそれを知っても彼に協力するのかい?」

「ええ、それは揺るぎません。ランス殿が魔王をどうにかしたいと思っている事は事実です。それに、あなたも見たはずです。魔人イゾウを圧倒するあの強さを」

「…そうだね」

 ブリティシュもランスと魔人イゾウの戦いを見ていた。

 魔人イゾウを逃さぬために、一瞬の隙をついて致命傷を与えたあの絶技。

 剣の腕もそうだが、ランスは戦闘の勘が異常なまでに鋭いと感じていた。

 最早本能とでも呼べばいいのだろうか、とにかく戦いに関する感が凄まじい。

「女性に対してはカオス以上に奔放だと思うけど…まあそれに関しては僕が言う事では無いしね」

「…ランス殿の女性関係に関しては私は何も答えられません」

 ブリティシュの言葉に日光はため息をつく。

 自分も当事者の一人なので、自分が何を言っても説得力は薄いだろう。

 あの女性に対してだらしない性格を何とかして欲しいとは思うのだが、逆に言えば女性に対してあそこまで執着するからこそ、これまでのランスがあるのだろう。

 それが良い方向にも悪い方向にも働いてしまうが…それでも魔人ケッセルリンクにあそこまで想われているのだから、良い事なのだろうと納得させている。

「まあ君もその1人みたいだしね。でも、彼は君を大事にしてくれると思うよ」

「ブ、ブリティシュ! 急に何を…!」

 突然の言葉に日光は言葉を荒げる。

「君はランスの事になると良く感情をだすからね。勿論それは良い事さ。それだけ君が彼に心を許しているって事だしね」

「ブリティシュ…」

 日光の声が低くなったとに、ブリティシュは流石に言い過ぎたかなと肩をすくめる。

「ははは。とにかく、僕はこのまま協力するよ。それに、彼は僕とは違ったリーダーシップを持っているからね。僕も彼という人間に興味が出てきたよ」

「それはランス殿にとっては嬉しくない言葉ですね…あの人は本当に女性以外はどうでもいいと思っている人ですから…」

 日光もその辺りは本当に直して欲しいと思うのだが、実際にはもう諦めている。

「じゃあ僕はこれで失礼するよ。戦闘の勘をもっと取り戻さないといけないからね」

「ええ…おやすみなさい、ブリティシュ」

 ブリティシュはそのまま日光の部屋を出て、自分に用意された部屋に戻っていく。

 部屋を出ていくブリティシュを見届けてから、日光は申し訳なさそうに表情を曇らせる。

「申し訳ありません…ブリティシュ。真実を話せない私を許してください」

 日光の知っている真実とは非常に残酷で、救いようのないものだ。

 だが、それでもランスは全く折れずに向かって行く。

 そんなランスの姿勢はまだ若かった日光にとっては憧れだった。

 いや、今でもランスの事は憧れている…何故なら、ランスという人間は何処までも真っすぐだからだ。

(だから私は…今でもランス殿の事が忘れられなかった)

 剣に変わってから…自分が魔人を倒すための条件を知った時、最初に感じたのは喜びでは無かった。

 そこにあったのはランスに対する罪悪感だった。

 もし自分が他の男に抱かれる事を知ったらランスはどう思うだろうか?

 それが気がかりだったが…聖刀日光を最初に持ったのはランスだった。

 そしてランスと出会い、電卓キューブで手に入れたアイテムが自分自身で魔人を討つ機会を与えてくれた。

(私は…やっぱりランス殿の事が…)

 自分の気持ちは分かっている。

 だが、ランスには色々と女性が多い…それも華やかで美しい女性が。

(駄目ですね…今はランス殿と共に魔人を倒す事を考えなければ。ランス殿の目的は魔王…いや、人間としてのジルを取り戻す事。これだけは譲れない事なのでしょう)

 魔王とランスの関係、それを知った自分としては複雑な思いも有るが、それでもランスに協力したいと思う。

 それが例えどんなに困難な道であろうとも。

 

 コンコン

 

 日光が改めて気を引き締めていた時、控えめに自分の部屋の扉がノックされる。

「あの…日光さん、いいですか?」

「構いませんよ」

「失礼します」

 そう言って入って来たのはカラーの少女だ。

「あなたは…確かリディアさんでしたね」

「はい。リディア・カラーです」

 リディア・カラーはランスとよく話しているので覚えていた。

「どうかしましたか?」

 カラーがこうして自分を訪ねてくるというのは今まで無かった事だ。

 日光はリディアを部屋に入れると、そのまま椅子に座る。

 リディアも椅子に座ると、真剣な表情で日光を見る。

「あの…今回倒した魔人ですけど、日光さんの仇の魔人だったんですよね。ランスさんから聞きました」

「ええ、魔人イゾウは私の家族を殺した魔人です」

 別に否定する事でも無いので、日光はそのまま頷く。

「私も…母を魔人に殺されました。それも凄い惨たらしい殺され方で…」

 リディアはそのまま青い顔で震える自分の体を抱きしめる。

「魔人メディウサですね」

 ランスが殺意を向けており、これから倒しに行こうと言っていたのが魔人メディウサだ。

 スラルからメディウサの城に乗り込んだ経緯は知っている。

 その過程で、バイクも壊されてしまったとも聞いている。

「あの…私も母の、仲間の仇を討ちたいんです! だから…私も強くなりたいんです!」

「…その気持ちは分かりますが、ハンティ殿を心配させてはいけませんよ」

 仇を取りたいと言う彼女の気持ちは良く分かる。

 ただ、人間である自分とカラーである彼女は立場が違う。

 何しろカラーは数が少なく、人間からも狙われているという厳しい立場だ。

 それ故に、強い力を持っているとハンティからも言われている彼女に万が一があっては問題だ。

 ウトスカに関しては戦の素質が有り、尚且つスカウトという技術が有るからだ。

 しかし、彼女はお世辞にも身体的には優れているとは思えなかった。

「ハッキリ言ってくれて良いです。私は弓も使えないし、魔法もそんなに得意では無いって」

「それは…」

 だが、リディアの目には確かな意志の力が宿っていた。

 それは自分自身がかつて持っていた目で有る事に、当の本人である日光は気づかない。

「でもハンティ様は言ってくれました。私には呪いの才能があると」

「カラーの呪い…ですか」

 カラーに力は弓と魔法もそうだが、何よりもその呪いの力が凄い。

 日光も昔にその呪いを見た事は有るが、その力を知っているとは言い難かった。

 ただ、ランスはやたらとカラーの呪いを恐れているという印象は持っていた。

「だから…私は魔人に呪いをかけられるくらい強くなりたいんです! 無敵結界が破れるなら、魔人にも呪いがかけられると思うんです!」

「成程…確かにそれはあるかもしれません」

 日光は頭からその言葉を否定しない。

 むしろ、今自分が無敵結界を斬れるのであれば、その可能性もあるかもしれないと思っている。

「実はハンティ様から許可は取ってあるんです。勿論、直接魔人の元へと向かう事は禁じられていますが…手段は有ると」

「私はカラーの呪いの事は分かりませんからあなたには何も言えません。ですが、あなたの心は分かります」

 こうまでハッキリとして話してくれるのであれば、日光としても分かりやすい。

 同時に、彼女の願いを叶えてやりたいとも思った。

 ランスが自分に対して願いを叶えてくれたように。

「まずはランス殿やスラル殿に聞いてみた方が良いと思います。私よりも良い意見が出ると思いますから」

「あ、ありがとうございます!」

 リディアは顔を輝かせて日光に礼を言う。

「あの…日光さんが魔人を倒すまでのこれまでって聞かせてもらえますか?」

「私の…ですか?」

 その言葉には日光も目を丸くする。

 まさか自分の事を聞かれるとは思っていなかったのだ。

「はい。日光さんは実際に仇を討った方ですから…その時の事を聞いてみたいんです。迷惑ですか?」

「迷惑というか…」

 日光は少し考える。

 何しろ自分のこれまでの経緯など人に話した事は無い。

「私は口下手なので上手く話せないかもしれません。それでいいですか?」

「はい! 勿論です!」

「では…まずは私はJAPANで生まれました。魔人に襲われるまでは平和に過ごせていたのですが…」

 日光とリディアは夜遅くまで語り合っていた。

 




一度書き直しのために遅くなりました
コロナで寝込んでいた時に結構忘れている事があって結局やり直し
こまめにメモに書き込まなきゃあかんな…
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